タイトル:【決戦】傭兵の希望マスター:楠原 日野

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 25 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/11/01 05:43

●オープニング本文


※このシナリオを含む5本のイベントシナリオは、これまでのご愛顧に対する感謝の念を込め、無料シナリオとさせて頂きました。
 より多くのお客様にご参加いただくため、おひとり様1キャラクターまでの参加として下さいますよう、お願いいたします。
 また、大規模最終フェイズでの大破判定については強制力を持ちません。通常の機体データでの参加が可能です。
 なお、ロールプレイ上で、機体が大破したので〜という演出を行うことについても問題はありません。(10/20 2行追加)


●本星崩壊
 補給を終え、再び戦場に立った人類が目にしたものは――本星の崩壊であった。
 それが意味する事は、人類の勝利。
 声を上げ、傭兵達は喜び勇んだ――その彼らの機体に、本当に小さな破片が当たる。
 ガギン――ゴギン――。
 破片は本当に、本当に、小さい物のはずなのに、コックピットまでその衝撃音が大きく響き渡り、揺れるKV。
 決して軽くない衝撃に、声を掛け合い傭兵達はなるべくかわしていた。
 だがそれが徐々に大きくなりつつあり、しかも数も増してきているのだから、たまったものではない。
 傭兵達は火の粉を振り払うように、身の回りに跳んできたものだけは撃ち落していた。
 そうこうしているうちに、本星が大きく分裂――青ざめる傭兵達。
 破片の飛来は確かに『予想』として聞いていた。だから迎撃をする可能性も考えて出撃したのだが――まさかその破片があんな規模の物になるとは思ってもみなかった――否、思わないようにしていただけかもしれない。
 目の前の目標に精一杯で、その後の事まで考えるほどの余裕がなかったのも事実だが。
 ――しかし、絶望的な大きさの物はそれ以上こちらに動こうとはしない。
 緊急の通信が入る。
『大きな破片はエアマーニェの1によって回収される事が決定』
 絶望的状況は解決できた事に、全員が胸をなでおろす。しかし通信はそれだけでは終わらなかった。
『全ての破片が回収されるわけではなく、多数がデブリとなり地球へ飛来し、多大な被害を及ぼす事には変わりないので各自迎撃し、地球への被害をできる限り減らしてくれ――』
 すでに宇宙要塞カンパネラ、残存の宇宙艦隊は行動を開始、バーデュミナス人も協力していて、まだ誰も休んでなどいない。
 彼らは長い戦いの後にもかかわらず、最後の気力を振り絞りデブリの迎撃を開始するのであった――が、チカリと光が瞬き、1機のKVが弾かれる。
 そしてそれは一回だけでなく、何本も降り注ぎ、容赦なく傭兵達に襲い掛かる。
 幾度となく見た事のあるそれは、プロトン砲だと傭兵達は理解するも、敵の姿が捉えられない。それほどの射程からの攻撃なのか、デブリの影響なのか。
 振り絞った気力では動きにいつものキレがなく、なす術もなく翻弄されていく傭兵達。飛来するデブリもまともに落せないどころか、デブリにすら当たってしまい流されていくものも続出。
 しかしそんな中、1機の宇宙機体が降り注ぐプロトン砲とデブリに向かって行く。
 小柄な機体を駆使し、簡易ブーストと飛来するデブリを足場に、次から次へと撃ちだされるプロトン砲に、臆することなく前へ、前へと、突き進む。
 かなり進んだところで、ズンッとデブリに張り付いていたそれを刀で突き刺す。それは蛸のような足を持っていて、流れ来るデブリに跳び移っては張り付き、プロトン砲を撃ってを繰り返していた。
 蛸型の移動砲台型キメラ――そんなところだろうか。
 最前線に立ったその1機はデブリの陰に上にと移動を繰り返しながら、キメラを確実に倒していく。
 わずかな被弾などものともしない、果敢にして勇猛なその姿。
 そしてその太刀さばき、挙動、大胆さがありながらも繊細で、誰よりも輝いて先頭に立つその姿は誰もが知っていた。
「まだ終わりではない! みんな、もう少しだけ頑張って!」
 凛として最前線に立った、黒髪の女性が叫ぶ。
 傭兵達は希望の雄叫びを上げた。
 エースは誰かと聞かれれば、彼女の名を上げるだろう。
 ――そう、ブルーファントムが一員、冴木 玲(gz0010)の名を。
 彼女は刀を掲げた。
「デブリは後ろのみんなに任せ、私達はこの邪魔をするキメラの退治に当たる! 各自撃墜されぬよう細心の注意を払い力の限りを振り絞り、最後の戦いを乗り切れ!」
 身をかがめ、プロトン砲をかわすとデブリを渡り、キメラを薙ぎ払う。
「前に出れる者は前に、後方の者は己のできる事を考え、実行しなさい!」
 目の前のデブリごと、一刀両断――前線を乗り越え、皆と変わらず疲労が蓄積しているはずだが、それでも彼女の技は冴えわたっていた。
「余裕のある者はキメラ撃墜後、後方にまわりデブリ撃墜に参加せよ! 守るべき者を自分の手で守ってみせなさい!」
 傭兵達の希望が、傭兵を奮い立たせる。
 そして今、最後の『生き残りをかけた』戦いが始まろうとしていた――。

