タイトル:【海】不穏な海マスター:楠原 日野

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/12/04 07:37

●オープニング本文


●オーストラリア近海
 一隻の輸送船が炎上し、天に船首を向け沈んでいく――。
 その船から様々な物、人が海に投げ出され渦に巻き込まれていく様を、海上から眺めている者達がいた。
 海面に上半身を浮かせた純白のゴーレムの掌に立っている、金髪で短い髪の少女――いや、少年かもしれない――そんな顔立ちの人物が沈みゆく船を冷ややかな瞳で、見つめているのであった。
 その人物の周りに、多数のKVが同じように浮かんでいる。
「‥‥今回は?」
「はッ、アルバトロス3機クラーケン1機です。もう少しで、全員分がそろうかと思われます」
 彼、彼女は、涼しい顔で報告に耳を傾ける。
「そう‥‥プラントへ撤収。先に行ってて下さい」
 手を上げ、拳を開いて降ろすと、一斉に様々なKV達は海へと沈んでいった。
 残された彼、彼女はゴーレムに乗り込み、コックピットのシートに腰を下ろすと――おもむろに操縦桿に額を打ち付ける。
 何度も、何度も。既に赤黒く染まっている操縦桿を鮮血で染め上げ、コンソールにも叩きつけ、ギリッと歯ぎしりをしてやっと動きを止めた。
「星に戻れとか、冗談じゃない。星に戻れとか、冗談じゃない。星に戻れとか、冗談じゃない。星に戻れとか、冗談じゃない。星に戻れとか――」
 ブツブツと何度も同じ言葉を繰り返す。
 バグアにとって、上位者からの命令に従うのは本能のようなもの。それに逆らい続ける事は容易ではなく、その行きつく先がこの姿であった――不安定、自暴自棄。そんな言葉がぴったりである。
「凪姉様だけ。凪姉様だけ。凪姉様だけ‥‥あいつらを、殺すんだ。殺す、コロス、殺ス、コロす、ころす‥‥」
 ふっと天を見上げ――額の血をぬぐい、操縦かんを握って自身もプラントへと向かうのであった。
 ――それが現在の、リリー、いや、リリメリ・メイスーンの選んだ道である。

●オーストラリア・カルンバ
 頭を抱え、身体を捻じって悶絶しているミル・バーウェン(gz0475)。
 目の前のスポーティーな髪型の銀髪の男は、似合わない茶系のスーツ姿で、そんな彼女の奇行に平然と報告を続ける。
「今回の撃沈により、本社の方はこちらにしばらく船を出さないと決めましたから、宜しくお願いします」
「それは困るよライン。ここはまだ自立できるほどの復興はできておらんのだぞ? なんとかしてくれ!」
 ジャケットの裾を引っ張って懇願するミルを前に、ラインと呼ばれた男は表情一つ変えずに、ジャケットを上に引っ張ってミルの手を振りほどく。
「私の名前はラインではないといつも言ってるでしょう。それと、私に言われても困ります。言うならば、直接お父上に言ってください――あの方ならあなたが一言会いたいから来いと言えばどれほど多忙でも飛んでくるでしょう――困った事ですが」
 困ったと言うほど表情は困っていないが、彼の声色がその事の重さを伝えてくれる。
 眉根を寄せ、がっくりと肩も落してあからさまに嫌そうな顔をするミル。
「親父殿には会いたくないのだよ。結婚話にはうんざりなんだ‥‥伝えといてくれ」
 実の父親への冷たい態度に、ずっと無表情だったラインは初めて微かに口元を吊り上げ、わかりましたと頷く。
 ふふーんと笑ったミルは身体全体で大きく息を吐きだし、胸をそらすように顔を正面に向きなおすと、腕を組む。
「さて、どうしたものかな――少し仕事が増えるが、自分で手配して自分の船で持ってくるほかないとしてだ」
 最近慌ただしく動いている、軍の支部に目を向ける。
「何やら不穏な海の気配だね。軍の連中も海のルートを変更したと聞くわけだが、どうにも私と同じ目にあったと言う事なのだろうな」
「ですね。ここ最近はこの付近の海は決して安全ではない、それが本社の見解ですから」
「つまりは再び襲われる可能性が、非常に高いと言う事だね」
 そういう事ですと、ラインが頷く。
「時期が時期だけに、家畜支援を急ぎたいのだがなぁ‥‥」
「以前、既に支援したのでは?」
「それが、潰して軍の食糧にされてしまったみたいなんだ――まったく‥‥」
 空を見上げるミル。
「空輸と言う手段もあるが、どうしても大量輸送に向かないし――ここはやはり無理を押してでも海にしたいのだが、どうしたものかね。すでに何度か傭兵諸君は、落されているのだろう?」
「はい――まあ格安だからと言ってフリーで動いている傭兵でしたからね。海の経験がなかったり、少なかったりするのばかりでした。何よりも、純白のゴーレムがかなりの手練れらしいですね」
 腰に手を当て、首を傾けて口をへの字に結ぶ。
「海の経験が多く、今現在自由に動けそうな傭兵ねぇ‥‥あ」

