タイトル:【聖夜】波乗りサンタマスター:楠原 日野

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/01/05 10:39

●オープニング本文


●ゴールドコースト・南方
「ここが保養地として有名なゴールドコーストか――とはいえ、今のご時世では遊んでいられる人間なんてそれほど多くはないのか」
 人がまばらなビーチを見わたし、照りつける真夏の日差しに対抗すべく珍しく帽子をかぶっているミル・バーウェン(gz0475)が、声を大にしてそんな事を口にした。
「だろうねぇ。お嬢みたいな階層ばっかりじゃないかい?」
 長袖を着ているにもかかわらず、涼しい顔でいる白髪交じりのグレイが、こちらも珍しく煙草ではなくソフトクリームを片手に持っている――ミルの残りを渡されただけだが。
 他にも金髪でやや大柄で主に胸のあたりがふくよかなシスター、鼻に傷のある東洋系のスカー達もソフトクリームを舐めていた。
「まあそうかもしれん。それなりの金持ちっぽい身なりしてるのばかり――と、そうでもないか」
 水着姿ではあるが、立ち居振る舞い、雰囲気がまんま傭兵な者も多数見える。カップルだったり1人だったりと、思い思いに羽を伸ばしている。
 かつてからすれば確かに少ないが、それでも案外人は多いと言ってもいいのかもしれない。
 この中に若輩ばかりと言えど、豪州軍の軍人が大量に混ざれば楽しい海水浴の雰囲気を壊してしまうところであった。
「寄り道にまではついてきたが、まさか訓練をするなんてね。今部隊を指揮している奴は案外お飾りではなく、化けるかもしれん。兵士達も積極的に訓練に参加するとは、変わってきたのか、それともあの高官から離れてるおかげかだな」
「そうねぇ‥‥で、お嬢。ここに来た理由はお遊び目的?」
 大胆な胸開きキャミソールにラッセル編み上げチューブブラ、そしてハーフパンツと言う、何か遊ぶ気がすでに感じられるシスターの服装――その初めて見る服装に、ミルが首を捻る。
「そんな服あったのかね? 君の趣味と違う気もするのだが」
 するとシスターは少しだけ頬を赤くして、せっかくのプレゼントだからねと呟いた事でミルは察して、半泣きな顔になる。
「私もそろそろ、どうにかなりたいね。会いたいものだ‥‥おっと」
 背中に誰かがぶつかった。それと同時に、嫌な感触が背中に。
「あ、ごめんなさい」
 かなり幼い女の子が変形したソフトクリームを片手に、申し訳なさそうに背後に立っていた。ポーチを肩から外し、無言でスーツのジャケットを脱いで後ろを確認――やはりべっとりと付いていた。
 溜息をついたミルが口を開こうとした時、さらに後ろの方で子供が叫んでいた。
「痛い痛い痛い!」
「大げさに言っても、嘘なのはわかってるから。観念しなって」
 スカーがミルよりは年下な少年の腕をがっちりと掴んでいる。その手には、白いポーチが握られていた。
「アイスをぶつけて、気を引いてるうちに荷物を盗る――昔と手口は一緒ですね」
 スカーが苦笑すると、ミルはそれが自分のポーチだと理解する。ソフトクリームをぶつけてきた子供は逃げ出そうとしたが、その前にしっかりとシスターが掴んでいた。
「知っていたのなら、アイスの時点で止めてくれたまえよ」
「殺意も感じられらなかったし、アイススリと言うだけなら見逃しておこうと思ったんですけどね。どうせお嬢の財布は現金なんてないし。でも、このポーチには子供が持つには物騒なモノがありますよね」
「スリも見逃さないで――ああ、そうか‥‥」
 自分の部下達がスリに寛容な理由に思い至り、言葉が尻すぼみになってしまい、黙ってポーチを受け取る。
 そしてミルは子供達に顔を近づけると、ニッと笑って見せた。
「君らは運がいいな。並の悪党なら君らの命はなかっただろうけど、大悪党の私は君らを見逃してあげよう。小事に構っていられない身なのでね――そんな事ではせっかくのクリスマス、サンタは来ないぞ?」
「親なんて、もういねーし」
 親がサンタである事を知っている可愛くない返事。それ以上に親がいない事に、ミルはピクリと眉を吊り上げる。
 支配時、強化人間の実験が盛んだったここではとりわけほかの地域よりも孤児が多い――弟分のエリックを通して、それはよく理解しているつもりだったが、まだまだ認識不足だったらしい。
 少しの間、口に手を当てて考えていたミルが口を開いた。
「‥‥では明後日の夜、この海岸にお仲間ごと来たまえ」
 お仲間と言う言葉に驚く少年。
「どうせグループの一員なのだろう? 個人だけではやっていけないから集団を作るのはどこでもある話さ――この私が君らへのサンタを連れてくると、約束しようではないか」
 子供達は顔を見合わせ、困惑気味、というよりは胡散臭げな表情である――当然の話だが。
 肩をすくめ、苦笑したミルは無言でグレイに手を差し出し、小銭を受け取ると、子供達に手渡した。
「では呼んできてくれたまえ。これはその報酬と言う事で、ね。当日は君ら全員に『何か』が当たるから、楽しみにしてくれたまえよ。まあ癪かもしれんが、金持ちの道楽とでも思ってね」
 そこまでしてようやく子供達は納得できたのか、駆け出して行ったのであった。
(孤児達を早いところ、どうにかせんとね。彼に期待か――)
「何はともあれ、夜の波乗りサンタだ。どうせなら人数多い方が面白いから、遊びに来ている傭兵達にも声をかけて、ちょっとインストラクターとして、蒼を呼びたまえ」

