タイトル:【NS】千の砲の雨が啼くマスター:草之 佑人

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/10/21 21:11

●オープニング本文


●戦況報告
 オタワの東――人類とバグアの機動兵器が空と大地に入り乱れ、火砲の飛び交う戦場。
 システム・ペンタグラムの雷光が雲を照らし、敵陣深くまで入り込んだ爆撃機が我先にと、巨大艦の上面を炎と熱波で埋めて行く。
 形勢が逆転し、徐々に押し戻されて行くバグア軍の後方。異形のギガワームが身動ぎするかのように機体を傾けた、その時。
 上空から飛来した長大な金属杭が、その上面を貫いた。
「総員に告ぐ、本艦はギガワームに突撃を行う。繰り返す、本艦はギガワームに突撃を行う。衝撃に備えよ」
 ユニヴァースナイト弐番艦内に響き渡る、艦長・覇道平八郎の声。
 爆炎閃く空を駆け現れた銀白色の艦に、人々は思わず息を呑んだ。
 ギガワームに深々と食い込んだ螺旋形の杭は、その後部より伸びた鋼線で以て、バグアと人類、双方の決戦兵器を繋いでいた。
 鋼線を巻き取り、後退する巨大艦を逃がすこと無く突撃して行くUK弐番艦。
 生き残った対空砲と護衛機が応戦するも、被弾を恐れず突き進む。

 轟音が空を揺るがし、続く盛大な歓声が、戦場と、飛び交う通信を埋め尽くした。
 空に浮かぶギガワーム。その上側面を、UK弐番艦の艦首ドリルが大きく抉っている。
 ギガワーム内部に頭を潜り込ませたUK弐番艦が艦内の歩兵を吐き出し、周囲に生じた破孔からは、突撃成功の報を聞き集まってきたナイトフォーゲル群が、次々と突入を開始していた。

●啼き雨の砲弾
 ギガワームに突き刺さったUK弐番艦。
 その先端のドリルでギガワームを抉り取った傷痕は深い。
 しかし、それでも、ギガワーム全体の大きさに比すれば、僅かなものだ。

 ――故に、ギガワームの身を覆う、千もの牙。対空砲は爆撃隊に破壊された一部を除き、健在だった。

 ギガワームから離脱を始めるUK弐番艦。孔の空いた艦橋の付近、ギガワームの砲弾が弾ける。吹き荒れる爆風。
「きゃあっ」
 壊れた艦橋、僅かに生き残った機器を前に、管制をしていたオペレーターが悲鳴を挙げる。
 爆風と共に弾けた砲弾からスライムが飛び散る。飛散したスライムは、艦橋の装甲に付着すると、徐々にその装甲を溶かしていった。
「くっ‥‥操舵手、なにをやっている。離脱はまだかっ!?」
 艦長の覇道平八郎が叫ぶ。
「今、やっています! もう少しだけ時間を――ああぁっ!?」
 操舵手が吠え返し、しかし、艦橋の至近で再度の爆発。今度は飛散したスライムが更なる爆発を嵐と巻き起こす。ちかちかするような閃光の海に、連なる爆音を撒き散らし、艦橋が揺れる――。
「――こちら、第三小隊。UK弐番艦付近の対空砲群を3つ潰した。‥‥だが、数にして十程だ。まだ、ゆうに五百は残っている‥‥っ」
「こちら、第五小隊。こっちも同じだ。数が多すぎるな‥‥被害が拡大し過ぎている。UK弐番艦は速やかな退避を頼む。持たんぞっ――」
 続々と、UK弐番艦に入る報告。揺れる艦橋で続く後退の為の戦い。
 死闘は、未だ続いていた――。

