タイトル:【LC】白いお返しマスター:楠原 日野

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 11 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/03/24 12:45

●オープニング本文


●カルンバ・ミル邸
 事の発端はバレンタインよりも少し前。
 ホテルに泊まるのが面倒になったミルは、別荘的扱いとして社長という肩書の者が住むにはやや小さいような住居を購入し、そこで仕事にいそしんでいた。
 そんな彼女の自室に部下であるボマーが、スカーを引き連れやってきて告げた。
「実は結婚する事にしましたッス」
 能天気なボマーの言葉の後、しばしの沈黙――。
「ええー!」
「って、なんで君が驚いているのだスカー!」
「いや、俺も今初めて聞いたわけでして‥‥」
 自分よりもはるかに驚いているスカーにツッコミをいれつつ、ボマーの説明を待った。
 目を閉じ腕を組み、ゆっくりと口を開き始める。
「いやーうん。何となくの部分もあるんけども、ほんの少し自分なりの片もついたし、シスターやお嬢を見て、やはり家族が欲しいなとは思ったッスよ」
 それにもう30ッスしねーと付け加え、スカーに正面から向き直る。
「‥‥だめッスかね?」
「ええと――この場合、よろしくお願いします、なんすかね‥‥」
 ミルに視線を向けるが、肩をすくめ、私に聞くなというアピールで返された。
「とにもかくにも、おめでとう2人とも。式をするなら言ってくれ、ご祝儀として負担させてもらうからさ」
「どうもッス。でもご祝儀も頂くんで、よろしくッス」
 ちゃっかりぶりなボマーに、わかったわかったとミルは苦笑するのであった。

 ボマーの驚きの報告を受けた同日の午後、やはり仕事にいそしんでいるミルの自室にノック音が響く。
「開いているよ、入りたまえ」
 部下かと思いつつ書類に目を通したままミルがそう応えると、扉が勢いよく開き、かなり上等なスーツに身を包んだ男が両手を広げ入ってきた。
「やあ―、ミル! パパだよ!」
「なんでお前がここにいる!」
 ガタリと腰を浮かしたミルだったが、一足遅く、がっつり正面から両腕で抱きしめられてしまう。
「愛する娘に会うために決まっているじゃないか」
「やかましい! 他にも愛する娘も息子もいるんだろうが!」
 もがいて腕を振りほどくと、ばっと壁まで後ずさり、シャーッと威嚇する。
 残念そうな顔をする父親だったが、急に真顔になると咳ばらいをした。親子だけあって、仕草がそっくりだ。
「娘はミル、お前1人だけさ――さて本題だが、ミル、即刻仕事を辞めてお見合しなさい」
「いきなり何を‥‥」
「報告は受けたよ。つい先日、ちょっとしたミスと大きな後悔で自分が揺れたとね」
 何の話か、それで察した。
「言ったはずだ、上に立つものは決して揺らいではいけない。揺れる船に乗りたがる者はいないからねと」
「確かにそうだが‥‥」
 1人の男性の顔が脳裏によぎる。
 父親の言葉はもっともで、揺れた結果それでもついて来てくれる者もいたが、失望し、離れていった人間がいないわけでもなかった。
「弱いところを見せたなら、もうおしまいだと教え込んだはずだ。だから辞めて、お見合でもしなさい」
「まっぴらごめんだね! 皆に私はもう揺れん、ついてこいと言った手前もあるが、私はまだまだやるべき事があるのだからな!」
「――そうかい。ならば先があるのか見せてもらうとするとして‥‥お見合だけはしなさい。パパ、そろそろ娘の晴れ着姿が見たいかなーとか思うのだよ、うん」
 それもごめんだと思いつつ、ピンと突如閃く。
「晴れ着姿を見せようと思えば、見せる事はできるさ。私とて、そういう相手がいないわけでもないのだからな」
「ほー、それは初耳だ――それとも報告されてないだけかな?
 まあいい。それならば近いうちにでもパパに見せて欲しいなぁ」
「おお、いいとも。ボマーが式を挙げるから、その時に見せてやるさ。というわけで、今日は帰った帰った!」
 ぐいぐいと背中を押して部屋から追い出そうとするが、大の大人だけあってミルの腕力ではさすがに動かない。
 そのうちに楽しみにしているよと、自分の足で歩き始め、父親は自室を出ていくのであった。
 無事に追い出し、ぜーはーと肩で息をしていると再びノック。こちらがいいという前に扉が開かれる。
「やー兄さんだよ」
「嘘こけ!」
 自分の父親の部下であるラインのボケにツッコミ、一息ついてから切り出す。
「ちょうどいい、ライン。3月14日に向けてちょっと広告を打ち出せ。タイトルは『白いお返し』で、バレンタインのお返しに純白のウェディングドレスでお返ししませんか、とね。
 戦中で式まではできなかったとか、費用の関係でできなかったとか、平和な世界で再び誓いたいとかあるだろうし、結婚式デーにして異性間同性間問わず、費用こっちもちで簡素なものだが結婚式を挙げるぞ」
「同性結婚は認められていないのでは?」
「だが刑罰があるわけでもなく、不許可なのではない――だから前例を同時に多数作れれば、今後の議論も有利に働くだろうさ。やったもん勝ちだね」
(あとは彼女達の覚悟も聞いておきたいし、社員旅行って事で呼んでみるかね)
「まあわかりましたが、あとで詳細くらいは送って下さいよ」
「うんむ――ところでライン。親父殿の容体は?」
 今さっき会ったばかりだからこそ、聞きたくなってしまった。
「もちろん、良いはずありませんよ。治る見込みがないから、難病なのですし。
 杖なしで立って歩くなんて、奇跡の所業と言われてもおかしくない段階ですね」
「あの男が人前で杖など突くわけがない。一部の連中にはもう知れていても、決して弱ってるところを見せないのがあの男だしな」
 やはりかと思いつつ、少し外を歩いてくると部屋の外に出ようとして、扉の前で立ち止まる。
「――やっと治療薬の研究ができそうな段階なんだ。大人しくして少しでも長生きしろと言っておけ」
「おや、あなたが『愛してるからパピー、死なないで!』と言えば大人しくしてくれますよ」
「‥‥」
 黙するだけで、何も言わない。
「おや、否定とか、ツッコみはなしですか」
「‥‥それが私の本音だから、な」
 部屋の外に出ると、扉の脇には複雑な表情のシスターが立っていた。その表情から聞いていたのだなと察する。
「ま、そういうことだよ。親父殿の治療と、私自身の目的、それに能力者達の今後の為に、私は行動を起こす。しっかりついてこいよ」
「今の話って、やっぱりオフレコ?」
「いや、そうでもない――だがまあ、君が言ってもいいと思える相手くらい程度に留めておいてもらいたいかね」
 ニッと笑い、付け加える。
「照れくさいからな」

