タイトル:【福音】阻止線上の穴マスター:草之 佑人

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/04/04 11:35

●オープニング本文


●低軌道ステーション強襲
 捕獲されたバグアの新型機から異星人――バーデュミナス人が救出された。
 言葉の通じない彼との意思疎通の中、本星艦隊の拠点について情報がもたらされる。
 本星艦隊の拠点――低軌道ステーション。
 そこへ、艦隊を二手に分けての強襲作戦が立てられる。

●もう届かない声
 別働隊のヴァルトラウテと巡洋艦3隻、その内の1隻メギドフレイム。ジャネット・路馬(gz0394)少尉率いるカーク隊の乗る護衛艦は、医療船団を離れ、メギドフレイムと行動を共にしていた。
 護衛艦の格納庫には待機状態のラインガーダー数機に混ざって、S-02が一機ある。カーク隊所属の能力者レイテ・スレイ軍曹の搭乗機だ。
 レイテは、そのコクピットで一枚の手紙を読んでいた。何度も、繰り返し読んでいた。そこに書かれた内容が信じられないといった顔で。
 けれど、‥‥何度読み返そうと、内容が変わることはない。
「‥‥そっか。うん。がんばったわよね‥‥」
 無理に笑みを浮かべて、頬を伝う涙を拭った。悲しくはないはずだった。この結末は自分達で選んだ結末だから。それでも、涙はこぼれ落ちる。
 コクピットの中、しばらく静かに泣いていると、にわかに格納庫内が騒がしくなった。
 通信機が自動で艦内の通信を受信した。通信によると、低軌道ステーションの前線を突破したらしい。
 そろそろ動かないと‥‥、そう思って、のろのろと反応の鈍い手足を動かし始めたとき、
「――レイテ軍曹、そこに居るのか?」
 モニターの端に映像通信のウインドウが開く。モニターの向こうでは、ジャネットが僅かに緊迫した様子でこちらを見ていた。
「‥‥ジャネット」
 こちらからも映像を繋げようとして、コマンドの直前で手を止める。泣いたせいでメイクが崩れていた。
(‥‥変に心配はかけたくない、わね)
 映像の通信回線を閉ざしたまま、サウンドオンリーで繋ぐ。
「ええ、ここに居るわよ。いまちょうど機内カメラの設定をイジってたところだから、映像はなしでごめんなさいね」
「戦闘には支障はないか?」
「設定の変更ならすぐに終えるわ。大丈夫よ」
「いや、そちらではなく、君の妹の――」
 レイテは微かに息を飲んで、だが、動揺を通信の向こうに漏らさずに耐えた。
 ‥‥軍の検閲に引っかかったのか。考えてみれば、差出人がジャネットも知っている病院になっている。内容を見てしまったのだろう。
「――すぐに出撃するのかしら?」
 ジャネットが後を続ける前に、言葉を被せる。
「‥‥あ、ああ。各機の発進準備が整い次第、順次、艦を発進。巡洋艦の部隊を中心に展開することになる」
「なら‥‥もう一度言うわ。あたしは『大丈夫』よ。出撃の準備を進めてくれていいから」
 モニターの向こうでジャネットが眉根を僅かに寄せて、悩んでいるような表情をする。だが、
「――分かった」
 ジャネットの中で、レイテへの信頼が心配を上回ったのだろう。表情から迷いを消して頷くと、ジャネットは他機への指示に移る。
 その様子をモニターで確認しながら、レイテは少し顔を俯けた。
「‥‥あの子が望んだことだもの‥‥そう、悔いはないわ」
 無理に微笑むと、唇の端が震えた。

