タイトル:【崩月】海戦への誘いマスター:楠原 日野

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/05/13 06:18

●オープニング本文



「ラグランジュ2へ資材集積拠点を設営に向かっていた分艦隊が消息を絶った。状況から、おそらくは通信妨害を併用した奇襲。予想以上の戦力が存在した物と推測される」
 月と地球、カンパネラやバグア本星などの配された作戦図を背に立つUPC士官は、そこまで語ってから傭兵達の様子を伺うように言葉を切った。見つめ返してくる視線に、頷いてから説明を続ける。
「予想会敵地点は、連絡途絶のタイミングからこの範囲。月の裏側であるために確認は出来ないが、おそらく間違いないだろう」
 スクリーンに、艦隊の予測進路と攻撃を受けた予想地点が表示され、そこから無数の矢印が延びた。そのうち幾つかは地球の重力に囚われ、大気圏へ突入する進路を描いている。そのうち幾つかは、既に地上に落ちた後のようだ。
「圧倒的な奇襲を受けた艦隊は、おそらく何らかの情報を我々に託そうとしたであろう。これらの可能性の中から、回収確率の高い物に急ぎ、向かってもらいたい。艦では間に合わん」
 最善は宇宙で回収することだが、危険が伴う。また、地上に落ちた物のうち幾つかはバグアの勢力地域へ強襲が必要だ。
「時間はそう多くは遺されていない。危険は伴うが、傭兵諸君の協力に期待する」

●サンタクルーズ諸島北部
「艦長、引上げ完了いたしました」
「ああ、見ていたよ――ひとまずは、作戦成功だな」
 引き上げられ、甲板に置かれている長さ1mほどのカプセルを見ながら、安堵のため息をつく。
 要請を受け、海に落ちたカプセルの回収と聞いた時には絶望すら感じたが、幸運に恵まれ、容易に座標が特定できた。
 しかも島といえど陸地が近いために作業もはかどる。幸運続きである。
「今回はラッキーでしたね。おおよその座標どころか、地元漁師の証言で座標がピンポイントに特定できるなんて、そうあるもんじゃないですよね」
「ああ。島も近くて拠点が作りやすく、水深も浅いし、キメラの姿もない。こんなラッキー、めったにないな」
「ですよね」
 2人が穏やかな空気の中で談笑していると、突如レーダー係が叫ぶ。
「正体不明機、みっつ、高速接近中!」
「バグアどもか! 迎え撃て!」
 艦長が声を張り上げる――が、正体不明機の存在が確認できておらず、上空を見まわしてしまう。
「‥‥いないじゃないか」
 その瞬間。
 海面から黒い何かが飛び出し、甲板の上に降り立つ。
 ゴーレムだ。
 最悪の来訪者に、艦長を含め一同は青ざめ、己の不幸を恨んだ。
 ――だが、ゴーレムはただ立っているだけであって一切何もしない。
 訝しみ、覗き込んでみるが、微動だにしない。
「艦長、電報――差し出しはゴーレムからです」
「バグアが我々に‥‥読み上げろ」
「ハッ‥‥ワレワレハ クロキミツボシ スイチュウノエリート チジョウノドウホウハ ニゲタオクビョウモノダガ ワレワレハ ジンルイゴトキニ オクシナイ コノフネヲタスケタクバ ジンルイヨ イドンデクルガイイ ワレワレハマツ」
 電報の内容に艦長は呻く。
「我々は人質、か。プライドの高いバグアらしいような、らしくないようなやり口だな」
「エリートと言ってますが、水中専門部隊なんてあまり聞きませんし、機体の方も‥‥」
 佇んでいる黒いゴーレムは、色こそ違えど外見的特徴は通常のゴーレムとまるで変わらない。
「あまりランクの高いやつではなさそうですよね」
「ああ‥‥だが、それでも我々が手を出せるレベルではない。幸い、カプセルを破壊しに来たわけではないようだし、地上に連絡しろ。水中を得意とした傭兵を頼む、とな」