●参加者一覧

/ 榊 兵衛(ga0388) / クラリッサ・メディスン(ga0853) / 藍紗・バーウェン(ga6141) / 錦織・長郎(ga8268) / リヴァル・クロウ(gb2337) / オルカ・クロウ(gb7184) / 美具・ザム・ツバイ(gc0857) / 蒼 零奈(gc6291) / モココ・J・アルビス(gc7076) / クラフト・J・アルビス(gc7360) / 高縄 彩(gc9017

●リプレイ本文

●強引だけど嬉しいお誘い

 どばーんと高縄 彩(gc9017)の部屋に踏み込んだミル・バーウェン(gz0475)が大きな声で用件を伝えた。
「やあ愛しき人よ! ホワイトデーのお返しに来たよ!」
 ホワイトデーと聞き、ちらりと日付を確認。どう見てもまだ先だ。
 だがそれでもお返しをしてくれると言う事と、ミルに会えた事が嬉しかった彩はにっこりと笑った。
「ホワイトデーのお返しかぁ、お菓子作ったりー‥‥」
「ふふーん、違うぜ!」
「え、違うのー?」
「なんじゃ、企画を見ておらんのかね」
 ミルの後ろから腕を組みながら美具・ザム・ツバイ(gc0857)が入ってくると、1枚のチラシを彩に差し出す。
「うぇ!? 結婚!?」
「嫌かね? まあ3人での式になるがね」
「いやいやいや、全然嫌じゃないけどー‥‥」
 落ち着き払った美具に視線を向けると、美具は肩をすくめる。
「言い出したら聞かんのは、知っておるじゃろ?」
「うんまあ、そうだねー。
 じゃあこれからウェディングドレス選びに行こー。2人で選んでくれると嬉しいな〜」
「おうっさ、それじゃさっそく行こうか」
 来た時の勢いのまま、外へと向かうミル。
 それに付いて行こうとした美具の手を取り、美具をその場に留めた。
「なんじゃ?」
「この前に美具さんが今後の事、考えてくれてたよね。
 私もちょっとずつ考えてみたんだー。必要なら法律とかの手続きもしてもいいかなーって」
 力強くこっくり。
「一緒に居られるだけでいいかなー、って思ってたから美具さんの話を聞いた時はちょっと吃驚しちゃった」
 あははと陽気に笑う彩を前に、つられてフッと笑ってしまった。
「オーストラリアではバグア戦役のせいで保留中となってしまっていたようじゃからな。
 これを機に利用しない手は無かろうよ。何よりも我らの御仁も、もうノリノリじゃしな」
 ずんずんと力強く廊下を歩く2人が愛する人の背中に目を向け、2人して笑ってしまう。
 と、唐突に美具は顔を引き締めた。
「じゃがまあ、まず最初の難関であるミルパパをまず何とかせねばじゃ」
「やっぱり娘さんを下さい、とかって言った方がいいのかなー」
 ぐっと握り拳を作る彩――事情を知らぬゆえに、ずいぶん楽観的であった。
 少しは呆れてしまったものの、それでも言う事にはなるのだろうと思い美具は「そうじゃな」と苦笑して返す。
「おらー、2人とも! 行くぜー!」


 そして、3月14日へと続く――




●貴方へ続く道で

(貴方様の小隊に属したのは、初めはこの力を有効に使ってくれる、それを願っての事でした。
 私の無為な命でも、有意義に消費して頂けるなら十分でした)
 慣れない姿にゆっくりと歩を進め、皇 織歌(gb7184)は、出会った時からこれまでの事を思い返していた。
(ですが貴方様は何時も直向きで、頼りにはなったけれど其処が少し危なっかしくて、一人で抱え込み易くて人に甘えるのが苦手で‥‥可笑しいですよね)
 頬がほころぶ。彼の事を思い返すだけで。
(気付けば貴方を目で追っていました。貴方様が無理をしないように‥‥なんて悩んだ事もあります)
 胸に棘が刺さったような苦しみも思い出し、まつ毛を震わせる。
(生きるという命令違反を承知で‥‥私の意志で無茶をした事も)
 呼吸1つ――その後の事を思い返すと、胸の棘もポロリととれた。
(あの時貴方様は叱って下さいましたね。まさか私自身に価値を見出して下さるとは思いもしませんで。
 驚いた反面‥‥嬉しくも有りました。生きて欲しいと、言って下さった事も含めて)
 扉の前で1度、深呼吸。
(‥‥私自身が誰かの力に成りたい、誰かの為に生きたいとそう心から願う事に成るとは‥‥分らないものです。
 が、今は只、リヴァル様、貴方と共に有れる幸福を、そして貴方様が前を向ける様に、常にお側に――)
 右手の薬指で光るペリドットの指輪に、揺るぐ事の無かった決心を伝え、扉を押し開けた――