●屋久島・民宿海の家
「――というわけでして、オーストラリア行の輸送船の護衛を頼みたいのです――とはいっても、これまでの手口から敵の狙いはKV本体であって、船はついでに潰している感があります。傭兵の機体は持っていかれているのに、船の物資はそのままみたいですからね」
 湯呑をしっかりと両手で包むようにして、茶をすするライン。手土産の羊羹に、さっくりフォークで刻み、口に運ぶ様は実に日本人臭かった。容姿はあれだが。
 ラインの話に、少し表情を曇らせた蒼 琉(gz0496)はお盆を胸の前で抱きしめている津崎 海に視線を送る。
 彼が何を言いたいのか察した海は、にっこりと微笑む。
「つまりは出張に行くんですね、用意しておきますよ」
 お土産なんだろなーとか明るい口調の海は背を向けるのであった。
「いや、そうでなくな――」
「‥‥ちゃんと、うちに帰ってきてくださいね」
 駆け出す海。琉は続けようとした自分の言葉を飲み込み、ラインに視線を戻し、目をまっすぐに見すえる。
「その護衛、引き受けよう」
 純白のゴーレムと聞いてしまっては、行かざるを得ない。
「ありがとうございます。メンバーはそちらで選んでいただいても結構ですので、とにかく謎の襲撃者を解明しつつ船を護って下さいというのが、ミル・バーウェン社長からの伝言です」
「護ってくれたまえよ、じゃないかしらねぇ?」
 扉をくぐり、姿を現す赤髪長身の女性が苦笑しながら片手でラインに会釈する。
「久しぶり、ライン」
「ラインではないと言ってるでしょう、ナイフ――その顔は何かお願いがありますね」
 目を丸くし、肩をすくめるナイフ、ことメイ・ニールセン(gz0477)は、表情を引き締めた。
「ただ働きでいいから、その護衛にあたしも便乗させてもらいたいわね。甲板での戦いもあるかもしれないし」
「それはあるかもしれんが、なぜ君が?」
 琉の問いかけに、顎に手を当てつつ、ポケットの中の手紙をクシャリと握りつぶす。
「お嬢やあんた、海ちゃんや親友への義理立て――と言いたいけど、ちょっとお嬢に呼ばれたのよね」
「なるほど、な――ではよろしく頼む」
 琉の許しを得て、ニッと微笑むメイ。そんな彼女を尻目に、ラインは茶をすすって言葉を飲み込むのであった――。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
威龍(ga3859
24歳・♂・PN
クラーク・エアハルト(ga4961
31歳・♂・JG
美虎(gb4284
10歳・♀・ST
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
蒼 零奈(gc6291
19歳・♀・PN

