タイトル:【NS】自由への道が在るマスター:草之 佑人

シナリオ形態: イベント
難易度: 難しい
参加人数: 23 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/07/20 16:02

●オープニング本文


●市街地戦
 あちらこちらに立ち昇る煙。硝煙の香り漂う瓦礫の山に隠れ、歩兵が一人。荒い息を整えつつ、その時を待つ。
『――14時方向。キメラ1。5秒後に仕掛ける。――4、3、2‥‥』
 ヘッドセットの向こう、小隊長のカウントにロケットランチャーを構え、トリガーに指をかける。
 ――放つ。
 周囲から同様に聞こえるロケット弾の空を貫き走る音が耳朶を打つ。
 放たれた十数ものロケット弾がキメラを捉えて、閃光の花束を捧げれば、キメラはたたらを踏んで横倒しに倒れる。小隊は即座に索敵に移るが、付近に生きたキメラの姿は見えなかった。
『進路A-7クリアー』
 小隊長が通信機へと報告すれば、すぐに返答が返ってくる。
『君達の担当区分で最後だ。すぐに出来た道を傭兵部隊に走らせる。各自援護に回れ』
『了解』
 小隊長の言葉と共に、小隊は散開しキメラの接近を許さない様に警戒に走る。

●施設奥
「さて、戦況はどうなっておるのだ?」
 豪奢なドレスを身に纏い、無機質で男臭い作戦室に一人場違いな姿の女王然とした女性が入ってきた。手には鞭を持ち、尊大な態度のその女性に、しかし、眉を顰める者は、この場に一人としていない。
 彼女が、このシンシナティで最も地位の高いバグア、クイーン。
 作戦室に詰める強化人間達――こちらは、中世の騎士の様な衣装を身に纏っている――が、握り拳を胸の前に敬礼する様に掲げ、クイーンに振り向く。
「戦況は、我が方が完全に押しております。人間共も物量で戦線を持ち堪えている様ですが、いずれ瓦解しましょう」
「ふむ‥‥」
 クイーンは、にやりとした笑みを浮かべると、ふふん、と鼻を鳴らす様に笑った。
「妾の鞭は必要ない、とそういうことかの?」
「クイーン様は、お部屋にてごゆるりとしていただければ、我らだけで全て片づけましょう」
「ほほぅ。それは楽しみじゃの」
 しかし、笑みを浮かべながらもクイーンは、机上に広げられた作戦図に歩み寄って行く。
 何か、不興を買いでもしたか、と周りの者がごくり、唾を飲む。
 歩み寄ったクイーンは、しばし、作戦図に目を落とすと、作戦図上の一点を鞭の柄で指す。
「――ここは、どうなっておる?」
「は?」
「ここは、以前、傭兵共に防衛施設を破壊されておったろう。まだその修繕が成ったと妾は報告を受けておらんが‥‥ここの防衛は、如何様にしたのじゃ?」
「そ、それは‥‥」
 男は先程の自信に満ちた返答を一転、翻して口ごもる。
「もちろんのこと、優先的にタロスでも回したのじゃろうな?」
「い、いえ、キメラを多少――」
 そこまで男が答えて、――目に見えぬ速度で飛んだ鞭が男の頬を張った。
「たわけが――我らの方が押せておるのは、その綻びに彼奴らが戦力を集中させておるからだ。綻びが崩れれば、すぐにでも傭兵共が穴を抜けて妾の下に来ようぞ。もうよい、お主等は戦支度をしておけ」
 そこに居た全員が、はっ、と敬礼を返し、即座に戦闘準備へと取りかかる。
 その様子を変わらぬ見下した目で見つめながら、
「いかんのぅ‥‥最近の人間共は‥‥活きが良過ぎて困るのぅ」
 クイーンは舌舐めずりに嬉しそうな、それでいて酷薄な笑みを浮かべた。