●自分と君の為に

 そこは神父が戦火で命を落とした、村はずれの教会。
 次に来るであろう神父の為にと、定期的に信者が手入れをしてくれているため、中も外も綺麗なものだった。
 陽光を浴び、幻想的な美しさのステンドグラスを眺め佇んでいるリヴァル・クロウ(gb2337)。
 いつものスーツではなく、モーニングコートを着ていた。白は自分には似合わないと、わざわざ避けたのだ。
「‥‥死を求めたはずが、まさかこうなるとはな」
 そのつぶやきがいい終わるか終らぬかのうちに、扉が開かれた。
 ステンドグラスから視線を下げ、扉を開けた人物――いつもの和装ではなく、ウェディングドレスに身を包んだ織歌に合わせると、ステンドグラスを眺めていた時と同じように、眩しそうに目を細める。
「‥‥綺麗だ」
 頬を赤らめ、微笑んで感謝を伝える。
 そしてリヴァルのもとへと歩み寄り、正面へと立った。
「‥‥織歌。その、なんだ‥‥俺は――リヴァル・クロウは、お前を」
 照れがあって合わせにくかった視線をまっすぐに合わせ、はっきりと言いよどむ事無く続けた。
「皇 織歌を妻として幸せな時も、苦しい時も常に共にあり、お前を生涯をかけて幸せにしていくと、誓う」
 神の前ではなく、彼女の前で誓いたかった。
(復讐するためだけに生きてきた来た。戦うことが、全てだった。
 そんな俺を変えてくれた、たった一つの大切な存在。
 だからこそ、誓うのは、神のような目に見えない偶像じゃない。確かに目の前にある、大切な存在に誓う)
 それが彼の想いの丈である。
 そんな想いを一身に受けた織歌は一度目をつむり、呼吸を整えてまっすぐに見つめ返しはっきりと誓った。
「私、皇 織歌はリヴァル・クロウを夫として、幸せな時も、苦しい時も、永久に共にあり、貴方を支えていく事を誓います」
 誓いをかわしたリヴァルがまずした事は、織歌の左手を取り、その薬指にダイヤの指輪を。
 そして織歌はリヴァルに、自分の誕生石であるペリドットの指輪を。
 右手につけているものではない。
 自分で用意した自分自身を表すそれを、渡したのだ。
 お互いを交換し終えた時、突如リヴァルは織歌を強く抱きしめ、やや強引に口づけをかわす。
 今この瞬間が、夢でない事を確かめる様に。そこにある幸せが泡沫ではない事を確かめる様に。
 ――長い時間そうしていた気がする。
 唇を離すと、リヴァルは織歌を抱きかかえ外に向かって歩き出した。
 外に出ると眩しい太陽が、自分達を祝福してくれる。
 広い、自由となった空を見上げるリヴァル。
(俺はこの戦争で家族を、仲間を全てを失った。どんなに弔ってもそれはもう、戻らない)
 そして視線を自分の腕で抱きかかえている『大切なもの』に向ける。
(だけど俺は今、大切なものを手にしている。地位や名誉よりも、何よりも大切な幸せを)
 外への第1歩。初めて歩む、2人での1歩だ。
(今、踏み出すこの一歩は過去の為のものじゃない。未来を生きる為の――自分の為の――そして、目の前の大切な人の為のものだ)
 不意にこみ上げる想い。
「‥‥織歌、愛している」
 彼の強い想いに、「私もです、主様」ともう1度口づけをかわすのであった――。




●幸せを感じて

 目の前にオフショルダーであちこちにフリルの付いている、ライトピンクのウェディングドレスが飾られている。
 ヴェールには花があしらってあって、やや長めのフィンガーレスウェディンググローブが添えられていた。
 その衣装を前にモココ(gc7076)は1人、興奮していた。
(いよいよ、か。正直プロポーズから時間がかかり過ぎて申し訳ないとは思うけど、新しい時代に新しくスタートを切れて嬉しいかな)
 ヴェールをそっと手に取り、頭に乗せてみる。
 当たり前の事だが、ぴったりだ。
(こんな風に幸せな結婚式を挙げれるなんて、数年前は思ってなかったな)
 そして首輪に触れる。
(未だに自分の事を完全に許せてはいないけど、この件は少しずつ折り合いをつけていこう。
 きっとこの事を引きずり過ぎると、受け止めてくれた彼に失礼な気がするからね)
「それにしても、もうここまで復興してたんですね」
 誰に聞かせるでもなく、つぶやく。
 小さな村唯一のホテル。その一室を見回しての事だ。
 豪華、とは言わないが、それでも掃除が行き届いて小奇麗な室内。
 シンプルながらも、ホテルとしての体裁を整えるだけの設備、備品がそろっていた。
 シドニー決戦で東オーストラリア奪還を果たしたほんの数か月前だというのに、だ。
 そう、彼と共に。彼の為に。
 無茶をした時、彼は少しだけ怒りながらも心配してくれた。
 危ない時には助けてくれた。
 そしていつも、こんな自分に笑顔を向けてくれた。
 ――そろそろ時間だ。
 モココは姉の首輪を外し、脱ぎ始めるのであった。


