タイトル:【AC】KV撮らせてね!マスター:草之 佑人

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/07/29 06:39

●オープニング本文


 赤茶けた砂漠に一点の青。深緑の青がオアシスとなり、アフリカの大地の一辺、その場所では、乾いた熱風に水の湿りが混じり、暑さが和らいでいる。
 その付近、仮設に設置されたUPC軍の小規模拠点がある。
 UPC軍の拠点陣地の中を、一人の女性と一人の少女が歩いていく。一人は、金の髪に胸元のシャツの隙間から見える焼けていない肌が白い、白人の女性。もう一人は、黒髪に小柄で大人しそうな、しかし、傭兵の兵装を身に纏った少女。
 女性が大きな胸を張り、うぅん、と伸びをすれば、薄手のシャツが、大きく盛り上がる。
「んー、やっぱりいいわねぇ。――KVのある戦場は、空気が美味しいわ」
 女性――ヘレンは、久々の大規模作戦に胸を躍らせて笑う。
「ヘレンさん、おへそ‥‥おへそが見えてます」
 慌ててヘレンのシャツの裾を引っ張り隠す隣の少女。少女の名前はハリュー。ヘレンの雇った傭兵だ。
 ヘレンは、大規模作戦の情報を聞きつけてKVの撮影にアフリカに駆けつける際、オペレーターのジェーン・ヤマダ(gz0405)から傭兵を一人斡旋してもらっていた。それがハリューである。
 彼女たちは、拠点の一つに無理に押し掛けて、輸送トラックの荷台で寝泊まりしていた。
 今日の予定は、国境付近で軍のKVによる戦闘を撮影する事。
 今は司令部付きの担当者との打ち合わせに向かっているところだった。
 司令部として利用している仮設テントは既に近い。
(さっさと打ち合わせを終えてKV撮りに行きたいわねぇ)
 心ここにあらずとヘレンは足取りを早くし、ハリューは小走りに追いかける。能力者とはいえ、歩幅の違いはいかんともしがたいものがある。もう少し大きくなりたいです、と心の中で思ったりしながら、
「あ、待ってください、ヘレンさん」
 ハリューはヘレンに声をかけて、後を追う。
 司令部設置の仮設テントにまで、もう五歩もないというところで、彼女らに先んじて兵士が一人、司令部へと駆け込んだ。目の前で、テントの入口が締められる。
「――もう、何よ。あたしが先だったのに!」
 目の前、閉じられた入口を睨みながら、ヘレンが腰に手を当てて、頬を膨らます。
「しょうがない、と思います。入って行かれた方、何故かすごく慌てた様子でしたから」
「慌ててれば、先に入っていいなら、あたしはいつだって慌ててやるわよっ」
 むっす、と膨れたまま、屁理屈にもならない事をごねる。まるで子供みたいだが、面倒見のいいハリューは、そんなヘレンを宥めつつ、司令部の前で待つ事を提案する。
 結局のところ、待つしかないのは確かで、だからと言って、時間を潰す娯楽のようなものは何も無いところだ。
 まだ少し仏頂面をしながら、ヘレンはハリューの提案に応じ、テントの前で待つ事に決めた。
 そして、突っ立って待つ間、何をするでもなく居れば、自然、聞き耳を立てる様な形になる。
 テントの中、全くの他意は無く、話声が聞こえてきた。