●屋久島
「また、オーストラリアに‥‥? しかもサーフィンの指導ときたか‥‥」
「期待外れな依頼で申し訳ないですね。文句はミル嬢に――私もね、合流地点に着いた途端、ここへ行けですから文句のひとつも言わないと気が収まらないのですよね」
 スポーティーな髪型の銀髪の男は、似合わない茶系のスーツ姿で文句ごとほうじ茶で流し込む。
「ドライブには余計な仕事を持ってくるなと言いつつ、ご自分の方がもっと面倒で、しかも個人的な事情ばかりですからねぇ」
「期待外れだったのも確かだが、依頼は依頼。ただね、また出張なのがな」
 またゴーレム関連かと思っていた蒼 琉(gz0496)は、頭を押さえ津崎 海に視線を送る。
「どうせなら一緒に行けばいいのです。冬休みというやつがあるでしょう」
 海のポニーテールが揺れる。
「こちらと違って、向こうは真夏――家族旅行のつもりで一緒に行けばいいのですよ。もちろん旅費は、ミル嬢に出させます」
 それもそうだなと海に顔を向けると、すでに準備に取り掛かっていた。行動の素早い海に苦笑し、たまに羽を伸ばすくらいいいかと頷く琉。
「俺も、息抜きが必要かもしれんしな‥‥せっかくのクリスマスだ、楽しむとするかね」

●参加者一覧

/ 鯨井昼寝(ga0488) / 錦織・長郎(ga8268) / 美具・ザム・ツバイ(gc0857) / 蒼 零奈(gc6291) / 権兵衛・ノーネイム(gc6804) / 村雨 紫狼(gc7632) / 高縄 彩(gc9017