●リプレイ本文

●輸送船・甲板
「3人3人でのローテーション、そのナカでも4時間ごとに交代で、1人が覚醒状態で待機、他2名は非覚醒で待機という形でどうかな」
 夢守 ルキア(gb9436)の提案に、集まった傭兵達は頷き、賛同する。
「今回は情報収集に護衛任務が中心だからね。デューク君、わかってル?」
「む‥‥それは承知しているね〜。我輩、先に失礼するよ〜」
 真っ先に釘を刺されてしまったドクター・ウェスト(ga0241)、ルキアの前ではどうにも苦手意識が働くのか、今一つ強気になれないせいか、逃げる様に船内へと姿を消す――能力者とあまり一緒にいたくない、というのもあるが。
(頼りにはしてるケド、ね)
「俺はどうする?」
「師匠には輸送船についてもらって、万が一の時の防衛って事でいいんじゃないかな」
 蒼 琉(gz0496)の隣には、刃霧零奈(gc6291)が立っていた。皆には見えないよう、こっそりと琉の服の裾を掴んでいたりする。
「それが妥当でありますね。それにしてもミルさん、まさか敵にも塩を送るつもりじゃないでありますかねー」
 小さくて幼いわりに辛口の美虎(gb4284)は、そんな事を危惧していた。今回の依頼内容が撃退ではなく追い払うだけでもいいという点に、やや困惑しているのである。
「それはないと思うわよ――さて、あたしはKV使う訳じゃないから、この辺で失礼させてもらおうかな」
 片足を引きずったままメイ・ニールセン(gz0477)は、船首に向かう。その後ろ姿を口をとがらせて眺めている零奈。
(お嬢にメイさんを呼び付けた理由を問いただそう)
「それにしても、純白のゴーレム‥‥恐らくあの少年でしょうね」
 クラーク・エアハルト(ga4961)の言葉に、零奈と美虎が頷く。
「十中八九アイツだろうねぇ」
「あの子でありますか、でも容赦はしないでありますよ。凪さんを降しても、まだまだバグアは減らないのであります」
「‥‥本星が消えたとは言え、さすがに残党は根強く残っているか」
 腕を組んで黙っていた威龍(ga3859)が、口を開く。
「まあ、戦争だから一朝一夕で片付くわけでもないし、対処療法に過ぎないが確実に残党狩りをしていくしかないんだろうな。これ以上海を荒らされない為にも、この機会にきちんと補足撃滅できると良いんだがな」
「だねぇ‥‥今回で決着つけれたらいいけど‥‥」
 零奈が海に目を向けると、釣られる様にクラークも海に目を向け、ふと思い浮かんだ。
「近くに基地、BF級がいる可能性もあるか」
「そこは手を打っておくであります。美虎に任せるでありますよ」
 ぶんぶかと自己主張するように両手を振る美虎の頭を撫で、任せましたよと笑うのであった。
「ではそろそろ配置につくとするか――」
 琉の言葉に、威龍、零奈、美虎の3人は自分のKVの暖気をしに向かい、クラークは生身で潜って来て機体強奪も考えられるかと、待機班ではあるが船内ではなく、自分のKVへ。
 ルキアは情報の再確認と言って、琉を捕まえ、情報を聞き出して整理する。
(残っているのはリリー君? わざわざ、純白のカラーリングに海戦特化。しかも、琉君の直感もある――戦力比では厳しいかもしれないケド、どうにかなるね)

