タイトル:BlackBoxExpressマスター:楠原 日野

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/11/03 14:17

●オープニング本文


●とある山岳の基地・医務室
「父さん‥‥!」
 ベッドで横たわっていた銀髪の壮年男性に、涙ながらにすがる金髪の少女。男性は目を丸くしながらも、泣きじゃくる彼女のウェーブがかった髪を優しくなでる。
「リズ、お前がどうしてここにいるんだ?」
「みんなが、気を利かせてくれて‥‥」
 どこをどう気を利かせれば、オペレーターである彼女がここまで来れるかはわからなかったが、リズの父は素直に生きて娘に会えた事を喜んだ。
「そうか、心配かけてすまなかったな」
 じゃっかんの脂汗を浮かべながらも、ぽんぽんと背中を軽く叩くリズの父。しばらくはそうしていたが、父の頬が引きつり始める。
「リズ、そろそろ、いいか? 傷が‥‥」
「あ、ゴメン父さん」
 慌てて離れるリズ。その際、彼女のポケットから一枚の紙切れが落ちた。
 普段の彼ならばたいして気にも留めなかっただろうが、その紙が金縁の飾りが施してあった事に、嫌な予感を感じたのだ。自分の輸送失敗、そして自分の娘がここにいる。一つの考えが頭をよぎったのだ。
「――その紙は?」
 なんとか声を絞り出す。そんな父の様子にお構い無く、リズは嬉々としてその紙を広げてみせた。
「じゃーん、委任状! 父さんの仕事、引き継いだんだよ」
「馬鹿な、お前はただのオペレーターだろ!」
 リズの父は思わず怒鳴ってしまった。そしてすぐに悲痛な顔を手で覆い隠す。
「こんな――こんな危険な事に、お前を関わらせたくなかったのに‥‥オペレーターなら安全だと思ったのに‥‥!」
「私、志願したんだよ」
「おま――」
 何か言おうとして、言葉が詰まった。リズの――娘の神妙な面持ちに、それ以上の言葉が続かなかったのだ。
「動けなくなった父さんの代わりに、父さんの仕事の行く末を、見届けたいんだ。だって私――」
 ニコリと笑う。
「仕事してる父さんが好きだから、この世界に入ったんだもん。だから、私が父さんの仕事の手伝いが出来るのが嬉しいんだ」
 
●とある山岳の基地・内部
 広々とした倉庫の一角――その場にはそぐわぬ、白衣を着た二人の男。その前に、傷だらけの30センチ四方の小さな黒い箱があった。輸送に失敗し最寄の基地であるここに、届けられた物である。
 その箱のためだけに、彼らははるばるここまでやってきたのだ。
「効果は上々で喜ばしいことだが‥‥輸送もままならんか」
 長身の男が腕組みをして、つぶやいた。もう一人の小柄な男がアゴに手をあて、ポケットから小さな紙切れを取り出すと、箱に近づける。一瞬にして青かった紙が、赤く染まる。
「少し、反応が強すぎです。さすがに墜落の衝撃エネルギーは、吸収しきれずに損傷したのかもしれません」
 小柄な男の言葉に、長身の男は顔をしかめた。
「それはマズイな‥‥このままではここがキメラに囲まれてしまう。我々の技術では直すことすらできんかもしれんが、早々、キメラのこれない基地に移送して修繕を試みなければ」
 シャッターの隙間から、狼のような遠吠えと強い風が吹き込み、白衣をはためかせる。
「風が出てきたな‥‥」
 彼のつぶやきは、屋根に当たる激しい雨音でかき消された。
 上を見上げていた彼はついっと、長身の男がガヤガヤと騒がしい方に顔を向け、ここの基地の人間とは色の違う連中を見て、目を細める。
「彼らは?」
「ULTの傭兵達です。墜落現場からコレを運んできたやつらと、この基地にもともと派遣されていたやつらです」
「ほう‥‥ちょうどいい。彼らに頼むとしよう」