●参加者一覧

/ フィオ・フィリアネス(ga0124) / 新居・やすかず(ga1891) / 伊藤 毅(ga2610) / 守原クリア(ga4864) / クラーク・エアハルト(ga4961) / 秋月 祐介(ga6378) / 風羽・シン(ga8190) / 夜十字・信人(ga8235) / ルナフィリア・天剣(ga8313) / ミヅキ・ミナセ(ga8502) / 守原有希(ga8582) / 時枝・悠(ga8810) / 鹿島 綾(gb4549) / 櫻庭 亮(gb6863) / 白成 高己(gb8650) / YU・RI・NE(gb8890) / 守部 結衣(gb9490) / ジャック・ジェリア(gc0672) / 美具・ザム・ツバイ(gc0857) / 鹿島 灯華(gc1067) / 南 十星(gc1722) / ジュナス・フォリッド(gc5583) / 常木 明(gc6409) / リコリス・ベイヤール(gc7049) / 桐生 智与(gc7144

●リプレイ本文

●本星決壊・飛来するデブリ地帯
「まさに八艘飛びだな。俺には無理だ」
 冴木 玲(gz0010)のデブリジャンプに、思わず感嘆の声を漏らす夜十字・信人(ga8235)。流れるデブリをかわすだけでも、なかなかに骨が折れるのだ。
 彼もかなりの実力者ではあるが、玲の実力の高さには舌を巻く――本人や機体の状態が万全でないせいも、あるかもしれない。
 両断された半身を無理やり結合させ、所々予備パーツやジャンク品で補ったちぐはぐな機体。彼自身もかなり深い裂傷を負っていたが、がちがちに縫合して止血し、能力者と言えどずいぶん無理をして出てきたのである。
「よっぴー、なんか見ている方が不安なんだけど、その機体、大丈夫?」
「ざっとアテにならない部分が50はある」
 触腕で飛来するデブリを落しているルナフィリア・天剣(ga8313)の問いかけに、事もなげに返す信人。
 彼女は呆れはするものの、それ以上の問いかけはなかった。信頼しているからだ。
「まあまずはこれを始末しないと地球が危ないし」
「そういう事だ。無理して出てきたは良いが、ハードな状況のようだな。
 援護する――少尉、すまんが索敵情報を貰うぞ」
「それは自分も頂きましょうか」
「僕も。肝心な時にいまいち結果を残せませんでしたので、せめてここで一仕事しておきましょう」
 データーをリンクさせ、少しでも多くの情報を得ようとする秋月 祐介(ga6378)と新居・やすかず(ga1891)。彼らにとって情報こそが命である。
「冴木さん、これより僕らはキメラ掃討の支援のために、作戦区域のデブリを除去と突撃の波状攻撃を展開いたしますので、こちらからの情報に気を付けていただけませんか」
「こちら冴木、作戦を了解――そしてこれより、データーを送るわね」
 3人の機体に、玲は把握しているキメラとデブリの情報を送信。
 デブリとプロトン砲をかわし、その情報を受け取りながらも、やすかずは他の範囲を重力波探知で確認するという高度な事をやり遂げていた。
 信人はというと、受け取ると同時にグレムリンを射出。デブリ帯に先行させ、キメラの攻撃を遠隔機で攪乱させる。
「デブリ密度のデーターも使ってくれ。かわりに、デブリの分布状況をリアルタイム送信してくれや」
「助かります――これで予測がしやすくなりますよ」
 風羽・シン(ga8190)からデーターを受け取り、電子魔術師で機体とリンクし情報処理を開始する祐介。彼の目の前で飛来してきたデブリに紛れていたキメラがデブリごと破砕され、細かな破片となり機体に降り注ぐ。
 祐介機の前に一機のフィーニクスが止まる――伊藤 毅(ga2610)であった。
「ドラゴン1、エネミータリホー、デブリ帯での戦闘だ。気を抜いて衝突事故を起こさないように――それとも、もうお帰りか?」
「決戦では隊長の御陰で情報処理に注力できて戦闘機動は無しでしたからね‥‥まだ充分に戦えますよ――さぁ、行きましょうか!」
 すでに戦場の情報は把握済みの祐介。そのデータを戦域の友軍機にリンクさせる。
「データから推測すれば、敵が隠れるであろうポイントは以下の通りです。デブリ排除後、突撃になりますので各機担当区域と位置の把握、お願いしますよ――新居さん、10秒後に突入できます」
「了解しました、秋月さん。排除のタイミングは僕が指示いたしますので、皆さんよろしくお願いします――まず第1射目、できる限りの広範囲で頼みます――7秒前」
 カウントが始まると同時に、各機は前に出るもの、後ろに下がるもの、また、行動を共にする者で分かれていた。