「メイさん、あたしが見てるから休みなよ」
「昨日、あんたがそう言って代わってくれたから6時間も休んだし、大丈夫よ――お嬢んとこにいた時は、4日間の寝ずの警戒とかもざらだったしね」
 夜の甲板で苦笑するメイに、頬を膨らませる零奈。お嬢――ミル・バーウェン(gz0475)に対して腹を立てているのだろう。
「あたしよりも刃霧達が頼りなんだから、しっかり休んで――」
 突如険しい表情で立ち上がり、周囲を見回すメイ。琉も船内から飛び出して、ロジーナに乗り込む。
「‥‥ヤバい空気に変わったわ。蒼もこういう勘は鋭いみたいね」
 メイの言葉が言い終わらぬうちに、アラートが鳴り響く。それと同時に、琉とクラークがクレーンによって着水していたのであった。
「凪さんの敵討ち、カルンバ等沿岸地域の拠点襲撃、LH襲撃‥‥色々考えられるな。まずは、護衛を果たしませんとね」
 まだ着水もしていないルキアが輸送船からデータを受け取り、各機に伝達する。
「3時方向に1機のみ――速いな。こちらから出向きますか。蒼さん、ここはお願いしますね」
「了解した。強い流れの海流はないとはいえ、油断しないようにな。クラーク」
 向かってくる機体に向け、まっすぐに向かい――ホールディングミサイルの射程に入ると同時に、クラークは牽制として撃っていた。
 が、敵は避けるでもなくそのまま真っ直ぐに向かい、両断。爆風を背にして突き進む、純白のゴーレムが照らされる。「来たか‥‥」
「お前、あの時のヤツ‥‥!」
 動きを止めた純白のゴーレムを駆る、リリメリ・メイスーン――数度目の対峙であった。
「やはり君か。前の様に相手をさせて貰う――凪さんの仇討が目的か?」
 人型に移行したクラークの問いかけに、リリメリは何も答えずゆっくりと後退していく。
 追撃しそうになったクラークだが、任務を優先し警戒しながらも後退するのであった。
(あの少年との縁も深いモノだ。あの時のケリをつけるのも良いが、任務第一だ)
 ブーストを使い船の元に戻るが、敵機はある程度の距離に来ると動きを止め、こちらが近づくそぶりを見せるとすぐ後退をして、距離を保とうとする。
「ムカツクね〜、小癪にも消耗を狙ってくるのか〜」
「情報収集の時間をもらえた、というだけね」
 この距離でも判別はできるルキアが、敵KVの情報を読み取る。
「‥‥ビーストソウル2機に、アルバトロス2機、ね」
 緊張状態を維持したまま時間が過ぎ――夜明けとともに敵は去っていくのであった。

 KVを引き上げ軽い食事などを済ませてから、クラークは甲板にいるメイに声をかけた。
「メイさん、休憩も必要でしょ? 少し代わりますよ」
「刃霧といい‥‥いいから休みなって。敵が消耗狙いなら、休んでおかないと――」
 つい1時間前に撤退したばかりだというのに、再び襲撃を知らせるアラートが。
「美虎のソナーブイ曳航案は、正解だったかもしんないわねぇ」
 今回は誰よりも先に威龍機が着水。潜行形態で最初の1機を目指すと、やはりゴーレムだった。
「また逃げるつもりか?」
 対潜ミサイルを撃ちこみながら接近しようとするが、魚雷を盾で払い落とし、やはり一定の距離に来ると身をひるがえして去っていく。
 そのまま少し追撃をかけようとしたが、これ以上は護衛任務から逸脱しそうだと判断し、引き返して零奈と美虎の元に戻っていく。
「やはり消耗を狙ってくるのだな」
「ローテーションは正解だったであります――情報集めくらいできるでありますから、無駄でもないのであります」
 ルキア同様に、敵KV情報を読み取る美虎。
「テンタクルス2機、クラーケン2機でありますか」
 そしてまた、緊張状態を維持したまま時は過ぎ――日が傾きかけた頃に、去っていく。
 引き上げを開始し、甲板では木箱に座ったルキアが今のデータと合わせ、記録媒体の端末にゴーレムの情報を整理していた。
「水中特化ゴーレム。速度は90kt位。獲物はディフェンダーベースの武器と、盾だね。純白のゴーレム、凪君の模倣じゃない?」
「模倣か、機体を譲り受けたか、でしょうね。乗っているのは、連携を得意とした2機のゴーレム乗りの片割れです」
 ルキアとクラークの会話を耳にしたウェストが、手をポンと叩く。
「ああ、アレも残っていたね〜、滅ぼしておかなければね〜」
「じゃあデューク君、任せたよ」
 いつもの口調でさらりと押しつけ、端末を閉じて立ち上がり、時間だからと言ってオロチの元に向かう。
 釈然としないウェストだが、ルキアには聞こえないよう、本当に小さな小さな声でポツリと。
「ナンでも対応出来るからと、ナンでも我輩に押し付けないでほしいね〜‥‥」

