タイトル:りずっち、だいえっと2マスター:楠原 日野

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/03/30 05:13

●オープニング本文


前回のリプレイを見る


●安全が確保された山
 息を切らせつつ、体中のあらゆる箇所をフル稼働させ、あまり整備されているとは言いがたい山道をリズ=マッケネン(gz0466)は行く。
 汗を滴らせ、岩に手を掛け足掛け、汗でぺったりと張り付いてまとわりつくシャツなど気にもしていられない。
 不釣合いなほど大きなその背のリュックには、ボトル容器に入った水が数本入っている。
 かつてのぽっちゃりとは変わって、標準よりまだやや多いものの十二分に身体は引き締まってきていた。
 最後の岩棚を登りきると、ハアハアと息を切らせ、太陽に向かって拳を振り上げガッツポーズをとって叫ぶ。
「がっおぉぉぉぉー!」
 そんなリズの様子を少し離れた岩場の陰から、メイ・ニールセン(gz0477)が見ながら溜息をつく。
「がおーじゃないわよ‥‥」

●オペレータールーム・仕事中
「はい――はい、ではそのように承りました」
 通信を切って、いまだ絶交が解けないでいるリズの様子を盗み見る。
 しげしげと、モニターに映し出されている依頼一覧を見てはふうと溜息をつき、目を閉じて宙を見上げてはぼんやりとしている。
 傭兵の勧めで、休日にはだいえっとと称したただの身体的トレーニングをしているリズ。
 当初の目的であるだいえっとは、痩せるというより、引き締まってきているので多少主旨違いとはいえ、概ね成功しているとは言えるものの、そのせいで眠いのかもしれない。
 ここ最近うたた寝が多くて、それとなくは起こしているものの、周囲に注意される事もあるのであまりいい傾向とは言いがたい。
 ただ、それとは別の理由のような気がしてならなかった――いや、それも何かしら関係があるのかもしれない。
 近頃のリズはジョギングの時以上に乗り気で、体力や筋力強化のトレーニングに励んでいる。太りにくい身体作りの為かとも思ったが、時折見せる彼女の思いつめた表情などから、何かしらの根があるに違いなかった。
(そういえばあの子の間食の原因はストレスって、傭兵兼医者の診断をもらったっけね。本人はあたしのスキンシップのせいにしてたって言ってたけど、違う理由な気がするってあの子の姉的友人が言ってたけど‥‥。探ってもらうしかないかしらね)

●ブリーフィングルーム
「さてさて、第2回リズっちだいえっとおぺれーしょんを始めたいと思います」
 またもメイは、昼の休憩中に傭兵を集めていた。
「今回は悪いけど、まるっきり戦闘のない依頼になるんだけど――依頼というか、お願いというか――まあ、調査よね」
 ホワイトボードに3枚の写真が張り出される。
 太る前のリズの写真、太ったリズの写真、現在のリズの写真の3枚だ。
「まず一点。
 知っての通り我がマスコットオペレーター『リズっち』がだいえっとしてるわけだけど、あの子が太ったそもそもの原因が『ストレス』による間食の増加と判明したのよ。
 問題なのはその『ストレス』が解決しない事には、恐らく無駄になったりすると思うのよね。まあ、何を悩んでいるのかってのも気になったわけだけど。
 単純な話、あの子の『ストレス』の元である悩みを何とか聞きだしてほしいの。依頼内容や傭兵を見て溜息とかついてるから、傭兵か依頼に関わる何かだろうから、傭兵のほうが探りやすそうなのよね――というか、あたしはまだ絶交解けてないし‥‥」
 ふうと、短く吐き出す。
「二点目。
 確かに急速に肉が取れていくのはいいんだけど、仕事中にうたた寝してることから、たぶん休日の運動がちょっとだけ過度なみたいね。仕事に支障が出るのはあの子にとってもいい事ではないから、やめろとは言わないものの、身の丈にあったレベルで調整してもらえるように説得してくれないかしら」
 メイのまさしく『お願い』レベルの依頼に、さっと傭兵が手を上げる。
「そんなので報酬出るんですか」
 もっともな質問に、メイはピッと1枚の写真を取り出す。
 写真には長い銀髪の不敵に笑う少女が写っていた。
「おもしろおかしい依頼は、こちらのスポンサー様が出してくれるわ。報告書とかにして提出しなきゃなんないけど、かわりに結構な額の経費は出してもらえるから、いろんな策を講じてもらっても大丈夫――おっともう時間ね。方法は任せるから後は宜しく!
 今回も聞きたい事があったら、あたしに聞いてね。もちろん依頼は秘密厳守だから、前触れもなく核心に迫った質問しても不審に思われるっていうか、そういう所はあの子鋭いから、聞きだせる状況をうまく作ってね、じゃ!」