●会議室
「我々はこの箱の運搬を頼んだ基地の者たちだが、君たちに依頼がある」
 長身の男はそう、きりだした。そして、ドンと箱を教壇に置く。
「この箱については機密事項だが、我々が研究しているものだと説明しておこう。これを近くの港まで、至急、届けて欲しい」
 首をかしげた一人の傭兵が、さっと手を挙げ「この嵐の中ですか?」と質問をした。
「そうだ。破損したと予測されるので、至急直さねばならんのだが、そのための施設は海の向こうなのだ。空輸はまた墜落する可能性を考慮すると、比較的安全な陸路でお願いしたい」
 墜落現場の凄惨な状況を見てきた傭兵が、深くうなづいた。
「港にはわかりやすく、一隻だけ船を用意させておく。車両も、8人くらい乗れるトラックを用意した。まあ嵐には実におあつらえ向きな、とっても涼しい荷台がむき出しの車両だが」
 ドッと傭兵達が笑う。中には露骨に顔をゆがめるものもいたが、依頼主の手前、ぐっと押し黙った。
「我々が直接運べればいいのだが、キメラに襲われてしまっては対抗するすべがない。一応、箱の取扱責任者として彼も諸君とともに行かせるが、貴重な人材なので死なせないようにしてくれたまえ」
 小柄な男が下卑た笑みを浮かべ、顔を傭兵に向けたまま頭を下げると、再び、さっと先ほどの傭兵が手を挙げる。
「お言葉ですが、この地域は猿や狼などの野良キメラばかりなうえ、生息地域も広いために滅多に遭遇しないし、1匹2匹遭遇しても、ワリと逃げやすいんですけど、それでも我々が必要なんですか?」
 小柄な男が、首を横に振る。
「我々にとっては、どんなものでもキメラはキメラ。遭遇すれば恐怖で運転ミスをして、道を踏み外すでしょう」
 ぼそっと「それに、ずいぶんな数に襲われるだろうし」と、小声で付け足す。
 傭兵達は首をかしげながらも了解したようで、一応黙る。しかし、また手を挙げ「箱の中身はなんですか?」と空気を読まない質問をする猛者がいた。
「極秘だから明かすことはできない。開けた場合、それ相応の処罰が下されると思いたまえ。一つ言うならば、設備も無しに開封すれば多量の空気と反応し、劣化してしまう恐れが高い。故に開かないように気をつけてくれたまえ。他に質問は?」
 長身の男がぐるりと見回し、誰の挙手もないことを確認する。
「多少、護るべき対象が多いかもしれないが、諸君、嵐で山あり谷ありキメラありと多少大変だろうが、がんばってくれたまえ。それとだ――彼女からお願いがあるそうだ」
 すっと長身の男が横によけると、その背後にリズが立っていた。そしてペコリと一礼。
「私はオペレーターのリズ=マッケネンと言います。このたび助けていただいた連絡将校、エリック=マッケネンの娘です。お願いと言うのは、私も連れて行っていただきたいのです。父の仕事の行く末を、父の代わりに見届けたいので、お願いします!」

●参加者一覧

春夏秋冬 立花(gc3009
16歳・♀・ER
荊信(gc3542
31歳・♂・GD
不破 炬烏介(gc4206
18歳・♂・AA
滝沢タキトゥス(gc4659
23歳・♂・GD
トゥリム(gc6022
13歳・♀・JG
明神坂 アリス(gc6119
15歳・♀・ST
祈宮 沙紅良(gc6714
18歳・♀・HA
D‐58(gc7846
16歳・♀・HD

