タイトル:早贄ってやつか‥‥マスター:楠原 日野

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/03/24 02:13

●オープニング本文


●インド南部・人口過密な小さな農村
「ほいほいっと‥‥はい、確かに現金で頂戴いたしました」
 枚数を数え、金の山を作り終えたミル・バーウェン(gz0475)が、山を崩し、入っていた布袋に詰め直す。
「こちらも確認しましたが、少々注文した数よりライフルが多いのですが‥‥」
「まあサービスですよ。注文の品が型落ちした古いヤツなんで、動作不良の可能性もありますからね。それの補填分です」
 ミルの説明に納得したのか、目の前の老人は深々と頭を下げる。
 年端もいかない少女相手といえど、老人は素直に感謝の意を表すのであった。
「まことにありがたい。これで準備が整いました」
「いえいえ、とんでもない。こちらこそ、それが商売ですから。ところで、やはりオセアニア侵攻の影響で、防衛でも固めるおつもりですか?」
 おおよその見当をつけていたミルだったが、老人の話によりその見当が間違いである事を理解したのであった――。

 バンッ!
 力いっぱい部屋の扉を開け、引きつった笑みのミルが姿を現す。
 ツカツカツカツカツカツカツカツカ、ズドン!
 グレイを、スカーを、シスターを無視し部屋の中央を突っ切るとベッドにカカトを落とす。
「おおこえー、お嬢がご立腹だ。商談でも流れたか?」
 ドッカドッカドッカドッカドン――ベッドに何度もカカトを落とし、手に持っていた布袋をグレイの顔にぶん投げる。
 片手でそれを取ろうとして、予想外の重さに威力を殺しきれず、手ごと顔面に直撃する。
「商談は成立したさ! だがヤツラは馬鹿の集まりだ!」
「どうしたのさ、お嬢」
 荒れているミルに後ろからがっちり抱きしめ、ベッドに腰掛けて膝の上に乗せる。
「こんな辺境でもオセアニア侵攻の噂で防衛意識が高まったのかなと思っていたが、ヤツラ、あんな武器でキメラ退治に行くつもりだ」
「まさか。あんな武器じゃ、ハエくらいのキメラしか退治できないスよね」
「そのまさかだ。キメラのフィールドの話とかしても、普段武器を持たない人間が武器を持った途端、神にでもなった気がしてしまう状態では聞く耳もってはくれん。なにより、被害が深刻みたいだ」
 抱き込まれたまま、腕を組む。
「どうやら梟のでっかい感じで、食事時に村人をさらいにくるみたいだね。農村で朝昼晩、外に出ていられないってのはかなり致命的だ」
「それこそ、武器買う金で依頼すればいいのにな」
 投げつけられた布袋の重さを確かめるグレイ。
「武装という概念が薄く、かつ閉鎖的農村だ。外部に頼るという発想は、なかなか至らないのだろう。それに私もそうだったが、傭兵への依頼はもっと高そうな気がするんだろ。だが――敵の状態もよくわからずに突撃する気まんまんとか、どうよ」
「色々無謀ねぇ」
「しかも、村の男達総出で行くとか、もう村全滅フラグじゃん。とりあえず、やつらは満月だと凶暴で強いから、新月まで待つべきと言っておいたが‥‥」
 脱衣所から頭を拭きながら下着姿のボマーが出てきて、もちこんだ灯油ストーブにあたる。男性がいても気にはしない。
「キメラってそんな特色あるんですか」
 ミルが肩をすくめる。
「時間稼ぎのでまかせだ。ゲームにあった設定だよ。とりあえず、ドライブに偵察に行かせたが――生きて帰ってくるよな?」

「お〜嬢のた〜めなら〜って軽くは言えないですな」
 迷彩服で原生林を慎重に進んでいくドライブ。ところどころ伐採されていて、意外と木々は密集していないので歩きやすいが、姿を隠しにくく移動に苦労をしていた。
 ましてや相手はキメラ。万が一戦う事になっても、勝つ方法はない。
「キメラである以上、目も悪くないし、見つけられたらアウト〜ってね――おや、アレは‥‥?」
 さまざまな太さ、高さの木の枝に、そこそこ大きなものが刺さっている。
 もう少しよく見ようと近づこうとした時、彼の体内で警鐘が鳴り響き、周囲に気を配り伏せた。
 木々の間をいくつかの巨大な何かがすいすいと飛び交い、木に刺さっているモノのところにホバリングする。
 それは頭から足先までが2mほどの梟っぽいキメラだった。そのキメラが、木に刺さっているモノをついばんでいる。
 息を潜め、じりじりとドライブは後退していく。
 そして、キメラがついばんでいたということで、木に刺さっていたモノが者だと理解する。
(早贄ってやつか‥‥これはいくらでも犠牲者増えるな)

