タイトル:【RR】キルギス雪上戦マスター:楠原 日野

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/12/25 08:09

●オープニング本文



 一枚の紙切れに目を通している、UPCの制服に身を包んだ黒髪の女性。眉根を寄せ、端正な顔立ちがだんだんと険しくなっていく。
 紙に書かれている内容は――キルギス、ビシュケク偵察――それだけであった。
「いくらなんでも、端的で適当すぎでしょ‥‥」
 几帳面な彼女は紙切れ相手にツッコんでしまう。
 大きく息を吸って、吐き出す――刀の鍔がカチャリと鳴る。
「まあ信頼されていると言う事なんでしょうけどね‥‥」
 信頼されるだけの実績は積んできた――自分の仕事はあまり表立ってはいないが、それでも信頼されるようならば満足である。
 くしゃりと紙を握りつぶし、自室のトイレに投げ捨てる。紙は繊維がほどけ、水に溶けてキレイさっぱりとなくなってしまった。
(察するに、今のロシア攻勢のための敵戦力把握の一環と言ったところかしら。私に話が回ってくるって事は、どちらかといえばこれは裏方‥‥陽動の意味合いも含めているのかもしれないわね)
 脚にすり寄り、わふっとあくびのようなものをする愛らしい同居人をひと撫で。
「またしばらく、留守番しててもらうわねメシア」
 動物に話しかける自分に、時期的な影響もあるのか、少し寂しさを覚えた彼女はメシアを抱きしめ、目を閉じる。
(この時期のあそこは、豪雪で普通の車両ではダメ――かと言って、偵察任務でいきなりKVや高速移動艇で直接行くなんて無謀極まりないし、それこそ偵察どころじゃなく、戦闘が始まってしまう――敵戦力が不明なうちにそれだけは避けたいわね‥‥あ)
 目をうっすらと開く。
 ふと昔、スキーをしに行った時(私とて遊ぶ時もある)、使ってみたいと思った乗り物があったのを思い出す。
「あれ、使えるか確認してみよう――キメラ情報なども調べておかないとね」
 そして彼女、冴木 玲(gz0010)は立ち上がるのであった。

●ブリーフィングルーム
 呼び寄せた数人の傭兵の前で、玲は壇上に立つと、静かに説明を始めた。
「今回の任務は単独では無理と判断して、皆に来てもらいました。任務はとても単純で、キルギスの首都、ビシュケクへの偵察任務――恐らくそこには基地があると思われるので、そこの敵戦力調査と言う事になると思うわ」
 スクリーンにキルギス地図を映し出し、ビシュケクから東へ50キロほどの位置にあるトクマクを指さす。
「昼一、高速移動艇でここに降ろしてもらい、カントを経由してビシュケクへ向います。カント経由をするのは、この廃墟となった市街地区で、追手となるキメラを足止めしてもらいたいのよ」
 ビシュケク周囲20キロより外の地域が赤く染まり、トマトクの手前まで続いている。そしてキメラの映像が出る。
 白銀の毛をした、狼であった。
「この色の付いた地域に、このキメラが徘徊、生息しているらしく、カントを乗り切れば極端に遭遇率は減るみたいなのよ。もちろん、減るだけであって、いない事はないんでしょうけど‥‥ともかく、皆にはこの市街地で追手の足止め、殲滅してもらい、数人は私と共にビシュケク近郊まで来てもらいたいの。
 結構手ごわいキメラで、足がかなり速く群れを成して行動するから、足止め役の負担はちょっと大きいかもしれないけど――信頼してるわ。今まで生き残ってきた仲間のあたな達をね」
 パッと画面が変わる。そこに映し出されたのは、スノーモービルであった。
「今回使用する乗り物はこれ、スノーモービルよ。ハンドルガードにハンドルウォーマー付、時速は最高で150まで。1人乗りで、燃料的には往復できるくらい十分にあるわ」
 あまり馴染のない乗り物の説明に、玲は熱心であった。几帳面な彼女の事、作戦に使用するのだからと事細かに調べたのであろう。
「ハンドルの片方に、アクセルとブレーキがまとまってるわ。片手だけど、武器が扱えるって事ね。変速は無くて、アクセルの開け方次第で雪の粉じんを飛ばしたり、アクセルターンもどきができたりと、なかなか多彩な芸はできそう。
 そうそう、安定性がすごくて、垂直の壁を登ったり、カーブで壁を走ったりとかもできるみたいよ。失敗すれば横転するけどね」
 肩をすくめ、苦笑する玲。経験済みなのかもしれない。
「あと気を付けたいのは、顔とかは吹きさらしでゴーグルとかそういうのがないと、目を開けてるのがきついわね。しかも今回、雪が降っている時を見計らっていくから、目に雪が入って痛いと思うわ。ブレーキ性能もすごく良すぎるから反動もきついし、アクセルを緩めた時の減速率もすごいから気を付けて。他、各自でも学んでおいてほしい所ね」
 モービルの映像を消すと、市街の地図が現れる。
「カントの映像。見ての通り碁盤の目状の商業地区を中心に、外に住宅地という作りね。ここで私と数名は撒いて、数名はここで足止めと退治と言う事になるわ――と、今日はもう時間がないからこれまでにしておくわ。何か質問があったら気兼ねなく聞いて頂戴――じゃ、頼りにしてるわよ、皆」