●参加者一覧

須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
荊信(gc3542
31歳・♂・GD
明神坂 アリス(gc6119
15歳・♀・ST
宇加美 煉(gc6845
28歳・♀・HD

●リプレイ本文

●安全が確保された山
「急ぐ依頼もありませんので‥‥今日は顔出しだけでなく、ご一緒します‥‥」
 女体化した身体をほぐし、胸元を大きく開けたトレーニングジャケットに身を包んだ終夜・無月(ga3084)が、リズ=マッケネン(gz0466)に告げた。
「僕も今日はよろしくー」
 比較的軽装な明神坂 アリス(gc6119)も、軽いストレッチで身体をほぐす。
「よろしくお願いします。無月さん、アリスさん」
 額に汗を浮かべ、入念に準備体操やストレッチをしているリズの姿は、それだけで十分に軽い運動の領域であった。
(ストレス等の話は聞いていましたが‥‥心理学の観点からつついてみますか‥‥)
「走りながらでいいので‥‥簡単な質問してもよろしいでしょうか‥‥?」
「大丈夫ですよ。それも訓練になると思いますので」
 走り始めるリズにあわせ、無月も走り始める――と、リズはちらちらっと無月の足元に興味津々である。
 無月の走った跡には窪みが出来上がっていて、その足には鉄下駄というとんでもないモノを履いているワリに、平然と走っているのだ。
「私の真似は駄目ですよ‥‥」
 たしなめるように、苦笑してみせる。
「では‥‥怒りを感じる事は?」
「自分に怒りを感じますね」
「精神的に落ち込む事は?」
「無力さに落ち込んだ事もあります」
「憂鬱に思う事は?」
「気が重い、ということはないですね」
「仕事に集中して取り組む事は?」
「‥‥最近は集中が足りてません」
「精神的にショックを受ける事は?」
「最近は、わりとショックは受けてないと思います」
「やるべき事があるのに手がつかない事は?」
「あります。不安で、仕事が手に付かない時が多々」
 いくつかの質問をしながらも、岩だらけの急な坂道も石に手を掛け、登っていく。
 汗だくになっているリズだが、質問の間、無月は一切手も使わず、鉄下駄のままだというのに息が切れる事すらなかった。
 坂道を先に駆け上がり、話を整理する。
(傭兵の戦いやメイさんの傷を見て‥‥無力感や焦燥感を感じていたみたいですね‥‥そして今以上の何かをしたくて、鍛えているといったところでしょうか‥‥)
 覚醒状態ではないにしても傭兵だけあって、しっかりと無月と同じペースを維持していたアリスが、少々息を整えながら無月にそっと耳打ちする。
「どうも最近、ダイエットより体を鍛える事が目的になってきているよーな?
 僕の勝手な推測だけど、ここしばらくリズはキメラ絡みで結構危ない目にあってる事が多くて、そのたびに僕らが助けて事なきを得てるわけだけど‥‥その事で迷惑かけたくない、強くなりたいって願望があったりするのかな」
 アリスの話と自分の推測が合致した無月がうなずき、坂道を登っているリズに目を向ける。
(あとは何をしたいかですが‥‥それは任せるとしますか‥‥そうなると)
 リズが坂道を登りきったところで、突如ガサガサっと脇の茂みが音を立てた。
 驚いたのはリズだけで、人の気配を感じていた無月やアリスは驚かずに顔を向ける。
「熊でもいたら捕まえて鍋にでもしようかと思っていたのですがぁ」
 のへらんと首をかしげた宇加美 煉(gc6845)が茂みから姿を現す。
 柔和な笑みを浮かべ、リズの顔を覗き込むようにじっと凝視していると、リズが照れて顔を背ける。
「じっと見られると、照れますよ」
「かわいらしい子を見るのは目の保養なのですよぉ」
 顔をそむけつつも煉を見ているリズの目をじーっと見つめていると、チラチラと煉の身体を――身体のラインを見ているのがわかる。
 リズがほうっ‥‥と溜息をつくので察した煉が、口に手をあてて艶っぽく笑う。
「ダイエットとか気にする人は色々大変なのですねぇ? 1人だと寂しいので着いていって良いでしょうかぁ?」
「‥‥構いませんよ。私にとっても目標が身近にあって、やる気がアップしますからね」
 煉の言い方に引っかかったのか、ふつふつと闘志を燃やすリズ。
 そんなリズをよそに、無月がアリスだけにそっと伝える。
「アリスさん、俺は他の方にこの情報を伝えますので‥‥彼女の観察を任せました‥‥」
「らじゃー」
 無月が今登ってきた坂道を降り始める。
「すみません‥‥用事がありましたので、先に失礼します‥‥」
「はい、お疲れ様でしたー」