●会えてよかった

「んー、いよいよかー。流石にちょい緊張する」
 緊張とは無縁そうなクラフト・J・アルビス(gc7360)だが、それでも大好きな人との結婚式ともなると別である。
 いつもと違い黒のベストに白いシャツ、シルバーグレ―のタイに縞のコール地のスラックスと、正装だ。
(今回ばかりはねー、照れたりしちゃうかもね俺も。モココのが緊張するだろうしなー‥‥
 ちゃんとしなくちゃだけど、んー‥‥出来るか心配)
 小さな箱を開け、そこに輝く小粒でピンクダイヤとブルーダイヤをあしらった2つのプラチナリングを眺めて心を落ち着かせようとする。
 こういうのはよくわからないからと、店員と相談して決めたものだ。
「さ、そろそろ行こうかな」
 そしてクラフトはモーニングコートの黒ジャケットに袖を通し、外へと出るのであった。

「綺麗だよ、モココ」
「う‥‥ありがとうございます」
 屈託のない笑顔のクラフトを前に、モココは赤面してうつむきそうになるが、なんとか耐えて彼の顔をまっすぐに見つめ返すと、珍しくクラフトの方が根負けした。
 少しだけ耳が赤いのに気づき、彼も照れているのだとモココは嬉しくなって笑みをこぼす。
「ん、その姿、もしかして結婚かい?」
 やたらとフレンドリーなホテルの支配人が2人の姿を見てそう声をかけた。
「そうですよ」
「まだ教会の中は瓦礫があって、ちょっとひどい有様だよ」
 顔を見合わせる2人――そして2人して頷く。
「大丈夫ー、手伝ってもらうからね」

「いきなりでゴメンだけど、お願いしてもいいですか?」
 大きな通りで建物の復旧に励んでいる人に声をかけるクラフト。
「俺達結婚式を挙げたいんだけど、教会の中がひどいらしくてー。それなら外に椅子とか運び出しちゃおっかなーって思ってるんですけど、その準備とか手伝ってもらえるとありがたいかな。
 あとできれば見ていってほしいかなーなんて」
 無理なお願いな気はしたが、それでもなんとかなるだろうと楽観視していた。
 思い立ったら実行あるのみ――実にクラフトらしい。
「ダメでしょうか‥‥?」
 モココも自分の為でもあるけど、それ以上に自分達の結婚式で村の人にも平和や復興を感じて欲しい、今の幸せを感じて欲しいと願い、頭を下げる。
 相手の反応は――
「うーん、すまないねぇ。晴れてるうちにここだけはやっちまいたいからさぁ」
「そっかー」
「だがまあ事情は分かったさ。教会で待ってな、今手すきの奴ら軒並み集めてくっからよ」
 そう言うと彼は仲間を集め、一斉に散らばっていった。お願いを聞いてくれる人間を集めに。
 クラフトとモココは顔を合わせ、互いににっこり笑うと、手をつなぎ教会へと向かうのであった。
 ドレス姿のモココを気遣いながら教会にたどり着くと、すでにたくさんの人達が集まっていて椅子を運びだし、掃除やら装飾やらを始めていた。
「遅いぜ、モココよ!」
「ミルさん!?」
 いつものスーツ姿で待ち構えていたミルと、よく見ると他にも見覚えのある人達が準備を手伝っていた。
「クラフトがね、見ておいてもらいたいとか言ってたのでね。我々もついでに、ここでやらせてもらう事にした」
 モココがクラフトに目で説明を求めるが、「俺も手つだおー」と行ってしまった。
 大人数人で運んでいる椅子を軽々と1人で持ち上げ、驚かせている。
「人数を確認してみると、現在400人近い人間がここにいる。村人ほぼ全員に近いくらいだね」
 村人総出で、見ず知らずの自分達の為に動いてくれるという事実に、心の復興もずいぶん進んだのだとモココは改めて気づかされた。
「披露宴の用意というか、結婚式の後は宴会のようなものをするつもりのようでね。その準備も進んでやってくれるようなので私的にも大助かりだよ」
「あ‥‥それじゃあ、私もそっちの手伝いに――」
「だめだよ、花嫁さんは主役なんだから」
 動き出そうとしたモココを制止したのは、ミルの後ろからひょっこりと姿を現した津崎 海であった。
 思いもよらぬ相手に、ミルを発見した時以上にモココは驚き、同時に喜んだ。
「海ちゃんまで!」
「モココも結婚式挙げるっていうから来ちゃった。ミルさんが呼んでくれたんだよ」
 そして海ははにかみながら、モココにブーケを差し出した。
「今日はおめでとう。幸せにね」
 嬉しい来客の言葉に、まだ流さないと決めていた涙を流しモココは、「うん、うん‥‥!」と何度もうなずいてブーケを受け取るのであった。
 ブーケを渡した海は、「じゃ、またあとで」と告げ、くるりと振り返りミルに何やら封筒を差し出していた。
「これ、以前うちで社員旅行した時の修繕費です。お支払、よろしくお願いしますね」
「色々やってくれた本人に渡したまえよ‥‥っ」
 ちらりと軍服姿が浮いている冴木 玲(gz0010)に目を向けるが、海はちっちっちと指を振る。
「こういう時の責任は、上の人がとるものなんですよ」
「その通りだが、しっかりしてるなぁ」
 商売人としてはそれ以上何も言えず、封筒を受け取る――そして準備が整った。

