タイトル:りずっち、だいえっと4マスター:楠原 日野

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/04/29 23:32

●オープニング本文


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●どこかの戦場
「すべてのキメラはわたしがぁ――!」
 金髪の少女が大きな声で叫ぶと、ゴトリと糸が切れた人形のように崩れ落ち、彼女は二度と目を覚ますことがなかった――。

●メイの部屋
 ガバッ!
 深夜、突如としてメイ・ニールセン(gz0477)が跳ね起きる。
 汗はかいていないが――色々と気分が悪かった。
「‥‥また、同じような夢ね」
 薄い毛布を剥ぎ取り、素足で冷たいコンクリートの床に立ち上がると、ベッドしか置いていないモルタル作りの部屋から脱衣場に移動し、シャツとパンツを脱ぐとシャワールームへ。
 シャワーを頭から浴び、普段結んでいる髪が垂れ下がって顔に張り付くが、そんな事も気にもかけず、彼女は壁に額を押し当てて目をつぶっていた。
 脳裏には、先ほど見た夢の結末がこびりついている。
「あの娘には――戦場を知らないでいて欲しいのに‥‥!」
 お湯が頬を伝って、シャワーの音が彼女の言葉をかき消すのだった――。

●ブリーフィングルーム・休憩時間
「‥‥ごめんなさいね、集まってもらっちゃって」
 いつもの彼女らしくない様子に、傭兵達が怪訝な表情をする。
 だが一部の傭兵には、彼女の苦悩が何となく理解できた。
「リズっちのダイエットは、ほぼ完了していると思われるわ。あとはあの子が十分動けて『これで満足』って思えればいいんでしょうけど‥‥」
 ふうと溜息をついて、1つの依頼書を掲げる。
「ここに、インド南部の村へオペレーターを派遣し、UPCやULT、依頼の出し方などを説明しに行くんだけど、騒音等により家畜への影響があるからと、だいぶ手前から徒歩になっちゃうんでそのオペレーターの護衛依頼があるのよ。
 これに今では『傭兵希望』の意思があるリズっちが行くから、これに便乗してもらえばいいんだけどさ――でもこの依頼は報酬が少ないのよね。当然だけど」
「あの子が傭兵希望?」
 1人の事情を全く知らぬ傭兵から言葉が漏れる。
 ゆっくりと首を縦に振るメイ。
「そうよ。結構前から適性は見つかっていたみたいで、それで悩んでいたみたいなの。能力者になるかならないかで。
 あの子自身、これまで傭兵に助けられて憧れを抱いてはいたけど、なってしまえばもちろん戦場に立つだろうから、父親に心配をかけたくないとかそこ辺の理由で躊躇してたんでしょうね――けど」
 右手で表情を隠すが、苦悩している様子がみてとれる。
「人の役に立ちたいという想いが勝ってしまったのね‥‥誰が見ても戦場向きに見えないから、傭兵体験のためにサポート役として本部がこの依頼を出したのよ。傭兵として本当にやっていけるかを、考えさせるためにね」
 戦場向きに見えないという件で、うんうんと頷く傭兵が多数。
「でもあの子、根本は結構激しい性格してるのよ――あとおおっぴらに言っちゃいけないんだけど、本部としては軍を勧めてるみたいで、そっちもまんざらでないらしいのよ。より多くの人を救える可能性があるってところに、魅力を感じるんでしょうけど‥‥でも」
 バッとメイが頭を下げる。
「こういうのは本人が決める事なんでしょうけど、あたしからお願いするわ――あの子にオペレータのままでいるよう、説得して下さい」
 頭を下げたまま、彼女は続ける。
「人々を救いたいという彼女の気持ちもわかるけど、それでもあたしは‥‥あの子には戦場を知らず、帰るべきところに居てほしいの。お願いします」

●参加者一覧

須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
クレミア・ストレイカー(gb7450
27歳・♀・JG
荊信(gc3542
31歳・♂・GD
宇加美 煉(gc6845
28歳・♀・HD