●オペレータールーム
「あー。かなり眠そうっていうか、もう眠る寸前だね」
 そっと扉のスリットガラスから、リズの様子を眺めていたアリスがつぶやく。
「そんなにキツイモンだったのか? アリスの嬢ちゃんよぉ」
 アリスの頭の上から同じく眺めていた荊信(gc3542)の言葉に、アリスが頷いた。
「ちょっと前までろくに運動しなかった人間からすれば、かなりなものだよ」
(ダイエットはいいけど、それで本業に影響が出ちゃダメだよなぁ。ダイエット成功した代償に仕事クビになりましたってんじゃ笑い話にもならないし)
 姉的立場のアリスは、目を閉じてふうと息をつく。
「んじゃま、俺は悩みの指針となりうるものを感じさせるとするかね」
 キイっとオペレータールームに荊信は入っていくと、わざわざ大きな声で愚痴をこぼすフリをする。
「いや、まいったねぇ。ここ最近はイマイチな仕事ばっかりで、やりがいも張り合いもねぇよ」
 注目を集めつつ、ずんずんと室内を進み、リズの背中を力強く叩き、起きたのを確認してから声をかける。
「よう、リズの嬢ちゃん。その様子じゃぁ、一応は減ってるようだな」
「‥‥おはようございます、荊信さん」
 多少寝ぼけている気配はするものの、何とか目を覚ましたリズ。
「ところで何か面白ぇ仕事でも無ぇか? 最近はしょぼくてよ」
「荊信さん、もう少し声を落としてもらえませんか‥‥?」
 周囲に目を配り、ストップをかけるように両手を突き出す。
「あ、騒がせちまったようだな‥‥いや、スマンスマン」
 周りに謝りつつもその声も大きくて、苦い顔をするオペレータがチラホラいる。
「ま、そういう訳だから、悪ぃが、ちょいと外で面白い依頼でも無ぇか聞かせてくれ。茶ぐらいは奢ってやるから――」
 苦笑いを浮かべ、続ける。
「流石の俺でもここで続ける訳にゃあいかんだろ‥‥?」

