タイトル:人の優しさマスター:楠原 日野

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/06/16 06:42

●オープニング本文


●オーストラリア西部・バークタウン
 モーニンググローリーで有名な町、バークタウン。
 かつて空港もあり、そこそこ賑わいも見せたことのあるその人口200人ほどの密集した小さな町も、バグア侵攻により一度は壊滅した。
 しかし今は東部から逃げ出してきた人類により、以前以上の賑わいを見せていた。
 もっともそれは復興のための賑わいのため、少し意味合いは違うものの、それでも活気があるには変わりがなかった。
「炊き出し用のスープ、終わりました」
「おう、すまない。今日で最後だったね、お疲れさん」
 ぺこりと頭を下げるモスグリーンのノースリーブにデニム7分丈レギパンの金髪の少女――ULTオペレーターのリズ=マッケネン(gz0466)であった。
 少し溜まっていた休暇を使い、ここにボランティアで来ていたのだった。
 彼女にしては珍しいその出で立ちは、ボランティアのために動きやすさを重視してのものである。
「明日、いよいよカルンバの方に向かおうかなぁ‥‥メイさん、驚くかなぁ」
 リズがここにボランティアに来た理由。それはメイにちょっとでもいいから顔を合わせるためであった。
 もちろん、ボランティアもしていて楽しいし、ついでとかそんな軽い気持ちでもない。
 だがそれ以上に、少し前までは毎日顔を合わせていた彼女と、ここしばらく顔を合わせていない事で、無性に不安が募ったのである。
(きっと、大怪我したんだろうな‥‥)
 一度帰ってきていたと聞いたが、顔を合わせることなくメイはオーストラリアに戻っている。それだけで察しがついた。
 なによりも、つい最近メイを救出したという報告書を目にしてしまった。
(私の一時の我儘のせいでメイさんが怪我をして‥‥私が傭兵だったら、きっともう今頃‥‥)
 ふうとため息をつき、ふと耳に子供の泣き声が聞こえた。
 リズが目を向けると、ここら辺では珍しい、赤いワンピース姿の小さな女の子がたたずみ、ひたすら泣いていた。
 恐らくは東から逃れてきた家族であると、リズは気づいた。そして周囲も気づいているのであろう。
 周囲の大人達は、皆一様に避けて近づこうともしない。
 一歩踏み出し、近づこうとした時――誰かが肩を掴んだ。
「あんた、近寄ったら危ないよ。最近では子供の強化人間が多いって言うじゃないか」
 オーストラリアの情報で、確かに色々と悪い話は聞いている。
 強化人間に育てられていた子供達、強化人間にされてメイを襲った子供達、倉庫で自爆した強化人間の子供達――だが、そんなものは関係ない。
「それで無視するのは、人として恥ずかしいと思います」
 手を払いのけ、リズが泣きじゃくる子供の前にしゃがみ込む。
「どうかしたの?」
「おと〜さ〜ん、おか〜さ〜ん‥‥」
 声をかけても、ただそれだけを繰り返し泣きじゃくっている。強化人間だとか、そういう怪しいところなど1つもない。ただの迷子だ。
「お父さんお母さんと、はぐれたの?」
「おと〜さ〜ん、おか〜さ〜ん‥‥」
 泣いてばかりで、一向に話が進まない。
 立ち上がり、周囲に声をかけるリズ。
「誰か、この子のお父さんかお母さん、知りませんか!」
 声はかけても、遠巻きに見ているだけだ。オーストラリアの爪痕は、西側のここでもいまだに深い。
「‥‥人の優しさまで、忘れてしまったんですかっ!」
 少し涙ぐむリズの言葉でも、周囲の大人達はやはり見ているだけ。
 涙をぬぐうリズ。
 そこに数人が声をかけてきた。ぱっと顔を合わせると、それは傭兵達であった。
「傭兵さん‥‥私、この子の親を探してきますからここで見ていてくれませんか? お願いします!」
 返事も待たずに、リズは駆け出す。彼女の中では傭兵=優しい人達で認識されているのだ。
 残された傭兵達。
 顔を見合わせ、名前も知らぬこの少女の親を探しに行った相変わらずなリズに苦笑し、優しい彼らは動き出した。
 少女の親を探すために――。

