タイトル:【MO】1つの決戦だ!マスター:楠原 日野

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/07/07 09:59

●オープニング本文


●カルンバ駐屯所
 襲撃から数日。
 薄暗い室内――拘束具を着せられ、椅子ごとワイヤーで固定されている、力のない瞳をしたメイ・ニールセン(gz0477)。
 その前には珍しく笑みを消し、険しい顔のミルバーウェンが立っていた。
「メイ‥‥」
 呼びかけに、反応しない。
 背後に人の気配。振り返る。
「あ‥‥こんにちは」
 ペコリと頭を下げる、制服姿のリズ=マッケネン(gz0466)。かなり無理を言って現地の出張所要員となったのだ――もっとも、前任が前回の襲撃で怯えてしまったため、丁度良かったと言える。
 ミルはリズを見るなり――深々と頭を下げた。
「すまない。こうなったのは私の責任だ」
「いえ‥‥私が傭兵になりたいって言い出したせいでもあるんです。だから――いえ、今はそんな事を話している場合じゃないですね」
 ほんの少し泣きそうな顔を見せたかと思えば、キッと強い瞳でまっすぐ前を向く。
(さすがは妹だけある、とでも言うのかね)
 頭をあげ、メイの顔をハンカチで拭いているリズの横顔を眺める。
「もう少し待ってくれたまえ。必ず、メイをどうにかしてみせる。だから――心が壊れていない事を祈っていてくれたまえよ」
 身をひるがえし、その場を後にするのであった――。

●バラ積み貨物船・甲板
 ミルの呼びかけに集められた数名の傭兵達。
 彼らの前で、自分がネマに会ってから今に至るまでの事を事細かに説明した。
 襲撃してきた強化人間、ネマ・エージィーの事。矢神真一の事。軽い洗脳を受け襲撃していたメイの事。そしていま彼女の心が危うい事を。
「そしてネマはクックタウンで待つと言ったからには、クックタウンに待っているであろうな」
「お嬢、フェイクって可能性はねえのかよ?」
 後ろで聞いていたグレイがもっともな事を言う。
「ないな。直接会い、かつ楓門院の話を総合すると――ネマと矢神は強化人間であるが、洗脳はされていない」
「そのわりには襲撃してきたじゃねぇか」
 ガキンと飴玉をかみ砕くミル。
「‥‥ネマは大きな利益のために細事は斬り捨てる人間だ。人類全体の助けになるなら、100人でも1000人でも殺すだろうさ」
 面白くなさそうな顔をして、ゴリゴリと噛んでいる。
「楓門院の話では、バグアだとわかったら泣き叫んだという。
 ――そんなわけがない。私ですら平気だったのだ。あの女が平気でないはずがない。ギャップを作りだし、あたかも洗脳されている様子に見せただけだろうな。
 私はあの女狐が嫌いだし、根本的に合わないが、先のないバグアに加担するなどという愚の骨頂は起こさないと信頼はしている」
「ひでー言いようだ‥‥。なんで信頼してるけど、合わないのかねぇ」
「簡単な事だよ。私は一度の儲けよりもこの先ずっと小銭を取り続けるタイプなのに対し、ネマは一度に大量の金を落とさせようとする。客商売でそれをやっていては、いつか終わりが来てしまうというのに、な」
 首を横に振るミル。
「おっと、話が脱線してしまったね。それで君達にしてもらいたいことは、ネマのお誘いを受けて、クックタウンでネマと矢神を退治してきてほしい――それがおそらく、ネマの願いなのだ」
 そして突然頭を下げる。いつも偉そうにふんぞり返っている彼女が、だ。
「あと、個人的な事で申しわけない。メイの洗脳解除の方法を聞き出してほしい。おそらくは、聞けば教えてくれるはずだ、頼む」
 そこまでお願いされては、断れない。傭兵達は互いに顔を見合わせ、引き受けるのであった。
「‥‥すまないね。車はこちらで用意したものを使ってくれ。運転手付だ。
 それと、今回の事は軍の馬鹿どもに伝えていない。まあ私個人の勝手な依頼だし、なにより軍にはやってもらわねばならん事もある――今回は余計な足手まといなしで、というわけだな」
 ばっと北東部を腕で指し示す、ミル。
「さあ、諸君。1つの決戦だ!」