●なぜかそこにいるキミ
 ジェーン・ヤマダ(gz0405)は、なぜか、愛機でもないS-02に乗り、ギガワームの戦場を翔けていた。
「なぜ、私はここにいるのでしょうか‥‥」
 ふとした疑問が脳裏をよぎる。戦場の中、我に返って思う。
「すみません、ジェーンさん。ガルラさんが別件で居られないからと無理を言ってしまって」
 ジェーンのS-02と並んで飛ぶのは、ハリューという傭兵の少女の機体、サヴァーだ。
「あー、いえいえ、いいんですよ。私もまさか、乗機がないからと言っていたら、S-02を借りれるとは‥‥」
 開発室によれば、完成版簡易ブースト装置を積んだS-02を実戦の中で動かしてきてみて欲しいと言うことだった。
 試作型では、消費量が大きいため、大気圏内で簡易ブーストを使う意味は薄かった。だが、消費練力の低下に伴い、疑似慣性制御下での戦闘を長く行えるというのは、旋回に行動力を消費しないメリットに見合うものかもしれない。
 その辺りを試して来て欲しいと要望を受けた。――もちろん、そんな予算はないので、タダで。
 相手がドローム社ということもあり、何度も丁重にお断りしていたのに、開発室に呼び出された挙げ句、傭兵がダメなら能力者のジェーンにやってほしいと、藁をも縋る勢いで頼まれた。何が彼らをそこまで必死にさせるのか、あえて聞いてはいない。深い事情があるのだと思う。
 ジェーンの目の前には、スライム弾を吐き出す対空砲台群が、山と並ぶ。一個の砲口が、ジェーン機を狙っていた。
 慌てず騒がず、ジェーン機は簡易ブーストを起動。疑似慣性制御を発生させて高速で旋回し、スライム弾を避ける。ほむ、と後ろに過ぎ去ったスライム弾をジェーンは見送る。
「ま、とにかく、ロッテを組んで行きますよ、ハリュん。空を飛ぶのは久しぶりなので、なにかあったらよろしくお願いしますね」
「はい。全力でフォローさせていただきます」

●参加者一覧

比良坂 和泉(ga6549
20歳・♂・GD
神楽 菖蒲(gb8448
26歳・♀・AA
D・D(gc0959
24歳・♀・JG
エヴリン・フィル(gc1479
17歳・♀・ER
レインウォーカー(gc2524
24歳・♂・PN
ヨハン・クルーゲ(gc3635
22歳・♂・ER
リック・オルコット(gc4548
20歳・♂・HD
煌 闇虎(gc6768
27歳・♂・DF

●リプレイ本文

●砲火の雨の中へ
 戦場に飛び交う爆ぜる火の中、傭兵のKV部隊が対空砲台の破壊依頼を受けて飛ぶ。飛ぶは十の翼。
「また、盛大なお出迎えだね? 潰しがいがある」
 グロームbisのコクピット、リック・オルコット(gc4548)が見据える先には、飛び交う無数の対空砲火が見える。
「スコルピオ。久方だが、また頼む‥‥生きて帰る為に」
 続くD・D(gc0959)の呼び掛けに応えるように、スコルピオは逸る翼を青空に飛ばす。
「ジェーン。A班ハリューと相互距離・位置を確認し、各機の機体状況を把握共有してくれ」
「管制ですね。のんびりさせてもらいますよー」
 D・Dの指示にジェーンは各機の後方へと機体を下げていく。この後、5機ずつA班とB班に分かれて、対空砲台を別々に狙う為、AとBの管制にジェーン・ヤマダ(gz0405)とハリューの二機で当たる。
 煌 闇虎(gc6768)のワイバーンが下がるジェーン機の隣をすれ違いざまに通信を繋ぐ。
「この依頼が無事に終わったら後で紅茶淹れてやる、しっかり頼むぜ?」
「ふえ?」
 ジェーンが通信の画面へと目を向ける前に、
「怪我すんなよ」
 闇虎はぼそりと一言呟くと、映像を切り、音声だけの通信に切り替えた。囁くように言われて、なにやらジェーンが顔を赤らめて抗議していたが、画面に映るのはノイズばかりであった。
「二番艦をこれ以上やらせませんよ」
 隊の先頭をヨハン・クルーゲ(gc3635)が務める。対空砲台についた護衛HW3機を前にひきつけるように前に出る。
「ハリュー、B班との情報共有。それと電子支援頼んだわよ」
「は、はい」
 神楽 菖蒲(gb8448)の指示を受けて、ハリューは自機のジャミング中和装置の効果を確かめる。それを横目に菖蒲は、
「エヴ、被弾し過ぎないように」
 自機のフォローに回るエヴリン・フィル(gc1479)へと言葉を投げる。
「はい‥‥」
 エヴリンは多少の緊張を滲ませて答えた。改良の施された自機を戦場で駆るのは初めてになる。反応の多少違う操作感。覚える不安と期待。感覚に微調整を加えながら、菖蒲を追う。
「いつも通り。喰い散らかすわよ」
「‥‥進化した私達の翼‥‥御披露目です‥‥」
 菖蒲とエヴリンの二機が、比翼を並べて空を翔ける。