●参加者一覧

終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
アルト・ハーニー(ga8228
20歳・♂・DF
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
御剣雷蔵(gc7125
12歳・♂・CA
アリシア・ルーデル(gc8592
20歳・♀・SF
狗谷晃一(gc8953
44歳・♂・ST

●リプレイ本文

●バークタウン
「あいかわらずですね‥‥彼女は‥‥」
 リズ=マッケネン(gz0466)と面識のある豊満な女性――姿の終夜・無月(ga3084)が呟く。
「ふむ‥‥悪の軍団の総帥なのに、最近人助けをよくしている気がするな、と」
 リズに近寄ってしまったため、半強制的に人助けをする羽目になったハニワ軍団総帥アルト・ハーニー(ga8228)。
「まあよいか。悪人もたまには善行するものさ」
「そうなると、彼奴らは悪人以下と言う事じゃの。人を信じられぬとは、世も末じゃ」
 鋭い目で周囲の取り巻いている大人達を睨み付ける、アリシア・ルーデル(gc8592)。睨まれた大人達は委縮し、顔をそらすが、男共の目だけはしっかりとアリシアの胸元に集中している。
「しようのない事だ。心に傷を負い、他人に向けるだけの余裕がないのだろ。惨めな話だ‥‥しかし、病院以外で人と関わる事になるとは、な」
 アルトと同じようになし崩しに関わることとなってしまった、尊大な態度の医者・狗谷晃一(gc8953)は、はっきりと大きなため息をついて鼻の付け根をおさえ、頭を振る。
「いいじゃねぇか、晃一さんよ。暇つぶしみてぇなもんだろ――おい、いい加減に泣き止むんだ」
 御剣雷蔵(gc7125)飲むつもりで持っていたのであろう瓶のコーヒー牛乳を、泣きじゃくる少女の顔の前に差し出し――手で払われる。
 地面に転がるコーヒー牛乳。
「このガキャァア!」
 両拳を天に突き上げ、濡れた地面を何度も踏みつけていた雷蔵。少女にはさすがに、怒りの矛先は向けれなかったようだ。
「ではこっちはどうなんだぞ、と」
 懐から埴輪のぬいぐるみを取出し、顔の前にちらつかせる。泣きながらも、目の前にちらつく物に興味が湧いたのか、徐々に泣き声が小さくなっていく。
 頃合いを見計らい、少女の腕の中に埴輪グルミを滑り込ませて抱かせると、アルトはしゃがんで少女に視線を合わせた。
「さて、お嬢ちゃん。俺達が来たからにはもう大丈夫だぞ、と。君の両親は皆が見つけてくれるさね」
「‥‥本当? 見つかるの?」
 泣き腫らしたまぶたをこすりつつ、少女が首をかしげる。アルトの横に、無月も片膝をつけて視線を合わせた。
「大丈夫‥‥お母さんもお父さんも必ず見つかるよ‥‥。貴女を必ず、見つけてくれる…」
「だって、悪い子は置いてくって‥‥」
 再び泣き出しそうなところで、無月はぎゅっと優しく抱きしめ、頭を撫で続ける。
「置いて行ったりは絶対にしない‥‥私達が必ず会わせるから‥‥だから‥‥泣かないで‥‥」
 少女をふくよかな自らの双丘に埋め、力強く、優しい鼓動を聞かせる。母性も父性も兼ね備える無月ならでは、だ。
「悲しい顔をしないで‥‥」
 ぽんぽんと背中を叩いている。ゆったりと流れる時間。
「‥‥ん。みんな。どうしたの」
 ゆったりした時間に現れた最上 憐(gb0002)が、首をかしげてよってきた。
「あたなこそ‥‥どうしたんですか‥‥」
「‥‥ん。依頼の帰りに。炊き出し。違う。復興の。ご飯目当て。違う。手伝いに。来ただけ」
「本音ダダ洩れじゃのう」
 呆れたようなアリシア。少女の肩の振るわせ方が先ほどと違う事に気付く。
「笑っておるのかや?」