●クックタウン
 黒髪褐色肌の美女ネマが、久しぶりに起きてシャワーを浴び、全裸のまま部屋に戻ると矢神がソファーに座っていた。
「もう怪我は大丈夫か」
「ええ、真一――めっきり化物になっちゃったわね」
 たった数日でほとんどの怪我が治ってしまった事に、皮肉気に笑うネマ。矢神を後ろから抱きしめる。
「メイの洗脳は解けたかしらね?」
「さあな‥‥だが無傷にこだわれば、きっと無理だろうな。少々脳震盪起こさせればいいだけなのだが‥‥やはり君も洗脳されておらんだな――なぜ加担するのだ? バグアに」
 会話の流れから解けてほしそうなネマの言葉に、矢神は確信を抱いた。
「――ただ闇雲に殺されたり洗脳されたんじゃ、無駄にしかならないもの。こうやって機を伺い、一気に楓門院の計画を水泡と化す。
 ‥‥まあ、あいにく強化人間プラントはすでにもぬけの殻だけど、少なくともシェルターで飼われている馬鹿人間の目を覚まさせてあげるしかないわね」
 ネマが矢神に口づけをする。長い――長い、時間。唇を離し、ネマがそっと囁く。
「真一‥‥一緒に死んでくれる?」
「当然だ」
 迷いのない矢神の即答。ネマはさびしそうに笑うのだった――。

「さて、行くわよ」
 スリットの入ったチャイナ服に、いつもの大鎌ではなく、斧付の槍――いわゆるハルバードと呼ばれる物を持ち(ただしやはり柄の両側に槍の穂先と斧がついている)、いつもは楓門院が立つ壇上に上がるネマ。
 後ろには喪服姿の矢神もついている。
 壇上に立つと、シェルター内部の人間は注目する。口々にネマ様だ、バグアばんざーいなどと、これから起こる事も知らずに呑気に構えていた。
「ごきげんよう、選ばれもしなかった残りカスの諸君。私は『バグア』のネマ・エージィーよ」
 いつもと雰囲気の違うネマに人々は困惑する。
「このたび我々『バグア』はここでの実験を終了し、強化人間にすら選ばれなかったあなたたちを処分します」
 わざわざバグアを強調する、ネマ。人々にバグアの恐怖を植え付けるために。自ら悪役となるために。
「ではさようなら、ゴミども」
 人々が理解しないうちにネマは壇上から飛び降り――ハルバードを一閃。人々の首が飛ぶ。
 悲鳴。
 そこに矢神も飛び降り――近くにいた人間がまとめて20mほど上空に放り出される。地面に叩きつけられれば、それだけで死ねる高さだ。
 2人による虐殺が、今始まった――。

 開きっぱなしのシェルター出入り口から大量の人が流れてくる。
 その流れに逆らい、傭兵達が突き進んでいくと――血にまみれたネマと矢神が、広場で堂々と立っていた。
「いらっしゃい、待っていたわ――まさか弱かったりはしないわよね? さあ、最後のお愉しみといきましょうか」
 手を抜くつもりはない。本気で殺し合いを演じ、壮絶なものでなければ人々は訝しむから。
 人々がかなり遠巻きに眺める中、ネマと矢神、2人が構えて傭兵と相対するのであった――自分を殺してもらうために――。

●参加者一覧

UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
錦織・長郎(ga8268
35歳・♂・DF
御守 剣清(gb6210
27歳・♂・PN
日野 竜彦(gb6596
18歳・♂・HD
クレミア・ストレイカー(gb7450
27歳・♀・JG
美紅・ラング(gb9880
13歳・♀・JG
春夏秋冬 立花(gc3009
16歳・♀・ER
蒼 零奈(gc6291
19歳・♀・PN

