タイトル:【福音】救護船団【QA】マスター:草之 佑人

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/01/11 03:26

●オープニング本文


●救護船団アスクレピオス
 LHにあるドロームの支社ビル、その一つにジャネット・路馬(gz0394)は訪れていた。
 階を昇り、フロアを歩き、今、目の前には、会議室のドアがある。
「ここか」
 手元のメモと目の前の会議室の番号をもう一度見比べて、ジャネットは、ドアをノックする。
 中からの返事を聞いて、ドアをゆっくりと押し開く。
「失礼します」
 ジャネットが中に入ると、そこには、二人の女性が待っていた。
「お待ちしていました。ジャネット少尉」
 丁寧な態度で出迎えたのは、ジャネットの部下であるレイテ・スレイ軍曹。前に進み出て、背後に控えるもう一人を紹介するように身を捻る。
「こちらが救護船団アスクレピオス船団長、セシリア・トリンティスさんです」
 金色と呼ぶにはややくすんだ色合いの金髪。ややとろんと下がった目尻に、どこか眠たげな青い瞳。肌色の色味がかかった白い肌は、頬の部分がほんのりと紅を帯びていて、りんごのほっぺをしている。
 見た目の年齢は十代後半。若いというより、幼さすら感じさせる風貌だった。
「――お初にお目にかかります」
「こちらこそ」
 握手を交わしながら、もう一度、その顔をまじまじと見つめる。
「あら、私の顔に何かついていますか?」
「あ、いえ――」
「ふふ、もしかして、思っていたよりも年若くて驚かれましたか?」
 心を読まれたように、ジャネットは目を伏せて恥じた。
「いえ、その‥‥すみません」
「謝らなくても構いませんよ。若く見られるのには慣れていますから」
 セシリアがしばらくころころと喉を鳴らすと、表情を引き締めた。
「さて、急な話でしたが、お呼びした理由についてはご存じでしょうか」
「ええ、レイテから連絡を受けています。救護船団の護衛に我がカーク小隊の力を――それも、ラインガーダー隊として貸してほしい、と」
 応じる答えを聞いて、セシリアが満足そうに頷く。
「ですが、何故ですか。我々は本来、歩兵部隊であり、ラインガーダーの習熟訓練を受けた部隊ではない」
「そうですね。しかし‥‥あなたは聡明な人だと聞き及んでおります。心当たりがあるのではありませんか?」
「それは‥‥」
「軍事機密、ということですね。ならば、私の口からお話ししましょう」
 少しだけ残念そうに、セシリアは言葉を紡ぐ。
「現在、人類の攻勢によって、宇宙での戦闘は急速に拡大しております。しかし、地上での戦闘も終焉していない中、宇宙戦闘の習熟訓練を受けれた兵士は一握りのみ。その数少ないラインガーダー部隊も、先日の大規模作戦カンパネラ防衛にて、かなりの数を減らしていますつまり、攻勢を急ぐUPC軍にとって、救護船団などという後方支援の部隊に割ける戦力はない」
 ふっと、息を抜いて微笑みを浮かべる。
「――とまあ、この辺りは知り合いの受け売りですけれど。それで、私どもはせめて地上でラインガーダーを実戦投入した部隊に護衛として来ていただきたく思っています」
「いえ、あれはラインガーダーの試作兵装を使用しただけで‥‥」
「ですが――、貴女達は現在、ラインガーダーの習熟訓練にラストホープを訪れているのでしょう?」
 のほほんと聞くセシリアに、ジャネットはさすがに眉をしかめた。
「‥‥どこまで知っておられるのですか‥‥?」
 セシリアは優しげな笑みを浮かべて、返答とする。ジャネットは眉をしかめたまま、
「‥‥いえ、そうですね。違います、か。‥‥貴女はどこかで知ったのではなく、初めから知っていた。そういうこと、ですね?」
 相手の笑みは絶えない。
「いつからかは分かりませんが‥‥、私達がラインガーダー隊として救護船団に組み込まれる事は決まっていた。――決めたのは、貴女、いえ、貴女の背後の団体ですね?」
「正解です。やはり、貴女は信頼できる聡明な人です。ラインガーダー隊の一隊をお任せすると決めて良かった」
 僅かに素の顔を覗かせて、セシリアは安堵の息を吐く。
「ですが、それなら一つ疑問があります。――何故、わざわざ会いに?」
「一度、直にお会いしておきたかったのですよ。――軍人なんて、信じられたものではありませんから」
 ジャネットが「え?」と聞き返す前に、セシリアはもう一度手を差し出した。
「これからよろしくお願いしますね」


