●オープニング本文

●待ち人来たりて
　オフィス街の表通りから、一つ通りを入ったところにある小さな喫茶店。
　その喫茶店の奥のテーブルに、ダブルのスーツを着た中年の男性が一人座り、待ち人を待っていた。
　髪に白髪の混じる中年の男性、しかし、中年と呼ぶには意気軒昂としていて、見た目に充実した気力は、壮年のそれと比較しても劣らない。
　彼は――リーセス・レスト。ドローム社ベルナール派の役員、その一人だ。
　やがて、カラン、と喫茶店の扉が開く音に合わせて、スーツ姿の男性が入ってくる。こちらは、30代前半の壮年。
　朗らかで、優しげな印象の男性だった。店内を一度見回し、中年の男性を見つけると、男性のテーブルへと歩いて行き、リーセスの正面に座る。
　ウェイトレスが壮年男性の注文を聞き、カウンターの奥に戻って行く。
「お義父さん‥‥なんとか、ULTに連絡を入れて、カフェとティーを逃がす為の依頼を出せたよ」
「そうか、ブレイク。‥‥よくやってくれた」
　リーセスを義父と呼んだ男――ブレイクは、息を一つ吐く。ブレイクもまたドローム社の社員であった。
　現在、リーセス・レストに連なる者は、ベルナール派として、ビル・ストリングス達バグア派役員達による監視下に置かれていた。
　いつ、命の危険に晒されるともしれない状況に置かれた一人娘カフェと孫娘ティー。リーセスは、娘婿のブレイクに頼み、カフェとティーをLHへと逃がす算段を考えた。
　これで、万が一においても、せめて愛しい娘達は、生き延びる事が出来るだろう。
「さて、お前の苦労を労ってやりたいところだが‥‥」
「いいですよ、お義父さん。二人でこうして会う事も、危険です。いつ、奴らに動きを気づかれるか」
　そうだな、とリーセスが腰を上げて、ブレイクの注文が来る前にテーブルを後にする。
　入口のドアから出ていこうとした時、新たな来客があった。黒い外套を纏った怪しげな巨漢。
　喫茶店の入口を塞いでしまった巨漢に、リーセスは、眉を顰める。人を探すように店内を見回した巨漢は、視界の下の方の二人に気づいて笑みを浮かべる。
「ああ、少しお待ちを、リーセスさん。ブレイクさん。お話があります、どうぞ、席に戻ってください」
　名前を呼ばれて促され、リーセス達は咄嗟に警戒した。
「誰だか知らないが、私達は急いでいるのでね。話は後日、社の方にアポイントを取ってからにしてくれないか」
「そうですか？　あなたの一人娘とお孫さんについてのお話、でも？」
　リーセスは動揺した。だが、動揺を腹の底に押し隠し、なんでもない風に装うのは慣れている。
　ポーカーフェイスで巨漢の目をみやる。
「急いでいるのは本当なのでね。用件だけ聞かせてもらおうか」
「せっかちですね。まあ、いいでしょう。そちらのブレイクさんがULTの方へ出した依頼は、私達の方で撤回させていただきました。護衛が必要なら言って下さればよろしいのに。いくらでも護衛をつけさせた頂きましたよ？　――キメラの、ね」
　血の気の引く音が聞こえた。それが自分のものか、隣のブレイクのものか、リーセスには分からなかった。
「そんな‥‥気づかれていたなんて‥‥」
　ブレイクが悔恨にも似た呟きを放つ。目を細めてブレイクを見る。――ブレイクを責める気にはなれない。ブレイクを責めても仕方がない‥‥、事実、私はブレイクならば出来るだろうと任せたのだ。
　むしろ、責められるべきは、相手を甘く見た自分にある。
　リーセスは、眉間にきつく皺を寄せて目を閉じ、唇を噛んだ。
　巨漢の男のあざ笑う声。目眩がする。
「ここで待っていてください。すぐに娘さん達は連れてきてあげます。――まあ、あなた達が一目見て娘さん達だと分かるかどうか、知りませんけどね」
　男がリーセス達を置き去りに去っていく。無力感に打ちひしがれ、リーセス達は一歩も動けなかった。ただ――、
「カフェ、ティー‥‥どうか無事に逃げ延びていてくれ‥‥」
　慟哭にも似た祈りを、儚くも神に捧げるのみである。