 夜間警戒を始めていくらもたたないうちに、やはり敵影を確認。夜間組のの3人が出撃すると、これまでと違い、ゴーレムは姿を見せないばかりか、敵がどんどん距離を詰めてくるのであった。
 なるべく積極的には前に出ず、アルゴスシステムを発動させ、船とデータリンクさせながら離脱の指示を出すルキア。
 クラークが四方から来る4機を相手取るように移動し、ウェストが魚雷ポッドをばら撒き、アサルトライフルで誘爆させて目くらましとすると、ガウスガンで反撃の暇を与えないようにしながら接近を試みるクラーク。
 しかし敵KVは目くらましが展開されると即座に散らばり、クラークの居るであろう気泡の中にめがけ、4機ともタイミングと角度をずらしつつ足並の速い魚雷を撃ちこんでいた。
 幸い、真っ直ぐではなく下から回り込んでいたクラークは、かろうじて小威力の魚雷が肩口に当たっただけで済んだ。
「く‥‥今までよりも連携を重視ですか――」
 だが魚雷発射で動きの止まった1機に、対潜ミサイルが直撃、そこを畳み掛ける様にアサルトライフルが1発――2発。いつもならこれで沈むものだが、両腕を犠牲にしてまで受けきった敵のビーストソウル。
 しかし哀れ、ルキアの大型ガトリングまでは防ぎきれず、コックピットを蜂の巣にされ、海底へと沈んでいった。
 1機が沈むと3機はウェストと同じように魚雷ポッドを放ち、バルカンで誘爆させ――気泡が晴れた時にはすでに影はなかった。ルキアの敵機離脱の言葉で、緊張がほぐれる。
「ふーむ、少しは敵も考えると言う事だね〜」
「だけど武装も把握、次からは当てさせないよ」