●リプレイ本文

●ブリーフィングルーム・休憩時間
 メイ・ニールセン(gz0477)の願いを聞き入れた傭兵が、その場に残った。
 須佐 武流(ga1461)、終夜・無月(ga3084)、辰巳 空(ga4698)、クレミア・ストレイカー(gb7450)、荊信(gc3542)、宇加美 煉(gc6845)の6名である。
「わかりましたが‥‥最終的には本人次第ですけどね‥‥」
 無月が立ち上がると、煙草をもみ消して荊信も立ち上がる。
「そうだな。話してはみるが、なにぶん頑固な嬢ちゃんだからな。俺も軍や傭兵は向いてるとは思えねぇが、リズが選ぶなら仕方無ぇ」
「それでも能力者になったリスクは彼女には重すぎるでしょうから、善処しましょう」
 空がリズのカルテをめくり、ギシッと椅子に深く腰を掛け直す。
「リスクを受け入れる覚悟はあるのかしらね。そもそも、リスクに気づいてないかもね。リズだし」
 頭の後ろで手を組んで、背もたれによしかかるクレミア。より一層豊満な胸が強調される。
「それもそうですねぇ。リズさんですもんねぇ。メイさんは、リスクを教えたんですかぁ?」
 重いと言わんばかりにデスクに胸を乗せて煉がメイに問いかけると、メイは少し伏し目がちになる。
 明朗軽快な彼女も、ことリズに関してはいつも勝手が違う。
「あたしは‥‥まだリズとちゃんと話せてないのよ。だいえっと始めたあたりのケンカを引きずってて、ね」
 煉がすっと目を細め、メイの表情をじっと観察して溜息をつく。
「お互い、後悔しても知りませんよぉ」
「わかってはいるけどさ‥‥きっかけも、ね。あたしから説得したいのも、やまやまなんだけどさ」
 肩をすくめるメイ。
「お前が――」
 目をつぶって腕組みをしていた武流が、突如口を開く。
「リズを傭兵にしたくないって事はよくわかる。俺も正直、あいつに向いていないだろうと思うところがないわけじゃない。だが‥‥」
 片目を開け、睨むような視線を向け、続けた。
「その希望は100%叶えられる保証はしない。リズにとってそれが後悔ない生き方かどうかはわからないし、やめさせる事がお前さんの一方的な意見だって事だ」
「それはわかってるわ、須佐。一方的なエゴだって事も、理解している――だけどあたしはそれでも、あの娘には血まみれの世界に、踏み込んでほしくないのよ。せっかく知らずに育ったなら、知らないまま生きた方が幸せに決まってるわ」
 メイの独白を、皆黙って聞いている。
「‥‥もっと明確な理由はないのか? そもそも、なぜそこまでリズにこだわる。お前さんは」
 武流の質問に、メイは悩み、考え――そして口を開いた。
「リズはあたしの――大事な妹だからよ」

