タイトル:夏とスイカとマスター:草之 佑人

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/08/19 21:26

●オープニング本文


●夏の浜辺
 季節は夏。燦々と照りつける日差しが肌を焼く孟夏。うだるような暑さの、ここは海。
 人で溢れる夏の海辺に、夏休み中の少女が二人。
「‥‥暑いなぁ」
 アイスを舐めつつ、神開兵子は陽炎が見えそうなほど熱された砂浜を歩いていた。
 アイスを持つもう一方の手には、何本もアイスの入った袋が握られている。
 海の家での買い物からの帰り、学校指定のスクール水着で堂々と人で溢れかえった浜辺を歩いていく。身体に凹凸も少なく、まして、水着でのセックスアピールすらなければ、誰の興味も引かないだろう。
(‥‥それでも、たまにこっち見よる奴がおるなあ‥‥まあ、うちやのうて)
 自分に色気がない事は自覚している。ちらりと、横を見る。
「夏なんだから当たり前でしょう?」
 兵子の横を歩くのは東天紅だ。見る者を魅了する綺麗な黒髪を潮風に靡かせて、一人、この浜辺で空気が異なる。
 涼しげな空気を纏わせて歩く少女に、幼気さと艶美さの不安定な同居を垣間見た男達が見惚れ、惚ける。
 ――胸の大小ではない、明らかな美醜の差が二人にはあった。
 下卑た視線を向けられるのは嫌だが、たまに、好みの男性が天紅に視線を向けているのに気づくと、こう、胸の下あたりがむかむかする。
「‥‥なんや、むかつくなぁ‥‥」
「どうしたの?」
 またこれが、天紅本人は意にも介していないあたりが、少しは男性の視線を気にしている兵子にとって、コンプレックスを刺激する。
 同じスクール水着に、同じ体型――むしろ、天紅の方が肉付きは悪い――だというのに、やはり、顔か? 顔なのか?
 自問自答に思い、くっ、と歯を食いしばり、頭を振る。――いや、天紅に視線を向けている男どもは、ロリコンなのだ。うん。そうにちがいない。
 思い返し、アイスの棒、手元近く、最後に残ったアイスの欠片を、棒から引き抜きしゃくりと噛砕く。
「なんでもないわ。気にせんでええよ」
 天紅が「そう?」と小首を傾げれば、天紅を見ていた中の男の一人が、その仕草にへらっと笑った。
(ちょっと好みやと思ったけど、勘違いやったようやな‥‥)
 心の中で、毒づく。あれは、完全にロリコンの目だ。うん。
「それより、姉ちゃんのところ早く戻らんと、アイス溶けてまうわ。ちょっと急ぐで」
「それ、アイスを買った時に私が言ったのに、何をいまさらという感じね‥‥」
 ええからええから、と苦笑いを浮かべながら、兵子は歩く足を少し早足に。
 天紅に纏わりつく男どもの視線を、横から蜘蛛の巣を振り払うように引き千切りながら兵子が歩く。
 しばらくすれば、神開兵子の姉、須磨子の待つビーチパラソルが見えてきた。
 向こうも気づいたようで、パラソルで出来た影の下、敷いたビーチシートの上に座ったまま、手を振ってきた。
 兵子が手に持つアイスの袋を掲げて持つ。須磨子がきゃ〜♪ と声を上げて、握り合わせた両手を振って喜ぶ。

 須磨子が、荷物番である事も忘れて、立ち上がり兵子の方へ向かおうとしたその時だった。
 ――海から、巨大なスイカが現れた。

「へ?」
 間抜けな声を上げる兵子の目の前、同じ様に間抜けな顔をした須磨子が、スイカの蔓に絡めとられた。
 何が起きたのかすぐには理解に至らず、浜に居た人すべてが、呆気にとられる。
 奇妙な静寂。
 しかし、すぐに、それは、阿鼻叫喚へと変わった。
「き、キメラだああああああっ」
「きゃあああああ、食べられるわよぉっ」
「ほら、はやくっ! 早くこっちに来なさい!」
「いたいよママァ」
 大慌てで、キメラから逃げていく人々。
 人の波の中、棒立ちに突っ立ったままの兵子。隣では、同じく冷静に天紅が突っ立っている。
「‥‥ねぇ」
「なんやー?」
 天紅に話しかけられ、兵子が顔を少しだけ向ける。
「あのキメラ、蔓の動きがいやらしくない‥‥?」
 蔓に巻き上げられた須磨子の身体は、絶妙な蔓使いで縛りあげられていく。妹とは似ても似つかない女性らしい豊満なボディラインが強調される形となり、倒錯的な絵面が作り上げられる。須磨子は、口に蔓の一本があてがわれ「んー! んー!」と鼻息を荒く抗議する。
 逃げる男どもがちらちらと振り返っては鼻の下を伸ばしていた。
 兵子は、はっ、鼻で嘲り笑う。
「まあ、とりあえず、しばらくは大丈夫そうやし、傭兵呼んで助けてもらおうや」
 懐から携帯を取り出しながら、横目に、兵子は男達を蔑んだ目で見やる。
「ついでに‥‥傭兵さんらにここの男連中のアレもちょん切ってもらうって依頼はできひんもんかなぁ‥‥」
 ぼそりと兵子が呟く。
 周囲の男連中が、悪寒に股間を押さえて身を縮みあがらせた。