●リプレイ本文

●山岳基地・内部
 小柄な研究員が、8人の傭兵達を案内する。その後ろにはリズの姿もあった――いい顔をしなかった傭兵もいたが、話は移動しながら、となったようだ。
「こちらの少々古い中型トラックを使っていいそうです」
「確かにちょっと古いですね‥‥」
 滝沢タキトゥス(gc4659)が素直につぶやく。
「だが、今回のような任務にはちょうどいいってもんだ」
 ゴンゴン、と車両を叩いて不敵に笑う荊信(gc3542)。
 ひらりと、1人の女傭兵が荷台に乗り込み、後方の端にちょこんと座る。祈宮 沙紅良(gc6714)である。
「私はこちらでよろしいでしょうか? 左側面と後方を警戒いたしますわ」
「いいんじゃねぇか? 沙紅良の嬢ちゃん。
 さっき打ち合わせたのは俺が運転、助手席に滝沢、真ん中の補助席に箱と研究員、荷台にリズの嬢ちゃんと他のメンバーってだけだからな」
「じゃあリズの側には僕がつくね。護衛しながら右と後ろを警戒するよ」
 明神坂 アリス(gc6119)が手を上げて、申請する。アリスと多少なりとも面識のあるリズは、ペコリと頭を下げた。
 リズの側に立っていた不破 炬烏介(gc4206)が、ふと口を開く。
「‥‥ソラノコエ、言う。
『生ト死ハ対。死ヲ友トシテ‥‥生ハ意思ハ成ル』
 少女。意思を‥‥継ぐ、事は。何故‥‥大事、だ――? 父、と‥‥同じ、体となる――又は。死ぬ、と‥‥言うのに‥‥?」
 その言葉を聞いたD−58(gc7846)も、同じように問う。
「‥‥道中はキメラも出現しますので、命の危険もあります。同行は推奨しません。何故、自分の任務外のものにそこまで拘れるのですか?」
 無表情な2人に問われ、少々リズは考え込んだが
「父の仕事だから、です」
 と、短く答えた。その回等に荊信が、眉をピクリとさせる。
「仕事なんてのは後で結果を確認するだけでも充分だ。絶対なんてモンは無ぇ。コイツは嬢ちゃんが危険を背負う程のモンなのかい?」
「はい。父の仕事は私にとっての誇りなんです」
 リズの迷いない即答。
「そこまで言うなら、好きにしな。ただ確実な安全があるとは思うなよ」
 荊信はあきれつつも納得したようであったが、不破もD−58も無表情のまま、かぶりを振る。
「‥‥理解不能です。私は自分の防衛対象を守る以外は考えません‥‥」
「‥‥誇、り」
 そんな4人の前を、とことことトゥリム(gc6022)が横切り、荷台に乗り込む。
「早くしたほうが、いいと思います」
「だよね」
 シートを研究員とリズに手渡す春夏秋冬 立花(gc3009)がうなずく。
「濡れるのも嫌ですよね?」
 シートを研究員に渡しつつも、箱に注意を向ける立花。
「あ、ああ、ありがとう」
 彼は受け取ったシートで箱を包み込んでしまうと、そそくさとトラックに乗り込む。
「ちえっ」
 立花は舌打ちすると、自らも荷台に乗り込んだ。
「ま、残念ながら快適なドライブ日和とはとても言えないけど‥‥ばっちり守るからさ。その代わり、この前みたいに泣かないでよ?」
 アリスがぽんとリズの背中を叩くと、リズは笑顔でうなずき、アリスの助けを借りながらも荷台へと乗り込んだ。
「おう、アリスの嬢ちゃん。リズの嬢ちゃんは任せたぜ」
 荊信の言葉に、力強く親指を立てるアリス。
「荊信さん、皆乗り込みましたよ。出発しましょう」
 助手席の滝沢が促すと、荊信も乗り込み、エンジンをスタートさせる。
「さあ、行くぞ!」

