タイトル:【MO】無理難題マスター:楠原 日野

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/07/17 06:11

●オープニング本文


●カルンバ・UPC駐屯地本部
「おや、バーウェン氏。どうかされましたか?」
 高官である駐屯地責任者が、入室してきたミル・バーウェン(gz0475)をわざわざ立ち上がって出迎えた。
 たかだか一介の武器商人相手に、だ。
 もっともカルンバを落とした功労者であり、オーストラリア東部攻略の足掛かりを作り上げたスポンサー様である。
 目先の事しか見いだせず、士気を上げるためだけに、独断で無抵抗に等しい強化人間の施設を傭兵に蹂躙させたりもした男である。
 そして、今回ミルが気に入らないこの男に会いに来たのは、その件でだ。
 来客用ソファーに腰を掛けると、向かいに下卑た笑顔の高官も座る――珍しく嫌悪感をあらわにするミルだが、口元の笑みだけは何とか保った。
「先日『英雄様』がご誕生なされたね?」
「ええ、わが軍の誇りですよ。彼らの活躍により、強化人間の大規模な訓練施設を落とせたのですからね」
 自慢げな高官の言葉に、腕組みをして背もたれによしかかるミル。その目は冷たい。
「少ない戦力で重大施設を一つ潰せた、そう言いたいわけだ」
「ええ」
「とぼけるな、馬鹿者」
 小娘に馬鹿者と呼ばれ、高官の笑みが強張る。
「あそこは脅威になるような施設ではないと、すでに調べはついている。データーは破棄したようだが、この私が調べていなかったとでも思っていたのかね?」
 誤魔化せないと判断した高官はふうとため息を吐き、小馬鹿にしたような目でミルを見下す。
「それがどうかしましたか? 強化人間による施設であるにはかわりありませんが――まさか無抵抗で無力な強化人間共だったのだから、温情をかけろとでも?」
「私が怒っているのはそこではない。無力だろうが強化人間は潰す、それはあたりまえの行為だ。助けるだけ無駄だろうからな」
 自分に牙をむいたゲリラ村を、当たり前のように抵抗無抵抗関わらず老若男女、1人残らず殲滅させた事が何度もある『悪人』は目の前の小物を睨み付ける。
「これにより、その他の施設や小規模シェルターの戦力が強化される可能性は、考えもしなかったのかね」
「‥‥」
 その指摘に、黙りこくってしまう。
「目先の手柄に気を取られ、全体を見落とすような輩を無能と呼ぶんだ。はっきり言えば失態だ。上層部の方でも気がつく者がいるだろうな」
「それは、脅しかね‥‥何が望みだ?」
 苦々しく吐き捨てる高官を前に、ミルがニヤリとあくどい笑みを浮かべた。
「よろしい。それでは1つ――いや、いくつか私のお願いを聞いてもらえるかな?」

●カルンバ・ブリーフィングルーム
 数人の傭兵が集められ、彼らの前で壇上に立つミル。
「さて、クックタウンに向かわなかった残っている君達にも、ちょっとお願いがあるのだ」
 知らないであろう者に自分が楓門院に拉致され、タウンズヴィル付近で救出された所までをざっと説明してみせる。
「そしてだ。前回わざわざ助けに来てくれた者には実に申し訳ないが‥‥今回、私と共にタウンズヴィルに向かってもらいたい――正しくは、私を楓門院の前にまで連れて行ってもらいたい」
 ザワリとどよめく。厳しい状況から助けだしてきたのに、わざわざまた恐ろしいバグアの前に連れて行け――正気の沙汰とは思えないからだ。
「私が得た情報だと、楓門院はまだタウンズヴィルにいるはずでね。試作の強化人間視察だとかでしばらく滞在すると、楓門院からコーヒーを飲みながら聞き出したんだ」
 情報の出所がバグア本人からというのはあまりにも驚異的すぎる事だが、実にこともなげに説明する。
「本来なら軍を引き連れて攻め入る所かもしれんが、軍には軍で、クックタウンを落とした直後に向かってもらったり、各地の小規模シェルターを同時攻略してもらうつもりだから忙しいのだよ。
 どこぞの馬鹿が先走りしたので、警戒される前に一気に落さねばならなくなってしまってね。迷惑な話さ」
 フフーンと、迷惑と言いながら笑っている。
「幸い、小規模シェルターの戦力は皆無に近いと楓門院との会話からつまめたし、軍に任せても大丈夫なのだよね。いくつかは傭兵諸君にお願いする時があるかもしれんが――無能で迷惑したが無能で助かったよ。実に操りやすい」
 さらりと言ってのけるミルに、ミルを知っている人間は呆れ、よく知らない傭兵は愕然としていた。
「さてそれはいい。本題だ。
 現状を打破というより、お互いカードも少なくなりつつあるからね。楓門院に1つ提案しに行きたいのだよ。拠点であるシドニーでお互い全戦力で勝負をつけないか、とね。
