タイトル:【MO】気に入らんマスター:楠原 日野

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/05/06 23:55

●オープニング本文


●インド・デリーのホテル
 パラリ‥‥パラリ‥‥。
 あまり高級とは言えないホテルの一室で、一枚一枚丹念に、報告書に目を通している銀髪の少女がいた。
 バーウェン貿易武器販売部門代表、ミル・バーウェン(gz0475)である。
 いつも飄々としていて張り付いたような笑みを崩さない彼女。だが、今は珍しく険しい表情をしている。
 飴を取出し、口にほおりこみ‥‥噛み砕く。
 本人は無意識なのだろう。すでに何十個の飴玉が、一瞬にして儚い命を散らせていた。
 ミルの座っているイスの横、長い金髪の女性がベッドに腰を掛け、苦笑いともとれる笑みを浮かべて、足をぶらぶら。
(そうとう、おもしろくない内容の報告書のようね)
 飴玉の数を数えつつ、気が付かれるその時を待った。
 パサリ‥‥。
 報告書をテーブルに投げ出すと、爪を噛みしめて背もたれによしかかる――と。
「――うお! シスター、いつからいたのかね?」
「結構前からよ。アメちゃんでいえば、34個前からかしら」
 床を指さされたことで、やっと飴を大量に摂取したことに気が付いたミル。
 いつもの笑みを取り戻し、がばりと自分のポーチを開けて確認して泣きそうな顔をする。
「しまった、お気に入りの味だったのに、ほとんど味わう事なく消費してしまった‥‥」
 お気に入りと呼んだ飴玉を取出し、ほおばる。
 もごもごと口を動かしていると、シスターは立ち上がり、ミルが無造作に投げた報告書を手に取り、眉根を寄せた。
「オセアニア概要報告書‥‥? これって今侵攻中のところの?」
「うむ。オセアニア方面で気になるヤツがいてね。ソイツの情報収集してたら、なんやかやとやばそうな情報も混ざってるんだが‥‥」
 不機嫌そうな顔をしてテーブルに踵を落とし、ガリゴリと口の中から音がする。
「気に入らん」
 腕組みをし、テーブルに体重をかけて椅子の前脚を浮かせているが、フラフラだ。
「実に気に入らんぞ」
 ドンドンと、何度もテーブルに踵を落とすミル――が、勢いに負けて後ろに倒れこみそうになるところを、はっしとシスターが手をつかんでなんとか留まった。
「何がそんなに気に入らないのさ」
「概要を読むに、バグアを脅威とも考えない人間がバグアによって生み出されているという事実が気に入らん。それとだ――」
 口元を抑え、何やらぶつぶつと呟いてから口を開く。
「どう考えても、物資の補給が現地では間に合わん‥‥それでいてアイツのメインを考えると、やはり‥‥連絡をつけようにも手段もない‥‥仕方ない、か」
 立ち上がり、シスターに顔を向ける。
「シスター、皆に伝言よろしく。長旅するよって言っといて」

