タイトル:我々ナイムネ同盟マスター:楠原 日野

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/04/23 20:34

●オープニング本文


●薄暗い室内
 カリカリカリカリ――。
「う、間違えた‥‥修正修正」
 カリカリカリカリカリ――。
「う、また同じところを‥‥」
 カリカリカリカリカリカリカリ――。
「ぬばー!」
 雄たけびを上げ書類を破り捨て、ぐったりと椅子の背もたれによしかかり、天井を見上げるミル・バーウェン(gz0475)。その手からボールペンが転がり落ちる。
「複製防止の手書き書類なんて、廃止にして欲しいよ。まったく‥‥疲れたな――」
 ぼんやりとしつつ、なんとなく天井の建材のつなぎ目をアミダの要領で目で追っていく。
 そして、行き着いた先の写真に目が留まる。
「――そうだ、温泉に行こう」

●山道を走る車内
「へいっほへいっほ、ふっふーん!」
「やっさっさーやっささー、へーい!」
 広い後部シートで、ミルとボマーがわけのわからない歌で盛り上がっている。
「2人とも、テンション高すぎませんかね」
 運転中のドライブがクイっとルームミラーを調整して、後部シートの2人が見えるようにする。
「何を言ってるのかね、ドライブ。せっかくの慰安だ、楽しまずしてどうする」
「そうっすよ、しかもあの『WAKAKUSA』だなんて、嬉しいじゃないですか」
「絶品キメラ料理を出す料亭旅館、でしたかな。キメラ料理は珍しい方ですが、おいしい料理の温泉付き旅館なんて、他にもあるのではないですかな」
 ドライブの言葉に、2人が指を立ててチッチッチッと振ると、得意げな顔をする。
「あそこのお湯はな――胸が大きくなるのだよ」
「だからシスターを留守にしたわけですな」
 眉唾だとは思いつつも、再度ミラーを調整し、2人の胸元に目を向ける。
「いやしかし、ナイムネもいいものですよ」
「君の嗜好は聞いてない。我々ナイムネ同盟にとっては命を賭けてもいいくらい、価値のあることなのだよ!」
「そうっす、そうっす! 同士よ!」
 2人が固い結束で抱き合っているのを、苦笑いして見ているドライブ。
「それに、胸さえあれば男に間違われないで済むし」
 ボマーのぼやきに、それはぼさぼさな金髪のショートだからではという言葉を、ドライブは飲み込んだ。
「それは、ぼさぼさなショートなのが悪いのではないかね?」
「言っちゃっいましたよ、ハッハ!」
 飲み込んだ言葉をミルがハッキリ口にした事で、ドライブがたまらず笑ってしまう。
 ――と、突如目の前に大きな岩のようなものが道を塞ぐ。
「対ショック姿勢!」
「とっくに対ショック!」
 ドライブが叫ぶ前に、2人はすでに対ショック姿勢をしていた。
 車体を横滑りさせ、側面から当たりに行く。
 ドガッシャァァァァン!
 ガラスというガラスは割れ、車内に飛び散る。
「大丈夫ですか、お嬢!」
「かまうな、キメラだ! 即時撤収!」
 ミルの一声に反応したドライブが、ひしゃげた車体のまま、来た道を戻っていく。
 後ろを覗いたミルの目には、3mほどの岩山――いや、岩のようなものを背負った、生き物――そう、大きなヤドカリであった‥‥。

「無線、通じたか」
「はい、どうぞ」
 無線機を受け取り、声をかける。
「こちらミル・バーウェン。涼子、応答どうぞ」
「おや、ミル嬢かい。久しいね」
 声が聞けたことで、ひとまず安心するミル。
「そちらに行く途中、でっかいヤドカリキメラに阻まれてね、引き返してきたんだ。そちらは無事かね」
「そうだねぇ‥‥厨房に2人で篭城しているくらいで、無事だよ」
 涼子の言葉に3人が顔を見合わせる。
「それは無事ではないというのだがな‥‥どうした?」
「最初の始まりは、旅館の外に大きなヤドカリが数匹現れてうろつく様になって、それからあたしくらいのサイズのヤドカリがそこそこ建物に侵入してきてねぇ。そこで頑強な造りの厨房に逃げ込んで、篭城してるわけさ」
「ヤドカリの逆襲、というところかね――変質したわけか。だからキメラはすぐに殲滅するべきだと、言ったのだよ。とりあえず待っていたまえ、傭兵を呼んでくる」
「頼んだよ、ミル嬢。料理でも仕込んで、待ってるさね。終わったら、ゆっくり湯船に浸かっていくといいさ」
 緊張感の無いやり取りを終え、ミルがドライブに向き直る。
「すぐに戻って連絡する――だが今回の依頼は男か、ナイムネのみにしてもらおう。胸のある人間に、あそこの湯を使わせてたまるか‥‥!」