 そもそもあのおばちゃん、わざわざそんな情報を私に聞かせ、半分わざと私を逃がしたのだ。私ならそう来るだろうと見越してだろう。
 ――気に入らんが、小規模シェルター潰しの時間稼ぎの陽動にも使えるし、私としても、そろそろ長々とした戦いに決着をつけたいのは本心だ」
 ポーチから煙草を1本取出し、咥える――ただの飴だが。
「この提案自体は多分、通る。あの悲観的なおばちゃんなら受けるだろう――運命なのですねとか言いながらね。
 何よりもあのおばちゃんに気にいられたのでな。私が言えば聞いてくれるだろう――逆に言えば私以外の言葉は受け付けない可能性が高い。ほぼ指名されたようなもんだ。
 ただもちろん、危険な事には変わりない。楓門院に会う事は簡単かもしれんが、そこから逃げるとなると容易ではない。試作型強化人間との戦闘も免れんだろうし、楓門院も襲ってくるやもしれん」
 ポキっと煙草型を折って、口に入れる。ゆっくり舐めるのが、めんどくさくなったのだろう。
「つまり諸君には、私を護りつつ楓門院の元へ送り届けてもらい、私を連れて撤退してもらいたい。そういう事だ。無理難題なのは承知だが、君らを全面的に信頼してるよ」
 クイッと手招きをすると、ドライブが前に出てくる。
「現地までキャンピングカーで移動。運転は彼に任せるので、諸君らは十分な休憩が取れるだろう。今回は無理難題だと自覚しているのでね、私の扱いは諸君らに一任する。
 さあ諸君、そろそろオーストラリアを返してもらいに行こうではないか」

●参加者一覧

藍紗・バーウェン(ga6141
12歳・♀・HD
砕牙 九郎(ga7366
21歳・♂・AA
錦織・長郎(ga8268
35歳・♂・DF
長谷川京一(gb5804
25歳・♂・JG
美具・ザム・ツバイ(gc0857
18歳・♀・GD
蒼 零奈(gc6291
19歳・♀・PN

●リプレイ本文

●キャンピングカー内部
「やれやれ、思い立ったら、即行動とは‥‥なかなか難儀な性格じゃの。流石は商人、機を見るに敏というやつじゃ」
 ガタガタと揺すられ牽引されている、自分のアスタロトを眺めながら藍紗・T・ディートリヒ(ga6141)が頷きながら呟いていた。
「そりゃあメイさんの元上司だもん」
 そう答えた刃霧零奈(gc6291)は、いつもの明るい表情はなく、ソファーの上で片膝を抱えてじっとしていた。
(メイさんの代わりに護衛しなきゃね。冷静に熱く‥‥青い炎で‥‥でも、いざとなったらこの身に代えてでも――)
「違いあるまいな。じゃが‥‥」
 美具・ザム・ツバイ(gc0857)が薔薇の香りのするティーカップを口に添え、一口。飲み込むと眉根をしかめ、頭を振る。
「くっ、無念じゃ。この重要な時期に負傷とは、情けなくて涙が出る」
 そう言ってもう一口――その手が微かに震えていた。平然としているが、本来なら動く事もままならない怪我のはずなのである。
 しかし高貴たるもの、弱った姿は見せない――ようするに見栄だが――それが彼女の信念なのだ。
「それはともかく――まったく、難題ばかり押し付ける。あの武器商人様は‥‥貸し2じゃな」
「この前以上に本当に無理難題だが、一騎打ち通告且つ他方面進攻時間稼ぎとならば意味が有るだろうね」
 ハンカチに山葵とカラシを塗り付けては丸めるという作業をしながら、錦織・長郎(ga8268)が肩をすくめた。
「ははは、敵陣へ戻れと仰る。あの時は割と本気で死を覚悟したんだがな〜? 今回も本気でシャレにならん」
 以前、誘拐されたミル・バーウェン救出作戦に参加した長谷川京一(gb5804)は、開けた窓によしかかり、煙草をふかしながら少々シニカルそうに笑っていた。
「えっと‥‥みんな何の話?」
 今一つ会話にピンと来ないのか、砕牙 九郎(ga7366)が頬をかきながら苦笑いを浮かべ皆に問いかけると、注目を集める。
「カカ、なんじゃ砕牙殿、聞いておらなんだか?」
「なんか急ぎの仕事ぽかったので、とりあえず乗っただけなんだけど――もしかして、かなりヤバイ仕事?」
 説明も聞いていないのに仕事に跳び込むとは、実に彼らしいかもしれない――そう、皆が思った。
「ここらを取りまとめるコワーイバグアとの会談を、我らが武器商人様はご所望じゃ」
「‥‥いやいやいや、危ない事しようとしてんなぁ。あのペッタンさんは」
 ペッタンが誰を示すか――わかってしまうだけに、皆失笑する。
「危険じゃが、意味はある。極力リスク回避し、今度の作戦は楓門院がどれだけ頭がいいかにかかっておる」
