タイトル:【福音】前線の試作機マスター:草之 佑人

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/02/12 14:41

●オープニング本文


●救護船団護衛艦α
 救護船団アスクレピオスの護衛艦の一つ。護衛艦α。
 その格納庫でジャネット・路馬(gz0394)が一機のKVを見上げていた。見上げるその顔は、やや呆気にとられたような様相をしている。
 彼女の眼前にあるKVは、イカに似た形状をしていた。触手部分を入れれば、通常のKVの1.5倍の長さはありそうな異形のKV。
「これは‥‥?」
 ジャネットは護衛艦にて、ラインガーダー隊の小隊長を務めていたが、この機体については知らされていなかった。
 訝しげに眺めていると、機体のコクピットから見知った顔が姿を表した。
「あー、来たの、ジャネット。ちょっと報告が遅れたわ。ごめんなさいね」
 その見知った顔は、コクピットのハッチを蹴って、宙を漂いながらゆっくりとジェネットの前に着地する。
 ジャネットの小隊に所属する能力者レイテだ。
「レイテ、このKVは? 見たことが無い機体なんだが」
「これは、ドロームの新型――といっても、試作機ね」
「試作機?」
 オウム返しに、ジャネットが問い返す。
「そ、試作機。形式番号ACS-002C、機体名はクラーケン。なんでも、今度傭兵向けの販売がS-03とKMS-A4との三機での合同コンペになるらしくってね。せめて軍の方では採用させようと、売り込んできたんだって。是非使ってみてください、って鼻息を荒くしてね」
「戦場で試作機を使うなんて、大丈夫か?」
「広報の人の話だと、動作の安定性は完成機並を保証するそうよ。まあ、戦闘後に報告は欲しいらしいけど」
「そうか。なら、レイテの判断に任せよう。ヘラの攻略作戦には間に合いそうか?」
「整備の女子班と一緒に、今、絶賛最終調整中。作戦までには間に合わせるわ」
 いつもは完璧のレイテのメイクが、若干乱れていた。時間に余裕があまりないのだろう。
 それでも、こんなに熱心に試作機を使おうとしているのは、おそらく、
「で‥‥バックマージンはいくら貰ったんだ?」
「――な・い・しょ」
 レイテが手慣れた所作でウインクを返した。

●バグア宇宙艦隊
 バグアの宇宙巡洋艦の中、3m程の流線形の巨体を宙に泳がし、彼は通路を行く。
 時折、ヒレで通路の壁を蹴り、前への力と変え、進む。
 無重力の艦内を進む中、T字路になっている通路の先、曲がり角の向こうから、彼と同じ姿が現れた。
 巨体に似合わない円らな瞳が、彼に向けられる。
『ミィブさん、こちらに居られたのですね』
 ミィブと呼ばれた彼――傭兵達と一戦を交えた真紅の機体のパイロットは、声をかけた相手と顔を合わせて、勢いをそのまま、額と額を突き合わせた。硬い外皮の額同士がぶつかり、鈍い音が響く。彼ら独自の親愛の表現だ。
『何か用でもあったのかな。レプエ』
 きゅいきゅいという人には音とすら聞こえぬ高音で彼らは会話する。無重力の通路を二人、身体を重ね合わせながらランデブーするように回り、行った。
『リィブさんが、また、呼び出されていました』
『‥‥また、か』
 ミィブの触腕が、やや項垂れる。
『用件は、やはり――?』
『‥‥』
 レプエは沈黙する。だが、彼女の触腕の動きが答えを指し示していた。
『そうか‥‥。それで、リィブは今どこに?』
『この先の冷凍睡眠室に居ます』
『分かった。――レプエには、いつも世話になってばかりですまないな。礼を言わせてもらおう』
『いえ、ミィブさんの半身であれば、わたしにとっても家族ですから。なおのこと、ですよ』
 もう一度、嬉しそうに額と額を突き合わせて、ミィブは『少し行ってくる』と言い残し、行き先を冷凍睡眠室へと向けた。
 それを見送り、レプエは通路の宙をぼんやりと漂う。
 ――レプエ、ないてるのー?
 声が聞こえた。
『017‥‥わたしは、泣いてなどいませんよ。ほら、元気いっぱいです』
 項垂れていた触腕を大きく動かし、楽しそうなジェスチャーをする。
 ――つらいことがあったら、ないてもいいのよー。
『017は優しいですね。いつも、わたしを励ましてくれて‥‥』
 ――レプエはともだちなの。あたりまえなのー。
 レプエは、きゅい、と笑う様な声で一声鳴いた。そして、ミィブの消えて行った先を、ぼんやりと眺める。
『‥‥本当に、翼が風に乗る日は、来るのでしょうか』
 ただ、慣性に身を任せて、レプエは宙を漂う。