「残骸が多いか‥‥火点を見つけるのが難しいな――デブリを吹き飛ばします。こちらの攻撃に巻き込まれないようにしてくださいよ?」
 吼天のトリガーに指をかけ、家に帰るんだと呟きその時を待つクラーク・エアハルト(ga4961)。
「デブリは完全に砕ききる必要はない。ある程度砕いてしまえばあとは大気圏が始末をつけてくれるのじゃよ!」
 美具・ザム・ツバイ(gc0857)が前に出ながら燭陰の発射を整え、叫ぶ。
「デブリに混じって大量のキメラですか‥‥一気に焼き払えれば楽なのですが――地上には大切な人もいますし、星を愛してくれた人との約束もありますから、デブリを落とさせるわけには行かないのですよ」
 南 十星(gc1722)がルナフィリアとシンの横に並び、2人と同じようにプロトディメントレーザーを上乗せしたフィーニクス・レイを構えた。
「残っても小さく出来れば、隠れられないだろ! そっちは任せたよ!」
 UK−10AAEMの砲門を開くジュナス・フォリッド(gc5583)。範囲が被らないよう、狙いを定める。

「その姓を名乗って依頼に参加するのは、今回が初めてね。ね、今はどんな気持ち?」
 鹿島 綾(gb4549)が隣に並ぶ鹿島 灯華(gc1067)に問いかけていた。

「往生際の悪い事で‥‥智与、アテにしてるからね?」
 アサルトライフルで流れてくるデブリを打ち砕きながら嘲るようにうっすらと笑みを浮かべ、それから先ほどとは違う笑みで常木 明(gc6409)は桐生 智与(gc7144)に語りかける。

「れいちゃん、あたし達も今すぐ行くからもうちょっとガンバだよッ」
 コックピットの中でれいちゃん人形振り回し応援している、バニー服姿のミヅキ・ミナセ(ga8502)――練力節約の為である。余裕に見えるが、しっかりと回避もしているし、ブラストテンタクルスで細かなデブリを除去しているあたりは抜け目がない。
「おねーさーん。ちょいと派手目にお掃除するんで一旦避けてて下さいますー?」
 デブリ除去の準備をしている彼らの前で飛来するデブリ両断、ガトリングで塵に返しつつわりと軽いノリのフィオ・フィリアネス(ga0124)が玲に注意を促すと、その後ろを追うように白成 高己(gb8650)がアサルトライフルで友軍を援護しながらやってくる。
(機体は良好だ。もう一度地上に立って、大切な人達と会うために、こんな所で死ぬわけにはいかない。自分も仲間も守り通す)

「4秒前」

「10月といえば、地球ではりゅう座流星群とか、オリオン座流星群が見える時期なんだよ。ちょっと日にちのずれた流星雨をプレゼントしよう‥‥もちろん、大気圏で燃え尽きるものをね」
 シャムシエルでデブリを粉砕し、クリア・サーレク(ga4864)は守原有希(ga8582)に語りかけると、有希はマルチロックで自分達周辺のデブリを狙い、打ち砕きながらも微笑み返した。
「みなさん、抜けて支援班を狙う敵はスタビライザー使用も辞さず追撃、多いなら支援班直衛や中衛形成いたしますのでご安心を――クリアさん、勝って大団円と行きましょう!」

 集団からやや離れた位置で動いていないデブリを盾にし、ぼんやりとしている時枝・悠(ga8810)。偶然近場にいて退散するタイミングを逃してしまっただけだったりする。
 地上機での連戦になるので、既に帰りたかったりするが――こうなってくると、さすがに帰るわけにもいかない。
「家に帰るまでが作戦です、なんて。遠足じゃあるまいに」
「あー、クソッ! 敵の親玉を潰してようやく終わったと思ったらメンドクサイ後始末かよ! 最後の最後まで手間ぁ取らせんな!」
 アサルトライフルを撃ちながら、悠の心情にかなり近い事を叫んでいる櫻庭 亮(gb6863)――だが。
「さっさと下らねぇ戦争終わらして‥‥結衣と普通の生活を送りたいんだよぉっ!」
 その根本は違うようであった。すぐ近くではその背を守るように寄り添っている守部 結衣(gb9490)が、はにかみながら照れているのであった。

