●リプレイ本文
「よくぞ来たなお前たち!」
フェイスマスクにAと描かれた男が腕組みをして、テーマパークの正門前に立っていた。
「おーっし、んじゃロンロン、行ってみようか!」
「そうじゃのぅ」
空言 凛(
gc4106)と煌 輝龍(
gc6601)はスタスタと、教官Aの横を通り過ぎて園内へと入っていく。
「あ、おい!」
「まあ、気楽に行きましょうや」
「油断は禁物だろう。気を引き締めていくとしよう――教官だか何だか知らないが、くだらないことを思いつくものだ」
グリフィス(
gc5609)、シドウ(
gc8670)ペアも、横を通り過ぎて園内へと入っていった。
「お、お前ら‥‥!」
「キメラ退治が‥‥本当の任務だから‥‥。その為に‥‥全力で行動するよ‥‥」
「うむ。もっともな話だな」
幡多野 克(
ga0444)とルーガ・バルハザード(
gc8043)すらも教官を無視し、園内へと入っていくのだった。
「人の話を聞けよ!」
「いいから、もういくぞケイ――教官A殿」
彼の後ろで思い思いに立っていた教官たちも、正門をくぐって行ってしまう。
独り残される教官Aは、拳を天に向かって突き出し絶叫する。
「俺を無視するなぁ!」
「やれやれ、困った奴が居たものだのぅ」
凛が加速し、たまたま遭遇したバッタキメラに肉薄し跳びあがらせると、瞳を紅く染めた輝龍がそんな事をつぶやきながら照準を合わせ哮龍の引き金を引く。
空中で杭の直撃を尻部に受け、思ったより硬いその皮膚は杭を通しはしなかったものの、バッタはバランスを崩し、縦に回転しながら地上へと落下していく。
「こいつも持ってけ!」
落下地点に待ち構え、猫目と化した凛のアッパーが深々とバッタの腹に突き刺さる。
さしものキメラも、腹部を貫かれては息絶えるしかなかった。
「うへぇ、汚れた‥‥こいつら、腹は軟いでやんの」
「ふむ、やはりそこは昆虫と同じようじゃの」
輝龍がトランシーバーを取り出し、その旨と1匹撃墜した事を報告した。
「しっかし――どうせ勝負すんなら、直接殴りあった方が早いと思うんだけどな」
コレはコレで面白そうだし付き合ってやるか――その言葉は心の中でコッソリ付け加えておく。
トランシーバーをしまう輝龍がほっほと笑う。
「それで負けたら言い訳も立つまいじゃろう。それで負けても言い訳が出来るように『ゲーム』にしたんじゃろて‥‥もっとも」
眉をひそめ、口元を隠す。
「少々灸をすえ、説教してやらねばなるまい」
シドウが前を歩き、グリフィスが後をついて歩く。
と、そこに運悪くフェイスマスクにBと描かれた男が現れる。
「なんだお前ら、虫相手にペアか。度胸ねえなぁ。俺らなんか、みんな単独行動だぜ? 支援であるF以外が2匹倒せば余裕で勝っちゃうぜ」
「へえ、そうですかすごいですねー」
グリフィスの棒読みにも気づくことなく、教官Bは豪快に笑う。
「まあ俺らくらいの歴戦の傭兵は1人でも冷静に‥‥」
気を配っていたシドウがばっと後方に後ずさる――と同時に1人ご高説を語っていた教官Bの上に、突如キメラがのしかかる。
「うわわわわわわわっ」
目が赤く鋭くなったシドウが冷静に接近すると、傭兵刀を抜刀し、身体を回転させる技『円閃』をバッタの脚の付け根目掛けて叩き込む。
「バッタの脚はもげやすい、と聞いたことがあるが‥‥」
続けざまに同じ所に叩き込み、ぽろっと脚が取れる――が、バッタは平然と跳躍する。
「中々に面倒だな」
「狙い‥‥撃つッ!」
あたりに悲鳴のような音を響かせ、バッタが腹部を貫かれ四散する。グリフィスのFEA‐R7が煙をたなびかせていた。
「腹部が弱いと通信がありました。そして今ので2匹目だそうです」