 外での挙式。
 神父の前でクラフトとモココは永遠の愛を誓いあい、そして指輪を交換。
 クラフトがモココのヴェールを上げる。
「俺はモココをずっと大切にするかんね」
 時々悩んだりちょっと怒ると怖かったり苦い物がダメだけど、可愛くて優しくて、誰よりも頑張り屋さんでちょこっと無茶するが、誰かの為にだって頑張れるそんなモココが大好きなクラフト。
 正直、こうしてるのもすごく照れくさいがすごく幸せを感じていた。
 今が一番、20年位の中で一番幸せだと思うほどに。
 それはもちろん、モココも同じだ。
「もう何度目になるかわからないし、きっとこれからも言い続けると思うけど‥‥クラフトさん、私と出会ってくれてありがとう。私を選んでくれてありがとう」
 目に涙を溜め、言葉を震わせば柄も続けた。
「あなたが傍にいてくれる限り、私も傍に居続けます」
 そっと目を閉じる。
 クラフトがモココの肩をしっかり支え、顔を近づける――ふと、視界の隅でこちらを伺っている人物と目が合った。
 その人物の口が、「たくましくなったものだ」と動いたかと思えば、踵を返し颯爽とその場を後にする。
 クラフトが生きていると信じ、もうずっと会えていなかった人物。言葉は交わさずとも、今なら言いたい事が手に取るようにわかる。
 ――しっかり守れよ。
 その言葉を噛みしめると自然と涙が溢れ、自分の気持ちと思い出を全て詰め込んで、モココに言葉を贈った。
「モココに会えて、ホントによかった」
 額に口づけをする。
 モココの目に溜まった涙が頬をつたい、モココの唇が小さく動いた。
「私‥‥ホントにクラフトさんに会えてよかった‥‥」




●君と共に前へ進むために
 モココとクラフトが人々祝福を受けている時。
 スタイリッシュなシルバーのタキシードにホワイトのネクタイ、ブルーの格子柄ベストという姿の錦織・長郎(ga8268)が、自分の傍らにいるシスターことシェリルを前に、目を細めていた。
「月並みだが、綺麗だよシェリル君」
 白を基調としたマーメイドラインのウェデイングドレス。
 キャップスリーブにケミカルレースを施した、可愛いらしいスゥイートなイメージを作りつつ、フェミニンで軽やかなオーガンジーのオーバードレスを重ね合わせている。
 ウエストにはコサージュの花弁がキラキラと輝き主張して、見事なポイントとなっていた。
「ありがと」
 幸せそうに微笑んで返す。
「‥‥ある意味駆け足な状況に有って、ミル君の勢いに便乗しての式になのだが」
 ほんの少しだけ照れくさいのか、口元に手を当てる。
「君と巡り逢い、こういう流れに到った訳なのだけれども――僕としては手を携えて行くのが君であるのを本当に嬉しく思うね」
「口説かれたのが昨日のように思い出せるわ」
 シェリルが苦笑すると、それは長郎も同じらしく肩をすくめる。
「まあ君自身の背景を承知して例えるならば、狙撃手には観測手が居てこそ任務が達成できるのだし、お互いにそういう役割を分担してこそ前に進めるのであろうね」
 そして視線をシェリルの腹部に向ける。
「それに、だ。責任が取れる間柄として先に出来てしまったが、僕達だけでなく人手不足の世間にも必要とされるのであろうし。
 だからこそ周りと協力の上で育てて行きたいものさ――僕の仕事柄それで宜しいかね、奥さん」
「相変わらず回りくどい言い方ね」
 ほんの小さく吹き出して笑みをこぼすと、「もちろんよろしいわよ、旦那様」と返すのであった。
「そろそろだな、錦織」
 長郎達に声をかける榊 兵衛(ga0388)。その半歩後ろにはクラリッサ・メディスン(ga0853)も一緒である。
「ああ、よろしく頼むよ榊君」
「2人の新たなる門出だからな。恥ずかしくないように役目を果たすこととしよう」
「‥‥初めての経験ですけど、精一杯務めさせて頂きますね」
 2人に媒酌人を頼んでいたのだ。それと夫婦として先輩なので、助言も。
 兵衛は長郎の肩に腕を回し、クラリッサから少し離れるとお節介と思いながらも小声で長郎に告げた。
「いいか、なるべく怒らせない方がいいぞ? 色々後が怖いからな」
「くっくっく、肝に銘じておくよ」
 男性陣がそんな話をしている間、クラリッサはシェリルが身重と聞き、経験者として様々なアドバイスを伝えていた。
「不測の事態には備えておくことをお勧めいたしますわ。こういった出先ではまず、受け入れてくれそうな病院の確認をなさいね」
「ありがとうございます、クラリッサさん」
 そして榊夫妻が媒酌人として見守る中、2人の式は行われた。
 シェリルの手にはフリージア・カモミール・アーモンド・リンドウで構成されたブーケが握られている。
「錦織長郎はシェリルを妻とし、慈しみ共に歩むのをここに誓おう」
「今日これからも心を1つにして、私、シェリルは、錦織長郎と共に歩む夫婦になることを誓います」
 誓いを果たした2人。プラチナリングを長郎はシェリルの薬指にはめた。
「クラリーとの結婚式を思い出すな」
 そう口の中で呟くと、隣のクラリッサも同じだったらしい。
「‥‥わたしたちの結婚式を思い出しますわね、ヒョーエ」
 結婚した者なら、誰でも今この瞬間に自分達の事を思い返すものかもしれない。
「そうだな――はっきりと愛を語るのはただの1度しか言わないと決めているが、こんな俺にこの先もついて来てくれ」
「その分、私が言いますからご安心を。愛してますよ、ヒョーエ。この先もずっと」
 はっきりとそう言われてしまっては、槍の兵衛と言えども照れるしかない。愛する者の前では形無しだ。
「今日ここで式を挙げる2人に幸大からんことを」
 誓いと交換を果たした2人は、熱く舌を絡ませ合うのであった――