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
新居・やすかず(ga1891
19歳・♂・JG
狭間 久志(ga9021
31歳・♂・PN
エルファブラ・A・A(gb3451
17歳・♀・ER
オルカ・スパイホップ(gc1882
11歳・♂・AA
BEATRICE(gc6758
28歳・♀・ER

●リプレイ本文

●サンタクルーズ諸島
「けっひゃっひゃっ、我輩はドクター・ウェストだ〜。吾輩の研究の糧となるがよい!」
 ゆっくりと着水し、水中形態に移行したオロチ改を駆るドクター・ウェスト(ga0241)が沖合にいる軍艦へ通信する。
「お前、それだと軍艦を糧にする言い草だぞ」
 同じくゆっくり着水し、水中形態に移行した新型KVクラーケンを操縦するエルファブラ・A・A(gb3451)が冷たくツッコミをいれ、固まってしまったウェストの口から何かが抜け出る。
「語りかけるなら、やつらにしないとね」
 ビーストソウル改を操る狭間 久志(ga9021)が、ゴーレムへ向けて直接電信する。
「こちらはLHの傭兵で狭間久志。ハヤブサ乗りとしては結構知れてる方だと思うんで、相手させてもらうには不足はないと思うけど。どうかな」
「ずいぶん低姿勢な言い方ですね?」
 リヴァイアサンの新居・やすかず(ga1891)が久志と並んで立つ。
「相手として不服と言われて、軍艦の方に矛先が向いても拙いから、まずは承服してもらわないとね」
 久志の説明にやすかずがふむぅと、口元を押さえる。
「中南米のバグア軍あたりに、自分達を高く売り込むための、実績作りなんでしょうかね? 或いは滅びの美学というか、最期に相応しい敵を求めていると考える事もできますか」
「はいはーい! 矛先というなら任せて!」
 かなりいじり倒されたリヴァイアサンに乗っているオルカ・スパイホップ(gc1882)が挙手し、同じようにゴーレムに電信する。
「エリートのくせに3人集まらないと何もできないの〜? 3人いればそりゃ強いんじゃないの〜? こっちは6人だけど、僕だけでもいけちゃったりして〜」
 あまりにも明白な挑発。
 久志の言葉に反応はなかなか示さなかったわりに、オルカの言葉にはすぐに反応が返ってきた。
「おっと、なになに『ヨカロウ ワレワレノチカラ オモイシレ』だってさ〜。図星だったのかな〜」
 ニャハハと笑い、あっけらかんとしている。
「人質を取れば敵が来るから、それを倒して力を示すとかいう事かね。
 ――まあ奴らの動機など、どうでもいいのだがな。考慮しないでいい思惑なら、やる事は普段と変わらぬゆえに気にする必要もあるまい」
「そうですね‥‥水中を得意とした傭兵を頼むという依頼に、水中キットを使用しての参戦で申し訳ありませんが‥‥できる限りの事をしましょう」
 水中キットをつけたロングボウのBEATRICE(gc6758)が、控えめに発言する。
「だが吾輩は違和感を感じざるを得ない。せめて名が知れているようであれば、コノ違和感もなかっただろうにね〜」
 復活したウェストが知恵者らしい表情で、呟く。
「どちらにせよ、倒せばいいんですよ。ハヤブサライダー狭間久志、深穿で行くよ!」
「まあその通りですよね。リヴァイアサン64−32971、新居・やすかず行きます」
「クラーケン179−41084‥‥エルファブラ・A・A出る」
「さあさあ楽しい時間の始まりだよ〜! オルカ・スパイホップ、沖の神レブンカムイ行きまーす!」
「さて‥‥足手まといにならないように‥‥気をつけないといけませんね‥‥BEATRICE、ミサイルキャリアで出るぞ」
「んーむ、言わなきゃだめかね〜? ドクターウェスト、143−37893オロチ改、行くのであーる」
 各機、海中から軍艦へと向かう。
 海戦の始まりだ!