 それ以上の敵襲もなく早朝、再び甲板に引き上げると、ルキアがデータを整理し皆に伝える。
「さっきの4機、昨日のやつとは識別が違うね」
「つまりは同型機が4機ずつ、8機いると言う事か――数を錯誤させようとするとは、芸が細かいな」
 威龍の言葉にルキアが頷き、美虎が口を開いた。
「つまりは次に来るであろうクラーケン達も同じ数だけいるとみていいでありますね」
「――来る」
 琉の言葉。そしてアラート――威龍、零奈、美虎が即座に行動。暖気しておいたKVに乗り込み、2度目の海へ、潜っていく。
「識別確認――推測通り、別機のようであります」
「くるぞ! 輸送船は即座に離脱しろ!」
 敵機と輸送船との間に割って入る零奈が、指を鳴らす。
「さて‥‥いっちょ、踏ん張りますか!」
 人型形態に移行した威龍が距離に入るなり対潜ミサイルで様子を見るが、敵の足は止まる気配はなく、零奈も射程に入った時点でホールディングミサイルを撃つが、やはり止まる気配がない。
「魚雷で迎撃している模様であります――魚雷、多数射出確認であります!」
 威龍のガウスガンと零奈のガトリングの弾幕が魚雷を撃ち落し――そして敵が撤退していく。
 その後、同じような流れで襲撃と撤退と繰り返し、それが日の傾く頃まで繰り返された。
 船の引き波を見ていた琉。その隣には零奈がいる。
「もう少しで陸地が見え始めるが――ここらの潮の流れは船の後方から強い。追撃してくる敵にとっては好都合だな」
「それよりも師匠、大丈夫? ほとんど休めてないよね?」
「大丈夫だ。常時海の中で待機というだけのようなものだからな――」
 再び、けたたましい警報が鳴り響く。悔しそうに渋い顔で、ビーストソウルに乗り込む零奈。幾度目かの襲撃だが、やや練力が減っているものの、3人にそれほどの疲労は見られなかった。
「12時、2時、4時、8時、10時方向から魚雷群、来るであります!」
 後退と同時に、魚雷ポッドの弾幕を張る威龍。多くの魚雷同士が衝突、誘爆。巨大な気泡のカーテンが辺りを包む。
「3時と9時、急速接近中、警戒せよであります」
 美虎の警告に威龍と零奈は気泡のカーテン越しに向き合うと、牽制――動きが止まった2機にめがけ、2人とも突進、クラーケンの前に躍り出ると、クローを振りかぶる。
「人類兵器なら構造は把握してるんだよ‥‥っと!」
「そういう事だ!」
 鹵獲されたKV相手が経験済みなだけあり、それなりに固い装甲を貫き、直接コックピットを潰して一撃で終わらせる。 その様子に、指から血が流れるほど噛みしめているリリメリ。
「‥‥くそ、消耗戦だけじゃあいつらには勝てないのか――腹立つなぁ。むかつくなぁ。恨めしいなぁ――」
 リリメリが指示も出さずに歯ぎしりしているうちに、まとまってしまったテンタクルスにめがけ、美虎が10発の大型魚雷を放つ――それに合わせ、隠密性に優れた三十六式大型魚雷をこそっと2発、紛れさせる。
 これ見よがしな七十式多連装をかわすテンタクルス――しかし紛れた2発の魚雷には気づく事ができず、美虎の目論見通り潜水装置に直撃。テンタクルスは潜ろうともがきはするものの、潜る事も浮く事も出来ずにいた。
「使えないヘタクソ達だ。しょせんは残りカスの寄せ集めだね――。陸地も近いし、下がるよ」
 リリメリの号令で、小型魚雷ポッドの弾幕を張って追撃させぬよう手際よく潜りながら下がっていく敵KV達。潜水装置が壊れたテンタクルスだけは潜る事が出来ずに、海面近くを全速で下がっていくだけであった――。

●カルンバ
 たいした損害も出さず、カルンバに到着する事が出来た一行。敵をあまり減らせなかった事に、ウェストは少々悔しがり、クラークはリリメリとの縁に思いをはせていた。
 少しムッとした零奈が、爆睡中の友人の顔を思い返して出迎えるミルに詰め寄る。
「メイさんの状況知らない訳じゃないよねぇ? 納得できる理由聞かせてもらおうじゃないの?」
「ああ――そんな状況だからこそ、やってもらいたい事があるのだよ。どうせもう、戦場に立てはしないからね」
 戦場に立たせる気がない――その言葉に、零奈はほっと胸をなでおろし、その肩を琉がポンと叩いて微笑んでいた。
 威龍と敵の陣容などについて詳細な情報を話していたルキアがミルに気がつくと、端末から記録媒体を抜き、手に持って振りながらやってくる。
「情報収集。また、依頼がでる可能性もあるんだ。ミル君は貿易商、戦後も大変そうだね。私、魚食べたい」
 ミルは苦笑し美味しい所に行こうかと、言うしかなかった。
 歩を進めようとしたミルの前に、美虎が立つ。
「ミルさん、近くの艦隊に連絡を入れ、空から探ってもらったのであります。潜水装置の壊れたテンタクルスの逃げる方向、停止した位置、地形等から、基地のようなものがこの座標の海底にあると思うのでありますよ」
 まとめたデータを差し出す美虎。意外な情報に目を丸くするミルはそれを受け取り――ニンマリと悪い笑みを浮かべ、美虎の頭を撫で繰り回す。
「この情報は大いに役立つよ。情報提供に感謝だ、美虎」
 ちらりと琉を盗み見る。
(これでケリをつけれるというもの、か。本当に長かったな、渚よ)

『【海】不穏な海 終』