 ――砲火の雨の中、戦争が始まる。

●二枚の翼を
 対空砲群に接近するA班を護衛の中型HWと小型HWが迎え撃つ。
 迎え撃つHWを目視するも、対空砲への道を開けるために傭兵達は更に前へ。
「厄介な相手ですが‥‥此方としても退く気はありません!」
 中型HWに対して、比良坂 和泉(ga6549)が重機関砲を嵐と連射し、釘づけにする。
 和泉が先頭を押さえる間に、菖蒲が対空砲台三基と小型HW二機へK−02の照準を合わせる。
 中型HWの脇をすり抜けて小型HWが菖蒲に向かう。
「神楽さんの邪魔は‥‥させません‥‥それが私とリベリオンの役目だから‥‥」
 エヴリンが小型HWへ牽制を加え、続いてヨハンも小型HWへレーザーの光を走らせ、牽制する。
 押さえ込まれた護衛HW。十二分の余裕でもって、菖蒲はK−02の照準を合わせ終えた。
「踊っとけ」
 トリガーを引く。放たれるK−02の猟犬達。牽制を受けていた小型HW達の喉元へと食らいつき、更にその先、ギガワームの対空砲台三基へと向かっていく。
 幾つものミサイルが目標を捉え、爆発と共に食い千切る。
 爆煙の晴れた後には、半壊しかかった対空砲台と大きな傷を負った小型HWが見える。
「より取り見取り、とか言ってられませんよね」
 押さえていた中型HWの相手をヨハンに交代して、和泉は対空砲台へと狙いを変える。
 空対地目標追尾システムを起動させて、損傷した対空砲台へと追撃の一撃を狙う。
 和泉と入れ替わりにヨハンと空戦を繰り広げる中型HW。慣性制御で急激な旋回にヨハン機の脇をすり抜ける。
 ヨハン機を後方へ置き去り、砲台を狙う和泉へとその砲口をつける。
「味方の邪魔はさせません!」
 置き去りにされたヨハンがHBフォルムを起動して後方への旋回から、中型HWの後を追う。
 中型HWがプロトン砲を発射するのと同時に、ヨハンの放ったAAEMが中型HWに着弾。
 淡紅色の光線が和泉機に直撃するも、追撃をヨハンが封じ、和泉は対空砲台へと止めの一撃を放った。
「エヴ、後ろお願い」
 K−02に続き、菖蒲が対空砲台を狙って、速度を落とさず高度を落とし接近する。
「狙うなら‥‥こちらへ」
 エヴリンが菖蒲の後方を、追い縋る敵から守る。追う小型HWがエヴリンへとフェザー砲を放つ。
 放たれた紫色の光条。斥力制御スラスターによる高機動。合わせロールで、光が掠めるほどの距離ですれ違いに躱す。
「私の相棒、抜けると思う?」
 菖蒲の後方に引きつけられた敵機。菖蒲の発射した十六式は、正確に対空砲台を捉え破砕した。
「エヴ、前に」
 K−02と十六式のミサイルを対空砲台群に叩きつけて、菖蒲は旋回する。
「出ます‥‥」
 代わりに前へ出たのは、エヴリン。二機の目標は対空砲台から小型HWへ。
 エニセイで牽制するエヴリンに合わせ、菖蒲がツングースカで小型HW二機の間を割く。
「神楽さん‥‥6秒後です」
「了解よ」
 エヴリンと菖蒲が左右に分かれつつも、小型HWへの牽制を続ける。小型HW二機が、左右に分かれたエヴリンと菖蒲の内、菖蒲の方へと小型HWが向く。先程の行動に菖蒲への警戒が強い。
 その隙にエヴリンは、ミサイルの発射準備を整えている。6秒の経過後、即座にミサイルを発射。
 直撃した小型HWの一機が落ちる。ほんの十秒程の間に、対空砲群とその護衛の様相は半壊していた。