●参加者一覧

七市 一信(gb5015
26歳・♂・HD
リュティア・アマリリス(gc0778
22歳・♀・FC
ラナ・ヴェクサー(gc1748
19歳・♀・PN
シャルロット(gc6678
11歳・♂・HA
ヒカル(gc6734
16歳・♀・HA
アクア・J・アルビス(gc7588
25歳・♀・ER

●リプレイ本文

●西瓜の前へ
 青い海からさざ波打ち寄せる白浜。そこに転がるどでかい緑と黒の物体。――それは、スイカ。
(‥‥なにこの巨大な西瓜‥‥)
 シャルロット(gc6678)が冷や汗を流しながら感想を抱く。
 巨大西瓜の周囲には、蔓によってあらぬ局部を強調するように縛り上げられた女の子達。
(‥‥とりあえず‥‥あの蔓には捕まりたくないなぁ)
 肌を流れる冷や汗がシャツの襟元から、胸へと落ちていく。
「どうやったら、こんなに大きく育つんでしょう?」
 うって変わってアクア・J・アルビス(gc7588)は、目をキラキラと興味の色に輝かせる。
 見ているだけでは、ここまで大きく育った理屈を解明できそうにない。
「色々と不思議な部分が多いですねぇ。流石キメラ」
 依頼に関係なく、一人遊びに来ていた海。万全の体制ではないが、水着のままでキメラ退治へと向かう。
 同様に、白と水色のツートンカラーのビキニに水色のパレオを合わせた水着姿でキメラに臨むのは、リュティア・アマリリス(gc0778)だ。浜辺のパニックを治める為にも、装備を整えている暇はない。
「仕方ありません。このままお掃除するしかないですね」
 銃だけ一つ、手に握りしめて、キメラ退治へと向かう。
「‥‥今度は西瓜?」
 友達がそんなんじゃダメ、と言うから、嫌々ながらこの無駄に暑い海に出てきたというのに‥‥。
 ヒカル(gc6734)は目の前に現れたキメラを睨む。
「また食べれるキメラなの‥‥?」
 鰯に始まり、鰹にカカオ、ナス、トマト、邪魔するキメラが悉くに食べれるのは、裏で誰かが仕組んでいるのではないかと、心底うんざりして肩を落とす。
「絶対‥‥今回も食べないわよ」
 誰に宣言するでもなく、ヒカルは呟いた。
 七市 一信(gb5015)はAUKVのタイヤにチェーンを巻いてバイク状態で砂浜に突入したが、能力者と言えどオンロードタイヤにチェーンを巻いた状態では難易度が高く、危うく転倒しそうになったので、早々にバイクから装着状態へと移行していた。
「はいはい、あっち、すぐ逃げて逃げて逃げてーん」
 パンダ姿の一信が一般人を誘導し逃がしていく。
 大体の人間は、誘導されるままに逃げていくが、中には逃げず立ち止まったままの男達もいる。
 彼らの目線は、スイカキメラに釘付けになっていた。
 いや、正確には、キメラに捕まって縛り上げられた女の子達にを釘付けになっていた。
 ――動かぬ男の頭を鷲掴みにして、ぐりっと自分の方を向ける。目と目が出会う。
 一瞬、認識できず、きょとんとした男は、
「ビキニ? いいえ、パーーーーーンダーーー」
「ぎゃあああああ!?」
 それがパンダだと理解すると、悲鳴を上げて逃げだす。――パンダの瞳は、結構怖いのだ。
 民間人を逃がす間に、ラナ・ヴェクサー(gc1748)はキメラへと立ち向かっていく。
「‥‥さあ‥‥こちらに、来なさい‥‥」
 スズランのフレグランスを一吹き、香りで誘き寄せられないか、と試みる。
 それが効いたのかどうか、スイカの蔓が蠢き、ラナへと狙いを定めていく。