●リプレイ本文

●ゴールドコースト・南方
 砂浜を奔走するミル・バーウェン(gz0475)の部下達。随分無茶なお願いを聞いてくれる傭兵を探していた。
 その努力の甲斐あってか、ビーチに遊びに来ていた数人の傭兵が引き受けてくれる。
 そのうちの1人、村雨 紫狼(gc7632)はこう語る。
「ああ、そうだな‥‥豪州地区は、特に強化人間絡みのトラブルが未だ根強い。そこに生きることを強いられてる人間達ににしてみりゃ、クリスマスを素直に楽しむのも今は難しいだろ」
 ビシィッと、謎のヒーローポーズ。
「だったら、俺たちが率先して馬鹿をやろうじゃねーの!!
 という事で胸部装甲が残念なミル嬢に聞くことは特にないッ!」
「やっかましい!」
 依頼の件で聞く事はあるかと尋ねたミルが飛び蹴りをかまし、華麗に宙を舞い、地面を二転三転してようやく止まる紫狼。しばらく動けそうにもない。
「誰か聞く事はあるかね!」
 スッと燃えるような赤い髪の、ドット柄ビキニが実に映えているスレンダーな美女が手を挙げる。鯨井昼寝(ga0488)だ。
 北半球の寒さに嫌気がさし、オーストラリアに遊びにやってきた次第の彼女である。
「マリンスポーツは得意だが一流のサーファーたる者、波の情報は十全に仕入れておく必要があるんだけど、大丈夫かしらね」
 昼間からサーフィンさせろ――暗にそう言っているようなものだ。もっと端的に言えば、昼間から遊ばせろ。その一言に尽きる。
「安心したまえ。中には未経験者もいるだろうからと、講師付で講習の時間もあるのだ。そこにいるのが講師だね」
 砂だらけの紫狼を踏みつけながらも、蒼 琉(gz0496)に顎の先を向ける。
 相変わらず過激な武器商人に頭を振りながらも、改めて琉は皆に向かい合った。
「初めて顔をあわせる者もいるだろう。急遽屋久島から呼び出された、蒼 琉だ。マリンスポーツ全般はとりあえず一通り全部教えれる程度でしかないが、よろしく頼む」
 そんな横には、真紅のビキニ姿をした刃霧零奈(gc6291)がちゃっかりと立っている。
 その零奈を見上げる形で傍らにいる、白と水色チェックがプリントされた水着姿の津崎 海。その頬が引きつり気味なのは、見上げているのに立派なものが邪魔して、顔が見えない事に関係している気がする。
「なんじゃ、蒼殿も来てたのか」
 大荷物を抱え、たった今到着したと言う風貌の美具・ザム・ツバイ(gc0857)が、意外な所で意外な人物に出会った事に驚いていた。
 それは琉も同じようである。
「君もな。わざわざ連れてこられた口か」
「何やらお仕事兼新鮮な体験が出来るとやらで来たわけじゃが――姉妹達からは色々聞いてきたが、サーフィンはド素人なのでよろしくじゃよ」
 その背後になんとなく、含み笑いを漏らしている彼女の姉妹達の姿が見える――気がした。
「新鮮、ね‥‥確かに波乗りサンタクロースは切手か何かで見たことはあるが、現物は初めてだわ。この組み合わせは日本人の私にとって、中々にシュールなのよね」
 サーフィンで遊びたいだけかと思ったが、意外とやる気十分だと感じさせる昼寝の発言。
 その言葉に賛同するかのように、高縄 彩(gc9017)がうんうんと頷いていた。
「波乗りでサンタさんかー、社会科の資料集で見た事あるんだよ〜」
 紺のボーダーで胸元にフリルリボン付のネックストラップ2ピース水着姿な彼女。その前に腕組みをし、思案顔をしたミルが熱い視線を一点に注いでいた。
「どうしたのかなー、ミルさん」
「なんでもないよ、まいふれんど。うん、なんでも‥‥」
 哀愁漂うミルは突如、彩の胸にタッチ――顔を赤くし、胸を隠して後ずさる。
「な、な、なにをするかなー!?」
 抗議する彩を前に、ミルはそっと自分の胸にも手を添え、大きなため息。先ほど以上に哀愁を感じさせる。
「ところで練習中の服装は、水着でいいのか」
 鉢金にゴーグル、ガントレットに直衣と、夏真っ盛りのオーストラリアでは暑苦しい恰好をしている権兵衛・ノーネイム(gc6804)が、ごく普通の質問を投げかける。
「ああ、持参した水着で構わん。本来ならサーフィン用を着用させたいところだが、君らの多くはもともとサーフィンしに来たわけではないのだろうし、下手に波にのまれなければいいだけだ。
 能力者なのだから1、2回の練習ですぐプロ並みになるだろうしな」
「うむ、その通りだろうな。気を付けるのだ、初心者諸君よ」
 ゴーグルと直衣を脱ぎ捨て、白い褌姿に早変わりした権兵衛はガントレットも外し、鉢金の上にサンタ帽をちょこんと乗せ、腕を組みながら男らしく直立不動で海を眺める。
「海は危険なものだ」
 海を知り尽くした男の横顔――そのように見えた。
「そこは重々承知しているさ」
 くっくっくと肩をすくめ姿を現した錦織・長郎(ga8268)。
 彼の出現に誰よりも大きな反応を示したのは、誰あろうシスターであった。
 目を見開かせ、緩む頬をこわばらせて平静さを保っているが、もはやバレバレなものである。
(可愛いものだね)
 2人の間の空気は感じ取っているが、それを無視してミルが久しぶりに見る彼に声をかけた。
「何やら久しいね、長郎」
「UPC関連で講習中という処かね。詳しい事は守秘義務条項なので勘弁して貰えると幸いかね」
「あえてそんなところにツッコミはいれんさ。だがそれならまだ、こんな所でのんびりできる段階ではないのではないかね」
 何の講習中なのかは聞かなかったミルだが、彼との付き合いも随分長く、経歴も知っている分、色々と察しがついたらしい。
 その問いかけに目を閉じ、嘆息を吐く。
「まあ、幾ら僕とは言え真面目に禁欲生活で事実上監禁されるのはごめんではあるし、今は廻りと合わせつつ活動リズムを慣らしている段階だね。
 その内やり方さえ踏まえてしまえば、押し付ける仕事の振り分け目処が立って楽になるだろうし、そこまで行くには時には気を楽にするも必要なのでね」
「なるほどねぇ」
「何、緩急の按配を見極めるのも大切だからね、くっくっくっ‥‥」
 肩をすくめると、彼はぶらっとした足取りでシスターの横を通り抜けようとして、その耳元で囁く。
「という訳でボランティアを兼ねた、デートだよ」
 かっと赤くなって恨めしそうにジト目を彼に向けると、長郎は実に楽しそうな笑みを浮かべ肩を並べる。
 そんな様子をちょっとうらやましそうに見ていた零奈は、ちらっと琉の横顔に目を向けるが、彼自身に変化はなく、視線に気がついた彼はどうしたと、首をかしげるだけであった。
「別に、なんでもないよぅ‥‥」
 大きくため息を吐き出す。彼の朴念仁ぶりは、今に始まった事ではないからだ。
 くいくいっと零奈の手を引く者――海である。
 少女の顔にありありと同情が浮かんでいた。
「‥‥がんばってください」
「‥‥ありがと」
 かなり複雑な表情を浮かべていた零奈であった――。