●リプレイ本文

●クックタウン
「「いらっしゃい、待っていたわ――まさか弱かったりはしないわよね? さあ、最後のお愉しみといきましょうか」
 ネマが微笑み『7人』の傭兵達を前に、一歩踏み出す――と、その前に春夏秋冬 立花(gc3009)が歩み出た。
「同士ミルが言っていました。ネマは信頼している。彼女達を退治して欲しい。それが彼女の願いだからって。
 ――でも納得できないんですよ! なんでこうなったんですか!」
 声を荒らげる立花――そんな彼女にネマは冷ややかな視線を送っている。
「なんで? ただゴミを排除しているだけじゃない」
 地面に横たわっている『ゴミ』を足蹴にする。
 その光景に、立夏は目をそらし、悲しそうに眉をひそめて言葉を続けた。
「本音は殺されたくないし殺したくないと思っているはずなんです! だったら誰もが殺されないように、殺さないようにしたら悲劇は減るはずなんです! それを戦争だから、戦いの礼儀だから、他人に迷惑をかけたくないから、願いだから、犠牲を減らすためだから――ふざけるな!」
 涙を滲ませ、叫ぶ。
「そうやって仕方ないってわかったフリをするから戦争がなくならないんじゃないか! 傷つかないように、傷つけないようにするのはそんなに難しいですかッ? 力を借りるのはそんなに難しいですか! この状況だって、早いうちに私達に協力を頼めばこんな事態にならなかったはずです!」
 ――ピクリと、ネマが反応する。その反応を見逃さなかった立花は、胸を押さえ、言葉を絞り出した。
「‥‥死んでしまった人は助けれませんが、貴方達はまだ生きています」
「なら、なぜもっと早く貴様らは――」
 重々しく口を開いた矢神を、ネマが手で制する。
「我々は、バグアの強化人間。すでに人などではないわ。貿易商人ネマ・エージィーは死んだのよ」
 一筋だけの涙を流し、まっすぐに立花を睨む――いや、その目には立花が映っているのではない。傭兵全てを睨んでいるのだ。
 もっと早いうちに楓門院をどうにかしてくれれば、自分達はこんな事にはならなかった――その言葉を飲み込んで。
 涙を見て確信した立花が、さらに踏み込み、続けた。
「悲しんで、怒って泣いて、それでも意思を持っている人のどこが死んでいるんですか!
 ‥‥お願いです。小難しい小理屈じゃなくて、貴方の心を教えてください――どうしたいですか?」
 もう一歩――というところで、立花の鼻先に刃先が向けられる。
「――殺しあいを、愉しみたいわね」
 あくまでも『悪人』として微笑むネマ。
 ミル・バーウェン(gz0475)から、ネマが身を捨てて人類の敵を演じていると聞かされてはいたが――立花は彼女の決意がこれほどとは思わなかった。
(100の利益を得る為に99の損失を甘受する方針は、僕の哲学と同等な訳だが――ここまで徹底してると素晴らしい事この上ないね)
 くっくっくと、後ろで肩をすくめ含み笑いを漏らす錦織・長郎(ga8268)。
 立夏は頭を振り、涙をぬぐう。
「‥‥残念です」
 その言葉が言い終わらぬうちに、立花の後ろから紅い影がネマに襲い掛かる。
 縦一閃――ネマがその不意打ちを柄で流し、2撃目の横一閃を受け止めながら大きく跳躍する。
「悪いけど、利用させてもらったよ」
 瞳を真紅にした刃霧零奈(gc6291)が、立花の横で静を振りかざしていた。
 矢神とネマの間が広がったところで、各々傭兵達が間に割って入り、対峙する。
 ネマの前には立花、零奈、UNKNOWN(ga4276)、錦織・長郎(ga8268)、クレミア・ストレイカー(gb7450)の5人が。
 矢神の前には御守 剣清(gb6210)、日野 竜彦(gb6596)の2人が並んでいた。
「‥‥ネマに5人で俺を相手に2人か――随分なバランスだな」
「別に舐めているわけじゃない。ただ‥‥厄介な相手っぽいですね‥‥『色々』と」
 ミルの推測が、立花の説得、そしてネマの見せた涙で当たっていると確信してしまった剣清も、実に複雑な表情をしている。
 リンドヴルムを身にまとい顔が隠れているが、竜彦も似たような表情ではある――だが、矢神とネマが洗脳されていないと確証を得、確信したところで、手を抜くつもりは一切なかった。
 なによりも目的は一つではないのだ。
「先に1つ‥‥メイさんの洗脳は解除できるのか?」
 声を低く小さく、決して一般市民に聞かれないよう最善の注意を払って質問を投げかけた。
 竜彦の気遣いに気がついたのか、矢神も声を低く小さく、そしてなるべく唇を動かさずに答える。
「‥‥脳を少々揺らすだけでよかったのだが、な」
「その言葉は、本心からか?」
「どうせネマからも聞くのだろう。 同じ回答になるはずだ」
 スッと矢神が手を前にだし――どっしりと構える。剣清が矢神の突進に警戒し、刀に手をかけた。
「俺の正義はネマだけだ――さあ、貴様ら脆弱な人間の正義を見せてみろ」
 矢神も『悪役』を演じ、相当なプレッシャーを放つ。
 竜彦も紅炎を抜き、構えた。
「そのカッコ、何か意味はあんのかい?」
「‥‥人間の血で汚れても、目立たないからだ」
 ぞんざいな回答。それっきり矢神は口をつぐんでしまう。
 矢神の覚悟を汲み取った2人。2人とも覚醒する。
「戦士として貴方達の信念には敬意を感じるが‥‥数々の虐殺を許すわけにはいかない」
 竜彦が紅炎の切先を矢神に向け、大きな声で『正義』を演じる。
「人類はバグアに、負けないんですよ」
 身を低く屈め、柄に手をかける『善を貫く男』。
 3人の間にはとてつもない緊張感が漂っていた――。
(美紅、しっかりやってくれよ)

「このポイントに何とか誘い込んでほしいのである。そうすれば美紅が仕留めてみせるのであるよ」
 クックタウンに踏み込む少し前に美紅・ラング(gb9880)は、占領される前の地図を広げ、狙撃に適したポイントを割り出して竜彦と剣清に矢神の誘導を頼んでいた。
 そして今、皆から離れ1人、狙撃ポイントへと向かっていた。
「直線的な銃撃の恐ろしさを思い知らせてやるのである」
 本来ならばネマの方が戦術的相性はいいのだが、いかんせん矢神をどうにかせねば、ネマ相手の想定被害が許容限度を超えるため、矢神を攻略する事に全力を注いでいた。
 以前の襲撃からずっと、黙々と倒すための方策を練り続けていたのだ。
 誘導ポイントに到着し、しゃがんで地面の硬さをチェックする――十分だ。
 立ち上がると、90mほど離れた建物の横、鉄の外階段をカンカンカンカンと駆け上がる。
 2階の踊り場まで来るとスナイパーライフルに貫通弾を装填し、寝転がると先ほどのポイントにテレスコピックサイトを通して照準を合わせ、じっとその時を待ち構えるのだった――