●参加者一覧

秋月 祐介(ga6378
29歳・♂・ER
香坂・光(ga8414
14歳・♀・DF
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
樹・籐子(gc0214
29歳・♀・GD
春夏秋冬 立花(gc3009
16歳・♀・ER
夏子(gc3500
23歳・♂・FC
カノン・S・レイバルド(gc4271
18歳・♀・DF
トゥリム(gc6022
13歳・♀・JG

●リプレイ本文

●料亭旅館『WAKAKUSA』への山道
「うむ、諸君。よくぞ来たね! 実に行動が早くて、結構な事だよ」
 ボロボロの車の上に立ち、ミル・バーウェン(gz0475)が傭兵を歓迎する。
「‥‥ん。先に。無線で。安否を。知りたい。番号。教えて。」
 ミルを見上げながら、最上 憐(gb0002)が手を伸ばすと、ミルは素直に無線を渡す。
「‥‥ん。久しぶり。生きてる? 怪我はない? 料理の。準備でもして。待ってて」
 無線越しに涼子に声をかける憐。無線の向こうからは、場違いなほど平然とした涼子の声が返ってきた。
「その声はよく食うカレーのお嬢ちゃんかい? 久しぶりだねぇ。あんたが来たからには、カレーを作っておかないとね」
「‥‥ん。ミルの。奢りなので。全力で。沢山。いっぱい。料理。お願い」
「そうかい、あのお嬢ちゃんも迂闊だねぇ」
 迂闊と呼ばれた当の本人は、不思議そうな顔をして憐のやり取りを眺めていた。
「え? 依頼主さんのオゴリ? ‥‥遠慮なく全力で楽しませていただく!」
 オゴリと聞いて一気にテンションが高まった夏子(gc3500)が思わず覚醒してしまう。
「温泉に料理、今回はそれがお姉ちゃんにとっての一番の楽しみでー、可愛い子が勢ぞろいしてて燃えるわー」
 なにやら怪しい視線を次々と向けている樹・籐子(gc0214)の、温泉という言葉にカノン・S・レイバルド(gc4271)の心が捕らわれる。
「温泉‥‥温泉はいいものよ。暖かく包み込むようで、何より面倒事が無いわしかも、おごりには遠慮こそ無粋というもの。では、骨の髄まで頂きましょう」
 温泉に期待している彼女だが、期待は裏切られるもの。この面子ではすでに面倒事の宝庫としかいえないのであった。
「うん、温泉と聞いて参加したのだー! しかも効能が聞き逃せなかったのだ!」
「眉唾ですけどねぇ」
 意気揚々としている香坂・光(ga8414)に対して、秋月 祐介(ga6378)眼鏡を押さえながら首を横に振って溜息をつく。
「‥‥キメラ料理を出す旅館があったんだね」
 一番の関心はそこと言わんばかりにトゥリム(gc6022)がポツリと漏らす。
「はいはいはい、楽しみはおいといて、まずはキメラの殲滅だ! よろしく頼むよ」
 パンパンと手を叩き、車の屋根から飛び降りたミル。
 ミルの言葉で仕事を思い出した傭兵達が動き始める――が春夏秋冬 立花(gc3009)がミルの前に立ち、そっと耳打ちする。
「同士、退治の後で話があるので、覚悟しておくように」

