タイトル:【落日】大事な写真マスター:楠原 日野

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/10/21 18:01

●オープニング本文


●ノーザンテリトリー
 広大なステップ地帯。その中央にどんとまるで要塞のようにそびえ立つ一枚岩の山、ウルル。
 エアーズロックや地球のへそと呼ばれていたその巨大な一枚岩の岩山は、陥没し、抉られ、戦争の傷跡を所々残していた。
 ワームがいなくなり爆撃の類がなくなった今でも、その山はキメラにより浸食を受けていたのである。
「岩を食らう、キメラか」
 ジープのサンルーフから身を乗り出し、双眼鏡で周囲の様子を窺っていたミル・バーウェン(gz0475)は、やや険しい表情を浮かべていた。
 頑丈な一枚岩を何度も噛み続け、崩れ落ちたものををそのまま口に頬張り、ゆっくりと何度も何度も咀嚼して飲み込み次の一口に移る。
 双眼鏡越しではなく肉眼で広い範囲を確認すると、目につくだけでも8匹――壁に張り付くヤモリの如き姿ではあるが対比からすれば全長7〜8mはあるだろう。
 岩を食らう‥‥人の肉を食らうよりはましかもしれないが、放置するわけにもいかなくなった。理由は2つ。
「まさかこの私が足元見られるとは、ね」

 数日前。傭兵達の活躍により、タスマニア北部を解放し蕎麦農家に返還したミル。
 その際、彼らが仮住まいとしていた地域を買い取ろうとしていたのだが――彼らの土地ではなかった。そのため、持ち主を聞いて、交渉しに来たのであった。
 だが持ち主である女性は、ある事をもちかけてきた。。
「‥‥ふむ、つまりはウルルへ戦闘と風景の写真を撮りに傭兵を率いて向かったご主人の、カメラを回収してほしい。そういう事かな?」
 女性の家で話を聞いたミルが要約して尋ねると、疲れのせいか年齢のわりに老けた感じの女性がこくりと頷く。
「正しくはあの人がずっと肌身離さず持っていた『大事な写真しかないカメラ』です。あの人はずっとはぐらかしてばかりで、とうとう教えてくれないまま――死んだとは限りませんが、キメラのいる所に向かいもうひと月以上。
 ‥‥こんなご時世ですから、もう覚悟もしています。ですが、カメラだけが気がかりなんです」
 腕組みをし、ぎしりと背もたれに体重をかけるミル。
 1人で管理ができないから農家に『貸していた』だけ。土地の所有権そのものは彼女にある――確認ミスであった。
(恩を売って買い取りやすくは失敗、か‥‥だが)
「‥‥いいでしょう。その条件、飲みます」