●夏の浜辺で、西瓜に縛られて
「さーあ、いくさねー!」
 民間人の誘導を終えた一信が、傷の癒えていないラナを庇うように前へ。
 捕まった民間人の救助の間、キメラの注意をひくべく、一信が蔓を狙って銃を撃ち、ラナがナイフを投げる。
 蔓の何本かが撃ち抜かれるも、それを倍する数で押し寄せ、ナイフを弾き返す。
「これは‥‥捕獲するにしても、まずは蔓からですね」
 一信とラナとの反対側に居たアクアが練成弱体を飛ばし、一信らを狙うスイカの蔓を弱める。
 錬成弱体で弱められても、鞭のようにしなり飛ぶ蔓の勢いまで弱められるわけではない。
 無数の蔓が触手のように伸びて一信とラナを襲う。ラナは潮風が滲みる身体に眉をしかめながらも、回避に身を捻る。
「くっ」
 身体への負担を最小限に抑える為、砂浜の上を紙一重で動き続けるのは、集中力を要する。――そう長くは持たない。
「僕の歌で呪縛します! 捕まったひとの保護をお願いします」
 掛け声に続けて、シャルロットが呪歌を歌う。
 縛めの歌はキメラの蔓を痺れさせ、側面から救助に向かうリュティアの動きを援護する。
「今、お助けいたします」
 リュティアは蔓を掻い潜り、縛られている人達に近づくと、急ぎ鞘走りに円閃を乗せて短剣を走らせ、縛る蔓を断つ。
 正面の一信とラナに引き付けられている蔓が戻ってくる前に、リュティアは民間人を連れて逃げる。
「遊びに来たんですが、念のため、もっとしっかりとしたものを持ってくるべきでしたね」
 背面側から側面のリュティア達に合流したアクアが、リュティアの助け出した民間人達の応急処置に当たる。
 民間人達は、縛られた箇所がうっ血して、ところどころ赤く腫れていた。
「‥‥いや‥‥なんというか色々と災難でしたね‥‥き、気をしっかり持ってくださいね!」
「さあ、今のうちに早く逃げなさい」
 シャルロットが慰めるように民間人達に声をかけ、ヒカルが後方へ逃がす。
「巻き込むわけにはいかないもの‥‥あんな見た目ふざけてる形でもキメラはキメラだもの‥‥」
 逃げる民間人達を横目に見送り、キメラの蔓に対して立ちふさがるように構えた。
「一信様、ラナ様、お手伝いさせていただきます」
 救助を終えたリュティアはそのままキメラの側面からS−01での牽制に、正面側のラナと一信の援護に入る。
「そう、簡単に‥‥終われ、ませんっ」
 援護を受けながら斬撃を繰り出して、ラナは何度も襲い来る蔓を薙ぎ払い避ける。
 呪歌で思うように動かなくなっていた蔓は、しかし、救出による時間の経過で呪歌の麻痺が解け、元の動きを取り戻す。
 執拗に狙ってくるスイカの蔓に、怪我と日照、砂浜という地形の三重苦も相まって、ラナは次第に追いこまれていく。
「狙うなら、人気者のパーーーンダを狙うのだーーーー!」
 ラナが怪我のダメージに、砂に足を取られそうになったところを、一信が庇って前に出る。
 ラナの代わりに捕まえた一信の、その股間に蔓を回し、キメラは一信の股間を支点として持ち上げる。
 男の大事なところを潰すかのような縛り上げ方に、しかし、AUKVの装甲によって秘所は守られた。
「あーん、い・け・ず? この縛り、嫌いじゃないわああん」
 AUKV越しの適度な刺激に、一信は余裕を持ってその蔓の縛り上げ擦りつける快感に身を任せる。
 一信を縛り上げる蔓を残し、他の蔓は一斉に再度ラナを狙った。
「――危ないです、ラナ様!」
 怪我をしているラナの前に迅雷で飛び込み、リュティアがボディガードで身代わりとなる。
 縛り上げる際にキメラは、リュティアの両脚を別々の蔓が吊るし上げる。膝から持ち上げ、両脚をくぱぁと左右に開いていく。
「こ、こんな体勢‥‥」
 束縛から逃れようともがく間に、遠くに逃がした男達の姿がちらりと見えた。
