タイトル:強化人間ドミナ護送依頼マスター:草之 佑人

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/08/13 12:25

●オープニング本文


 五大湖南部。奪還されたシンシナティから、一人の少女が護送されていく。
 少女の名前は、ドミナ。強化人間だ。
 強化人間であるドミナは、軍の強化人間研究・実験施設へと、被献体として運ばれていく道の途中である。
 一度、施設へ収容してしまえば、強化人間の脱走はほぼ不可能になるため、もし、脱走を試みるのであれば、この道中が最後の機会になる。
 また、ドミナ自身の脱走の危険に加え、ドミナは自身の所属していたリジー盗賊団による奪還が試みられる可能性もあった。
 しかし、強化人間の構成員を含むリジー盗賊団に対して、軍は【NS】への戦力の集中に、護送に回せる戦力は無い。
 そのため、軍は強化人間と戦闘・撃退を行える戦力として、能力者である傭兵達に護送を依頼した。

 護送車の中、ドミナは手足を拘束されていた。全身拘束まで行われていないのは、護衛が傭兵達であるためだろう。
 壁にもたれ、ドミナは力無く、胡乱な眼で暗い床を見ていると、ふと、暗い床に光が一筋差し込んだ。
 護送車後方の扉が開いたのだ。
「――どう? 気分は」
 眩しい光に目を細めつつ、ドミナは扉を開けた人物に目を向ける。
 扉を開けて入ってきたのは、少し焼けた肌をした少女。
「少しいい‥‥? あたし、あんたに聞きたい事があるの」
 扉から入ってきた少女――サァラ・ルー(gz0428)が、下唇を軽く噛みながら厳しげな眼をドミナに向けた。

●リジー盗賊団
 暗がりに二人の男がいる。一人は屈強な大男。もう一人は、青年の優男。
「――で、本当に助けるのか?」
「ええ、なにを言われようと、助けます」
 二人の居る場所は、地面の下。ただし、彼らは地面に座りつつも、高速で移動している。
 ――二人が座っているのは、高速で移動する大型EQの輸送コンテナ内である。
「リジーさんは、ドミナを助けるのに反対なんですか?」
「俺はもちろん反対だぜ? お前一人の私情に隊の連中を振り回させるなんざできねえ」
「‥‥私情ではありませんよ。彼女は、街の子供たちの笑顔の中心で、憧れの――言うなれば、ヒーローのような存在でした。‥‥彼女が居なくなったと知れば、子どもたちの希望が消えてしまいます。だから、守るべきだと私は考えたのです」
 真剣な表情でリジーを見返すセドの様子に、リジーは頭を掻く。
「‥‥おまえ、最悪の時は、分かってんのか‥‥?」
「それも――分かっています。最悪、彼女を奪還できないような事があれば、‥‥私の命に代えても、彼女を‥‥」
「分かってんならいいが、‥‥土壇場でできねえってのはナシだぜ?」
「‥‥大丈夫ですよ。天秤にかけられたものが何かは、承知しています」
「なら、絶対に間違えんなよ? 俺たちの守るべき一番のものは――」
「――街に住む人達です。その為には、彼女が研究施設に運ばれる事があってはならない。なぜなら――」
「――そうなれば、カヌアによって、街は見せしめに破壊されてしまうからな‥‥」