 正確には足元ではないが、こちらが土地を欲しがっているのを見透かされての取引なので同じ事である。
 それが理由その1。
 そしてもう1つが――。
「うぐっ!」
 がっくんと突如ジープが後退し、腹をしこたま打ちつけて呻く。
 だが文句よりもいち早く、ドドォンと目の前に岩石が地面を抉り取る。次々と地面をえぐり取る岩石の砲弾。
 全速で後退しつづけるジープは時折ハンドルを切って、巧みにかわし続ける。
 いつまでも続きそうな砲撃が、やがてぴたりと止んだ。止んだ後も、ジープはしばらく後退を続け、停車する。
「距離1000でこの精度とは、恐れ入るわ」
 運転手をしていたシスターが汗をぬぐう。射撃手ならではの直感が、ミルの生死を分けたのであった。
 むしろそういう直感がなければ危険と判断し、ミルはあえて専属のドライバーであるドライブではなく、射撃手のシスターを運転手に選んだのだ。
「‥‥君がそういうからには、恐ろしい事なのだね」
「当然よ。あたしでさえもギリギリな距離だっていうのに、照準もくそもない、あんな口から吐き出す丸くすらない岩の砲弾が的確にジープ狙ってるんだもの――まあ、だからかわせたんだけど」
 それでも撃つ瞬間がわからなければ、目視でそうそうかわせる速度ではない。腹をさすりながら、しみじみ自分の部下に感謝するミルであった。
「軍が後回しにするわけだ。戦闘機も戦車もろくに近寄れないと言っていたからな」
 周囲にはひしゃげた戦車、墜落した戦闘機など、岩の砲弾にやられたのであろう人類兵器が無残にも残っていた。
 ただ、被害がそれだけならミルは放置していたかもしれない。軍と同じように、岩山をかじっているだけで今の所無害であるなら、他の直接人を襲うキメラを優先するだろう。
「でもうっかりで輸送機や民間機が通過しちゃったりとかするのだよねぇ――それはいただけない」
 ちらほらと輸送機だけでなく、民間の航空会社の飛行機まである。決して人類への被害がないわけではないのだ。
「今回は採算も取れないような内容だが、それもしかたないな」
「――意外だわ。お嬢が得も顧みずに動くなんて」
 結構な付き合いになっているシスターは、ミルの言動に目を丸くして――そして微笑む。
「傭兵達のおかげで、お嬢も変わってきたのかな?」
「ふふーん、それもあるだろうね――それにだ、今回は『大事な写真しかないカメラ』というものが気になる。どんな写真が収められているのか、実に気になるのだよ」
「カメラね‥‥それにしても、そのカメラはどこあたりに?」
「さてね。恐らくはあの岩山のどこか、だ。元はと言えばあそこにいたキメラはあんなのではなく、岩でできた人型だったそうでね。それを退治しに行った傭兵に便乗したのが、そのカメラマンという訳さ。
 そして運悪く、そのキメラを捕食するキメラがたまたまその日にやってきたと、生き残った1人の傭兵がそう証言している」
「生き残り?」
「うむ。どういうわけか1人、自力で脱出したらしいね――といってもすぐに息を引き取ってしまったので、彼だけがこの砲撃から逃れた理由は不明だ。カメラマンは人を襲うわけではないから、助けが来るまで写真を撮り続けるとか、そんな酔狂な事を言って残ったそうだが――」
「まあ死んでるわね。にしても、一人だけ助かったとなると、たぶん‥‥」
 シスターはライフルを手に取りペイント弾をケースで持ち出すと、車から降りて無造作にウルルへと歩き始めた。
「おいおい、シスター」
「大丈夫、多分ね」
 砲撃を受けていた地点まで歩み寄り――さらに距離を縮める。だが砲撃が来る気配がいまだに、ない。
 おおよそ1000m地点に到達し、シスターは寝そべってライフルを構え、発砲。1匹にペイント弾が付着する――が、それでも反撃が来ない。
「‥‥一定のサイズ以上でないと敵と認識しない、もしくは食欲以上の興味が今は湧かないかってところね」
 寝そべったまま、振り返ると、大声を張り上げる。
「お嬢、どうせ傭兵に頼むんでしょ? 数え間違いがないようにはするけど、山の上の奴までは知らないからそこん所よろしくね!」
 キメラの数を間違ったため、傭兵にしこたま奢らされたとなぜか笑顔で愚痴っていたドライブを思い返し、シスターは数えながら次々とペイント弾を当てていく。
 ミルは苦笑すると、シートに座り端末を開き、ポーチから大粒の飴を取り出して口に放り込む。
「ふむ――まあ仕方ない事か。では私はこの間にでも依頼文書を作成しているかね」

●参加者一覧

ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG
長谷川京一(gb5804
25歳・♂・JG
美具・ザム・ツバイ(gc0857
18歳・♀・GD
南 十星(gc1722
15歳・♂・JG
ヨハン・クルーゲ(gc3635
22歳・♂・ER
ドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751
18歳・♂・DF