●改良型ばら積み貨物船・甲板
「積み込み作業、開始します」
「うむ、任せたよ諸君」
 報告を受けたミルは腕組みをし、作業風景を甲板から眺めていた。
 積み込み作業などしたことないミルだが、クレーンの数を減らしてしまったため、作業に手間取っているのがここからでも見て取れる。
「おいよぉ、お嬢はなんだってこんなに広い空間、確保してるんだ?」
 白髪交じりの男、グレイが広い空間――幅は20mほどだが直線距離にしてほぼ100mはある――を親指でさしている。
「ですねぇ。クレーンも二基減らし、積み込みスペースも一部変更までして、何に使うんですかね」
「それよりも今回は商売ではなく、自腹でまかなってるあたりがビックリっす」
 鼻に傷痕のある男スカーが、背と胸の高くない女性、ボマーとゴム製のナイフで斬りあいながら会話していた。
 その様子を見ながらグレイが煙草を取出し、火をつけて、一息。
「おーおー、若いのは元気だねぇ。ボマー、もっと背の低さを活かし徹底的に下を攻めていきな」
「へーいっす」
「グレイさん、助言は不公平ですって。今日の見張り役決めてるんですから」
「なら、スカー。あなたはもっと半身で腰を落としなさい。急所狙いを嫌がって腰が高いと、死角も多いわよ」
 近くで床に広げてライフルを分解清掃していたシスター。シスターの助言通りにスカーが腰を落として、ボマーを迎えうつ。
「おーおー、さすがは元暴力教会の殲滅姉妹。ナイフの助言もお手のもんだな」
「ナイフはメイのが専門だけどね」
 磨きながら、丁寧に一つ一つチェックしている。その様子から、そこそこ長い付き合いのグレイが何かを察する。
「激戦になるのかね。今度の船旅は」
「さあ? 戦うのはあたしらじゃないとは思うけど、激戦にはなるんじゃない?」
 スコープでグレイの顔を覗き込む。
「いい加減、みんなに教えたらどうなの? お嬢!」
 風でかき消されぬように声を張り上げると、ミルがトテトテと側まで来て仁王立ちで構える。
「うむ。今回はオセアニア侵攻している軍やらなんやらへの食糧補給に、西側の復興のための機材やら農業支援が目的だ」
「にしてはピリピリした気配も感じるんだが」
 ピリピリしていると言いつつ、灰を手に落としてのんびり煙草を吸っているグレイ。
 スカーとボマーはすでにナイフを投げ出してグラウンド勝負をしていて、緊張とは程遠い気配であった。
 ただ唯一、シスターだけは気持ち表情が硬い。
「それはそうだろう。前線への補給開拓のために、まだ支配地域にあるカーペンタリア湾に向かうからな」
 ミルの言葉にポロリと灰を床に落とす。
「そんなデンジャー地域行くのに、貨物船なんすか」
 スカーに縦四方固めを決めているボマーの頬に、運動とは別の汗が流れている。
「敵戦力を分析した結果、いけると判断したのでな。もちろん、戦うのは我々ではない」
「という事は、傭兵にですか」
 ちょっとだけ幸せそうなスカーが抵抗するフリを続けているので、近寄ってミルが股間に蹴りを入れる。
「そうだ。彼らにないとふぉーげるとかいうので、殲滅してもらう。重要拠点ではないのと、戦力不足だろう。敵さんの防衛が思ったより薄いので、いけるはずさ。
 もちろんうちらは離れて待機、近海で先行してもらう。そのために、彼らの滑走路を用意したわけだよ」
 バッと広い空間を見せつけるように示す。
 おおーと、一同感嘆し――ふと、グレイが気が付く。
「そういえばドライブは?」
 ドライブの名を聞き、ミルが顔をひきつらせて、制止する。顔が引きつっているのは、ボマーも同じであった。
「ドライブは‥‥うん、しばらくお休みをあげたよ。温泉で重傷を負ったのでね」
「ははん? キメラとやりあったのは傭兵だろ?」
 星を――いや昼なので空を見上げ、遠い目をする。
「今回彼が得た教訓は、傭兵のツッコミは危険、だということだろう。そして私の今月の給料もすべて持って行かれてしまった――私が得た教訓はうかつに奢るな、だ」
 激戦の予感を感じさせつつも、緊張感のない空気が彼らを包むのだった――。

●参加者一覧

錦織・長郎(ga8268
35歳・♂・DF
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
長谷川京一(gb5804
25歳・♂・JG
ファリス(gb9339
11歳・♀・PN
ヨハン・クルーゲ(gc3635
22歳・♂・ER
ドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751
18歳・♂・DF
BEATRICE(gc6758
28歳・♀・ER