 カチャンとカップを左手のソーサーに戻し、テーブルの上の地図に置く。その隣には現在の航空写真。支配域の航空写真が手に入ったのは、幸いであり、同時に重要拠点ではないと意味していた。
 支配前のタウンズヴィルマップには様々な書き込みがあり、赤い丸印がいくつかある。
 美具は己の不明さを深く恥じ、力を尽くせる範囲で任務成功の方策をずっと練っていたのだ。
「ここに来るまでに情報を整理し、美具なりに整理し、プランをたててみたんじゃが聞いてもらえるかの」
 そう切り出すと、皆が地図を覗き込む。
「ミル殿の話から楓門院は、ミル殿が戻ってきたと聞けば興味本位で姿を現すと思うのじゃ。我らが接触した後に、会談場所まで誘導――できればこの緑地公園がいいな。周囲が開けているが、遮蔽物の多いここなら狙撃のポイントも予測しやすいし、こちらからも不意を突きやすい」
「もっともな判断だね」
 蛇のような笑みを浮かべ、肩をすくめる長郎。
「楓門院が来たところで、車ごと出向いてもらいミル殿を投下。会談後回収し、即座に直衛と共にこの高台まで逃走。残った者達は足止め、別方向に誘導などをお願いしたい」
「つまりは殿ってわけだな。それは俺が引き受けっかな」
「あたしも残るよ。危険な役割はあたしの役目ってね」
 九郎と零奈が殿を買って出ると、おのずと各自、自分の役割を口にする。
「我は犬どもの排除に楓門院までの道を作ろうかの。撤退時も同じく、道の確保じゃ」
「なら僕はミル君の護衛だね。車を追跡してきた時の露払いをね」
「俺もお嬢の護衛だな。狙撃は専門分野だからな、狙撃の警戒を重視しながら車の後をついていくとしよう」
 それぞれの役割に頷く美具。満足げであるが、同時に悔しそうでもあった。
「本来なら殿は美具なのであろうが‥‥スマンの。美具としても楓門院には借りがあったのじゃが、口惜しい」
「気にスンナって。怪我はしゃーないさ」
 九郎の心遣いに美具は深々と頭を下げる。
「そう言ってもらえると、ありがたい――逃走ルートじゃがなるべく最短で真っ直ぐか複雑にか、じゃが――」
「最短で真っ直ぐの方がいいだろうね。地の利はこちらよりも、あちらの方があるのだろうし――こっちかこっちのがいいだろうね」
 肩をすくめ、地図に示した2本のルートをなぞる。長郎の指摘に、美具が頷く。
「やはりそうじゃろうな。その2本が走りやすく最短になるとは思うのじゃが」
「なら、こっちの道がいいだろう。こっちは狙撃の確率が少し高いし、航空写真から見た限りでは道もいいしな」
 狙撃に適したポイントを指し示す京一。彼ならではの意見だろう。
「ではこちらの道に。そうなると楓門院達を誘導すべきはこちらの道と言う事になる」
「わかったさ」
「ん、了解だよ。美具さん」
 頷き、全員がルートを把握する。
「2人の逃走ルートは美具が指示を出す事にしよう。さて、肝心の楓門院の居場所じゃが――美具はここら辺が怪しいと思うておる」
 トンと、浜辺付近の大きな建物を示す。
「ミル殿曰く、生活感があり小奇麗な所となると、もともと生活感があり小奇麗である事が大前提じゃ。それすなわち商業施設やら公共施設は無論論外、そして民家では拠点としにくい」
「カカ、どの程度の人数かわからぬが、小さいものな」
 扇子で口元を隠し、笑う。
「うむ。そうなるとホテルやリゾートマンションになるのじゃが――ここで航空写真よの。
 建物の外見はどれも似たようなものじゃが‥‥少々見えにくいがこの建物だけ、ガラスが割れておらぬし、周囲も綺麗になっておる。ほぼ間違いなくここに誰かが居るという事じゃな」
 実に理にかなっている美具の説明に、一同は感心していた。
「くっくっく、実験場とは言え、バグアにとってもリゾートというわけかね」
「バケモンのくせして、贅沢な話だ」
「違いない」
 男2人、肩を揺らして笑う。
「ならそこまで我が道を開けばいいのじゃな」
「そういう事になる――そしてあとは呼び出す手段じゃが――拡声器でもあればのう」
「それなら」
 九郎がゴトっと地図の上に拡声器やスピーカーを並べる。
「‥‥とりあえずで乗ったわりに、ずいぶんと用意がいいのう」
「まあ、なんとなく?」
 苦笑いを浮かべ、本当にただなんとなく感を漂わせる九郎に、零奈がひょいと顔を覗き込む。
「砕牙さんはツッコまれるために持ってきたんだよね」
「いや、そんな事はないからねッ?」
 いつも通りの光景に、傭兵達はこれから起こる厳しい戦いを忘れ、声を立てて笑うのであった。

「砕牙め。後で仕置きだな」
 傭兵達の様子をモニターで見ていたミル。もちろん会話もばっちり聞いていた――九郎のペッタンも全て。
「はっは、有名ですな。お嬢の平らっぷりも」