 ネマと対峙する5人。さすがに立花も説得はあきらめたようで、大人しくダンタリオンを手にしていた。
 その様子に、ずいっと前に出る男が1人。UNKNOWNである。
「――戯言は終わった、かね?」
 ネマを上から下まで眺め――もちろんこの間にも矢神への注意は怠らない――そして一筋の紫煙を吐き出した。
「本題に入ろう、か」
 何を思ったか、彼は懐からピシッと綺麗に折りたたまれた服――バニーガールを取り出し、掲げてみせる。
「バニーを、着なさい。サイズはフィットしている。はずだ」
 ズンッ
 槍先がバニーガールを貫通する。パサリと穴のあいたバニーガールが地面に落ち、UNKNOWNは眉間を指で押さえながら頭を振った。
「やれやれ、せっかちなお嬢さんだ」
「メイさんの洗脳‥‥どうやったら、解けるの?」
 UNKNOWNを押しのけ、落ち着いた雰囲気の零奈がまっすぐにネマに問いかける。
 その質問に、いまだメイの洗脳が解けていない事に気がついたネマは一瞬だけ表情をこわばらせ、すぐに笑みを取り戻す。
「‥‥無傷でよくあのメイを捕えたわねぇ。顔を殴りもせず、実に偉いわ」
 その言葉は暗に、殴れば戻っていた、そういう意味でとらえる事が出来た。
「軽〜く、洗脳しただけだもの。あの子の意識だけは残して、ね」
「軽〜く洗脳したと言うけれども、そのおかげで仲間が相討ちになりかけたわ」
 聞き捨てならなかったのか、クレミアが零奈の様子を窺いながら口を挟む――表面上、零奈が落ち着き払っている事におやっと思いながらも、胸をなでおろす。
「あら、相討ちになるならあの子も本望だったのにね。きっと懺悔をしながら、動かせない身体が動き仲間を傷つけるさまを眺めていたでしょうに――」
「一方的な思い上がりね‥‥。地獄以外に逝くべきところは無いとみたわ。まさに吐き気を催す『外道』よ‥‥」
 真意はともかく、望みどおりに『悪人』であることを強調し、ヘリオドールの銃口をネマに向けた――そこで長郎が手で制し、前に出る。
「武人の覚悟を持ってこの状況を披露し、まさに『悪役』として望むなら期待に応えるべく確実に討伐して、僕らこそが希望の存在であると保護すべき一般人に示してみせるね――だが、それだけでは少し足りないね」
 真デヴァステイターの銃口で眼鏡を直し、くっくっくと肩をすくませ笑みを浮かべる。
「ひとつ賭けをしようじゃないか」
「‥‥なにかしら?」
 ネマが誘いに乗った――いや『賭け』という言葉からすでにどんな提案が来るのか察した彼女は、その話に乗っかったのだ。
「君達が勝てば僕達は以降の行動を妨げる事はしないが、僕達が勝てばそうだね‥‥楓門院女史周りの情報を教えて貰えるかね。この先情報と戦闘を廻して、展開してくのに必須なのでね」
「いいわよ。私達に勝てる気でいるのが気に食わないけど、その賭け、飲んであげましょうか――ついでに、洗脳の解除方法も教えてあげるわよ」
 この瞬間、公然と伝える事が出来るための前口上が、できあがった。
 お互い、これで語りつくす事は語り、あとやるべき事はただ一つ。
「さあ、殺し合いましょう――」