●撤回された依頼
　依頼受付のカウンターに身を乗り出して、オペレーターに迫る。
「――ドロームのお偉いさんから依頼が来たって本当！？」
　勢い込んで、ULTの依頼受付窓口にやってきたのは、サァラ・ルー（gz0428）だ。
　口をへの字に曲げて、あからさまに面倒くさそうな顔をするオペレーターは、ジェーン・ヤマダ（gz0405）。
　ちょっと向こうに行ってくださいと、押し返して定位置へ。だるそうに溜め息を一つ。
「少し落ち着いて下さいね。残念ながら、サァラさんが来られない間に、出発してしまいました」
「え‥‥？」
「あと、ドローム社の方からの依頼ですが、お偉いさんかどうかはっきりとは分かりません」
　眠たげな瞳を気だるげに細め、少し声を落とすようにサァラに促す。
「‥‥分からない？　って、どういうこと？」
　出発したという話に困惑をしながらも、サァラが声を潜めて、ヤマダ――オペ子に聞き返した。
「‥‥実は、この依頼なのですが、ドローム社の方がよく使われる代理人――その方からの個人的な依頼、という形を取っているのですよ」
「じゃあ、個人的な依頼じゃないの？」
「それは――、依頼で護衛の対象とされている方が、ドローム社役員のご家族であっても、ですか？」
　オペ子の問いかけ返しに、サァラは首を捻る。
「どういうことよ‥‥？」
「つまりですね‥‥」
　オペ子がかいつまんで事情を説明する。サァラは、その内容をうんうん、と頷いて首を捻る。
「えっと、つまり、役員の家族が護衛を依頼してるってこと？　それも、代理人の個人的な依頼とか、遠回しな手順を踏んで」
「おそらくは、そういうことです。それにこの依頼‥‥今、依頼人から、撤回の願いが出てるのですよね」
「なんだか、さらにややこしいわね‥‥。どういうこと？　間違いだったの？」
「詳しい事情は分かりません。‥‥ですが、まあ、なにやらきな臭いですよね。役員家族の護衛依頼が出たのに、それをすぐさま撤回するというのは。今のドローム社の現状を考えますと」
「それは‥‥」
「まあ、それで‥‥この依頼の撤回なんですがね？　実はもう一つ問題がありまして‥‥」
「まだ何かあるの？」
「ええ、最初に申し上げましたが――実は、私がちょーっと忙しかったので、ついつい撤回を後回しにしてたら、傭兵の皆さまが受けてしまわれたようで、しかも、すでに出発してしまわれたようなのですよね。撤回の連絡に私が行かなければいけないのですが、ここも忙しいですし‥‥」
　困ったものです、とわざとらしくお手上げの状態で困った様に首を振る。
「‥‥へぇ？」
　オペ子の意図するところをサァラは理解した。
「――じゃあ、あたしが代わりに行って来てあげようか？」
「おー、それは、出来れば是非。けど、いいのですか？　報酬は出ませんよ？」
「いいの。あたしとしては、用があるのはお金の方じゃなくて、――その役員の家族って方だから」

●参加者一覧

●リプレイ本文

●合流
「――なんとか、追いついたわね‥‥」
　肩で息を吸うサァラ・ルー（gz0428）の目の前、傭兵達は自前のジーザリオを高速艇から降ろして、乗り込むところだった。
　その姿に気づいた風代　律子（ga7966）が、顔を向ける。
「久しぶりね、何を急いでるのか知らないけど、あまり無茶はしちゃダメよ」
　ジーザリオに乗り込みかけた足を止め、荒く息を吐くサァラに律子が心配そうに声をかける。
「はいはい。分かってるわよ。けどその話は後よ、律子。それより聞いて欲しい事があるの」
　息を整えながら、サァラは今回の依頼について、護衛対象の事を話し始めた。