「やかましい、ドライブ。君は運転に集中していたまえ――にしても、やはりさすがは傭兵といったところか。なかなか綿密だし、察しもいい」
 腕を組み、会話を分析しては1人頷くミル。彼女にとって無能は嫌いだが、有能は大好物なのだ――まあ無能が好きという人は稀だろうが。
「それはそうと、大丈夫かね。君は。キメラの追撃をかわしながらも、怖いバグアの真ん前まで行って、帰ってこなければならんのだが」
 能力者ですらない自分の部下に、多少なりとも不安を感じる。しかしミルの不安もよそに、ドライブはいつものように陽気に笑っていた。
「はっは、いまさらですよお嬢。無茶なのはいつもの事――このくらいの事やぶさかですよ」
「それを言うならやぶさかではない、だろう。やぶさかだと容易ではないと言う事になるからな」
 ミルが指摘するとドライブは、はっとして口元を隠す。
「おや失敬。つい本音が」
「うぉい」
「冗談ですよ、お嬢。はっは!」
 まさしくいつも通りの自分の部下の様子に、ミルは安堵し、シートに座り直す――そして双眼鏡で前方を確認する。
 町の影が見え始める。タウンズヴィルだ。
「いよいよ始まるか――命を懸けた勝負が」

「あろーあろー傭兵諸君。私だ、ミルだ。そろそろ敵勢力圏内に入る。各自準備はいいかね?」
 車内放送が流れると、陽気な空気は一転、張りつめた空気が広がる。
「了解じゃ。キメラが姿を現したら、我は出るので、合図宜しくなのじゃよ」
「おっけーだ、藍紗。他に誰か、何か言う事はあるかね」
 丸めたハンカチをポケットに仕込んでいた長郎が、ふと思い出したようにくっくっくと笑いながら口を開く。
「あとはまあ、敵首領能力を看破しているのを悟られないようにかね。知られてるのを悟らせないのもエスピオーナジュなのだからね」
 いつものように肩をすくめる。
「ふむ、今後の為にも隠しておくのは確かにいいことだろうね――他には何かあるかね?」
「もう一つ。ルートなどの連絡は必要最低限の単語にするね。盗聴されても構わないように」
 伊達眼鏡を直し、蛇のような笑みを張り付ける長郎。
「了解だ、長郎」
「帰ったら‥‥何か奢ってもらうぜ?」
 張りつめた空気の中、やんわりと和らげるいつもの京一。
「わかった、覚悟しておこう」
 心なしか、ミルの声も和らいだ気がする。
「それじゃ俺は――」
「却下だ」
「なんで俺だけ!」
 九郎とミルのやり取りも、空気を和ませる。
「いつものように、巨大な泥船に乗ったつもりでおるのじゃな」
「上手い事を言うね、美具」
 空になったカップをシンクの中に片す。
「無事、無傷で帰還させるからね。でなきゃメイさんに顔向けできないからさ」
「‥‥ふ、頼りにしているよ刃霧」
 閃光手榴弾とかなり匂いのきつい香水を忍ばせる、零奈。
 皆の覚悟と準備が整った――ミルと楓門院の勝負が、始まりを告げたのであった。

 市内に入ると、さっそくお出迎えがやってきた。
「前方よりワンコロ多数接近中だ、藍紗」
「了解じゃよ」
 後部ハッチを開き牽引ユニットを伝って、キャンピングカーを止まらせる事無くアスタロトにまたがる藍紗。
 車が左右に揺れ――横を犬型キメラが通り過ぎ去り、切り替えして追いかけてきた。
「ふむ、そろそろ始めるとしようか‥‥藍紗・T・ディートリヒ、白鬼夜叉‥‥出る!」
 瞳が緋色に変化し、赤黒いオーラが立昇り着物が染まると、少し長くなった犬歯を覗かせて笑うと、牽引ユニットから切り離し自走を開始する。
 跳びかかる犬型を、一瞬にして両手に持った疾風で両断。疾風を脇に抱えると、加速して車の前方へと躍り出る。
「露払いと案内は任せるがよい!」
 単調な動きしかしない犬型など、見た目と違って熟練の傭兵である藍紗にとって物の数ではなかった。
 何匹こようと、何匹跳びかかろうと、疾風で一瞬にして屠っていく。
「あれが美具殿の言っていたリゾートマンションとやらじゃな――確かに廃墟の町には似つかわしくない気配を感じおるわ」
 まさしく言葉通りで、そこだけが世界が違うような錯覚に陥るほど、綺麗なものであった。
 藍紗が止まると、車もその前で止まる。
 止まると同時に傭兵達も次に次に降り、周囲を見渡し、警戒を強める。
「あろーあろー、楓門院静紀。こちらミル・バーウェンだが、ご機嫌いかがかね?」
 車の外部にとりつけたスピーカー(九郎持参)からミルの声が流れると――玄関ロビーから黒づくめの人間が多数出てくる。
「さっそく強化人間のお出ましか!」
 九郎は吠えると、髪が黒から銀へと変化し、瞳が赤くなる。
「だが正解のようだね」
「そのようだ」
 蛇のような眼に変化する長郎に、翠色に淡く発光する京一。
「カカ、飼い主が怖いのか、犬もよりつかんとはの」
