タイトル:【海】貴様だけはマスター:楠原 日野

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/07/13 06:12

●オープニング本文


「先生、もう家帰って寝たらどうですか」
 蒼 琉(gz0496)が床に散乱するビール缶を拾いながら、床に直座りしている長い黒髪の女性に声をかける。
「なーに、まだまだ夜はこれからだってー」
 ケタケタと笑い、ありがちな言葉を口走る。誰がどう見ても、酔っ払いそのものだ。
「明日、海に怒られますよ」
「ならいちれんたくしょー、琉、あんたもここ座って飲みなって」
 ぽんぽんと自分の隣の席を叩く。こうなった彼女はもはやまるでいう事を聞かないと知っている琉は、ため息をつき、大人しく彼女の隣に座る。
 腕で支えながら背中を倒し気味に座り、足を伸ばしている琉。ビールをあおっている彼女の後姿をぼんやりと眺めていた――と、不意に彼女がコツンと、琉の胸に頭を預け、寄りかかる。
「――先生?」
「――こういう時は、黙って抱きしめるか、名前を呼んで抱きしめなって」
 顔を伏せているため、表情は見えない。
「あたしも、淋しい時があるんだって‥‥」
 寂しそうに微笑む。その微笑みに、琉の胸が締め付けられる。
「はは、年上の子持ちはだめかって‥‥」
 琉にとって彼女は、助けてくれた恩人で、KVの先生で、妹のような海の母親で‥‥一人の女性である。 
「渚さん――」
 津崎 渚を抱きしめ、そっと唇を重ねる――その日が最初で最後の、一夜だった。

●海の家・琉の部屋
「む‥‥」
 目を覚まし、体を起こす琉。気分は最悪である。
「あれから1年か‥‥今日は先生と旦那さんの命日だったな」
 1年前に魅せられた渚の寂しげな微笑みを、琉が浮かべた。時計に目を向ける。まだ4時だ。
 ごろりと横になり、天井を見上げる琉。上の階では海が幸せそうに寝ているだろうなどと、ぼんやりと思い浮かべていた。
「2人そろって同じ日とは、な」
 海が生まれて間もなくしてから、バグアが地球に襲来してきた。その時に海外で戦渦に巻き込まれ、海の父親は亡くなっていた。
 その後女手一つで海を育て、能力者としての素質が見つかると、すぐに能力者となり、そのころから屋久島の海を1人で護ってきた。
 そして日本襲来の時――名前や出身地などの記憶がすっぽりと抜けた琉が海岸に流れ着き、保護される。
 それから数年後、琉は渚のために能力者となり、新型機に乗り換えた渚のおさがりとして、ノーヴィ・ロジーナを乗り継いだのだ。
「‥‥ロジーの修復にでも向かうか」
 眠れなくなってしまい、起き上がった琉は着替え、一湊海岸の格納庫へと向かった。

●どこかの島・バグア基地
「あれから1年‥‥そろそろ試食ぐらいしてもよいかの」
「試食と言わずに、いい加減召し上がってください。色々な海に視察に行くのは結構ですが、いまだに支配したと言える海はこの海域位なんですから」
 いつもの白いバグア戦闘服ではなく、琉の家から持ってきたキャットスーツに身を包んでいる生嶋 凪(gz0497)に、部下がたしなめる。
「そもそも、あそこにこだわりすぎです。あんな戦略的価値の低い地域に、何故そこまで気にかけるのですか」
「‥‥やかましいわ、うつけ者。我に指図するな」
 目を細め、睨み付ける凪。その威圧感は相当なものであった。
「――申し訳ありません」
「かか、わかればよいのじゃ。さて、暇な奴ら10名ほど集めてこい。我と共に遊びに行くぞと、伝えておけ」