 アリシアの言葉を確かめるように無月が身体から離すと、少女は泣き腫らした目のまま、笑顔を浮かべていた。
「ん‥‥良い子です‥‥」
 無月が微笑み、少女の頭をなで――そこに雷蔵の顔が割り込んでくる。
「両親の容姿特徴を教えてくれ」
 鼻の穴を大きく広げドヤ顔の雷蔵の顔を、手に持っている埴輪グルミで横に叩く。
 雷蔵はすっくと立ち上がり、拳を震わせ、ひくつく笑顔を浮かべていた。
「ガァキィ‥‥」
 ぽんと晃一が雷蔵の肩に手を置き、神妙な顔で頭を振っていた。
「お互い、子供に好かれにくいんだ。無理をするな‥‥」
「埴輪は叩くためのものではないんだぞ、と。叩くなら、ハンマーを使うべきさ」
「おいおいアルトさんよ!」
 無月の横で至極真面目な顔で物騒な助言をするアルト。雷蔵が声を荒らげて振り返る。
「貴公は少々大人しくしてるのじゃね」
 胸の下で腕を組み、強化人間はいないかと周囲を警戒しているアリシアがため息交じりに告げると、雷蔵の背中が途端にすすける。
「さて、それじゃあお嬢ちゃんの両親を探しに行こうかね、と。2人の服装や髪型教えてくれるかな?」
「あとはなにか特徴とか‥‥貴女がどこからきて‥‥どうしてはぐれたのか‥‥」
 やさしく語りかける2人に、少女は素直に応じた。
「んとね、お父さんもお母さんも、緑とか茶色の汚いお洋服なの。お父さんの髪は黒くて短くて、お母さんの髪は長いんだよ。ニーネ、お母さん似なんだって」
 そう言い、赤いワンピースのニーネと名乗った女の子はぶんぶんと頭を振り、長いブロンドの髪を揺らす。
「あとね、おっきな銃をいっつも持ってるよ」
 傭兵達は顔を見合わせる。服装や武器から、間違いなく堅気ではないと察したからだ。
「‥‥ん。どこから。来たの。」
「あっち」
 適当な方向。子供ならではの、当てにならない回答であった。
「どうして1人でいたのかや」
「んとね、少しお仕事するからここで待ってなさいってゆってたんだけど、大人の人達がみんな、そこにいたら邪魔邪魔って――」
 邪魔者扱いした大人達の言葉の棘を思い出したのか、ニーネは再び泣き出しそうになる。
 泣き出しそうなニーネを前に、アルトが無表情を保ったまま、その背にハニワオーラを浮かび上がらせた。
「ほら、泣いてないで俺の埴輪芸でも見てみるんだぞ、と」
 おおーと、周囲の大人達の方が興味津々で、物珍しげに眺めてはおひねりを投げてよこす。
「いや、そこの人、大道芸じゃないさね」
「話から察するに、傭兵の両親が仕事――少しと言っていたのだ、ここ関連の退治依頼がなかったはずだから、厳密には仕事ではなくタダ働きで何かを引き受けた。
 そして子供をわかりやすいところで待たせていたが、余裕のない者達がこんな所に追いやった、と。実に世知辛いな」
 晃一のわかりやすい解説に、皆が話の内容を理解する。
「事情は分かりました‥‥すぐ戻ってきますから‥‥約束です‥‥」
 無月が小指をさしだすと、おずおずとニーネは小指を絡め、指をきった。
「私は上から‥‥虱潰しに捜します‥‥」
「俺はニーネの相手をするんだぞ、と」
「‥‥ん。乗りかかった舟。聞き込み。人が。多い所。食べ物の。ある所を。攻めてみる。決して。ついでに。味見とか。おこぼれに。預かれないかと。思って無い」
「まあ俺はそこら辺を適当に、だな」
「我は家屋中心に、住民にも手伝ってもらって捜すかの」
「ならば俺は病院や医療機関を訪れるとしよう。病院に関わらぬ人間など、稀だからな。傭兵ならなおさらだろう」
 各々、行動方針が決まった。そして今、動き出す――。
「ちょっと待つのじゃ」
 呼び止めるアリシア。
「当然親も捜しているじゃろうから、入れ違いにならぬように皆注意せい。あと情報共有のため、密なる連絡は早期解決の糸口じゃ。なるべく連絡を取ろうぞ」