 藍紗が様子見と言わんばかりにアスタロトから降り、地上に立つ。
 お互いが武器を構える前に、紅い影が真っ先に近づいてきた黒づくめの男を縦に両断する。
 紅い瞳の零奈が返り血を浴び、その紅さを増していく。
「アンタ達は邪魔なんんだよ、大人しく死んでて、ね?」
 それが合図となったか、双方、武器を構える――と。
「待ちなさい」
「待ちたまえ」
 同時に制止の声が飛ぶ。楓門院とミルの声だ。
 2階の窓に楓門院が姿を現し、見下ろしている。
「あらあら、ご機嫌ようですねミルさん。あいかわらず、砂糖は取りすぎているのですか?」
「思考すると糖分が必要なのでね、取りすぎではないさ。数日ぶりだが、元気にしていたかね楓門院静紀」
「ええ、お陰様です」
 バグアと人類の会話とは思えないほど、緊張感のない挨拶。2人の神経というよりも、確実にミルの神経はぶっ飛んでいると言えよう。
 美具も車を降り、助手席の横側によしかかると楓門院を睨み付けている。自らの存在をアピールするかのように。
「少々お話があるのだが、この先の公園まで来てもらえないかね?」
「あら、この場では何かまずいのでしょうか?」
 もっともである。だがミルもそれくらいは想定していた。
「こんな大音量でできるような会話ではない――なによりも、味気もないし無粋というものだろう」
「――わかりました、出向きましょう。あなたたちも下がりなさい」
 交渉の第1段階が成功。それでも傭兵達は警戒し、美具以外は車に乗り込むことなく、走って車の護衛を務めた。
 公園に向かう途中も犬型が随分と襲っては来たが、これだけの傭兵が居れば、どれだけ来ても烏合の衆でしかない。
 車は建物の陰に停車し、長郎と京一が張り付いて犬型の対応に当たる。美具は車の中でじっと待機していた。
 そして残った藍紗、九郎、零奈の3人は公園でたむろしている犬型を片っ端から処理し、制圧する。
「それにしてもあのペッタンさん、どういう神経してんのさ?」
「そういう世界で生きてきたって事だよ。あたし達に近いのかもしんないね」
 普段めったに会う事はないが、お茶らけた雰囲気のミルしか知らない九郎が疑問を口にすると、九郎よりは関わりの深い零奈が答える。
「それよりも、そのペッタンさんはやめたげたほうがいいと思うよ? 平気な顔して撃ってきそうだし」
「怖っ!」
「カカ、ペッタンもよいではないか。育てる楽しみもあるというものじゃよ」
 扇子で口元を隠す藍紗。右手がなにやら、わきわきと動いているのが気になったが、2人はあえて触れないでおいた。
「――と、来たようだな‥‥敵さん、おいでなすったぜ」
『了解じゃ。今から向かうとしよう』
 九郎が無線で連絡するとすぐに美具から返事が来る。そして楓門院の乗ったデラックスバンが到着。
 黒づくめがドアを開けると、楓門院が姿を現す――そして我らが雇い主、ミルの乗せた車もやってくる。
 助手席から降り、楓門院と強化人間の動きに注意を払っている長郎と、周囲の狙撃に注意を払っている京一を両脇に固め、ミルが悠然と歩いて楓門院の前に立つ。
 額に銃口を当てられるよりも危険なこの状況でも、ミルは口元に笑みを張り付け、まるで危機感を感じさせない。
 むしろ危機感と緊張感に包まれているのは、ミルよりも遥かに強靭なはずの傭兵達である。
 ピリピリとした空気の中、仁王立ちのミルが手をあげて挨拶をする。
「やあ、さっきぶりだね」
「ええ。それで、どういったご用件でしょうか? この絵図はあまり友好的とは言えませんのですけどね」」
 意外と単刀直入に話を切り出してくる楓門院。少々当てが外れた――が、もはやサイは投げられたのだ。引き返せない以上はぐいぐい押していくしかない。
 だがその前に、珍しく京一がミルよりも先に口を開く。
「正直、敵も味方も絵にならない奴らばかりだしな。この程度の絵図なら俺は見飽きたよ。あんたには観測の価値があったのかい、バグアさんよ?」
 京一が問いかける――が、楓門院はまるで京一などいないかのごとくその言葉を無視。京一は自虐的に笑い、肩をすくめて口を閉ざすと、ミルに続けるよう促す。
「――では、そうだな。オーストラリアから撤退してくれ」
「無理ですね」
 無下に断られ肩をすくめる――もちろん、本題ではないが。
「まあそうだろうな。そこはまあ冗談だ――では本題だ。君の拠点はシドニーだったね」
「その通りですね」
「では――3日後、総力戦をしないかね。お互い、これ以上の小競り合いはただの消耗戦だとわかっているだろうし、君も気づいているのだろう? ここではすでに君らに先がないと言う事を」
 ミルのずばりとした物言いに、柔和な楓門院の表情に変化が起こる――そう悲壮感丸出しの表情に。