「――報告します。湖の対岸にキメラの掃討へと赴いた戦闘機小隊が全滅しました」
「やはり、そうか」
 報告に答える指揮官も、その戦闘が空戦であった為、双眼鏡である程度戦闘状況を確認していた。
 戦闘開始後、初期は、戦闘機小隊が戦闘のイニシアチブを握り、キメラ達を圧倒していた。
 数は多かったが、キメラ一匹毎の戦闘力が弱く、その為、一般人による戦闘機小隊でも、複数のキメラを相手にして倒す事が出来ていた。
 しかし、戦闘中盤、半数程度に数の減ったキメラ達に対し、どこからともなく同じキメラの群れが増援に現れた。
 そして、それは繰り返す。倒せども倒せども、補充され、いっこうに数の減らないキメラ達に、次第に戦闘機小隊の火器が尽き、追い込まれていった。
 結果として、戦闘機小隊は引き際を見誤り、全滅してしまう。
 その後、敵飛行キメラ群は、湖上空に留まり、こちらへ侵攻してくる様子は今のところ見せていなかったが、いつ、襲撃があってもおかしくは無い状況だった。
「‥‥傭兵の応援を呼ぼう。こちらに回せる軍のKVは無いだろう。しかし、再度戦闘機部隊で攻撃を仕掛けても、結果は二の舞だと考える。相手に増援の隙を与えない程の強力な打撃力――となると、KVしかあるまい」

「うふふふふふふふふふふふ」
 話を立ち聞きしていたヘレンが不気味に笑う。そして、がばりと顔を上げると、
「――ラッキーよ、僥倖よ、運命だわ!」
 胸を張り、力強くガッツポーズをとる。目がきらきらと輝いていた。
 きょとんとして、ハリューはヘレンに目を向ける。
「あの、何がどうして、ラッキーなのですか?」
「何を言ってるの! これがラッキーじゃなくて何だって言うの!」
 大きく振り返り、ヘレンはハリューの両肩を掴むと、がっくんがっくん揺らす。目をぐるんぐるんと回して、あううう? と呻きを漏らす。
「傭兵よ? もしかしたら、軍では見られない最新機種のKVとかもあるかもしれないじゃない。ああ、ガネットなんて贅沢は言わないけど、もしかしたら、天とかフェンリルとか来るかも‥‥」
 うっとりとしながら、自分の身体が歓喜に震えるのを押さえるように、自分の手で自らを抱く。
「‥‥あの、天やフェンリルでも、十分、贅沢だと思い、ますよ‥‥?」
 揺れから立ち戻りつつ、ハリューがツッコむも、もちろん、ヘレンはこれを無視した。
「と、なれば‥‥行くわよ、ハリュー!」
「どこへ、ですか‥‥?」
 背筋に這い上ってくる嫌な予感。暑さからではない冷や汗を一滴、頬に伝わせながら、じっとヘレンの顔を窺う。
 その視線を受けながら、ヘレンはにやっとした笑みをハリューに向ける。そして、
「特等席♪」
 一言残し、湖の方へと歩き出した。

●参加者一覧

篠崎 公司(ga2413
36歳・♂・JG
小鳥遊神楽(ga3319
22歳・♀・JG
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG
フローラ・シュトリエ(gb6204
18歳・♀・PN
柳凪 蓮夢(gb8883
21歳・♂・EP
秋月 愁矢(gc1971
20歳・♂・GD
ヨハン・クルーゲ(gc3635
22歳・♂・ER
グリフィス(gc5609
20歳・♂・JG

●リプレイ本文

>■
●空を飛んで
 湖上空、CWの周囲を多数のキメラが飛び交い、その場に滞空している。
 それを空に眺め、湖上に漕ぎだされたボートが一隻。ボートの上、乗っているのは、ヘレンとハリューである。
 ハリューは、いつキメラがボートに向かって来るかと警戒をするが、ヘレンはキメラを気にもかけず、警戒をハリューに任せて西の空にカメラを向ける。
 ――湖より西にあるのは、軍の基地だ。
 そのうちに、幾つかの光る点が向かって来るのが見え始めた。光は焔に、白雲を棚引かせる。
「来たわね!」
 光が近づいてくれば、その姿はよく分かる。
 傭兵達のKVである――。

