タイトル:煙草と紅茶がピンチだマスター:楠原 日野

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/09/28 23:15

●オープニング本文


●インド南部
 中国の河北省の漁港から、視察を兼ねて陸路でインドに向かったミル・バーウェン一行。
 以前、キメラ騒動で関わってしまった村へのアフターもある――が、要件はそれだけではない。
「煙草と紅茶?」
「うむ。家畜だけにしてはやけに人口が多いと思っていたんだが、どうやらあそこは煙草と紅茶の出荷が意外と多いみたいでね。今やインドは世界でも有数の産出国――もともとはビディと呼ばれる葉巻中心だったのだが‥‥」
 白髪交じりの男、グレイから煙草の箱をむしり取る。
「こう高くても買ってくれる煙草があるからには、そっちにシフトチェンジしていたわけだね。それが大当たりしたわけだよ――それに一枚噛もうかなと」
「紅茶はどうなんですか?」
「スカーよ。少々勉強不足だね‥‥もともとアッサム茶葉なら世界一さ」
 鼻に傷のある男は指摘を受け、運転しながら肩をすくめるのであった。
 ガタガタと車で揺られ続ける事、8時間。ようやく目的地の村が見えてきた――。

●人口過密な小さな農村
「ふむ‥‥収穫できない?」
「はい‥‥」
 目の前の老人が、これでもかというくらいしょげている。半年ほど前のライフルを購入して梟型キメラ退治に息巻いていたあの頃からすると、随分老け込んだように見えた。
「それはなにかね、天候不十分とかそういうのではなく、か?」
「いえ――葉を食う毛虫が沸いたのですよ」
 老人の言葉に腕組みをして、しかめっ面を手で覆い隠す。
「――よくわからんな。退治すればいいではないか、という言葉しか思いつかないのだが」
 今ひとつピンとこないミルのために、老人は煙草畑と、隣接している紅茶畑へと案内する。
 広大な土地に煙草の葉と紅茶の葉が、青々と生い茂っていて、見るからに収穫時期であった――が、緑の中に所々うごめいている黒いのが、遠目からでも確認できた。
「多いねぇ‥‥でもそれだけで、普通じゃないか。薬液で退治とか、つまんで退治とかすればいい」
「ごもっともなんですが‥‥様々な薬も試しましたし、触ると凄まじい激痛が走り、火で焼いても焼けず、物で叩いても無傷なんですよ」
「ふむ‥‥?」
 薬が効かない――まあ、そういう種類がいるかもしれない。触ると激痛――毛虫の中には毛先に毒を出していて、素手で触るとえらい目にあうのもいる。
 だが火で焼いても焼けず、叩いても無傷。そういう虫は確かにいるが、毛虫ではないだろう。
 ミルは畑へと近づき、木の枝を拾ってまずはつついてみる。毛先に毒液がまんべんなく出てきたのが、光の加減でわかる。
ポーチから拳銃を取り出すと――毛虫に至近距離から発砲。
 しかし予想通り、弾丸が通らず、ぴんぴんしている。
「キメラじゃん!」
「これもそうなんですか?」
 過去に人を喰うキメラに襲われていても、さすがにキメラについての理解はそれだけでは無理だったようである。
「これが各地に現れて、今、インドの煙草と紅茶が収穫できず、蝕まれているのですよ」
「人類の嗜好品狙いというのは、目の付け所がいいというべきかなんというか‥‥何にしても各地と来たか――だが好都合‥‥」
 ぼそりと本音が漏れる。幸い、老人には聞こえていない――というか、聞こえないように声は抑えた。そこはちゃっかりというか。
(各地でというなら、ここで駆除方法を提示し交渉すれば、インドでの貿易も、かなりいいところまで食い込めるかもしれんな‥‥)
「よし! このタイミングでここに来たのも何かの縁だ。私が傭兵に依頼し、ここの畑の分を駆除してもらいつつも、君らでもできる駆除方法を考えてもらおう。
 私なないし、滞在期間を考えると殲滅速度も早い傭兵に即解決してもらうのがいいだろう」
「頼りたくても、そこまでの費用が‥‥現物くらいしか‥‥」
 傭兵への報酬がそこまですごいものではないにしても、彼らの収入から考えると、やはり躊躇してしまうのだろう。
 だが以前なら外部の人間に頼る事をよしとしなかったであろうから、そこは前回の傭兵の活躍のおかげと言えた。話がスムーズに進むのは、いいことだ。
「傭兵への費用は私が負担しよう。ま、うまくいった時は少し商談させてもらうよ」
 ふふーんと笑顔を老人に向け、部下に向き直る。
「という訳でだ、傭兵に打診してくれ! そうだねぇ――僕らの煙草と紅茶がピンチだ、とでも」