「おおぉっ!」
 雄叫びをあげ、一瞬にして懐に飛び込んだ剣清が刀を抜刀する――が、矢神も一歩踏み込み、左手で腕ごと上の方向へとそらす。
 泳ぎ、伸びた身体に矢神の右拳が、というところで顔めがけ竜彦、紅炎の一突き。右拳を受けまわしに転じ、ほんの少し軌道をそらして頭を動かす。顔すれすれに紅炎が通過。
 すかさず剣清が刀を振り下ろすが、柄尻を左の掌底で押し上げられ、動きを止められてしまった。
 だがそれは、矢神も同じ事。
 竜彦が身体の陰に隠していたクルメタルで腹から下を狙い、発砲。
 しかしその直前に矢神は竜彦の腕をつかみ、手前に引きこんだことで狙いがそれ、弾丸は地面にめり込む。そして矢神の腕が蛇のように2人にうねり、まとわりついたかと思うと――2人そろって宙に浮かされ、地面に叩きつけられる。
「ぐっ!」
「っが!」
 地面に転がる2人。倒れた剣清の頭部めがけ、矢神が足を振り上げズズンと大地が揺らぐほど踏み込む。
 間一髪、横に転がりかわした剣清。硬い地面が足の形に30cmはへこんでいた――まともに食らえば、即死していたかもしれない。
 横になったまま、竜彦が踏み込んだ足にクルメタルを発砲。
 さすがの矢神も流せないのか、それは素直に後ろへ跳んで回避する。
 距離が開け、立ち上がる時間を稼いだ2人が立ち上がった。
 矢神は再び、あの構えである。
「‥‥なるほど、合気に空手というだけあるな」
 ミルから聞いていたとはいえ、実際戦うとなると、かなり難解でやりにくい敵であった。
「力は添え物、されど万物を破壊するものはまた力なり」
 重圧を感じさせる矢神の言葉。剣清が苦笑いを浮かべる。
「柔よく剛を制す、また剛は柔を制す――剛柔一体の境地ってやつですか。こんな状況でなけりゃ、サシで手合わせ願いたかった、かな‥‥」
 その言葉で、矢神が自分よりも上の境地にいる事をまざまざと実感した剣清。
 3人は再び対峙する――が、2人の方がやや下がり気味である。
「そいつは理想の境地の一つで、日野さんや俺もそこまでは到達はしてませんけど‥‥人間、今ある自分のスペックでどうにかするしかないんですよ」
 再び刀を鞘に納め、抜刀の構え。
「その通り。今の俺ら『2人』で、あんたに勝つしかない」
 紅炎を突きつける。
 2人であることを強調し、すでに身を潜め、チャンスをうかがっている美紅の存在を悟らせまいとしているのだ。
 竜彦が駆け出す。少し遅れ、納刀したままの剣清も駆け出す。
 紅炎の下から斜めの切り上げを、身をかがめやりすごすと、肩から竜彦に向かって突撃。させじと剣清が、矢神の左横からの抜刀――突撃を停止し、半身のまま刃の腹を下に押して流し、踏み込んで、掌底。
 肩に刀を当てて掌底を防ぎ、勢いに押されて後ろに押し戻される。
 しかし、そこに確実に隙があった。
 残った蹴り足にクルメタルを押し当て、即座に発砲。太ももから血飛沫が上がる。
「‥‥むっ」
 一瞬のひるみを突いて、畳み掛けるように背中へ紅炎を――振るった竜彦が宙に浮いていた。足で足を払われたのだ。
 宙にいる竜彦の眼前に、矢神の拳が跳ぶ。
「させるか!」
 咆え、腕を斬り落とすように剣清が振り下ろすと、刀の動きに合わせて腕も振り下ろし、斬らせない。
 地面に這いつくばるように着地し、足を斬りつけると、再び矢神は後ろに大きく跳び退るのだった。
(もう一息!)
 今度は間をおかず、剣清が前に出る。
 そして斬りかかる! と思わせておいて直前で右方向に跳ぶと、その後ろから身を低くした竜彦が足を狙い紅炎を振るう。
 剣清のいない横の方向に跳んでかわす――着地した先は美紅が調べていたポイントである。
(今こそ!)
 納刀した剣清が再び、開始時と同じように一瞬にして懐に飛び込む。
 そして開始時と同じタイミングで矢神が腕を伸ばそうとした刹那――初太刀よりはるかに速い神速の一撃が矢神の腕をやすやすと斬り落とした。
(此処だ!)
 リンドヴルムの脚部にスパークが生じ、竜の紋章を赤く輝かせた竜彦が距離を詰め、紅炎を振りぬこうとして、あたかも間にいた剣清に躊躇したかの様に見せ、わざと隙を作る。
 その隙を逃さず、一歩踏み込む矢神――かかった。
 右拳の一撃。左腕を犠牲に、その重く硬い一撃を受け止める。食らう気でいれば、なんとかなるものである。
 ギリっと歯を食いしばり、痛がるのを後にして踏み込んできた足を踏みつけると――紅炎で自らの足ごと貫いた。
「今だ!」

(見事であるぞ、たっ君!)
 ずっと待ち構えていたこの一瞬。ずっとずっと矢神を待っていたのだ。
 すべてはこの一瞬のために。
 狙いを定め、1発。
 タァァァァァン――
 銃声。
 その音に反応した矢神が、がくんと足をつんのめらせつつも銃声の方角に向けて右手を振りかざし――右手は上にはじけ飛ぶ。
 1撃目はもともと、防ぐであろう手を狙い地面で跳弾させていたのだ。
(ヘッドショットだと思って軌道を読んだ分、狙いやすいのである)
 シャコンと次弾装填。
「一撃あるのみである」
 そして矢神の眉間に狙いを定め、引き金を引いた――。