●リプレイ本文

●改良型ばら積み貨物船・貨物室
「大事な食糧補給に復興支援のための物資となれば、沈めさせるわけにもいきませんね」
 大量の物資を前に、ヨハン・クルーゲ(gc3635)が呟いた。
 彼自身、武器商人ミル・バーウェン(gz0475)の人となりについては詳しくないが、武器商人が支援物資を運ぶ事に、内心、驚いていた。
「危険を冒してまで運んでいるんです、無事に到着させてあげたいですね、京一様」
 さわやかな笑顔を、隣で佇んでいる長谷川京一(gb5804)に向ける。
 禁煙パイプを咥えていた京一は後輩の言葉に、微妙な顔をするしかなかった。彼自身はミルの人となりを知っている分、どうしたって素直に親切心だとは思えないのだ。
(詮索するつもりはないが、随分ときな臭いねぇ‥‥)
 思っても口に出しはしない。
「それよりもだ‥‥」
 依頼で顔を合わせてしまった後輩を横目で見ながら、小さく呟いてしまう。
「頼もしいと誇るべきか、己の不徳を嘆くべきか。悩ましいねぇ」
 腕を抜かれていた事に、多少なりともショックを受けていた様子である。
「おや、こんな所にいたのかね。あと数時間もしたら作戦地域だ、腹ごしらえや煙草の吸い溜めしなくていいのか?」
 ひょっこり通りざまに顔を出したミルが一声かけ、ヨハンと京一はミルについてその場を後にした――

●改良型ばら積み貨物船・甲板
 甲板で進む先を見ながら、ファリス(gb9339)が息巻いていた。
「暗黒大陸攻略の手始めの作戦なの。地上からバグアの拠点をなくす為に、ファリスもできる限りの事をするの」
 それとは対照的に冷めた顔をした時枝・悠(ga8810)が、テーブルにあったリンゴを手に取り、ひとかじり。
「オセアニア情勢がどうだとか、あまり興味ない。小銭さえ稼げればいい」
「そうだね。家で毛繕いしてる猫引っ張って、今度はこの戦場を少し散歩してみようって心境だね。ジャポネスでの某黒い宅急便じゃないけどね!」
 自分で言ってツボに嵌ったのか、フヒヒと笑っているドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751)。
 席について紅茶をすすりながらいたBEATRICE(gc6758)だけは、少し不安げだった。
「今回、敵戦力は不明ですから、気楽には望めないですね‥‥まあ、できる事を着実にこなしたいですね‥‥」
「だが、残党にすぎんさ。完全制圧を試みる為に1つ1つ片づけるのが肝要だね、くっくっく‥‥」
 眼鏡をクイッと直し、錦織・長郎(ga8268)が蛇のような笑みを浮かべる。
「不安も結構だが。余裕も大いに結構だ、諸君」
 腰に手を当ててミルがやってくると、椅子に座ってパンに手を伸ばすと――先に取られて最上 憐(gb0002)の胃へと収められた。
 伸ばした手をひっこめるのも癪なのか、ハムを一枚つまんで、口に放り込む。
 ミルに気付いた憐が食事の手を休め、ミルにずずいっと迫る。
「‥‥ん。この前の。借りを。返しに。来たよ。頑張ったら。また。奢って。くれる? くれる?」
 先日の依頼で、傭兵皆に奢って今月分の給料(もちろん、かなりの高給)が全て消えてしまったミルは、笑みはそのままに頬をひきつらせる。
「‥‥前向きに検討しておこう。どちらにせよ、オセアニアではまだまともに食事を提供する地域がないので、先の話だがね」
 憐と同じテーブルで満足に食事できないと悟ったミルが立ち上がり、踵を返した。
「もう数時間後には作戦開始だ。期待しているよ、傭兵諸君」
 立ち上がる際のミルの表情を確認した長郎が、微細な変化に気付く。面識あったからこその、気付けたのだ。
「ふむ、何か表情が硬いがどうした事かね」
 肩をすくめ、口元を抑える。
「商売敵が向こう側に廻ったかね、くっくっく‥‥」
 ぴたりと足を止め、飴を取り出して口に放り込み――ガリゴリと噛み砕きながら、無言でその場を後にした。
「沈黙は正解と同じだよ、ミル君」