●インド南部・目的の村へと続く道
 血はつながってないけど、あの子が物心つく前に生き別れちゃってさ、あの子は知らないだろうけど‥‥それでもあたしの家族は姉と妹、その2人だけよ――。
「どうしたんですか、須佐さん」
 出発前のメイの話を思い出していた武流の顔を、野営の準備をしていたリズ=マッケネン(gz0466)が覗き込む。
「‥‥いや、なんでもない」
(理由を伝えるわけにもいかん、か)
 武流が頭を振ると、リズは首をかしげながらも野営の準備に戻る。
 傭兵達は皆、野営の準備をリズに任せ、周囲を警戒しつつ様子を眺めていたが、思ったよりもテキパキと動いている。これまで培ってきたダイエットの効果だろう。
 リズの身体は十二分に引き締まっていて、前よりも多少胸にボリュームが出ている。
「前よりもさらに線が引き締まってるわね。完成度も高いし‥‥」
 引き寄せられるようにふらふら〜っと、クレミアがリズを背後から抱きしめては胸に挟めてぐりぐりと押し付けるように抱きしめる。
「抱き心地も進化しているわ!」
「もう、やめてくださいよクレミアさん。仕事できないじゃないですか」
 もっともな反論にクレミアが言葉に詰まり、少し寂しげな顔をして離れる。
「‥‥すっかり余裕な反応ね。お姉さん、少し寂しいわ」
「傭兵になるんですから、それくらいで動じてはいられませんよ‥‥まあ、まだちょっと悩んでますけどね」
「決めるのは貴女だ‥‥と、ただ放り投げたりはしませんよ‥‥但し、自分の進む道を本当の最期に決めるのは‥‥自分自身である事は頭に入れておいてください‥‥」
「わかってますよ、無月さん」
 本当に分かっているのかは怪しいが、しゃがんで焚火の準備を開始する――と。
「お客さんのお出ましだ」
 荊信の言葉に、薄暗い森の中から犬型キメラがぱらぱらと姿を現す。
 各自戦闘態勢に入ろうとすると、武流がそれを手で制し、リズにクイッとキメラを顎でさし示す。
「お前、あのキメラを見てどう思う? 立ち向かえるか?」
「そ、それはちょっと‥‥」
「‥‥ま、今はできなくてもそのうちできるようになるだろうとは思うけどな。だが話に聞くと、メイは生身で向かった事があるんじゃないか?」
 メイの名前にピクリと反応して、表情を硬くする。
「1人で十分?」
 クレミアが武流に尋ねると、返事の代わりに皮膚が銀、赤、青3色の装甲状に変化させ、スコルとミスティックTの電磁波を拳にまとい、キメラへと突撃する。
「‥‥ま、こんなキメラ、俺1人で十分なレベルだからな」
 その言葉通りに、武流の蹴り1つ、拳1つで1匹ずつ屠っていく。その圧倒ぶりにリズは目を輝かせていた。
 リズのその様子を、煉は観察している。キメラへの感情の変化を見逃さないためにも。
「さすが、すごい人です‥‥!」
「たいしたことはないとは思うが‥‥ここにいる連中なら、1人でこれくらい退治できる奴らばかりだぞ」
 最後の1匹を屠り、ゆっくりと戻ってくる。
「実際、傭兵になるとこんなの目じゃないレベルの相手とも相対する必要も出る。そしてそうすると負傷は当然、最悪死の危険も出てくる‥‥それでもできるか?」
 武流のまっすぐな言葉に、リズはまっすぐに見つめて返す。
「覚悟は、できているつもりです。人のために自分の命を懸ける覚悟が」
「はっきり言う」
 戦闘が始まると同時に煙草を吹かしていた荊信が、割って入った。
「今のお前は恵まれている。もしお前が、自分に関わりの無い何処かの誰かの不幸な話で落ち込んでも、ソイツは意味の無ぇ感傷だ」
 紫煙を吐き出し、続ける。
「人間、遠い世界の話には関われねぇ。不幸な奴も居れば、幸せな奴も居る。その不平等は変わらねぇ。自分の幸せが何かを犠牲にして成り立っているなら、それを甘受しねぇでどうする? その矛盾と醜さに向き合っていくのが、真っ当な人間ってモンさ」
「そうですよぉ。人を救うのは良い事だと思うのですがぁ‥‥直接、その場所に行って、自らの手で助けなければ満足できませんかぁ?」
 戦闘はもうないと判断し、バハムートをトライク状態にした煉まで口をはさむ。
「傭兵になって身ひとつで飛び回って助けられる人数よりも、オペレータのまま私達を助ける事で、多くの人数を助けることができる――そう考えるのは気休めにしかならないでしょうかぁ?」
 無言のリズは何を考えるのか――傭兵達にはわからないが、それでも各々が心情を語りだす。
「そう、確かに人を救うのは立派。でもね‥‥傭兵になるという事は、必ずしもそういう理由だけでは当てはまらない‥‥。それと引き換えに多くのリスクを受け入れる覚悟はあるの?」
「リスクへの覚悟、ですか」
「そうよ。例えばバグアによって家族や友人を殺されて傭兵になった者はまだいいとしても、中には私利私欲のために傭兵になった者だっている。様々な経緯から、目的や思惑が入り込んでいるのよ。
 もしもこの先、全てのバグアが地球から消え去って戦いが集結した時、エミタの力を得た傭兵の存在はおそらく一般人の目には恐怖に映るかもしれない。しかも、その能力を悪用しようとする奴等が出現しないという保証もない‥‥ちょっと脱線しちゃったわね」
 コホンと咳払いし、リズに向き直る。
「帰るべきところがあるんだから、オペレーターのままで留まってもいいんじゃない? 傭兵でも軍でもなく、何も、戦地に赴かなくても人を助けられる事はきっとある筈よ。だから結局は薄汚れてちゃいけないのよ」
 クレミアが意味ありげに荊信に視線を向けると、荊信が鼻で笑い、吸殻を火のついていない焚火に捨てる。
「ハンッ、そうだ。人間なんざ自分しか救えねぇ――いや、それすらも怪しいもんだ。他人の為に他人を救おうなんて綺麗事じゃ何も救えねぇ。まずはどうでもいい誰かより自分を大切にしろ」
 もう一本煙草を取出し、火をつけて一息。
「‥‥ロクでも無い世界に生きてきた俺みたいな連中にはな、同情や憐憫なんてなぁ余計なお世話だし、迷惑なんだ。
 それに人ってのはそんなに綺麗なモンじゃねぇ‥‥タダで救われてりゃ、それが当然と思う様になる。助けることで腐るヤツもいるんだよ」
 チリチリと、煙草が音を立てる。自虐的な男の煙草の火に、リズはじっと見とれていた。
「それでもまだ他人を救いたいと思うなら、自分の為に笑って救いに行ってやれ」
 クシッと火の付いた煙草を折り曲げ、焚火に捨てると背を向けて先へと進んでいく。
「ま、俺が言えるのはこれだけだ。後は自分で決めろ‥‥汚れた男は、少し掃除してくるぜ」
 汚れながらも強く、たくましいその背中にかける言葉がリズには見つからず、クレミアの言葉を反芻しながらただ黙って送り出すしかなかった――。