「――運命なのでしょうね。これも。
 しょせん我々は残党に過ぎず、ただの実験でしかない以上はいつか撤退せざるを得ない。ここで何をしても先がないという事は理解していましたが――まさかあなたのような、ただの人類に言われるとまでは予想もしていませんでしたよ」
「よく言う。私という人間を理解したうえで逃がしたのだろう? だからこそ、これは君の選んだ運命だ」
 恐れを知らぬミル。しばらく楓門院は黙ったのち――ゆっくりと頷くのであった。
「いいでしょう。お互いの戦力をぶつけ合った最終戦、受けて立ちます――となると、今ここで貴女方の主軸となるであろう戦力の実力を、もう少し確かめさせていただきたいものですね。皆殺しにするかもしれませんが」
 やはりそう来たか――誰もがそう思った。もちろん、ミルもわかっていた。だからこそ、無理難題を皆に押し付けたのだから。
 敵も味方も、全員が臨戦態勢をとる――が、それすら右腕を水平にあげ、制止するミル。
「やりあうのは構わんさ。だがもちろん、私は無事に帰るがね‥‥あと、前も言っただろう? 人類をなめるなとね」
 冷ややかな笑みを浮かべ、右手を自分の胸にあてがって深々とお辞儀する――と、ミルの頭上を何かが通り過ぎ、楓門院の前でそれは爆発した。
 轟音と閃光、そしてむせ返るようなキツイ匂いが辺りを支配する。
「お嬢が帰るって言ってるんだよ。ここは素直に帰らせて欲しいものだけどねぇ?」
 目を閉じたままミルの横に零奈が立つと、耳をふさいでいたミルの襟をつかみ、強引に引っ張って長郎に預ける。
「お嬢は任せたよ!」
「くっく、当然だね」
 閃光に背を向けていた長郎はミルを抱え、車へと向かう。京一も背後に注意を払いながら、車へと向かった。
 そしてミルに意識を向けていた零奈の眼前めがけ、閃光の中から杖の先端が襲い掛かる。
 ギギィン!
 閃光に背を向け、藍紗の疾風がそれを上に弾く。
「カカ、斬れなんだか。ただの木ではないという事かの――半ば予想通りとはいえ面倒な‥‥さっさと切り抜けるとしよう、安全な場所まで一直線じゃ!」
「ここは任せろ!」
 反動に少し押されつつも、アラスカ454を強化人間の足元にぶっぱなしながら藍紗と入れ替わりに前に出る九郎。
 しかしその左右を一陣の黒い風が通り過ぎ去る。
「抜かれた、気をつけろ!」
「行かせないよぉ?」
 かなりの速度で駆けている強化人間の前に零奈が立ち塞がり、静を振りかぶった――だが2人の強化人間は更なる速力をもちいて、静が振り下ろされる前に零奈の横を通り過ぎ去る。
「‥‥嘘」
 その速さこそが真価であるペネトレーターの自分が、速さで抜かれた――油断したわけではないが、速力で言えば自分以上の速さで動かれている。
 ――驚愕の事実である。
 だが強化人間の足元に銃弾が撃ち込まれ、止まらなかったその足が止まった。半身で後ろを向きながら、番天印の弾をばら撒いている京一。彼にしては珍しく、銃を使っていた。
「銃は好きじゃないんだが、まぁ便利ではあるよな」
「その通りだね」
 一瞬だけ回転して振り返った長郎が2発、真デヴァステイターを撃つ。
 京一によって足止めされていた2人の強化人間の胸が弾け、強化人間は崩れ落ちる。
「ほほーどうやら足を特化させたみたいだな。紙装甲に生命力がガタ落ちくさいが」
「つまりは美具達以上に特化傾向が強い強化人間を作っておった、とみてよいな。皆、能力者と戦うつもりでいればよいというだけじゃ」
 長郎に抱えられながらも腕組みをしながらミルが分析すると、無線を通して美具に伝わり美具を通して全員に伝わる。
「ならば足の速い者は、僕達で処分すればいいだけだね」
「そういう事だな」
 続々とやってくる脚特化型を、番天印と真デヴァステイターで順序良く当てていく。正確に狙いさえすれば、速いだけ
ではまるで意味などないのだ。
 しかもキツイ香水の匂いをぷんぷんさせている。近寄ってくる様が匂いでよくわかるのだ。
「ドライブ! サングラスだ!」
 京一が叫び、前方にまわりこんだ脚特化型にピンも抜かずに閃光手榴弾を投げつける。
「毎度ワンパターンで悪いが、こいつを喰らいな!」
 威嚇する様に前方へS‐02を全弾撃ち尽くす――閃光手榴弾を巻き込んで。
 轟音と閃光――。
「時間があれば存分に相手してやりたいが、今はそうも言ってられなくての。その道――開けてもらおうぞ!」
 光が収まったところで、アスタロトにまたがった藍紗が疾風で脚特化型を両断してく。
「よし、今のうちにお嬢を――」
 後ろを振り返ると――零奈と九郎の前に楓門院がいない。
(狙うは――お嬢か!)