「報告より数が多いですね」
 空の端に、キメラとCWの群れを確認した篠崎 公司(ga2413)。
 だが、センサーに捕捉されたキメラの数は、軍からの報告よりも多かった。
 推測ではあるが、軍が確認した後にも、増援があったのかもしれない。
「次々と増援が追加されるキメラですか‥‥」
 コックピットの中、自身でも数を確認しながら、ヨハン・クルーゲ(gc3635)が呟く。
「どこからともなく短いスパンで増援が来て‥‥戦闘機隊は全滅か」
 ヨハンの呟きに秋月 愁矢(gc1971)が補足する。
「軍の戦闘機小隊を全滅させるほどの戦力とは、1体1体が弱くとも馬鹿には出来ないわね」
 小鳥遊神楽(ga3319)が冷静に、敵の戦力を分析する。
「単純な物量作戦とはいえ際限なく増援を送られては厄介ですからね」
 ヨハンが神楽の言葉に頷き、返事を返した。
「仕掛けはあるんでしょうけど、終わりが見えないのは辛いわよねー」
 フローラ・シュトリエ(gb6204)も苦笑いを浮かべる。
「湖のすぐ向こう側は砂漠なんだね。増援が現れたのは、‥‥方角的には砂漠の方かな?」
 並び飛ぶKVの最後方、柳凪 蓮夢(gb8883)が全員と、地形の位置関係を走査し、把握していく。
「増援の原因ですが、昔の漫画に”砂漠に潜る空母”なる代物がありました。今回もそれに類似する何かと睨んでいます」
 砂漠というキーワードに、公司は自らの立てた予測の確信を深める。
「その何かを見つけないと‥‥ジリ貧だな」
 愁矢が公司の言葉に返し、僅かに眉根を寄せる。
「そうはならないように、増援が現れる前に速やかに駆除する事にしましょう」
 神楽のガンスリンガーが最初に狙うのはジャミングを発するCW。
 ジャミング外からの狙撃を狙い、DFスナイピングシュートにシフトさせて遠距離からの射撃精度を上げる。
「射線上の、敵は、任せて、ください」
 CWまでの射線を開ける為に、CW周辺のキメラを駆除しようと、ルノア・アラバスター(gb5133)が前に出る。
 前に出るルノア。そのコックピットに、湖からきらりと光が反射してくる。敵かと思い、注意を向けるが、――違った。
 カメラの望遠に確認すれば、湖上、ボートが浮いているのが、確認できる。
「湖上に、人‥‥?」
 ボートの上に豆粒のような人が見える。光の反射は、その人物の持ち物のようだ。
「なんでこんなところに民間人がいるんだよ‥‥」
 通信から漏れ聞こえたルノアの呟きをグリフィス(gc5609)が確認し、冷や汗を浮かべると、
「随分と、無茶な、方々、です、ね‥‥」
 ルノアも少しだけ表情を驚きに歪める。
「しかし、ボートの二人ってなんでそんな所にいるのかしらね?」
 フローラもまたボートの二人を確認して疑問符を頭の上に浮かべた。
「‥‥戦場に紛れ込んだ理由は分からないけれど、あたしと戦友達の安全の方が優先されるから。
 流れ弾に当たったら、不運と諦めて貰うしかないわね」
 民間人であるからには、無意味に巻き込まないように注意はする。しかし、それは最低限の注意だ。
 神楽は冷静に、それ以上の意識を振り向ける事無く、前を向く。
 キメラは、もう、すぐそこにまで近づいている。
 公司がジャミングの中和を開始する。
「――フェンリル01、交戦を開始します」
 戦闘開始の宣言。それを皮切りに各機は散開し、それぞれの目標へと機首を向ける。