●参加者一覧

アンジェラ・D.S.(gb3967
39歳・♀・JG
アーシュ・オブライエン(gb5460
21歳・♀・FC
クレミア・ストレイカー(gb7450
27歳・♀・JG
神楽 菖蒲(gb8448
26歳・♀・AA
湊 獅子鷹(gc0233
17歳・♂・AA
那月 ケイ(gc4469
24歳・♂・GD

●リプレイ本文

●トクマク
「コールサイン『Dame Angel』。スノーモービル用いた偵察任務に従事し、途中における障害排除にも務めるわよ」
 別の高速移動艇から降りてきた依頼主である冴木 玲(gz0010)に、傭兵達は軽いあいさつで済ませ、各自のやる事をしに行った中、敬礼で出迎えるアンジェラ・D.S.(gb3967)。
 そんな彼女の後ろから、口元に手を当ててひょっこり顔をだした神楽 菖蒲(gb8448)が真顔で玲に問いかける。
「で? 種籾奪って来いって?」
 苦笑いを浮かべ玲が首を横に振ると、違う? あ、そと、そっけない言葉を残し、行ってしまった。
 だがそんな彼女の前にすっと立つ、鋭利な刃の様な印象を与える無表情な女性。女性は目を合わせ、手を下向きに差し出す。
「‥‥思えば、菖蒲様と共に戦うのはこれが初めてですか。宜しくお願いします」
「うん。信頼してるわ、アーシュ」
 アーシュ・オブライエン(gb5460)の目を見て、手を軽く握り返す菖蒲であった。
「‥‥ところで、冴木様。ルートの確認等の事前確認、よろしいでしょうか。あと、できれば時間があればですが、操縦に慣れておきたいのですが」
「了解よ。時間も不明瞭だけど、まだあるわ。予報ではあと1時間もすれば、吹雪くらしいからね――各自にあわせたモービルはこっちよ」
 玲の案内で搬入中のスノーモービルのもとへと行くと、湊 獅子鷹(gc0233)が腕の付け根をさすりながらM−183重機関銃を取り付けているところだった。
 すぐ近くではモービルに腰掛け、時折双眼鏡を覗き込みながらクレミア・ストレイカー(gb7450)がベジタブルパスタにレッドカレーをかけた物を頬張っている。
「思ったよりは暖かいけど、やっぱ寒いわね‥‥」
「そうですね――俺も何か甘い物でも持ってくればよかったな」
 美味そうに見えたのか、那月 ケイ(gc4469)がぼやくと、アーシュは板チョコを差し出していた。
「‥‥こんなものですが、どうぞ、那月様。あれほどまでに美味しいモノとはいきませんが」
 無表情ながらもその視線は、クレミアのカレーパスタに釘付けであったりする。
「お、ありがとうございます」
 包み紙を剥ぎ取り、パキっと欠片を口に放り込む。
 そんな、作戦を前にしてリラックスしている仲間達に頼もしさを覚えた、玲であった――。