「コールサイン『Dame Angel』。代理人から依頼されたドローム重役家族を速やかにLHへ保護するわよ」
　アンジェラ・Ｄ．Ｓ．（gb3967）がサァラの依頼撤回の下りについては聞かなかったふりをして肩を竦める。
「俺はバイクで先行させてもらおう」
　須佐　武流（ga1461）は、バイクにまたがり先に出発しようとする。
　それを――、
「――待ちなよ！」
　御剣　薙（gc2904）が呼び止める。
「何を勝手に単独行動しようとしてるのさ！　一人で行く理由を言って行きなよ！」
「――時間がない」
　一言だけを言って、バイクをターンさせる。
「‥‥この、ちゃんと説明していけ！」
　一人先行する理由を説明もしない武流に、薙が殴りかかる。
　だが拳は、武流ではなく――、
「‥‥っ」
　――間に割り込んだサァラの頬を捉えた。
「‥‥先に行く」
　淡々とバイクを発進させる武流に、薙は声をかけそびれた。それでも、追おうとした薙をサァラが止める。
「待ちなさいよ。あんたまでどこに行く気よ。喧嘩なんかしてる場合じゃないでしょ！」
　サァラが怒りを露わにして薙を呼び止める。
「あいつも――何考えてんのよ。もしも、何かあると思って急ぐなら、単独行動なんかしちゃダメでしょうが‥‥！　本当に何かあったら、死ぬわよ‥‥っ」
　能力者の傭兵は、人並み外れた力を持つ――だが、それゆえに、傭兵の死亡原因に『能力を過信しての単独行動』が挙げられる事は多い。
　”もしも”の事は、誰にでも起こりうる事だ。たとえ、ベテランの能力者であっても。
　――たとえ、先の未来を知り得ていたとしても。
「俺達も急ごう。――どうにもきな臭い」
　九十九　嵐導（ga0051）がアンジェラのジーザリオに乗り込む。
「サァラさんは、私のジーザリオに乗ってください」
　運転席の窓から顔を覗かせて、春夏秋冬　ユニ（gc4765）がサァラを呼んだ。
　なんにせよ、まずは合流場所へ、急ぐ。

●鳥
　金属が曲がる鈍い音。鳥キメラの嘴が振り下ろされ、車の天井がまた一段と低くなる。
「ひくっ‥‥」
　目の端を潤ませて、少女が母の胸の中に顔を潜らせる。
「大丈夫‥‥大丈夫だからね。ティー‥‥」
　少女の母は、自分の手が震えるのを必死にこらえて、娘の頭を優しく撫でる。
　依頼の護衛対象である母子は、待ち合わせ場所に車で居たところを鳥キメラに襲われていた。
「大丈夫か‥‥くっ‥‥」
　最初に護衛対象との合流地点に辿り着いたのは、先行した武流だった。
　バイクで近づいた武流は、狙いを変えた鳥キメラの群れに襲われる。
　包囲され、避けた先には別のキメラの嘴が待ち構え、間合いを図る為の牽制は、突き出した拳や蹴りの反対側の身体を嘴で突かれ、狙いを逸らされる。
　――数の暴力に、武流が苦戦する。
　だが、そのうちのキメラの一匹が、横から翼を矢に射抜かれ、悲鳴と共に地面に落ちた。
　続けざまに三本。矢は次々とキメラを捉える。
　飛び来た矢の先を見れば、櫻小路・なでしこ（ga3607）が遠く、輝く弓を構えていた。無言でキメラ達を見据え、更なる矢を放つ。
　同じ方向から、今度は、無数の銃弾がキメラに向かってばら撒かれ、キメラ達を貫く。
「さあ、こっちを向きな」
　SMGを構えて、引き金を引くは嵐導。合わせてサァラが、一体ずつ狙撃する。
「キメラの頭は押さえておくわ」
　嵐導、サァラと共に、アンジェラが制圧射撃で鳥キメラの群れの動きを止める。
　銃撃の雨に、空へ飛び上がるのを押さえられたキメラへと、ウルリケ・鹿内（gc0174）が走りだす。
　アンジェラは制圧射撃で撃ち尽くしたアサルトライフルを即座にリロードし、走るウルリケを援護する。
　その後方から、薙がバイクで加速し一気に車へと接近していった。走行から変形し、AUKVを装着。地面との接地に足のブレーキが火花を散らす。
「はああっ！」
　ブレーキターンの終点。飛び上がり損ねた一匹を勢いを乗せ蹴り飛ばした。
　開いた隙間から、律子が瞬天速でキメラ達の中心に飛び込み、キメラの翼の付け根をナイフで切り裂く。後は、地に落ちて再び飛び上がろうともがくのみ。
「命までは取らないわ。じっとしていなさい」
　律子と同時、ユニもまた、瞬天速で車の側面へと駆け寄る。車体側面に居たキメラを大剣で素早く連撃に斬り伏せる。
　車の割れた窓から中を覗きこみ、そこに母子の姿を確認する。
「大丈夫ですか？　助けに来ましたわよ！」
　声をかければ、車内からは小さな女の子の泣き声が返事に返ってくる。
　ウルリケが鳥キメラの側面に回り込みながら薙刀で斬り払い、翼を半ばより斬り落とす。
「状況は芳しくないですが‥‥。ご無事な様ですね‥‥」
　表情には出さず、微かに安堵する。ウルリケの横で、ユニが大剣を前に盾のように突き立て、キメラ達を迎え撃つ。
「――さぁ、お二人を守り抜きますわよ！」