「ふむ、そうか」
グリフィスがトランシーバーを取り出す。
「敵撃破、そちらはどうだ? 妨害はまあおいおいで‥‥」
通信しながらその場を立ち去ろうとすると、教官Bは立ち上がり、後ろからシドウの肩に手を伸ばそうとする――と、シドウが振り返り傭兵刀を振り下ろす。
刃が当たる直前、かろうじて止めた。
「‥‥失礼。キメラかと思った」
しれっとした顔でそう言い放つと、固まっている教官Bを置き去りにして、2人は次を目指すのだった。
「あと18匹、腹部が弱いらしいな」
トランシーバーをしまうと、烈火を抜き放つルーガ。
「なら手際よく、いくとしようか」
銀髪で金色に輝く瞳に変化した克が、ピタリとS‐01を跳躍しているバッタにあわせ、次々に発砲。
撃ち貫かれたバッタはバランスを崩し、地上に次々と落ちてくる。
落ちてくるバッタめがけ突進し、紅蓮衝撃で覚醒状態を引き上げたルーガが火の粉のような光を撒き散らし、烈火を振るう。
腹を横なぎにし、縦に切り裂き、地面へと突き刺す。
「これで残り15匹か」
バッタを貫いた烈火を引き抜き、一振り。刀身から体液が飛び散る。
「少し離れているが、もう2匹確認」
2匹に照準を合わせようと、構えた克。だが不意に半身で一歩下がった。
その足元に銃弾がめり込む。
克が顔を向けると、こちらにライフルを向けている教官Dの姿があった。
気を取り直し、再び照準を上に向けようとすると、また足元に撃ち込まれる。
二度にわたる妨害。克は無言のまま照準を上に合わせる振りをして、D目掛けて発砲した。
銃弾はDの覆面をかすめ、それにひるんだ一瞬の隙を突いて、克は上空のバッタに照準を合わせ、撃ち落す。
「そんなに遊びたいなら本気で相手するけど?」
克の淡々とした脅しに、Dは克に照準を合わせるのをやめた。
落ちてきたバッタに止めを刺そうとルーガが走り出すが、突如横に跳び、その胸に銃弾がかすめる。
ジャケットがあるとはいえ、直撃を受けていればタダではすまなかったであろう。
「‥‥ッ」
ギリっと、歯を食いしばりルーガの鋭い瞳が険しいものとなる。
そんなルーガの様子に気づいていないのか、Dはルーガに照準を合わせていた。
「おっと、てがすべったー」
あからさまな棒読み口調で『ついうっかり』ソニックブームをDめがけて放つ。
スキル攻撃と言うものに慣れていなかったDは、反応が遅れ、直撃を受ける――かと思われたが、ソニックブームは教官の足元を破壊する程度にとどまった。
覆面でわからないが、どことなく気圧されして青ざめている気がするD。
「すまないな、きめらとのたたかいにしゅうちゅうしすぎたようだ」
棒読みのまま凄まじい形相で睨みつけ、烈火を一振り。
脅しが効いたのか、ただの素振りにびくっと身を震わせたDはライフルを落としてしまう。
Dが慌てて拾おうとしたその隙に、再びルーガは駆け出し、地面でもがいているバッタ2匹に烈火を振るい、止めを刺した。
ルーガが駆け出すと共に、克もまた駆け出し、Dに肉薄すると月詠を抜き放ち、紅蓮衝撃を発動させた迫力ある一振りを、かすめさせる。
「キメラ退治に集中するんだな」
キンっと月詠を納刀し、硬直したままのDの脇を通り抜け、ルーガの元へと向かう――と、Dが何を思ったか克の背にライフルを向けた。
しかし克は即座に振り返ると、豪力発現を発動させ、Dの腕を力の限り捻りあげる。
短く悲鳴をあげ、うめきつつライフルを落とすD。
「邪魔しかしないなら、それは必要ないな」
手を離し、掴まれた腕を押さえながら呻いてうずくまっているDに冷たく言い放つと、ライフルを蹴りつけ、近くの池に落としてその場を後にしたのだった。