>■
●砂中に潜む
 戦闘開始、初撃。神楽が距離60からキメラの群れの向こうに居るCWを撃ち貫く。
 四角い身体を穿つ破砕音。続き公司がライフル弾を、もう一撃叩き込めば、CWは墜ちる。
「先に排除すべき目標ですからね」
 まずは、CWを撃ち抜いた公司。神楽の狙撃と連携して、CWをジャミングの外側から一体ずつ撃ち落としに狙う。
 ジャミング外からのCWへの狙撃に、キメラ達が反応した。
 夏の川辺に群れて浮かぶ羽虫のように空を舞っていたキメラの群れがCWへの射線が覆い隠しつつ、傭兵達に突撃して来る。
 キメラの群れを傭兵達が迎え撃つ。フローラがプラズマの光条を走らせ、ヨハンがレーザーの輝線を走らせれば、蓮夢のバルカンと愁矢の重機関砲の弾幕が手前の敵から順に捉えて落としていく。
「射線、開け、ます」
 塞がれたCWへの射線の上、ルノアがその先頭へCA04−Sを掃射し穴を開ける。
「ターゲットロックオン‥‥邪魔だ、退け!」
 ルノアの射撃で開いた穴にグリフィスがRG−04Eを発射し、穴の奥で爆発。
 ――CWへの道が開く。
「その道、狙わせてもらうわ」
 精細動性アクチュエーターが神楽の精緻な照準の合わせに呼応する。
 開いた射線、狭いが確かに通ったその一筋の道を、針の穴を通すような精密さで神楽が射撃。
 僅かな隙間を潜り抜けて、銃弾がCWを貫く。CWが二体目、落ちた。
 キメラ達は群れに風穴を開けられても、CWが落ちようとも、傭兵達への突撃を止めない。
 むしろ、加速にその身を走らせて、傭兵達を狙い来る。
 CWのジャミング範囲を抜ける事になっても、意に介さず、その足が鈍る事は無い。
 射線の邪魔になる敵の前に立ち、スラスターライフルで撃ち落とし続けるルノア。アテナイがキメラの接近に反応して弾幕に応戦すれば、張られた弾幕にフローラがガトリングで合わせて、鉄のカーテンをより厚く編みあげる。
 分厚い弾幕を、それでも、数で圧倒し、何匹ものキメラが潜り抜けてくる。
「結構な数が居るね。皆、気をつけて」
 弾幕をすり抜けてきた敵の内、最も仲間に近い敵から順に狙って、蓮夢がバルカンで次々と撃ち落としていく。
 撃ち落とされたキメラが順に爆発をしていけば、そこには、広く爆煙が漂うことになる。
 その爆煙で生まれた死角。意図したわけではなく、偶然にキメラが死角に回り込んできた。
 蓮夢の死角から突撃するそれを、連続するガトリングの銃弾が貫く。
「――危ない危ない。もう少しで見逃すところだったわよー」
 キメラを貫いた銃弾はフローラのもの。フローラは死角から突撃するキメラを補足していた。
 フローラの銃弾には翼を貫かれただけで、爆発せずに湖へと墜ちていく。再度の射撃。ボートの上に落ちるのを防ぐように射撃を重ね、キメラを空中で爆発させる。
 キメラの接近を防ぐ防衛線が構築され、接近を許さずに、CWが狙い撃たれていく。
 愁矢は優勢を保った仲間達の防衛戦から離れ、先に敵の増援の原因を探りに、低空へと降りる。
 近づく湖上の人影。ズームで捉えて確認する。
「ボートの民間人‥‥持っているのは、カメラか‥‥?」
 呟き、ふと閃いたものかあった。
 ――噂で聞いた事がある。KVの撮影に、無謀にも戦場まで乗り込んで来るカメラマンが居ると‥‥。
「アレが噂のカメラマンか?」
 気にはなる。しかし、ひとまずは、彼女らをそのままにして、増援の原因を探ることを優先する。機体のセンサーを駆使して、周囲の探査。
 軍の基地から湖を挟んで、反対側に広がるのは一面の砂漠。
 どこまで行っても代わり映えのしないその光景に、センサーを頼りに探っていく。