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
藍紗・バーウェン(ga6141
12歳・♀・HD
長谷川京一(gb5804
25歳・♂・JG
美具・ザム・ツバイ(gc0857
18歳・♀・GD
春夏秋冬 立花(gc3009
16歳・♀・ER
エドワード・マイヤーズ(gc5162
28歳・♂・GD
ミレーユ・ヴァレリー(gc8153
20歳・♀・CA
高縄 彩(gc9017
18歳・♀・HA

●リプレイ本文

●人口過密な小さな農村
「えるかむ!」
 両手を広げ、ミル・バーウェン(gz0475)が歓迎した。
「やっほ、同士。よろしくね――今日はカレー作っちゃうから楽しみにしてて!」
 春夏秋冬 立花(gc3009)はそのまま食材を調達しに行く。
「どうもそなたは傭兵を便利屋かなんかと間違えおるようじゃな」
「ふふーん、そう言うなって美具よ」
 そのうちスズメバチの巣の駆除までさせられそうな感じになってしまっているので、少々クサクサしている美具・ザム・ツバイ(gc0857)である。
「紅茶が危ないのだ、仕方あるまい」
「‥‥まあ煙草とやらはともかく、おいしい茶葉をキメラにくれてやるのも癪じゃからの」
「そうですよ! 私の‥‥じゃなくて、私達のアッサム茶がっ! は、早くあの毛虫達を退治してしまわないとっ!」
 ミレーユ・ヴァレリー(gc8153)は趣味が紅茶なだけあるという事か、随分と必死になっている。
「おや、初めましてだね。ミル・バーウェンだ、よろしくだよ」
 手を差し出すと、はっと我に返ったミレーユが握手し返し、鍋を借りに村へと入っていった。
「けっひゃっひゃっ、我輩はドクター・ウェストだ〜! 英国人として紅茶だけは、紅茶だけは〜!」
「その通りだよ、ドクター。英国人として、紅茶だけは守らないとね」
 ドクター・ウェスト(ga0241)とエドワード・マイヤーズ(gc5162)の2人は、冷静に見えるがひっそりと熱くなっているのだ。
「ミル君、例の物は用意してもらえたかね〜?」
 黙って納屋の前を指さすと、バケツとトング、それにドラム缶や猫車など様々なものが置かれていた。
「直接つかまなければ毒は大丈夫だろう〜。では我輩、少々村人にキメラについて講義するため、招集するかね〜」
「こんにちはなんだよーミルさん」
 突如、ミルの後ろから飛びこむように抱きついてくる高縄 彩(gc9017)。
「おお、まいふれんど。今日も来てくれたのか――でも、大丈夫かね?」
 彼女があまり戦闘を得意としていない故に心配する。
「このくらいのお仕事なら大丈夫かな? この前も何とか戦えたしねー。とりあえず、お仕事終わったら紅茶の淹れ方教えてもらうー」
「OK!」
「実は、紅茶も緑茶も烏龍茶もすべて同じ茶の葉からできるのじゃよ」
 割烹着を着た巫女姿の藍紗・T・ディートリヒ(ga6141)が、ミルを下から覗き込むように頭を突き出す。
「藍紗久しぶりだね。楓門院訪問以来かね」
「うむ、久しいの――ところでうまくいったら、発酵させずに乾燥した茶葉を少しもらえるかのぅ?」
 首をかしげはするが、ミルは任せろと親指を立てるのであった。
「皆紅茶紅茶と‥‥少しは煙草の心配もしようぜ〜」
 煙草を絶えず吸っている長谷川京一(gb5804)。
「人類のみならずバグアも嫌煙か、寒い時代だ‥‥」
「煙草は滅びてもいいと思う」
 京一のぼやきに、戻ってきた立花がぼそりと決して小さくない声で呟いた。
 煙草を咥えているのは――京一だけ。
「はぁ‥‥肩身が狭いねぇ」
「大丈夫だよ、京一君」
 チラリと懐のシガーケースに収められた葉巻を見せる。それに少しは元気づけられたか、京一はスコップを手に取り煙草をもみ消した。
「とまぁ、ボケをかました所で仕事と行こう」

