タイトル:【DW】海の結婚式【海】マスター:楠原 日野

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/06/29 06:37

●オープニング本文


●どこかの島・バグア基地
「その後はどうだ。もうそろそろ、あの周辺は様変わりした頃か」
 白いバグア戦闘服を着たショートレイヤーの女性が、細い腕には不釣り合いなどを大きな腕時計を眺めながら、退屈そうに足をぶらぶらさて椅子に座っていた。
「あ、いえ‥‥カジキキメラの方はすべて一掃されてしまいました」
「‥‥ほう?」
 足が止まる。
「どうやら傭兵の援軍があったようでして、数時間で駆逐されてしまいました」
「ほほう。人類側にも、ましな動きをする奴らはもっといると言う事か――そういえば以前、オーストラリア方面でもいい動きをする奴らがいたの」
「数名、その時と同じ者だと判明しています。それとですが‥‥1機、常駐のようでして――どうやら、死んでいなかったものと推測されます」
 がばっと立ち上がる。目を爛々と輝かせ、口元には実に楽しそうな笑みを浮かべていた。
「生き残っていたか。ならばどんな者か、我が直接見てこようではないか」

●民宿・海の家
「あ、おかえりなさい琉さん。今日は迷わずに帰ってこれました?」
「‥‥しょっちゅう迷っているみたいな言い方だな、海」
「自覚が――いえ、なんでもないです」
 小麦色に焼けた少女がはにかみ、言葉を濁した。
 引っかかるものはあったが、蒼 琉(gz0496)はそれを言及せずに海の手に握られている手紙に目を止める。
「誰からだ?」
「2年前くらい、シュノーケリングで来たお客さんです。うちのツアーで一緒になった人と、結婚するそうですよ」
「ほう‥‥それはめでたい事だな――その報告か?」
 2年前は先生――海の母である津崎 渚がまだインストラクターをしていた時代だ。もしも先生への報告であるならば、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「報告とお願いですね」
「お願い?」
 潮風でベタベタなシャツを脱ぎ振り返ると、海は顔を赤らめて横を向いている。13歳の少女を前に、いささかデリカシーにかけている感もある琉。
「海の結婚式というか、指輪交換と誓いのキスを海中でしたいそうです」

●一湊海岸
「参ったな‥‥」
 朝日に照らされた砂浜に佇み、ズボンはそのままに上半身裸の琉は腕組みをしながら悩んでいた。その足元の網には毒々しい色のかなり大きなヒトデ――正しくはヒトデキメラがみっちりであった。
 的確に珊瑚を食い荒らすそいつはカジキとともにばらまかれていたらしく、ここ最近ずっとそれを拾い続けている。
「もう少しなのだが――あと4時間以内に1人で駆逐は無理だな」
 張り付き方がなかなか強く、覚醒してそれなりの力で手づかみで引きはがさないとはがれないため、他の漁師たちに手伝いを要請することもできない。
 砂浜に座らせているリヴァイアサンの足に腰を掛ける。
 リヴァイアサンで上手くできないかとも少し試したが、まだ乗り換えてから日が浅いため、珊瑚を壊さずヒトデを弾くという芸当はまだできずにいた。
「さて、どうしたものか‥‥」
「どうかしたんですか?」
 声をかけられ、振り返る琉。
 白い水着姿をした、茶色い髪にショートレイヤーの女性が立っていた。その細い腕には不釣り合いなほど大きめの、腕時計をつけている。
 その女性は琉の顔を見るなり眉を顰め、右手で自分の目を覆い隠す。
「君がどうかしたのか?」
「いえ――私は生嶋 凪。あなたは?」
「俺は蒼 琉だ――もっとも本名ではないはずだがな」
 肩をすくめると、生嶋 凪(gz0497)は首をかしげた。
「3年前、ここに流れ着いた時には名前や住所を思い出せなくてな。それで助けてくれた恩人が、名づけてくれたんだ――」
 先生がくれた名前はもちろん好きだが、やはり今でも自分の本名は気になる琉。自分の腕時計に目を落とす。
「そう、ですか」
 凪は何かにホッとし、網でうごめくヒトデに目を向けていた。
「お困り事はそれですか?」
「ああ。あと4時間後――つまり10時には特別なお客さんが来て、海中で指輪交換などすると言っているのだが――まさか一生の思い出の中にこんな生き物まみれの珊瑚を見せる訳にもいくまい」
 毒々しい緑、赤、紫の3色で構成されているキメラ。いくら南方とは言え、こんな色合いの生物は景観にそぐわない。
「じゃあ私も拾うの手伝いますよ」
(せっかく我の楽しみが増えたのだ。こんな細事に気を取られていては困るのでな)
「凪、君も能力者なのか?」
「ええ、まあ。そんなところです」
 さすがにバグアとは言えず、適当に誤魔化す。能力者ではないが、ヒトデごときは簡単に引きはがせるだけの膂力はある。
「それならば、手伝ってほしい。報酬はだそう」
 シャツを手に取り腰を上げる。
「ふむ‥‥能力者に手伝いを頼む、か。準備もあるからには、時間いっぱいまで拾ってられんし、近くに来ているかもしれん仲間にも連絡して、手伝ってもらうか。終わった後には、うちにでも招待しよう」
「それじゃあ私は拾ってきますね」
(あまり話していると、この肉体の記憶のせいで我がどうにかなってしまいそうでな)
 逃げるように凪が海に向かって駆け出し、琉は『どこか』へと向かった――。