●リプレイ本文

●ウルル近郊
「おっす、お嬢。今回もよろしくな」
 相変わらずまず煙草を口に咥えてから会釈する、長谷川京一(gb5804)。
 お嬢と呼ばれた銀髪の少女、ミル・バーウェン(gz0475)が自分の眼鏡を少し持ち上げ、京一に笑いかける。
「うむ、よろしくなのだよ、京一」
「よろしくじゃないぞ、ミル。貴重な世界遺産をキメラ如きの餌に饗するとは、誇りと言うものがないのかね」
 物言いが少しつっけんどんになっている美具・ザム・ツバイ(gc0857)は、顔にこそ出していないものの、憤りを隠せないでいた。
 浸食によって有名なエアーズロックが円形の岩山にされた事を、静かに怒っているのだ。
「いや、私にそれを言われてもだね‥‥」
 眉を寄せ困っていると、くすりと笑いつつ南 十星(gc1722)がラッピングされた小さな袋をミルに差し出す。
「災難ですね――とりあえずこれでも食べて待っていてください、私の手作りです」
 袋を受け取り、中を確認――クッキーだ。一個口に頬張り、ボリボリと噛み砕きながら顔をしかめる。
「美味い‥‥なにやら負けた気分だが、まあいい。カメラとキメラの殲滅、頼んだよ」
「カメラ、ですか‥‥まぁ、戦えるなら、何でも、かな‥‥」
 ぼんやりとウルルを眺めていた見た目は大人しい感じのルノア・アラバスター(gb5133)だが、その言葉こそ彼女の本質を現していた。
 同じようにカメラという言葉に反応を示したヨハン・クルーゲ(gc3635)。
「最後まで手放さなかったカメラですか‥‥カメラマンの武器と言われる物の中身は気にはなりますが、今の目の前の敵に集中しましょうか」
「そうですね――キメラと言えども決して軽視できないクラスですから」
 右手の手袋をさすりつつ、ドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751)。以前会った時からすると、だいぶ落ち着き払っている。彼も様々な経験を積んだ、そういう事なのだろう。
「うむ。写真は私も気になるが、なによりもまず目の前を見ないとね」
「そうじゃの。1匹残らず駆除してくれるわ、ヤモリごとき――それで、ミルよ。観光地図は用意してくれたかの」
 言われてさっと取り出すと地図を広げ洞窟の場所を確認、美具はミルとともにカメラマンと傭兵のいそなポイントをチェックしていた。
 傭兵という言葉にドゥがピクリと眉を動かし、渋い顔をする。
「俺達の知り合いに随分な頼み事をしたようだが‥‥仕事は仕事か。行きましょうかね」
 顔は知らないだろうが、命を落とした傭兵に色々と思うところはあるようだが、溜め息をつくとタマモへと向かう。
 ドゥの呟きには、ミルも苦笑するしかなかった。
「半分は写真を見たいがために依頼を出した私も、随分な頼みごとだとは思うがねぇ――はてさてどんな写真なのやら」
「きっと写真がどんなものでも、その人にとっては大切な写真なんでしょうね」
 では失礼しますと、十星もスピリットゴーストへと歩き出す。
(どうにも何かが腑に落ちんがな)
 煙草をふかしていた京一も何やら思案顔ではあったが、吸い殻を処分するとニェーバへと乗り込んだ。
「私も行きますか――それとミル様、シスター様、身を挺しての情報の提供ありがとうございます。敵の特性が分かるだけで大分やりやすくなりますので」
 ピシッとしたお辞儀を一つ、ヨハンはその場を後にする。ルノアに至っては随分前からKVに乗って、天候などの情報を確認しつつ待っていたりする。
「では行ってくるかの」