●後退阻止
 主力艦隊とは別方向から低軌道ステーションへ突入していくヴァルトラウテとフラガラッハ。突破を許したバグア本星艦隊は、巡洋艦2隻を追撃に向かわせる。
 慣性制御により速度を急加速に上げて向かって行くバグア巡洋艦2隻に対し、突入する2艦の後方に位置していたソード・オブ・ミカエルとメギドフレイムが反転し、バグア巡洋艦の追撃を阻む体勢に移る。
 バグア巡洋艦2隻はそれぞれ左と右に分かれ、邪魔な2艦を迂回するように艦を進める。それを阻むため、ソード・オブ・ミカエルとメギドフレイムも左右へと分かれた。
 UPCとバグアの巡洋艦。両者の距離が縮まり、2つの戦域で戦闘が始まる。

 カーク隊は敵群外縁部のキメラを相手に戦闘を繰り広げていた。
 ラインガーダーの張った弾幕を盾に、S-02による接近戦で一体ずつしとめていく。
 押して押されて、戦いの均衡は、バグア巡洋艦の進行を阻む結果へと繋がっていく。
 決して優勢ではないが、劣勢でもない。このままいける、そう思われた。
 だが、カーク隊と交戦していたキメラ達の動きが変わった。無闇に突き進むのではなく、戦線の一点に集中するように突撃し、また、吐き出す光線が一機への集中砲火へとなる。
「あのタロス」
 狙撃のスコープを覗き込むレイテの目に、一機のタロスが映っていた。手に持つハルバードを指示棒のように振り回し、キメラの指揮を取っているように見える。
 キメラの組織だった動きに、カーク隊は次第に押され始めていた。
『――護衛艦まで後退する』
 ジャネットからの通信が、戦闘の均衡が崩れた事を告げる。体勢を立て直すために護衛艦の機銃による援護を間近に受けられる位置まで下がると言っていた。
「待って。その前にあのタロスを落とすわ。今、落としておかないと、結局じり貧よ」
『あのキメラの群れをかき分けて突撃するのか?』
 既にキメラの攻勢は激しさを増して、タロスもかなり近づいている。厳しい状況ではあるが、逆に今が最接近しているとも言えた。チャンス、ではある。
「大丈夫よ。死ぬ気なんてないわ。一撃を与えて離脱するだけ、それでもやらないよりはましでしょう?」
 ジャネットが僅かに逡巡したが、
『分かった。レイテ軍曹を信じる。――各機レイテ機の援護を』
 ラインガーダーの援護を受けて、レイテ機がキメラの群れをかき分けていく。
 レイテ機に気づいたタロスがフェザー砲を牽制に放つ。紙一重でそれを避けながら、レイテ機は一刀を放てる位置まで、後一歩のところまでたどり着いた。
(一刀を浴びせて、離脱する――)
 そうだ。生き残らなければならない。生き残って、お金を稼いで、それで妹を――
 ‥‥妹を‥‥?
 脳裏をよぎる妹の病院からの手紙。――妹のオリヴィエが死んだという、手紙。
 生き甲斐とも、自分が生きる意味とも、支えとも言えたオリヴィエは、もういない。

 ――生き残って、それで、何になる?

 一瞬、頭をよぎった絶望にも似た何か。僅かな集中の乱れは、しかし、致命的だった。
 直後、レイテの機体に横から突撃型キメラ――アンブレラが激突。激しい衝撃が機体を揺さぶる。
 激突の衝撃から必死に機体の体勢を立て直す。
 だが、追い討つように迫っていたタロスが、手に持つハルバードをレイテ機の胸部装甲に叩きつけた。
 モニターが割れ、ノイズが走る。視界不良にあっても、レイテは牽制の弾幕を張り懸命に後退する。仲間の援護が届く前に、タロスの後方に控えた大型キメラ達がプロトンビームの一斉射撃を放った。
 淡紅色の光が――レイテ機を飲み込む。

 レイテ機を失ったカーク隊。後退阻止のライン上に僅かな綻びが生まれ、そこへ、――キメラ達が殺到していく。

●参加者一覧

里見・さやか(ga0153
19歳・♀・ST
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
カララク(gb1394
26歳・♂・JG
大神 直人(gb1865
18歳・♂・DG
天小路桜子(gb1928
15歳・♀・DG
レインウォーカー(gc2524
24歳・♂・PN
天野 天魔(gc4365
23歳・♂・ER
月見里 由香里(gc6651
22歳・♀・ER