●救援要請
 数日の後、宇宙にジャネット達の姿はあった。もちろん、セシリアと共に。
 カンパネラから宇宙ステーションの一つを経由し、傭兵達の護衛も伴って、高速艇に乗り込む。
 行き先は、救護船団の旗艦となる、医療艦ラス・アルハゲ。
 ラス・アルハゲは、直前に北米直上の大型封鎖衛星ヘラの偵察艦隊に随行しており、合流予定はその任務からの帰還途中にある宇宙ステーションになる。
 セシリア達は宇宙ステーションで船団の護衛艦、救護艦の合流を待つ手はずになっていた。
 だが――宇宙ステーションへの到着を目前として、セシリア達はラス・アルハゲからの緊急通信を受ける。
 偵察艦隊とともに衛星への偵察中、バグア宇宙艦隊による急襲があり、偵察艦隊は大打撃を受けて撤退。撤退するラス・アルハゲは敵の追撃を受けており、救援を求む――と。


●朱の鳥
 ――それは、大きな獲物まで後500mを切った時だった。
 レーダーが右手から飛来する船を捉えた。こぽり、と液体に満たされたコクピット内に、泡が吐き出される。
 きゅいきゅい、と人の耳では聞き取れない音波を発し、その者は独りごちた。
『なるほど、あれがこの星の兵器か』
 イルカに似たそのパイロットは、身体に生えた2対の触腕を器用に動かし、機体の制動を行い動きを止める。
『気づいているのは――私だけのようだな』
 真紅の機体の周囲にいるのは、無人の小型HWや、宇宙キメラ達。彼らは、動きを止めた真紅の機体を気にも留めず、静止した宇宙艦に急ぐ。
『足止めが必要になるか‥‥なれば、それは私の役目』
 機体の向きを、右方へと変えようとした、その時、
 ――めー! めーなのー!
 頭の中に響く声。触腕がうんざりしたようなジェスチャーをし、一度機体の動きを止める。
『また君か。私には私なりの事情があり、それは君に解決できない事だと、‥‥そう説明しただろう?』
 ――けどけど、それでも、めーなのー! あのひとたちとたたかっちゃめーなのー!
『すまないな。君の忠告はありがたいが――そろそろ往かせてもらう』
 真紅の機体は、その場で反転し、その機首を右方よりの船――傭兵達の高速艇へと向ける。
 液体で満たされたコクピットの中、彼はひとつ呼吸を置いた。

『彼の空に在りし祖よ、我と我が半身を護り給え――』

 瞬間、朱の鳥は加速する。後方へ炎の尾が棚引き、流れる。
 真紅の翼の羽ばたきが――、傭兵達の目前に迫る。

●参加者一覧

里見・さやか(ga0153
19歳・♀・ST
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
ハンフリー(gc3092
23歳・♂・ER
ユーリー・ミリオン(gc6691
14歳・♀・HA
BEATRICE(gc6758
28歳・♀・ER
ミルヒ(gc7084
17歳・♀・HD