「さあ、殺し合いましょう
 開戦一番、ネマが踏み込み両端に刃の付いたハルバードを横一閃。
 傭兵は各々下がり、散らばりながら範囲から逃れる――別の言い方をすれば、誰も踏み込めなかったほど、鋭い一撃だった。
「軽くなった分、ますます踏み込みづらいわね」
 下がりながら、前回、大鎌を持っていたネマと対峙した事のあるクレミアが呟く。
 そのクレミアに向かって、ネマは3歩踏み込み、ハルバードの片手突きを繰り出した――前よりもリーチが長い事に警戒していたクレミアは、下がりながらもエルガードで横に弾く。
「やっぱり、早いし長い!」
 しかし伸びきった腕は隙だらけだと言わんばかりに、長郎が狙いを定め、真デヴァステイターを放つ。
 だが突く速度が速いと言う事は、戻る速度も速い。
 伸びきった腕を引き込むように身体を回し、ハルバードを水平に振り回して、踏み込もうとしていた零奈と立花の足を止めさせる――だけでなく、範囲外にいたはずの長郎に向かって、身体ごと投げ出して距離を詰めに行く。
 だがそこにUNKNOWNがふらりと立ち塞がる。
「邪魔」
 柄尻の刃で切り上げるが、少々身体をのけぞらしてやりすごすと、柄を回して股下からの切り上げにもターンする様に優雅に避けながらも歩を進める。
 自分の間合いで2度もあっさりとかわされた事実を受け止め、前に前に出ようとするネマが一転、後ろに下がりながら薙ぎ払う――だがそれを切先がギリギリ当たらないところでコートの裾をひるがえして身を一回転させると、刃先を追いかけるように手を添え、そっと押す。
 後押しされて勢いがついた分、身体が一瞬泳ぐネマ。
 その一瞬でカルブンクルスを抜き、脚に狙いを定めて撃ちながら距離を詰めようと動くUNKNOWNだが、ネマは刃先を地面に突き立て、両足で蹴りを放った。
「おっと。足癖の悪い。お嬢さんだ」
 ジャリッと足を止め、正面から2人が対峙する。
「‥‥つかみどころのない男ね。なんなの、あんた」
「私かね? 後衛職の回復役、だよ」
 帽子を目深にかぶり、口元に笑みを浮かべるUNKNOWN。呆気にとられたネマの背後に、紅い影が。
「その隙‥‥見逃さない」
 静を振りかぶり、軌跡を描き何度も振るう零奈。
「っく!」
 初太刀はなんとか柄で受けたものの、背後からの2撃、3撃は受けきれずに、UNKNOWNに突撃する形で前に出て範囲から逃れる――背中に幾筋もの切り傷をつけながらも。
 ブォン!
 道を開くために振るったハルバードの一撃。
「うむ、凄い剣圧だね」
 たった一歩下がっただけでやり過ごしたUNKNOWNは、すぐに踏み込むとネマにぴったりと肉薄した。
 まるでキスするかの如く顔を近づけ、囁く。
「まあ、ただの旅人、だがね」
 顎めがけ、ネマの掌底が繰り出される。
 のけぞってやり過ごすと、後ろに下がる――ちゃっかりと足にカルブンクルスで火傷を負わせる置き土産付で。
 膝が落ちそうになるネマ。だがそう見せかけ、近くにいた立花にハルバードを突き立てる。
「あっ!」
 かろうじてその一撃は、使う予定だった小型超機械αに突き刺さり、難を逃れた。しかしもちろんそれだけでは終わらない。
 ネマが追撃をかけようと踏み込むと、ふくらはぎを撃ちぬかれていた。ネマの死角にいたクレミアが、地面を跳弾させて撃ちぬいたのだ。
 それでもネマは止まらない。
 血が吹き出すのもお構いなしに強く踏み込むと、隙ができたと思っていた淡く白い輝きに包まれようとしていた立夏の腹に膝蹴りを叩き込み、拳で頬を殴りつける。
「あぐぅ‥‥!」
 殴り飛ばされる立花を長郎が受け止め、ネマを撃って牽制する。
「くっくっく、呪歌かね‥‥まだ君に覚悟が足りていないのかね?」
「たいちょー‥‥大丈夫です、もう決めましたから」
 多少ふらつきながらも、両足で立ち上がり、ダンダリオンを構えた。
「まあ頑張る事だね」
 2人がやり取りしている間、ネマはUNKNOWNと零奈を相手にしていた。
 UNKNOWNに狙いを定め重点的に攻撃しているものの、避け、あるいは爪で受け流されと、決定打には至らない。
 だがUNKNOWNの方も、なかなかに撃つ暇を与えさせてもらえない。
 2人が拮抗しているとも言える状態で、零奈が足を止めることなく攻め続けているため、ネマの身体には幾筋もの傷がはっきりとついていた。
 所々でUNKNOWNの目配せの合図に合わせ、クレミアが手や足を狙って狙撃もしているため、ネマの四肢には銃痕もついている。
 もちろん、長郎も合わせて手や足を狙い撃っているのだ。手も足も、すでに血まみれである。
 だがそれでも彼女は戦う事をやめない。
「いい加減、止まってください!」
 立花の一声でネマが強烈な電磁波に包まれる――が、彼女は声一つ上げずに身体を震わせて振り払うと、立花にハルバードを振り下ろす。
 しかし零奈の静が力の入っていないそれを受け止め、流すとつんのめるネマ。
 そこに3人の狙撃が襲い掛かり、もはやそれを捌けるほど動けてもいない。まともに直撃し、ただ耐えるだけだ。
 ハルバードを立てて身を預け、息を切らせるネマ。それでも笑みを作り続けている。
「‥‥おやおや。なかなかに、しぶとい」
 煙草を咥え優雅に佇んでいるUNKNOWNの姿が、圧倒的優位である事をはっきりと窺わせる。
 ――と、その時。
 タァァァァン‥‥タァァァァン‥‥。
 2発の銃声。
 その音を聞き――ネマの表情が凍りつく。
 そしてフッと悲しそうな笑みを浮かべ――天を仰ぐ。
「あああああああぁぁぁぁぁぁっ!」
 泣き叫んでいるかのような雄叫びをあげる彼女の様子に、あっちのカタがついたのだと一同が察する――そして彼女の心中も。
 しかし、その心中が許せない人間がいた。
「‥‥黙って死んでよぉ‥‥!」
 友を助けるために友に取り返しのつかない事をしてしまった自責の念にとらわれていた零奈が、憎しみをたたえた目で睨み付け、静を振りかぶって突撃する。
「うるさい!」
 ハルバードの一突き。
 それを零奈は身をよじり、傷を創りながらも腹にかすめさせると――静を投げ捨て、両手でがっちりと柄を掴んだ。
「ぐぅ‥‥離さない‥‥からぁ‥‥」
「今だわっ! お見舞いするわよっ!」
 叫ぶクレミア。ガンレティクルの紋章がスコープへと変化し、ネマの胸部に狙いを定め引き金を引く。
「くっくっくっ‥‥では支払いは1回で確実に回収しようね」
 長郎肩をすくめ、赤い光をまとった真デヴァステイターの引き金も引く。
 2つの銃声。ネマの胸から吹き出す鮮血が、零奈を濡らす。
 そして――ネマは崩れ落ちたのだった。

