タイトル:【MO】こんな子供が!マスター:楠原 日野

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/05/31 06:11

●オープニング本文


●オーストラリア某所
「どうです?」
「元がこちらの言いなりでしたので、刷り込みはしやすかったんですが、細胞の寿命を一気に縮めてしまいました」
「つまりは長く持たない、と。
 ‥‥仕方ありません。それもきっと運命なのでしょう」

●傭兵用食堂
「ふうー疲れたっと‥‥」
 食堂の椅子に腰を掛け、背もたれによしかかって一息つくメイ・ニールセン(gz0477)。
 特訓から帰ってきて一夜が明け、午前中は事後の手続きなどオペレーターでは処理する側だった仕事をこなし、やっと終わったところである。
 湯気だったコーヒーを目の前に、目を閉じて天を仰ぐメイ。

「どうしたんだね、ナイフ。先ほどから動いていないのではないかね?」
 古びた家屋の室内、いつもの笑顔で銀髪の少女が、立ち尽くしているメイに声をかける。
 弾が飛び交い、男の悲鳴、女の悲鳴、そして――子供の悲鳴。
 メイの目の前には泣きじゃくりながらへたり込み、弾の切れた銃を向けたまま何度も何度も引き金を引いている少年――いや幼児と呼ぶレベルの小さな子供がいた。
「ゲリラの村だから、何かしらあるとは思っていたが‥‥村人全員で我々にケンカを売るとはね。禍根は根絶やしにしておかないといかんのは、わかっているだろう?」
 そう言うと少女は目の前の子供に発砲――泣き声がぴたりと止む。
「‥‥子供まで殲滅させる、必要はあるのかしら」
「何を言ってるんだ。復讐の人生の方が可哀そうではないかね? この子達は生れつき戦士として育てられた以上、人生が終わるまで戦いを続けるだろうから、平凡な幸せなど、もう望めん」
 物陰に潜んでいた少年の頭が打ち抜かれる。撃ったのはメイの血のつながらない、大切な姉だ。
「この場で潔く死なせておく方が、この子達のためよ。一度染まったら戻れないって、わかってるでしょう?」
 姉の言葉に、メイはナイフを取り出し――床に投げて突き立てる。
「それでもあたしは、子供を殺さない。妹を失ったとき、誓ったのよ。子供を守る大人になろうって」
 そしてメイは子供を射殺していく姉に、跳びかかっていった――。

「ナイ――メイさん、メイさん」
 名前を呼ばれてハッとするメイ。
 顔を正面に向けると、ここには本来いないはずの久しい顔が座っていた。
「ドライブ、なんであんたがここに?」
 前の雇い主の元にいた馴染みの顔に、首をかしげる。彼は紛れもなく「一般人」だからだ。
 傭兵でなくとも出入りは比較的自由ではあるが、少なくともぶらっと来るような場所でもない。
「いえいえ、ちょっとお嬢からメイさんにお願いがありましてね」
「あたしにぃ?」
 厄介事な気配がして眉根を寄せつつ、すっかり冷めたコーヒーをすすって、苦い夢も流し込んだのであった。