●リプレイ本文

●援軍の到着
 低軌道ステーションに向かうヴァルトラウテ達への追撃を阻止するライン上に穴が開く。
 好機とばかりに集結し、穴より阻止線の要であるメギドフレイムへと攻め入ろうとするキメラ達。
 戦線を再構築する時間を稼ぐために、UPC軍は即座にその穴へと傭兵の一部隊を送り込んだ。

「突撃型に紡錘陣を敷かれて砲撃型の支援を受けながら一点突破を狙われたら我々が到着する前に突破されるのではないかと、些か不安でしたが」
 飯島 修司(ga7951)の懸念は、杞憂に終わったようだった。
 傭兵部隊の眼前、展開する敵キメラの群れは、そのような陣形を組むではなく、全体で一個の目標に狙いを付けて、連携した攻撃を繰り返していた。
「これは‥‥指揮官のバグア自身に戦術が備わっていないようにも見受けられますね」
 目の前のキメラ達の動きとその統率の光景に加え、幾度か繰り返された本星艦隊との戦闘の記録。
 戦闘記録の中には、地球における高度な戦術的、戦略的な指揮が取られたという記録はなく、僅かに今回のような原始的な戦闘指揮が取られた記録があるのみだ。これは、本星艦隊所属のバグア共通の特徴だった。
「それにしても‥‥鬱陶しい数だ」
 カララク(gb1394)が表情には出さず、うんざりと吐露する。
 キメラの数は少なく見積もっても20以上、さらに旗艦であるメギドフレイムからの通信によれば、敵巡洋艦からここに向けて、追加のキメラが放出されつつあるそうだ。
「ロータス・クイーンが敵巡洋艦からこの戦域までの間に微細な重力波の歪みを感知している。まだ来るぞ」
 大神 直人(gb1865)が観測データから情報を整理し仲間へと提供する。
 同時に、カーク小隊と接近した事で通信回線が安定し、小隊を率いるジャネット・路馬(gz0394)から通信が届く。
 現状の詳細な情報が各機に送り届けられる。そして最後に、
「レイテ軍曹の乗機が、敵キメラ第一群の後方で大破している。パイロットの生死は不明だ」
 付け加えられた情報に、レイテを知っている者達が顔を歪めた。
(レイテは簡単にやられるような奴じゃないのになぁ)
 レイテが下手を打ったことに、レインウォーカー(gc2524)は疑問を浮かべ、その原因に、一人の少女のことを思い出す。
(ああ、そうか。もう一年経つのかぁ‥‥)
 余命一年を宣告されたレイテの妹、オリヴィエ。彼女の死がレイテに動揺を招いた、そういうことだろう。
「久しぶりの再会を喜べる状況じゃない、かぁ。――なら、喜べるようにしてやるさぁ」
 状況を把握して、嘲るような笑みを浮かべた。
「‥‥劇を最期まで立派に演じきった君に心からの賛美と賞賛を、オリヴィエ」
 天野 天魔(gc4365)が僅かの間、祈りを捧げる。
(レイテについては安心するといい。彼女は強いし、仮に死を選んでも周りはそれを許さないお節介ばかりだからな)
 カーク隊から回されたデータの、大破したレイテ機のマーカーを見つめながら、そんな優しいことを想った。
「レイテ軍曹はんの事も心配やけど、今はともかく襲いかかってくる敵を食い止める方が先決やからね。
 どこまでお役に立てるか分からしまへんけど、最善を尽くさせて貰いますわ」
 月見里 由香里(gc6651)が蓮華の結界輪を起動させて、波長放射ユニットを展開。バグアによる周囲のジャミングを中和させる。
 直人やカーク隊などの収集した情報に自ら得た情報を追加で上書きし、戦域の情報をよりクリアにしていく。
 敵指揮官機への突破口とする位置が絞り込まれる。
「攻撃の開始位置は‥‥ここですね。なら、私の動きとしては‥‥」
 真新しい機体、宇宙戦を始めてとする天小路桜子(gb1928)が微かな不安を胸に抱きながら、握る操縦桿に力を込める。
「まだ調整途中ですが、よろしくお願い致しますね」
 配置の再確認から機首をやや修正しつつ、愛機の天照姫へと言葉をかけた。
「一分、一秒でも多く時間を稼ぎます。ミィブさんたちが情報をくれた、低軌道ステーションを落とすために」
 里見・さやか(ga0153)が静かに、けれど決意を込めて言う。
 傭兵達の機体は加速する。
「まずは前衛の鼻っ柱に一撃を入れて、出足を挫くと致しましょう」
 それぞれの機体に備え付けられたミサイルが、機体を離れて噴射炎を棚引かせる。傭兵達の機体の先へ、前方に見えるキメラの群れへと吸い込まれていく。
 爆発の彩光は色鮮やかに、漆黒の宇宙に光の華を様々と咲かせる。
 戦いの狼煙となる合図は上がった。