●リプレイ本文

●声が聞こえる
 敵影へと向かって高速艇から傭兵達のKVが発進していき、ユーリー・ミリオン(gc6691)の番になる。
 宇宙での戦闘が初めてとなるユーリーは、機体の制御に若干の手間取りを見せていた。
『――次はミリオンさんの発進になりますが、準備はよろしいですか?』
 オペレーターからの通信の音声に僅かに心配の色が滲んでいた。ユーリーはぺこり、とお辞儀を返して見せる。
「ユーリーはまだまだ未熟ですし、微妙に気後れもしています。でもこうして空高く飛べるのは楽しみでした。自身の力を発揮してやるべき事をやります」
 もう一度、お辞儀を返して、ユーリーは機体を高速艇から離脱させていく。
「騎士らしく、華々しく行こうか」
 後続のハンフリー(gc3092)がユーリーに続き、愛機のスフィーダで宙を駆る。
「見たこともない赤い敵機‥‥あれは、新型?」
 高速艇から離脱しながら、里見・さやか(ga0153)がモニター奥の赤い敵機を見据える。
「‥‥敵の正体が不明な以上、用心してかからねばなりませんね」
 全機が高速艇から離れ宇宙へと泳ぎ出した時、

 ――めー! たたかっちゃめーなのー!

 その宙域に居た全員が声を聞いた。
「声調のはっきりした心地よいリズムですね。どなたでしょうか」
 ユーリーが聞こえた声に対して感想を述べる。声はそれぞれに一番聞きとり易い声調・リズム・アクセントでもって届いたようだった。
「子どもの声、か? 何者だ?」
 ハンフリーがモニターを周囲に回し確認するが、新たな敵影はない。
「仲間の声‥‥ではないか。いくらなんでも幼すぎる。‥‥と、なると幻聴?」
 飯島 修司(ga7951)が高速艇の方に目をやりながら、自らの耳を疑う。
 同様に困惑する声が、高速艇の方でも飛びかっていた。
「あの赤い機体から?」
 赤崎羽矢子(gb2140)が聞こえた声を不思議がるように宇宙の端に見える赤い敵機に目をやった。
「何と戦うなと言うのか分かりませんが‥‥救護船団を防衛しないわけにはいきませんから‥‥」
 BEATRICE(gc6758)が敵群の侵攻ルートを予測立て、ルートへの先回りに機体を加速させる。
「こんにちは、めーさん。どこからの通信かは分かりませんが、この宙域で戦闘が行われるので退避してください」
 マイペースにミルヒ(gc7084)がBEATRICEに続き、機体の加速を開始しながら応答を返した。
 ――こんにちわなのー。あたしはだいじょうぶなのー。
「大丈夫なのですか? では、そのまま近づかない様にお願い致します」
 何事も無かったかのように会話を続けて、ミルヒは納得したようにこくりと頷いた。
 しかし、一方的な通告ではなく、返事があった事に皆の反応がやや変わった。
「とりあえず、人に物を頼むなら、名乗ったらどうかな。それとも、本当にめーさんっていうのかい?」
 時枝・悠(ga8810)が害はなさそうだと認識しながら、問いを返す。
 ――ごめんなさいなのー。あたしのなまえはね、017っていうのー。
「017? それが名前なのか?」
 先に行ったBEATRICE達と並びながらブーストの最高速度へと加速していく。
「どう言うつもり? それとも、何か訳有りなの?」
 ――みんないっしょなのー。だから‥‥だから、めーなのー!
「一緒? 何が一緒と――」
 応答する謎の声に皆の意識が取られ始めた、その時だった。
「えっ‥‥?」
 誰かの驚きの声が聞こえたのも束の間、一条の光が宇宙の暗闇を引き裂いて一直線に高速艇へと伸びた。
 光が高速艇に吸い込まれていく。高速艇がその身の一部を食いちぎられ、小規模な爆発が連続した。
 光に貫かれたのは、傭兵達の高速艇。高速艇の方から、急ぎ退艦する声が通信に混ざる。
「レーダー上の距離は‥‥1000m? 通常のプロトン砲よりも飛距離が長いのですか――っ!?」
 キメラの砲撃距離を測定しようとしていたさやかが、想定外ながら赤い新型の砲撃距離を測定した。
「セシリア艇、聞こえますか? そこはまだ砲撃の射程圏内です! 急いで離れてください!」
 警告を飛ばし、自らはブースト加速で仲間達と共にラス・アルハゲ防衛に急ぐ。
 赤い新型機は、長距離砲撃を放ちながらも加速を続けている。
 さやか機、修司機、羽矢子機がラス・アルハゲの防衛に向かう仲間達から離れ、赤い新型機へと機首を向けた。
 ラス・アルハゲを防衛する戦いが始まる――。