●倉庫兼格納庫
 薄暗い倉庫の中、ちまちまと部品を磨く琉。
 これらさえ組み込んでしまえば、修復は完了なのだが――さすがにパーツの総点数が果てしなく、いささか疲れを感じてきていた。
「この前の夜は久しぶりに楽しかったな‥‥」
 海での結婚式のさい、仲間に色々助けてもらい、その礼も含めて家に招待した時の夜を思い出す。
 そして何故か凪の事がずっとひっかかる。理由はわからない。
 近々、お会いしましょうね――凪の別れ際の言葉――それと同時にキャットスーツ姿の凪を思い出し、頭を振る。
「‥‥気晴らしに、海に出るか」

●屋久島南部沖
 リヴァさん(海命名)が、岩場だらけの沖を悠々と突き進む。
 見た目は確かにごつい岩場だが、揺らめきと陽光、そして彩る生物によってさまざまな表情を見せてくれる。
(先生は1人で4年もここを護ったんだ‥‥俺も護らなければな)
 物思いにふけると、命日のせいもあるのか渚が殺された時の事を思い出す。
 渚が撃墜され、脱出ポッドが射出――それを白いゴーレムが鷲づかみにしていた。
 ――海を頼む。
 渚とかわした最後の通信。そしてポッドが目の前で潰された――。
 無力感と絶望感に唇をかみしめ、渚を殺した白いゴーレムはそんな琉を残して去っていったのだ。
 いまだにあの時の事を思い出すと、白いゴーレムへの憎しみが沸々と沸いて出る。捜して、倒したいと思っている。
 だがそれよりも、渚の約束を守り、護り続けているのだ。そして、それを手助けしてくれる仲間がいる。
「俺は俺のやり方で護りぬきます、渚さん――」
 琉が呟くと同時に、レーダーに反応。範囲と感度をあげているだけあって、まだ結構距離がある――だが、問題はその数である。11機。正直、多すぎる。ミサイルの弾数が足りない。
「この様子ではゴーレムだろうな‥‥仲間を呼んでもらって、俺は足止めに徹するか」
 通信を開き、近くの船に要請する様に連絡をつけると、慎重に進む琉。
 視認できる距離まで来ると――琉はカッと目を開いて、叫び声とともに三十六式大型魚雷を発射していた。
「貴様か!」
 ゴーレム編隊の一番後ろの1機めがけ、真っ直ぐに魚雷が突き進む――当たる直前、横に動いて魚雷の信管だけを切り落とす二刀流の『白いゴーレム』。
「かか、こやつは我の獲物。お前ら逃がさんように囲い、邪魔立てするものが来たら、相手しておれ!」
 凪の号令を受け、琉のリヴァを囲む、ゴーレム達。
 凪の一撃をリアクティブアーマーで受け止め、駆け抜けざまにミサイル1発――凪は綺麗にミサイルの腹を刃の腹で押さえ、流してしまう。
「貴様だけは、命に代えても落す!」

●海の家
 琉のために手の込んだ弁当を作っている、海。
「今日のお父さんとお母さんの命日覚えてるかな、琉さん。あ、そろそろ起こしに行かなきゃ」
 嬉しそうに、トテトテと琉の部屋に向かう海。
 今まさに渚の敵と激闘を繰り広げ、傭兵達がそれを助けに向かっているとも知らずに――。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
クラーク・エアハルト(ga4961
31歳・♂・JG
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
オルカ・スパイホップ(gc1882
11歳・♂・AA
ビリティス・カニンガム(gc6900
10歳・♀・AA