「跳んじまったら自由は効かねぇのに、不用意に跳び過ぎだぜ?」
輝龍の威嚇で跳んだ1匹に凛はソニックブームを打ち込み、ダッシュする。
ソニックブームで撃ち落とされたバッタめがけ、渾身のストレート。その一撃で屠ると、瞬天速で速力を上げて今にも着地しそうな2匹の元へ詰め寄る。
「知ってるか? 体重が2倍になったら、それを支えるのに必要な力は4倍になるんだぜ? つまり、この巨体で脚一本逝ったら‥‥」
凛の拳のラッシュが2匹の脚を一本ずつ落とす。
それでもバッタは離脱しようと跳びはする――が、明らかに高さが低い。
「生物として無意識の加減なのかのう」
跳び方の甘かった2匹に鋭覚射撃で的確に腹部に杭を打ち込み、撃墜する。
「こちら輝龍じゃ。2匹撃墜したぞえ――凛、ルーガペアがすでに5匹とな」
トランシーバーをしまうと、凛に向き合った。
「残すところ後1匹で10匹到達じゃが――無論、全滅狙いじゃな」
「当然――ッラァ! って、何だ教官か」
足音で人間とは気づいていた凛は、反射的なそぶりに見せ、教官Cを背負い投げでバッタに向けて投げ飛ばした。
突然の来客にバッタは嬉々としてCを押さえ込み、ギチギチと歯を鳴らす。
「おっナイス囮」
バッタがCに気を取られている隙に距離を詰め、掬い上げるようなアッパーでバッタの腹をあらわにすると、輝龍がそこに杭を打ち込み止めを刺す。
「んだよ、邪魔しに来たのかと思ったら、手伝いに来ただけかよ。それならそうと、早く言ってくれればよかったのによ」
ニカっと笑い、Cに手を差し伸べる凛。だがCはその手を払いのける。
凛は肩をすくめその場を去ろうとすると――Cがゆっくり立ち上がり、抜刀する。
そして振りかぶったところで、凛の後ろ回し蹴りを喰らい、壁まで吹き飛んでいく。そこに輝龍が衣服に杭を打ち込み、壁に縫いとめた。
「教官標本の完成ってか」
「己が愚行が招いた事をその身に刻むがよい――さて、次じゃの」
教官をそのままにして輝龍が立ち去る。
磔にされて何も言わなくなったCに凛は近づくと、ぐいっと拳を突き出す。
「そんなに白黒付けたいなら、こんな遠まわしの勝負しねぇで、こっちで直接勝負しねぇか? 分かりやすいぜ?」
ゴンっと頭スレスレの壁に拳を叩きつける。
「ま、物心ついたくらいのガキの頃からやってるから、こっちの方が慣れてるけどな」
ヒラヒラと手を振り、凛もまた、その場を後にするのだった。
「こっちが叩き落すぜ! 止めを頼んだぞ!」
グリフィスが気合一閃、上空にいるバッタ3匹をなぞるように次々と撃ち落としていく。
「目標捕捉、排除する」
迅雷を使い、一瞬にして落下してきたバッタに詰め寄ると、身体を回転させた円閃で腹部を斬りつけ、ニ撃目の突きで1匹、大人しくなった。
続けて2匹目を狙い同じように一撃目を円閃で、ニ撃目を入れようとしたところで背後から体勢を立て直したバッタがのしかかろうとしてきた。
「させるか!」
グリフィスの援護射撃によりバッタの動きが鈍ったところで、シドウが体を入れ替え襲い掛かってきた方の脚を斬りつける。
「大丈夫か? 下がった方が良いんじゃ‥‥!」
腹に傷を負ったバッタの動きを止めるように足の付け根を撃つ、グリフィス。
グリフィスの忠告を素直に受け取ったシドウは、迅雷でグリフィスの隣へと下がった。
手負いのバッタを中心に狙い、動かなくなるまで撃ち続けているうちに、もう1匹は跳躍し、逃げられてしまう。
「私の力では、1匹あたりの時間がかかりすぎてしまうな」
「仕方ないですよ。シドウさんはまだ経験浅いんですから、まだまだこれからです」
励ましていると、ふと、動かないメリーゴーランドの馬にまたがってうなだれている教官Fを発見する。