●喫茶バルーンアート
 煙草をふかし、一息ついてから荊信が切り出す。
「目ぇ覚めたかよ。このままなら賭けはお前さんの勝ちだが‥‥仕事場であのザマじゃ、試合に勝って勝負に負けるようなモンだぞ?」
「‥‥わかってましたか。スミマセン」
 居眠りについて初めて釘を刺されたリズは、素直に頭を下げる。
「聞けば前日のトレーニングの影響らしいじゃねぇか。
 トレーニングはおおいに結構だが――しかし、そこまでしてやる程の勝負でも無ぇだろ? それとも、他にそうせにゃぁならん訳でもあるのか?」
「それは‥‥」
 紅茶を手に、黙ってうつむいてしまう。
 その様子に荊信は頭をかいて、イスにもたれかかる。
「ま、話したくなけりゃ言わんでも構わんが、相談くらいはのってやれるぜ」
「――私、やろうかどうしようか迷っている事がありまして‥‥どちらにしてもそのためには体重は落とすべきだし、鍛えた方がいいなと思ってるんです」
 紅茶の表面が揺れる。
 リズを観察していた荊信だが、迷っている内容は聞き出せないと見て、言葉をつむぐ。
「悩み事に対して努力する――価値観は人それぞれだし、間違っちゃいねぇがよ、社会に属する人間が仕事に影響及ぼしてまでするのは、いただけねぇんじゃねぇか?」
 コーヒーを一口。
「俺はこう思うが、お前さんはお前さんの思うようにやったらいいさ。
 俺も馬鹿と言われる真似をした事はある。そこまでいっちまったら、他人がどうこう言う領分でもない――自分で決めて自分で背負う、それ以上でもそれ以下でもないさ」
 飲み干して伝票を手に、立ち上がる。
「ま、必要があれば言えばいいさ。その時は手を貸してやるよ」
 黙り込んだままのリズを1人残し、店を出る。
 店の角を曲がると、そこに須佐 武流(ga1461)と辰巳 空(ga4698)が立っていた。
「よう、ごくろうさん。相談するための種は蒔いといたぜ」
「そうか‥‥だが悩みの方は他に任せよう。俺は過剰トレーニングに、苦言を呈する――俺の責任もたぶんあるだろうからな」
 彼にしては珍しく、眉間にシワを寄せ、深い溜息をつく。
「では私はトレーニング内容の見直しに、精神と肉体の疲労を取り除けるようにアドバイスしますか。そちらが本職ですからね」
「そうか、じゃまあひとつよろしくな」
「ああ」
 店からリズが出てきたのを確認すると、それとなく武流が後ろからついていって声をかけた。
「ようリズ、成果は出ているようだな」
「あ、先生こんにちは。おかげさまです」
 ぺこりとおじぎし、笑顔を浮かべるリズ。
「風の便りでは、少々気張りすぎていると聞いたが――見たところ、別に気にするところはないと思うぞ? 俺はこのまま維持してくれるなら、それで十分だ」
 見たところに反応して、反射的にリズはお腹を隠す。
「見たところだけの問題じゃないんですよ、女の子にとっては」
「ふむ、そうか‥‥ああ、そうだ。ならば体を動かすだけでは駄目だ。それを含めた、日々の習慣が重要になってくる」
 武流がゆったりとリズの歩調にあわせて歩き出すと、リズもそれにくっついてくる。
「習慣といいますと?」
「そうだな‥‥ダイエット目的だから、直接的に影響が出るのは食事か。間食を含め、食事はどんな風にしてる?」
「それは動いてるせいかお腹すいて、少々間食の量が増えましたが‥‥」
 大きくかぶりを振り、溜めた息を吐き出す。
「ハッキリ言ってやろうか?
 食った分だけ体は動かさなきゃならん。この世界の物体は突然無になって消えたりはしないからな。だからいくら体を動かしても、摂る量が増えてしまうと燃料が使い切れなくなって、意味が無い。体に溜まっていくからな」
 話しながらも武流の足は公園へと誘導している。
「摂る量が増えればそれだけハードに動かさなきゃならんが、それは体に大きな負担をかけ、いろんな悪影響にもつながっていく。事実、悪影響に心当たりがあるんじゃないか?」
「‥‥ええ、まあ」
 ひと筋の汗をたらし、リズの目が泳ぐ。
「過ぎたるは及ばざるが如しってやつだな。自分の能力に見合った程度のレベルに運動は抑えて、食事量で調整していく。見たところ比較的普通体型なんだ、これだけで何とかなると思うぞ」
「そうですかねぇ」
「そんなもんだ。やるなら体壊さない程度にしてくれよな」
 公園のベンチに向かうと、必然的偶然に座っている空に出会った。
「よお『奇遇』だな――運動や食事の細かい事は、こいつに聞けばいいぞ。そういう専門家だからな。さて、俺はここで失礼する」
 片手で会釈し、リズと空を残して武流は去っていった。
「ちょうどよかったですね。サポートの定期検査をするために会うつもりでしたから。最近のトレーニング内容など、お聞かせください」
 空の問診に、リズは答えていく。
 聞きながらも空はこれまでの情報を思い返してみると、なるほどと思いつつ、リズの言葉に相槌を打っていた。
(何らかからの解放の手段として、ダイエットをしていたという推測は、あながち間違いでもなかったわけですね)
 問診がなにやら愚痴を聞くだけの状態になりつつある事に、苦笑いを浮かべ黙って聞いている。
(ストレスが溜まっているのも確かですか。職場環境か仕事の内容そのものか、はたまたどちらともかといったところですね。異性の影は――)
 愚痴の内容にメイの名前が多く引用される事から、頭を振って改める。
(ダイエットという結論から異性の影があるのでは、と思ってましたが――なさそうですね。どちらかといえば、メイさんへの意識が強いみたいですね)
 愚痴がそろそろネタ切れになりそうなところで、やっと空が口を開けた。
「聞いた限り、少々休日のトレーニングがオーバーワークですね。重りをなくして、休憩時間を増やし、1日の往復数を1回減らしましょうか」
「少し楽にしちゃって、大丈夫でしょうか」
 コレまでがこなせてしまっていた分、不安げな顔をする。
「若さゆえの回復力で何とかなっている感じはするでしょうが、確実に負荷は蓄積されて、いつか体を壊してしまいます。こういうのは安定して長く続けるのが、コツですからね」
 カルテをめくる。
「あと、食事量はどうですか?」
「‥‥須佐さんに言われました。食事量を調整しろって」
「まあ基本ですよね。運動量とカロリーのバランスは。具体的な数字は後でお届けしますから、それを見て調整してみてください。カロリー早分かり表も添付しておきます」
「はい」
 書き込んでから、再びめくる。
「あと、休み方ですが現在は――居眠りに頼っている。そんな情報があるのですが?
「‥‥間違いじゃありません」
 目を閉じて顔を赤くして答えたリズ。
「よろしくはないですねぇ。まあ運動量も減らしますし、正しい睡眠をとればそれも改善されるでしょう。その方法も後でお届けしますよ」
 書き込んで、めくる。
「仕事の合間などに本当に軽く、ストレッチなどをして、暖かいものをとったりすれば、だいぶリラックスできますから試してみてください――あとはエステなどで気分を変えてみるのも、いいかもしれませんね」
「わかりました。がんばります」