 暗い冷凍睡眠室。並ぶ幾つかの冷凍睡眠装置の光だけが、部屋の中で瞬いている。
 部屋の中に人影は一つ。3mの巨体を宙に浮かべながら、ただそこに一人佇んでいた。
『リィブ』
 部屋の扉が開いて、外から人がやってくる。流線形の巨体を宙に流しながら、ゆっくりと部屋の中へ進み、先の住人へと詰め寄って行く。
『ミィブじゃないか。どうしたんだい』
 リィブと呼ばれた男は、触腕を嬉しそうに動かしながら振り向いた。
 詰め寄ったミィブが勢いを殺して、リィブの傍に漂い始める。
『また呼び出されたと聞いた』
『ああ。近いのかもしれないね』
 リィブは感慨も無い様に答える。触腕に感情は現れない。理性で抑えているのか、それとも、既に感情を表す気力も無いのか。
 ミィブは話を切り替えた。暗い部屋の中を見渡し、言う。
『別れを告げにでも来たのか?』
 やや怒気を孕んだ言葉。冷凍睡眠装置の中、眠る者達は彼らと同じ姿をしている。
 その中の二つをリィブは交互に眺め、だが、何も口にはせず、黙る。
 静かな沈黙。装置の機械が出す音だけが、部屋を満たしていた。
 幾ばくかの時間が過ぎ、やがて、
『ミィブ――、僕の半身。僕に何かあったら、君の手で僕を彼の空に送ってくれないか』
『それは‥‥』
 【何か】あったら――、その【何か】がどういう事態か、それは言葉にせずとも分かる。
 だからミィブは、言いかけた言葉を飲み込み、――ただ無言で自らの額を、リィブの額に突き合わせた。

 悲しげに項垂れる触腕をリィブの視界から隠すようにして。

●前線突破
 幾つもの閃光が華と散り、命が瞬いては消えていく戦場。
 大型封鎖衛星ヘラを攻略するUPC宇宙軍中央艦隊の後方に現れたバグアの宇宙艦隊に対して、エクスカリバー級宇宙巡洋艦『ソード・オブ・ミカエル』を中心とした部隊が防衛を行っていた。
 戦闘は激しくも、防衛部隊は戦線を維持しつつ、戦域の外に位置していたエクスカリバー級宇宙巡洋艦『メギドフレイム』による敵後方への攻撃を待つ。
 しかし、維持していたはずの戦線に穴が空いた。
 それは、ほんの僅かな穴であったが、バグアの一部隊がその一点を突いて、前線を突破する。
 前線の奥、中央艦隊の後方には、支援を行う救護船団『アスクレピオス』があった。
「クッハッハ、デカい獲物がいやがるぜぇ。オレ様が落としてやんよぉ!」
 前線を突破したバグアの一部隊、その先頭を行く大型HWの中で、バグアの男が笑う。
 彼らが狙うは、救護船団旗艦ラス・アルハゲ。そして、その一部隊には、ミィブの乗る真紅の機体の姿もあった――。

『私が――皆を、リィブを護らなければ、な』

●参加者一覧

里見・さやか(ga0153
19歳・♀・ST
榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
エルファブラ・A・A(gb3451
17歳・♀・ER
色素 薄芽(gc0459
20歳・♀・SF
神棟星嵐(gc1022
22歳・♂・HD
風見 遥(gc6866
18歳・♀・DG