「さてまずは確認してみますか」
 届きはしないが自身の存在を示すためにも、射程である1000m圏内からプレスリーで威嚇するドゥ。発射するたびにライジングフレームが反応し、自機が発光するかのように金色に明滅する。
 その目立つ様相のおかげなのか、即座に岩石の砲弾がまっすぐドゥへと向かって飛んでくるが、冷静に後退しながらどこまで飛んでくるかを確認していた。そしてやがて砲弾が止む。
「どうやらそこまでのようですね」
 十星がドゥの止まった位置を確認し、そこから200m後方まで下がるとKVを待機させると、同じ位置に、京一とドゥも待機させて3人は地上に降りた。
 位置取りを確認した美具が、では偵察じゃと滑走、離陸――空へとあがる。
「では、陽動いたしましょうか、ルノア様」
「了解です、ヨハンさん」
 両瞳を真紅に染め、言葉のたどたどしさが消えたルノア機がブレス・ノウを起動させAIと連動させつつ、ウル掲げスナイパーライフルLRX‐1を肩に担ぐようにしたまま移動を開始する。
 ルノア機から距離を置き、ゼルクシールドを構えたヨハン機もジグザグに動きつつ前進を開始。
 直後、2機のKVに岩石砲弾の雨が降り注ぐ――が、そこはさすが能力者と言わんばかりにかなり正確な射撃にもかかわらず、当てさせない。
「さて、俺らも行くかね」
 エマージェンシーキットのシートを土で汚していた京一がそう口にすると、土の色をした布にくるまさった十星とドゥは頷き、まとまらずにばらけ、ゆっくりとウルルを目指すのであった――。

 射程外の高度からウルルの山頂を確認していた美具は、ヤモリの数と分布を確認すると同時に、なにかしらの痕跡がないか探していた。
「こちら美具。山頂には意外な事に、まったく活動していないヤモリが2匹おるだけじゃ。寝ておるのやもしれん」
 旋回し、ぐるりと周囲の様子もうかがう。
「北側のヤモリどもは4・4に分かれて左右に移動中、東に5匹、西に9匹――そして残り4匹が南に――いや、6匹じゃな。ペイントの付いていないのがおるのう」
 分布を報告し終わった美具だが、ふむと口元に手を当て、少し危険だが距離を保ちつつ低空で飛行し、洞窟の様子をちらっとだけ確認する事にした。
 距離的に大丈夫かと確認しつつの飛行――通り過ぎざま、洞窟のあったであろう位置を確認し――口をへの字に結んで即座に通信。
「洞窟はきれいさっぱりなくなっておる。あそこには壁画もあっただろうに、ますますもってけしからん奴らじゃ」
 聖地の無残な状態に、今回依頼を出すのが遅すぎじゃとミルに文句をたれながら、美具は引き返した――。

「数は多くとも、キメラでしかもただの岩石。精確なれど単調、かつ目視もしやすいものです」
 出発は南だが、ぐるりと東側に向かって誘い出しているルノア機。半身でウルを構え緩急つけつつ装輪走行していた。
 砲撃はだいぶ正確だがまっすぐに飛んでくるぶん先読みしやすく、射線にさえ注意していれば当たらない。
 砲弾の雨の中、一瞬の合間にLRXを構え、真正面のではなく、端の個体を狙って最大射程から狙撃。
 1匹が弾け飛ぶ。
「反撃するには十分すぎるほど、隙だらけですよ」
 そうは言いながらも、反撃できそうなタイミングでも狙う先次第では反撃せず、必要最低限にとどめていた。まだ倒す事は優先事項ではない。
 南側のヤモリを置いていかないように速度を調整しつつ時には後退も交え、東側に誘い出してそのまま北側を目指す。