●瞬く間に
 A班が対空砲台群を一つ潰す間に、B班も対空砲台群を一つ潰している。
 次の目標へ向けてB班が機首を翻す。
「K−02を使用する。間違ってもボクの前に出るなよぉ」
 次の目標への接近に合わせ、レインウォーカー(gc2524)が宣言する。照準合わせは、対空砲台三つに小型HW二つ。
 レインウォーカーが照準を定めきるよりも先に、D・Dが護衛HW達にロヴィアタルを発射。閃光と爆発が千々と乱れて弾け、HWの動きを止める。
「レンジ内だ‥‥道を抉じ開けろ、スコルピオ‥‥」
 続けて放つ十式バルカンが中型HWを追撃する。D・Dを脅威と判断した中型HWがプロトン砲での反撃と共に、ドッグファイトを狙って急速接近する。
 ――中型HWが引き付けられて、対空砲台への道が生まれる。
 レインウォーカーのK−02が発射され、コンテナから小型ミサイルが解き放たれた。五百の猟犬は牙を輝かせて開いた道を駆けていく。
 護衛の小型HW二機が、まず、その牙の餌食となる。連鎖する小さな爆発に紛れ、脇を駆け抜けた猟犬は対空砲台へと食らいつき閃光を生む。
 リックが空対地目標追尾システムを起動させて、レインウォーカーに続く。
「伊達に対艦ミサイルやロケット弾を積んで来た訳じゃないってね」
 開いた道、爆発の生み出す花道をレールとして、ASMを対空砲台へと狙い発射する。
 疾るミサイルは、爆発の後に残る白灰の爆煙を突き抜けて、対空砲台へと突き刺さり破裂する。爆発が対空砲台を一つ吹き飛ばす。
「少し位、報酬上乗せして欲しいもんだね? まあ、やるだけやるさ」
 笑みを浮かべて、リックは次の対空砲台に狙いを定める。そして、リックが距離を詰めて次のロケットランチャーを準備し終えるより先、
「――GARMシステム起動! 【駆け抜けろ】ガルム!」
 闇虎機がスラスターの陽炎を揺らめかせながら、対空砲台の射程内へと飛び込んで行く。風を切り、進む闇虎機の機体各部に据え付けられたスラスターは、上下左右へと細かく、その軌道を無軌道に変化させる。
 射程内、飛び込んできた獲物に、対空砲台は狙いを定めてスライム弾を放つ。が、
「そんな直線的な攻撃で墜ちるかよ!」
 闇虎機はスラスターを噴かせての細かな軌道変更にスライム弾を躱す。後方で、赤色のスライムが弾けて華の様に散る。
 もう一基の対空砲台に向けて、リックがロケットランチャーの狙いを定める間、護衛の小型HW二機を相手にレインウォーカーが立ち回る。
 小型HW二機の連携にレインウォーカーが僅か対空砲台の射程に押し込まれる。射程に押し込まれたレインウォーカーに、対空砲台の一基が照準を合わせる。
 対空砲台の砲口に気づいたレインウォーカーは、即応しブーストからの加速に乱波を合わせて射出する。
 小型HWから紫色の線が二条、光と迸り空を駆けるも、重力波の乱れに照準を外す。加え、対空砲台のスライム弾がレインウォーカーの直近で破裂するも、スライムが付着する前に紙一重で抜けきる。
「悪趣味な武装だな、ホント。しかもそれが有効だっていうのがねぇ」
 レインウォーカーが包囲を脱出する。それとほぼ同時に、リックの放ったロケット弾八発が対空砲台へとめり込み、爆ぜた。
「これで、残すは後一基だね」
 リック達が残った一基の対空砲台を潰しにかかる。
 小型HWとの鬼ごっこにレインウォーカーが興じる間に、対空砲台は壊れ、D・Dが中型HWを落とした。残すはレインウォーカーの相手取る小型HWだけとなる。
「はいはい。それじゃ次に行きますよー」
 小型HWを残したまま、管制のジェーンが通信で全員へと呼び掛ける。
 D・Dの提案で、損傷した小型HW程度なら、残したまま次の砲台群を狙いにいくとしていた。
 それでも、残った小型HWが後ろから食らいついてくる。
 D・Dはバレットファストを起動して、その場で急回頭しライフルで小型HWを牽制する。小型HWの追い足を鈍めて、D・Dは仲間を追いかけて、加速する。

●タイムリミット
 D・Dがロングレンジライフルを先頭の護衛HWに向かって発射し、また、対空砲台への道を抉じ開ける。
「合わせて行くぜ!」
 闇虎がギガワーム表面に可能な限り水平にして、機体を横滑りにドリフトの要領で滑らせ、対空砲台へとロケットランチャーの弾頭を向ける。八連装のロケット弾を槍としてばら撒き放ち、対空砲台を貫きながら反転。
 樽の内側を綺麗になぞる様なバレルロールで機体を回転させながら、空へと離脱していく。
「こういう機動は‥‥てめーらだけの特権じゃねえ‥‥ぞっと!」
 小刻みに補助スラスターで機体を揺らして、敵の狙いを外して空へ駆け上がれば、ギガワーム体表、設置された対空砲台の一つがロケット弾の爆発に吹き飛ばされる。
 レインウォーカーは中型HWとのドッグファイトに、ブラックハーツを起動。
「面倒な奴はさっさと墜とす。いくぞ、リストレイン」
 火器を集中させ、中型HWに傷を負わせると、真雷光破で止めを刺した。
 中型HWが最初に落ちれば、後は一気に対空砲台を落とす。
 対空砲群をまた一つ潰し、B班は次の砲台群へと機首を向けた。D・Dが自機の残弾数を確認し、ジェーンに通信を開く。
「ジェーン。部隊全体でのミサイル残弾数と、各機体の損傷度は把握できているか?」
「ええ、ハリューさんと各種情報はリンクして把握できてますよー。ミサイル残弾数は残り半分を切り、損傷度は危険域に突入しているものはありませんが、全体的に二割程損傷していますねー」
 ジェーンの答えに、D・Dは頷く。
「多少早いが、A班と合流しよう。B班各機とA班とも連絡をとってくれ」
「はいはい。了解しましたよー」
 D・Dの提案を受けて、ジェーンがA班のハリューと連絡を取る。暫くして、
「えー、B班の皆さんに連絡です。A班と合流しますので、目標をD12からD14――三時の方向の砲台群に変更します。オーバー‥‥で、いいんですっけ?」
「雨歩き了解、と。その調子でしっかり働いてくれよぉ、ヤマダ」
 レインウォーカーからの返答を受けつつ、旋回。方向を変える全機に続き、ジェーンも合流へと機首を振る。