●山岳基地・外
 ガタンガタガタガタ‥‥山岳基地を出て、暴風雨の中悪路を走る、一行のトラック。出て間もないというのに、前方に3匹の狼型キメラがウロウロしていた。
 滝沢の目が、スッと青くなる。
「轢かれるのと撃たれるの‥‥マシなのはどっちだろうな?」
 滝沢が窓からP−38を発砲。前足のみを撃ち抜き、驚いた狼達が後ろに跳び退った隙に、トラックは横を通り抜ける。
「チッ‥‥どうにも気に食わねぇ感じがしやがる‥‥。いきなり居るとはな」
「ですよね。あまり遭遇率は高くないはずなんですが‥‥どこからでも現れそうだな」
 滝沢の【探査の眼】が発動――すると、前方の木で何かがうごめくのが見えた。その直後――。
 ガンッ!
 フロントガラスに柿が直撃し、ほんの少しヒビが入った。猿型キメラである。
「俺は蟹じゃないんだ、さっさと楽にしてやるよ」
 滝沢がクルメタルを構えた瞬間、猿は木をつたって森の奥へと逃げていく。だが【狙撃の眼】を発動させた滝沢には、十分射程内であった。
「遠くにいれば安全と思うなよ」
 逃げていく猿の背中に、弾丸を叩き込んで撃ち落す。
「まだ奥に多数ぶらさがってるぜ」
「リッカ、前方を手伝え!」
 滝沢の警告に、荊信は雨音に負けない声で荷台の立花に叫んだ。
「言われなくても、やりますよっと」
 ダンタリオンを取り出し、ないむねパワーを発動させ、たような気分を出しつつ構える。
「邪魔はしないでね。殺したくはないから」
 その言葉にダンタリオンは反応し、ぶらさがっていた猿が落ちていく。
「やればできるじゃねぇか。後ろの様子はどうだ!」
 瞳が赤紫色に輝き、髪と肌が灰色になったトゥリムが【探査の眼】を使って周囲を確認する。周囲にキメラの姿は――ない。
「いない」
 さっと軍用双眼鏡を取り出し、覗き込む‥‥と、右後方を指さす。
「あっちから、来ます」
 その言葉に、荷台にも緊張が走る。
 リズの横に座っていたアリスは腰を浮かし、D−58はそれとなくリズの前で片膝立ちでいる。
 不破は右手を中心に炎のようなものが揺らめく鱗をまとい立ち上がり、S−01を構えた。
「‥‥少女、刮目しろ。これが‥‥父の居る世界、だ――。ソラは言う。『裁キヲ‥‥使命ヲ』――来いよ、紛い物‥‥汚ぇ血を、ぶち撒く」
 まだ姿もよく見えぬ狼型キメラに牽制の意味で、発砲。1匹動きを止めたが、その程度では止まらぬほど多数が追ってくる。
「車は振り切り優先の様ですし、キメラは撃破より追跡されぬよう足止めに重点を置きましょう」
 祈宮の言葉に、不穏な空気を読み取っている傭兵達はうなずく――不破以外。
「生‥‥死‥‥意思‥‥使命‥‥任務‥‥感情‥‥――」
「では、乗り込んできた時の対処は不破 炬烏介に任せる。私は取りこぼしと、道を塞ぐキメラを担当する」
 膝をついたままロートブラウを抜き放ち、D−58が提案すると、不破はコクリとうなずく。
「私は後方で牽制致しますわ」
「じゃ、私は前方の手伝いとD−58さんと共に前を塞ぐキメラの撃破で」
 祈宮と立花も、自分の担当を決める。
「それじゃ僕は主にリズの護衛と、右側の警戒をするね」
 アリスがリズにニッコリと微笑む。
「で、今現在後方は――」
「僕に任せるの」
 紫の瞳に戻ったトゥリムがライオットシールドを構え、P−56で狼達の足元の地面を狙い、その進行を妨げる。
 しかし、続々と集まってくる狼達。距離もだいぶ縮まってきた。
「下がるの」
 瞳を赤紫に輝かせ、狼達めがけて【制圧射撃】! さすがにその攻撃で狼達は足を止め、その間に引き離す。が、一難去ってまた一難。
「よ‥‥」
「よ?」
「酔いそう、な気がするの」
 灰色だった肌が白く戻り、その顔色は少し青ざめている。能力者は車酔いに悩む事はまずないのだが、気分の問題だろう。
「あ、私酔い止めありますよ」
 リズが胸ポケットから酔い止め(子供用)を取り出す。
「距離も開いた事ですし、薬を飲んで少々お休みになられるとよいですよ」
 優しい祈宮の言葉にコクコクとうなずき、荷台の前方に移動して座り込むトゥリムであった。