●高速艇へ
　傭兵が揃い、程なくしてキメラの脅威は去り、壊れた車から母子が救出される。
「初めまして。ワタシ達は護衛の依頼を受けた傭兵よ」
　アンジェラが軽くウィンクをして、二人を車内から引き出す。
「お迎えに上がりました。もう、大丈夫ですよ」
　なでしこが凛々しい笑みを浮かべて、ミックスジュースと烏龍茶を差し出せば、同時に、
「もう安心していいわ」
　息を合わせたかのように律子が、フルーツ牛乳とココアを二人に差し出す。
　二人が顔を見合わせる。――助け船は、カフェの後ろで二人をじっと見ていたティーから出された。
「ねぇねぇ、ママ。お飲み物、もらってもいーの？」
「え？　え、ええ」
　母親に許可を貰って、娘のティーは嬉しそうに二人に手を差し出した。貰った中から、甘くない烏龍茶だけを母親に渡し、にこーっと笑う。少し前まで泣いていたのに、子供らしくころころと表情が変わる。
「すみません。祖父が、その、甘やかすもので‥‥」
　それから、カフェとティーは緊張で渇いた喉を潤しながら、あちこちの擦り傷になでしこと律子の治療を受ける。
　治療を受けている間に、ユニが二人を高速艇のある場所まで運ぶ為に、自らのジーザリオを回して来ていた。
　治療を終えた二人は促され、ユニの車に乗り込む。
「高速艇まではもう少しあるわ。まだ喉が渇くようなら、これも飲むといいわよ」
　アンジェラは、紅茶の入った水筒を渡す。入れ替わりに律子が、ティーに近づく。
「ティーちゃんは、まだ飲み物があるようだし、これをあげるわ」
　道中、気を紛らわせられるようにと、かざぐるまをティーに渡す。
　初めて見る玩具に、おっかなびっくりティーは興味を示す。
　カフェとティーの二人を後部座席に、助手席にはサァラが乗り込み、準備は整った。
　アンジェラがユニの前の車両、なでしこが後ろの車両に分かれて、真ん中のユニの車両を護るように配置につく。
「さぁて、ちょっとドライブに行きましょうか」
　ユニがバックミラー越しに母子を安心させるように、軽く微笑みを浮かべた。