●リプレイ本文



「クヒヒ、本星艦隊のガズィーとは俺様の事だ! 貴様ら覚えておけぇ!」
 相手の恐怖を煽る様にオープン回線で名乗りを挙げて、ガズィーは視界に捉えた医療艦ラス・アルハゲへと迫る。そこへ、赤い新型機からきゅいきゅいと、甲高い音波の通信が入った。ガズィーはイラついた様に、わざとらしく舌打ちを返す。
 彼らは地球の言語とは可聴域から異なる言語で短い会話をする。
 やがて、赤い新型機は大型キメラ10匹と共に反転した。ガズィー達は、そのまま直進。ラス・アルハゲへと砲口を向ける。
「さぁ、おまっとさんだぁ。頼みの綱のお助け部隊は、フィーニクスってぇガラクタとキメラで止めさせて貰うぜぇ? ほぅら、楽しいお遊戯の時間の始まりだぁ!」

●追撃
「新型を積んだ医療艦が敵の新型に狙われている。こんなタイミングで出会わなくてもいいでしょうに」
 神棟星嵐(gc1022)が歯噛みしながら、悔しそうにぼやく。
「ですが、敵に易々と突破されてしまうなんて、不覚でした」
 彼らの前方、遙か先ではあるが追い縋る位置に、敵の小部隊が見える。
「あの見た事の無い赤い機体‥‥なるほど、あれがさやかさんが言っていた新型ですか」
 星嵐と並び敵を追いかける風見 遥(gc6866)が、敵部隊の中に赤い機体を捉えていた。
「先ずは相手の位置の把握、そして攻撃優先順位の設定と行きましょう」
 レーダーに映る範囲の敵を確認しながら、ロータス・クイーンを作動させる。重力波の情報が、モニター上の敵アイコンに追加されていく。
 戦闘態勢へと移行していく中、里見・さやか(ga0153)はモニター正面に捉えられた赤い新型機を食い入るように見つめていた。
「どうして、あの時‥‥」
 前回の新型機との戦闘時、わざと見逃がされた、そう感じた。その感覚は、勘違いではない。
「また、赤い新型機ですか」
 飯島 修司(ga7951)が、ふむ、と一つ頷く。
「以前の戦闘時、あの【消える】動きは何だったのでしょうな。どういった原理で消えているのか。‥‥まったくもって地球人類的な思考が通用しないことが多い」
 もう一度、頷く様に顎を引き、赤い新型機を見据える。
(皆一緒なの、ね。退けない事情があるのもお互い様か)
 はるか先の赤い新型機を見ながら、時枝・悠(ga8810)は前回の新型機との戦闘を思い出す。
「あるいは、その事情を取り除けば真に一緒になれるのか。なあ、017?」
 戯言だよな。少なくとも、戦場で口にする分には。そんな風に思う。と――、
 ――そうなりたいの。だから、だからめーなのよー。
 声が確かに聞こえた。以前の戦闘の時と同じように。
「‥‥いるのか?」
 ――あたしはいつだってここにいるのー。
 もう一度、言葉が返ってくると同時に、赤い新型機がこちらに振り向くのが見えた。
 同時に、オープン回線でのガズィーの発言が聞こえてくる。
「フィーニクス‥‥それがあの赤い新型機の名前ですか?」
 さやかがじっとフィーニクスを見つめる。
「こちらも二班に分かれましょう。α班は前方の赤い新型――フィーニクス達を抑え、β班がラス・アルハゲの救援に急行という形で」
 修司の進言に、即座に傭兵達がそれぞれの班を表明する。
「ピュアホワイトのもう一機は?」
 エルファブラ・A・A(gb3451)が周囲の味方の状況を確認する。
「あ、あのさっきから居ますよ?」
 存在感が薄くて忘れられやすい自覚のある色素 薄芽(gc0459)が返事を返す。
「敵進路出します、迎撃ポイント送りますね」
「‥‥ラス・アルハゲを墜とされる訳には行かぬからな。どこまでやれるかわからぬが、全力で当たる事としよう」
 榊 兵衛(ga0388)が加速を開始する。
「前を追わせないつもりのようです。突破口を開きますので続いて下さい!」
 星嵐がロヴィアタルをセットした。照準を合わせる。
「こちらも必死なので、道を譲って頂きます!」
 アグレッシヴファングを乗せたロヴィアタルが放たれる。
 淡紅色の光が瞬き、ミサイルと交わり、爆ぜ、戦闘の開始が告げられる。