●雪上
 モービルが雪のこぶで大きくジャンプ――着地後、巧みなアクセルワークでスムーズに速度を落とす事無く走り続ける菖蒲のモービル。
「へー‥‥面白い玩具ねこれ。ヒャッハーとか言った方がいい?」
「ひゃ、ひゃっはー‥‥?」
 ヒャッハーという言葉そのものは謎のようだが、面白いという点に同意だったのか、やや困惑気味にアーシュが呟いていた。
 無線を取出し、陽動の為に前方を走る陽動班にアンジェラが呼びかける。
「キメラは見える? クレミア殿」
 ゴーグルを着用し吹雪による視界不良と雪上面の様子に気を配りながら走っていたクレミアが、左右前方に目を凝らしてから頭を振る。
「うーん、こっちはまだ出没していないわね。で、そちらはどうかしら?」
「こちらもだ。後方から追い立てるモノはいないわ」
 偵察班である玲とアンジェラは並走し、タクティカルゴーグルに外套姿のケイは、アクセルの加減速やブレーキの効き具合を確かめていて、少しだけ遅れている。
 やがて満足したのか加速し、2人と並走すると楽しそうに口を開く。
「初めて乗るけど、これはなかなか面白いな」
 彼も雪上をキビキビ走るスノーモービルを気に入ったようである――が、そんな中、1人だけ浮かない顔をしていた。
 獅子鷹であった。
 しきりに肩をさする彼に、玲は声をかける。
「大丈夫?」
「いくら防寒処理しても、スノーモービルに乗ってると義手が冷えてさ、繋ぎ目がすっげー痛い、いやー体感温度って本当に辛いもんですね〜」
 珍しく敬語っぽいような口調で、彼は応じる――そこに。
「各位、警戒せよ!」
 アンジェラの鋭い声。一斉に皆、迷うことなく覚醒。
 金色の瞳をしたケイが身体を傾け、減速させる事無くハンドルを目いっぱい切ってアクセルオフ、同時にブレーキをかける。
 ザザザザザッ!
 凄まじい勢いでモービルのリヤが滑り、最小半径で180度旋回。ブレーキ解除にアクセルオンで綺麗に真後ろヘ方向転換、ケイが身を屈めたままカミツレを縦に振り下ろす。
 バッと雪が赤く染まる――否、白い狼が腹を裂かれ脚から着地せずに雪を染めながら転げまわっていった。
「巧くいった――!」
 再び急旋回で隊列に戻るケイ。
 今の操縦にアーシュは無表情ながらも、ハンドルを握る手に力を籠めていた。
「そろそろお出ましするって事ね――アーシュ、冷えてな‥‥いわね」
「‥‥はい。むしろ高揚していますが」
 完全装備だからというのもあるが、それ以上に内側から熱くなっているのがわかる。
「見えにくいったら、ありゃしない――散開する気ね。そうはさせないわよ」
 少し突出したクレミアが急速に方向転換、同時に発砲。樹木に当たって弾かれた弾が、白い視界の中、血ではない赤色で染まる。続けざまに発砲を繰り返し、前方に6つ、赤い目印が施された。
 クレミアと反対の位置から獅子鷹が右目から黒い闘気を溢れさせ、機関銃で弾幕を張りながら前へ前へと加速する。
「こんなもん乗ってたら、当たらんか」
 すれ違いざま獅子牡丹で首を斬り落し、刃の届く範囲にいたもう1匹に一太刀――と思ったが、上手い事横に跳んでかわされる。
 渋い顔をして、覚醒したため痛みは感じない義手の付け根に、頬を当てる。かなり冷たい。
「加速すれば右腕の付け根から部品が冷える、かと言って速度を落とせば、囲まれる――。ああ、一気に蹴散らしてえとこだが、すばしっこいったらありゃしねえ」
「当てるように撃つんじゃなく、当たるように撃つの」
 目印がこちらに向かって来る中、散開し、横にまわった銀メッシュ入の赤い髪をした菖蒲が牙をかみ合わせた狼の鼻面にラグエルを押し当て、引き金を引く。赤く染まって動かなくなる。
 その菖蒲の逆サイドから別の狼が跳びかかる――が、フルブレーキングでハンドルを切り、車体を回転させその勢いのまま靴につけたイキシアで鼻面というよりは首を斬りつけるように蹴りつけた。
 骨の砕ける感触。
「何発情してんの」
 捨て台詞を残し車体をそのまま一回転させ、何事もなかったように走り去る。
 菖蒲の前方から向かってくる狼の群れを蒼銀の髪のアーシュがなかなか当たらないがターミネーターで掃射して足止めし、撃ち漏らした狼がアーシュに跳びかかるが、イアリスに持ち替えていた彼女によって一突きで屠られる。
 狼の死骸を血飛沫ごと振り払うように投げ捨て、わずかに口元を緩めた。
「‥‥これはまるで、中世の騎兵のようですね」
「だって私、騎士だもの――アンジェラ、後ろは大丈夫?」