●リプレイ本文

●屋久島南部沖
「周囲はリヴァイアサンばかり‥‥悲しくなるな。蒼機が突出し過ぎだ――急いだ方が良いか」
 自身のビーストソウル改に嘆きつつ、急行するクラーク・エアハルト(ga4961)。
「意外なものだ。もう少し冷静に物事を判断する男かと思えば、敵陣に跳び込むなんて」
「何か、理由はありそうだケド――いざという時の水難救助連絡完了。アルゴスシステム、演算システム起動‥‥敵の分布を送信する。皆把握しておくように」
 榊 兵衛(ga0388)が疑問を口にすると、夢守 ルキア(gb9436)は感じた事を口にしつつ、事務的に作業をこなしている。
「それと、デューク君、きみは深追いしないよーに。追いかけたら、私も何処までも追ってやるから」
「む、むう。わかってるね〜」
 デューク――ドクター・ウェスト(ga0241)に釘をさす。釘を刺された本人は、狂人らしからぬうめき声を漏らしていた。
「にしても、綺麗な海だ。薄汚ぇ寄生虫共にゃ似つかわしくねえな」
 見た目はそばかすの可愛らしい女の子だが口の悪いビリティス・カニンガム(gc6900)が津崎 渚と蒼 琉(gz0496)の護ってきた海を、褒め称えていた。
「そうだねー。似つかわしくないゴーレムは排除しなきゃだね〜」
 何度目かの水中ゴーレム戦だがまた違う戦い方が見れるかもと、わくわくしているオルカ・スパイホップ(gc1882)。「そろそろ通信可能距離だね――聞こえるかい、琉君」
 ルキアが通信回線を開くと、しばらく間を置き、琉が返答する。
「ああ」
「琉さん〜大丈夫〜?」
 心配するオルカの言葉を遮り、ルキアが淡々と続けた。
「君に敵の数、分布を送信する。琉君、そちらは任せるケド、コッチが不利になったら入って貰う」
 またも間が開く。
「琉君?」
「――了解した。だがその代り、この1機だけは手を出さないでくれ。俺がカタをつける‥‥!」
 琉のただならぬ様子に、一同なにかしらの決意を察した。
「‥‥事情はよく分からないが、琉には琉なりの事情がありそうだな。詳しい経緯は後で聞かせて貰うこととして、今は
目の前に立ち塞がる敵の殲滅に尽力することとしようか」
「そうですね――敵さんも、何やら事情がありそうですし」
 10機のゴーレムがこちらに向けてやってくるのを確認し、クラーク機は人型へと変形する。
「むむ、ゴーレムじゃまー‥‥」
「邪魔なら蹴散らすまでじゃねえか。どっちも訳ありみたいだしよ、さっくり終わらせた後に聞かせてもらえばいいって事よ」
 通信の様子から訳ありと判断し、ニッと口元に笑みを作るビリティス。
「この薄汚ぇ寄生虫共! 大海賊キャプテン・ビリィ様がてめぇらの命、纏めて収奪してやるぜ!」
 威勢のいいビリティスの啖呵に、ウェストが触発されたのか、いつもの如く高らかに笑い声をあげる。
「けっひゃっひゃっ、我輩はドクター・ウェストだ〜。雑魚の諸君は刮目したまえ〜」
「笑ってないでモニターを確認して。距離に入ったら一斉掃射、ワカッテル?」
 冷たいルキアの反応に、ウェストはこれまたいつものように口から何かが抜け出る。
「ああ、大丈夫だ。ルキア」
 対潜ミサイルの砲門を開いておく兵衛。
「こちらも準備はできています‥‥あと、突出してきた敵がいたら、それを皆の目標にするというのはどうでしょうか」
 ホールディングミサイルの設定をいじりつつ、提案するクラーク。常にルキアを背後に動いている。
「いいんじゃねぇか? 効率よくいこうぜ」
 準備万端なビリティス。
「僕は掃射と同時に突撃して攪乱だね〜」
 手を摺合せ、バイク型の運転席で実に楽しそうにしているオルカ。
「吾輩も突撃させてもらうね〜。すまないが、信頼できない君らと協力する気はないのだから」
 宣言するウェスト。彼が能力者不信なのはわりかし有名なので、だれも異論を唱えない。
「まあ今回は殲滅戦だし、大丈夫だとは思うけど――さっき言った事、忘れないでネ」
 機体の出力を下げつつ、再びウェストに釘をさすルキア――そして、そっと呟く。
(オイジュス、一緒にセカイを見よう)
 モニターで距離を確認――射程に入った。
「全機、一斉掃射」
「小型魚雷ポッド、発射だね〜」
「対潜ミサイル、発射!」
「水中でも『目晦まし』というのは効果があるかな? ホールディングミサイル射出します」
「小型魚雷ポッド、発射なのだ〜♪」
「アレクタン3連射、ゴー!」
 ルキアのタイミングに合わせ、皆が一斉に掃射する。
 10機のゴーレムめがけ、様々なミサイルや魚雷が襲い掛かる――と同時に、オルカがブーストをかけ、魚雷の後を追っていた。
「きゃっほ〜い!」
 敵との衝突寸前でホールディングミサイルが爆発し、辺り一面が気泡の嵐となる。
 視界を遮った――その効果はかなり大きかった。魚雷が、回避のタイミングを誤ったゴーレム4機に直撃する。
「ぶっしゃー!」
 気泡から現れたオルカの大蛇が、動きの鈍くなっているゴーレムに突き刺ささる。
「動きが鈍いですよ!」
 隊列が乱れ、孤立していた動きの鈍い1機めがけ、クラークがセドナを発射していた。
「ホントだぜ!」
 ビリティスが重ねるように、着水していたアレクタンも1発、クラークと同じ1機に照準をあわせて発射していた。
 寸前で気づいたゴーレムはセドナの一撃を腕で防ぎ――頭上のアレクタンに気付けず、直撃。無残にも四散する。
「兵衛君、10時方向距離40」
「了解だ」
 ルキアの指示に従い、10時方向にもう一発対潜ミサイルを撃つ。