 改めて着替えたりと準備を済ませ、海岸に集まった一同を前に、琉は少し戸惑っていた。
「ではこれより、講習を開始する――が、その、なんだ‥‥美具」
「なんじゃ」
 水の抵抗が大きそうなひろひらが多い上に露出が高く、どう見ても見せ紐ではない水着姿の美具。
 その水着の危険性を指摘しようかとも思ったが、波にさえのまれなければと、開き直る。
「いや、なんでもない」
 各々に見合ったサーフボードを、海がちょこちょこ動いて渡して回り、昼寝と権兵衛だけは自分で選んでいた。
 2人とも、初心者向けではないボードだ。
「君も真面目に講習受けるのだね、村雨」
「俺、こう見えてすんげー真面目なんだよ‥‥つーか、サーフィンやったことねーしなあ」
 蹴られた事などもう忘れたかのように、ミルに笑ってみせる紫狼。
「ま〜バイク乗る感覚でやりゃいーと思うし、スノボと似たようなもんだろ? 要は体重移動と腰のバランスなんだし、予習しときゃー何とかなるじゃん!」
「ふむ、概ね間違いではないな。がんばりたまえよ」
「サーフィンなんて初めてやるんだよ〜」
 不安なのか、スーツ姿のミルに後ろから抱きついてくる彩。とりわけ仲のいい彼女に抱きしめられ、嬉しいのかちょっと頬を赤らめながらも、その後頭部の感触に複雑な表情を浮かべていた。
「まあそうだろうねぇ。海のあるところで育ったようではあるが、おおよその人は未経験者だろうさ」
「見た事はあるんだけどね〜。そう言えば、プレゼント入れる袋って防水なのかなー」
「うむ、安心したまえ。そこはぬかりなく、表面撥水加工なうえに2重構造で内側はポリフイルム加工で二重チャック付だからね!」
 無駄に良い作りをしている袋を自慢げに語る。
「そっかー。ところでミルさんはこの後、どうするのかなー?」
 彼女の質問に、得意げだったミルが一瞬にしてしゅんとなってしまう。
「残念ながら、お仕事やらがあるのだよ。部下達なら時間はあるのだが‥‥」
「なるほどなるほど‥‥では講習の後、よろしくだよシスター君」
 意味ありげな視線を送ると、ペイズリー柄のモノキニ水着に着替えていたシスターがそっぽを向く。
「にしてもお嬢、子供達にプレゼントっていいコトじゃん♪」
 そんな事を言いつつも琉に視線を向けては照れている零奈。どう見ても目的がもう一つあるようにしか見えない。
 そこはあえて黙っておくミル。どんな関係かはよくわかっているが、彼の朴念仁ぶりもよくわかっているのだ。
(あれの母親が、結構ぼやいていたっけなぁ)
 海をちろっとだけ見ては目を閉じ、汗をたらしつつも気の毒そうな表情で頷いていた。
「ぶざまなサンタさんなんて、洒落にならないもんねぇ‥‥しっかりマスターしないとね」
 かくんと首を曲げ微笑む彼女に、琉は微笑み返すと真剣な表情を作り上げる。
「まずは軽くマナーなど説明するから聞いてくれ。マナーと言うが、だいたいが命にかかわる危険行為であると自覚し、気を付けて――」
「では、皆の衆、がんばってくれたまえよ」
 琉の説明の途中で、ミルはその場を抜け出すのであった――。

●ホテル室内
 クーラーを効かせたホテルの一室で、飴玉を舐めながら携帯ゲーム機で遊んでいるミル。
 そこにノックもなしに白髪交じりの男が入ってくると、ゲーム中断し、足を組んだまま椅子を回転させて向かい合う。
「おかえり、グレイ。用意はできたのかね」
「おお、今夜の準備は整ったぜ――ところでアンスの姿が見えねぇな」
「ラインならまたちょっとお使いさ。ずいぶん文句たらたらだったがね」
 机の上の海図に目を向け、苦笑する。海図には様々な線が書き込まれていて、ある一点に集約していた。
「ま、なにはともあれお疲れさんだ。先ほどドライブから報告書を受け取った所でね、きっと今頃はバーで飲んでるから君も行ってきたまえよ」
 そうさせてもらうかねぇと、グレイが部屋を出ていくと――入れ替わりでメイ・ニールセン(gz0477)が入ってくる。
「おや、メイ。その様子だと解決したのかね」
「おかげさんでね‥‥」


 パークス天文台襲撃後、メイの安否を気遣って飛び出てきたリズ=マッケネン(gz0466)を抱きとめたメイ。
「伝えたかった、か‥‥」
 意を決した彼女はリズを引き離し、目線の高さを合わせ、今まで言えなかった言葉をあっさりと口にした。
「あたしはね実は、あなたの姉なのよ」
「‥‥知ってますよ」
 メイ以上にあっさりと答えたリズ。その言葉に、逆にメイの方が驚いてしまった。
「ミルさんが教えてくれました。おおよその経緯も――驚きましたが、ああやっぱりとか思っちゃいましたよ」
 ペロッと舌を出す妹を前に、口をあんぐりと開けていたメイがいつしか大笑いし、ひとしきり笑った後、すっきりとした表情を浮かべていた。
「ごめん、リズ。ちょっと子狸に文句言いに行くから、明日引継ぎしてここを出るわ」
 心のつっかえが取れた。何となく足も軽い。空を仰ぎ、リズにとびきりの笑顔を向ける。
「元気でね、愛しいあたしの妹さん」


「まさか、お嬢がバラしてたなんてね。ビックリ通り越して、笑っちゃったわ」
「すんなりと解決できたから、結果オーライさ――で、ここに来たって事は引き受けてくれるのだね」
 渋い顔をしていたメイはにっこりと微笑み、頷く。
「まあね。子供を殺せないあたしには、ぴったりかもだわ」
「よろしい。では後ほど、カルンバで会おう」