 フィーニクス達を背後にして、HWとBF、中型キメラがラス・アルハゲへと向かう。
「そちらに向かう前に、貰ってもらえますか」
 修司機がラス・アルハゲに向かうBFを照準に収めにアウルゲルミルを四連続で撃ち放った。
「やはり本来の愛機と比べると鈍いか‥‥まぁ、やってみせるがな」
 同じタイミングで、エルファブラがK−02の照準を大型キメラにあわせて発射する。コンテナから500発の小型ミサイルが開放されて、それぞれに定められて獲物に突き進む。
 迎撃にフィーニクスとキメラの混成部隊が一斉に砲を放つ。
 飛び来る光の数は、十一条。距離がある為に、狙いは定められていない。アウルゲルミルの一発とK−02の数百は光に巻き込まれ光球の華を咲かせたが、残ったミサイル群はそれぞれの目標へと食らいつき、爆ぜる。
 星嵐の初撃に加えて、続いたミサイルの乱舞に迎撃の穴が開く。β班がその穴を駆け抜けて行った。
「目標捕捉、白さん見失わないようにがんばりましょう」
 薄芽がフィーニクスの観測を開始する。
 フィーニクス達のレーザー斉射を回避すると同時に、さやか機がフィーニクスに向けてミサイルを発射する。
 飛び来るミサイル諸共傭兵達を迎撃するように、フィーニクスを機転としたレーザー射撃が放たれる。
 さやか機は、再度のレーザー射撃を回避しながら、接近。詰めた距離からレーザーを放つ。――フィーニクスと交差する。
「――こちらからの通信、聞こえていますか?」
 すれ違いながら、さやかがフィーニクスに通信で問いかける。
「あなたは、前回の戦闘時、私にとどめを刺さなかった方ですか? ――もし、そうなら、お答えして欲しいことがあります」
 交差し、抜けた先で、さやか機が反転する。正面にフィーニクスを捉えた。
「あなたは、なぜ、あの時、私にとどめを刺さなかったのですか?」
 僅かな空白。フィーニクスからの返事はなかった。だが、
 ――みぃぶはね、やさしいのー。だから、わたしのおねがいをすこしだけきいてくれたの。
「この声‥‥それは、戦っちゃダメというあなたの言葉を、みぃぶ――あの機体の搭乗者が聞いてくれたということですか?」
 ――そうなのー!
 声は元気よく、嬉しそうに聞こえた。
「けれど、それなら、なぜ少しだけ‥‥?」
 ――それは、
 声が答えようとしたとき、フィーニクスのビーム砲がさやかにめがけて放たれた。
 避けるさやか機と入れ替わりに、修司機が追撃をかける。
 レーザーガトリングによる弾幕がフィーニクスを襲い、フィーニクスが貫かれたように見えた。
 だが、貫かれたフィーニクスはやがて消えていく。
「はわわ、きえそうです! 白さんヴィジョンアイです!」
 薄芽が自身の機体に情報収集をさせる。修司は消えていくのを確認し、すぐに次の手に移る。アサルトカービンで、進行方向と思える場所に偏差射撃の要領で撃ち込んだ。
 撃ち込んだ場所にフィーニクスはおらず、代わりに別方向から無傷のフィーニクスが現れる。
「さすがですね。こちらの常識は通じない」
 修司が感嘆するように相手を褒めながら、現れたフィーニクスへと続けて射撃する。
「こ、こちら薄芽です。消えたときの観測データからある程度の推測を立てました。重力波はほぼ検出されなかったですけど‥‥、消える前に、フィーニクスはなにかしらのエネルギーでダミーを生成していることがわかりました。本体はそれをカモフラージュにして高速で移動していて、消えたように見えている‥‥んだと思います。‥‥ま、間違ってたらすみません」
 薄芽がデータから分析した結果をまとめて、各機へと送る。
「こちらで記録した情報も送る。検証の役に立ててくれ」
 分析結果を受け取りながら、エルファブラも得た情報を薄芽へと送り返した。
「あ、はいっ。ありがとうございます。それと、機動の予測ですが‥‥すみません。こちらは、ほぼデタラメな機動で予測がつきません。慣性制御を行っているわけではないはずなんですが‥‥」
 ダミーを残して消えた二回の機動は、ともに異なる機動をとっていた。僅かにでも言えることは、こちらの予測軌道上を外すように機動しているということくらいか。
 だが、
「大収穫ですね。あれがダミーだと分かっただけでも‥‥いくらでもやりようがあります」
 修司が不敵な笑みを浮かべる。
 キメラ達が再度フィーニクスの指揮の下、淡紅色のビームを放つ準備を始めた。
 牽制するようにキメラ達を穿ちながら、傭兵達が果敢に攻めていく。