●オーストラリア・ステップ地帯
「ここで野生動物を虐殺している、子供をどうにかしろって――どこにいるのよね‥‥」
 すんごい速度で野生動物を追い回し、虐殺している子供を見たんだ。傭兵なのだろうね。とにかく、やめるように言ってくれ。すでに保護指定かかる寸前なんだからな。
 久しぶりに会ったミル・バーウェン(gz0475)は、そんな無茶なことを言っていた。
「‥‥もしかして、あれかしら」
 土煙がやたら立っている場所を凝視し、一応近づいてみると――確かに子供達が野生動物を追い回している。その手には不釣り合いな大鎌を持って。
 メイを発見した子供達が追い掛け回すのをやめ、呼んでもいないがメイの元に集まっていく。男の子3人、女の子3人。おおよそ10歳くらいであろうか。
「君ら、何してるのかな?」
 150cm以下ならなんでもかわいいと感じるメイが、優しげな表情で語りかける。
「死ぬまで動物を狩り続けろって言われたんだ!」
「エリミーお姉ちゃんも、褒めてくれるって言ってた!」
「‥‥エリミー?」
 その名に聞き覚えがある気がして、記憶をたどっていると、さらに子供たちが続けた。
「邪魔する? お姉ちゃん?」
「邪魔するなら排除しろって言われてるんだ!」
「むしろ退治しよう」
「うんそうしよう」
 ふざけているものだと思い、メイが目の前の男の子の頭を叩く――がFFによって弾かれる。
「こんな子供が!」
 FFに弾かれた瞬間、何者なのか理解し、メイの警鐘が鳴り響く。
 子供達が散らばり、2人が大鎌でメイの足を狙う。背後にもチリチリとした気配を感じ、足を後ろに投げ出すと同時に頭を前方に倒していた。
 ブゥォンゥン!
 足元を2本の鎌が通過し、首のあったところに後ろから鎌が通過する。
 地面に腹ばいで着地し、腕の力で勢いよく起き上がり頭部への突き刺しを回避すると、正面からの鎌を両腕を盾にして後ろに退き、なんとか凌ぐ。
 両腕から大量の血が滴る。切断こそされなかったが、ナイフを持つのはもはや厳しい。
(ちょっとヤバいわね‥‥とはいえ、この前どんな状況でも諦めるなって言われたんだし、あがくしかないわね)
 両腕をだらりと垂れ下げ、6人の強化人間を見据えながらじりじりと後退し――疾風を使い全力で逃げる。
 だが相手も強化人間。そうそうやすやすと振り切れるものではない。
 逃げつつも迫りくる6本の鎌をかわしつつ、なんとか近くの廃村に逃げ込んだ。
 遮蔽物を利用し姿をくらませ、物陰に身を潜めてなんとか息を整える。
「ナイフ、抜くべきだったかしらね‥‥」
 両腕の傷を見て、呟く。実のところナイフを抜く暇はあったのだが、抜かなかったのだ。
「‥‥子供だが人ではないと、割り切るべきだったかしら――とにかく、通信しなきゃ」
 痛む腕で携帯電話を取り出した。
「この地域なら、もうなんとか電話は使えるってお嬢は言ってたけど――」
 祈るように短縮で呼び出す。
 プルルル‥‥ガチャ。
「ドライブ、へまして強化人間に追い込まれたの。傭兵を呼んでもらえない?」

●参加者一覧

旭(ga6764
26歳・♂・AA
御守 剣清(gb6210
27歳・♂・PN
クレミア・ストレイカー(gb7450
27歳・♀・JG
シルヴィーナ(gc5551
12歳・♀・AA
蒼 零奈(gc6291
19歳・♀・PN
エリーゼ・アレクシア(gc8446
14歳・♀・PN