 一瞬全身に淡い茶色の光をまとった無月が、手も使わずに電柱を駆け上がる。
 上から目を凝らし、鍛え抜かれた動体視力でニーネから聞いた特徴の人物を人ごみの中から捜す。それと同時に、雑踏の中から誰かを捜している風な足音を聞き分ける。
「ここには‥‥いませんね‥‥」
 一足飛びで屋根の上に跳び移り、同じことを繰り返す――と、捜している気配の足音を聞き分け、その人物の前に降り立った。
「わ! ‥‥終夜さんじゃないですか」
「リズ‥‥名前も知らずに‥‥捜せましたか‥‥」
 がっくりと肩を落とした様子が、言葉以上の説明である。
 やはりと呟き、無月は自分の知り得た情報をリズに伝えると、リズは何度もお辞儀をし、駆け出してまた捜しに行ってしまった。先ほどよりは足取りも軽い。
「さて‥‥少し呼びかけますか‥‥」
 再び電柱に駆け上がり、天照の拡声機能を使用する。
「まずは‥‥お騒がして申し訳ありません‥‥ただ今ニーネという子供の親を――」
 ニーネの名前や特徴、迷子の経緯を伝えながらも、屋根から屋根へと渡り歩いていく無月。
 その姿を目撃していたバグアの脅威を心の底から味わってきた住民達は、顔を見合わせ、人類にも希望があると盛り上がるのであった――。

「‥‥ん。迷子の子の。両親を。探している。何か。知っている事。ない?」
 憐がスープをいただきながらも、同じように依頼帰りにちょっと手伝いに立ち寄った傭兵達に聞き込みをしていた。
「さてねぇ‥‥いや、そういえば行き違いで農場に向かってった夫婦がいたな。こんなご時世だから、農場行くのにもあんな武器が必要なのかと思ってたが――あれは傭兵だったのか」
「‥‥ん。その人の。向かった。先は。どっち」
 傭兵が手を掲げ、指し示した先――その方向にはちょうど数人の男性が殴り合いを始めていた。
「またあいつらかい‥‥」
 ボランティアで知り合った、炊き出しをしている年配の女性がぼやく。
「東からの奴らがね、西にいた人間は炊き出しなんていらないだろって絡んでくるんだよ‥‥こっちもひどい目にあったというのにねぇ」
 皿を返し、ミートパイを一つ手に取ると、とことこと散歩するかのように喧嘩の輪の中に憐は無造作に入っていく。
 飛び交う拳。それを目標にあたる直前、片手で止める。入り乱れ、数人が数人とやりあって無数に飛んでいる拳を人々の間を縫うように動き回り、悠々と全て受け止め、ミートパイを食べ終わるより先に無傷で男達がへたり込んでしまう。
 ミートパイを飲み込む。
「‥‥ん。喧嘩すると。お腹空くよ? 向こうで。炊き出し。やってる。お腹。膨らめば。怒りも。消えるかもよ」
 それだけを言い残すと、農場の方へと向かう憐。
 歴戦の傭兵の実力に、男達だけでなく、周囲の人達もざわめいているのであった――。

(女の子の両親探しか。おまけに住人達にも、何か感情の凝りがあるみたいだな)
「まあ、俺には俺なりの相手に聞くとしようか」
 そう言い、我儘で喧嘩腰な態度の雷蔵はまさしくゴロツキ風の男達に声をかける。
「おいお前ら、聞きたいことがあるんだが――」
「なんだこのガキ、変な服着‥‥」
 ゴン。
 男が言い終わらぬうちに、頭突きをかまして黙らせる。それが合図となり、ゴロツキ達は雷蔵に襲い掛かってきた――。
「実は、とある少女の両親を探しているんだ。ニーネとかいう赤いワンピースのガキでな。知っている事があれば教えてくれ」
「い、いえ知りません雷蔵さん」
「まあ、お前らみたいのが知ってるわけもないか‥‥ところでここの住民と東から来たやつら、仲は悪いのか?」
 顔を見合わせるゴロツキ達。
「へぇ。俺達は東から逃げてきたんですけど、俺らみたいのが来るのは、やはりいい顔しないもんでさぁ」
「それはお前らが西の住民を妬んでるからだろうが。くそったれなほど甘い脳みそのお前らだって、悪いんだよ」
 その単純かつ明白な言葉は、実にシンプルな男達に染み込んでいく。
「ちっ、とんだ無駄足だったぜ」
 捨て台詞を残し去っていく雷蔵の背中を、ゴロツキ達は正座したまま、いつまでも凝視しているのであった――。