 綾の問いかけに、驚き、すねた顔をする灯華。
「何ですか急に‥‥いえ、まぁ、名乗れたことは、嬉しいですよ‥‥?」
 ぼそぼそと小声で答えると、綾はにっこりと笑みを作る。
「あら。なら後でたっぷりと呼んであげるわね。フルネームで」

 明にめがけて飛んできたデブリを、二振りの機刀で細かく刻む智与。
「眼下の故郷、焼かせる訳には参りません‥‥そしてそれ以上に、明様をお守りするのが私の務めですから」
 まっすぐ、はっきりと言い切る。彼女は明のためにここにいると言っても、過言ではない。
 それこそが彼女の目的なのだから。

「それなりの火力とそれなりの防御力は持ってるんで、真正面から撃ち合って敵の攻撃の引き付けも担うんでよろしく」
 ジャック・ジェリア(gc0672)が自分の役割を皆に伝える――彼にとっていつも通りの仕事だ。
「全くさ、最後の最後まで邪魔してくるんだねぇ、バグアってのはさ‥‥本当、もっと早く諦めてくれれば‥‥沢山の人が犠牲にならずにすんだのに‥‥」
 沢山の人の中に、1人の大切な友人の顔がよぎるリコリス・ベイヤール(gc7049)。
 しかし、決して顔には出したりはしない。
「うん、でもこれで正真正銘最後なんだ。たとえ機体が堕ちようとも、絶対になんとかしてやるんだから」

「2秒前」

「‥‥っ! ――あぁ、もう勝ったら幾らでも呼ぶがいいですよ! ――ほら、敵が来ますよ!」
 顔を真っ赤に染め上げ、灯華は己の心の寄り辺に寄り添うのであった。

「亮さん、いつも守ってくれて有難う。大好きですよ――こんな所で共々倒れるわけにはいきません。キチンと片付けて2人で帰りましょう」
 亮と共に生きる為に、亮を守る――彼女は戦う為でも勝つ為でもなく、守る為に能力者になったのだから。

「夫と息子が待つ地球‥‥ひと欠片だって落とすもんですか!」
「美具の目の黒いうちはデブリじゃろうと、キメラじゃろうと一匹たりとも通しはせんよ」
「そういう事だ。そんじゃま、ゴミ掃除ついでに残党共も片付けちまいますかってね」
 YU・RI・NE(gb8890)が叫び、美具とシンが不敵に笑う。

「1秒前」

「ま、いつものようにだね」
「最後の仕上げといこうじゃないか?」
 ルナフィリアとクラークの言葉に傭兵達は力強く頷き、長く感じるたったの1秒を、焦れながら待つ。
 ――そして訪れる。