●朱の鳥、その翼
 赤い新型機が、翼を広げる。
 羽ばたきにも似た噴射光の棚引きを残して、対応に飛び出た3機へと直線で向かって行く。
「速い。流石新型‥‥或いは宇宙専用機、と言ったところですか」
 3機の先頭に立つ修司機がバルカンの照準を定めて、赤い新型を撃った。だが、赤い新型の機動は慣性制御を使わない機動で、慣れた感覚とは微妙な誤差が生じた。
 バルカンの弾幕が赤の翼を掠めるが、加速を加えて狙いを外しながら突撃してくる。
「――機動も鋭い。反応も良い。ああ。全く以って厄介」
 修司の嘆きにも似た仰々しい嘆息が口の端から漏れる。だが、
「実に厄介ではありますが‥‥連中の新型がこちらより上、なんてのは傭兵の間では常識なんですよ――」
 慣れた事だと、そう不敵な笑みを浮かべる。
「やっぱり、FFの光が出ない」
 修司機の先制攻撃を見ていた羽矢子は、独りごちた。大規模作戦で遭遇した時から感じていた違和感。この敵は、FFを持っていない。
 それがどういう事か、結論を出す前に、
「追撃いきます」
 修司の追撃にさやかがミサイルを放った。
 放たれたミサイルは、しかし、赤い新型のバルカンに撃ち落とされる。爆光を潜り抜けながら、赤い新型が迫る。
「そこで止まりなよ!」
 爆光を潜り抜ける赤い新型に、羽矢子がミサイルポッドの弾幕で前面を塞ぐ。
 前面を塞ぎ、勢いを削り落とす。その為に張られたミサイルの弾幕に、赤い新型はさらに加速を加えて突撃する。正面から来る小型ミサイル群に、バルカンで突破口を開きながら、最大速度で突き抜けた。そのまま、一気に距離が詰まる。
「少しでも多くの情報を引きだしたいところ‥‥では、これはどうですか?」
 200m以下の距離に接近した時、修司機がK−02を発射。続く追撃にアウルゲルミルを射出する。
 K−02の弾幕を前に、アウルゲルミルが後ろから追う。
 赤い新型がリロードしたバルカンを放ち、K−02を迎撃しながら、アウルゲルミルからの回避機動をとる。
 その機動を修司は確認しながら、再度K−02にアウルゲルミルの追撃を放つ。同じ様に回避を試みる赤い新型機。だが、修司は今回、十二式バルカンを赤い新型の回避機動の鼻先へ撃ち込んでいた。牽制としたバルカンの銃撃によって、赤い新型が足を止められる。修司は狙いを澄まして、スナイパーライフルを放った。
 ライフル弾は、完全に赤い新型の機体を捉えていた。事実、弾丸は赤い新型の姿を撃ち抜いたように見えた。しかし、撃ち抜かれたように見えた姿は、陽炎のように薄れて消えた。
「幻聴の次は、幻視‥‥ですか?」
 修司の呟きと、赤い新型機が修司の脇に現れたのは同時だった。
 その時には、赤い新型の固定砲の砲口が、さやかを捉えていた。砲口の向きに危険を感じたさやかがブーストで砲口の射線上から機体を強引に退避させる。
 赤い新型から放たれるレーザー。レーザーはさやか機の翼を掠めて、後方へ。
 そのまま、赤い新型とすれ違うように交差した時、さやか機が大きく揺れた。
 コクピット内に響くアラートは、機体の片翼ごと大きく機体を斬り裂かれたことを示していた。
「主翼ごと――」
 太腿のエンジンが片方潰された。機体のバランスもとれず、その制御に意識が取られる。
 大きな隙。その間に後方で反転した赤い新型機がこちらに向き直っていた。
 格好の獲物――撃墜される、とそう思った。だが、
「‥‥無事、なのですか‥‥?」
 赤い新型機は、さやか機に目もくれず次の目標へとへと向かっていた。機体の大破したさやかを置いて、戦闘が続く。