 銃を捨て、PSLを抜き放つと見もせずに長郎の背後めがけ振り下ろす――そこに楓門院が姿を現し、その肩をレーザーブレードが焼いた。
 涼しい顔をしていた楓門院が、目を見開かせる。
「そう何度も『後ろだ』ってやってりゃ分かるんだよっ!」
 そしてもう一撃――と振りかぶった京一の右胸を、杖が貫いた。シャツが血に染まる。
「‥‥がはぁっ」
 肺を貫かれ、血を吐き出す京一。貫かれたまま横に杖を振られ、両断される――その前に長郎が京一にタックルをしながら楓門院を蹴りつけ、胸から杖を引き離していた。
 蹴りつけられた楓門院がたたらを踏み、冷たい視線を京一に投げかける。
「この私に傷を負わせておいて、帰れるとお思いですか? 哀れですね、愚かしい下等な人間という生物は」
 長郎が機を窺っている横で、胸を押さえながらもシニカルな笑みを浮かべ、煙草を咥えて火をつける京一。精一杯の虚勢だ。
「帰るさ――俺達が何の布石も打たずに‥‥ここに来たと思ってるのか? あんたもさっさと帰って‥‥現状確認した方がいいぜ?」
 ハッタリに近いが、しかし今頃各地でシェルターを襲撃しているはずなので、あながちハッタリではない――そのおかげか、楓門院の意識が一瞬、2人から外れる。
 その一瞬で十分。
 楓門院の肩口に、薙刀の刃が深々と侵入する。
「あたしの相手をしてよぉ」
 一瞬で距離を詰めた零奈が、楓門院の背後で妖艶な笑みを浮かべていた。
 ギシリと楓門院が強く杖を握りしめ、静の刃を掴んだまま背後の零奈に杖で横なぎに――。
「やらせねーよ!」
 いつも以上に筋肉を隆起させた九郎が、刃の腹を手で押さえながら菫で受け止め、滑らせて上へと受け流す。
「食らっとけ!」
 至近距離でアラスカ454をぶっ放す――が弾丸は楓門院の額に当たることなく、掠める様に逸れていった。
 涼しい顔の楓門院が零奈と九郎に突きを放つ。
「おぉぉぉぉっ」
「ぐぅ‥‥!」
 腕でなんとか受け止めた九郎と、力を逸らす様に後ろに跳んだ零奈だったが、その衝撃はすさまじく、10m以上吹き飛ばされる――だが、それでも傭兵達の勝ちだ。
「死ぬでないぞ!」
 アスタロトにまたがった藍紗が先陣を切り、すでにミル達が乗り込んだ車が出発した。
 車の方を眺める楓門院――だが、眺めているだけであった。
「立てっかー?」
「大、丈夫」
 ゆっくりと立ち上がる2人。直撃すらしなかったただの一撃で、かなりのダメージを負ってしまった――が、まだまだ戦える。
 2人が構えると、楓門院は深呼吸1つ――長く息を吐き出す。
 そしていつもの柔和な笑みを浮かべた楓門院に戻った。
「‥‥1人姿が見えないと警戒していましたが、どうやらそれも仕掛けだったようですね――いいでしょう。今回はあなたたちの勝ちです」
 ゆっくりと歩き、2人の間を悠然と通り抜けるとデラックスバンの後部シートに腰を下ろす。
「ミルさんに伝えておいてください。楽しみにお待ちしております、と」
 そして強化人間達を引き連れて、楓門院はその場を後にしたのであった――。

 車内で九郎から楓門院があっさりと撤退したと連絡を受けた美具が、背もたれによしかかり、フーっと息を吐き出す。「‥‥了解じゃ。合流地点まで真っ直ぐ来てもよいぞ。どうせ追いかけてはこん」
『あいっさー』
 いつもの陽気な九郎の声が、重い空気の車内を救う。
 ミルは無事に会談を終わらせたが――京一の怪我はかなり深く、しばらくは戦えそうにもない――そこが美具にとって悔しい点の1つだ。
「‥‥全員無事、とはいかんかったか」
「死を覚悟してたんだ。これくらいならマシな方だろ」
 煙草を咥えるが、ミルに取り上げられる。
「穴が開いているのだから、やめたまえ――それにしても、やはり楓門院は愚かではないな」
「うむ‥‥」
