タイトル:KV戦を撮らせてよ!マスター:草之 佑人

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/12/20 20:24

●オープニング本文


●ULT依頼受付にて
 朝からULTの依頼受付のカウンターで、何やら二人の女性が揉めていた。一人は、オペレーターで、もう一人は一般人のようである。その会話はこんな感じだ。
「――ねえ、ちょっとくらいその軍からの依頼に同行させてもらってもいいでしょう?」
「ダメですね。連れてってほしいなら、貴方からの依頼という形を取って下さい」
「うう、けど、今月の経費はもうすっからかんなのよ‥‥こ、この間、中国まで足を運んだけど、何も撮れなくってデスクには怒られるし、軍からも、ついでに傭兵達からも怒られるしさあ‥‥」
「そんな事情はしったこっちゃないです」
「そこをなんとか、ね? ね?」
 一般人――戦場カメラマンのヘレンは、傭兵達のKV戦闘を撮らせてもらおうと、ULTのオペレーターに詰め寄り、かれこれ半時間くらいは押し問答を繰り返していた。
 初めは事務的な態度だったジト目のオペレーターも、やや焦れたように口調がぞんざいになっている。
 ふとその時、オペレーターの目に一人の少女が留まった。
「ああ、そこの女傭兵ちょっとこっち来るのです」
 横からの声が聞こえたのか、受付の前を通りかかった少女がこちらを振り向く。
「え、あたし?」
「ええ、そうです。そこの皿さん」
「――ねえ、今、発音おかしくなかった?」
「いえいえ、サァラさん?」
 なんとなく釈然としなかったが、サァラは呼び止められたので、一応オペレーターの方へ寄っていく。
「えーっと、確か、オペレーターのクリス・トルリスさんだっけ?」
「いえ、違います。今の気分だと、クララ・リートスですね。そうお呼び下さい」
「あ、そう。‥‥今の気分って何?」
「名前というのは運気を左右すると言うでしょう。ですから、私、その時の気分で名前を変えているんです」
 分かったような分からないような。とりあえず、名前は違うということだろうか。
「えっと、じゃあ、クララ‥‥さん?」
「あ、今、気分が変わりました。シーラ・ネステアとお呼び下さい」
「――は?」
 イラッとした。サァラは頬をひくつかせていたが、一方のシーラ(?)は何かおかしなことを言っただろうかと首を捻る。
「話しかけるたびに名前が変わると困るんだけど」
「そうですか? では、こうしましょう。私のことはオペレーターのオペ子と、そうお呼び下さい」
 やれやれといったように首を振り答えた。
「あ、あんたねぇ‥‥」
 サァラは、こいつどうしてくれようかと獰猛な笑みを浮かべて詰め寄る。
「――いや、それより、私の話はどうするのよ」
 サァラの横から、放っておかれたままのヘレンもオペ子に詰め寄る。目の前に迫った化粧っ気の全くない二つの顔にオペ子は辟易した。
「ああもう、やかましい人たちですね。ですから、それを解決するのですよ。いいですか――」
 オペ子の話はこうだ。

『ここにある依頼の2名のサポート枠のうち1つをサァラが引き受けたものとする。それでもって、先行偵察という形でサァラと一緒に現地で待機、撮影。戦闘後、何食わぬ顔で帰ってくる』

 話を聞いたヘレンは顎に手をあて、思案気味である。
「んー、けど、護衛がこの子だけじゃ不安だわ。なんとかならない?」
「――面倒な人ですね。なら、私もサポートとしてついていきましょう。ああ。私、こう見えても能力者なんですよ?」
 二人の発言に、サァラは、自分に拒否権はないのか、と微妙な顔になる。
「けど、あんたオペレーターの仕事はどうすんのよ‥‥?」
「そんなものは‥‥」
 オペ子は立ち上がると、その辺を歩いていた傭兵をひっ捕まえ、
「依頼です。私の代わりにしばらくオペレーターをやっておいてください。では、頼みましたよ」
 そう言って、強引に自分のオペレーターの席に座らせた。事情を飲み込む間も与えられず、その傭兵はヘッドセットをはめられ、は? と間抜けた声を出すことしかできなかった。
「さあ、行きましょう」
 オペ子はさっさと行ってしまう。サァラは、いいのかしら、あれ、と後ろに残された不憫な傭兵を見る。同情はするが、まあ、依頼なら別にいいのかもしれない。傭兵とはそういうものだ。たぶん。
「けど、あれ、報酬なしの依頼よね‥‥」
 苦笑いを浮かべて、サァラはその場を後にする。
 半ば強引に決まったが、依頼は依頼だ。あたしは、自分の依頼に全力を尽くそう。