●キメラ侵攻阻止
 ラス・アルハゲへ迫るキメラとHW。敵は、ラス・アルハゲのみを目標として、無警戒に宙を泳ぎ進んでいた。
 先頭は、小型HW2機。その後に小型キメラ10体が続き、最後尾を大型キメラ2体がゆっくりと追っていた。
 彼らに先手を打ったのは、傭兵達だった。
「燃料に余裕があるわけではないので‥‥これで片付いてくれるとありがたいのですけどね‥‥」
 複合式ミサイル誘導システムIIと誘導弾用新型照準投射装置を起動したBEATRICE機が、K−02の照準を小型キメラ5体に定める。
 K−02のミサイルコンテナが開放され、数百のホーミングミサイルが獲物に向かって飛ぶ。
 キメラ達の進行方向斜め前からミサイルの弾幕が勢いよく降りかかり、無数の爆発を引き起こす。
 閃光が瞬き、小型キメラを食らっては華が弾ける。その段になって、敵群が傭兵達の接近に気づいた。傭兵達は一気に距離を詰めるように向かって行く。
「出し惜しみはなしだね。全弾叩き込んで、さっさと決着をつける」
 横合い、飛び出した悠がラヴィーネの射程内に敵群を収める。
「‥‥この静かな宇宙で大きな音を立てるのは気がすすみませんね」
 ミルヒは表情を変えず残念そうに、K−02の照準をラス・アルハゲに最も接近している小型HW2機と小型キメラ3体に合わせる。
 悠とミルヒが一斉にミサイルを放った。
 再度飛び来た数百のミサイル群に、敵群は迎撃の光条を放つ。淡紅色の光は、飛び来るミサイルを巻き込んで爆発の光を幾つも生み出しながら、傭兵達へと走る。
 傭兵達がHWと大型キメラの反撃に回避機動を行うのと、敵群が一斉に散開して回避を試みるのはほぼ同時だった。
 数百のミサイル群は光に蹴散らされ数を減らしながらも、敵の群れへと襲い掛かる。
 食らいつき、爆ぜるミサイル。連鎖する爆光の中をHWが抜け出てくる。
「くっ、中々じゃじゃ馬だな。だが、これしき!」
 ハンフリーがメテオ・ブーストの加速にやや機体を揺さぶられながらも、先頭のHWに狙いを付けて横合いから急襲するように十六式ミサイルを放つ。
 狙われている事を察知したHWは回避軌道に乗るが、間に合わない。
 HWの装甲に螺旋の穴を穿って、ミサイルは爆発した。
 爆発に揺れながらHWが反撃のプロトン砲を放つ――だが、
「その程度で、騎士の突撃を止められると思うか!」
 メテオ・ブーストの加速で狙いを外し、淡紅色の光を掠めながらもミサイルの照準を再度定めた。
「我が誉れの一部となれ!」
 爆発に揺れるHWに、ハンフリーがもう一度十六式ミサイルを放つ。二度目の直撃にHWは耐え切れず、一際大きな爆発の華を咲かせた。
 ハンフリーが続き、もう一機のHWとドッグファイトを繰り広げる。
「キメラを追い込みますので、後をお願いします」
 ユーリーがミサイルポッドによる弾幕を小型キメラに向かって放つ。狙いを僅かに外し、回避の方向を限定できる様に。
 小型キメラ達はユーリーの誘導に釣られて、作られた逃げ道へと逃げ込んでいく。
「それ以上艦には近づかせられないな」
 悠が追い込まれた小型キメラの中、突出したものから狙い、アサルトライフルの弾丸を叩き込んでいく。
 一撃を叩き込まれた小型キメラは、身体の半分が弾け飛び、宇宙に肉片を散らす。グロテスクな口を呻くように震わせながら、身を捻り逃げようとするが、
「ここでおしまいですね」
 人型に変形したミルヒ機が、逃げ道に蓋をするようにマルコキアスで弾幕を張った。
 数百の鉄の弾丸が形成する弾幕に、小型キメラは逃れられず、その身を穿たれては絶命する。
 KVに取りつく間もなく、小型キメラは為すすべなく撃ち落とされていく。
「‥‥キャリアはキャリアらしく‥‥と言ったところですか‥‥」
 仲間が小型キメラを包囲殲滅する間、BEATRICEが大型キメラに対峙する。
 大型キメラの砲口がこちらに向くのを避けるようにこまめな方向転換を行いながら、ミサイルポッドを発射する。
 向かって来るミサイルに対して、大型キメラ2体がプロトンビームを放ち迎撃すると共に、ビームの方向をBEATRICEへとずらして狙おうとする。
 だが、突如、大型キメラの1体が悲鳴を上げてのたうち、プロトンビームの方向が大きく外れた。
 大型キメラの目がライフル弾で抉られていた。
 BEATRICEのミサイルポッドは、それを囮として、スナイパーライフルでの狙撃を隠す事にあった。
 ミサイルポッドによる囮に、スナイパーライフルによる狙撃を織り交ぜて、BEATRICEは、翻弄するように大型キメラを追い込んでいく。
 それでも、2対1の状況に大型キメラのプロトンビームがBEATRICEの機体を捉えかける。だが、
「残るはそちらだけです」
 プロトンビームがBEATRICEを捉えるより先に、加勢に来たユーリーが大型キメラにライフルを撃ち込んだ。大型キメラの残った片目が潰される。
 同時に、もう1体の大型キメラを悠とミルヒが抑えにかかる。
 小型キメラはすべて倒され、残るは大型キメラのみ。小型HWとハンフリーのドッグファイトも、ハンフリー優勢で決着がつきかけている。
 戦いの趨勢は、既に決していた。