●紅茶畑
「アノ毛虫を棒などで叩いた者はいるかね〜? ソノ時赤い光を放っただろう〜。アノ光こそがキメラでありバグアである証拠のフォースフィールドの光だ〜」
 FFについて、村人の前で講義を続けるウェスト。
「アノ毛虫どもも戦車の炸裂弾を撃ちこめば死ぬが、ソウでもしなければ死なないのだよ〜。もちろんソンナものを撃ちこめば、畑がどうなるかはわかるだろう〜」
 うんうんと、素直に頷く村人達。彼らはどんどん質問を投げかけ、それにウェストは逐次答えていくのであった。
「これだと、どうじゃろうかの」
 藍紗は木の棒に蜘蛛の巣を巻きつけ、毛虫を絡め取る――が、生い茂った葉っぱまで絡みとってしまいなかなか上手くいかない。しかも奥にいる毛虫はあきらめざるを得ないので、早々にその棒は毛虫の集積所として掘られた深い穴に丸ごと放り込む。
 続いて、AUKVの動力で発電しながら、掃除機を構えてみる――と、同じように掃除機を持った彩がニッコリと寄ってくる。
「初めまして、高縄 彩なんだよー」
「藍紗・T・ディートリヒじゃ、以後宜しくなのじゃよ」
「よろしくー。で、できれば電気使わせてほしいかなって思ったんだよー」
 藍紗と同じ型の掃除機を見せる彩。自分と同じ考えの彩に、少し意地の悪い笑みを浮かべ後で礼はしてもらうかのと呟きつつ、電源をつなげる。
 そして2人は仲良く掃除機で毛虫を吸い取ろうとするが、吸い込みが強すぎて毛虫どころか葉っぱも次々にむしっていくため、慌ててスイッチを止め――顔を見合わせ、声を立てて笑うのであった。
「んーじゃあこっちはどうかな〜?」
 ハンディタイプで毛虫を吸い込んでみると、なんとか毛虫だけを吸い取るという事が判明した。
「おおー‥‥でも、1匹吸いこんだら詰まっちゃって、2匹目が吸い込めないからだめかー‥‥。
 ところで、担当する場所とか振り分けた方がいいかなー。すっごい広いし、その方が効率良さそうなんだよー」
「それはいい案だね」
 いつの間にか後ろで見学していたエドワードが口を挟み、手をあげて皆の注目を集めると今しがたの彩の提案を具体的に説明し、各自、それを受け入れる。
「うん、高縄嬢。君の案は通ったので自分の担当に集中したまえ。それではだ!」
 ビシッと、トングとミスティックTを携えたエドワードはその場を後にする。
 その後彩は、自分の周りに人がいなくなったのを確認してから、子守歌を鼻歌混じりに歌いながら、動かなくなった毛虫をクリスダガーで落としては小型超機械αで黙々と退治し、時には葉の下にシートを敷いてブロワで落とそうと実験してみたりするのであった――。

 藍紗はというと、AUKVの装甲の上から皮手袋をして掴んでみるが、どうしても皮手袋ではだんだんと中にまで毒が浸透してきてしまう。。
 防ぎきれていないなら意味は薄いとその方法も断念し、憂さ晴らしと言わんばかりに扇嵐で弱めの竜巻を作り、毛虫どもを巻き上げ、投網で一網打尽にする。
「大量じゃの。サクサク終わらせて、茶にするのじゃよ」

「さて、僕は煮詰めてみる方法をだね」
 トングで軽々とつまんで、絶えず火で煮立たせている鍋の中に毛虫を投入していく。
「鍋にキメラを集めると、FFで鍋が壊されしまうとドクターが言ってるが――やってみなきゃわからんよ」
 次々に放り込んではみるものの、FFで壊されることもなく順調に鍋にたまっていく――が、途中である事に気付いた。
「‥‥どうやら、普通の毛虫よりは長く生きるけど、入れたら数秒で死んでるようだね――当初と少し予定が違うけど、この方法は十分いけるね」