「発射!」


 一直線に伸びる数本の閃光と、広範囲に入り乱れるミサイルの雨。デブリは塵と化す。
 ほんの短いわずかな時間ではあるが、傭兵達の前に希望への道が開かれる
「支援射撃‥‥タイミング合わせて下さい! 行きますよ!」
 祐介の言葉にフィオ、毅、クリア、ルナフィリア、ミヅキ、有希、悠、綾、灯華、亮、結衣、高己、YU・RI・NE、ジャック、明、リコリス、智与が一斉に前進を開始する。
「任せてくださいなっ」
「暗礁宙域に撤退する残党艦隊‥‥昔見たアニメにそんなのあったな」
「ここまでがんばったんだもの。地球滅亡なんて、絶対にさせるもんか!」
「この程度の苦境は幾度と無くあったんだし何て事は無い」
「対デブリ用に装甲を上乗せして来たからねッ、あたしの武者ゲッソーは伊達じゃないよ!」
「地球と宇宙で培った機動を舐めるな!」
「無駄に粘ってくれるなよ。残業代ロクに出ないんだからさ」
「戦闘機形態で飛び回るのは難しいわね。人型に変形、機動性重視で行きましょう」
「そうですね、獅子王‥‥頼みますよ」
「何時もの通り行くぞ‥‥結衣!」
「ええ、いつも通りに行きましょう。亮さん」
「デブリをシールドに当てれば行ける筈だ‥‥」
「機体が‥‥軽い!」
「長距離の差し合いでコイツに勝とうって言うなら、まぁ、やってみれば良いさ」
「本戦では今一振るわなかったからねえ‥‥」
「本当に戦いの終わりは近いんだ、多少の無茶はさせて貰うよ!」
「退くのであれば良し、追いはしません。そうで無いのなら――この二刀で斬って捨て、そのまま落ちて頂きます」
 そして残りの者達は、やすかずがタイミングとポイントを指定し、道を閉ざさず、味方に当てぬようにデブリの除去を続ける。
「遠隔攻撃機、射出用意――射出! 突撃班とルートを変え、囮をお願いいたします!
 やすかずの声に合わせ、複数の遠隔機が迂回する様に進み、プロトン砲の狙いを散らせながら前進――何機かはデブリをかわしきれずに墜ちたものの、キメラのひそんでいる宙域まで数機がたどりつき、交戦していた。
 飛び交うプロトン砲が確実に減り、突撃班を加速させる。
 飛来するデブリの影に隠れながらも前進を続ける者、プロトン砲とデブリをかわし、時には撃ち落しながらまっすぐに向かう者、盾や己の装甲を頼りに多少の被弾を無視してとにかく突き進む者。もちろん、お互いの補佐も忘れず、彼らは突き進む。
 盾で正面を庇いつつ、アサルトライフルでデブリを撃ち落し、時にはアイギスのブースターを利用し軌道をほんの少し変えて寸前で回避させる祐介。とても情報を処理しながらとは思えない。
「確かに自分に一流並の腕は無いが‥‥自身のイメージを機体にフィードバックさせれば、この程度の芸当は可能だ。隊長、2秒後、1時と11時方向にガンナー出せます。ルートはこちらを」
「ドラゴン1、エンゲイジ――ラジャ、ポイント指定、ガンナー射出」
 毅がフォビドゥンガンナーを射出すると、再び祐介が口を開いた。
「高密度のデブリ群が5秒後、来ます。各機散開準備――新居さん、お願いします」
「2発目準備――3秒前、2、1――発射」
 シン、クラーク、十星のKVから先ほどよりはやや弱いながらも再び閃光がまっすぐに伸び――デブリ群を弾き、その密度が下がる。
「不規則な動きじゃなければ‥‥」
 ジュナスがデブリ群にミサイルで追い打ちをかけ、さらに密度を下げたところで、美具と信人が的確に脅威となるサイズのデブリをミサイルでうち砕いていく。
 砕け散ったデブリをプロトン砲からの盾にしながらも、スレスレで回避して最短距離を駆け抜けて先陣を切る明。
「見易い分、砲火を潜るよりはエキサイティングだねえ」
 軽い口調ではあるが、頬を伝う汗が内心を表していた。だが危うい時は智与が動き、常に明を守り続けている。
 モニターに高速で移動してくるキメラが映し出される――が、その姿は確認できない。
 しかし有希がエアロサーカスでデブリの中を鋭角的に回避しながらも、1つのデブリに高速でまっすぐ近づいて行くとモニタ上ではキメラとの距離がどんどん詰まっていく。
「後ろにはいかせない! 遮蔽物諸共叩き潰す!」
 ライチャスでデブリごとキメラを叩き斬る。だがすぐ近くのデブリにもう1匹潜んでいて、有希の背に狙いを定めた。
 プロトン砲が放たれる――その瞬間、超圧縮レーザーによって貫かれるキメラ。練剣・白雪による一撃だった。
「ひとの恋路を邪魔する者は馬で蹴られるけど、ボクの恋人の背後を狙おうなんてタコは、斬って払ってたこ焼きの刑だよっ♪」
 空になった水素カートリッジを排出する、クリア。有希が正面からその脇に新月通し、クリアに張り付こうとしていたキメラを刺し貫いた。
「クリアさんの一番側はうちが守るって誓っとるとさ!」

「熱いねぇ――そろそろ敵さんも知恵を使ってくるか――囮に出るんで、よろしく」
 ジャックが飛来するデブリとプロトン砲の砲火の正面に立ち、ホーミングブーメランを投擲。多少の被弾など、まるでものともしないその姿は、この場においてまぎれもなく人類最強の盾であろう。
 攻撃方向から距離と数の情報を取得、さらには未来予測を利用し移動先を狙っての投擲である。そのデータは逐次、管制に回している。
「俺はキメラ優先すべきかい?」
「デブリはしばらく極端に小さいのと、稀に大きいのがあるくらいなので、キメラ優先でお願いしますよ」
「了解っと。まあ大きいデブリがあったら、適当に砕いておくさ」
 そう言いながらジャックは200mm4連キャノン砲で、大きいデブリを撃ち砕くのであった。

「ここで燃えずして、いつ燃えるというのかね!」
 本戦でやや不完全燃焼だった美具が、手当たり次第にデブリを破砕していく。
 その通りですと呟き、涼しい顔をしながらも熱くなっている十星がサンフレーアでやすかずの指示通りに次々とデブリを焼き払っていた。やすかず自身も、同じようにサンフレーアで真正面から狙っていた。
「正対すれば固定目標と変わりませんから、この距離でも十分に当たってくれますね」
 小さくとも決して侮れないデブリから十星とジュナスを守るように、クラークがその身を盾にする。
「伊達にデカい訳じゃありませんよ。少しなら耐えられますので遮蔽物代わりにしてください」
「感謝します、クラークさん」
 皆が弾幕を維持している間に、リロードを済ませ、皆のリロード中に射線を維持する。
「俺のやり方でやる‥‥!」
 構えて撃つ――その隙を不運にも狙い澄ましたかのように飛来するデブリ。
 あわや直撃するかと思ったそのデブリに、ちぐはぐな機体がキックでその軌道を逸らす信人。
「やらせはしない‥‥あたた、傷が少し開いたか」