 ミルの言葉が何を意味するか察した美具が頷く。悔しい点その2だ。
「無駄に追撃せずに、戦力を温存‥‥決戦前に減らしたかったところじゃが、乗ってはくれんかったね」
 引き時を間違えない敵――厄介なタイプである。
 もっとも目の前の小娘の方がずっと厄介じゃがと、美具はチロリと雇い主様を盗み見る。
「‥‥思ったんだが、短距離転移を何度も行なえる奴は長距離転移が苦手‥‥だよな?」
 こうして車にまで転移してこない事実から、京一がそう憶測する――が、ミルは顎に手を当てて意見を述べる。
「いや、そうとも限らない可能性があると思った方がいい――むしろ、もしかして奴は転移が何度も行えないのではないか? 以前も1度しかしていないし、何度も行えるなら、使うべきタイミングなんて腐るほどあったはずだがね」
「ふむ‥‥くっくっく、いやはや、なるほどね」
 肩を震わせ、長郎が笑っていた。
「それでいくとだ。弾の軌道を逸らすという、あれもだね。今回ははっきり逸らすところが見れたが、以前は逸らすよりも死体で防いでいたね」
「つまりは、逸らすのも1度か、はたまた回数制限があると言う事じゃろうか‥‥?」
「まあその可能性がある、とだけ認識しておこうか。憶測に頼りすぎる事ほど危険なものはないからね」
 車が停車する。目的地に着いたようである。
 そして思ったより早く、零奈と九郎がたどり着いて藍紗ともども車に乗り込んでくる。
 一同がそろったところで、パンっとミルが手を叩いて深々と頭を下げた。
「とりあえずだ、今回は情報も得たし約束も取り付けた。そして今頃はシェルターもほとんど制圧したはずだ。我々の大勝利ではないか。諸君、この調子で1週間後の決戦も頼むよ!」
 1週間という言葉に、ぴくりと長郎が反応する。
「3日後ではないのかね?」
「なんで我ら脆弱な人間様が、馬鹿正直に約束を守らなければいけないのだね。攻め込むのは1週間後にするさ」
「遅らせたら全戦力が集結しちゃうんじゃないの? ‥‥まああたしはたくさん殺せるほうがいいけど、さ」
 首をかしげながら物騒な事も呟く零奈。
「集まってもらわねば困るのだよ。全ての戦力をまとめて叩き潰さなければ、意味がない。
 まあ後はせいぜい『まだこなーいまだこなーい」と、神経をすり減らしてもらうとしようじゃないか。その間に私はバカンスでも行ってこよーっヒャッホーイ!」
「‥‥こえーなぁ、このペッタンさん」
「カカ、命知らずじゃのジライオー」
 扇子で口元を隠しながら、九郎の背中を押す藍紗。
 前に出た九郎の脳天めがけ、土足でテーブルに乗っかったミルが手刀を打ち下ろす!
「ちぇりぉぉぉぉぉ!」
「うんごぁぁぁあ!」
 ――口は災いの元。九郎のダメージがほんのちょっぴり増えたのであった。

「状況を教えなさい」
 京一の言葉が気になった楓門院がマンションに着くなり、部下に報告させる。
「はっ。各地の小規模シェルターが全て奪われ、強化人間達も狩られてしまいました。そのせいで腰抜け達が次々と宇宙へと逃げている模様です」
「‥‥やってくれますね、あのお嬢さんは」
 つい先日小規模な施設が1つ潰されたので、警戒して各地のシェルターに少人数を配置したのが仇となってしまった。
「それと、クックタウンでネマ様と矢神様が我々を狂信していた人類の前で虐殺を始め、人類によって殺されました」
「――つまり、こちらに疑問を持たなかった家畜が自我に目覚めた、と言う事ですね」
「‥‥はい」
(やってくれましたね、ネマ‥‥ミルさんといい、商人というのは知恵が回りすぎますね)
 ネマの行動から、ネマは最初から人類の味方のままバグアについていた事を今更ながら気がつかされた楓門院が唇をかみしめる。
「――例の実験体に伝えなさい。カルンバを襲撃せよと」

『【MO】無理難題 終』