 蓮夢が自機へと向かってきたキメラを高出力ブースターで加速し、すれ違うように回避した。
 回避した後、急旋回にキメラの後方へ。Gウイングで急旋回の中、姿勢を制御しつつ、後方から剣翼で斬り裂いた。
 後方で起こる爆発から逃れ、次の獲物を狙う。
 爆発の向こう側、蓮夢への追撃に接近してくるキメラ達に、神楽がバルカンとミサイルポッドの弾幕を浴びせる。
 ミサイルの爆発に、キメラの爆発が重なり、咲く火の花は大きくなる。
「これで何匹目かしら」
 CWを全滅させた後、神楽もキメラの駆除に移っていたが、数が非常に多い。
 それでも、当初居た数からすれば、その数を半数ほどに減らしている。
 数の減少。つまり、軍の戦闘報告によれば、増援のタイミングだ。
「さて、そろそろのはずですが‥‥」
 キメラの数を確認し、公司がキメラの駆除から周辺への警戒に重点を移す。
 仲間達も、増援に警戒を強める。ぴりっとした空気の中――、

 不意に、湖の近く、砂漠の砂が盛り上がった。

「――発見したぞ、そちらから見えるか?」
 異変を最初に捉えたのは、低空から増援の原因を探っていた愁矢だ。
 砂中から現れたのは、ムカデワーム。その背中に巨大なコンテナを背負っている。
 巨大なコンテナが真ん中から左右に開く。砂漠の照りつける太陽の下に、多数の飛行キメラが姿を現した。折り重なるようにコンテナに積まれていたキメラ達は、開放され、水を得た魚のように動き出す。
「一気に接近し、斬る」
 機体をほぼ垂直90度バンクのナイフエッジに傾け、右翼で湖面を掠める程の超低空に飛ぶ。
 愁矢機の掠め上げた水飛沫がボートへと飛んだ。
 ムカデワームの周辺、展開されたキメラ達の下を、ブースト加速で掻い潜るように突き抜ける。
 ムカデワームが気付いた時、既に愁矢機は眼前に迫っていた。人型に変形する愁矢機。エアロダンサーで機体を制御し、建御雷を構える。すれ違いに一閃。加速し、輸送コンテナを大きく切り裂くと、戦闘機形態へと戻って追撃に来たキメラ達を振り切る。
「なるほど、あれが増援の原因ねー」
 眼下にムカデを捉えてフローラがブースト加速でムカデへと向かう。フローラを先頭に、傭兵達が続く。
 だが、空中に残るキメラ達が傭兵達を後ろから追いかける。
「お前らの相手は俺だ! こっちに来やがれ!」
 仲間達の援護をするように、残ったキメラ達をグリフィスが牽制。引き付けるようにドッグファイトを開始する。
「しばらく、こちらを、向いて、いて、ください」
 ルノアもまた、敵の群れに向かって、チェーンガンから剣翼での突撃。手当たり次第に暴れ、撹乱する。
 それでも、いくらかのキメラ達は、動物的に獲物の移動を追いかける。
「追撃はさせません。ここで釘付けにします」
 追撃するキメラ達を、ヨハンがさらに後ろから追い、レーザーで叩き落としていく。
 低空に降りていく仲間達を追いかけるキメラ達は、途中で、群れの半分が不意に方向を変える。
 低空へと接近した事で、キメラ達が湖上のボートに気が付いたのだ。
 ――まずいですね。
 くっ、と息を細く吐き、放電装置を全弾発射する。
 しかし、それを掻い潜ってキメラが二匹、ボートへと迫っていく。
「そちらには行かせませんよ、HBフォルム起動!」
 ヨハンがHBフォルムからの加速で、急接近し、ML3を至近距離で射撃。爆風に巻かれながら、一匹を撃破。
 もう一匹――。ヨハンが狙いを移そうとした時、
「おまえらの相手は俺だって、言っただろ! そっちに指一本触れさせはしねえよ!」
 グリフィスが、脇からの加速に機体をキメラ達の前に投げ出す。失速寸前のところから機首を反転し、トリストラムで射撃に射抜く。
 ぶつかる寸前の乱打。キメラが目の前で爆発を起こし、グリフィスは巻き起こる爆風に飲まれ吹き飛ぶ。なんとか、体勢を持ち直したが、損傷は大きい。
 それでもボートの盾になるように、キメラとの戦闘に戻って行く。