「こちら『Dame Angel』、無事よ。さすがの冴木殿というところでもあるわ」
 無線で菖蒲にそう返しながら、玲に目を向けている。
 玲はアクセルとハンドルを握って片手で車体をまっすぐに走らせたまま、座席シートの上に片膝をついてしゃがみ、膝を支点に身体を捻り、跳びかかる狼を刀で両断していた。
「結構当たらないないもんですね」
 ぼやくケイ。シエルクラインで近づかせる前にとやりたいところだが、どうにもステップでかわされてしまう。これではペイント弾を当てるどころでは、ない。
 だが時折、ステップした先で撃ち貫かれ絶命している――アンジェラが隙を見て、ライフルで撃ち抜いているのだ。抜け目がないとは、この事である。
「もうしばらくの辛抱よ‥‥見えてきた。陽動班、宜しく頼むわ」

●カント市街地
「おらよ、死んどけ」
 アクセルを余計にふかし、惹きつける様に先行した獅子鷹が、身を屈めて真正面から跳びかかってきた狼の腹下に潜りこみ、獅子牡丹で突きあげ引き裂く。
 だが狼に意識が向きすぎたのか、目の前に壁が迫っていた――が、ハンドルを切り刀を地面に突き立て、かなり強引に軌道を変更させて曲がってみせた。
「あっぶねぇ‥‥やりづれえなあ。これ早く終わらせて、風呂にでも入りたいもんだ」
 ぼやいていても、敵は次から次にやってくる。
 溜め息をつきながらも、彼は走らせるのであった――。

 アーシュが狼の群れの前で急旋回して、雪の粉じんで視界を覆い尽くしターミネーターで動きを止めさせると、吹き溜まりなのか、そこに車があるのかわからないが雪山を駆け上がり、屋根の上からペイントも付着して丸見えの狼達を確実に仕留める菖蒲。
 上から跳びかかってきた1匹をブレーキングでやり過ごし、急加速ですれ違いざまに斬り伏せるアーシュ。
「‥‥良いマシンです。こんな場所でも思い通りに動いてくれる」
 上から菖蒲が降ってきて、着地――すぐさま壁に向かって走り、壁伝いに走ったかと思うとアーシュを中心に回転させるよう宙を飛ぶ。
 粉塵からアーシュめがけ跳びだそうとしていた狼の鼻面にモービルのベルトをぶつけ、ついでにイキシアで蹴りつけて一回転させる。さすがに倒せはしなかったが、狼はへたり込んですぐに動けそうにない。
「やってみるもんだわね」
 その横を玲、ケイ、アンジェラ、それと後ろに向かって牽制しながらクレミアが通り過ぎる。
 正面、道の角にいた狼にケイが肉薄。
 クレミアが援護し当てやすい距離で四肢を狙い動きを止めると、イチかバチか‥‥! と、減速せずに壁に突っ込んで壁を走ると、玲達もそれにならって壁を駆け抜けていく。
 抜いた後、追撃をかけようとした狼。
「クレミア殿、ここを閉じるわ」
「了解、キメラ封じ込め開始と‥‥」
 2人は停車させ構えて後ろを振り返ると、ありったけの弾で狼達の足を止めさせ、警戒させた隙に玲達はアクセルを全開にする。
「後は頼みます!」
 ケイに託され、菖蒲とアーシュ、それに弾数の違いもあってクレミアが残り、アンジェラは玲の後を追うのであった。「あなたも行っていいわよ。こいつら全部引き連れて、ちょっと南の方に行ってくるから」
 菖蒲は言うが早いか、加速させ、狼を引き連れ郊外へと向かうのであった。
 その後ろを蒼銀が追いかけていく――。