「後ろはしばらく安全だな」
 ミラーで確認しつつ、荊信がつぶやいた。窓から腕を出して、猿を枝ごとブリッツェンで狙撃する。
「前はずっとこの調子でしょうけどね。枝から落としても、ついてきてるのがいますし。やはり――何匹か直撃させる」
 青い瞳に変化した滝沢が【鋭覚射撃】で、狙いを定めた。
「さあ、手加減無用だ‥‥逝けッ!」
 ドンドンドンドンッ!
 P−38が火を噴き、一発で一匹ずつ猿を落としていく。
「やるじゃねぇか‥‥仕事の内容は、御前等とソイツを届ける、だったな? なら、コイツは経費につけとけよ!」
 力任せに銃底で、荊信はヒビだらけのフロントガラスをかち割る!
「愉しくなってきたぜ!」

「柿、増えてきましたわね」
 飛んでくる柿を避けつつ、祈宮がつぶやく。
「笑える光景だけど、当たるとワリと痛いんだよね」
「傭兵さんでもやはり、痛いんですか?」
「まあね」
 リズに向かって飛んでくる柿をSMGで撃ち落す。時折撃ちもらしたものをD−58が払い落とす。
「それにしても、キメラの数が多いですわね‥‥」
 皆がうなずく。
(箱が怪しいけどね)
 チラッと立花が研究員を盗み見る――と。
「‥‥来る」
 不破が構えたことによって、一気に緊張感が高まる。
 ザザッ!
 道の脇の茂みから、狼達が一斉に跳びかかってきた!
 瞬時に祈宮の髪が桜色へと変化する。
「天清浄地清浄の大御業を成し賜ひ――」
 彼女の【子守唄】で狼達は夢の中へと誘われる。幸い、仲間には効かなかったようだ。
「伏せて‥‥ろ――消えろゴミ屑‥‥みっともなく死ねよ‥‥! 『虐鬼双拳』‥‥!」
 不破の二段撃とスマッシュの連携の前に、全ての狼が吹き飛ばされていく。その足元に柿が転がる。
「‥‥うぜぇ‥‥退け‥‥!」
 そのまま【ソニックブーム】を連発し、木々の猿達を排除していった。
「‥‥っく」
 右手の鱗が消え、膝をつく不破。錬力を使いすぎたのである。
「休んでいろ、不破 炬烏介。見たところ、今のでおおよそ片はついた。あとは任せろ」
「後ろはそのようだけど、前はそうでもなさそう」
 淡々と言うD−58へ、前方を見ていた立花がつぶやくのだった。