「さあゆくぞ、ヨルムンガルドよ‥‥錦織・長郎出るよ」
「時枝・悠、デアボリカ、出る」
「やれやれ、言わなきゃだめかね‥‥井上真改、長谷川恭一行ってくるかねぇ」
「ジークルーネ、ファリス、行きますの」
「Weiβe Eule、ヨハン・クルーゲ、行きます!」
「エスプローラトーレ・ケットシーのドゥ・ヤフーリヴァ、ちょっと猫の散歩に行ってきます」
「BEATRICE、ミサイルキャリアで出ます」
 次々と空へと飛んでいき、最後に残った憐が飛ぶところを眺めていたミルに声をかける。
「‥‥。ん。行ってくる。帰ってきたら。KVの。燃料補給に。加えて。私の。栄養補給も。お願いね」
「心配せずとも、カレー作らせるから、がんばってきたまえー!」
 拡声器でミルが答えると、コクピット内部で憐が満足そうに頷く。
「‥‥ん。美味しい。ごはんの。ために。オホソラ。最上 憐。行って来る」
 オホソラも無事に飛び立ち、緊張感のなさはどこも一緒だと頷きながら、ミルは艦内へと戻るのだった――

●カーペンタリア湾・上空
 足並みをそろえ、一同が飛行する。
「お客さんのお出ましだぜ。ご丁寧に真正面から、大型を先頭にV字編隊のようだ。全部で――11機」
 レーダーを睨んでいた京一が、伝達する――と閃光が飛来する!
「うおっと!」
 間一髪、京一はAECを発動させ長距離からのプロトン砲のダメージを軽減させる。
「今のは大型からの後方射撃、なの。京一兄様、大丈夫なの?」
「くそ、食らったか! だがなんとか軽微だ」
 ファリスの言葉に、京一は答える。
「どうやら大型は後方射撃重視といったところですか」
 冷静なドゥの言葉。閃光と同時に散開し、すでに全員覚醒し、臨戦態勢である。
「先制に、私のラヴィーネで散らします。敵機捕捉。EBシステム起動。ECミサイル『ラヴィーネ』、ファイエル!」
 ヨハンがEBを発動させ、ラヴィーネを大型とその周囲の中型めがけてを150発のミサイルを積んだコンテナを掃射。
「私からも開幕に一発」
 BEATRICEも誘導システムを発動させ、小型ホーミングミサイルの一斉掃射。250発のミサイルが飛来する。
 そしてヨハンの放ったコンテナからも150発のミサイルが放たれ、計400発のミサイルが空を覆いつくす!
 小型HWが6機が散り、中型HW4機が前面にFFを集中させ、大型を守るように弾幕の前に集合してミサイルを受けきる。
 爆炎とエネルギーの嵐。
 そしてミサイルを追いかけるように突撃していた、憐と悠。
 爆炎と煙の切れ間から大型の姿を確認する。
「‥‥ん。見えた。先手必勝。一気に。突撃する」
 重機関砲で牽制し、ブーストで一気に距離を詰めるとソードウィングで斬りつけ、そこに悠がフィロソフィーで追い打ちをかける。
 憐や悠を追いかけるように小型が動きを見せるが、それを見越し、ワンテンポずらしたドゥのホーミングミサイルが小型HWに襲い掛かり、数機に直撃する。
「敵機着弾確認。小型の足止めは任せてください」
「そういう事だ」
「お任せあれです」
 そう言ったヨハンは難を逃れた小型HWへもう一発、ラヴィーネを発射する。
 範囲から外れようこちらに突撃を開始する小型HWに、京一がツングースカで弾幕を張り、ショルダーキャノンで牽制し手足止めし――着弾。2人の連携が冴える。
 さすがに撃墜とまでは行かなくとも、相当のダメージを与えた手応えがあった。