●参加者一覧

終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
クラーク・エアハルト(ga4961
31歳・♂・JG
百地・悠季(ga8270
20歳・♀・ER
シルヴィーナ(gc5551
12歳・♀・AA
宇加美 煉(gc6845
28歳・♀・HD
雛山 沙紀(gc8847
14歳・♀・GP

●リプレイ本文

●一湊海岸・砂浜
 砂浜に地元の漁師や津崎 海の同級生、それと蒼 琉(gz0496)の仲間の傭兵達が集まっていた。
「もしかすると水中用KVが必要という事で所有条件満たして現地に来た訳なのだけれど――事情を聞けばそういう事ね」
 ワンピースにボディローブに身を包んだ百地・悠季(ga8270)が詳しい事情を聞き、感心したように頷いた。
「そういう事だ――とりあえずこれだけ来てくれたが、十分か?」
 琉が隣の宇加美 煉(gc6845)に問いかける。
「大丈夫ですよぉ。とりあえず、珊瑚を食べたりする外来種で毒がある可能性もあるので直接触れないように‥‥とか言っておくと良いと思うのですよぉ」
 煉の言葉を借り、漁師達に伝えようと琉がを踏み出すと――背後から元気な声が飛んできた。
「うわー! すっごい綺麗な海っすね! 頑張るっすよ! あ、こんちはっす! さっさとヒトデ片付けるっすよ! どこで着替えればいいっすかね!」
 元気いっぱいに目をキラキラさせた雛山 沙紀(gc8847)が、水着の入った袋をぶんぶん振り回している。
 更衣室の場所を説明すると、両腕を振りながら駆け出す。
「私もウェットスーツに着替えるですよぉ。ウェイトを少し重めにしてもらえると、楽で助かるのです」
「わかった。更衣室の所に置いてあるから、自分で吟味してくれ」
 漁師達の注目を集めていた煉も、更衣室へと向かった。
「ずいぶん、賑やかになりましたね」
 海から上がってきた生嶋 凪(gz0497)が隣に立ち、クラーク・エアハルト(ga4961)が麦わら帽子に白いスクール水着のシルヴィーナ(gc5551)を引き連れ、会釈しながら寄ってくる。
「ん‥‥蒼さんの彼女さんですか? 彼女さん同伴とは、なかなか」
「違うぞ、クラーク」
「ええ、わかっていってます。冗談です‥‥よ?」
 少し笑うクラーク。
 憮然とした表情のまま、琉はクラークの後ろのシルヴィーナに目を止める。
「ん……娘のシルヴィーナです。今日は親子できました」
 ぺこりとお辞儀をするシルヴィーナ。
「ふふふ‥‥早くヒトデさんをやっつけて、いっぱい遊ぶのですよっ!」
「ふふ、そうだね、シルヴィーナ‥‥自分は百地さんとKVで手伝いますね?」
 名前を呼ばれ、シルヴィーナを見ながら物思いにふけっていた悠季が口を開く。
「よく考えて振り返れば波乱万丈と思えなくない3年間だけど、まだまだこれからだしねえ‥‥育児含めて――とりあえず回収用のカゴと、シュノーケルを貸してもらえないかしらね」
「それならあそこの小屋にそろっている。自由に使ってくれ」
「では私達も準備してきます――」
 悠季とクラーク達が移動し、2人並ぶ琉と凪――とそこに、胸元全開にしたダイバースーツ姿の終夜・無月(ga3084)がやってきた。
 彼――いや、彼女は凪の手のヒトデを見るなり、頭を振る。
「無粋なキメラです‥‥」
「あのぉ、ここまでしかサイズはないのでしょうかぁ。前が閉まらないのです」
 ファスナーを懸命にあげようとしながら、ウェットスーツを着た煉がやってくる。スクール水着の沙紀も一緒だ。
「琉さん、皆準備でき‥‥」
 キャミソールにホットパンツのタンキニ姿の海が、煉、凪、無月を見て思わず息をのんでしまい、自分の胸を腕で隠す。
「あ、海さんっすね? ボク沙紀って言うっすけど、年近いし、仲良くしよっす!」
「本当ですか? じゃあ友達にも紹介しますね――琉さん、とにかく用意できましたから!」
 頬を膨らませ、海が沙紀とともに同級生達の輪の中に戻っていく――沙紀が携帯番号を交換しようとしていたが、携帯を皆持っていない事に驚きの声をあげているのが見て取れた。
「むう‥‥海は何を怒っているのだ」
「お待たせねー」
 悠季やクラーク達が戻ってくる。
 シルヴィーナは海と同じように煉や無月、凪に悠季の胸を見てなんだか悲しそうに自分の胸を隠すのであった。
「――やぁっと、閉まりましたぁ」
 なんとか無理やり収め、一安心の煉。ファスナーがミチミチと、音を立てているが。
「一般の方々はぁ、1人の行動は避け2から3人で動くようにお願いするですよぉ。発見したらそこにブイを浮かべてもらうです。学生さんには一湊海岸を中心に、漁師の人には島周辺をお願いしますよぉ。水難事故の可能性もあるわけですからぁ、これが最善ではないでしょうかぁ?」
 おとぼけのわりには理路整然と細かく指示する煉。琉が頷く。
「了解した。では俺はそのように伝えておくので、みんな、がんばってくれ」