 煉は夜更かしは美容によくないのですよぉと言って、不眠の機龍でバハムートに寝ずの番をさせ、一足先に就寝していた。朝まで起きる気配はない。
 クレミア、荊信、武流の3人と見張りを交代したリズ、無月、空が、周囲を警戒していた。本来は起きている3人のうち1人も、短時間ながらも休息を取るのだが‥‥誰も横になろうとはしない。
「まず最初に言います‥‥能力者は人間と呼べません‥‥」
 深夜、焚火を前に無月がポツリともらす。
「否定の声も挙がるでしょうが‥‥事実です‥‥」
 女性の姿だった無月が男性の姿になり、近くの石を拾って力を込める――それだけで簡単に石は砕け散る。
 再び女性の姿に変化すると、砕けた石の破片を拾って、親指と人差し指で挟み――まるで力を込めたようには見えないのに、菓子のごとく軽く砕けた。
「覚醒状態が能力者の最強の状態ですが‥‥エミタは適合者の肉体を成長と共に変え、強化して行きます‥‥まあ‥‥私の身体は傭兵の中でもかなり特異な方では在りますが‥‥」
 フッと寂しげに無月が苦笑してみせる。
「人とは、呼べませんよ‥‥」
「そうですね。能力者になるという事は自らの意思で『ほぼキメラになる事』――そう考えています。極論ですが、それが私が今迄の戦いで得た結論であり、そういう道に他者を導く事はできません」
 同じく焚火の前で座っていた空も、そんなことをつぶやいた。
「勿論‥‥私は望んで此処まで来ましたので後悔はしてませんけどね‥‥でも‥‥少し力を込めて触れただけで他者の灯火(いのち)を消し去る‥‥護りたいと想う人達の灯火を‥‥」
 少し寂しそうに自分の手を眺め、ぎゅっと握りしめる。
「そんな思いを私以外にはして欲しくありません‥‥」
「それは私も同じ思いです。先ほどクレミアさんや荊信さんも言っていましたが、私達は汚れているんです。前に出れば、自らの手を血に染めざるを得ない‥‥キメラだけでなく、元人間をも手にかける事さえあります」
 空の顔には、医学を学ぶ人間の苦悩が現れている。
「そして戦争が終われば、一般人はバグアを見るかのように私達を見る事でしょう。それほど、能力者になるリスクは重いのです」
 パチンと、焚火が弾ける。揺れる炎が、3人をぼんやりと照らす。
「――それに今は戦争初期ほど能力者が求められている訳でもなく、練力やメンテナンスの関係上、普通の人間より時間的制約がきついので、オペレーターは生命線でもあります。ですからリズさんは今まで通りの仕事を頑張って貰いたい、それが本音です」
 薄暗く照らされた笑顔をリズに見せる。
「私たち傭兵の一番役に立つ‥‥それでは不満ですか?」
 ぶんぶんと、子供のようにリズは頭を振っては、泣きそうな表情をする。
「そうですね‥‥私達は汚れ役です‥‥時には一般人を殺めざるを得ない‥‥正義だなんだと並べ立てることはできますが‥‥汚れなければいけない‥‥その覚悟が必要です。それに‥‥もう1年もしないうちに、この戦いは終わるでしょう‥‥」
 目を閉じ、宿敵を思い浮かべてしまったが振り払ってから、告げた。
「ですから私はハッキリ言います‥‥リズ‥‥貴女は貴女のままでいて下さい‥‥最初に言った事の上でね‥‥」
 リズに微笑むと、無月は剣を抱きかかえて男の姿で横になるのだった。
 残された2人。リズに至っては立てた膝に顔をうずめ、細くなった肩を震わせていた。
 ほうっと空は息を吐き出し、重い空気を振り払うようにカルテを取り出すと、努めて明るい声を出す。
「もはや完了と呼んでいいでしょうが、継続できてストレス解消できるメニューを今回お渡しします。食への感謝を忘れず、あまり頑張り過ぎずに日常生活を見直せば、ダイエットは完了ですね」
 これにて、ダイエット博士・辰巳 空の仕事は完了したのであった――。