●ゴールドコースト・南方
 基本動作や姿勢が一通り終わった所で、船に乗り込み少し沖合に出ていた。本番に近い状態での練習である。
 波待ちをして波に合わせパドリング、何とかテイクオフを決めてボードの上に立ちあがった権兵衛。
「サーフィンか――余裕だな」
 しかし束の間の余裕。
 波に乗った瞬間、ボードが後方に向かって足からすっぽ抜け、勢いに乗った分だけ見事に海の上を転がっていく。
「うごあぁぁぁぁ!」
 そして沈没。
 その一連の様子を見て、経験者ではなくずぶの素人だと言う事がよくわかった琉がため息をつき、他の参加者に向き直る。
「今のように舐めていると、一瞬で持っていかれるので、バランスには特に気を付けてくれ」
 いきなり嫌な未来図を見せられ、彩はぐっと握り拳を作った。
「本番だとミルさんも見てるだろうしー‥‥し、失敗して変なところは見せられないんだよ、うん!」
 そういいつつも、彩、紫狼、長郎達は初心者だがさすが能力者。波に乗るくらい、そつなく一発で成功させる。
 昼寝に関しては一般人ではできないような立ったまま波待ちをして、ボードを沈めた反動でテイクオフと、まごうことなき上級者テクニックを駆使していた。
 波はいまいちだったのか、皆に合わせたのか、ただ波に乗るだけに終わらせる――そんな昼寝を琉はじっと見ている。
「ししょー、あたしのも見てね♪」
「あ、ああ――だが、その前にあそこをだな」
 零奈も一発で成功させるとほぼ確信していた琉は、波待ちもまだ上手くできていない美具に視線を向ける。
 ボードにまたいで座る――簡単そうだがそれもある程度のコツがいるとはいえ、先ほどからボードが後ろに跳んでいったり先端が上がりすぎて転覆など、最初の大前提すらできていない。
 海がつきっきりでいるのだが――能力者と言えど、苦手なものは苦手なのだなと琉は改めて知らされた。
 そのうちに後ろ向きへ跳んでいったボードに引っかかって、美具のブラがポロリと――瞬時に零奈が琉の目を覆い、海がキッと琉を睨み付けてくる。
 その間にも権兵衛は実に真面目に取り組み、ひっそりと不安定ながらも波に乗って陸に向かっていた。
 ――と、陸から地元の人間の水上バイクがこちらに向かってきて、その後ろの引き波にボードで乗って昼寝が戻ってくる。
「っかー! こっちは天気も良いし最高ね」
 船にたどり着くと、ここまで連れてきてもらったバイクの運転手に感謝の意を込めて手を振り、再び立ったまま波待ちをした彼女は、今度もパドリングなしで波に乗り、腰を落しナチュラルスタンス。
 繊細なテクニック、というよりはゴリゴリと力強いターンを連続して決めながら波を見極める。
「ここで華麗に‥‥決めるッ」
 ダッパーンッ!
 高く美しくも、豪快なエアリアル――見事に着水して満面の笑みを浮かべる彼女は、最高ッ! と叫んでまだ波を楽しんでいた。
 それを食い入るように見ていた琉。
 他の女性に目を奪われていて面白くない零奈が頬を膨らませ、琉の腕をつねっているがまるで効果がない。
「すまん、一回だけちょっとやってくる」
 触発されたのか、ボードを持ち出して船から降りるのであった。
 ちょっと放置された零奈が、波に乗っていく自分の師匠に思いっきり叫んでいた。
「師匠のバカチーン!」

 1時間と短い講習時間を終え、彩は不安だからといまだに波に乗れていない美具と共に練習に励み、それに琉も海もつきっきりであった。
 そしてふくれっ面をしながらも、零奈もその輪の中にいる。
 昼寝に関してはもはや自由にサーフィンを楽しんでいて、ローカルサーファーから女神降臨と囁かれていた。
 もともと偶然いただけの紫狼は時間になったらまたくっからと、行ってしまった。きっと嫁と一緒に岩陰にでも行くのだろう。
 1時間しっかりと講習を受けて、ちゃんと波に乗れるようになった権兵衛はいつもの暑苦しい姿に着替え、少し離れたところで波を見ていた。
(たまには、こういうのもいいものだ)
 そして彼は溢れ出る情熱に身を任せ、魂の篭ったノリの良いアニソンロックをそれこそ全力で歌っていた。
 最高潮が近づくにつれ、情熱が、魂が、溢れ出る――そして。
「――!!」
 最高潮に達した時、彼の全身が炎に包まれるのであった。
(くっくっく、熱いものだねぇ)
 そんな離れを通りがかっていた長郎が、笑っている。
「どうしたのさ」
 腕を組んでいたシスターが、突如笑みを漏らした長郎の顔を覗き込む。
「いやなに、まさかあの時口説き損ねた君が、こうしているのが少しおかしくてね。
 ――長い事構えなくて済まなかったね。こう待って居てくるのは嬉しいものだよね」
「お互い大人で、忙しいから――というより、あれっきりの仲だろうと思ってたもの。
 まさかまた会いに来てくれるなんて、思ってもみなかったわ」
 お互いに、微笑む。
「ふむ、僕が送ったペイズリー柄のモノキニ水着も、当然の如く似合って見栄えが更に映えるね」
「ありがと。嬉しいわ、本当に‥‥」
 軽い口づけ――恋人同士そのものの2人は、時間が許す限り水遊びをしていたのであった――。