 後方から来るミサイルを振り切ろうと加速する突撃型キメラ。しかし、追尾を振り切れず、その背部へとミサイルを食らう。大きな爆発が起きて、ぐらりと揺らぐ。
 揺らぎ、速度が落ちたところに、別のミサイルがキメラへと食らいつく。そうなれば、後はその場で爆発が連続するだけだった。爆光の輝きが失せた時、残ったのは、幾つもの爆発に身体を削られ、黒く焼け焦げたキメラの死骸。
「一つところに集まりすぎですね」
 桜子の感想と共に、同様の光景が十、二十と繰り広げられ、キメラの死骸が同じ数だけ生まれる。
 だが、キメラの生命力は強く、中には息の根を残すものも居た。響かぬ咆哮。かろうじて動く身体を最後の武器として、がむしゃらに護衛艦めがけて突撃していく。
「あんたはん、しぶといどすなあ」
 由香里がアサルトライフルで構え待っていた。狙いを澄まし、キメラの剥がれかけた装甲の隙間へと、銃弾を飛び込ませる。キメラはびくり、と脈打つように鳴動し、赤とは異なる色の血を吐いて絶えた。
 キメラの死骸が連なり、道となる。指揮官機まで辿り着くための突破口。
「作戦通り、指揮官機に突撃します」
 さやか、直人、レインウォーカーの三機が速度を早めて、開いた道へと飛び込んでいく。
「ふむ。数だけは本当に多いですね」
 開かれた道を閉じる様に残ったキメラが集結し始める様子を眺め、修司が一人ごちる。
 前衛へと出てきつつあった砲撃型の一体をバルカンの弾幕で制する。同時に放ったアサルトカービンの射撃が的確に砲撃型キメラの口の中に飛び込み、身体の内部から砲撃型キメラを食い破る。
 修司は冷静に敵の撃破を見極めて、次の敵へとその牙を向ける。
 ミサイルの全面攻撃に敵は大幅に数を減らし一気に脅威が減る――が、すぐに敵の増援が来た。
 数は突撃型が8体と砲撃型が9体。
「もう一度、やる」
 細かく移動しながら、カララクがGP−9ミサイルポッドで広範囲にミサイルをばらまく。爆ぜ、キメラと共に、プラズマの光が踊る。
「そないいっぺんに来られても困りますわあ」
 カララクの攻撃にあわせて、由香里もミサイルポッドを放つ。
 同時に動き、爆光に隠れ、機体を相手の正面から外し、死角へと回り込む。
 縦横からの攻撃。脇からアサルトライフルの銃撃を食らい、キメラの足が止まる。
 足の止まっている間に、桜子が敵を切り崩しにかかる。
「お相手願います」
 人型に変形した桜子機が砲撃型キメラの懐に飛び込む。ムーンライトで砲撃型キメラの喉元をなぎ払い、スラスターで距離を離しながら、プラズマの輪を止めの一撃と投げつける。
 円環の光刃は喉元の傷口から奥深くへと切り込み、キメラを果てさせた。
「来るぞ、カーク隊。準備はいいか?」
 カーク隊と共に位置し、レイテの穴を埋めるように天魔が位置を取る。
 修司、カララク、桜子、由香里。四人の迎撃を抜けたアンブレラの突撃を、天魔がカーク隊と連携して食い止める。
 敵の増援は多かったが、なんとか捌ききっていく。