「わふ、がんばるです。ところで、どんなヒトデさんですか?」
「こういうのですよ」
 凪が、とってきた毒々しいヒトデをシルヴィーナに見せると、シルヴィーナは眉をひそめ、ツンツンとヒトデをつつく。
「うぅ‥‥なんだかあまり綺麗な色ではないですね‥‥」
「だから‥‥駆除するというわけです‥‥」
 海へと向かっていく無月と凪。シルヴィーナもはしゃぎながら海へと向かって行った。
 潜った無月は全ての感覚をフルに使い、感じる違和感を全て感じ取ろうとし――思わず振り向く。
 その先には凪が泳いでいるだけである。
 気を取り直し、場所を移して再度同じように感じ取ろうとし――やはりまっさきに凪に目が行く。
(まさか‥‥いえ、今は不問としましょう‥‥)

 一直線にパワフルな泳ぎで向かう沙紀。
 一気に潜ってヒトデを掴み、引っぺがしてはどんどん次へと向かう。
 16人の仲間を得、発見の手間がはぶけた彼女はひたすら剥がし、持てるだけ持って浜に上がり、放り出す。
「ガンガンいくっすよー!」
 放り出して再び海側を見ると――ずいぶんとブイが浮かんでいた。
 さすがにその様子に汗をたらし、無線機を取り出す。
「えーっと、ブイが結構浮かんでるので、みんなもがんばってくれなのだ」

「了解しました‥‥沙紀‥‥」
 ブイを確認し、これまで調べたポイントと合わせると――現在砂浜近郊にいるヒトデ、33匹の位置すべてを把握した無月。
 たとえ移動していたとしても、ほとんど変わらないはずである。そう見越して、現在地から最も効率のいい最短ルートを導き出す。
「さて‥‥いきますか‥‥」
 海中へと潜った無月の全力潜行――それは人類とは思えない速力であった。
 ヒトデを片手でつかみむしり取ると、どんどん次の目標に定めてまっすぐに突き進む。
(かか、おもしろいわいのう。人類もやりおる!)
 無月に触発された凪が、押さえきれずに全力で海中を突き進み、同じように片手でむしり取る。
 お互い、5匹捕まえたところで海面に姿を現し――浜辺めがけて全力投球。10匹のヒトデが空を飛び、砂浜に打ち上げられる。
 2人は再び潜り、サメを彷彿させるような速度で次々と処理していく。
(一度だけ‥‥試してみますか‥‥)
 自分と同等の動きをする凪にあてられてか、無月はぐっと身体に力を溜め――開放する。
 ギョン!
 限界を突破した無月。その動きは魚雷の如きである。
 さすがについていけない凪は、無月の後ろを泳ぎながらも口元に笑みを浮かべていた――。