 眉間を撃たれた矢神だが、まだギリギリ意識があった。
 剣清は彼の横にしゃがむ。彼は目の前の『自分の正義を貫いた男』に敬意を払っていた。
「女のために動くのが悪いとは、オレは言えねぇよ――けどアンタなら、もうちっと違う方向に‥‥いや、後悔が無けりゃそれもいいのかな‥‥」
 頭を振り、偉大な男を前に小さな同情はやめる事にした。
 そこに遠くから女性の雄叫び――2発の銃声――訪れる静寂。
 向こうも勝負を決したのだと分かった。
「死ぬ前に言い残して置きたい事はあるか?」
 竜彦の問いに矢神の口が弱々しく動き、2人は口元に耳を近づける。
「メイに‥‥すまんと――」
 その言葉を残し、彼はそれっきり何もしゃべらなくなった。
「たっ君、終わったでありますか?」
 サイトを外し、スナイパーライフルを担いだ美紅が歩み寄ると、竜彦は立ち上がり、静かに頷くのであった。

「まだ息はあるかね?」
 長郎が油断なく構えながら、倒れているネマに近寄る。
「――かろうじて、ね‥‥約束、を‥‥守らないと、ね‥‥」
 零奈、立花、クレミアも集まる。UNKNOWNだけは1人、離れで建物に背を預けながら煙草を吸っていた。
「あの子だけど‥‥少し、頭に――打撃を、ね‥‥ただ、それだけで‥‥よかった――」
「ずいぶん単純な解除方法ね」
 少し胡散臭げにクレミアは呟く。
「時間も‥‥なかったから、その程度の――洗脳しか‥‥時間があったなら‥‥殺すしかない‥‥洗脳を施していたわ」「君らの都合は、所轄、どうでもいいのだがね。肝心の楓門院について、教えてもらおうかね」
 くいっと眼鏡を直す長郎。
「‥‥見た目と違って――驚異的な膂力――それと瞬間移動――あとは‥‥銃弾の――軌道を‥‥触れなくても――そらしていた――わ。狙撃なんて‥‥役に‥‥かわりに‥‥あまり‥‥動こうとしない‥‥」
 もはや長くないと悟った。
「最後に、言い残す事はありますか?」
 立花の問いかけ。ネマは口元に笑みを浮かべ――声を張り上げる。
「我らバグアに、栄光あれ――!」
 そして真一、と唇が動き――それっきりであった。
 最後まで悪役を演じた彼女に、UNKNOWNは敬意を払い、帽子を脱いで胸元に掲げる。
「見事。君らの思い、受け取ったよ」