「吾輩は行かせてもらうね〜」
 許しを待つ事もなく、ウェストが対潜ミサイルの後を追いかける――もちろんその先にはゴーレムがいる。
 ミサイルが直撃し、爆発に流されていくゴーレムをアサルトライフルで追撃――そして蒼い軌跡を描きながら距離を詰めると、レーザークローで胴体に突き刺して引き裂き、両断する。
「貴様らはコノ海から、コノ星から、コノ次元から消え去れ〜!」
「あたしも行くぜ!」
 待ちきれないと言わんばかりに、ビリティスもブーストをかけて敵陣へと突っ込む。ちゃっかりと、向かう先とは対極に位置する孤立した1匹にアレクタンを発射して。
「クラーク、任せていいか?」
「ええ。夢守さんの護衛は自分に任せてください」
「すまんな。では行かせてもらう!」
 目くらましの気泡が晴れ、比較的数が固まっているところに連携を取らせまいと小型魚雷ポッドを撃ち、真っ直ぐに突撃する。途中、ガウスガンを孤立した1匹に撃ってこちらに注意を引き付け――アレクタン直撃で撃沈。
 潜行形態でガウスガンを撃ちながら突撃をかける兵衛。
 しかし混乱が収まったのか、ゴーレムは意外なほど流麗な動きでガウスガンを回避している――その背後に、オルカが激突。
 アンカーテイルを打ち込むと、小型魚雷を発射――発射の反動にブーストをかけて急旋回、刺したゴーレムを振り回し叩きつけ小型魚雷を爆発させる。
「ぐっちゃぐちゃにかき回してやるんだから〜!」
 発射の反動にさらに爆風の威力も乗せ、アンカーテイルのゴーレムを切り離すと、さながらミキサーのように超加速回転したオルカが、周囲のゴーレムに手当たり次第に体当たりをかける。
 そして急停止、方向転換して吹っ飛んでいく1匹に肉薄して大蛇を突き刺し、踏み台にして次の1匹に狙いを定めて突撃する。
「ビリティス君、右に回避」
 ルキアの言葉に従い、右に移動すると、背後すれすれを魚雷が通り抜ける。振り返ると、アンカーテイルから切り離された1機がまだ生きていたようだ。
「実にやりやすいぜ!」
 実に楽しそうにその1匹めがけ、蒼い軌跡を描きながらブーストで近寄り、太刀の攻撃をものともせずに肉薄し、アンカーテイルで開いた穴をえぐるように何度もめった刺しにし、止めを刺していた。
「その通りだな!」
 オルカに突撃された1匹はオルカをかわしたものの、背後から忍び寄る兵衛のガウスガンの直撃を受け、振り返ったところで兵衛が横をすり抜ける――と見せかけ、急停止、人型へと移行しベヒモスを後ろへと突き出していた。
 回避できずにベヒモスに貫かれる、ゴーレム。えぐり、払われ、真っ二つに両断される。
「兵衛君3時方向上方10、デューク君7時方向水平30、オルカ君真上30に発射」
 ルキアの言葉に、瞬時に3人が発射していた。
 油断していた1匹のゴーレムめがけ、ガウスガンにアサルトライフル、小型魚雷が降り注ぐ。
 ――直撃。爆発し、霧散する。
「吾輩に指示は不要なのだがね〜」
 苦手意識のせいか、つい体が動いてしまったウェストがぼやく。
 これで残り2機。
 ここまできても、今だに琉は凪に一度も当てれていなかった。
 その様子に見かねたルキアがゆっくりと出力をあげ、クラークよりも前に出る。
「琉君、数の利で叩くよ。1体に手間取ってる君に、任せられない」
「すまんが、こいつだけは譲れん!」
 熱くなっている琉。しかしルキアは冷ややかなものである。
 モニターで観察していたが、最小限の距離を急旋回し、琉にまとわりつくように動いている――妙に動きが良すぎるのだ。
「君と戦っている敵。妙に動きがいいのは、どういうコト? 仲間内での情報隠蔽、死を意味するコト、ワカンナイ?」
 ルキアに指摘され、しばらく沈黙する琉。
「どちらにせよ、任せる理由はナイ。今援護に向かうよ」
「来るな! ‥‥こいつは先生の敵。俺が討ち取ってみせる!」
 強い拒絶に、ルキアは笑顔ながらもどんどん冷ややかな瞳になっていく。
「リュウ君、ソコまで言うならやってみたまえ〜。ただし」
 不意に背後にアサルトライフルを撃つ。
 逆に不意をつかれたゴーレムが、回避しきれずに脚部を撃ちぬかれる。
 動きの止まったゴーレムに氷雨を突き刺し、レーザークローで叩き潰すウェスト。
「君が沈めば、我々がやるだけだね〜」
 琉の無事を常に祈っているであろう『人類』の顔を思い浮かべ、裏切る事になる事は暗にわかっていた――が、自分と同じくバグアが憎い男の言葉。当然その憎悪が理解できるからこそ、死なない限り手を出す気はない。
 だがそんなものをルキアが理解できるはずがないし、理解する気もない。
「そんな事は知らないよ。私達は『ゴーレム退治』に来ただけ――クラーク君、7時下方30」
「む‥‥」
 クラークが振り返ると、まっすぐこちらにめがけて突進してくる最後の1匹がいた。
 工夫も何もなく、ただ愚直にまっすぐに。
 気づかれたゴーレムは突進しながらもクラークに魚雷を発射しようとする――が、ほんの少し距離を詰めてハイヴリスを発射口に突き刺し暴発させると、さらに詰めてレーザークローを胴体に突き立てた。
「‥‥旧型機と侮ったか? 伊達や酔狂で5年も傭兵をやっている訳じゃないんだ」
 レーザークローを抜き、潜行形態に移行すると――琉に聞きもせずにクラークは琉の元へと急いだ。
 クラークに続き、兵衛、オルカ、ビリティスが向かっていく。
「‥‥熱くなってるね」
 クラークが放置した1匹をガトリングで蜂の巣にし、ルキアも後を追うのだった――。