●参加者一覧

魔宗・琢磨(ga8475
25歳・♂・JG
蓮角(ga9810
21歳・♂・AA
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
五十嵐 八九十(gb7911
26歳・♂・PN
イース・キャンベル(gb9440
16歳・♂・SF
殺(gc0726
26歳・♂・FC
御剣 薙(gc2904
17歳・♀・HD
リック・オルコット(gc4548
20歳・♂・HD

●リプレイ本文

●華と狼煙
 左右を丘に挟まれた道にゴーレムが三機。右手の丘の斜面にある森からは、TWの砲塔が僅かに顔を覗かせている。
 この道を通る輸送部隊の露払い。
 それが、UPC軍から傭兵達に課せられた依頼だ。
「‥‥ん。丁度。良い。機会なので。試し切りに。来た。目指せ。一刀両断」
 最上 憐 (gb0002)は愛機のオホソラに、自らのKVの2倍を越える長さの長大な太刀、グレートザンバーを握り直させる。
「まだうまくKVを扱えないから色んな場所で経験を積まないとな」
 憐機の背後から、新しいスカイセイバーの天人ではなく、慣れたディアブロの愛機ゼファーに乗った殺(gc0726)が飛び出していく。旧い機体に乗っての登場は、より経験を積み、自らの技量を高めるには、慣れた愛機の方が良いという判断のようだ。その愛機は淡く爽やかなミントグリーンと晴れた空の色に似たサファイアブルーが戦場にあって涼やかに映える。
「オペレーターの人ですか。押し付けてって‥‥随分迷惑な人ですね。けれど、今更言っても仕様が無い、さっさと終わらせればいいんでしょう!」
 殺機と共に、イース・キャンベル(gb9440)が愛機BLACK:Zの全身のスラスターを噴かせて戦闘機動を開始する。ゴーレムに向かってショルダーキャノンやプラズマリボルバーを撃ち、先制した。
「‥‥ん。先手必勝。とりあえず。全力で。突撃。突撃。突撃」
「援護します、ド派手にどうぞ!」
 グレートザンバーのために普段よりも遅い憐機の動き出しに合わせて、蓮角(ga9810)の愛機飛簾が高分子レーザーでのレーザーの連射と、ツングースカでの大量にばら撒いた弾で、弾幕を形成していく。
「久しぶりのKV戦、張り切っていきますか! その弾幕、俺が華を添えましょう!」
 イース機と蓮角機の弾幕に混ぜて、五十嵐 八九十(gb7911)の愛機エクイリブリオ・ベオーネが、UK−10AAEMを放とうとした。しかし、人型形態では作動せず、八九十機は前進を余儀なくされる。
「‥‥ん。ブースト展開。ついでに。ハイマニューバも展開。一気に。行く」
 そして、蓮角機の張った弾幕の援護を受けて、憐機は赤いウサ耳の残像を残して一気に加速していった。

 斜面の森、そちら側にも傭兵達のKVが回り、TWへと向かっていた。
「銃魔鬼神トゥールティースッ! あれ、魔銃機神? どっちだっけかな‥‥ま、とりあえずは‥‥ガンスリンガーッ! ――孤高の紫、駆け抜けるぜ!」
 普段からガンちゃんと呼んでいることが多いために機体の愛称を微妙に間違えて叫びながら魔宗・琢磨(ga8475)はTWに突っ込んでいく。
「行くぜ‥‥バレットファぁぁぁはやァァあいい!?」
 琢磨機は精細動性アクチュエーターを高機動型シフトに切り替えたために、TW目掛けて障害物を最小限の動きで避けながら一気に接近していく。が、流れる外の景色の速さに体感的なGが大きかったらしく、俺、潰れるかもと思って琢磨は情けない声を上げるのだった。
「周辺警戒怠るなよ」
 伏兵や奇襲を警戒しつつ、リック・オルコット(gc4548)は愛機のグロームを操る。リック機は後方、クロスマシンガンと長距離バルカンで突撃する二機の牽制支援を行う。突撃するのは、琢磨機ともう一機、
「今日はよろしく頼むよ、オウガ――のままだと可哀想だね。君にも名前を付けてあげないと」
 御剣 薙(gc2904)は新たな愛機のオウガに語りかけながら森を駆る。琢磨機の後からガドリング砲で牽制しつつTWとの距離を詰めていった。
 森に生い茂る木々が戦火の広がりと共になぎ倒され、燃え上がる。