「おっけーおっけー、偵察ご苦労。それだけの情報があれば、ま、なんとかしてくれるでしょ」
 ドライブからの報告を受け、ミルがさっさと立ち上がると部屋から出て行こうとする。
「お嬢、どちらに?」
「ああ――ちょっと依頼出してくるよ。私の商品のせいで無駄死にされても、評判下がるだけだからね」

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
キリル・シューキン(gb2765
20歳・♂・JG
美具・ザム・ツバイ(gc0857
18歳・♀・GD
春夏秋冬 立花(gc3009
16歳・♀・ER
煌 闇虎(gc6768
27歳・♂・DF
宇加美 煉(gc6845
28歳・♀・HD
エリーゼ・アレクシア(gc8446
14歳・♀・PN

●リプレイ本文

●インド南部・人口過密な小さな農村郊外
 煌 闇虎(gc6768)が頭をかきながら、村の方を見た。
「村人に気取られない様に先回りして敵を片付けろってか、やれやれだな‥‥」
「すでに犠牲者がかなり出ているようですから、しかたありませんよ。それにしても――」
 ふうと、エリーゼ・アレクシア(gc8446)が溜息をついて目を伏せる。
「どうしてこう、一般人の人達は死にたがりが多いんでしょうか‥‥あんまり多くて、守る気がなくなってきました」
「痛い目に合うのは良い勉強だとは思うのですがぁ」
 大きな胸をトライク状態のバハムートの上に乗せている宇加美 煉(gc6845)が、割り込む。
「命は勉強代にはちょっと高いですよねぇ」
「それもそうですが‥‥もう少し守りがいがあってもいいと思うんですけどね」
「だが、今回の目標は村人を守る事ではなぁい。キメラを退治する事だね〜」
 カロリーバーをかじる、ドクター・ウェスト(ga0241)。
「その通りじゃな。これ以上人死にが出んうちに方をつけさせてもらうとしよう」
 地図を片手に、周囲を調査していた美具・ザム・ツバイ(gc0857)と春夏秋冬 立花(gc3009)が戻ってくる。
「かといって、村の警護をしないのは不安です」
「そんなもの、小事よの。殲滅だけを考えればよい」
「ですけど‥‥!」
 言い争いになりそうなところ、終夜・無月(ga3084)が2人の間に割ってはいる。
「言い争っても仕方ないですよ‥‥そこは考え方の違いですから‥‥」
「そうだな。今必要なのはなるべく早く、確実に殲滅すること。それが村人を助ける事になるわけだ」
 ぶらっと歩いていたキリル・シューキン(gb2765)が姿を現す。
「見てきた限り、確かに急ぐにしてもこの人数でこの地形では、身を潜めて行くには時間がかかるな」
「ですねぇ。依頼者さんの情報を元に見立てたら、深夜2時出発の10時到着といったところですかぁ」
 そう言いながら、バハムートの不眠の機龍を発動させている。
「だからこうして、野営の準備をしているのであ〜る」
 高笑いをあげるウェストを袖に、憮然とした表情の立花の肩にキリルが手を置く。
「それほど肩肘を張らない事だ。我々に依頼が来ただけでも、村人にとっては運がいい方なんだからな」
(依頼主がヤツのわりに、随分と有情だがな)
 依頼主の顔を思い浮かべ、つまらなそうな顔をするキリルに立花が首をかしげ、野営の手伝いにまわる。
 そんな立花に美具は眼を光らせていた。