 A班にB班が合流し、総勢十機で戦闘を繰り広げながら、対空砲台群を次々と潰していく。
 ――潰れ損なった対空砲台が煙を噴きあげながらも、その照準をヨハン機へと向ける。
 HBフォルムからブーストを起動。旋回の機動が加速し、青い燐光がその軌道上に軌跡を残す。
 駆け抜けた後に残る燐光が弾けたスライム弾に覆われ、消える。
「少しでも砲台の数を減らさせてもらいますよ、ファイエル!」
 回避軌道から、機体を捻り込み、ヨハンはフィロソフィーのレーザーを掃射する。六つの光条が煙を噴き上げていた対空砲台を叩き、貫く。
 残りの対空砲台は、一つ。菖蒲は対空砲の射出したスライムの弾に、ファランクスで弾幕を張り撃ち落とそうとする。
 弾をファランクスの銃弾が捉え、弾けさせた。だが、弾けた弾は散弾状に飛び散る。菖蒲機とエヴリン機の進行方向にスライムの雨が蜘蛛の巣を張る様に広がった。
 直進すれば、まんまと蜘蛛の巣のど真ん中に飛び込む虫のように引っ掛かる。
「女王をナメるなッ!」
 菖蒲がRCTを発動させて、斥力場で横へスライドさせる様にして機体を右に回避させる。
 並ぶエヴリン機は、反対の左側へ同様に回避――。
 雨のようなスライムの幕はそのまま宙をすり抜けて下へと落ちていく。
 菖蒲とエヴリンが回避に動いた隙へ、小型HW二機が後方管制にあたっているジェーンとハリューへプロトン砲の砲口を向ける。
 横槍に小型HWがガトリングの弾幕を浴びせられ、ふらつく様に狙いを逸らした。淡紅色の光は、空を貫いて遙か後方へ。
 荒々しい銃撃に身を叩かれ、体勢を立て直そうとしたところに、スラスターライフルの一撃が貫いた。
「気をつけろよジェーン・ドゥ?」
「お前を落とされると色々面倒だしねぇ。それにお前を必要とする奴がいるんだろぉ」
 リックの弾幕に、レインウォーカーの一撃。小型HWが火を噴き落ちる。
 余った一機、小型HWの横腹を和泉が撃ち据える。プロトン砲の光が収束し放たれる前に、HWは爆発を起こして散った。
「ここまで、ですね」
 和泉は、視界の端にギガワームから離脱を完了しつつあるUK弐番艦を捉える。
 頃合いだ。
「――ハリューさん」
「はい。――A班及びB班全機に通達します。UK弐番艦の離脱が10秒後に完了します。当部隊はUK弐番艦と共に後退、ギガワーム直上より離脱します」
 管制を担当するハリューからの連絡。伝達された連絡の到達と共に、和泉は煙幕装置を周辺三方に射出。
 周囲に広く張り巡らされた煙幕の中、D・Dはロヴィアタルを置き土産に追い縋る中型HWへと放ち、反転して離脱へと移る。
 D・Dを最後方に、傭兵達は管制機の誘導を受けつつ、UK弐番艦と共にギガワームから離脱していく。


 UK弐番艦周辺のギガワーム対空砲群は、その数を大きく減少させ、UK弐番艦への追撃の砲撃を浴びせる事は出来なかった。大きく損傷した艦橋部を露呈しながらも、UK弐番艦は無事にギガワームから離脱していった。

 ――そして、余談ではあるが、作戦終了後、闇虎の茶を淹れるという約束について。
 闇虎の淹れた茶は、ジェーン一人にではなく全員に振る舞われた。
 これに対し‥‥ジェーンは口を三角形にして、すごく不満そうにしていた事を記しておく。