●夜!
「さて、皆の衆、出陣の準備は整ったかね!」
 タヌキスーツ姿のミルが傭兵達に声を張り上げる。美具の要望で、この姿であった。
 水着の上からがっつりサンタクロースのジャケットを羽織っている昼寝や、ミニスカサンタの衣装を着ている彩のような比較的普通なサンタもいれば、サンタをイメージしたデザインの甚平を着ている長郎。
 日中に見せたサンタ帽を乗せただけであとは厚い胸板と割れた腹筋にビシッとした白褌の権兵衛。
 サンタと言えば赤! だからこれもサンタコスなんだよ! と力説して折れない真紅のビキニ姿だけの零奈。
 そしてなぜか赤くもない普通の水着姿のままの紫狼。そんな彼にミルが訝しんでいる。
「んじゃ、本番といこーか!! はああーーッ‥‥変ンン‥‥身ッ!!」
 腰にベルト状の炎が現れ、全身へと炎が燃え移る!
「紅蓮騎士、ブラスターゼオン!!」
 日本の特撮そのまんま、派手でヒロイックな仮面の騎士に変身した紫狼。炎が首元からたなびく様に燃え盛っていて、まるでマフラーである。
 そんなあほみたいな変身シーンを間近で見たミルは、それが覚醒変化だと理解するのに数秒を要した。
「な、何かね、その姿は‥‥」
「うーん、俺もなんでこの姿になるのか良く分からねーんだよなあ。
 過去数回に渡って、覚醒状態が変わってきたんだよ、俺。ま〜なんつーか、ノリと勢いと覚悟が高まると姿が変わる感じだな!
 とにかくだ、夜の闇を裂いて、正義のヒーロー颯爽登場! 色味も赤いし、これが俺のサンタコスだ!」
 いまさらながらにサンタコスを自由にしたことを悔やむ狸。
 ――しかし、真打はまだ潜んでいた。
「またせたのう!」
 ズシャリ。
 全身紅いフル甲冑が姿を表す。くぐもっているが、声と口調と身長で美具だとかろうじてわかった。
 だが――あまりにもサンタと離れすぎている。メタルヒーローと言えばそれっぽいが。
「それは無いだろ、美具よ!」
「何を言う、こうすれば‥‥どうじゃ!」
 ぺたりと顎に綿で作った付け髭を張り付ける――もはやミルはツッコむのをやめ、琉に口パクで何かを訴えると、琉の口は及・第・点と形作る。
(及第点レベルがこんな甲冑に袋担いで‥‥いや、もういいや)
 ツッコむ気力もそがれ、完全に投げやりになった彼女は、珍妙な集団を引き連れ船に乗り込むのであった――狸姿も珍妙だとは気づかずに。

「へい、がんほーがんほー! ごーごー!」
 夜の海、正統派なサンタコスチュームの琉が波に乗り、その後を昼寝、彩が続く。
 琉と昼寝はお互いに熱くなって、月夜をバックにエアリアルを決めたり、ターンを決めたりとセッションしているが、それでもさすがの安定感である。
 そして無難な零奈に長郎と続き、熱き男・ブラスターゼオン、熱き白褌・権兵衛が次々と波に乗っていく。
 そして残るは狸と甲冑。
「美具、大丈夫かね」
「平気じゃよ、見ておれ」
 そう言うと彼女はボードに腹ばいになり、パドリング。そしてなんとかテイクオフ。波に乗ってどうじゃーと叫んで闇に消えたかと思うと、どっぼぉぉんと派手な音と水飛沫。
 もはやどうなったか、確認するまでもなかった。
「まあ、きっと無事帰ってくるのだろう」
 そう言うと船を発進させ、ミルはどこぞの緑色の幻獣の如く、タヌキスーツのままウェイクボードで陸を目指すのであった。