「さーて外のデカブツはうちらに任せるでゲスよ」
 目に入ったヤドカリ大に、隠密潜行で距離を縮めてとりあえずぶん殴ってみた。するとホーリーナックルはやすやすと殻を突き破る――が、殻が厚くて肝心の本体へのダメージは大したことがない。
 夏子の殴ったヤドカリに クロススタッフでぼこぼこ殴るカノン。全くダメージが通っている様子は見受けられない。
「大きくて、硬い‥‥っ! 本当に、面倒なやつね!」
「いいわぁ、今のセリフ。お姉ちゃんそそられちゃう」
 少し遠巻きにヤドカリを観察していた籐子が、旅館へ向かった仲間達の後を追いかけそうな1匹めがけ、反撃を受けなさそうな背後から蹴りつけると、標的を籐子に変えて襲い掛かってくる。
 優位な距離を保ちつつ、広くて若干傾いている地域に誘導すると、カノンに下から持ち上げるようなジェスチャーを送る。
 察したカノンがクロススタッフを潜り込ませ、ひっくり返す。
「‥‥デストローイ」
 むき出しの本体めがけ、S‐01を撃ち込むと、あっさり沈黙する。
 一方、殻にこもってしまったヤドカリから距離を置き、雷遁に持ち替える。
「チン♪」
 音声認識のもと発動した電磁波がヤドカリを襲う。
「どうなる事やらワックワク」
 待ち構えていると、電磁波ダメージの影響か、突っぱねるように棒立ちになり、本体をあらわにする。そこをすかさず、抜刀・瞬でナックルに持ち替え、刹那で叩き込む。
「夏子の拳はちょっぴり熱いかも!」
 拳は胴体へとめり込み、ヤドカリは芳しい匂いを漂わせ、沈黙した。
「燃えたでしょ♪」

 旅館の門前でトゥリムが無線を取出し、呼びかける。
「無事ですか? 今入口ですが、厨房はどちらですか?」
「無事も無事、下ごしらえの真っ最中さね。厨房の位置はカレーの嬢ちゃんが知ってると思うけど、平面図で言えば左上さ。退治は任せたよ」
 無事を確認すると、タンドリーチキンのレーションを開封する。
「僕が、まずいくらかおびき出すよ」
 皆がコクリと頷き、トゥリムは旅館内部へと入っていく――と、すぐさま飛び出してきた。
 その手にはタンドリーチキンはすでにない。だがヤドカリ中は確実にトゥリムを追って、続々と姿を現す。明らかに餌として認識されているのは、トゥリム本人である。
 そしてヤドカリ中が打ち止めなのを確認すると、憐、光、立花が滑り込むように旅館内部へと潜入する。
 エルガードを構え距離を詰め、小さめの個体から順に本体へクルメタルを撃ち込んでいく。
 すると大したダメージでもないのにもかかわらず、殻にこもってしまう。
 そこへすかさず電波増幅に電波増強で強化し、ダンタリオンを取り出して裕介の一撃。
「宴会!」
 強力過ぎる電磁波がヤドカリ中を覆いつくし、こんがりと何やらいい匂いを漂わせる。
「奢り! 酒! 温泉!」
 強化なしで倒せると判断し、次々と殻にこもったヤドカリを調理していく。
 なにやら自暴気味の裕介に恐れをなしたのか、どんどん殻にこもって――思う殻――いや思う壺である。
 ほとんどのヤドカリがこもってしまったので、トゥリムは小型超機械αに持ち替え、じっくりと1匹に照射して待つ。
「茹で蟹みたいになればいいなぁ」
 無口な彼女がポツリと漏らすと、言葉に怒ったのかヤドカリ中が殻から飛び出し、ハサミを一振り!
 しかし、軽やかにバックステップでかわし、クルメタルの影撃ちでズドン――それだけで簡単に沈黙する。
「恋人持ちで巨乳派ですが何か!」
 恥ずかしい告白で最後の1匹を仕留めた裕介が、無線を取り出す。
「そちらはどうだ、フラットバスト」

「誰の事だ!」
 無線越しに裕介へ問いただす立花。
「どうした、リッカ・ザ・フラットバスト? 君以外にフラットバストはいないだろう?」
「言い切った! ‥‥まあ旅館内のはとりあえず私が眠らせていますから、手が空いたら中央の池に沈めちゃってください。光さん達は左側からまっすぐ厨房向かっていますし」
 無線で話しつつ歩きながら探査の目でヤドカリ中を探し、見つけ次第、子守唄で眠らせている立花。実に子守唄の効きがよく、ヤドカリ達は簡単に眠りに陥り、なかなか起きずにいる。
「なんにせよ、思った以上に楽に済みそうですから、早く終わらせて温泉に浸かりましょう」
「フ‥‥大きくするとロクな事にはならんぞ?」
「それはム――」
「気をな」
 裕介のかみ殺す笑いに立花は口をパクパクさせる。
「しまった! ハメられた!」