●リプレイ本文

●オーストラリア・ステップ地帯
 ダートを走る1台の幌なし小型軍用トラック。そして並走するのは、すでに原形を留めていないSE‐445R。
「そんなに飛ばせずに、すみません」
 自ら運転手を務めるエリーゼ・アレクシア(gc8446)が皆に謝る。
 メイ・ニールセン(gz0477)を助けるためにも早く現地に向かいたいが、あまり運転は得意でないため、そこまで飛ばせずにいた。
「気にしなくていいよー。運転してもらってるわけだし」
 後ろの荷台で旭(ga6764)が努めて明るくふるまう。その内心は、これから守るべきモノの象徴である子供を意思なき兵器と判断して、やるせないが、やらないわけにはいかないという葛藤と戦っていた。
(降参してくれると楽なんだけど‥‥こんな世界に誰がした――こんな事態を誰が許した)
 考えれば考えるほど涙が出てきそうで、空を仰ぐ。
「そうですよ。急ぎすぎて事故りましたなんて、よけい時間をくうだけですからね」
 御守 剣清(gb6210)が刀を手入れしつつ、優しい言葉をかけるが、心は離れている。
 彼もまた、内心は複雑で、エリミーというやさしき強化人間に会っているため、なおさらである――が、そのおかげでか、やるべき事が1つ、定まっていた。
「そうよ。退治も目的だけど、メイを救出しなきゃならないからね」
 弄り仲間の顔を思い浮かべ、ヘリオドールに貫通弾を籠めているクレミア・ストレイカー(gb7450)が、もっともな事を言う。
「それはあたしとシルヴィアさんでなんとかするから、あっちゃん達とかは強化人間をよろしく♪」
 落ちまいと、SE‐445Rの運転手シルヴィーナ(gc5551)に必死にしがみついている刃霧零奈(gc6291)が笑顔を浮かべ、片手を挙げ――バイクが跳ね上がったのであわててつかみ直す。
「絶対に助けてみせますですから‥‥」
 ぽつりと呟く、シルヴィーナ。その決意を感じ取ってか、クレミアが大きく頷く。
「わかったわ、メイの救出は任せる」
 いつものお茶らけた雰囲気は影を潜め、至極真面目な顔で2人に託した――。

 エリーゼは廃村に入ると速度を落とし、周囲を警戒しつつ小型軍用トラックを走らせる。
「話を聞いてほしい! 姿を現してくれ!」
 剣清が荷台で立ち上がり、大声を張り上げる。話がしたいのは本心でもあったが、メイのところに行かせないために引き付けるためである。
 フッと、頭上から2つの影が舞い降りてくる。
 ガギィン!
 2人の子供による2つの大鎌の刃を、旭が両手甲で刃の横腹を押して弾く――と、時間差でエリーゼとクレミアの頭上にも2つの影が。
 キキィン!
 動きに制限のある2人に代わって、剣清が抜刀、大鎌を受け、弾き返した。
 そこからさらに、正面から大鎌が唸りをあげ飛来する。 
「やらせないわよ!」
 手の爪を七色に輝かせ、クレミアが大鎌をマークし、発砲。
 弾丸は大鎌に当たり、空中で『撃ち落し』た。それと同時に、2人の子供が交差するように飛び交い、大鎌をつかんで地面に着地する。
 一連の動作が終わってから、やっと車を停車させたエリーゼ。
 3人が降車し、クレミアは荷台へと移動すると、6人の子供達もハの字に並んで、4人と対峙した。
(2人とも、任せたわ)

 一方、シルヴィーナ達は村に入る手前でSE‐445Rから降り、建物の陰などに身を潜めつつ、歩いて村へと潜入していた。
「メイさん、どこー?」
 零奈が小声で呼びかけると、幸運にも近くで応答があった。自然崩落を起こした民家の瓦礫の隙間、そこから声がする。
 2人は駆け寄り、慎重に瓦礫をどかし、土と埃と血にまみれたメイを引っ張り出す。
「助かったわ、刃霧とシルヴィーナちゃん」
 礼を言い、シルヴィーナの頭を撫でようと腕を動かすと、傷口から血が噴き出す。
「まず手当してからにしないと――メイさんてば甘すぎ‥‥ま、そこが良いトコなんだけどねぇ」
 微苦笑を浮かべ、零奈がメイに応急手当てを施す。釣られるように、メイも微苦笑を浮かべてしまう。
「悪いトコでもあるんだけどね。助けれないと割り切って、楽にしてあげる方がいいってわかってるけど、あたしにはまだできなかったみたいね‥‥」
「‥‥厄介な敵だよね、ホント」
(憎しみで戦うわけにもいかないし、子供だからって手を抜く理由にはならないし‥‥もっと壊れろあたしの心‥‥強化人間を倒すなんていつも嬉々としてやってたことでしょ‥‥)
 複雑な表情を浮かべる零奈から、心の葛藤を感じ取ったメイが動かない腕に代わり、すぐ近くにある零奈の頭に頭突きする。
「あいった〜‥‥」
「また壊れろとか思ってるんでしょ。余計な事は考えないで、刃霧らしくやんなさい」
 手当が終わりメイが立ち上がると、無言のままシルヴィーナはメイの手を引いて零奈をその場に残し、行ってしまった。
「あたしらしく、か。メイさん、今のこれがあたしだよ‥‥」
 そう言いつつ妖艶な笑みを無理に浮かべると、薙刀を手に、皆の元へと急いだ――。