「紅蓮騎士、ブラスターゼオン見・参!!」
「見よ、此れが覚醒というものだ!」
 炎のヒーローと熱くはない炎のオーラが吹き荒れる権兵衛が砂浜に到着すると、意外な事に子供達にはポイント高かった。
 もっとも、おもしれーとかそんな言葉ばかりしか聞こえないが。
「子供達よ、聖なる夜の素晴らしい贈り物をあげよう」
 吹き荒れる炎のオーラをまとった褌姿の男――貝殻を投げつけられるには十分な出で立ちである。
 それでもある程度すると子供達も慣れたのか、彼からのプレゼントも素直に受け取るのであった。
 ミルからの配布する様にと言われたプレゼントの他に、子供達のシャツなどにサインを入れていく昼寝。意外と達筆だ。
 いらないと言う子供がいてもお構いなし。
「ほらほら、子どもが余計な遠慮なんてしちゃダメよ。絶対に価値が出るわよ」
 根拠もないのかもしれないが自信満々で言われては、何も言い返せなくなる。
 あとはサバイバル教本を配布している長郎がいるくらいで、各自、ミルの用意した物を配布していく。
「メリークリスマス♪ プレゼントもってきたよん♪」
 一番愛嬌がいいのは零奈かもしれない。めいっぱい陽気にふるまっている――ビキニ姿というのもあれだが。
「うむうむ、配布は普通のようで何よりだ――脱皮!」
 ファスナーをおろし、タヌキスーツを脱ぎ捨てると、中からはトナカイスーツのミルが。2枚重ねでウェイクボードをこなしたあたり、けっこうなものである。
 こんな和気あいあいとした中、突如、海から姿を現す某怪獣映画のBGMがどこからともなく流れてくる。
 そしてゆっくり、ゆっくりと海中から紅い甲冑が姿を現す。その姿に怯え、泣き出す子供もいるほど、インパクトが強すぎるものであった。
「いい加減、脱げ!」
 ツッコミをいれて貝殻を拾いなげつけたミルだが、BGMの音源に目を向けてギョッとする。
 茶色いスーツでスポーティーな銀髪の涼しい顔をした男、ラインであった。
「何をしてるのかね、ライン」
「いえ、何となく。直感がそう告げたもので」
 貝殻を投げつけるが、ヒョイッとかわす。
「仕事を頼んでいたはずだろうが! とっとと行け!」
「やれやれ、私はミル嬢の部下ではないんですがねぇ」
 古い型のラジカセを砂浜におろし、夜の闇に消えていくのであった。
 肩で息をしているミルの前に、彩がきれいに畳んである浴衣に、草履や髪飾り、簪などが乗っているそれを差し出す。
「ミルさんにプレゼントー、なんだよ!」
 人へのプレゼントばかりで、自分がもらえると思っていなかったミルは目をぱちくりさせる。
「冬物の服がいいかなー、って思ったんだけどオーストラリアは夏だしー、だったら日本の浴衣とかどうかなーって。
 へ、変かなー? あはは、私あんまりセンスよくないからー、で、でもでも頑張って考えてみたんだよっ」
 頭をかきながら照れた笑みを浮かべる。
「もし良かったら受け取って貰えると嬉しいんだよ〜。メリークリスマス!」
 受け取り、しばらく呆けていたミル――ハッとして浴衣を抱きしめると、ちょいちょいと蹄で彩を手招きする。
 顔を近づけた彩に、ほんの一瞬キスをする。いつものような頬にではなく、唇に。
「うえー!?」
 唇を押さえ、真っ赤になって明らかに動揺している彩に、感謝の気持ちだとミルは優しく微笑みかける。
 彩はうーと唸りながらも、ぽんと手を叩いた。
「‥‥あ、そうだー、もし着る時にわからない事があったら言ってねー、着付け手伝うよ!」
「そいつはいいのう。美具が着替えるついでに、ミルも着替えようではないか」
 たっぷり海水にまみれた甲冑(後でお手入れに泣きを見る)の美具は2人の間に割って入り、ミルの手を取ってずんずんと行ってしまった。彩ももちろん、それについていく。
 着替えに行ったミル達を目で追い、シスターに目を向ける長郎。
「パーティ出席の際には、僕と共にの浴衣姿はどうかね」
「ゆかた? 着かたがわからないけども」
「何、この程度の着付けぐらいならば、男女共に心得てるので心配は無用だね」
 自分が着せてあげるよ――そうとしかとれない言葉に、シスターは少しの間悶え、お願いしますと、しおらしく長郎の耳元で囁いた。
 そんな彼女の態度が心底楽しいのか、笑みを作るとエスコートして更衣室へと2人して向かうのであった。
 プレゼントの配布が終わると、あとはこれまでと違って普通のパーティーが開催される。
 それこそシャンパンやチキンがあったりと、普通のクリスマスディナーである。
「これ、あたしからのプレゼント♪ 気に入ってくれると嬉しいんだけどね?」
 個人的に用意していたプレゼントを、零奈は海に渡す――彼女にしては珍しく、自ら見立てた服であった。
 意外な人からのプレゼントに目を丸くし、ありがとうございますと微笑んだ海は、ちょいちょいと手招きし、零奈をかがませると、その耳元でこそっと囁いた。
「頑張ってください、未来のお母さん」
 パッと離れると、子供達の輪の中に戻っていく――気難しい子供達のはずだが、それでもすでに打ち解けているあたりさすがであった。
 ぽりっと熱くなっている頬をかいて、ちろっと想い人に目を向ける。手ごわい手ごわい、朴念仁に。
(一応、考えちゃいるけどさ‥‥)
 赤いリボンを握りしめ悩んでいると、ぞろぞろと着替えた集団が戻ってくる。
 紺地に花火が描かれた浴衣姿のミルに普段着の美具と彩、白地に扇状の青い波の模様が描かれた浴衣姿の長郎、シスターもおそろいである。
 ほくほくと上機嫌そうなミルに零奈は近寄り、ものは相談ともちかける。
「ちょこっとボーナスって事でさ、お嬢。師匠と2人きりになれる場所とかって、ないかなぁ」
「2人きりねぇ‥‥ああ、そうだ」
 浴衣になっても離さないポーチから2枚のカードキーを取り出すと、目で後ろのやや大きめのホテルを示す。
「あそこのホテルに私はいるわけでね。最近物騒なようだからと、貸し切ってるのだ」
「あいかわらず豪勢だねぇ‥‥」
「何、防衛策さ――でだ、私は1階で寝泊まりするからいいと言ってるのに、最上階のスウィートの鍵も渡されてね。よかったら1枚――」
 言い終わらぬうちにカードキーを1枚もぎとられ、ありがとと感謝の言葉もそこそこに零奈は駆け出すのであった。
 残された1枚――それを後ろから伸びてきた手が持っていってしまう。
「あたしも、使わして貰っていいかしらね」
「‥‥自由にしたまえよ、シスター」
 自分のまわりが随分浮かれている気配を感じつつ、ミルは横に立つ美具と彩を交互に見やると、いつもと少し違った笑みがこぼれる。
「どうかしたかや?」
「どうかしたー、ミルさん」
 不思議そうに首をかしげる2人に、なんでもないさと返して間に飛びこんで、腕を回して頭を引き寄せ叫んだ。
「さあヤローども、宴の時間だ!」