 ――戦場に、華が咲き、狼煙が立ち昇る。

●鉄人形が三つ
「TW班が注意を引いているようです。あちらはご心配なく」
 蓮角がTW班と共有した情報を皆に伝えた。警戒していたTWの砲撃が無い事を確認し、憐機は一段と加速する。突進する憐機にゴーレムの一機からフェザー砲が放たれる。しかし、
「‥‥ん。やられる。前に。倒せば。万事。おっけー」
 フェザー砲の直撃を装甲で弾き、憐機はさらに突進。ゴーレムがファランクスの射程に収まり、無数の銃弾が撃ち込まれていった。その衝撃で、こちらを狙っていたゴーレムの射撃は大きく的を外れたものになる。
 しかし、残りのゴーレム二機は怯むことなく、前進してくる。
「予測しやすいんですよ、お前らの動きはっ」
 イースは持ち前の洞察力とゴーレムのデータ分析からゴーレムの前進を予測していた。イース機が予測通り前進してきたゴーレムを狙い撃つ。弾がゴーレムの肩に当たり、その装甲を貫き剥がし、ゴーレムはよろめく。
「続けて行かせてもらおうかな」
 肩にイース機の弾を受けてよろめいたゴーレムに、殺機が踏み込み上段から斬りつける。ゴーレムはサーベルを掲げ、この初撃を凌ぐ。しかし、サーベルにはひびが入り、身体のバランスはいよいよ崩れる。殺機が半歩下がりながら放った突きは、ゴーレムの喉元の装甲が薄い部分を貫いた。
 一気に倒してしまうために殺機が間合いを詰めようとするが、二機の間に横合いからサーベルが割り込んでくる。残ったもう一機が突撃してきたのだ。踏み込もうとした体勢を改め、左足を後ろに下げる。衝撃に備えて獅子王で突撃を受け流した。相手は受け流されたサーベルを引き留め、殺機に向き直る。
 そして、二機が向かい合い、刀とサーベルでの立ち会いが始まる。
「‥‥ん。振り上げて。叩き付ける。てい。とぉー」
 殺機が一機を相手取っている間に、憐機が傷を負ったゴーレムに狙いを定めて、ザンバーを振り上げ――振り下ろす。ゴーレムは殺機と同様にサーベルで受けようとしたが、そのサーベルは殺機との斬り結びで入っていたひびから折れる。ザンバーがサーベルをへし折り、ゴーレムの頭頂部から股間へと抜けていった。ゴーレムは一太刀の下に二つへと断ち分かたれる。
「‥‥ん。コレが。ウサ耳の。力」
 ザンバーを抱え直した憐機が、赤いウサ耳アンテナを陽光に光らせる。機体に大きく描かれた『カレーは飲み物』の文字も共に陽を浴びて黄金色に輝いた。
 殺機と相対していたゴーレムが二対一の状況に気づき、一度距離を取ろうと後退し始める。しかし、
「‥‥ん。逃がさない。粉々に。なって貰う」
 後退するゴーレムは長大なグレートザンバーにとって未だ射程内である。振り下ろされたザンバーをゴーレムは避けきれず、片腕を斬り落とされた。その頃になって、後方に位置していたゴーレムが、後退するゴーレムを援護するように牽制射撃を放つ。二機が体勢を立て直そうとする。
 だが、そこへ八九十機とイース機が追い討つ様に迫っていた。
「邪魔させてもらいますよ――ネロ・ソーレ!」
「このパターンなら‥‥ここです!」
 迎撃しようとしたゴーレム達に、先に接近していた八九十機が両肩の隠し兵装から鉄の針を飛ばし、続けて陽炎のような青い光を放つ滞空式ラージフレアを発射し二重の壁を作り上げる。怯んだその隙に、イース機が補助スラスターを噴かせて陽炎を残しつつ、ブーストでゴーレムまでの距離を一気に駆け抜ける。機体に薄く纏った光輪が淡くその軌跡残す。イース機はゴーレムに近接して、フォトニック・クラスターを起動させた。
「こんな戦いは‥‥早く終えてしまわなきゃいけないんですよ!」
 ブラックハーツで機体の出力が増幅され、フォトニック・クラスターの閃光をより眩いものに変える。その閃光は、機体の前方に居たゴーレム二機を包み焼いた。焼かれた一機が蓄積されたダメージに膝をつく。
「あの世で閻魔に会うなら言っとけ! 最後に見たのは青い死神だってな!」
 八九十機が膝をついたゴーレムに双機刀『臥竜鳳雛』を重ね合わせて振るい、ゴーレムの肩口から脇腹へ一刀両断にした。
 ――後に残ったのは装甲を焼かれたゴーレムが一機のみ。
 戦いの趨勢は決していた。
 動きの鈍った最後のゴーレムが苦し紛れに八九十機を狙うが、一撃を加えた八九十機は既に十分な距離を離し、ゴーレムに狙いを定まらせない。
「後は、早く片付けて恋人達のデートを実らせるとしましすか」
 蝶のように舞う八九十機に翻弄されたゴーレムへと、残りの四機のKVが連携して戦いを終わらせに行く。