●追手
　高速艇までの最短コース、カフェとティーの乗るユニの車両を護衛して、アンジェラとなでしこの車両が前後に並ぶ。AUKVをバイク形態にして乗る薙は、ユニの車両側面を並走する。武流は、一人バイクで先行して各種警戒に当たっていた。
　アンジェラが前方の障害に注意を払い、嵐導が探査の眼と共に双眼鏡を使いながら右の周囲を警戒し、ウルリケが左を警戒する。
　薙はバイクで並走し、エネルギーガンを片手に、側面警戒に当たる。
　対して、ユニの車両の中では、ティーが一所懸命にフルーツ牛乳を飲んでいた。
　その様子をミラー越しに眺めて、ユニが笑みを零す。
「ふふ、なんだか、自分の娘の小さい頃を思い出しますわね」
「ユニさんも、娘さんが居られるのですか？」
「ええ」
　母親二人で、自分の娘という共通の話題に、雰囲気を和ませる。
　だが、高速艇までの道程を中程まで進んだ頃、
『各車両へ、三時の方向だ。――来るぞ』
　嵐導が探査の眼で発見した違和感に、無線で各自へと連絡する。
　ユニがカフェとの会話を続けながらも、意識の一部を奇襲に備えさせる。
　嵐導の連絡からすぐ、右手の建物脇から猛スピードで車を追いかけて一人の男がきた。
　人間にはありえないスピード。薙がすぐさまエネルギーガンを牽制に放ち、武流がバイクで体当たりするように男に突撃する。
　アンジェラが車線をずらし道を空け、ユニの車両を先行させ、自らは道を塞ぐように車を停める。
　なでしこの車両も、男が追い掛けるのを塞ぐように車を停める。
　武流のバイクの突撃とアンジェラ、なでしこの車両を避けて、ユニの車両を追いかけようとする強化人間。
　嵐導が奇襲の察知から用意していた閃光手榴弾を、仲間への合図と共に投げる。
　駆けていくユニの車両後方で閃光が弾ける。
「――少し飛ばしますわよ！」
　その隙に、ユニはアクセルを踏み込み、加速した。高速艇へと急ぐ。男の攻撃を警戒し、ジグザグと緩急のランダムパターンで走れば、カフェ達が振り回され、小さく悲鳴をあげる。申し訳なくは思いながらも、それでも、念の為の回避行動は怠らない。
　薙はユニの車両の右側面を護りながら、共にその場を離脱する。
「‥‥おやおや、せっかちな人達ですね。挨拶もせず行ってしまわれるとは」
　後に残された巨漢の男――強化人間が、駆け逃げたユニの車を見送り、嘆息を吐く。
　その足元を銃撃が穿つ。眉を潜めて、強化人間は銃撃を放った者の方を向く。
「‥‥昔のB級映画にあったな、こんなシーンが」
　嵐導がアンジェラの車から降りながら、牽制射撃を続けて強化人間の動きを制する。
「何の用かしら？　あいにく車に貴方の乗れるスペースはもう無いわよ？」
　律子もまた、母子を追わせないように強化人間の相手をする為、車から降車し迎え撃つ。
　これ以上、母子に怖い思いをさせるわけにはいかない。
「‥‥それにしても、彼女達の護衛依頼は撤回しておいたはずなのに、何故、君達傭兵がここにいるのでしょうかね」
「何で俺達がここにいるかって？　聞くだけ野暮だぜ？　バグアって巨大なゴミの掃除は‥‥俺の仕事だからな‥‥！」
　武流が一歩前に出る。
「我々の動きに、いつ、君達が気づいたのか。教えてもらいたいものですね、今後の為にも」
　強化人間は肩を竦める。動きを止めて、囲いを抜ける機会を窺う。
「一応聴いておくぞ‥‥お前は誰の命令で動いている？」
　停滞に、嵐導が問う。
「答えると思っているんですかね？」
「‥‥いいや？　だが――、一応、な！」
　手に持つSMGを発砲。強化人間がそれを避けて、正面、一気に距離を詰めてくる。
　アンジェラが制圧射撃で強化人間の速度を削ぐ。
　迎え撃つ接近戦に、武流が迎え撃つ。嵐導が強化人間を直接狙う動きから、武流の動きをサポートする援護射撃へと切り替える。
　動きの押さえられた強化人間の突撃を武流は残像で引き付け、カウンターに拳撃を放つ。
　強化人間が拳撃を受け止め、防御した時、間合いを図られる前に、ウルリケは走った。
「一旦、動きを引きつけます‥‥。其の隙に‥‥」
　強化人間の側面へ素早く回り込み、赤く煌めく刃を脇に目掛けて疾らせる。振るい、廻して、斬り上げに脇の防御を誘う。
　それを強化人間は躱し、払って、逆に踏み込み、ナイフでウルリケを斬り払う。飛び退きながらも、服の胸部分が斬り裂かれ、ウルリケは白い肌に赤を滲ませる。
　一気にウルリケを叩き潰そうと、間合いを詰める強化人間に嵐導が制圧射撃を加える。
　一連の間に、律子が瞬天速で強化人間の背後へ回り込む。それを援護するようになでしこが、正面から射撃で強化人間を狙う。背後へ回る律子へ強化人間の反応が遅れる。
　高速機動で相手に振り向かれるより先、背後より相手の腱を狙う連撃が線となって輝きを残す。狙いは行動不能。無闇に命を奪うつもりはない。
　ウルリケ、律子に武流が続き、高速機動で幾つもの蹴撃を無軌道に撃ち込み、最後、相手の膝を踏み台にして上へ飛ぶ。
　真上からの飛び蹴り、それは、相手を捉えるもガードされる。
　蹴りを受けられるも、なでしこ、嵐導の射撃を援護として、武流はそこから再度、空中に飛び上がる。
　空中高くから、回転しながら勢いをつけて強化人間へと墜ちる。墜ちる蹴りの先が風を切り、強化人間をもう一度、ガードの上から捉える。
「俺は別に報酬で動くわけじゃねぇ。何かは‥‥教えねぇ」
　ガードの上から、真燕貫突による二度目の蹴り。その蹴りは、装甲ごと強化人間を貫き、強化人間の肩を砕く。
　強化人間が血を吐き、その身体を大地へと沈めた。