「みんな来たわね――残りはそれほど多くはないから、がんばって!」
 玲のいる宙域に、ひたすら先陣を切ってきた明と智与がまっさきにやってきた。
「前に出ます、明様。こちらでお待ちを――後ろは、暫しお願いします」
「あちきに任せておくんだね」
 遠隔機に気を取られているキメラに智与が刀を突き立て、明がアサルトライフルで前に出た智与を狙うキメラを撃ち落していく。
「‥‥今の私には斬れます、それがどんな敵であっても」
 玲ほどではないが、鮮やかに、かつ容赦なくキメラを叩き斬っていく智与。そんな智与に苦笑する。
「普段は大人しいのにねぇ‥‥」

「データリンク確認、行きます!」
 明たちに次いで踏み込んだのは、長期戦を避けるために時には遠隔機を盾にしたり、自身の盾で受け止めたりで積極的に前へと進んでいたフィオと高己ペア。
 高己が実際のキメラの位置を把握し、データを転送する。
「我が小隊の知恵袋、今回も頼りにしてますよっ」
「頼りにしてるのはこちら、です!」
 アサルトライフルでデブリを砕く。すると隠れ蓑を失ったキメラがあわくって飛び出てきた。
 その一瞬、メテオブーストで一気に接近すると、一文字で両断。手ごたえに頷くフィオ。
「おねーさんほど華麗じゃないけど‥‥この剣ならやれる!」
 その横のデブリを蹴るように着地し、ブーストと併用し飛び跳ねるように移動してキメラにナックルをお見舞いするリコリス。反動で離脱し、デブリに着地して止まる。
「お次はどこ狙えばいいのかなっと。指示お願いしますよっとぉ!」
 デブリを蹴って、横から飛んできたデブリを回避する。
「リコ、出すぎると危ないよ」
 プレスリーでリコリスに当たりそうなデブリを撃ち落しつつ、ルナフィリアが肩を並べる。
「おールナちゃん、感謝感謝。帰ったらハグってあげちゃう」
「別にいいから、とにかく生きて帰ろ」
「早く帰りたいわぁ――というわけでてんてん、もう帰っていい?」
 ビームコーティングアクスで、デブリもキメラも手当たり次第にぶった切る、悠。逃げ出そうとしたキメラを、ルナフィリアが撃ち落す。
「だめだよ悠。私が楽できないから」
(なによりシェイドやステアーの残骸捜索したいし)
 そんな彼女達を蹴散らしそうなほど大きなデブリが飛来――その前にレミエルとM‐12を構えた綾が立ち塞がる。
「エンハンサー起動――ちょっと派手に壊すわよ。破片に注意して!」
 動きの止まった彼女に向けられたプロトン砲を、ウルで何とか防いでみせた灯華。綾の気が一瞬逸れた、が。
「‥‥ッ! ――大丈夫です、射撃に集中してください!」
 その言葉で、もう迷わない。
「ありがとう――シュート!」
 強烈な荷電粒子砲が巨大なデブリを穿ち、そこにありったけの弾を撃ちこんでカチ割ってみせた。
 ほっと息を吐く、綾。
「ありがと、りょー姉」
「いいのよ――ベンヌ1よりベンヌ4、ベンヌ7へ。この周辺の半分は受け持つわ。残り半分――行けるわね?」
「あいよ。こっちの取り分は確認した。後は任せな!」
「‥‥了解、此方で半分請け負います。ベンヌ1、其方の排除を願います――エンゲージ!」
 同じ小隊だけあって、実に統率がとれている4機。
 結衣がミサイルポッドで目くらましをしては、亮と同じ敵を狙って確実に撃ち落す。
 また結衣が狙われそうになると、結衣に手を出すんじゃねぇと亮が叫び、亮が狙われると、私の一番に何てことをしてくれるんですかと結衣が叫ぶ。お互いがお互いを想いあっている、実にいい関係であった。