 ジグザグに動き、時折かわせなさそうなものは盾で受け止めてルノアとは反対方向の西を目指すヨハン機。
 ウルルの頂上からの砲撃にも警戒していたが、美具の通信によりほぼないと判断し、その注意を今活動しているヤモリ達のみに向ける。
 ルノア側よりも数が多いのと、フィロソフィーの射程を保つために随分近づいたため、攻撃に隙がなかなか見当たらず回避に手一杯であった。
 足元の残骸を避けながら、というのも要因のひとつかもしれない――そう思った時に、ふと閃く。
(一定以上の大きさの動く物に反応するのかもしれませんね‥‥それならば)
 かわし、防ぎつつ周囲を確認。後ろ半分しかない元ジープを発見すると、それに向かい蹴り飛ばしてみせた。
 ゴゴンゴゴンゴゴン!
 案の定、元ジープは今度こそただの鉄の塊へと化したが、その砲撃には十分意味があった。
 反撃するには十分すぎる隙。
 フィロソフィーから放たれる6本レーザーが、ヤモリを撃ち滅ぼす。
「残骸を蹴りあげても十分に反応してくれますので、隙を作るにはもってこいのようですよ」

 2機が誘い出している間に、悠々とウルルに到着した3人。手分けし、岩陰に隠れつつもカメラの探索を開始する。
(近くで見ると、やはり正直生身では相手にしたくないが‥‥いざとなったらそうも言えないな。仲間をやらせるわけにもいかない)
 単騎だけならいけるだろうとは思いつつも、必要に迫られない限り大人しくしておこうと、ドゥはカメラの探索を続ける。
 山頂にあるだろうと踏んで、かなり角度が険しくなった岩山を登っている十星。陰に隠れつつとその進行は思わしくない。
(考えろ、同じカメラマンとして)
 以前、カメラマン達が通ったであろうルートをゆっくりと探索しながら、元ではあるが同じカメラマンとして思考を働かせている京一。
(戦闘風景、人物を中心――俺ならどう撮る?)
 戦闘痕が所々にあった。それならここら辺でも撮影があったに違いない――ふと張り出た岩に注目する。三脚として使えるのではないかと、ひょいと覗き込むと――そこに彼と呼ぶべきモノがあった。
 まだ浸食されきっていない岩と岩の隙間、そこにカメラを抱きかかえるようにして横たわっている。もちろんすでにこと切れていて、姿も悲惨なものであった。
 手を合わせ、装備品を物色しカメラ2つとフィルムケースを3つ。それ以外の荷物は見当たらない。
「手荷物の多くは車だったのかね‥‥なんにせよ目的のブツは手に入れたし、引き上げるとするか」
 周囲に警戒しつつ、無線を取出す京一だった。

「ひとまずは成功じゃな――あとは離脱と殲滅のみ!」
 射程外に着陸し、歩行形態に移行した美具の天。真っ直ぐにウルルへと向かう。
 飛来する岩はウルで受け流し、時には地を蹴って回避し、ヨハンからの情報をもとに残骸を片っ端から蹴り上げて標的を増やしつつ、30mm重機関砲で牽制(牽制でほとんどミンチだが)して距離を詰めていく。
 岩にかじりついているヤモリに急速接近し、センチネルの2枚刃でその首を挟み、切断。さしものヤモリも頭と胴体が泣き別れしてしまえば、息絶えるしかない。
「聖地を侮辱した落とし前は、きっちり払ってもらうのじゃ」
 派手な戦闘を繰り広げる美具をちらりと確認し、できるかぎり迅雷で距離を稼いでいるドゥ。そんなドゥをヨハン機が攻撃の頻度を上げ、後退しながらも援護する。
 その間にルノア機は討伐に切り替え、残骸に気を取られているヤモリに一気に近づき、ゼロ・ディフェンダーで脚を斬り払い浮かせたところで下に潜りこみ、地面に立て掛けるように長尺なスラスターライフルを構え、腹に押し当て発射。
 30発の弾が腹を吹き飛ばし、肉塊に変える。
「殲滅させる方が、気楽ですね」
 囮の役目から解放されたルノア機はウルルへの被害考慮は継続しつつも、駆動を駆使し盾で受け流しながらも付け入る隙あらばどんどん踏み込んで処分していく。
「派手にやってるな――俺らが乗り込む前には終わりそうだな」
「ですね」
 行く時よりは警戒もせずに戻っている2人だが、それでも砲弾飛び交う中を走るわけにもいかず、安全なルートで自機の元へと急いでいた。
「残りは半数、というところかな」
 迅雷とヨハン機の援護で2人よりもかなり早くたどり着いたドゥが、タマモへと乗り込む。
「それくらいですね。さすがに今の私達でキメラ退治となると、早いものです――ではお先に」
 ドゥを送り届けたヨハン機は、再び戦場へ。
「ああ――さあフック・フォクス・イーノクス、行こうか」
 プレスリーでこちらに意識の向いていないヤモリを撃ちぬきつつ、自動歩槍で牽制、集中砲火を食らわぬように位置取りには注意して、参戦するのであった。
(下手したら彼らとは別の位置に同種がいないとも限らない。別の種類がいる可能性もあるが‥‥)
 ドゥは周囲を確認しつつ、ウルルへと駆け上がると、旋でいまだに活動をしていない2匹のヤモリを貫き、地上に向けて投げつける。
 2匹のヤモリは30発の弾と6本のレーザーに貫かれ、戦いは幕を閉じたのであった――。