●海中
「思ったよりは濁りも少ないな」
「季節的には秋の海だから、視界は良好なのだね〜。まあ浅瀬で戦闘すれば砂が舞い上がり、視界は悪くなるものだが」
 久志の言葉にウェストが分析する。
「できれば戦闘以外で潜ってみたいものですね」
「ホントだよー。泳ぎたいな〜。まあ戦闘も好きだけどね!」
「今は戦闘中だ、私語を慎み気を巡らせたらどうだ」
 やすかずとオルカののんびりした口調に、エルファブラは辛辣な言葉を浴びせる。
「警戒なら吾輩に任せたまえ〜。まあ、念のためだね〜」
 いまだゴーレムとすら遭遇もしていないせいもあるのか、早々に警戒してレーダーを凝視している――と。
「さて、お出ましだよ。クロキミツボシの諸君がね〜」
「ありがたいな‥‥こちらからあまり出向く事無く来てくれるのはありがたい‥‥」
 著しく移動力が下がっているBEATRICEが皆に追いつき、水中用ガトリングを構える。
「‥‥そこか!」
 1機を先頭に正三角形の編隊を組んでいたゴーレムめがけ、ガトリングなでるように掃射。
 3機は回避で一時的に編隊を崩すものの、掃射が終わるとすぐに組みなおす。
「やはり連携を基本とする輩か‥‥」
「ならば分断するのみです!」
 やすかずがガウスガンを1機めがけて撃ち、編隊に戻ろうとしたところでもう一度ゴーレムの間を縫うように撃ち込み、ゴーレムに方向性を一定化させた回避行動を無理やりとらせると、自らその間に割り込んで編隊を崩す。
 そしてさらに、畳み掛けるようにガウスガンを撃ちながら追い立てると、1機のゴーレムがどんどん2機と離れていく。
「1機もーらい!」
 残った2機のうち1機に突撃するオルカ。ゴーレムは銛のような武器を、まっすぐに向かってくるオルカに、まっすぐ突き出す――がアクティブアーマーにうまく突かされ銛が泳ぐ。
 そこにオルカがブーストで突っ込み、体当たり!
 虚を突かれたゴーレムはオルカに押されるがまま、どこかへと持って行かれる。
「今がまさにチャンスだね〜絶対に撃破したまえ〜」
 残された1機の足止めを図るべく、ウェストが大型ガトリングで横なぎに弾をばらまき、上へと回避したところでその上めがけて小型魚雷ポッドを発射して退路を断つ。
 だが敵もそれなりに腕はあるらしく、散らばる魚雷をさがりつつも払い、撃ち落としていく。
 一通り安全を確保したゴーレムは、BEATRICEに狙いを定め、頭から突っ込んでいく。
 ホールディングミサイルを撃ち、どうにか後退しようとするBEATRICEだが、ミサイルは腹を押されるようにそらされ、一気に距離を詰められてしまう。
 そして銛であわや一突き!
 というところで、ツインジャイロを突き出したが、急上昇でかわされてしまう。しかもそのままどこまでも離れていく。
「ふむ‥‥逃げる‥‥いえ‥‥距離を取るのも戦術の内ですね‥‥」
 逃げ行く背後に大型魚雷を撃ち込むが、小型の魚雷で誘爆させられてしまった。
「魚雷はあまり多用できなかったのですけどね‥‥とはいえ、さすがにエースの人達ならともかく‥‥私ごときに痛い目にあわされるわけには、いかないでしょうからね」
「だが油断はある」
 爆発により濁った水の中から久志が突撃し、一気に距離を詰めると人型へと変形、レーザークローでその背の推進装置にダメージを与える。
 そして蹴りつけ、再び変形してガウスガンを撃ちながら距離を取る。
「一撃で済ませられるとは思ってはない‥‥確実に仕留めさせてもらうぞ!」
 久志の牽制に機動力の大半を失ったゴーレムは、じりじりと後退し下へと潜行ていく――とそこに。
「汝に逃れるすべもない。クラーケンのデータ取りの相手になってもらおうか」
 下から左右へ逃すまいと大型魚雷で退路を断ち、簡易ブーストで距離を詰め交差する――。
 ゴゴン!
 通り抜けざまに、逃げ場も失い動きの鈍ったゴーレムに、柔軟に稼働する触手からのレーザーが突き刺さる。
「水中用知覚武器は少ないが、この機体ならこういう芸もできる訳だ」
 再び大きく距離を取り、AAEMを発射。それに合わせ、ゴーレムを挟み込むようにBEATRICEもホールディングミサイルを撃っていた。
 回避しようと動き出したところに、ウェストのガトリングがそれを許さない。
「大人しく、落ちたまえ〜」
 そして2人のミサイルが着弾――大爆発を起こし大量の気泡ととエネルギーの渦にゴーレムの残骸が散らばっていくのだった。