「蛸とイカどっちが優れているか、あたしのゲッソーが白黒つけてみせるよ!」
 謎の闘志を燃やすミヅキがうな銃をばら撒く――すると広範囲にわたってキメラがその姿を現す。ウナギの美味そうな匂いに釣られた、ようにも見えるが、その実は隠れ蓑のデブリが攻撃されたために離れただけだろう。
 複数のキメラをロックオン。
「ゲッソォォォォミサイル!」
 250発のミサイルが辺りを覆い尽くし、同時に突撃をかけると、ロックオンしきれなかった1匹に機首に装着したドリルライフルを突き刺して叫ぶ。
「ゲッソーの力、見せてやる‥‥ゲッソォォォドリル!」
 突っ込み過ぎているミヅキの背後に、ひらひらと舞いながらディメンジョン・コーティング で固めたYU・RI・NEが背中を合わせ、無限の銃声で小規模のデブリを粉砕、連射でキメラを貫く。
「あなたの背中は任せて。だからあたしの背中もお願いね」

 かなりの時間が経過したかのように思えるほど、デブリ帯での戦闘は神経をすり減らす――なによりも、つい先ほどまでバグアと戦い、休む暇もなく連戦なのだから、いまだに被害はないものの、いつか集中力の途切れた誰かが犠牲になりかねない。
「もう敵の数と位置わかってんなら、追い込んで叩くかね」
 ジャックの提案に、現在この戦域を指揮しているようなものである祐介とやすかずが、そうですねと頷き、互いに行動を開始した。
 情報処理をマニュアルに切り替える祐介。
「追い込む最終ポイント、演算開始――突撃班のみなさん、倒せなくても結構ですのでこちらの指定した座標から順次、敵を追いこんでください」
「教授、右によけろ、次の旋回で仕留める」
 指示を出しながらも、毅の言葉に機体を反応させ右に避けるとキメラ付のデブリが通過――旋回してきた毅がレーザーガンで牽制しキメラをデブリに張り付かせ、ムーンライトでデブリごと貫く。
「支援班のみなさんはできる限り前進し、僕の指定した座標から、秋月さんの割り出した追い込みポイントに照準を合わせてください。タイミングは、僕が出します」
 2人の管制の言葉に、やる気あるなしに関わらず全員が頷き、殲滅よりも指示を重視し、動き始めた。
 ゆっくりだがシールドを構え確実に進む、クラークの吼天・アームブレイカー。
「唯のデカ物だと思うなよ? ちゃんとした牙は持っているんだから」
 機体を慣性に任せたまま進ませ、子機を放出、演算を開始する――。
「最後のとっときだ――」
「終わりにします」
 シンと十星が残りの練力のほとんどを注ぎ込み、プロトディメントレーザーを準備――。
「美具のこれもおまけじゃな」
 最終ポイントに届く範囲まで移動、高い積載量にモノを言わせもう1発搭載してあった燭陰の砲門を開いて待つ美具。
「最終ポイントへの追い込み完了予測時間、20秒――冴木さんもご参加、お願いしますよ」
「了解――これよりキメラ後方から追い込みをかけるわ」
 戦域よりも遥か前方にへ突撃し――振り返って飛来するデブリと速度を合わせ、小さなものは蹴って軌道を逸らし、最終ポイントに向かっていく隠れるの適したサイズを残しながら、時には後ろ向きのままデブリの流れに逆らってキメラとの距離を維持し、ポイントよりこちらに来れないようにしていた。
「発射タイミング、あわせてください――これより一斉掃射を始めます。カウントと共に退避の準備、お願いします。
 5秒前!」
「こちらの砲撃でデブリごと吹き飛ばす。それだけだ。正面からだけと思うなよ?」
 天鏡を展開して、下方向から狙いを定めるクラーク。
「4!」
「デブリを纏めて吹っ飛ばすみたいな話が出てるので、巻き込まれないように」
「聞こえてたし。さがろっか、リコ」
「おっけーなんだよ」
 注意を促すというよりは、何か帰り支度を整えている様にも思える悠。ルナフィリアがリコリスと共に下がる。
「3!」
(明は――大丈夫だ)
 最前列にいるであろう恋人を思い浮かべ、心配は何一つしていない――絶対の信頼を持っているが故に。
「2!」
「俺達が誤射なんてしないって信頼してくれんだろうが‥‥無警戒過ぎんぜ少尉さんよ」
 追い込みを続け、いまだに射線から外れようとしない玲に警告する、シン。たとえ指示があっても、彼女が射線から退かない限り、決して撃つ気はなかった――もっとも、それは皆同じだろう。
 だが、彼女はしっかりと役目を果たし、ここ一番でミスしたりはしない――人類の希望である最強のエースパイロットへの信頼は、絶対なのだ。
「1!」
 後ろから飛来するデブリを踏み台にブーストと合わせて、高速離脱をする玲――逃げる方向は完璧であった。
「発射!」
 傭兵達の一斉掃射。広範囲から狭い範囲に集中する閃光。大量のミサイルが爆砕し、離脱した突撃組も撃てる限り撃ちつくす。
 爆発と閃光が終息を向かえた時、まさに塵一つ残らない空間が生み出された。
 目視とセンサーで確認する毅――キメラの影は、見当たらない。
「センサー系に敵性反応なし、ミッションオーバー、RTB」
 彼の静かな声が、作戦終了である事を告げるのであった――。