●森に潜む亀
 戦場は薙が開けた場所へとTWを押し出して、傭兵達に優勢に動いていた。
「派手にやれば良いんだろ? やってやるさ」
 牽制から150mm対戦車砲に持ち替えて、リック機が弾丸を放つ。当たった衝撃に、TWのプロトン砲が狙いを外れ、斜面の森を焼く。視界が開け、斜面下のゴーレム班の戦いが見えた。リックがその光景を見た時、丁度、八九十機がゴーレムを一刀両断にする場面だった。
「五十嵐も派手にやってるな‥‥俺は、派手なのは苦手だからな」
 戦車砲の次弾を装填しつつ、リックがぼやいた。
 戦場が移った後、目標を遮る木々の障害物が無くなった事で、琢磨機のスラスターライフルは的確にTWの装甲を貫いていく。
「ディーちゃんみたいに桁外れな破壊力は無いけど‥‥その分、手数で稼ぐぜッ!」
 琢磨機の高速機動を捉えられず諦めたTWが、近接する薙機に照準を定める。
 TWのプロトン砲による反撃の一撃を薙機は正面から受けた。圧練装甲でTWの攻撃をエネルギーへと変換するためだ。プロトン砲に焼き払われ何もなくなった大地に、薙のオウガだけが立ち残る。
「オウガ、君の名‥‥決めたよ」
 コックピットの中、薙が正面のTWを見据えて囁く。その口の端には微かな笑み。
「ブーストオン、ツインブーストB・ドライヴ!」
 普段はクールな薙が叫びと共に、ツインブーストを起動させる。機体の各部の機動が鋭さを増していく。薙機のコンパクトに畳んだ左フックがTWのブレードを根元から折り、剣山になっている甲羅に隙間が空く。その隙間へと、全体重を乗せ打ち下ろしの右ストレートを叩き込んだ。衝撃が甲羅の中を突き抜け、TWの反対側の足がよろめく。斜めに傾いだ巨体へ、薙機はミサイルでの追撃を加え、爆発でTWを横倒しに倒す。
「これで決めるよ、吼えろ! 『ブレイクエンド』!」
 腰部のスラスターを噴かせて機体を回転させ、その力の全てを後ろ回し蹴りに足先へと集約させた。極限の機動は、機体に唸りを上げさせる。
 それはブレイクエンドの産声であり最初の咆哮。
 咆哮と共にブレイクエンドの脚爪『シリウス』がTWの腹を捉えて、鮮やかに裂いていく。それが致命の一撃になった。
 TWを倒し終えたところへ、蓮角から通信が入る。
『周辺警戒、異常なし‥‥と。お疲れ様でした』
 どうやら、向こうも戦いを終えたようだ。