●護送車
 護送車の車内後部、ドミナの対面にサァラは座り、しばらくの間、じっと見つめていた。
「以前傭兵が依頼していた調査に、軍からの報告があったの。あんた達の街の名前、場所、大体全部判明したわ」
 口を開いたサァラに、ドミナは目もくれない。
「‥‥あとは、カヌアについての情報が欲しい。‥‥知ってるんでしょ? ドミナ――ううん、デュミナ・ハリナム」
 名前を呼ばれ、ぴくりと反応する。
「街の記録に、幼い頃のあんたの記録があったそうよ。‥‥セドって呼ばれてた、あんたのおじさん。セディアス・ハリナムの記録とかもね」
 セドという名前に、もう一度だけ反応。
 サァラは、その食いつきに手ごたえを感じて、身を乗り出す。
「――強化人間のあんたなら、他の人間よりもバグアであるカヌアとの接点は多いはずよね。
 なんでもいいの、情報をちょうだい」
 身を乗り出して問うサァラにドミナは何も話さない。ただ、目を逸らして、
「‥‥だんまりを決め込むなら、このまま、研究所に連れていくわよ?」
 一歩、ドミナに詰め寄る。
「そこであんたは罪人として、酷い目に合う。‥‥イヤなら、ここで吐きなさい。そうすれば、――こっそり逃がしてあげてもいい」
 反応は無い。さすがに、苛立ちを覚えて、表情は厳しくなる。
「立場を分かってるの? あんた、このまま研究所に連れていかれたら、死ぬまで実験動物みたいに扱われるのよ? 何をされるか、分からないわよ?」
「‥‥いいですよ。何をされても‥‥」
 目を合わせようともせず、ドミナが答える。
 一瞬、掴みかかろうと手を伸ばして――やめた。
 サァラはひとつ息を吐きながら、踵を返す。
「頭、冷やしてくる。‥‥逃げようとしても、ムダだからね」
 横目にドミナの顔を再度確認して、また俯く。
「なんて顔してるのよ‥‥」
 ドミナには聞こえないくらいの小さな声で呟き、出ていく。
 一人残されたドミナは、疲れたように壁にもたれ掛かり、口の中、一本の差し歯を舌でイジる。
「‥‥やっぱり、ないですね」
 そこに、自害用の毒があるはずだった。
 口の中の差し歯。リジー盗賊団の皆が機密保持の為に隠し持っているもので、捕縛された時には、皆、それを飲んで死ぬことにしている。
 ――そうしなければ、代わりに街の皆が見せしめに殺されるだろう。カヌアの手によって。
「みんな‥‥死んだのに‥‥」
 以前、リジー盗賊団の作戦が失敗して、何人も捕縛された時には、皆そうやって死んでいる。
 街を守る為に、覚悟していたこと。‥‥だから、毒がなければ、別の手段で死ななければならない。
 そう、例えば、舌を噛むとか‥‥。
「‥‥」
 けど、それは、さっきから何度も試そうとして――、
「私は‥‥いくじなしです‥‥」
 どうしても、できなかった。
 研究所に連れていかれれば、その事がカヌアに知れれば、確実に街の皆に危害が加えられる事が分かっている。
 分かっているのに、死ぬのは、怖い――。
「みんな‥‥みんな死んだのに‥‥あたしだけ」
 もう一度、舌を噛む。口から血が滲む。‥‥けれど、死ねなかった。

●参加者一覧

UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
御沙霧 茉静(gb4448
19歳・♀・FC
ウラキ(gb4922
25歳・♂・JG
オルカ・クロウ(gb7184
18歳・♀・HD
鳳 勇(gc4096
24歳・♂・GD
春夏秋冬 ユニ(gc4765
17歳・♀・DF