●兵舎・食堂
 つつがなく依頼を終わらせ、リズもオペレーターに戻る事が決まり、やれやれ一安心と6人は談笑していると――煉が立ち上がる。
「ところですけどぉ、メイさんとリズさんの事で皆さんにご協力してほしいんですがぁ――」

●ブリーフィングルーム・休憩時間
「あら、1人だけ?」
 顔を出したメイが椅子に腰を掛ける誰かの背に声をかけると、座っている人物がメイの方を向いた。
「リ、リズっち‥‥」
「聞きましたよ、メイさん。私のダイエットや悩みのために、傭兵さんに依頼出していたそうですね」
 怒ったような表情から、かろうじて自分が姉であることはバレていない事に安堵する。
 立ち上がり、メイに詰め寄ると――頭を下げる。
「心配をおかけしてすみませんでした。私、迷惑かけてばっかりですね‥‥」
 伏し目がちのリズを、そっとメイは抱きしめる。
「いいのよ。あたしらみたいのにはリズくらいのがちょうどいいの――だからリズはこのままでいて。そして――あたしの帰る場所になって頂戴」
「え‥‥?」
 意味が分からず、顔を上げるリズ。廊下で聞いていた一同すらも、思わずメイの顔を見た。
「あたし、能力者になって傭兵に戻るわ」
「そんなのって――」
 リズの反論を強く抱きしめ、言わせない。
「暴力教会の殲滅姉妹は、戦いにこそ生きがいを感じるのよ――それに」
 チラッと後ろの扉に目を向ける。
「あたしがリズの側にいなくても、リズを守ってくれる人はたくさんいるってわかったからさ。だからあたしは――リズがなりたかった剣となるわ」

『りずっちだいえっと、4 終』