●不安もあるけれど

(結婚式かぁ‥‥にはは、照れ恥ずかしいけど、やっぱり嬉しいよねぇ‥‥♪)
 純白のウェディングドレスで待機している刃霧零奈(gc6291)は、そわそわしていた。
「零奈、時間だぞ」
 艶なしで白いタキシード姿の蒼 琉(gz0496)が顔を出すと、これからもずっと毎日顔をあわせる相手だというのに切に会いたかった零奈は立ち上がり、琉の前に立つ。
「えっと…やっとと云うかついにというか‥‥結婚できるんだね、あたしたち」
「ああ」
「それでね‥‥あの――今日から琉さんって呼んで、いいかな‥‥?」
 真っ赤になりながらうつむき気味に、だが嬉しそうに微笑を浮かべる。やっと言えた、そんな安堵もある。
 前からそう呼びたいと思っていた。好きな人には名前で呼ばれたいし、名前で呼びたいと。
 ただ、なかなかきっかけがなかったのだ。
 微笑みを返す琉。
「もちろんだよ、零奈」
 優しい回答――そのついでに、今ある不安も打ち明けたかった。
「‥‥子供授かったでしょ? でもあたしって母親ってのを知らないで生きてきたし‥‥人に褒められる戦い方してなくて血に染まった手出し」
 白いレースの手袋越しに自分の手を不安げに見つめる。その声にもありありと不安が混ざっていた。
「ちゃんと母親できるかな‥‥? ちゃんと師匠の奥さんできるかなぁ‥‥?」
「それは――俺にもよくわからん」
 優しい彼の意外と冷たい言葉に、零奈は顔を上げた。
「まだ話したことはなかったが、俺もというか、俺は産みの親の顔を知らん。生まれた時からすでに親の友人の家に預けられていたからな」
 何を言いたいのか今1つわからない零奈は、琉の次の言葉を待つ。
 琉は照れたように視線をそらし、口元を押さえて言葉を続けた。
「だからまあ、なんだ。2人で手探りながらも、一緒に勉強していこう」
 不安はわかるが、1人ではない――そう伝えたいのだと零奈は理解すると、「うん♪」といつもの屈託のない笑みを浮かべるのであった。

 琉と零奈の挙式。当然ながらも学生服姿の海が参列していた。
「飾りのない言葉で申し訳ないが、俺、蒼琉は刃霧零奈を妻に迎え、夫婦となることを誓います」
「まだまだ、あの2人には及ばないかもしれないけど‥‥あたしは琉さんを心から愛してます。
 そして此れからもずっと‥‥もっと愛します」
 イエローゴールドにプラチナが重ねてある指輪を互いに交換し、口づけをかわす――零奈の目から大粒の涙がぼろぼろと溢れ出る。
(色々あったけど――琉さんと迎えられて、よかった‥‥)