「くっくっく‥‥我々も活躍せねばな」
「そうですの」
「そうね、大型は‥‥強い人に任せて‥‥か弱い私は小さいのを‥‥」
 4機の中型に狙いを定めた長郎、ファリス、BEATRICEが距離を詰める――が、煙の中からいく筋もの光線が広範囲を覆う。
 しかしその程度は予測済み。反射的にBEATRICEがもう一発ホーミングミサイルを撃ち込み、同時に3機は射線から逃れるように上と左右に展開する。
「あまり多く積んでいませんから‥‥大切に使いませんと‥‥とはいえ‥‥必要時には嵐の如く‥‥と」
 ミサイルを嫌がった4機の中型HWはバラバラに展開し、そこにファリスのガトリングと長郎のミサイルポッドが追い打ちをかけるように退路を塞ぐ。
 それを回避しようとさらに動きを見せる中型HWだが――その2人の攻撃はただの誘いだった。
「そこだよ」
「そこなの」
 縦並びとなった3機にツングースカを撃ちながら上から畳み掛ける長郎に、外れにいる1機に螺旋弾頭ミサイルを撃ち込むファリス。
 3機に突撃する長郎。
「ロキ・クリーク‥‥!」
 ブラックハーツ、発動!
 ブーストで突撃し、機体をバレルロールさせソードウィングで切り刻んでいく!
「所謂必殺技だね、くっくっくっ‥‥」
 肩をすくめ――3機が爆破する。
 一方、ファリスの螺旋弾頭を受けた1機にBEATRICEが肉薄し、損傷した装甲部に真スラスターライフルを突き刺し、発射。
 離れたのち――爆破。
「狙うのは苦手なのですよ‥‥」

「こっちで弾幕を張る、狙い撃ってくれ」
 ドゥとヨハンがフィロソフィーで攻撃し、京一がツングースカで弾幕を張りつつ、ショルダーキャノンで狙う。
 しかし倍の数相手となるといささか分が悪く、小型ゆえに当たりにくい。
 弾幕を縫ってやってきた1機にヨハンがレーザーバルカンで弾幕を張り、距離を置く。
「おっとぉ!」
「っく!」
「よいしょ!」
 こちらの間隙を縫ったプロトン砲を3機は回避する。そしてまた弾幕を張るの悪循環であった。
「ジリ貧だね」
「あと一撃で落とせる気はしますが、その一撃を当てられませんね」
「ふむ‥‥」
 リロードの隙を作るために10AAMを撃ち、観察しながらリロードを果たす。
「あれは無人機、だろうな。今の回避運動から察すると」
「でしょうね。統率と言いますか、動きに無駄やブレが感じられませんから」
 話している間にも、距離が詰められていく。
「‥‥ヨハン、ドゥ、ちょっと並べてくれ」
 京一の言葉を察した2人がただ弾幕を張るのではなく、京一の直線射線上から外れている小型HWを狙っては、牽制して直線になるように撃ち続ける。
「もう少しだ‥‥」
 種子島壱式改を構え、ターゲットを正面に合わせたまま、その時を待った。
 ヨハンがフィロソフィーを撃つ間に、ドゥがリロードしては牽制を続ける――と、一番前の1機がプロトン砲を撃つそぶりを見せ始める。
「いい感じで並んでるな、もう少し‥‥」
 プロトン砲の収束が完了し、発射される――その間際に。
「今だ!」
 ヒュオン――ズドドドドドォォォォン!
 京一の種子島壱式改が一直線に伸び、貫かれた小型HWは爆破し、四散する。
 しかし、かすめただけで難を逃れた2機が距離を置くために散ろうとするところへ、ヨハンが正面からフィロソフィーを撃ちながら突撃すると、2機は逃げる方向に戸惑い動きを止める。
 そこへ下へ回り込んでいたドゥが、腹部めがけてスナイパーライフルを撃ち――撃破。
「排除完了と――大型はどうですか?」