「まずは女将さんの無事を確認しないとね! 君たちの相手は後でするから今は退いているのだー!」
 襲い来るヤドカリ中をさばきつつ、まっすぐに光と憐は厨房へと向かう。
 それなりに数はいるものの、大した手ごたえもなく厨房へと辿り着いた。
「‥‥ん。涼子。今厨房前だけど。無事?」
「おーう、無事も無事、仕込みの時間もたっぷりあったから、今回はあんたの胃袋に負けないよ!」
 扉越しのやり取り。だが、その効果は憐に絶大な力を与え、目を輝かせている。
 光が近くのヤドカリに菖蒲で斬りかかるが、状況の不利さを理解しているのか、すぐさま本体を引っ込めてしまう。
「物理攻撃は効果ないとして、知覚剣ならどうなのかな? まずはお試しなのだ♪」
 殻に機械剣βを刺すと、やすやすと通過する――が、殻の厚さが邪魔をして肝心の本体に届いていない。
 カラカラと庭へ続く大きな引き違いのガラス窓を開けると、庭に着地する憐。
「‥‥ん。こっち。池に。沈める」
「了解なのだ!」
 窓際で待機し、襲い来るヤドカリ中をどんどんと憐のいる池へと蹴りつける。
「ヤドカリなのに水に弱いというのも謎だけど‥‥まあ効果あるなら使わない手はないよね♪」
「‥‥ん。欠点だらけ。でも。おいしい」
 飛んできたヤドカリの殻をベオウルフで叩きつけ、水の中に沈めつつ、もがいているものを順次押さえつけていく。
 思った以上に池は広大で、2人で沈めただけでは満杯にはならず、立花が眠らせたヤドカリ中を皆で手分けして沈めていくだけで、ほぼ駆逐が完了してしまったのであった――。

 庭で池から水揚げしている少年調理師の側に、トゥリムが庭石に腰を下ろしながら眺めていた。
「この硬い殻‥‥盾とか鎧に使えないかな?」
「いや、それは無理っスよ。生きてるうちは硬いらしいッスけど、死んでると‥‥」
 スッと包丁で殻を切ってみせる。
「見ての通り、硬度はそこそこッスけど、丈夫でもないッス。まあ、調理の幅が広がるから料理人としては嬉しい限りッスけどね」
 包丁の扱いを見て目を丸くしたトゥリムが立ち上がると、ペコリと頭を下げる。
「キメラを料理しているところは是非見たいです。お願いします」
 突然の申し立てだが少年は快く承諾し、厨房へと案内するのだった。

「私はコードネームNMP(ないむねぱわー)ナイムネ同盟会長だ」
 薄暗くした部屋。三角形の顔まで隠れる黒の頭巾に、同じく黒いローブを着たナイムネ同盟会長は、縛られて正座しているミルの前に立つ。
 ついでにボマーも縛られてミルの後ろに鎮座している。
「今から『第13則。抜け駆けはしない。する場合は会長に一報する(会長の胸が成長する可能性は0のため)』を破ったため、同士ミルを異端審問にかける。何、二次元と三次元の区別がつかなくなるくらいだ」
「ま、待て同士立花! 呼ぼうにも、連絡先も連絡方法もないではないか! まさか本部に温泉行こうと言付け頼むわけにもいかないだろ?」
 半泣きに近いミルが、目をぐるぐるとまわしながらも言い訳を開始する。
「それもそうですよねぇ‥‥よかろう、今回は不問とする! じゃ温泉だ!」
 パチリ、と何か音がしたのでミルが背後を振り返ると、夏子とドライブが襖を少し開けてカメラで撮影していた。
「あっはっは♪ まぁ、お気になさらず♪」 
「そうですよ、記念撮影ですよ。ただの」
 それだけを言い残し、そそくさと2人は去っていく。

 男湯に1人、のんびりと極上の酒を飲みながら、裕介は自問していた。
「力は強弱の指標に過ぎない。長所も短所も表裏一体。『ただの人間』だからこその長所を活かし、奴等に付けこむ隙が僅かでもあるのなら、強い方が勝つとは限らない‥‥そうだろう?」
 ガラッと戸を開け、全裸のミルが姿を現す。
 しばし沈黙。
 カラカラカラ‥‥ピシャン。
 絞められた戸の向こうでは、悲痛な叫び声がする。
 見てしまった裕介も、ハイハイクマクマのノリでスルーし、何事もなかったようにちびりと酒を飲む。
(だが‥‥なるほど。普段のサイズは偽りだったわけか)