「反応が鈍いですよ」
 ガウスガンを撃ってはブーストで加速し、急旋回、また撃っては加速しと、強化された旋回力と機動力を惜しみなく使い、前後ろ、上下左右さまざまな角度からガウスガンを撃って翻弄していた。
 潜行形態で縦横無尽に動かれ、その速さについていけていないゴーレム。
 だがついていかないまでも、体をそらし、魚雷を撃って直撃を防いだりと、敵もなかなかにやるものである。
「クロキミツボシと呼ばれるだけあって、それなりの実力はあるみたいですね――よっと」
 こちらの移動先を狙った魚雷を緩急で回避し、距離を詰めそうな気配を感じてはガウスガンで阻止する。
「それにしても、機械融合の兆候を感じませんね。状況で言えば、向こうの方が圧倒的不利なんですが‥‥やはりプライドが許しませんか」
 楽と言えないまでも、十分な余裕をもってゴーレムと相対しているやすかず。
 不意にゴーレムが被弾を無視し、一定の方向へと急加速して動き出す。その先にはオルカとゴーレムの反応。
「行かせません!」
 ブースト全開のリヴァイアサンが気泡をまき散らし、加速するゴーレムを追随する――。

「そんなノックみたいなの、効かないよ〜」
 押されるがままのゴーレムが、銛を何度も突き立てもがいているが、ことごとくアクティブアーマーによって阻止される。
 そしてオルカがエンヴィー・クロックで急停止すると、ゴーレムはそのままの勢いで流されていく。
 人型形態に移行し、流されてバランスを崩しているゴーレムに蒼い尾の軌跡を描きながら接近し、大蛇で銛を握る腕を突き刺し、横なぎに両腕を切り落とす。
「一撃じゃ仕留めないよ! その後が必ず鈍るんだって! だから‥‥キチンとやってあげるからね」
 笑顔で通信をいれるオルカ。ほとんど圧倒的であった。
 腕を切り落とされ、後退しながら魚雷を撃ち込んでくる――事を察知したオルカが小型魚雷を発射していた。
 両者の間で爆発。大量の気泡がまきちらされ、両者の姿が見えなくなる。
 だが、そこに突っ込んでいったオルカが、まっすぐゴーレムに体当たりをかける。
「見えてなくても体当たりが当たればそこに敵がいるんだから大丈夫!」
 今度は急加速で距離を詰めると、再び大蛇をふるう。
 その一撃でゴーレムの右足が飛ぶ。
 そしてまた魚雷の気配を感じ取ったオルカが小型魚雷を撃とうとすると――あろうことか、ゴーレムは一発魚雷を撃たずに上へと置いて、そこに撃ち込んだのである。
 爆発。
 近距離で爆発させたゴーレムは、爆発の衝撃をそのまま運動エネルギーに変えて、すさまじい速度で下へと潜行していく。
「そうこなくっちゃね〜!」
 予想外の行動にオルカが喜び、潜行形態に移行してそこへと逃げていくゴーレムを追いかける。
 下へと沈むと呼ぶにふさわしい状態のゴーレムが、きりもみしながらガトリングを撃ち続けている――だが、今のオルカにそんな工夫もない攻撃が当たるはずもなく、ただ闇雲に弾を巻き散らすだけであった。
 ゴゴン。
 海底へと激突するゴーレム。
 オルカは海底すれすれで姿勢を制御しゴーレムと反対の方向へ加速した――次の瞬間。
「武器が違ってもマネできる事は絶対にあるはず〜!」
 前方に小型魚雷を巻き散らし、魚雷同士を当てて誘爆させた。
 爆風がオルカを包むその刹那、アンカーテイルを海底に打ち込んで180度の変則急旋回、そしてブーストをかける。
 もともとの速度に、爆風、ブーストを掛け合わせていままでにない速度でゴーレムに突撃――変形と同時に大蛇を振り下ろしていた。
 一刀両断されるゴーレム。通り抜けるオルカ。そして一拍おいて、大爆発。
「僕は亡霊さんから戦い方覚えたりしたしー。君のやった事マネできたから、君も僕の一部なんだよ♪ だから安心して倒れてね」
 爆発が収まり、再び海が静けさを取り戻す。
「それに僕、亡霊のおじさんと約束したしね!」