「春夏秋冬さんが美味しいカレーを用意してくれるそうなので、そちらも楽しみですね」
 ワクワクとしつつ、コンロに鍋を設置し、純度の高いアルコールを張る。
 トングでつまむと、ぽちゃんと鍋に落とし入れ続けた。その間にも、退治した後の事で頭の中は一杯であった。
「エドワードさんがお茶菓子にスコーンを用意してくださってるし、甘党と私用のためにマドレーヌなどを用意したのですよね――ああカレーにティーパーティー、そして甘いもの‥‥早く終わらせませんと!」
 髪をふわふわ浮かせながらミレーユはかなりな速度で次々鍋に毛虫を入れていく――と、溢れそうになったころあたりに点火させる。
「ドクターウェストさん、アルコールを沸騰させますので少し離れておいて下さいね」
 講義を終わらせたウェストに声をかけるミレーユ。事前にアルコールが弱いと聞いていたので、彼を気遣ったのだ。
 しかし対策はばっちり、鼻と口を覆ったガスマスクを装着していた。
「大丈夫だよ〜。対策は施してあるからね〜」
 トングつまんではバケツに入れていく、ガスマスク姿のウェスト。白衣にガスマスク姿は実にシュール。
 ミレーユが鍋を覗き込んでみると――沸騰後数分以内でほとんどがピクリとも動かなくなっていた。
「煮詰めて毛虫の水分を飛ばそうと思っていたのですが――そこまで必要なかったようですね」
「ふむ、実に脆いキメラだ〜。研究し甲斐がないね〜。それでもあとで毒の抗薬くらいは注文しておくかね〜」
 バケツに集めた毛虫を集積所の穴にひっくり返し、灯油をまぶして火を放つ。
「火で焼き続け、FFを張れなくなるまで攻め続ければ後は毛虫と同じと思っていたが、どうやら1時間も生きていられそうにないようだね〜」
 村人でもできる対処法と確信したウェストは、白鴉と機械剣αを手に持つ。
「展開せよ〜我輩の憎悪の曼珠沙華(リコリス)〜」
 眼を輝かせ、紋章を周囲に展開したウェストは実に器用に手早く的確に葉を傷つけず毛虫だけを焼き殺していく。
 さすがは高位の能力者。すごいにはすごいが――相手が毛虫だと思うと、少し大人げない。
「けっひゃっひゃ、啄みたまえ〜、我輩の白い鴉よ〜」
「張りきっておるのう‥‥それにしても物理的に殺せないんだったら搦め手で攻めればよかろうて。空気攻め、兵糧攻めいくらでもやりようはある」
「まあ、そういうこった」
 ウェストの姿を尻目に、美具と京一は上を取っ払ったドラム缶を地面より1m以上埋める作業を完了させていた。
 内側には彩の案を取り入れ、登れないように油を塗ってある。
「おし、俺はしばらく毛虫共の耐久性など調べてくるか」
「がんばってくるのじゃよ、長谷川殿」
 ヒラヒラと手を振って、煙草畑に向かう京一。眼帯から青白いオーラを立ち上らせている美具は紅茶畑の毛虫達を、葉や枝ごと折ってドラム缶に入れるを繰り返すのであった。