「こんな時間に、どこへ行くつもりじゃ。立花?」
 深夜の行軍に備え皆が寝静まった中、グループから1人離れていこうとする立花の前に、美具が立ちふさがる。その手には簀と縄が用意されている。
「よもや、村人に接触するような迂闊な事をするつもりじゃあるまいて」
 じりじりと、立花に詰め寄る。
「‥‥私はこれ以上村人に被害を出したくないんです」
 ぐっと腰を落とす。
「そんなもの、杞憂に等しいわい」
 立花の動きにあわせて、美具も構える。
「自己満足かもしれませんが、後で後悔したくないんです!」
 ダッと美具に向かって――いかず、脇の林の中へと飛び込む。村人に発見されないよう、林の暗がりをベースにしていたのが立花にとって幸いであった。
 夜の林の中で隠密潜行を使われてしまっては、美具には捜しようが無かった。
「ええい、くそ! なぜわからんのじゃ!」
「それが‥‥彼女の正義なんでしょう‥‥」
 別の暗がりから、スッと無月と闇虎が姿を現す。
「仕方ないか。行動を縛る権利は俺達にないもんな。ま、何かあれば連絡くらい入れるだろうから、美具もあまり気にしないことだな」
 一歩出遅れてまんまと立花を逃した美具は、ギリッと悔しそうに林を睨みつけるのであった――。

 夜の林を駆け抜け、村へと急ぐ立花。時刻から言えば、すでに皆、キメラの巣を目指して移動しているはずである。
「立花さん、聞こえますか?」
 無線機からエリーゼの声が聞こえた。
「単独で動くのもどうかとは思いましたが、それはともかく――村の方へキメラが行かない事を祈っておきますね。何かありましたら連絡をくださいね」
「すみません、エリーゼさん。そして、ありがとうございます」
 通信を終えると、立花は再び闇の中を動き出す。
 林を抜け、開けた牧場地に出ると周囲に人がいないかを確認しつつ慎重に歩を進め、住居の密集している地域がやっと見え始めた。
 一旦白衣を脱ぎ、地面にこすりつけて汚してから着なおすと、集落近くの葉が茂った大きな木に登り、下から見えにくく身体を固定しやすい枝に腰かける。
「杞憂であって欲しいんですがねー」
 水筒の紅茶を一口だけ含み、深呼吸すると少々目をつぶって木にもたれかかった。
(みなさん、どうかご無事で)

「まったくもって、不愉快じゃの」
 予定より早く現場周辺に到着し、現地調査をしながらも美具は愚痴っていた。
「まだ言っているのか。言っておくけど、決してどちらも間違いではないんだから、もう切り替えた方がいいぞ。」
 木に登ってワイヤートラップをしかけている闇虎に言われ、美具もそれ以上何も言わずにトラップ作りを手伝う。
 キリルは身を潜める場所を選定し、煉も同様に立ち位置を入念に選定している。
 無月とエリーゼは草などを刈り取り、戦いやすいように地形を整えていた。
 迷彩服にジャングルブーツのウェストはというと、研究者としての性か、地域環境や気候、落ちているフンや足跡などを見て回ってはメモしている――そしてふと顔を上げる。
「もうそろそろ、お昼だね〜」

「そろそろ、キメラが来るかもしれない時間ですね」
 双眼鏡を覗き込みながら、立花がつぶやく。
 昼の時間が近いというのに、村では人がまばらである。
 しかも外に出ているのは主に男で、銃を所持しているのがほとんどであった。
「‥‥あんなものじゃ効かないですけどね」
「それは私も説明したがな」
 立花の独り言に、誰かが言葉を返してきた。
 下を覗き込むと、ミル・バーウェン(gz0475)が見上げているのが確認できた。
「こちらからは確認できないが、そこにいるんだろう? 降りてきてはもらえないかね」
 ミルの要請に少々考え込み、大人しく従って木を降りてミルの前に立つ。
「発見大得意のうちの部下が教えてくれてね。何の用があって、あそこにいたのかは察しはつく。
 ――私はキメラ退治のみを依頼したはずだが? いや、別に契約違反だとか怒ったりはしないさ。興味本位ってヤツだ」
 怒っているんだかわからない笑顔のミルに、立花は経緯を話すと、ミルはたいそう感心して相槌を打つ。
「ほーほー、なるほどね。実際に私自身村人を助けるために依頼したつもりもないから、君らが村人を助ける必要はないし、私も他の者の意見に賛成だ」
「ですけど‥‥」
 スッとミルの手が、立花の言葉をさえぎる。
「まあ君の行動ももっともではある。ヤツラは食事の時間ごと――つまりは数時間間隔でくるわけだから、襲われる前に倒すのは不可能だろう。だがもし君が無断で抜けた事で、仲間が全滅したらどうするのだ? その時君1人で村人を全部救えるのかい?」
「――それでも私は、助ける事が出来たかもしれないと後悔はしたくないんです」
 立花の凛とした言葉に、ミルは肩をすくめ笑う。
「フフーン。私のナイフ使いの部下が同じ事を言って、私の下を離れていったねぇ――だが」
 言葉を続けようとしたミルに、立花が跳びかかって地面に押し倒す――そして大きな爪が空をきる。
 いつの間にかミルの背後に2mほどの大きな梟が、音も無く空中でホバリングしていた。
「むう、なんという静音性」
「もう1匹、来ます‥‥っ」
 立ち上がり、立花は凄皇弐式を構えるのだった――。