●リプレイ本文

●出発前
 護送車の後部扉からサァラ・ルー(gz0428)が出てくる。
 護送される強化人間のドミナから話を聞きだすつもりが失敗し、サァラの顔色は曇っていた。
「‥‥随分準備が、早いんだな‥‥?」
「ウラキさん‥‥」
 サァラが声の方に顔を上げれば、ウラキ(gb4922)が居た。
 落ち込みを隠すように、サァラは再度、顔を伏せる。
 伏せる際、一瞬見えた暗い表情。
 サァラを見、それからウラキは視線をずらして、今し方サァラの出てきた扉を見やる。
 ――中で、何かあったのか‥‥?
 勘ぐるが、言葉にして追求はしなかった。ただ、
「‥‥道は長い。そんな顔でいては、持たないぞ」
 その大きな手を、サァラの頭に軽く乗せる。
「‥‥はい」
 サァラは顔を伏せたまま、返事を返す。
 それから、ウラキに続いて、次第に他の傭兵達も護送車両に集まってきた。
 集まった傭兵達の中、手始めに御沙霧 茉静(gb4448)が挨拶をする。
「以前、親友がお世話になりました。今回は力を合わせてかんばりましょう」
「‥‥ん、世話になったのはこちらもよ。よろしく頼むわね」
 サァラが手を差し出して握手を求める。
 握手を交わす二人の傍でサァラを見守り居たウラキは、懐かしい匂いに鼻腔をくすぐられて振り向いた。
「織歌さん‥‥また飲んでいるのか」
 相変わらずだな、とウラキは微笑みを浮かべる。
 古酒の香りを辺りに振り撒きながら、呷る皇 織歌(gb7184)はサァラに視線を注いでいた。
 やがて、得心がいったように、ふと呟く。
「‥‥そういうことですか。あの子が、心配だったんですね」
 今回の依頼に義妹から頼まれて臨んだ織歌は、理由を解して微笑み、もう一度、酒を呷った。

●少女の、望み
 護送車両の後部、床に座るドミナは鳳 勇(gc4096)が目の前に置いたコーヒーをぼんやりと眺めていた。コンテナ状の荷室になっているその中には、傭兵達が乗り込んでいて少し暑苦しい。護送に加わった傭兵で、ここにいないのは、車を運転している勇と、その助手席で計測器を見ているウラキだけになる。
「――ん?」
 後部扉付近の壁に背を預け、UNKNOWN(ga4276)は片手にコーヒーを持ちながら、ゆったりと腕を組み、車の揺れに身を任せている。
 目を閉じたその姿は、寝ているようにも考えごとをしているようにも見える。
 車の揺れに、ドミナのコーヒーの水面に波紋が広がり、カップの端で飛沫を跳ね返す。
 ドミナが揺れに合わせて身じろぎをすると、UNKNOWNは帽子の鍔を少し上げて、少女に目をやり、
「――ん」
 何事もなかったように、また、目を閉じる。
「‥‥コーヒーはお嫌いですか?」
 コーヒーに手をつけていないドミナに、そう声をかけて、横に並ぶように茉静が座る。手には、自らの分のコーヒーと、別にもう一つ牛乳をもつ。
 ドミナは一瞬だけ茉静に視線を寄こし、すぐに目を伏せる。
 ――いっそ、殺してくれればいいのに。
 一瞬だけ茉静に向けられたドミナの目は、暗く、死にたがっているように見えた。
 目から見えた感情に、しかし、茉静は表情を変えず、手に持っていったカップの一方、牛乳を差し出す。
「コーヒーを飲まれないなら、良ければ、ミルクはどうですか‥‥?」
 目の前に差し出された牛乳だが、ドミナは手にも取らずぼんやりと見るだけで、返事も無い。
「‥‥ここに置いておきますね‥‥」
 無理強いをするつもりは無いが、護送される緊張の中で、ドミナの心が落ち着くのならば手にとって飲んでくれればいいと思う。
「――ねぇ、いつまでだんまりを決め込んでるのよ」
 何も言わず、いつまでも黙っているドミナに、ついにサァラが痺れを切らした。空になった乳酸菌飲料を足下に置いて、サァラはドミナの前へ。
 上からの見下ろしに、でも、ドミナは顔を上げない。
「このまま研究所に行くので、あんた本当にいいの? 実験動物みたいになって、あんた殺されたいの?」
「‥‥言ったじゃないですか。何をされてもいいって‥‥私はいつ死んでもいいんですよ‥‥」
 俯いたまま、顔も会わせず、ドミナは答える。
「――いい加減に‥‥いい加減にしなさいよ、あんた‥‥っ」
 激昂する。自分の命を、何だと思っているのか――。思わず、手を振り上げ――だが、その手は、そっと優しく止められた。
「――焦りは禁物、ですよ?」
 荷室の隅で酒を飲んでいた織歌がいつのまにかサァラの傍に寄り、手を握り止めていた。
「為すべき事が有るなら‥‥全てを慎重に為さいませ」
 止めた手を優しく下ろさせる。
「人は後退しない生き物です‥‥確りと、進んで居るのですから」
 サァラの手の中に、織歌はチョコを一つ握らせた。手の中のチョコを見て、サァラは首を傾げる。
「これ‥‥?」
「それは妹から、です」
 織歌は片目を瞑り、笑みを浮かべる。サァラが、えっ、と反応を示す前に、織歌はサァラに代わってドミナの方に振り向く。
「――人生は選択の連続です、そうでしょう? 誰しも、何かの為に‥‥何かを捨てねば成りません。
 ですが‥‥良いのですか?」
 静かな語り口調で問いかける。
「選び取る物を――‥‥他者に委ねても。貴方様は後悔致しませんか?」
 ドミナの反応を見る様に目を細め、一つ、呼吸を挟む。
 間が開き、つられ、ドミナは織歌を見てしまう。
「――その死は、貴女様の‥‥本望ですか?」
 目が合い、びくり、とドミナが震える。
 そして、織歌の言葉を横から茉静が引き取り、紡いでいく。
「‥‥義理や義務で言っている言葉ではありませんよ。私達は、貴女の事を真剣に想っています」
 茉静は、ドミナの顔を覗き込む。
「貴女が何の為に戦っていたのか、もし、それが、誰かの為であったなら‥‥私の言う事はひとつ――」
 