「かか、寄せ集めなど瞬殺とはの! 愉快じゃな!」
 こちらに向かってくる5機を確認し、二刀で琉機のアクティブアーマーを斬りつけ、腹部に蹴りをいれて引き離す。
「ぐぅぅ!」
「悪いが、こちらの相手もしてもらう」
 ブーストで一気に距離を詰めながら人型に移行するクラークが、セドナを凪機に撃ち込んでいた。
「そんなもの、当たらぬわ!」
 臆せず引く事もなく、高速でやってくるセドナを太刀で受け流し、蹴りつけて海底に方向転換させる。
「白いゴーレムとか! 珍しい〜!」
 高速で接近しながらオルカが嬉しそうに回線を開く。
「ねね、キミ強い? 1回遊んでよ〜!」
「かか、来るがいいわ!」
 突撃してくるオルカのアクティブアーマーに足を乗せ、琉から離れていく凪機。
「待て!」
 追いかけようとする琉を、兵衛が抑え込んで止めた。
「‥‥少しは落ち着け! 戦場で冷静さを失ったら、敵の思うつぼだぞ」
「そうですよ。蒼さんを無事に連れて帰らないと悲しむ人がいますから‥‥1人で全てやろうとせずに、もっとこちらを
頼ってくれてもよいのでは?」
(そう、海さんの為にも、五体満足で連れて帰りませんとね)
 クラークの言葉に、ハッと息をのむ琉。
「‥‥そうだった――俺は俺のやり方でと先生に誓っていたというのに、俺は――」
 唇をかみしめ、うつむく琉であった――。