「リズに説明できたかや‥‥ほう、農場に‥‥住民のわだかまりは双方にある、と」
 中継地点となり、みなの情報をうまくまとめるアリシア。
 家を探そうと思ったが、相手が傭兵であればここに住居を持っていない可能性があることに思い至り、情報の連携役を務めていた。
 なによりも、自分が動かなくても『手足』ができた。
「そのようなわけで、貴公ら、農場を虱潰しに聞きまわってくるのじゃ」
 近くの男共に指示を出すと、一斉に動き出す。さすがは魔王の系譜というか――巨乳の魔力であった――。

「怪我をした夫婦の傭兵がこなかったか?」
 不遜な態度で、病院の受付にいきなりの質問。当然、不審に思われてしまうのも仕方ない。
「‥‥個人情報に関わるため、お答えできません」
「ふむ‥‥当然と言えば当然か――なら、今から数時間だけ俺はここの医者になってやろう」
「‥‥は?」
 晃一の突然の申し出に、受付は疑問符を浮かべる。
「情報の対価に、俺が患者を診てやると言っているのだ。人手不足なうえに、注意力も足りないのだろう?」
「お帰り下さい」
 尊大な態度に気分を害したのか、受付は途端に冷たくなる。
 だが晃一は引き下がらず、待合室で横になっている1人の患者を指さし、怒鳴り散らした。
「アポってるだろうが! 緊急手術の準備! 執刀は俺がやると言っておけ、ひよっこども!」
 これにより、目の前の命を優先した晃一は暫く手術にかかりきりになってしまうのであった。
 だが手術を終えて手術室を出てみると、医師や看護士達の態度は一変し、手術の間に来ていた傭兵夫婦を引き留めていてくれていた。
 ニーネの事を話すと、やはりニーネの両親であった。
「ガキを一人にするな。怪我を負えば、弱くなる。心も、体もな――悪いが、無線を貸してくれ。ここに連れてきてもらう」

「む?どうやら両親見つかったようだぞ、と。急いでいくとするかね」
 無線で連絡を受け、ニーネの手を引きながら住民に聞きまわっていたアルトが、病院へと急行する。
 そこにはリズも含め、皆が集結していた。
 ニーネを引き渡すと、傭兵達は軽く手を振りさっさとその場を後にする。傭兵と医師達と患者一同、ずっと頭を下げていた。
「悪の総帥が感謝されるのも何なので」
「悪は貴公だけじゃ。感謝されるためにしたわけでもないからの、長居は無用じゃ」
「まあ‥‥良かったですね‥‥」
「‥‥ん。丁度。そろそろ。夕飯の。時間。炊き出しに。混じって。行く?」
「あんた、食ってばっかだな!」
「食は健康の基本だ」
 他愛ないおしゃべりをしている傭兵達。突如リズが頭を下げる。
「ありがとうございました、みなさん。私の我儘に付き合って頂いて‥‥やっぱりやさしき人達です。傭兵さんはみんな」
「モノ好きが集まっただけだ。報酬もないというのに、な」
 タダで手術をしてきた男の言うセリフではない。
「大丈夫です。今回、住民の皆さんがなぜか親切になって、傭兵さん達のために寄付してくれのでいくらか支払えます」
 顔をあげたリズは、しっかりオペレーターの顔をしている。
「我らの親切が住民に影響を及ぼしたのかの。まあ、ちょっとした臨時収入じゃな」
 アリシアが肩をすくめ、その場を去っていくと傭兵達は散り散りになっていく。
 残った無月が、リズの頭にぽんと手を置く。
「メイに宜しく‥‥それと‥‥悩み過ぎない様に‥‥」
 そして彼女(?)も、その場を後にしたのだった。
 無月の言葉を噛みしめ、佇むリズ。
「明日、メイさんに会いに行こう」
 リズは覚悟を決めたのであった。過酷な運命が待ち受けているとも知らずに――。

『人の優しさ 終』