 6人の強化人間と対峙している4人。すっと剣清が前に出る。
「話を聞いてくれるか? エリミーさんならオレたちが助けた」
 黒髪の少年が、エリミーという単語に反応する。
「あの娘はこんなことは望まない。絶対に――彼女は戦場から逃げ出したんだ。君が戦わなくても、彼女は怒ったりしない」
 反応を見せた『黒髪』に、まっすぐ言葉をぶつける。
「こんな事をしても、お姉ちゃんは喜ばないぞ?」
「‥‥本当に?」
 2人のやりとりを、皆が黙って見守る。傭兵達だけでなく、子供達もだ。
「ああ。だから武器を捨てて大人しくするんだ――エリミーお姉ちゃんに会いたいだろう?」
 さらに一歩踏み出す――と、次の瞬間『白髪』の少年と『長髪』の少女が同時に動きだし剣清の正面から『長髪』は足元を『白髪』は跳びかかって胴体を狙って大鎌を振るった。
 ギリギリまで引き付け、疾風を発動させようとして、やめる。背筋に嫌なものが走ったのだ。
 思い切りよく踏み込み『長髪』の鎌の柄を脛で受け止めると、刀を抜き放ち『白髪』の攻撃に合わせ、峰打ちで足を狙った。
 脇腹に柄がめり込むのもお構いなしに放ったその一撃は、空を斬る。空中にいた『白髪』は少女の頭を踏み台にして、蹴上がっていたのだ――そして2人が鎌の柄を手前に引っ張る。
 足を光らせ横っ飛び――背中に切先が掠め、横一文字にうっすらと皮が切れる。だが胴体が分かれるよりは、だいぶましだ。
 追撃しようと動き出したところに、クレミアの貫通弾が剣清の刀で跳弾を起こし『白髪』の足を撃ちぬくと『長髪』は足を止める。
 剣清がさっきまでいた背後には『金髪』の少年が鎌を振るおうとしていたようだが、エリーゼの鴉羽による縦斬りを頭上で受け止めていた。
 横に1人移動していた旭にも『ボブ』カットの少女と『ポニー』テールの少女が斬りかかっていたが、がっちりと全身鎧の手甲と肘で受け止めている。
「ちなみに、失敗した場合どうしろって?」
 あまり意味を持たない質問だったが、剣清の説得に反応があったので聞いてみたくなってしまったのだ。
「なんもいってないよー」
「だって私たち、もう2、3日で死んじゃうんだって。運命らしいよー」
 何を意味するのか察した旭が激昂し、大鎌を押し返してデュランダルを抜き放ち、横一閃。後ろに跳んで2人の少女はかわす。
「子供の命を使い捨てにするなんて‥‥!」
「旭さん、まずは1人ずつ狙いましょう」
 旭に背中を合わせ、エリーゼが提案すると旭は表情こそわからないが渋い顔をしている。
「うーん、人数減らしても自在に連携組み替えてきそうだし、どう考えても、罠に誘導されるのがオチだよなぁ‥‥」
「ならまずは連携の検証をするまでです。フォロー頼みます」
 止める間もなく、エリーゼが『金髪』に突撃する。当然、エリーゼに斬りかかる『金髪』に、左右二手に分かれてエリーゼの背後にまわろうとする『ボブ』と『ポニー』。
 正面からくる一撃を受け止めている間に、背後から2つの鎌が振りかぶられ、振りかぶった鎌の柄をデュランダルが斬り落とした。
 挟撃に失敗すると判断すると否や、短くなった大鎌を握りしめて旭から距離を取ろうと動く――そこに振り返ったエリーゼの一撃。
 大鎌を握りしめた分反応が遅れ『ボブ』の大鎌ごと、腕が落ちる。それでも彼女は悲鳴一つ上げることなく、反対の腕で鎌を拾い上げようとし――デュランダルがその体を両断した――。