 キメラの群れに開いた突破口より、さやかと直人、レインウォーカーの三機が指揮官への道を翔け抜ける。
 三人の先陣を切ったのは、ブーストによる加速で爆発的な速さを得たさやか機だ。
「ヴィジョンアイで指揮官機の観測を開始した。情報を送る、役立ててくれ」
 続く直人機がヴィジョンアイでタロスを捉える。ヴィジョンアイによる観測で得たデータは、仲間達に随時転送されて、タロスとの戦闘を有利に導く情報となる。
「捉えました。――仕掛けます!」
 突破口の中を突き進むと同時に、さやかは指揮官機のタロスをミサイルの射程におさめる。ロックオン。突破口を抜け切る前にミサイルを撃ち放った。
 ミサイルはタロスへと吸い込まれて、爆発する。爆発の輝きが失われる前に、さやか機はタロスを航過。一撃離脱に翔け抜ける。
 それを追ったタロスのフェザー砲の銃口がさやかを捉える。
「――そうはさせん」
 紫色の光線が放たれる寸前、直人がタロスへとレーザーを放つ。放たれたレーザーはタロスに躱されたが、さやかへの狙いをずらすことに成功する。
 狙いの逸れた紫色の光線は、宇宙の虚空へと消えていく。
「どこを向いているんだぁ」
 タロスがさやか機の後を追う前に、レインウォーカーが続き、機関砲でタロスの動きを牽制に入る。後方へ抜けたさやか機へと振り返りかけていたタロスが、その銃撃に視線を戻す。タロスは狙いをレインウォーカー機へ変えた。
 反撃のフェザー砲。伸びた紫色の光を掠めつつ、レインウォーカー機とタロスの距離が近づく。
 零距離。レインウォーカー機の翼とタロスの翼が交差する。レインウォーカーのウィングエッジによって、タロスの翼が半ばから切断される。
 タロスがレインウォーカーを追う間に、さやか機は反転を終えてレインウォーカーと入れ替わりにタロスへ攻撃を開始する。統率を取る暇を与えず、間断なく攻撃を続ける。
 さやかの二度目の航過の後、続いたレインウォーカーにタロスがハルバードを構えて迎え撃つ。
 レインウォーカー機は慣性を乗せたまま人型へと変形し、速度そのままに練機刀を構える。
 双方に近接の刃を振りかざし、ぶつけ合った。白色の光の刃が槍斧の金属と火花を散らして競り合う。
 血色のスラスター炎と不可思議な光を互いの後方に噴き散らしながら鍔迫り合いのように力押す。
「嗤え」
 二者の力比べに終止符を打ったのは、レインウォーカーの一手だった。超近接距離から真雷光波を放ったのだ。
 光の波と、雷撃がタロスを撃ち震わせる。
 それは、タロスにキメラの統率を失わせるのに十分な打撃となった。

●レイテ救出
 二度目の敵の増援。傭兵達に優先して狙われ、数を減らしていた突撃型が5体。その巨体としぶとさで突撃型に比べ数多く生き残っていた砲撃型が10体。砲撃型の数が大きく膨れ上がる。
 修司、カララク、桜子、由香里、そして、カーク隊と共に天魔が彼らの進攻を防ぐ。
 ミサイルを放ちながら移動を繰り返していたカララクが戦場の様子を見渡す。
 敵は倒しにくい砲撃型の数を大きく増やしたが、こちらは敵群を広範囲攻撃する術を切らしている。
 だが、レインウォーカーの攻勢でキメラの統率は乱れていた。
「ここしかない‥‥か」
 カララク機が機首をレイテ機へと向ける。ブーストでの加速により、大破し動かないレイテ機へと一瞬で間を詰めて、取り付く。
 損傷部位の隙間から薄暗いコクピット内を覗き込むと、レイテの姿が見えた。俯いたように顔が伏せられていて、表情は見えない。