●写真を撮り終えて
 戦闘後、オペ子のリッジウェイはあっさり捕まった。
 殺が輸送タンクの扉を開け、中を覗けば、オペ子があられもない姿で寛いでいた。差し込んだ日差しに、オペ子がおやおや、と扉の方を見やる。
「貴女の所為で困っている人がいるから。さぁ、帰ろう」
 殺が失礼ではないようにオペ子の姿の直視は避けて促す。オペ子はやれやれ、短いバカンスでした、と呟きながら着替えを始めた。
「結局、どういうことなのかしら?」
 サァラがアンジェリカを駐機させて、様子を見に降りてくる。降りてきたサァラに琢磨が歩み寄って行った。
「護衛お疲れ様〜、コーヒーでもどぞっす」
「え、あ、ありがとう‥‥ございます?」
 受け取ったコーヒーに口を付けながら、サァラはふと思う。なんだか、他の傭兵と出会う度になにかしら餌付けされているような気がする。けど、断るのも悪いし‥‥いや、けどけど‥‥。
 そんな思考をぐるぐるさせるサァラの横で、薙がヘレンに話しかけていた。
「久しぶりって程でもないかな、元気そうだねヘレンさん」
「あれ? そのアスタロトは、この間の子? あはは、この間はどーも。ちゃ、ちゃんと護衛は付けたわよ‥‥?」
 薙にまた怒られるのではないかと、少し狼狽しながらヘレンが後ずさる。すると、後ろに立っていた琢磨にぶつかった。あ、ごめん、と謝ろうとヘレンが振り向くと、
「あ、ヘレンさん! いい写真できたら、俺にも分けて頂けませんか!」
 やや興奮したように琢磨が迫ってくる。
「え、なに? きみ、あたしのファンとか!? キャーッ! いいわよいいわよ! 後で送るからどこに住んでるか教えて? あ、あと、きみのガンスリンガー、もう一枚撮らせてもらっても――」
 ヘレンがカメラを取り出し、逆に琢磨に迫ったその時、背後から人を殴る鈍い音がした。
 音のした方を四人が振り向く。AUKVを装着したリックの反対側に、オペ子が頬を押さえて蹲っていた。
「――誇りが無いなら仕事を辞めたらどうだ?」
 プロならその仕事に誇りを持って遂行するものだと語るリックに、オペ子が反省の態度を示さなかったために殴ったのだ。
「‥‥大丈夫か?」
 傍に居た殺が救急セットを取り出しながら訊く。
「――大丈夫です。リックさんの言い分ももっともなので、コレについても文句は言いませんし」
 オペ子は殺の好意を断りながら、赤く腫れ始めた頬を押さえて立つ。
「ですが――貴方の誇りを持ったお仕事とやら、これからじっくり拝見させて、お手本にさせてもらいたいと思います。戦場で無様に死んだら嘲笑ってやりますので、そのおつもりで」
 敵意を剥き出しの目で、オペ子はリックを睨みつけた。
「上等だ」
 リックもこの視線に睨み返す。
「‥‥あぁ〜、まあまあ、二人ともその辺にするっすよ」
 また喧嘩が始まりそうな雰囲気を琢磨が取り成し、場を収める。これからLHまで同道するかと思うと、先が思いやられた。

●ULT受付前
 LHに戻り報告を終えた後で、
「災難でしたねぇ。でも本番はこれからでしょう、頑張ってください!」
 蓮角はオペレーターを代行していた傭兵に笑顔で声を掛けた。
「あ、はい。本当にありがとうございました」
「いえいえ。同じ傭兵のよしみですよ‥‥それと、これを」
 蓮角はぽち袋を差し出す。中身は目の前の傭兵が上乗せした報酬だ。
「こ、これはいいです。その、事態を知った上司の方が、オペレーターの方の給料から報酬を払い戻して下さって‥‥」
「そうなのですか?」
 受付の方を見ると、上司からの公開説教を受けていたオペ子が、給料を差っ引かれると聞かされてなにやら沈んだ顔をしていた。
「それじゃ、僕は彼女との待ち合わせがあるのでこの辺で失礼します」
「ええ、それじゃあ」
 蓮角がお辞儀をして駆けていく傭兵を見送る。見送った後、蓮角は報酬を入れた袋を見た。
(使い道を考えていなかったこの報酬の上乗せ分、さてどう使いましょうか)
 蓮角は少し考えこみながら歩きだす。ここから兵舎に戻るまでの道程は、割と短い。