 ぶらっといつの間にかパーティー会場から抜け出していた、長郎とシスター。手をつなぎ、寄り添うように歩いていた。
「おっと、これが僕からのプレゼントだ。受け取ってくれるかね?」
 綺麗にラッピングされ、包装された袋をシスターの顔の前に差し出す。受け取ったシスターがすぐに中を確認すると、カジュアルジャケット、キャミソール、スキニーパンツの一式であった。
「似合うとは思うのだがね。サイズもピッタリのはずだしね」
 ありがとうと言い、ギュッと大事そうに袋を抱きしめる彼女を抱きとめる。
「何れは期待しても良いので、それまではお互いに精進かね」
「期待、ね‥‥ところで、さ。あそこにスウィートの鍵があるんだけど‥‥」
 その先は言わずもがな。歓迎さと再び2人は手をつないで歩きだし、ホテルへと向かうのであった。
 最上階にたどり着きエレベーターが開くと、すぐ横のもうひとつのエレベーターから出てきた零奈と鉢合わせる。
 ほんの少し気まずいと言うか、気難しいと言うか――微妙な空気が漂った感じもしたが、そこは長郎がエスコートし、スウィートに2人、消えていった。
「‥‥あたしも、がんばろ」
 空いてる方のスウィートに入って、自分の右手首に赤いリボンを結え、それをじっと睨み付けたかと思うと、へにょっと顔を赤くして照れる。
(あたし自身がプレゼント‥‥なんてね)
 と、誰かが扉をノックする――オートロック防止にドアガードを挟んであるので、鍵はかかっていない。
「どーぞ」
 わざわざベッドの端に腰掛け、高まる動機を押さえながらも平静を装ってみせる。
「これはやめておくべきだろう」
 ドアガードを元に戻し、中に入ってきた琉。バタンと背後で扉が閉まり、ロックされる。
「ん‥‥来てくれてありがとね♪ それでね‥‥師匠にプレゼントあるんだけど――受け取ってくれるかな?」
 平静を装っているつもりだが、頬が熱く、鼓動が早鐘のように騒がしい。
「‥‥俺の方は何も用意して無くて申し訳ないが――喜んで受け取ろう」
 何も用意していない――そう言いつつもポケットの中に、小さい箱が。
(これは――本当に全てが終わってからだな)
 そんな彼の前に、零奈は右手を差し出した――そう、赤いリボンを結えてある右をだ。
 ドキドキしつつ、彼のリアクションを待つ零奈。
「ふむ?」
 実に予想通りに、琉はその手を取って首をかしげる。
「あーもう! あたしがプレゼントってこと! 一緒に夜を過ごしたいってコトだよぅ!」
 もはやなりふり構わず大声で叫んでしまってから、俯いてしまう。恥ずかしくて、少し涙が滲んできた。
 やっと理解した朴念仁。
 左手で右手を掴んだまま、空いてる右で零奈の顔を上げさせると唇を重ね、そしてそのまま――‥‥。

「上では上手くいってるんだろうなぁ‥‥」
 1階のこじんまりした部屋にしては随分大きなベッドで寝そべっているミルが、やや半泣きで呟いた。
 パーティーも終わり、夜も遊び倒すつもりの昼寝。ドライブがなぜかそれに混じっている。
 2次会よろしく砂浜のステージで、子供達を前にアニソンロックを熱唱しつづけている権兵衛。いなくなったと思ったラインが彼の隣で、スチールギター片手に熱くセッションしている。大迷惑だが。
 夜は恋人たちの時間だぜと帰っていった紫狼。通報されなければいいが‥‥。
 プレゼントされた浴衣は脱いで掛けており、ワンサイズほど大きいワイシャツのみを着ているミルである。
「なにがー?」
 同じベッドに座って、お菓子を広げている彩が尋ねるが、何でもないさと行って体を起こす――実は着ているのは彩のシャツだったりする。
 パジャマが無いと言ったら、予備のシャツを貸してくれたのだ。
「おっと静かにするのじゃよ、海殿がもう寝てしまっておる」
 彩の真向かいに座っている美具が、寝息を立てている海の頭を撫でていた――彼女も今回はミルに合わせてなのか、ネグリジェではなくいつものフリルをあしらったシャツのみである。
(蒼1人連れてかれると、この子1人になってしまうものな――津崎はもしもの事があったら娘は1人にしないでほしいさと言っていたが、蒼はどうするのかねぇ‥‥)
 1人になる――そんな事を考えると、悲しくなってくる。昔はそうでもなかったが、ここ最近は胸が締め付けられるほど寂しいと感じる様になってきてしまった。
 ふと2人の視線を感じてうつむきかけた顔を上げると、心配そうな表情を浮かべていた。そんな彼女達の心遣いが嬉しくて、顔をほころばせる。
「大丈夫、心配しないでくれたまえ――」
 そして言ってしまいたい言葉が口から出た。
「愛しているよ、2人とも。家族愛の延長線上かもしれんがね――これからもずっと側にいてくれたまえよ」
 突然の不意打ちに、2人は顔を赤くして、お互いの顔を見合わせる。そんな彼女達の反応が愉快で、愛おしい。
「ふふーん、メリークリスマス!」

『【聖夜】波乗りサンタ 終』