「面倒くさいな。当て放題だけど、ダメージが通りにくくて嫌になる」
 まとわりつくように飛行し、フィロソフィーを、ウィングエッジを、自動歩槍を叩き込むが、表面を裂いている感が強く、内部へのダメージが感じられない。
「‥‥ん。もうずいぶん。ぼろぼろ。なの。けど。動きを。止めない。お腹。すいた」
 憐もソードウィングと重機関砲で大型HWにまとわりつつダメージを与えているものの、今一つ決め手に欠けていた。
 そも、サイズが違いすぎる。中型やKVに比べ、大型は予想以上にでかく、5倍以上の差がある。
 格別固いとかそういうものもないのだが、外部装甲をいくら傷つけても、かすり傷であった。
「ロキ・クリーク!」
 横合いから長郎が突撃をかけ切り刻むが、やはり手ごたえとしてはいまいちであった。
「ふむ‥‥皮を切っても骨が切れん、か」
「ならば撃ち込むとしようか」
 京一がツングースカを撃ちながらショルダーキャノンを構え――拡散フェザー砲を事前に感知して回避する。
「ここまできたら、撃ち尽くすべきか」
 距離を置いてスラスターライフルを撃ち込んでいたBEATRICEの言葉に、ファリスが賛同する。
「それがいいの」
「賛成ですね。増援の気配もありませんし」
「そうだね、ミサイル祭りといきますか」
 ヨハンやドゥも賛同し、全機が一旦距離を置く。
 距離を置いたことで大型HWは移動を開始し、拡散フェザー砲で道を切り拓いていく。
 大型HWの向かう先には――ミルのいる貨物船が。
「行かせないよ。降りる場所がなくなりましたとか、面倒だ」
「保険で直るかはともかく‥‥帰れなくなってしまいますからね‥‥」
 悠が進路をふさぐように大きく斬りこみを作りながら回り込み、大型HWの注意が悠に向かったその瞬間――。
「螺旋弾頭弾、発射なの!」
「ラヴィーネ、ファイエル!」
「ミサイルポッド、発射だ」
「11AAMを食らっとけ!」
「ホーミングミサイル、掃射」
「二十四式螺旋弾頭ミサイル、ファイエルだ」
 全員による一斉掃射。総勢413発のさまざまなミサイルが悠のつけた傷へと吸い込まれ――。
「‥‥ん。とどめ」
 憐の重機関砲が叩き込まれると、一同は一気に散開し――直後。
 ドンドドドドドドォンドドオォォォォォォンッ!
 大型HWは大音量の大爆発とともに、海へと落下していくのであった――。

「んーむ。ご苦労だったねぇ諸君」
 帰艦した傭兵にミルが労いの言葉をかける。
「仕事だから。まあ今回の依頼は良好なほうだ」
 疲れたといわんばかりに無愛想に悠が洩らし、艦内へと消えていく。
「‥‥私も、お先に休ませていただきます」
「私も失礼する」
 ヨハンとBEATRICEも艦内へ向かう。
「うーん‥‥少しスタミナ鍛えておくか? 次の戦いの予感がする分、体を鈍らせるなよ? トゥオマジア」
 それだけを言い残すと、ドゥはフラフラと艦内に向かっていった。
「まずは一服をだな」
 京一が煙草をとりだし火をつけ、その足元に憐が転がりファリスもへたりこむ。
「‥‥ん。お腹。すいた。もう。動けない」
「ファリスも、ちょっとお腹すいたの」
 2人の様子に苦笑したミルが甲板にセットしてあるテーブルを指さす。
「準備はしてあるから、存分に食したまえ」
 途端、動けないといっていた憐が起き上がり、駆け出す。ちゃっかりファリスは、そんな憐の背中にしがみついていた。
「この辺って何か上手い物とかあったっけ? 大昔にカンガルーを食ったのは憶えてるんだがな〜」
「今の状況では持ってきたものしか食えんよ」
 しかめっ面をしてぐるーりと見回し――海に目が留まる。
「ん、勢力的に微妙な位置なら漁とかしてないだろうから魚介資源が手付かずか? なぁ、お嬢、釣竿とかないかな?」
「やめとけやめとけ、どんな汚染が進んでるかわからんぞ? いいから素直に、今は休んでおくがいいさ」
 それだけを言うとミルはその場を後にする。厳しい顔のままで。
 その様子を遠目で眺めていた長郎は、肩をすくめ、空を仰ぐ。
「さて、これからが本番かね」

『【MO】気に入らん 終』