「ふっふっふ〜逃げられると思ってるんですか〜?」
「思ってるさ。ふん!」
 アクティブアーマーを下に蹴り流すと、覆われていない横っ腹を太刀で斬りつける。
「わお、当てられちゃった」
 太刀の流れに沿って移動したため致命傷は避けたが、機体には確実に傷をつけられた。
「忘れてもらっちゃ困るぜ」
 凪の後ろから突き刺そうとしたビリティスのレーザークローを、腕ごと蹴りあげられ、太刀を振るう――が、急降下して背後のオルカの大蛇の一撃をかわす。
「かか、まだまだよの! 個人技で勝てると思わん事じゃな!」
 急降下したかと思えば上下反転してオルカにカカトを叩き込むと、どんどん下へと潜っていく。
「敵機、深度75mに入った、早めに追撃をお願い」
 あらかじめ追撃に向かっていたルキアが、ガトリングを撃ちながら要請する――が、すでに離されすぎている。
「名残惜しいが、試食じゃからの。ここいらでさらばよ」
 降下していく凪。誰も追いつけない――そう思ったところに、凪の脚部にアレクタンが突き刺さり、爆発する。
「むう、タイミングを掴んでおらなんだ‥‥このような兵器もあるのだのう」
 足にダメージを受けながらも深度200m付近に近づくと、もう追えないと判断したオルカが最後に通信する。
「ゴーレムじゃ役不足だよ! 鹵獲したKVでももってこーい!」
「かか、その言葉後悔せぬことじゃな!」
 そしてそれっきり――凪機の姿は深海へと消えていったのであった――。

「今回取り逃がしたのは、君のミスでもある事を忘れないように」
 地上に戻り『事情』は聞きはしたものの、ルキアは冷ややかに言い捨てるだけであった。
 兵衛やクラークも、納得はしたようだが少々面白くなさそうである。
「事情は理解したが――ますますもって1人でいくべきではなかったな」
「もう少し、私達に頼ってください。少なくとも、あなた1人でどうにかできる相手ではないと思います」
 そして逆に、ビリティスやオルカは熱くなっていた。
「なるほどな――それなら大海賊キャプテン・ビリィ様が、これからも琉の力になる事を約束するぜ!」
「因縁があるなら、また会えるよね? もっともっと楽しめそうだね〜♪」
 ――1人、離れて聞いていたウェストは伊達眼鏡を直し、ポツリと呟く。
「家で待つ人類の元に、早く戻ってあげるべきだね〜」

『【海】貴様だけは 終』