以下、都合により音声だけをお伝えします(ドライブ談)
「これが豊胸効果のある温泉♪ んふ、しっかり入って早く大きくするのだ♪」
「‥‥ん。人に。奢って。貰うのは。久しぶりなので。前回は。加減したけど。今回は。全力で。食べさせて貰うね」
「そこ! 水着はダメなのだ! ふふふん♪ 温泉でタオル装備はマナー違反なのだ♪ そんなものは没収するー♪」
「‥‥大多数の面前で、肌をさらす風習は、どうにかならないものかしらね。髪で隠せないかしら‥‥ダメね。にごり湯はあったかしらね?」
「あらー絶景絶景、かわいこちゃんの裸体だわー! お姉さん、燃えてきちゃった!」
「ひゃう‥‥籐子、触らないでくれたまえ――あらためて、久しぶりね、ミル・バーウェン。‥‥何故私を恨めしそうに見る」
「貴様‥‥同士ではなく着やせだったのか!」
「同士、温泉に期待だよ! 温泉に! ナイムネ同盟万歳!」
「あたしも、同盟に入るのだ! そしていつかはナイムネの汚名を返上なのだ!」
「‥‥会長にケンカを売るのかね。おやトゥリム――水着は禁止だぞ? それと、君も一員になるかね? ナイムネ同盟の」
「ナイムネ同盟? 失礼な、これからですよ」
「そう夢を抱いていた頃が私にもあったがな‥‥おい、カノンがなんかぐったりしてるぞ、籐子」
「あらぁ大変、介抱しなくちゃだめだわぁ♪」
「平、和だね」
「そのセリフ、聞こえたら殺されるぞ」
「聞こえているぞ、夏子よ。‥‥あとでぶっこ抜く」
「な、なにをでゲスか! 男にとって足りなくなったら困るものでゲスか!」
「足りないもの、か。いいか、りっか君。お前に足りないものは、それは――情熱・思想・理念・頭脳・気品・優雅さ・勤勉さ! そしてなによりもォォォ! バストが足りない!」
「なんでだよ! 秋月さん、飲み過ぎてるだろ!」
「あらぁたいへん、お姉さんが触って大きくして――あらぁ、触れないわ」
「やーりーづーれー! 敵は外にも内にもいる!」
「大丈夫でゲス。個人の価値は胸じゃないから‥‥ね」
「‥‥やはりあとでぶっこ抜く」

 長く温泉に浸かっていた一同が宴会場につくと、そこはすでに惨劇だった。
 覚醒状態のアンリミテッド胃袋・憐により、今にも全員分の食事が平らげられようとしている。
「‥‥ん。おかわり。まだ。いくらでも。行ける。どんどん。お願い」
「少しは加減するのだ!」
 光が突撃し、表にあったはずのヤドカリ大にかぶりつく。
「自分はキメラ料理に手を出さないので、どうぞ‥‥それにしてもりっか君」
 湯上り浴衣姿の立花(の胸を)見て、深くため息をつく裕介。
「やれやれ、一撃で萌え殺したいならせめてアハトアハトを超えてから出直して来てくれ」
「別に萌え殺す気はないよ!」
「そうです、小さいのもいいモノなのですよ」
 ドライブがフォローなのか、背中を叩く感覚で立花の胸を叩く。
「同士よ!」
「ほいきたぁ!」
 立花とミルが腕をまくり、2人のラリアットがドライブの首を挟み込み――ドライブが撃沈する。
「んーぬ‥‥やはり1番でいくでゲス。胸囲は増えたでゲスか?」
 ――2人目の犠牲者が床に転がる。
「即効性は‥‥ない」
 それだけを喉から絞り出し、落としたカメラに手を伸ばし――それをミルが踏み砕く。夏子、完全に撃沈。
 早々に食事はあきらめ、肴になりそうなものを持って壁際でちびりちびりやっていた裕介の隣に、ミルが座る。
「‥‥何か?」
「いや、先ほどの自問が聞こえてしまってね。私なりの答えを聞いてもらおうかと」
「‥‥ふむ、聞かせていただこう」
「単純な事――勝てば強いって事なんだよって、カノン、私の髪を噛むでない!」
 満足に食事にありつけていないカノンが、ミルの髪を甘噛みしてつぶやいた。
「‥‥おなか、すいた」

『我々ナイムネ同盟 終』