「見事な足止めに、派手な誘いのおかげで、ほとんど出くわせずにここまでこれたわね‥‥」
 先頭を走る玲。カントを過ぎてここに来るまでに白銀の狼キメラに出会ったのは、わずか数匹で、追撃をかけてくる狼がまるっきりいなかった事が大きく影響していた。
 遠目にビシュケクの影が見え始めると、いったん停車。ケイと少し遅れてアンジェラも停車する。
「ここまでの護衛ありがとう。私は調査を開始するから、少し休むと良いわ」
 玲の提案に、ケイとアンジェラは顔を見合わせ、ケイが首を横に振った。
「手伝いますよ。多人数で調べた方が気付けることも多いだろうし」
「そういうことよ――こちら『Dame Angel』、目的地到着。これより任務を開始するわ」
 アンジェラは無線で状況を報告し、返事も待たずに2人は散開。
 玲はありがたいわねと洩らし、調査を開始するのであった。

 雪上を高速で走る、2台のモービル。その後ろを複数の狼達が追かける。
 そのうちの1台は蒼銀の髪をなびかせどんどん加速し、もう1台と狼達をどんどん引き離し――高速でターン、小さなジャンプを繰り返しながら高速で戻ってきてはターミネーターを撃ちながら狼達の群れに飛び込む。
 散開して孤立した狼を、すれ違いざまにイアリスを突き立てそこを起点に車体の後部を滑らせ方向を変えると、ターミネーターに持ち替えて戻りざまに撃って、近寄ってきた狼達を再び散らす。
 そしてまた並走するのであった。
「‥‥高速を楽しんでるわねぇ。あ、あれだわ」
 目の前に広がるは、草木もなく、綺麗に平らな雪原、そして厳重な柵に塔や建物が複数ある広大な土地であった。
 空軍基地――跡地である。雪の状態から、使用されている形跡などがないのを確認して、そのまま滑走路があるであろう所へ侵入する。アーシュもそれに続き、少しだけ頬を緩ませる。
「‥‥ここならもっと存分に、走れそうですね」

 気配を殺し、ビシュケクの周囲を覆う壁に平行に移動しながら敵戦力を確認するアンジェラ。
(数はわりと多くないけど、かなり訓練はされてるわね。対地装備は機銃が中心のようだけど、対空はちょっと物騒すぎるわ)
 角に当たる部分にレーダーサイトを確認し、ケイと連絡を取ると、反対の角にもある事を聞く。
(4隅に設置、かしらね‥‥それにしても、規模のわりに見張りが少ない気が‥‥)
 ライフルを構え、ガンレティクルの紋章が狙撃スコープに変化。撃つ気はないが撃ち気を発すると――兵の顔がこちらに向いた。
 すっと気配を殺し、兵の警戒が解けるのを待つ。
(気配に敏感ね。視界が悪い分、そこが優れていると言う事なのかしら。思ったよりも近づきにくいかもしれないわ)
 懐の無線機から、撤収の言葉が流れ、静かにその場を後にするアンジェラであった。

(狼はここで創られてるみたいだけど、この周囲に少ないのはあいつらの気配察知の邪魔になるから、かな)
 壁に開いている穴から、キメラが出てきては西へ一直線に走り去っていくのを確認し、推測するケイ。
(門は見当たらないけど、まああの高さならモービルで上手く飛びこめるかもしれない。いざとなったらあの穴からか) こちらでも撤収の言葉を聞き、撤収を開始する。

「援護、ありがとさんっと」
 クレミアの援護射撃に合わせ、突撃しては狼を次々に切り捨てていく獅子鷹――そこに、アンジェラの偵察完了の言葉が流れてきた。
「やっと帰れるのか‥‥」
 義手をさすり彼はぼやき、クレミアと共にカントを後にするのであった――。

「時間だ」
 照明弾を打ち上げると、熱中して無線に気付いていなかったアーシュが撤退を開始する。
 それをしっかり見届けてから、菖蒲も全速で後退を開始するのであった――。

●トクマク
「今回は助かったわ、みんなありがとう」
 玲が頭を下げ、情報を整理したアンジェラはそれを渡すと一歩下がって敬礼し、高速艇に乗り込む。
 獅子鷹はとっくに乗り込んでいて、クレミアはコーヒーを飲みながら、まだモービルで遊んでいるアーシュを眺めていた。
 眺めているのはクレミアだけでなく、菖蒲もである。
「ま、また呼んで下さいよ‥‥まあ、次回も来れるかわかりませんけど」
 にっと笑って、ケイも高速艇に乗り込むのであった。

 かくして、ビシュケクの偵察任務は無事に終わりを告げる――もちろん、まだ偵察が終わっただけであるが――。

『【RR】キルギス雪上戦 終』