●いつまでも3人一緒に居られたら

 零奈の挙式に続き、ボマーの式が終わった所で1台の車が到着した。
「来たな、親父殿め」
 ウェディングドレスに着替えたミルが立ち上がり、なかなか誰も降りてこない車の前までゆっくりと歩いて行った。
 ミルの側には常に美具と彩が。2人とももちろん、この日の為の衣装である。
 ミルがスモークで中の見えない後部座席の窓をコンコンと叩くと、窓が開き、予想通りの人物が顔を現した。
「どうかね、娘の晴れ着姿は」
「似合っているよ、ミル。で、相手は?」
 相手と言われ、わたわたと彩がぺこりと頭を下げた。
「は、初めましてー。娘さんを私に下さいっ」
 既にテンパっている彩を後ろに下げ、ずいっと美具が前に出る。座っているミルの父親よりも低い身長だが、それでも負けじと堂々としていた。
「初めましてじゃな。美具・ザム・ツバイと申す。養女ながらもツバイ家の全権を預かる者じゃ」
 多少なりとも自身の家柄に誇りを持っている美具だがミルの父親は、「知らんな、そのような田舎財閥」と一蹴するのであった。
「ミル、もしかして女の子同士で結婚の真似事かい?」
「待たれよ。まだここでは審議が再開したところじゃが、パートナーシップ法という代替法律で事実上合法じゃ。特に同性であろうと問題は無かろう」
 あんな一蹴程度では折れたりしない美具が、ミルパパに反論する。
「ほうほう‥‥こういう抵抗をするって事は、仕事は続けると言う事かな? 揺れたにもかかわらず」
「揺れる船に乗りたくないとは限らんよ。皆がよるべき大望と言う名の船であるなら揺れぬ船などない。
 不安定ながらもその先にある未来に希望を抱くならば、多少の揺れなど気になどなるものか」
 ミルと彩の手を握りしめる。
「美具や他の者が船頭となる事でこそ、箱舟は約束の地に辿り着けるのじゃよ」
 ミルパパはじっと握られている手を眺め、ミルの表情を確認する。いつも通りの迷いがない、真っ直ぐな瞳。
 ふうとため息を吐く。
「そちらからすれば田舎財閥じゃろうが、それでもどこぞの馬の骨よりは十二分に利はある。それだけの能力は備わっているつもりじゃ」
 ちらりと彩に視線を向け、続けた。
「幸い、養女の当てもありますのでご心配なく」
「女の子同士での結婚、それも3人でだなんて、できるはずがないとは思わないのかね?」
「かつてバグアを倒すことも同じように語られた物です。
 しかし、あれから5年。かつて不可能と言われたことを我々は現実のものとして勝ち取ったのです」
 1度だけ空を見上げ、再び視線を戻す。
「だから次も必ず成し遂げましょうぞ。ミルの――娘さんの可能性を信じてください」
 可能性――宇宙で自分の妹が着手しているであろう難病の治療薬を示唆していた。
 これだけ言ってもきっとまだごねる、そう覚悟していた美具だったが。
「まあいいさ。ミルの選んだ相手に、ミルの選んだ道だ。ミルにとって間違いはないのだろう」
 意外とあっさり引き下がる事に肩をすかされた。
「いいのかよ。先方にはどう断りを入れるつもりじゃ」
「どうせ決してうまくいかない見合だったからいいのさ。
 それに私はミルが幸せになるなら、それでいい。それが親孝行になるのだからね」
「ふむ。では改めて」
 美具はミルに向き直ると、恭しく手を差し出す。
「美具・ザム・ツバイと申す。ミル嬢をお嫁にいただきたく参上。
 美具はミルの大望を助け、死が2人を別つその時までそなたと共に歩みたい」
 色気の少ない実直な言葉。だがもはや2人の間ではすでに確認すべきまでもない事であった。
「よろしく頼むよ、美具。そして、彩もね」
 美具の手に手を重ね合わせ、そして彩に手を差し出す。
「不束者ですがよろしくなんだよー」
 微笑み、彩もミルの手に手を重ねるのであった。

「ドレス着るのって初めてなんだよ〜。しかも初めて着るのがウェディングドレスってー、能力者になる前は想像もしなかったんだよー」
 神父の前で照れながらも嬉しそうに微笑む。それにつられ、ミルと美具も微笑むのであった。
「それで、それでね? 結婚したら漢字だと夫婦(ふうふ)って書くでしょ? で、私達は女の子だからー、婦と婦で婦婦(ふーふ)って読むのとかどうかな〜。
 ちょっとした事なんだけど、『ふーふです!』って言ったりもしてみたいかなって事でー、ふーふになることを誓うんだよ〜」
「らしいな、彩殿は――美具・ザム・ツバイ。死が2人を別つまで共に歩むことを誓う」
「君も十二分にらしいよ、美具」
 破顔、そしてすぐに真剣な表情を作ると2人にならって誓った。
「私、ミル・バーウェンはいつまでもこの2人と一緒に居ると、誓おう」
 振り返りびしっと参列者たちを指さす花嫁ミル。
「諸君らも私の後姿を追いたまえ! 私が先へと導いてやる」
 次に自分の父親を指さす。
「親父殿もだ。あっという間に抜かしてやるから、見ていたまえ! だからせいぜい――長生きしろ」
 再び神父に向き直り、細かいダイヤがちりばめられたプラチナリングを取り出すと順番に2人へとはめていく。
 美具もお返しにダイヤモンドの指輪をミルの指へと。
「ダイヤかー‥‥2人の誕生石の奴用意したけど〜‥‥これだと婚約指輪とかみたくなるのかなぁ」
 気難しい顔でもにもにと口を動かしながら、トパーズの指輪を美具に、アメジストの指輪をミルにはめていく。
 そして彩はいつもされているお返しとばかりに、ミルの顔を両手で包みこみ、ゆっくりと口づけをかわすのであった。
 長い長い、口づけ――。
 唇を離すと、にやりと笑ったミルが顔を突きだして唇を重ねた瞬間、彩は顔を赤くし、口を手で押さえ慌てて離れた。
「し、舌ー!?」
「ふふーん。まだまだだね、彩」
 得意げなミルは不意に顔を掴まれ、強引にひっぱられると美具が唇を押しつけてきた。
 彩の時よりも長く、1度離れたがまだ足りぬと言わんばかりに再び重ね合わせるのであった――




●披露宴?