「ナイフで落としてと――」
 触らぬようにアーミーナイフで毛虫を落とすと、錫杖型の超機械『鎮魂』で焼き殺していく京一。
 キメラとは思えぬほどのあっけなさに、毛虫型キメラというよりはFFを持っただけの毛虫と判断した京一は、武器をしまい火箸に切り替える。
「さて、そんじゃ色々試して見ますかね? ――ん?」
 カチカチと火箸を鳴らしていた京一は、煙草畑の畝に不自然に置いてあるカゴに気がつき、覗き込んでみると――葉が敷き詰められ、何匹か毛虫が入っている。ご丁寧に入り口部分は返しになっていた。
「あ、それ私が置いたんです。結果はどうかなー?」
 カレー臭漂わせている立花が、ひょいと覗き込んで満足げに頷く。
「ばっちりですね!」
「‥‥普通に出入りしているんだが」
 指摘通り、毛虫は自由に出入りしていた。
「あー‥‥失敗かぁ。煙草は滅んでもいいけど、村人の為にもがんばろー‥‥」
 がっくり肩を落とした立花は、地道にそーとっトングでつかんではカゴに入れていく。
「‥‥沸騰した洗剤液に入れたり箱に詰めて置いといたら、そのうち死ぬかなぁ‥‥うへぇ。なんだろうもやもやする」
 京一は肩をすくめ、火箸で器用にヒョイヒョイ挟んで猫車に乗せては埋めたドラム缶にあけてを地道に繰り返す。
 時折レーションをひとかじりし、小休憩を挟みながら繰り返すと効率のいい方法の為か、ドラム缶はあっという間に2つほど毛虫で一杯になった。
 水とアルコールを混ぜた物を張っていた方は、彩も便乗していたからというのもある。
 水に沈み動きの鈍った毛虫がやがて動かなくなる――溺死したのであろう。
「溺死はすると――水だけでもいけるかもしれんな」
「ほう、京一殿は水責めか。どれ、美具も」
 京一が実験中に美具も半分ほど溜まったところで、ガソリンをかけて火を放つ。程よく蔓延したなと思ったところで、切り取った部分で蓋をすると、土をかけて埋めてしまう。
 もう1つの8分目まで溜めた方はというと、同じく蓋をして用意してあったコンクリートを流し込むのであった。
「おおコンクリな。俺も使うかね――コンクリ抱かせて沈めるのは裏家業じゃ常套手段さね」
「ほうほう、空気攻めに兵糧攻め、水攻めにコンクリ攻めかね?」
 京一がもう一つのドラム缶にコンクリを流していると、ミルが様子を見に来た。
 美具はうむと頷き、腕を組む。
「美具のはどちらもキメラが食い物があるうちは積極的に人を襲わずにいる事から考え出した方法である。忍耐強くキメラを集める必要があるため手間がかかるが、人手だけあるはずなのでやれるはずじゃ」
「ふーむ、なるほどねぇ。土だと掘られる可能性も考慮してのドラム缶か、方法は悪くない――だが残念な事に、ドラム缶もコンクリもアルコールもここまで持ってくるのが大変なのだよ」
 用意した依頼主がそう言うならば、そうなのだろう。
 結局は皆、ただの穴に落としては火を放つだけの原始的ながらも効果的な手段へと落ちつくのであった――。

「みんなー。ご飯できたよー。ちなみに同士の奢りでー」
「ナニィ? ‥‥まあこの味に免じて、それくらいはいいかぁ」
 初めて自分の奢りと聞かされたミルだが、見た目グリーンカレーをチーズナンに乗せて頬張り、文句も飲み込む。
「美味いには美味いが、もの凄くというほどでもないな――」
 だがそれでも待ち望んでいたミレーユの食は進み、お腹いっぱいになった所でミルクティーを作ろうとしていた。
「やっぱり一仕事終えた後の甘いものは格別ですよね」
「おっと、待ちたまえ。ミルクは先に入れるべし。ミルクティーの鉄則だね」
 スコーンを並べ、お茶会の準備をしていたエドワードが口を挟む。英国紳士としてのプライドなのだ。
「そうなのー? 飲むのってコンビニのミルクティー位だしー」
「あ、私はアッサムはストレートで」
 鍋を洗っている立花の横では、ミルは彩に紅茶の淹れ方を教え、ミルクティーのホットかコールドミルクかによる違いも教えながら、楽しんでいた。
 そこにお盆で羊羹と緑茶をずどんとテーブルの中央に置く、藍紗。
「葉を少し分けてもらっての、緑茶に仕立ててみた。一杯いかがかの?」
「我輩は紅茶のみで結構だね〜」
 黙ってカロリーバーをかじっていたウェストが、自分の分の紅茶を手に取り席を立とうとしたところ――スカーンッと突如藍紗がSES搭載の鬼包丁を投げつけ、柱に毛虫を縫いつける。
「‥‥危ないぞ? 大人しく椅子に座っておれ」
 珍しく青ざめたウェストは黙って席に座り直す。
 代わりに京一が少し一服といい、エチケットとして席を立つと藍紗は笑顔で見送るのであった。
「‥‥インド産ってのも、悪くない」
 村人から感謝の印にもらった煙草を吸い、京一がぽそっと呟く。
「それなら京一君、葉巻もどうかな。匂いがアレなので好き嫌いがわかれるけどね――ま、吸ってみたまえ」
 シガーカッターで切り落とし、火をつけた葉巻を勧めるエドワード。
 こうして肩身の狭い愛煙家達は、交流を深めるのであった――。

『煙草と紅茶がピンチだ 終』