 フィーニクスと砲撃型キメラの迎撃網を飛び越えて、兵衛機、悠機、星嵐機、遥機が急襲を受けるラス・アルハゲへとたどり着いた。
 中型のアイスピックのようなキメラが、包囲したラス・アルハゲへと加速し突撃していくところだった。
 包囲網の中心点、突撃を受けるラス・アルハゲの艦上には、クラーケンが迎撃体勢を整えていた。二本の触腕を器用に360度全周囲へと向け、襲い来る敵へと順に狙いを付けて撃ち抜いていく。だが、数の多さは如何ともし難かった。
 周辺に布陣したラインガーダーの部隊も、中型HW二機を相手に援護へと回ることができないでいる。
 結果、ラス・アルハゲは何匹かのキメラの突撃をその身に受けることとなった。
 更なる追撃を加えようと、大型HWが余裕綽々でプロトン砲の狙いを定める。
 そこへ、後方からホーミングミサイルが襲い掛かった。ミサイルの直撃で大型HWの放ったプロトン砲は、狙いを外れ虚空を貫く。
「‥‥やはり、慣れた機体というのは良いな。俺の手足と同様に動いてくれる」
 長距離からのホーミングミサイルで大型HWを叩いたのは兵衛機。
 同時に悠の放ったラヴィーネが傷ついたBFと高速でラス・アルハゲに突撃を繰り返すキメラ四匹を捕らえて、爆発の華を開いた。
「鴨撃ちとは行かんか。薄給だってのに面倒を増やしてくれるな、全く」
 BFと中型キメラの四体が沈み、残った敵の動きが変化するのを悠は見て取った。
「応援に駆けつけました。数はそう多くありません。堅実に護りを固めましょう!」
 続く星嵐機がラス・アルハゲを襲う中型キメラへとガトリングを仕掛ける。
 兵衛機は既に距離を詰めて、中型HWをアサルトライフルで狙っている。
 中型HWはラインガーダーの牽制を受けながら、兵衛の攻撃に対して回避を行う。
 だが、中型HWが回避を行う間にも、兵衛は距離を詰める。一息に接近し、ウイングエッジで一気に中型HWの装甲を斬り裂いた。
「増援が来るまでの間、俺と【忠勝】にしばらく付き合って貰うぞ」
 星嵐機、兵衛機に続いて、悠機が加速し接近していく。
 撃った勢いのまま加速し、大型HWの正面、ラス・アルハゲへの斜線上へと飛び込む。
「遊んでくれよ。デカブツに目が行く気持ちは分からんでもないけど、さ」
 正面から交差するように大型HWへと自動歩槍による牽制を放つ。
「‥‥さて、あの本星型の急所はどこでしょうか?」
 交戦に入った三機の後方から、支援するように遥機がラス・アルハゲ付近の戦闘宙域に進入していく。
 複合ECMで捕らえた大型HWにヴィジョンアイを使用した。重力波の密度、中心点を探り、発振位置を絞り込んでいく。
 得られた観測データは、味方機に送られ、戦況を有利に導いていく。
 兵衛が中型HWを相手取ることで、ラインガーダーの一隊が中型キメラの突撃を防ぐ役目に回っていく。