 男達から注がれる熱い視線。綺麗な女性がM字に足を開く様に彼らは瞬きすら惜しんでいた。パレオの下に隠されたツートンカラーのビキニが、開脚によって大胆に露わになる。暑い夏の浜辺に更なる熱気と興奮が迸った。
「その‥‥あ、あまり見ないでください」
 リュティアが身を捩って足を閉じようとするが、蔓の束縛は強固で閉じれず、顔を赤らめる。
「――くっ‥‥やってしまいました‥‥」
 最後の前衛となったラナもついに拘束された。
 一信と同じ様に縛られ、自分の体重をただ一点で支えることになる。
 しかし、一信と異なり、ラナのその一点を守るのは白いスパッツという薄い衣服のみ。
 布の上から、やわらかな肉へと蔓が歪に食い込んでいく――。
「‥‥っく、ん‥‥っ! や、めぇ‥‥こんな、はずじゃ‥‥」
 蔓の束縛から逃れようと身を捩り抵抗をすれば、蔓が擦れて柔肌を刺激する。
「や、ぁ‥‥ん」
 不甲斐なさを滲ませて、ラナは熱い吐息を漏らす。
「オー、ファンタステック!!」
 縛られる仲間を見て、思わず一信は鼻血を噴き出した。
 食い入るように凝視してしまい、はっ、と自らの所業に気づき、
「雑念を振り払えわがパンダアイよっ‥‥」
 一度は視線を外そうとしたが――、
「無理っ!」
 ぐいっとラナとリュティアにいやらしい目を戻し凝視した。
 前衛の三人が捕まれば、次は後衛の三人に蔓は向かう。
 まず捕まったのはシャルロットだ。身長150cmの女の子と見間違う華奢な身体に、足から上に向かって蔓が巻き付いていく。男物のスーツに食い込み、太股が肉を浮き上がらせる。中性的な容姿に一種の背徳感を催させられ、男達が歓喜の呻きを漏らす。
「確かに名前もシャルロットなんて女の人っぽい名前だし見た目も華奢だから女の子っぽく見えるかもしれないけど‥‥僕は男だあぁぁ――ふぐぅっ!?」
 観客に向かって叫んでいる間に、服の中を通り口元まで登ってきた蔓に反論を防がれ、喘ぎ声が漏れた。
「油断してしまいましたね」
 シャルロットに続いて、アクアも捕まってしまう。
 キメラはアクアの身体に蔓を絡めると、両手を後ろ手に縛り上げて、手首を両足首とくっつけて縛り、エビ反りにアクアを吊り上げる。
「――っ」
 既にただの観客と化した避難済みの男達が、口笛を吹いてもっとやれと煽る。アクアはその様子を冷たい笑みを浮かべ見て――見ていた男達の顔を覚えておく――。
 そして、最後に残った一人、ヒカルまでも捕えられた。
「‥‥たかが縛り上げて吊るされる程度、能力者の前から慣れてるわ‥‥」
 ヒカルが捕えられて縛り上げられるが、昔の嫌な記憶を連想する程度の事でしかない。
 シャルロットとは違ったパターンで縛り上げられた為に、その口が塞がれる事も無かった。
 これは、むしろチャンスだった。
 縛り上げる蔓の圧迫感を感じながらも、呪歌を歌えば、動きが鈍くなる。
「最期に子守唄を聞かせてあげましょうか」
 ヒカルが戒めの呪歌から、眠りの子守唄に歌を切り替えていく。至近の距離にて、子守唄の効果範囲にキメラを含み、歌いだす。
 眠り、解ける蔓。蔓の束縛から脱出したヒカルが赤いプレゼントボックスを構える。
「遠慮なく、いくわよ」
 箱を開けば、中からはレーザーが飛び出る。
 ヒカルの攻撃に目を覚ますキメラ。しかし、目を覚ました時には、皆の蔓の束縛は緩くなっていた。
 一信が蔓から抜けだし、宙からスイカキメラの本体に向かって落下していく。落下中、一信の竜の紋章が黄金色に煌めきを放った。
 不敗の黄金竜。そのスキルを発動させて、一信は月詠を振り上げる。
「これが本当の‥‥スイカ割じゃ!!」
 落下の勢いも乗せて、一気に振り下ろす。
 上から下まで、大きく走る剣閃。その大きさゆえに、一刀両断とはいかなかったが、緑の分厚い皮を真っ二つに裂かれ、中の赤い果実が見える。
 その身を割られて、スイカキメラはしばらくすると動かなくなった。