 血まみれの足をものともしない『白髪』と『長髪』は、左右から交互に剣清に斬りかかってくる。
 体をそらし、弾き、攻撃をいなす。そこに背後から気配を感じ、空間に突き出した刀を軸に体をひねり、急転換してその場を逃れると、背後から襲いかかってきていたのは『黒髪』であった。
「やめるんだ!」
「無理だよ。だって、お姉ちゃんの所に帰りたいけど、帰らせてくれない! みんな死んじゃえば、向こうで会えるって言ってた!」
 子供特有の支離滅裂な言葉ではあるが、どんなことを言われてきたのかは容易に想像がついた。少年はすでに、正気とは言えない。
(せめて楽に逝かせるしかないか‥‥)
 クレミアの放った貫通弾が『白髪』の足を撃ちぬく。連携が止まり、隙ができた。
 剣清が刀を反転させ、覚悟を決めて振りかぶり――剣清の脇からのびた静が、少年の喉に突き刺さる。
 剣清の背後から零奈がさらに踏み込み、一度静を貫通させてから手元に引き、薙いだ。少年の頭が地面に転がる。
 遅れて吹き出る血飛沫を、零奈は頭からその身に浴びながら、妖艶に笑っていた。
「子供だからって容赦しないよぉ♪」
(子供殺しの汚名はあたしの役目ってね‥‥)

「ここで、とりあえずいいわよ。シルヴィーナちゃん」
 そう言い、カルンバの入り口にあたる所でSE‐445Rから降りるメイ。
「ありがとね、シルヴィーナちゃん。あたしはここで待ってるから、早くみんなの所に戻ってあげて」
 メイが声をかけても、一向に口を開かないシルヴィーナ。ここまでずっと無言のままであった。
 そして、無言のまま廃村へと向かう。
「‥‥怒らせちゃったのかしらね」