「繊細な作業ですね、しかし」
 島周辺のまばらに生えている珊瑚を確認しながら、ビーストソウルの指先で器用にヒトデを弾き、回収する。
 地味で繊細と、かなり疲れる作業ではあるが、上手く操るクラーク。海は得意な方でもなかったが、さすがはベテランである。
「‥‥静かな海だ。シルヴィーはちゃんとやっているかな?」

 バイクのシルヴィーナと、自転車の沙紀が移動を開始する。無月と凪がほとんど駆逐してしまい、かなり時間に猶予ができたのだ。
「俺と海は結婚式の準備があるから、任せてもいいか?」
「ええ‥‥構いませんよ‥‥」
「大丈夫ですよ」
 無月と凪も、周辺海岸の駆逐へと参加するのであった。

「ここらへんねー。珊瑚があるのは」
 クラークとは反対方向から沖を攻めている悠季。
 水上にアルバトロスを待機させ、大方聞いていた珊瑚のポイントめがけ、シュノーケルとゴーグルをつけた水着姿の悠季が海中を見ながら水面を泳ぎ、発見次第潜っていく。
(‥‥なかなか、グロいわね)
 ヒトデに近寄りアロンダイトで上手く珊瑚から削り取り、アルバトロスに吊るした籠に容れ、見逃しがないか散策し――確認が終わったらアルバトロスに乗り込み、次のポイントを目指す。
「意外と早く済みそうねー」

 海岸沿いの道路をバハムートにまたがり、飛ばすウェットスーツ姿の煉。浜辺組が終わればこちらの応援にくるとの事なので、今はひたすら中間地点へと急ぐ。
「そろそろぉ、回収しましょうかねぇ?」
 浜辺の漁師達が島の反対側の漁師に連絡をつけたおかげで、そこかしこにブイが浮かんでいる。
 バハムートを止め、常人なら躊躇するような切り立った崖から、長い髪が狐耳と狐尻尾を形作った煉が跳び込み、ヒトデとブイを回収して陸地に上がっては機械剣βで突き刺し息の根を止め、次へと目指す。
「楽勝、みたいですねぇ」

 予想通り、目標としていた2時間以内には全てのヒトデの駆逐が完了していた。
「皆、協力に感謝する――あとは5時くらいまで、自由に過ごしてくれ」
「あそぶっすよー!」
 ウェットスーツ姿の琉の労いもそこそこに、沙紀が海の同級生達とともに海へと向かっていく。
「わふ‥‥いってきますです」
「うん、気を付けてね」
 シルヴィーナがぶんぶんと手を振り、振りかえし微笑むクラーク。元気いっぱいに海へと向かって――謎のハイスピード犬かきで沙紀とおまけで凪をぶち抜く。
「‥‥なんだ今のは」
「本人曰く、狼かきだそうですよ――ところで、あとでシュノーケリング装備一式、貸してもらえますか? 娘と2人分」
「ああ、あそこの小屋にあるから、使ってくれ」
「琉さぁん、いいですかぁ?」
 声をかけられ琉が振り向くと、バツン! という音と共に、煉のファスナーが限界を迎え、はじけ飛ぶ――だが幸い、キワドイ水着状態でとどまっていた。
 目の前で偉業を目撃した琉とクラークは、視線をそらすしかなかった。本人はまるで動じていない。
「ヒトデは食べられるらしいのです‥‥とはいえ、毒もっている種類もいる上にキメラでは‥‥避けておいた方が良さそうですねぇ」
「まあ‥‥そうだろうな」
「おいおい、あれってキメラなんだってぇ?」
「キメラというのは秘密にしておかないと、上の人に縛られて叩かれてしまうのです」
 唇に指を当てつつ、自らの武器を揺らしながら適当な説明したが、漁師は煉の偉業に釘づけであった。
「とりあえず私はぁ、お風呂に浸かりに行くですよぉ」
 1人、先に海の家へと向かう煉――そして、結婚式の時間がやってきた。