「やはりバグアはすべて倒さねばならない」
 ベースから少し離れた現場の惨状を目の当たりにしたウェストが、冷静ながらも憎悪をたぎらせ、眼球が輝き始める。
 先見の目でぐるりと見回し、梟の総数と状況を把握するとエネルギーガンを撃ち込む。
 不意の攻撃に1匹が直撃を受けた事で、梟は一斉に飛び立ち、ウェストめがけていろいろな方向から飛来する。その数11匹。
「遠きキメラは音に聞け、近きキメラは眼にも見よ!」
 眼帯の奥に青白い炎をたぎらせた美具の仁王咆哮により、3匹のキメラが美具に狙いを変えて襲い掛かる。
「強化をうけとりたまえ〜」
 走りながらウェストが練成強化を美具にほどこし、目に付いた無月、闇虎、煉、エリーゼにもほどこす。
「今度は貴方達が狩られる番ですよ‥‥」」
 長髪をたなびかせ、女性と化した無月が瞬天速で一気に木を駆け上り、跳躍して飛来する梟の前に躍り出ると、ケルベロスとジャッジメントの2連射ブリットストームを浴びせた。
 さすがに命中精度は衰えて急所こそは狙えなかったものの、確実に2発ずつ弾を喰らわせ深手を負わせる。
 そこへすかさず、電磁波が跳んでくる。煉の白鴉だ。
「焼き鳥になるが良いですよぉ」
 電磁波を喰らい落ちていく梟。注目を集めた煉に梟達が襲い掛かり、エンジェルシールドで爪を防ぐ。
「か弱い乙女に何するのですかぁ」
 煉に襲い掛かって動きの止まったところを、隠密潜行で草葉の陰に隠れていたキリルが狙撃眼併用プローンポジションのルナで次々撃墜していく。
 一方、美具に狙いを定めた梟めがけ、白い虎の頭のような衝撃波が喰らい付いた。
「油断してんじゃねーぞ! 虎咆掌!」
 両断剣を使用した衝の衝撃波を浴びせ、ひるんだところにエリーゼが瞬天速で距離を詰め、急所突きを混ぜた二連撃で屠る。
「できれば翼を切り落としたいですね」
 美具に掴みかかろうとした1匹に、距離を詰めていた闇虎。梟の爪を腕で受け、横に流す。
「お姫様に手出しさせねーぜ? ゼロ距離でくらいな!」
 側面に回りこみ、腰を落とし踏み込んで掌底を押し当てると、衝撃波が梟を突き抜ける。
「虎哮掌っ!」
 闇虎の気合一閃。そこにトドメとばかりにウェストの機械剣αが突き刺さり、絶命する。
「生命力のワリには、そこそこ死にやすいね〜」
「すまん、回復頼む。攻撃力は相当なモンだった」
 爪を受けた腕は深い傷を負っていた。
「ふむ、分析した限り力や隠密性に特化しているわけだね〜。実に研究しがいがあるよ〜。研究の為に我輩がいくらでも治療しよう〜、ダカラ痛みくらいは耐えたまえ〜!」
 目を輝かせ、練成治療を闇虎に施す。
「では治療の間、囮になるとしよう。こっちじゃ、キメラども!」
 二度目の仁王咆哮を使い、闇虎から離れると、動いている者を狙う習性があるのか、3匹どころか残りの6匹全て美具めがけて飛んで行く。
「こっちです‥‥」
 樹の上でデュランダルを抜き放ち、待機していた無月の言葉に、美具は盾で爪を弾きながらも無月の下へと向かった――と、高い位置を飛んでいた梟が不自然な形で止まった。
 あらかじめ仕掛けておいた、ワイヤートラップである。
 5匹のキメラがひっかかり、もがいている。
「今度はお主らに早贄になってもらおうかのう。村人の溜飲が少しは下るじゃろ」
 ニッと笑う。
「2匹、もらうぞ」
 潜んでいたキリルが姿を現すと、ルナで2匹を射抜く。
「残り3匹‥‥仕留めます‥‥!」
 ワイヤーの上を走り、無月のデュランダルが美しい白銀の線を描き、3匹の梟は両断される。
 残りの1匹が美具につかみかかろうとした時、逆に美具が四肢挫きで梟の動きを止めた。
「かかりおったわ、馬鹿めが」
 そこにエリーゼの鴉羽が、翼を切り落とす。
 悲鳴をあげ地面に転がった梟に、煉が近寄ると白鴉を構える。
「これで終わりですよぉ」