●キメラ討伐終了後
「これで終わりか? いや‥‥まだ完全には終わってないけど‥‥」
 飛んでくるデブリを眺めつつ、後退を始めるクラーク。もはや補給しなければただの的でしかない、ギリギリの状況であった。
「下がる者は下がって。余裕のある人は、強制しないけどできる限りデブリの破砕に務めて頂戴」
 前列を維持し続ける玲。玲の言葉を受け、練力に余裕のない者や集中力が限界に達した者達は下がるのであった。
「んじゃ、一旦引き上げて補給済ませてから、改めて掃除すっか。で、終わったら祝杯といこうや――勝利と、俺達の未来によ」
 気力的には十分に余裕のあるシンが、補給のために引き上げる。彼のように補給を受けて再び出撃する者も少なくはなかった。
「まずは片付いた‥‥明や皆は大丈夫かな‥‥」
 補給には下がらず、留まるジュナス。前方では同じように明も留まって『作業』を黙々とこなしていた。もちろん智与も一緒だ。
 破砕作業をこなすだけの余裕はないものの、大気圏で燃え尽きる燃え尽きないの選別をして各機に伝える祐介とやすかず。
 シャムシエルで両断、4分割、無理ならばと有希と共に押してベクトル方向を変え、地球への落下を防ごうとしているクリア。
 見ている方が不安になる状態の信人も、破砕に参加していた。ルナフィリアがシェイドやステアーの残骸を捜しつつも適当に面倒を見ている。
「どれだけのデブリが抜けたかは判んないけど目の前のこれだけでもなんとかしなきゃね。地球の命運が懸かってるんだから‥‥」
 ミヅキが呟き破砕を続け、YU・RI・NEがコロナを使いながらも後退を開始する。
 美具も余ったミサイルを撃ち尽くすつもりで、留まっていた。
 そして皆、自分の練力切れ限界まで粘ってから、帰投を開始するのであった。
 帰投を始める仲間達。だいぶ飛来するデブリが減った宙域。それらを一瞥し、黙々と作業をこなしていた明がようやく口を開いた。
「――ジュナスくん、智与、2人とも無事かい?」
「ああ、大丈夫! まだやるべきことあるしね‥‥!」
 作戦中はお互い絡んだりはしない恋人の言葉に、作戦が本当に終了した事を実感したジュナス。智代も引き連れ、3人は帰投する。
 全員が帰投を開始したのを確認し、一番最後に動き出すのはやはり、冴木 玲だった。
 彼女は自分にも言い聞かせるように、呟いた。
「私達はやれるだけの事をやったわ。胸を張り、あとの事は後ろの仲間達に託しましょう」

「ルナちゃーん!」
「よしきた」
 約束通り、ルナフィリアをハグるリコリス。毒舌家で皮肉屋なルナフィリアだが、素直に抱き止める――根は寂しがり屋なのだ。
 そしてなによりも落ち込んでいたように思え、心配していたのだ。
(結局、どっちも発見できなかったのは残念だけど、いいか)
 長い廊下を流されながら、そんな事を考えたルナフィリア。
 シェイドもステアーも発見はできなかった。バグア側に回収されたのかもしれない。
 だが今はそんな事よりも、落ち込んでいる友人を励ます事が先である。
 明るく元気なリコリス――だが、彼女も本当は寂しいのだ。最終決戦で、かけがえのない大切な友人が死んでしまったのだ。
 だから――。
(少しくらいいいよね?)
 ルナフィリアをがっちり抱きしめ、頬ずりして、明るくふるまう。
「ルナちゃん可愛いよルナちゃん!」

 流れながらじゃれあっているルナフィリアとリコリスを視線で追い、そして再び隣に立つ綾に目を向ける灯華。
「何とかなりましたね、まだやらなければいけない事は、多いですが‥‥」
 少し赤面し、綾に身体ごと向き合って頭を下げる。
「こ、これからも‥‥宜しくお願いします」
 そんな可愛くて大事な人を、愛おしげに強く抱きしめる。
「こちらこそ、お願いね。『鹿島』の灯華――」

 こうしてようやく、長い長い戦争の幕のアンコールは、終わりを告げたのであった。
 だが、戦いが終わったわけではない。
 ――しかしこれからは、破壊のための戦いではない。
 再生のための戦いが、始まろうとしているのである――。

『【決戦】傭兵の希望 終』