●空へ
　先行しカフェ達を高速艇の下に無事送り届けた薙、ユニ、サァラ。
　薙とサァラが周囲を警戒する中、ユニがカフェ達二人を車から降ろす。
　慎重に、しかし、周囲に更なる敵の影は無い。
「ひとまずは、安心‥‥かな？」
　カフェ達を高速艇へと乗せる事に成功し、薙は無線で残してきた仲間に連絡を取る。
「薙だよ。こっちは無事に護衛対象を高速艇に送り届けた。そっちの状況はどう？」
『こちら、嵐導だ。今、強化人間を倒し終えたところだ。すぐにそちらに合流する』
　そっか、と薙が一息つく。
　仲間の援護は必要がないようだった。薙は、そのまま、高速艇の護衛につく。
　薙とユニ、サァラが護衛するうちに、強化人間を倒した仲間達が合流する。
　合流した仲間達と共に傭兵達も高速艇へ乗り込めば、カフェとティーの無事な姿がある。
　二人の無事な姿を認めてウルリケは、カフェとティーへと歩み寄ると、二人を抱き締めた。
「よか‥‥った‥‥。無事で‥‥」
　安堵からウルリケは目に涙を浮かべる。戦闘で薄汚れた頬を伝い、涙が一筋流れおちた。

　カフェ達と共にLHへ帰る高速艇の中、傭兵達にカフェは頭を下げる。
「今回は、本当に危ないところを助けていただきありがとうございました」
「おじーちゃんに会ったら、おねーちゃんたちのぶゆーでんを聞かせてあげるね！　ありがとう、おねーちゃんたち！」
　ティーが風車をくるくる回しながら、無邪気な笑みを浮かべる。
　ひとまず、こうして、幼き少女と母親の命は守られた。いずれ、その恩は、何かの形で傭兵達に巡り巡ってくるだろう。