「なんとか、守りきりましたね‥‥」
 自ら矢面に立ち、ボロボロになりながらも村人への被害をなんとか出さずにすんだ立花。自らに練成治療を施し、無線機を取り出す。
「エリーゼさん、聞こえますか? こちらに2匹出現、森へと逃げていきましたので、あとはお願いいたします」
 無線機をしまい、ふうと複雑な思いの詰まった溜息を吐き出す。
 周囲を見回すと、ミルが近くに居て、武器を持った村人たちが集まりつつある。被害が出ずに撃退できた事で、攻め時が今と勘違いしているのだ。
 追いかけようとする男の前に、立ちふさがる。
「邪魔するのか!」
「貴方達ではキメラに勝てませんもの。キメラの脅威も知らないでしょう。そんなものでは無駄という事を――その銃で私を撃ってみてください」
 立花の提案に、村人は怖気づき、誰一人立花に銃を向けれないでいる――と、ミルが無言で近づき、スッと拳銃を取りだすと立花の胸に当てて顔色1つ変えずに、発砲。村人から悲鳴が上がる。
 しかし平然としている立花を前に、村人はさらに動揺をみせる。
「諸君らに売ったものはコレよりは確かに威力はあるが、大差は無い。見ての通り、能力者の小娘1人、倒す事もできんのだ」
「そうです。そしてキメラは私より強いんです。私1人どうこうできないなら、死ぬだけですよ?」
 ミルと立花の言葉と現実に、村人達はガックリ肩を落とし、力なく次々に武器を落とすと、へたり込んでしまう。
「大丈夫です。今頃私の仲間達が、退治してくれてますから――それとまぁ、自衛の為には悪くないですがね。武器を持つ事も」
 村人の落とした銃を拾い上げ、村人に差し出し――そしてふと思い出す。
「そういえば、だがの後聞けていませんでしたね」
「ああ‥‥だがまあ、そういう考えも私は好きだよ。このご時世、私みたいなのが忘れてしまったその感情、大事にするがいいさ」
「‥‥はい」
(それに、同士の気配がするしね)
 そっと自分の胸を確かめる、ミルであった――。

「ちゃんと掴まらないと落ちるのですよぉ? 胸以外に掴まるのなら気にしないのですけどねぇ?」
 立花の連絡を受け、現場へと急行するために煉がバハムートを走らせる。その後部に闇虎が後ろ向きで座っている。
(非常に残念だが、色々と問題があるからな‥‥)
 目を閉じ、ほんの少し揺らいだ冷静さを取り戻す。
「いましたねぇ」
 低空飛行の梟を発見し、闇虎がバハムートから進行方向と逆のまま飛び降り、ステュムの爪で地面をえぐり身体を固定させ、反転する。
 闇虎が飛び降りると同時に、バハムートを装着した煉が竜の翼で梟へと詰め寄ると、闇虎めがけて蹴りつけた。
 鋭く息を吐き出す、闇虎。
「喰らえ! 白虎連爪・咆哮掌っ!」
 2匹まとめ、爪で2連蹴りに『虎咆掌』そして背後に回り『虎哮掌』を叩き込み、この戦いに終止符を打ったのであった――。

 残っていた傭兵達は遺体を樹から下ろし、シートで包んで並べていた、
「間に合わなくてすまない」
 手を合わせて神妙な面持ちのウェストの後ろ、エリーゼから無線機を借りていた美具が口を開く。
「‥‥すまなかったの、立花。おぬしのお陰じゃ」
「こちらこそ、すみませんでした‥‥皆さんご無事でなによりです」

『 早贄ってやつか‥‥ 終』