「生きて」

「‥‥生き続ける事は辛いかもしれない、苦しいかもしれない。でも‥‥、貴女が生きる事で救える命があるはずだから‥‥、その人達の為にも生きて欲しい‥‥」
 何も言えず、黙るドミナの前に、今度は春夏秋冬 ユニ(gc4765)が歩みでる。腰を落としてしゃがみ、視線の高さを合わせる。
「貴方は自分の事をいくじなしだと思ってらっしゃるかもしれませんが、私はそのことに感謝していますのよ?
 だって、そのおかげでこうやって貴方とお話出来るんですもの」
 優しく、おおらかな笑みがドミナに向けられる。
「‥‥貴方は優しい子ですものね。みんなに守られるだけに耐えられなかったのでしょう? でも、傷つけるのも傷つけられるのも怖かった」
 ユニは慰めるようにドミナの頭を撫でた。
「悪いことではありませんよ? 貴方がいい子である証しですもの。ただ、厳しいことを言うようですが‥‥貴方は戦いに向いていません」
 撫でる手を止めて、少しだけ厳しい視線で、ドミナと目を合わせる。
「私の守りたいものの中に貴方の守りたいものは入っていますの。ですので、私たちに貴方の守りたいものを一度預けて頂けないでしょうか?」
 ユニの言葉に、茉静は顎を引いて頷く。
「ドミナさん、貴女は一人では無い‥‥。私達は、苦難の道を貴女を支えたいと思っているの‥‥」
 茉静が、ドミナの手を握る。手を握られた少女は、無言のまま、困惑に顔を歪ませる。
「――何か、答えが出たかな?」
 離れて事態を静観していたUNKNOWNが、帽子のつばを少し上げて、微笑む視線を向ける。
「私が君を捕まえたのは、知り合いに依頼されたからだ」
 懐から取り出した煙草に火を点け、紫煙を燻らせる。
「‥‥今度は君の依頼内容を聞こう、か。なに――お代は酒で、出世払いで、いい」
 ドミナは、紫煙の向こうの微笑む視線を受け止めて、幾らもの逡巡に頭を巡らせる。やがて、
「なら‥‥」
 彼女は、自らを捕まえたその男に、その場に居る傭兵達に、一つの依頼を願う――。