「おい、渋滞は高速道路だけにしろ!」
 滝沢が悪態をつく。前方には5匹ほどの狼と何匹かの猿、そして熊型キメラが2体いたのだ。
「ちっ。減速するから、どうにかしろよお前ら」
 減速と同時に紅い目をした荊信が【制圧射撃】で狼の足を止める。
「勝手に出るんじゃないぞ、さもないと餌になるからな」
 研究員に釘を刺し、滝沢が飛び出してP−38を連射する。
「猿は任せてよ!」
 4枚の妖精の様な光る羽を展開させたアリスが、SMGで猿を次々と撃ち落していく。
「――眞空遙に拝み奉らくを白す」
 桜色の髪の祈宮の【呪歌】が狼と熊の動きを止めると、滝沢が次々に狼を撃ち抜いていく。
「D−58ちゃんは左のお願いね!」
 トラックの屋根に上る立花。
「承知。ルート上の敵性体を排除開始‥‥。援護を要請します」
 荷台に飛びかかってくる狼を切り捨て、地面に降り立つD−58。
 2人の言葉を察した一同は、動けない狼よりも猿を重点的に狙った。
 滝沢が助手席に乗り込み、アリスが立花とD−58に【練成強化】を施し、熊に【練成弱体】を撃ちこむ。
「荷台は、僕が」
 D−58のかわりに、後続の狼は復活したトゥリムの【影撃ち】でなんとか対応している。
「先手必勝!」
 車の勢いを利用し、立花は【瞬天速】を使い屋根を蹴って、高速で右側の熊型に接近し、脊髄を凄皇弐式で突き刺す!
「排除する」
 ジャッ!
 弾けるようにD−58は左側の熊型との距離を縮め、ロートブラウで【刹那】を繰り出す!
 2人の奇襲に熊型はなすすべもなく倒れ、D−58は【迅雷】でトラックに戻り、荷台に乗り込む。
 もたれかかる熊を押し返し、立花が道を作った。
「今です!」
「上等だ、リッカ! おい、ちっとばかし揺れるぞ。しっかり掴まっとけ!」
 荊信が忠告と同時に、アクセルを満開に吹かす。
 ゴゴンゴゴンゴン!
 動けずにいた狼型を弾き乗り上げつつも、文字通り立花の切り開いた道を突き進む!
 立花は荷台にワイヤーを引っ掛け【瞬天速】で追いかけ、ワイヤーを起点に飛び乗った。
「このまま港まで飛ばすからなぁ!」
 一行を乗せたトラックは、嵐を切り抜け、全力で港へ向かっていった――。

●港
 港は、山の中の嵐が嘘のような静けさだった。
 そこに一台のボロボロのトラックが到着した。フロントガラスは割れ、右のサイドミラーもなく、ウインカーなども破損している。
 しかし、8人の傭兵と研究員、それにリズ達に目立った怪我はなかった。しいて言うなら、服が柿でえらい事になっている程度である。
「君、左腕大丈夫なのかい?」
 研究員が荊信に尋ねた。荊信の左腕は柿まみれであった。
「心配するな、この皆遮盾荊信が守る以上、悉く遮ってやるのが筋だからな」

 ボケッと不破は晴れ渡った空を眺めていた。
「‥‥少女。見届けて――何か、分か‥‥った。のか‥‥? ‥‥これか――ら。どうして‥‥行く、つもり――だ?」
 雲は流れていく。
「‥‥ソラ。何の意味、が――ある‥‥? ‥‥答えない、か――」
 いつまでも彼は、空を眺めているのであった。

「リズ、大丈夫だった?」
 アリスが手を貸し、リズを荷台からおろす。
「はい。みなさんのおかげです。ありがとうございました」
 深々と頭を下げるリズに、アリスはパタパタと手を振る。
「父親を守ったのに娘は守れませんでした、では能力者の名折れだしさ。乗りかかった船だったもん。当たり前のことをしただけさ」

 アリスとともに明るく笑うリズを、ジッと無表情で見つめるD−58。
「私は何故、彼女を連れてくる事を許容したのだろう。わからない‥‥」

「天候は厳しゅう御座いましたが、尽力いたしました。大切な品は、ご無事でございましたか?」
 祈宮の言葉に、補助席の研究員は箱をシートから出して、うなずく。
「それは、ようございました」
 ニッコリと微笑むのだった――。

 研究員に手を貸す際、滝沢は尋ねた。いや、尋ねずにはいられなかった。
「その中には機密書類や精密機器でもあるんですか?」
「開けたら、めっ」
 間髪いれずに、トゥリムがダメだしをする。ダメだしをされた滝沢は肩をすくめ、おどけてみせるのだった。
「書類なんかじゃないよ。こいつはね」
 研究員の言葉に、立花が口を挟んだ。
「いずれ、それが何か教えてくださいね。人類の役に立ててくれるよう信じています」
 彼女の言葉に研究員は何か考え込むのであった。

 晴れ渡った空の下、船を前にリズがつぶやく。
「父さん、あたし自分の仕事、頑張るからね」
 決意を胸に、リズは傭兵達の輪に戻るのだった――。

『BlackBoxExpress 終』