●西瓜を食べたり、折檻したり
「――どうぞ、みなさん、こちらに集まってください」
 戦闘の終わった後、シャルロットがキメラに捕まって辱められた人を集めてひまわりの歌を歌う。
 怪我はもとより精神的にダメージを受けた人々に元気を取り戻してもらうためにシャルロットは歌を歌った。
 そうやってシャルロットが被害者の心のケアに当たる間に、アクアは避難していた男達のところへと赴いていった。
 ――そう、アクア達の痴態に歓声を上げていた男達の下へ。
 砂浜へと戻ってきつつあった男達に、凄惨な笑顔を向ける。目が合い、男達に走る悪寒。
「安心してください。私は医者ですから。‥‥痛いですが、ちゃんと直してあげます」
 ふふっ、と漏らす笑みに、命の危険を感じた男達が背を向けて逃げ出す。だが、能力者であるアクアの前に、一人残らず捕まり――、
「ちゃんと、直してあげますから‥‥」
 ――男達は地獄を見ることとなった。

「は〜〜〜い! スイカを分けるよ〜〜〜ん!」
 一信が割ったスイカを皆に分けていっていた。男の大半は、アクアによって再起不能となっていたので、自然、女性が優先的に配られる事になる。
「お塩を借りてきました。どうぞ、お好きに振りかけてください」
 スイカに合わせて、リュティアが海の家から借りてきた塩を、皆に差し出す。
 アクアはスイカを受け取りつつも、食べず、しげしげと観察をする。
 実と種を一部採取して、自前の試験管に詰め込む。すでに、蔓の方は採取済みだ。
「どんなことがわかりますかねぇ」
 持ち帰り、分析する時の事を考えてうっとりと頬を緩める。
「練成弱体って味に影響するんでしょうか‥‥?」
 アクアは錬成弱体をかけたあたりのスイカも分けてもらい、食べ比べてみることにした。
「ふむ‥‥? 同じ味、ですね?」
 味に変わりない事を、舌でぺろりと確かめながらメモを取る。
「さてと‥‥邪魔者は片付けたし前座も終わったし、泳ぐよ! こんな時ぐらいでないと遊ぶ機会がないからね!」
 スイカを食べ終わったシャルロットが上着のシャツとボトムを脱ぎ去ると、下はパンツ一枚――否、水着一枚。
 横を通り過ぎる男たちがちらちらとシャルロットの白く平らな胸、その頂点を形成する薄い桃色のソレを盗み見ていく。
「‥‥断っておくけど、僕は男だからね‥‥?」
 胸元に集まる視線に気持ち悪いものを感じて手で隠しながら、さっさと海で泳ごうと駆けていく。まだ勘違いしたままの男が「トップレス‥‥」と呟いた気がしたが、もう気に止めないことにした。

 ラナは、喧騒から離れた岩陰で戦闘で汚れた包帯を巻き直していた。
 包帯を巻き直しながら、戦闘の反省に頭を巡らす。
 怪我を押してきた身とはいえ、蔓を避け損ない痴態を晒してしまったことに羞恥を覚える。
(‥‥あの人の、ように‥‥戦える、だろうか‥‥)
 さざ波が打ち寄せ、飛んできた水飛沫が一滴、頬を濡らした。
 ラナは波の向こう、遠く水平線を見やる。
 まだ、遠いかもしれない。けれど、いつか‥‥。

「‥‥やっぱり、来るんじゃなかったわね」
 配られるスイカにヒカルは立てたパラソルの下で、冷たいジュースを飲んで休んでいた。
 友達と一緒に来ていれば、少しは違っただろうか。
 ジュースを飲みながら、目を伏せる。
「ねーぇ彼女ぉ、ひとりぃ?」
 目を伏せていると、騒ぎが終わってからやってきた運のいい男達が、捻りもなにもないナンパをしかけた。
「‥‥」
 しばし、その男達を無視していたが、しつこく誘って来る。ヒカルは、小さく呟く。
 途端、周囲の男達はくずおれ、砂に突っ伏し、寝息をたて始めた。呟いたのは子守唄だ。
 ヒカルはため息を一つ。
(暑いし、キメラは出るわ、しかもまた食べれるものだわ‥‥)
「‥‥夏は、嫌いよ」
 心底から、重い息を吐く。

 夏の日差しは容赦なく照りつけ、夏の短い命を謳歌せんとする蝉が、浜の周りで、いつまでも鳴き続けている。
 暑い夏の浜辺。陽はまだ落ちる気配を見せず、夏の喧騒はまだ続く――。