「大人しく降伏するか、それとも最後まで抵抗するか2つに1つよ‥‥っ」
 ヘリオドールを子供達に向けたまま、クレミアが言い放つ。
 ここまでの戦闘で傭兵達は子供たちの力量を把握し、経験を含めた個々の能力からして自分たちが上である事を理解していた。
 その上、数でも5対4とすでに逆転している――もっとも、個々で動いていれば傭兵達も無事ではなかっただろう。それほどには、子供達の連携は練磨されていたのは認めざるを得なかった。
 人数がどうであれ、自由に連携は組み替えられる――エリーゼの検証で得た結果だ。
「僕らは、止まんないよー」
 肩に大鎌を担ぎ、4人の子供達は姿勢を低くして構える。
 そこに、膝から下を淡く透明に光らせたエリーゼが納刀したまま突撃をかけた。子供達も動き出す。
 低い姿勢から繰り出される地面すれすれの、大鎌特有の広範囲な弧を描く攻撃は疾風脚を使い回避に専念しているエリーゼですら、チェスで詰めるように逃げ場を追われ、徐々に細く白い足首に赤い筋が増えていく。
 フォローしようとクレミアがヘリオドールを『黒髪』に合わせると、突如方向転換してクレミアに斬りかかってくる。
「こっちも学習してるのよ!」
 腹部を狙った一撃を左手のレイシールドで払いあげ、前を無視し背後を振り返って『金髪』の大鎌をマークし撃ち落した。
 武器を撃ち落された『金髪』の両腕を剣清が斬り落とし、身体が泳いでいる『黒髪』の首めがけ、零奈の静が振り落ろされる。
 だがそれは柄で上手くいなし、逆に零奈の腕に鎌をかすめ『黒髪』が距離を置く。
 ウヲォォォォンッ
 両腕を落とされ残された『金髪』に、ものすごい勢いでSE‐445Rが突っ込んできて跳ね飛ばす。
 偶発的に緊急離脱を果たした『金髪』がほっとしたところで、その首が転がり落ち、血飛沫をまき散らせ崩れ落ちる。
 その背後から黒い狼を引き連れた、黒いフードにゴスロリファッションの全身を淡く光らせた死神――シルヴィーナが甲高い音を立てた戮魂幡を構えていた。
 冷徹な目を転がった首に向け、腰のブラッディローズを抜いて頭部を撃ちぬく。
「失せろ‥‥」
 冷ややかな視線はそのまま『黒髪』に向けられる。
「生きて帰れると思うな?」
 その『黒髪』の背後に瞬間的に現れたエリーゼ。それを追いかけてきた『長髪』と『ポニー』が『黒髪』を避け、鎌を縦に振り下ろす。目論見通りであった。
 3人の側面にまわりこみ、目にも止まらぬ抜刀一閃。
 惜しくも力が足りずに鴉羽が最初の1人にめり込んだだけで、3人まとめて吹き飛ばすだけに終わった――が、その先には旭が待ち構えていた。
「せめて寂しくないように、苦痛もないように‥‥!」
 剣の紋章を吸収し輝かせたデュランダルを地面に突き立て、十字に走る衝撃波が3人を包み込んだのであった――。

 両腕を包帯で巻いたまま、4人を出迎えたメイ。
「心配したわよ」
「それはこっちのセリフだよ。優しいのが良いトコだけど‥‥心配させないでね? まぁ、あたしみたく壊れろ、とは言わないけどさ♪」
 零奈がいつものように明るく笑い、着替えてくると言って行ってしまった。
「で、子供達は助けれず、か‥‥」
「メイ‥‥」
 クレミアがメイの複雑な心境を察して、心配そうに肩に手を置く。
「エリミーって娘が、あの子の‥‥もしもエリミーがいたら、違う結末になっていたのかしら‥‥」
 首を横に振るメイ。
「いえ、どうしようもないわ、たぶん‥‥それに強化人間のままじゃ、もう外は歩けないわね。せめて治療しないと、さ――」
「そっか‥‥集中しすぎて疲れたから、あたしはもう休むわね」
 ひらひらと手を振り、駐屯地へと向かう。
「俺も休ませてもらいます。メイさんもしっかり治療してくださいね」
 一歩踏み出す剣清。足を止める。
「貴女みたいな考え結構好きなんで、出来れば変わらないでいてくれたら嬉しいですかね」
「変われたなら、多分もっと早くに変わってるわ」
 メイが肩をすくめると、剣清はふっと笑い再び歩を進める。
 残されたメイとシルヴィーナ。いまだに黒い狼を隣に連れている。
 ガッとメイの胸倉を掴み、顔を近づけた。
「貴様が何を考えたかは知らん。だが、戦場に今回のような甘い感情を持ち込むようでは‥‥次は無いぞ」
「あるわよ。またみんなが助けてくれるからね――でも、ごめんねシルヴィーナ。心配かけて、ごめんね」
 ニッコリと笑い頭をなでると、すっといつものシルヴィーナに戻り、えへへと笑いうっすらと涙を浮かべ撫でられ続けていた――。

 せっせと子供達のお墓を作っていたエリーゼ。旭もそれを手伝い、2人はそっと手を合わせる。
「嫌な世の中だな‥‥」
 旭の呟きは、風に乗って薄れ、消えていった――。

『【MO】こんな子供が! 終』