 やすかずが追いかけるうちに、オルカの近くにいたゴーレムの反応が消失する。
 その途端に、合流しようとしていた逃げるゴーレムが方向転換し、軍艦へとその矛先を向ける――が、その先にはエルファブラが待ち構えていた。先を読んでいたのだ。
「狙わせんよ」
 すでにブラストテンタクルの射程内。当然、発射していた。
 ゴゴン!
 レーザーが推進装置を焼き払う。
「おまけだ、とっておけ」
 背後に忍び寄っていた久志が、レーザークローで脚部についている推進装置も焼き切る。
「おまけなら、私もですね‥‥」
 遅れてやってきたBEATRICEが大型魚雷を2発撃ち、ゴーレムの両腕を破損させる。
 エルファブラ、久志、BEATRICE、やすかずに囲まれた上に、オルカもこっちに向かっている。そして残るは半死の自分のみ。
 そこまできてやっと、ゴーレムのパイロットに決心をさせたのだろう。
 ゴーレムの機体が震え上がる――が、融合の兆候を察知していたやすかずが、インヴィディアで強化したガウスガンを真下から一直線に撃っていた。
 下から貫通したゴーレムは先ほどと違う振動を繰り返し――大爆発。
「‥‥ふう」
 融合前に倒せたことに、やすかずが安堵のため息をつく。
「全機撃破、損害なしか。エリートと自称していたわりには、あっけない」
 エルファブラの辛辣な言葉を返す者は、すでにいない。
「水中キットでも、戦えてしまいましたからね‥‥」
 少々申し訳そうなBEATRICE。
「まあ別に水中が得意って訳じゃないけど‥‥苦手にもしたくないんだよね。ちょうどよかったよ」
 伊達眼鏡をクイッと直した久志。
「あれー? もう終わっちゃったのー? あっけなさすぎー」
 やってきたオルカが不満げに洩らす。
 そしてウェストは――この場に来る事無く、軍艦の周囲へと向かっていた。
「ソッチは任せるよ〜‥‥と、もう終わってしまったのかね」
 エリートと名乗り、水中戦にこだわった無名バグア。案の定、大した強くもなかった。終わってみれば圧倒的で、こちらは無傷である。
 しかしそれが、大いに彼の違和感を膨らませていく。
「‥‥なんだろうね〜この違和感。むしろ、何が狙いなのかね〜‥‥ん?」
 レーダーに一瞬の影。
 その一瞬で十分だった。
「急速浮上!」
 炸裂式ブースター迦具土で、オロチ改が海中から空へと飛びあがる!
 空中で飛行携帯に移行すると、影のあった方へ加速、そしてその目で確認する。
「なにかいるね〜!」
 海中を泳ぐ影――あきらかに地球の生物が出せる速度ではない。
 ウェストが追随する――が、それは先ほどのゴーレムなどとは比べ物にならない速度で海中を駆け抜け、通常の飛行では離される一方であった。
 そしていつしかその影はさらに潜ったのか、目でも確認できず、レーダーも範囲外であった。
「逃げられたようだね〜」
 ウェストはそれ以上深追いせず、軍艦へと引き返していく。
 攻撃することなく、レーダーのギリギリにいた影――その影にウェストは違和感の正体を何となく感じとり、ポツリとつぶやいていた。
「‥‥まだまだ、海戦は始まったばかりなのかね〜」

『【崩月】海戦への誘い 終』