●本部周辺・夕方
 リズ、アリス、煉の3人が周辺をジョギングしていた。
「ところでさぁ、リズ」
「はい」
「けっこう体重も落ちたのに、なんでまだこの前みたいな過酷と言ってもいいトレーニングしてるの?」
 核心に迫る質問に、リズは押し黙ってしまう。
「あれですよぉ。なんかこう超兄貴とかぁ筋肉が好きな人なのですかねぇ? マッシブな人が好きとかぁマッシブになりたいとかぁ」
「違いますッ」
 リズの力強い否定に、煉は頭を振って『はいはいわかってます』風な顔を作ってみせる。
「趣味嗜好の類は誰にも邪魔できるものではないのですよぉ。もはや痩せる事が目的ではなくてぇ、筋肉つけるのが目的、みたいなぁ」
「ですから、違いますって!」
 筋肉好きを強く否定する『普段のリズ』に、クスリとアリスが笑った。
「じゃあなんでなのですかぁ。マッスラーなリズ、略してマズの人ぉ」
 眉間にシワをよせ、リズは黙ったまま公園へと向かっていくので、2人も黙ったままついていく。
 ベンチに腰をかけると、リズが左右に座るように促したので密着するようにして座り、顔の距離を詰める。
「――実はですね、私…‥適性が見つかったんです」
 適性――その言葉が意味する事に煉とアリスが目を合わせる。
「待つだけしかなかった私が、皆を守れるのか、守る立場になってもいいのか、それともなるべきではないのか、色々悩んじゃってて、私、私――」
 言葉を詰まらせて、涙を滲ませるリズの肩をそっと、2人は抱きしめるのであった――。

『りずっち、だいえっと2 終』