 迎えが来るまで時間があったので、依頼の発端となった女性宅に数人集まっていた。
 美具は、立つ鳥跡を濁さず。聖地には相応の敬意を払おうではないかと言っては薬莢など戦闘に出たゴミを回収していた。
 ルノアの方もカメラには興味がなかったせいか、そんな美具の手伝いを何となくでしている。むしろKVに乗っていたいだけなのかもしれない。
「本当に生きた心地がしない群れだったな‥‥」
 ドゥは生身であの群れの中にいた時の事を思い返し、冷や汗をぬぐう。事前に情報があり、KVだからこその圧倒的勝利だったが、情報なしで生身だったらと思うとぞっとする。
「しかし、あれ程の戦力を野放しにしているのは‥‥」
「重大な欠陥がある、ということなのだろうね。小さいものは狙わないとか、岩がなければ役に立たないとか、まあそんなところかね」
「現像できたぜ、お嬢」
 パタンと小部屋から姿を現す京一。女性から写真を見てもいいとの許可を得たので、同じカメラマンとしても興味のあった彼が現像していたのだ。
 元使用人としての癖なのか、自然と茶を入れているヨハンが京一の前に差し出す。
「お早いですね、京一様」
「時間もないから調整もなにもしてないが、こんなもんだろ」
 パサリと数枚の写真を、テーブルに無造作に放り投げる。
(エログロかなんてことのない日常かの二択だとは思っていたが、な)
 写真を手に取る、ミル。そこには女性がはにかんでいるだけである。
「ふーん‥‥大事な写真というのは、妻の写真――いや、この場合妻である君が大事、そういうところかね」
「ミルさん、彼は幸せだったんでしょうか」
 十星の問いに、さてねとしか答えられないミル。そんなミルを見つめながら、十星は続けた。
「私なら、大切な人を残して逝ったりはしないのですが」
「彼もそのつもりだったろうがね」
 わりとそっけないミルの態度。彼が自分との仲を深めるためが目的だというのを、察知しているのかもしれない。
 写真をテーブルに戻すと、立ち上がり、空気を吸ってくると言い後にする。
 煙草に火を灯し、泣き崩れている女性に京一はそっと声をかけた。
「写真は事実を写すだけ。そこにどんな真実を見るかは受け手側さ――貴方はこれにどんなラベルを貼るんだい?」

 外に出たミルは、本当にただ何となく空を見上げる。その表情は少しだけ、淋しそうだった。
「意外ね。前のお嬢ならツマランとか笑って言いそうだったのに」
 家の外で待っていたシスターが、淋しげなミルの背中に声をかける。
 振り返り、ミルが静かに笑った。
「私もだ――私を残して死んでほしくない人間の顔がちらついてね‥‥私も随分、変わったのかもしれんなぁ」
 再び空を見上げるミル。空はどこまでも高く、遠くまで広がっていた――。

『【落日】大事な写真 終』