「この辺は何もないのだな。戦略的にも拠点を置くような場所でもない訳だが、何か勿体無いな」
 呷ったカンパネラのオイシイ水をドリンクホルダーに戻しながら、護送車の運転席、勇が景色を眺めて言う。その横の助手席では、ウラキが計測器を確認していた。
 予想されるEQ襲来の予兆は未だない。
 計測器に変化がない事を確認し、窓から外を見る。勇もまた、車の運転をしながら、周辺への警戒を行う。‥‥こちらも問題はない。
 襲ってくる事は、ほぼ確実。だから、備える。
 外を警戒に見ていれば、不意に、車両後部の会話が聞こえてきた。
 言葉は途切れ途切れで、不明瞭にしか聞こえない部分もあった。しかし、ウラキは、車両後部、ドミナが何を語っているのか、分かった。それは――、
(‥‥生き残った事への罪悪感、か‥‥)
 外を覗く表情を険しく、眉根を寄せてウラキは思う。
(‥‥僕も、な)
 ウラキが思い出すのは、一人の少年兵。失くした戦友。
 失くせば二度と取り戻せず。なぜ、自分が生き残ったのかと、悔恨ばかりが胸を裂く。
「――あいつ、目から意欲というか活力が感じられなかったが、大丈夫か?」
 ウラキと同様にドミナの声を聞いた勇は、煙草に火をつけながら、周囲の警戒に視線を走らせる。
「‥‥彼女次第だろう」
 意識を想い出から戻しながら答える。そして、ウラキは、険しい視線を計測器に戻した時、一つの異常を見つける――。

●地より来たりて
 車の進行方向、道の先に大穴を空けて大型EQが道を塞ぐように立ちはだかる。
 勇が急ブレーキに護送車を停車させた。護送車の速度でEQを振り切れるかどうかの判断に、勇は無理をせず、待ち受ける事を選んだ。
「出たな、後ろの奴の関係者か」
 勇がウラキと共に車から飛び出す。急ブレーキの停車で、後部の仲間達もまた異変に気づいた。
 後部扉を弾いて開き、転がるように飛び出たUNKNOWNが、構えたエネルギーキャノンを宙で放つ。
 一発二発、着地に続けて、更にエネルギーキャノンを連射。射抜かれた大型EQがのたうち回る。