 式が終わり、披露宴という名の宴会が始まると思い思いの相手の所に人が集まる。
「お二人ともお幸せになって下さいね」
 クラリッサが微笑み祝辞を述べると、長郎とゆったりとしたパーティードレスに着替えたシェリルが強く頷く。
 身重である事の助言をシェリルが尋ねている間、兵衛が円満な家庭談義を長郎と繰り広げている。
 そんな最中、ミルが割って入ると封筒を差し出した。
 長郎も見覚えのある封筒だった。
「長郎、ご祝儀だ受け取れ」
「感謝するね」
 渡すと、とっととミルは行ってしまう。
 封筒を開けると金額の入っていない小切手に、見覚えのある紙切れも入っていた。
 予想の要望に何を返し要求かねと、自分の字で書かれているそれを取出し、裏返してみる。
「不幸にはさせるな、私の行く先に協力すればそれでいい、ね。お早い御返事で」
 結婚式だというのに「この先の手紙」を送った自分もアレだが、即座に返事を送ってきたミルに肩をすくめ、くっくっくっと、低い笑い声を漏らすのであった。

 準備を手伝ってくれた人々にお礼を言って回るモココとクラフトの前に、モココへ渡したはずのブーケを手にした海がやって来た。
 最後の最後でモココがブーケトスをしたのだが、狙って海に投げたのである。後ろ向きでもそれくらいは造作ない。
「また言うけど、おめでとうモココ。うちに旅行しに来たら、もちろんただにしてあげるからね」
「ありがとうご――ありがとう、海ちゃん。ぜひ行かせてもらうから、その時はよろしくなんだよー」
 脱敬語を目指すと、口調がクラフトに近づいて来ていたりする事に今だ気付いていない。
「モココ、ちょっと指輪貸してー」
 クラフトがそう言ってもここから指輪を受け取ると、指輪の内側を見せた。
「これはイニシャル、ですよね――こっちの傷みたいのは?」
「こうやってー重ねると」
 自分の指輪も外して2つの指輪を重ね合わせると、そこには「EVER」の文字が現れる。
「2人で永遠にってことでねー‥‥って、モココ泣いてるー?」
「‥‥反則ですよぅ、こんなの」

「そう言えば、子供の名前を考えねばならんな」
「師匠、じゃなかった琉さん、気が早すぎだよぅ。それよりも先に、あたしともっとイチャイチャしようよ。忙しくなる前に、ね」
 そうかと、あいかわらず鈍いんだかよくわからない自分の最愛の人を前に、零奈は幸せそうに――そう、本当に幸せそうに微笑むのであった。
(こうなるなんて思ってはいなかったけど、ずっと憧れていたこの瞬間を、大事にしていきたいな)

「あーあー、聞こえるかの」
 ミルパパの乗ってきた車のトランクにつまさっていたリアルタイムの映像通信に映し出されたのは、現在宇宙に浮かぶミルステーション滞在中の藍紗・T・ディートリヒ(ga6141)であった。
 ちゃっかりというかきっかりというか、運転手を務めたラインがこんなこともあろうかとで用意していたのである。
 ここら辺はさすがにミルの関係者というところだ。
 もっともバグアがいなくなったとはいえ、まだそこまでの感度もなく映像が荒く随分とタイムラグがあるが、それでもリアルタイムで会話ができるのは大きかった。
「こちら宇宙のミルステーションから藍紗じゃ、急な話じゃったゆえ、直接伺えなくてすまなかったのじゃ」
「おーがんばってるッスねー」
 ここ最近になってずいぶん仲が良くなりつつあるボマーが手を振っていた。
「ボマー殿も唐突に思い切ったものじゃのぅ。それとミル殿もじゃな」
「物事は常に大きく、いきなり動く物さ」
「じゃのう。せっかくじゃから祝詞でも歌おうかとも思ったが、長いからの。ここは単純に祝福だけ贈っておくのじゃ」 コホンと咳払いひとつ。
「2人とも、末永く仲良くの。それと美具殿もな」
「おーう、任せろ。そっちの様子はどうじゃ? うちの妹をこき使っておるかのう」
「ばっちり進んでおるの。デブリの衝突もないが、やや電力不足気味なくらいじゃろうか。美具殿の妹殿は、せかせかと忙しなく動いておる」
「そのうちスカー交えて、3人で楽しもうッス!」
 美具を押しのけ、ボマーが画面目いっぱいになるほど近づいて恥ずかしい事をほざくが、当の藍紗はごく冷静なものだった。
「うむ。ボマー殿も両方いける口じゃったから、楽しみじゃな」

「まったく、公衆の面前でまあ‥‥」
 ボマーと藍紗のやり取りにやや呆れながらも、ミルパパに再度挨拶に伺おうと捜していた美具。
 発見はしたが人気のない所で、ラインと共に何やら神妙な面持ちだったのでつい、身を隠してしまった。
「あの子に兄である事は教えたのかい?」
「いえ、伝えましたけど冗談ととられました。
 まあいいのです。私はあの子ほど能力も高くないし、私が兄とわかれば私を使いにくく感じてしまうでしょうし」
「悪いな――さて、あの子に直接引導を渡させようと思ったが、こうなったからには私が処分するとしようかね」
(見合い相手の話かの)
 はっきり言ってないが、美具はどことなくそう感じた。
「あの子が商売から手を引くよう行動を逐一流し扇動して、襲撃させたようなやつらだ。叩けば埃どころの騒ぎじゃないだろう」
 咥えていた煙草をぶちりと噛み切り、怒りを露わにする。
「私のミルを悲しませた代償は高くつくと、徹底的に教え込まねばならん――そんなわけだ、娘をよろしく頼むよ。私の新しき娘よ」
 そしてラインを引き連れ、行ってしまった。
 身は隠していたし気配も殺していたつもりだが、さすがはミルの父親だけあると美具は苦笑し、自分を捜しに来たミルと彩に笑顔を向ける。
「これからもよろしくじゃよ、2人とも」


『【LC】白いお返し 終』