 一方、追い縋る高空のキメラ達を三人に任せ、四人の傭兵はムカデまでの空を一気に翔ける。
 ムカデワームの周囲に展開し愁矢機を追い回すキメラ達が、彼らに気づいて、その矛先を変える。
「邪魔をさせないわよ」
 神楽が仲間達の援護に、バルカンとミサイルポッドの弾幕を作りだす。
 生じた弾幕にキメラ達の突撃が押さえられる。
「速攻で潰すわよー」
 ブースト加速で一気に降下したフローラがムカデに迫る。EBシステムの起動に加え、HBフォルムを起動。
 無数のキメラ達の突撃を避けながら、プラズマライフルで射撃を重ねる。
 網の目のように広がってくるキメラ達に、その隙間を掻い潜り、蓮夢がムカデワームに接近する。
「砂を吹き飛ばすよ。皆よく狙ってね」
 蓮夢が放ったグレネードにムカデワームは周囲の砂を吹き飛ばされて、輸送コンテナの下に隠れた本体の部分を大きく砂から露出する。
 幾つもの攻撃に見舞われながらも、キメラを放出し終えたムカデは撤退に、砂の中へ潜ろうとしていく。
「そう簡単には逃がさないよ」
 さらに接近し、もう一度、グレネードを発射する。ただし、今度は増えた露出の下部。ムカデの腹へ潜り込ませるように狙い撃つ。
 爆発はムカデワームを下から吹き飛ばし、砂地の上に横倒しになる。
「もう一度いくよー」
 キメラの群れを回避しながら、フローラが再露出したムカデワームに幾条もの輝線を乱打する。
「砂に抱かれて眠りなさい」
 公司が残ったAAMをあるだけ発射する。踊るミサイル群は横倒しから体勢を立て直そうとするムカデワームの周囲に次々と着弾し、爆発を上げる。
 連なる爆発に、ムカデはその身体を何度も跳ねあげられ、最後、自らの身の爆発と共に消えた。

●戦いを終えて
「そっちにいったよー」
 フローラが残存のキメラを追い詰めていく。言いつつ、フローラはライフルで一匹を撃ち落とした。
 残るは、ムカデワームの轟沈に、増援が途絶えたキメラ達の最後の一匹。
 向かってきたそれを、グリフィスがトリストラムで撃ち抜く。空に咲いた最後の爆発に、残った爆煙を駆け抜け、グリフィスは低空に居る仲間達の下へと降下していく。
「さすがにこれで終わりだよな‥‥」
 哨戒飛行に周囲へと気を配りながら、グリフィスは、シートに深く腰を沈める。

 淡い朱と白を基調にしたシラヌイが眩く輝く虹色の翼を広げて空を翔けていく。
 ブースターの噴射炎が白く棚引き、基地の方角へと続いていく。
 また、別の一機。白をベースに黒の模様が翼にカラーリングされたディアマントシュタオプが二人の様子を窺うように、低空を翔けていった。
「――ふっふー♪」
 ボートの上、KV達を見送りながら、ヘレンはご満悦といった顔でカメラのレンズから目を離す。
「いやー、やっぱり、近くまで近づくと、撮れる絵が違うわね」
「‥‥何度も、死ぬかと思いました‥‥」
 ハリューがぐったりと気疲れして、座りこむ。
「ほら、休んでないでボートを漕いで。急いでKV追っかけるわよ」
「え?」
「え、って、当り前でしょ。人型の写真が全然撮れてないもの。基地に戻って傭兵達と交渉。人型を撮らせて貰うわよ」
 ヘレンはにっこり笑って無茶を言い放つ。
 彼女のKVへの愛は、業が深い――。