●撤退
「向こうの戦闘は終わるみたいよ。あなたはどうするの?!」
 羽矢子が赤い新型に問いかけるが、その言葉を無視して、赤い新型は羽矢子に向かって行った。
「――言って止まらないなら、力づくでも止めたげる!」
 G放電を足止めに放ち、羽矢子機がライフルで翼を狙って撃つ。だが、銃撃が穿った翼は、朧と消えた。
「また――ッ」
 今度は逃がさないと、周囲に視線を走らせる。
 しかし赤い新型は、今度は一息に自らの後方へと飛び退っていた。そのまま方向転換し、あっという間に逃げていく。
「連中の新型にしては、ユダやステアーなどとは毛色が違いますな。どちらかと言うと、FRやスノーストームに近い気がします」
 修司は既に点となった敵機を遠くに見やる。と、ふと、修司は思い出したように「ああ、そうでした」と、セシリア艇に回線を繋いだ。
「ラス・アルハゲに心療内科や脳神経外科はありますかね? 交戦前に幻聴を聞いてしまいまして」


●帰路
 撤退に無事成功した赤い新型機は、自らの母艦となる巡洋艦を遠くに見える位置まで辿り着いていた。
 レーダーを確認し、追撃を振り切った事を確認する。ふっ、と一息を抜くと、
 ――めーなのよー! こんどは、ぜったいにたたかっちゃめーなのー!
 声が届いた。
『そういうわけにもいかないのが、私達の苦しいところさ。――今回は、敵に止めを刺さなかった、それだけでも君の声に応えたのだと、そう考えて貰えると嬉しいのだがね』
 きゅいきゅいと可聴域外の音で喋りながら、赤い新型機は帰路を飛んでいく。
 彼に話しかける謎の声の主は、納得がいったようないっていないような微妙な思念を送り、――彼に触碗で苦笑を示すジェスチャーを返された。