 照りつける日差しの中、結婚式とは思えないほど軽装な新郎新婦。幸せそうな2人を祝福する人々。
 先にブーケトスを済ませると新郎新婦が脱ぎだし、水着姿で海へと入っていく。美しい海中で、彼らは永遠の誓いを果たすのだ。
「結婚式‥‥シルヴィーもいつか結婚するかな?」
 クラークが横のシルヴィーナに問いかけると、きょとんとした顔をするシルヴィーナ。
「お姫様になるのですか?」
「ふふ、そうですね‥‥踊ろうか、私の小さなお姫様? 新婚旅行の時に、レオノーラとも踊ったんだよ?」
 手を差し伸べると、嬉しそうに手をつなぐ。
 2人、陽光差し込む静かな海で、ゆらゆらと幸せそうに踊っているのだった。
(たまには、親子で依頼というのも良いな。私は、この子に対してどんな父親であれるだろうか‥‥この子の未来に幸あれ。ただそれだけを願います‥‥)

「いいっすねー 結婚式! ボクもいずれお姉様と‥‥」
 うっとりと結婚式を眺めながら、ポッと頬を赤らめ、1人悶える沙紀であった。

●海の家
「お肉とかお魚とか大好きなのです」
「お魚さんの骨が‥‥私を苛めますです‥‥」
「ん、ほら、魚の身をほぐしてあげるね?」
 半泣きのシルヴィーナに気を使っているおとーさん。
「まだまだかわいい盛りなのねー。うちの子もかわいいけど、写真見る?」
 宴会さながらの中、海は横にいる料理を手伝ってくれた無月に頭を下げていた。
「いえ、いいんですよ‥‥ところで、あちらの2人‥‥腕時計が似ていますが‥‥お付き合いでもしているのですか‥‥?」
 2人――調理場で皿を洗っている琉と、皿を拭いている服がないと言い水着にエプロン姿の凪。確かにサイズが違うだけで、腕時計はそっくりだ。
「え‥‥そんな事はない、と願いたいです‥‥」
 もじもじしている海を見て察したのか、無月はにこっと笑って頭をなでる。
「さーお腹いっぱい! お風呂行きますっす! 海ちゃんも一緒に入らないっすか? 洗いっこするっすよ!」
 沙紀の誘いに海は笑顔で応え、それを期に皆が風呂へ向いだす。
「クラーク、親子で入るなら貸切にしておくから、男湯を使え」
「ああ、はい。ではお言葉に甘えて‥‥一緒に行こうか、シルヴィー」

「‥‥2人でお風呂って、初めてかな? ほら、髪洗ってあげるから、座りなさい」
「えへへ‥‥」
 親子水入らず、2人はのんびりと過ごしたのであった――。

「いっちばーん! ――あれ?」
 水着型の日焼け跡のある沙紀が湯船に跳び込むと――すでに主がいた。
「お風呂のために来たようなものですよねぇ」
 タオルは邪道と言わんばかりに、湯船にゆったりと浸かっている煉。お猪口を握っている。
「せっかくですものねー」
 湯あみし、湯船に身を沈める悠季が、煉から1つお猪口を受け取る。
「いやーお風呂って、たまに入ると気持ちいいっす!」
「たまにって、毎日入ってないんですか?」
 タオルで前を隠している海が沙紀に問いかけると、湯船をゆーっくりと泳いでいる沙紀が答えた。
「‥‥全然入らないっす。何日入ってなかったかって? 秘密っすよ」
 その言葉に、悠季は黙ったまま沙紀の首根っこを掴み、海に向かって放り投げ、海も黙ったまま沙紀に冷水シャワーを浴びせていた。
 ガラッ。
 沙紀が叫んでいる中、凪が入ってきて――海の手のシャワーを頭から浴び、何も言わずに出ていった。
 烏の行水度とろではない彼女の行動に、皆沈黙してしまい‥‥主はポツリと洩らす。
「無粋な輩なのですねぇ」

(さて‥‥着替えは置いてあると言うたからには、着替えねば不自然か)
 そして彼女は、棚の上にあるモノを手に取り、目を輝かせるのだった――。

「動きやすい服、ありがとうございます。じゃ、帰りますね」
「ああ――!」
 振り返った琉が見たものは――かなりきわどいキャットスーツの凪だった。LHに行った時、知人からもらった物である。
「――助かった、感謝する」
 視線をそらし、煙草を手に取る琉。
「それではまた、お会いしましょうね」
(近々、の。心躍るわい)
 そして凪は夜の砂浜へと消えていったのだった――。

『【DW】海の結婚式【海】 終』