『まだ生きてるかぁ? 生きてるのならそのまま生き続けろ。お前が死んだら哀しむ人がいるんでねぇ。ボクは、彼女には笑っていてほしいんだぁ』
 カララク機から送られた映像データを見たレインウォーカーが声を送る。レインウォーカーの言う【彼女】に微かに反応を示したように見えた。
『それに、お前の妹もお前に生きて欲しいと願っていたと思う』

『ククク、自分のせいで姉が死んだと知ったらオリヴィエはどんな顔をするかな、レイテ? 自らの死で己はおろか妹の死まで喜劇にするとは君は道化の才があるな、レイテ』
 続いた天魔の言葉に反応して、僅かにレイテの指が動いたように見えた。
 通信回線を通して見えたその挙動を見逃さず、天魔がにやりと笑みを深める。
『妹の生と死を無駄にしたくないなら死ぬ気で足掻け。同じ無様など道化でもそちらの方が俺は好みだ』

『妹さんの話は聞いた。俺はこんな性格だからその場限りの言葉であんたを励ます事なんてできない。――だが、一つだけ本心から言いたい言葉がある』
 眼鏡を中指で押し上げながら直人が言う。
『俺はあんたの妹さんについて、この道を選ぶきっかけを作った一人だ。だから俺は、あんたがこの選択をしてよかったと思えるようになるまで、あんたの力になりたい。――そう思えるまであんたに生きていてほしい』

『そうですよ。あなたは、妹さんが生きていたということを伝える生き証人。それは、簡単に失って良い命ではありません!』
 耳朶を打つさやかの声。俯いていたレイテの顔が、上がる。
「やぁ‥‥ねぇ。ちょっと寝てただけなのに‥‥皆、大げさなんだから」
 パイロットスーツの通信装置を使い、応答を返す。まるで、今、目が覚めたように振る舞いながら。
「脱出ポッドが壊れてるの。コクピットをこじ開けて貰える? この機体は破棄するから」
 カララクがコクピットの装甲に開いていた損傷から内部をこじ開けて、レイテは機体を脱出する。
 脱出する間、天魔の声が通信から聞こえていた。
『‥‥前にも言ったが君の人生は君の物。進むも止まるも辞めるも君の自由だ。だが如何なる答えを選んでも、君の答えを俺は肯定しよう。ま、暫く悩むといい。ずっと走り続けたのだ。休むのもいいだろう。その間自己と他人に問いかけどうするか決めるといい』
 レイテはそれを黙って聞いていた。
『‥‥それと守る側でなく守られる姫を演じた感想はどうだった?』
「たまにはこういうのも悪くないわね。楽でいいわ」
 肩をすくめ、カララク機の機体にしがみつきながら、通信を切る。未だ続く戦闘の光輝に目を向けながら、
「‥‥ありがと、ね」
 ぼそりと、感謝の言葉を吐いた。


 カーク隊の戦域へとキメラの増援が集中した結果、他の阻止ライン上ではUPC軍が優位に戦闘を繰り広げていた。
 カーク隊の戦域では、レイテ救出後も傭兵達が十分な時間を稼ぎ、結果として、阻止ライン上全体で優位な状況が続いたおかげで、UPC軍はカーク隊の戦域へと追加の増援を送る余裕を作りだせた。
 そして、低軌道ステーションの作戦が終了するまで突破を許す事無く、巡洋艦メギドフレイムの部隊は自らの役割をを無事に果たすことに成功する。