 星嵐機が大型HWの射撃を掻い潜り、接触しそうな程の距離で変形する。
 大型HWの外周に沿って機体を流しながら、機剣を取り出す。接近した際の速度を乗せて、推進部を狙って貫き、斬る。
 取り付いた星嵐機を振り払うような大型HWの機動を受けて、星嵐は大型HWから離れながら、機体を飛行形態に戻していく。
「仕留めるのは任せます!」
 離れる星嵐機に代わり、悠機が大型HWに狙いを定める。
 悠の見つめるモニターにデータ転送のウィンドウが開く。正確に絞り込まれた慣性制御装置の位置データが転送されてくる。
「‥‥次はこの目標をお願いします」
 同時に遥からの通信。悠が頷いた。
「これ以上無駄弾は撃ちたくないしな。――さっさと終わらせようか」
 示された慣性制御装置の位置に、自動歩槍とレーザーガトリングの鉄と光の弾丸を織り交ぜ放った。
 装甲が削られ、奥の機器へと食い込んで破壊していく。小規模な爆発。
 大型HWが大きな損傷を受けたその時、メギドフレイムが、後方の援護へと接近してくるのが見えた。
「ちっ、でけぇ援軍が来やがったか」
 ガズィーは、大破しかけた大型HWのコクピットの中、重傷を負いながらも生きていた。援軍の接近に舌打ちをする。
「とっとと逃げっか。イルカ野郎は、残ったキメラと一緒に殿やっとけよ」
 メギドフレイムが到着するより前に、大型HWは退いていく。フィーニクスもまた、その殿を護り退いていった。



「てっきりあのプランはもう無理だったのかと思っていたのだが、ここまで進んではいたのか」
「これが空水宇宙対応の試作機ですか‥‥本当にイカですね」
 護衛艦の格納庫で、エルファブラと遥が整備中のクラーケンを眺めていた。
「なぁに? コレになんかご用って聞いてきたのだけど」
 戦闘後のデブリーフィングをこっそり抜け出してきたレイテが二人の後ろから声をかける。
「戦場でこの機体を見た感想を伝えようと思ってね。もう少し本体の命中・回避と触手レーザーの射程を向上させられれば使い勝手が向上するのではなかろうか‥‥と、担当に伝えておいてくれ」
「あら、レポートの手間が省けたわね。その提案でまとめて送っておこうかしら」
「所でこの触手のレーザー砲、固定装備なのでしょうか? ‥‥固定装備なら水中でも使えると良いのですが」
 エルファブラに代わって、今度は遥が質問する。
「通常の【SP】兵器と一緒の機構で動いてるから、もうバッチリだって。ま、カタログの話だけどね?」
 エルファブラは二人の会話を横に聞きながら、視線をクラーケンへと戻していく。
「しかし‥‥試作機を前線に送ってまで売り込みとは商魂逞しいものだな。先日のスキャンダルの分を取り戻したいのか開発室間の競争か何なのかは知らぬが」

 その後、二人の見学に付き合ってから部屋に戻ると、薄芽が部屋の中にいた。
「あ、す、すみません。イカさんのデータもまとめておいたので、て、提出しにきました。ど、どうぞ」
「あら、そう。それはありがとう」
 反射的に礼を述べたレイテと入れ替わりに薄芽が部屋を出ていく。
「あれ? 今、誰か居たかしら‥‥」
 礼を言った覚えはあるのだが、誰に何の礼を言ったのかぼんやりとしか思い出せない。レイテが自分の机の上に目をやると、薄芽のまとめた資料が置いてあった。