当初無視して通り過ぎた2人だったが、Fがのろのろと顔をあげたので妨害が来るかと身構えると、Fは深々と溜息をつく。
「やはり2人一組のが理想だよなぁ‥‥」
他の教官と違い、ふてぶてしさがない事に2人は顔を見合わせた。ちらりとFが時計を見る。
「もうそろそろ、10匹完了したんじゃないか? 君たちのほうは」
「ええまあ。現在12匹討伐完了といったところですね」
「だろうなぁ‥‥とっとと終わらせて、あの馬鹿に差を見せつけてやってくれ」
2人は頷き、Fを残しその場を後にする。
「やはり、連携というは大事なんだな」
うなだれるFを思い浮かべ、しみじみとシドウは呟くのだった。
「皆にお知らせだ。どうにもバッタどもは危機を感じてるのか、観覧車のところに集まりつつある。全員集合してくれたまえ」
ルーガがトランシーバーを扱っている間、近寄ってきたバッタを克が紅蓮衝撃を乗せた月詠で屠りさる。
そしてS−01に持ち替えると、真上に落下してきた1匹の腹めがけ、急所突きを発動させて一発で貫く。
そのまま跳ね回っているバッタを次々に撃ち落としていく――と、どこからともなく杭が飛んできて、同じように跳んでいるバッタを撃ち落とす。
「真打登場じゃ」
凛と輝龍ペアが姿を見せると、シドウ・グリフィスペアも集結した。
「俺も参加‥‥といきたいところだが、後ろのアレがウザクてな。輝龍さん、頼めるかい?」
「ほいさ」
わらわらとA・B・Eがあきらかにバッタ以外を標的に動いているのを見て、グリフィスが何を言いたいか察した輝龍が杭を教官目掛けて連射する。
情けない悲鳴をあげ、いとも簡単に壁に磔にされる3人。
「まったく、いい加減にしましょうか‥‥少し――頭冷やそうか?」
磔になっている教官をわざわざかすめるように、ゆっくりと撃ち続ける。
教官の悲鳴をBGMに、凛、ルーガ、シドウがどんどん撃ち落とされていくバッタどもをどんどんなぎ倒していったのであった――。
「まだ、やる気ですか?」
グリフィスが問いかけると悲鳴をあげ疲れたAが、力なく首を横に振る。すでにバッタは、全て撃退した後であった。
建物の被害状況を調べていたシドウが戻ってくると、死人のようなAの様子を伺い、もごもごと何かを言われていたが素知らぬ顔で離れていく。
(ああはなるまい)
そう心に誓うのだった。
黒髪に戻った克が磔に近づく。
「傭兵として‥‥同じ依頼に参加する以上‥‥。その人は任務を達成する実力を‥‥持っていると考えているし‥‥上下を‥‥競うつもりもない‥‥」
首謀者顔を覗き込み、問いかける。
「教官さん達は‥‥何をしたいの‥‥?」
「教官殿、相変わらずお戯れがお好きなようで‥‥」
克の問に答えるように、芝居がかった口調で教官に笑いかけるルーガ。
「ところで‥‥私は邪魔をされるのが嫌いでな」
キメラ退治を自分の虚栄心を満たすために使い、さらには妨害しかしていなかった事実が気に食わなかったルーガがAの顎をクイっと持ち上げる。
「‥‥次は、フラッグを思いっきりぶっ刺してあげようか、あなたの尻にでもッ!」
フンと鼻で笑い、離れていく――その様子に、凛が笑っていた。
「おお、コエー。馬鹿やると痛い目みんだよ」
頷き、輝龍がずずいとAの前に立つ。
「その通りじゃ。依頼は訓練ではない、実戦じゃ、その実戦でゲームなどと、貴様は新兵か! 教官を名乗るのであれば相応の働きをして見せよ、困っている人達の依頼をゲームに利用するなぞ到底『教官』たる者の提案ではない、実戦に対する向き合い方としては新兵以下じゃ! 己の愚行が招いた結果を肝に銘じて一から出直すが良い!」
『俺だ! 教官様だ! 終』