 その――大型EQを囮に、脇からリジーとセドが傭兵達の前に躍り出てくる。

 傭兵達と共に外に出てきたドミナ。その傍、ドミナの後方から見守るように茉静が控えている。
 ドミナへ向かい、突撃に駆けようとしたリジーとセド。彼らをウラキが制圧射撃をかけて足止めする。
 傭兵達の先頭、リジーとセドに向かって、駆けたAUKVは織歌のモノ。
 振るう槍に対し、リジーはこれを盾で受け止める。
「あら、随分と逞しい御方‥‥背負う物、故にかも知れませんけれど‥‥?」
「そりゃ、どーも」
 リジーが受け止めた織歌を槍ごと盾で弾き飛ばし、追撃に腰を落とす。
「そうはさせないさ」
 回り込んだ勇の驟雨が一閃し、地を蹴り追撃に移ろうとしたリジーをその場に縫い止める。
 弾き飛ばされた織歌は、その間に宙で身を回し着地する。
「ですが‥‥違う背負い方は、無いのでしょうか? 偶には両方を鷲掴む位の豪胆さも‥‥必要、かと存じます」
 交差する視線。
「‥‥俺は不器用なんでね。二つも掴んでると、落っことさないか心配になっちまう。――セド!」
 大型EQ、リジーが傭兵達を引き付け、その間に、ドミナに向かってセドが疾く駆ける。
「貴方たちがリジーさんにセドさんでしょうか?」
 ユニが一歩前へ。
「――財布の子の母親だと言えば、お話に応じてくれると娘は言っていましたわ」
 微笑み出たユニの前で、セドは足を止める。
「貴女が‥‥あの子の‥‥?」
 隙を窺いつつ、ドミナの方を見る。ドミナは、拘束されていなかったが、自分からセド達の方に歩いてくる様子もない。
「端的に言うと、ドミナさんを渡すのは構いませんの。ただし、条件がありますわ。今度貴方がたの街に行きます。貴方やお仲間さん。勿論、子供たちも連れてLHに避難させます。そのお手伝いをしてください」
 真摯な瞳を向けて、ユニは訴える。
「一度でいいので私たちを信じて頂けないでしょうか?」
「‥‥それは、貴方の独断ですか? それとも、軍やLHの方々の了承があって?」
「まだ、私だけの考えです。けれど、説得してみせます」
 胸を張り、自信をもって宣言する。
「‥‥それじゃ、ダメだな」
 二人の会話に、後ろからリジーが割って入った。
「LHってのは、難民を保護する場所なのか? 俺はそうとは聞いてねえぜ。――だから、俺からも条件だ。今度会うときまでに、確実に守れる約束を取り付けて来な。そのときは、考えてやってもいい」
「‥‥それなら、お手伝いしてくれるのですね」
「ああ。できる範囲で、だがな?」
 ユニが頷き、ドミナの前から退く。ドミナがリジー達の方に歩きだす。
「避難のとき、あなた方はどうされるんですか? こちら側に来れば、元の人間に、戻る方法もありますよ?」
「方法があるのは知ってんよ。‥‥ついでに、それが俺らには適用されないだろうって事も、な」
 セドとドミナが再会を喜ぶ姿を横目に、リジーが答える。話はそれで終わりか? と、見回す。
「お待ちを‥‥戦果が必要なら、こちらの護送車を破壊していかれますか?」
 織歌が護送車をついっと顎で指して、言う。
「いや、いい。カヌアは戦果なんてものを欲しがるタマじゃない。怠惰な奴でね。俺らに自爆装置を付けるのもめんどくさがる変わった奴さ」
「‥‥カヌアについて、もっと情報はないか?」
 リジーにウラキが尋ねる。
「あいつについて、か‥‥。いや、奴の戦い方とか、そこら辺はよく知らねえ。戦ってるところを見た事がないんでな。ただ‥‥、そうだな。あんたらが持ってるあいつの情報は、ヨリシロを乗り換える前のものじゃねぇかな。昔は男性だったが、今は女性のヨリシロだ。これは、軍も掴んでねえだろうよ」
 今度こそ、それで話は終わりだった。
「さてと、それじゃ、お暇させてもらうかね‥‥。あばよ。また会えるのを楽しみにしてるぜ」

●軍への報告、そして‥‥
 護送車両を研究施設に送り届けた後、依頼主である軍の基地士官と会っていた。
 基地の会議室、そこで、織歌は軍の士官に起こった出来事を報告する。
「そうか。‥‥しかし、残念だが軍は協力をできない」
「‥‥では、街一つを見捨てるのですか?」
 織歌の言葉に、士官は首を振る。
「‥‥そうは言っていない。だが【NS】東海岸奪還作戦の現状、つまり、オタワの窮地は傭兵にも周知している通りだ。五大湖周辺戦力をオタワに集結させるため、それ以外に余分な戦力を割く事は出来ない」

「君達も諦めたまえ‥‥バグア側の人間とした約束など、守ったところでしょうがないだろう」
 そう、士官は言い放ち、踵を返す。
 傭兵達が何かを言い返す前に、軍の士官は去って行った。

 後に残された傭兵達。

「‥‥諦めろと言われても――」
 その中の一人が呟く。

『なら‥‥街の皆を、私も含めた街の皆を、幸せに、できますか?』
 思い出すのは、少女の一つの願い。

「――依頼なんでね‥‥今回は、少し事情が違う、かな」

 その言葉を、誰が吐いたか。言葉は‥‥会議室に、ただ、残響を残した。