「終わったみたいッスね、お疲れ様ッス!」
 雰囲気など関係なしに陽気なボマーが傭兵達に声をかけた。
「ボマーさん、だったかな。なんでここに?」
 美紅の肩を借りて、足を引きずりながらやってくる竜彦。剣清は矢神を抱えていた。
「いやーお嬢が『施設を残しておくとろくな使い方をしない恐れがあるから、破壊しとけ』と言うんで、ちょっと仕掛けてきたところッス」
「くっくっく、我々を囮にしていたのかね」
 肩をすくめる長郎。ミルをよく知っている分、腹も立ちはしなかった。
「そういうことッスねー。ほんじゃ、爆破しますんで――」
「待った――彼女達の遺体も、まとめて吹き飛ばしてほしい。このままだと、辱めをうけそうなんで」
 遠くで眺めている住民達の恨みの視線が、ネマに注がれているのを感じ取っていた竜彦。敬意を払った戦士が、人類のためにできる事をした彼女達が――そんな扱いを受けるのは、我慢できなかった。
 強化人間施設に2人の遺体は運ばれ、皆が見守る中――一瞬の爆発――そして建物がまっすぐに倒壊していく――2人の武人を飲み込んで――。

●カルンバ駐屯所
「そうか‥‥皆の者、ご苦労だったね」
 傭兵からの報告を受け、メイの前で椅子に座っていたミルが労い、立ち上がる。
「メイさん‥‥」
 メイの傍らには、リズ=マッケネン(gz0466)が口元を押さえながら不安げに立っていた。
「頭部への一撃、だったね?」
「まあそうだけど‥‥うーん、最終的にはメイ本人の『自我』なのかしら‥‥?」
 心配するリズをそっと、後ろから抱きしめるクレミア。いつものやましい気持ちなどなく、ただそうしてやりたかっただけなのだ。
「では――」
 メイの前に立ち、手刀を掲げるミル。
「お願い‥‥治って‥‥」
 腹部の傷の痛みに耐えながら、ギュッと祈りをささげる零奈。UNKNOWNの治療を断ったのだ――自らを罰するために。
「ちぇ、ちぇ、ちぇ‥‥ちぇりおー!」
 謎の掛け声とともに、振り下ろされるミル全力の手刀――皆が固唾を飲んで様子を窺う。
「‥‥痛いわよ、お嬢」
 メイが喋った。
「メイさん!」
 涙を浮かべ、リズがメイに跳びつき、強く抱きしめる。
「ただいま、リズ。ごめんね――」
 メイの言葉に、リズは泣きじゃくりながら、何度も何度も謝るのだった。
 無事に解除できた事に、皆が胸をなでおろす。
「良かった‥‥本当に‥‥」
 小声でぼそりと呟き、静かに駐屯所から出る零奈。その目には涙をたたえ。
「声もかけずに、どこに行くのかね?」
 外に出たところで、手を押さえてしゃがんでいるミルに呼び止められた。リズが飛びつくと同時に、外へと移動していたようである。
「だって、あたしのせいだから――」
「それで君はいいかもしれんが、メイも自分のせいで傷をつけた事を悔やんでいるはずだ――頼む。会ってやってくれ」
 ミルのお願いに、零奈は考え込み――意を決して駐屯所に戻った。
 室内では泣きじゃくるリズをクレミアが胸で受け止め、その間に拘束具を脱がしてもらっているメイがいた。
 メイの前に立つ零奈。お互い、まっすぐに見つめあう。
 そして――メイが大粒の涙を流し、顔をしかめてうつむく。
「ゴメン、刃霧っ。ゴメン‥‥!」
 自分と同じようにメイも辛かった事に気付くと、零奈も涙を浮かべ、額を合わせ、泣いた。
「あたしも‥‥ゴメン――おかえり、メイさん」

 クックタウンは傭兵達と入れ替わりでUPC軍がやってくると、住民達の指導にあたった。幸い、ネマの効果が大きかったために、親バグア派に限りなく近かった住民達も素直とは言い難いが、それでもスムーズに事が運んだ。
 そしてリズはもう少し駐屯所に残る事にした。自分の責任を果たすために。
 メイはというと――洗脳の影響なのか、両足とも感覚はあっても動かなくなってしまい、戦線を離脱せざるをえなくなった――本人は、生きていただけでも御の字よと笑っていた。
 そんなメイはミルの取り計らいもあり、日本の小さな島でリハビリ療養しながらオペレーター業務に就く事となった。
 こうして長きにわたった戦いの1つが、幕を閉じたのであった――。

『【MO】1つの決戦だ! 終』