●施設入口
「シンディ様、やはり来るようです」
 施設の入口、裸足で棘付き鉄球に乗っかり、大道芸の様に転がして遊ぶ少女が居る。その少女――バグアであるのだが――に向けて、施設の奥から一人の青年が歩いて来ながら話しかけた。
「ほいほーい」
 シンディは、よっはっ、と鉄球の上でバランスを取りながら、青年――ビーに返事を返す。ビーはシンディの部下であり、強化人間である。
 ビーは呆れる事も無く、ただ淡々とシンディの様子を眺め、
「しかし、シンディ様。わざわざこの様な劣勢の戦場で無くとも良かったのではないですか?」
「んー? クイーンちゃんとは、ちょっとだけど面識があるからねー。ちょっとしたお手伝いだよー‥‥お、おお? わたたた」
 危うくバランスを取り損ねて、鉄球から落ちそうになって自分から飛び降りた。今度は鉄球の乗り方が上手いのでもヨリシロにしようかなー、などと本気とも冗談とも判断のつかない呟きを洩らす。
「――なに不満そうな顔してんだよ、てめぇは」
 ビーの後ろから声。かけたのは、エルという、ビーと同様シンディの部下である強化人間の女性。
「私とて、シンディ様の勝利を信じていない訳ではない。だが、この戦場では、潰した相手の血を飲む暇すらない」
 ちらりと睨め付けるようにビーがエルを見る。
「シンディ様の事を思えば、我らに有利な戦場で戦闘を繰り広げた方が、幾分も多くの血を味わう事ができるだろう?」
「‥‥分かったような、分かんねえような‥‥」
 エルがビーの言葉を考える事を放棄して、懐から取り出した煙草を一本、口に咥え火をつける。
「まー、なんだっていいよー」
 んしょんしょと鉄球の上に再度登りつつ、シンディは二人の会話に口を挟む。
「来た奴、全員ぶっ潰す事に変わりは無いんだしさー」

●施設内部
 格納庫。ほとんどのワームが出払ったそこに、まだ残るワームがある。壁に並ぶ大きな西洋人形のようなワームと、その反対側、女性の姿を象った石像のワームが二体。
 その石像の足元、三人の男女の姿がある。男性はバグアのジャン。女性は強化人間のカレン。それともう一人。
 幾つかの説明をジャンが行い、カレンがそれを聞いている。
「――ジャン。それじゃあ、これは高機動タイプなの?」
 カレンは石像の足に触れ、見上げながら問う。
「ああ、すまないね。本来は君ではなくレイテ君に乗ってもらう為に調整を進めていたから」
「‥‥そう」
 ――それはちょっと妬けちゃうかな。と小さな呟き。
 カレンはジャンに振り返り、顔を近づける。
「ん、それじゃあ、行ってくるわ」
 頬に軽くキスを交わし、カレンは石像のワーム『レディ』へと乗り込んで行った。
「あの‥‥それでわたしは‥‥」
 最後の一人、その少女はリジー盗賊団のドミナ。
 カヌアからの帰投命令を受けて、アジトの街に戻ろうとしていたリジー盗賊団に、ジャンが声をかけた。
 そして、一人、ドミナがここに残らされたのだ。
「ああ、君か。君には、もう一つの方、砲撃タイプのレディ試作機に乗ってもらうよ」
 ジャンの示した先には、もう一つ、同じ形の石像がある。
「先に出たカレンにも言ったが、今回の戦闘に出て貰うのはデータ収集が主な目的だからね。適当に戦ったら、逃げて私のBFにまで届けてくれ」
「はい‥‥」
 ドミナは内心、胸を撫で下ろす。どのような命令を下されるのか、呼び止められてからこれまで、気が気でなかった。
 まだこの命令なら生きて帰れる目はある。
 丁寧なお辞儀を一つ、ドミナはレディへと乗り込んで行く。
「さて、私の方は先に帰っていようか。――カレン、死なないでくれよ。君の代わりの駒をもう一度調達するのは、面倒なのだからね」

●参加者一覧

/ ドクター・ウェスト(ga0241) / 榊 兵衛(ga0388) / 須佐 武流(ga1461) / UNKNOWN(ga4276) / ハルトマン(ga6603) / ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280) / ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751) / 番場論子(gb4628) / ウラキ(gb4922) / テト・シュタイナー(gb5138) / 流叶・デュノフガリオ(gb6275) / 八尾師 命(gb9785) / 湊 獅子鷹(gc0233) / 神棟星嵐(gc1022) / 春夏秋冬 立花(gc3009) / ミリハナク(gc4008) / ヘイル(gc4085) / 天野 天魔(gc4365) / 滝沢タキトゥス(gc4659) / 立花 零次(gc6227) / 住吉(gc6879) / ミルヒ(gc7084) / 無(gc7619

●リプレイ本文

●人形達の舞踏会
 シンシナティ市街地を外れた郊外に、シンシナティ・バグア軍の基地施設がある。
 基地施設の周囲、その空を守るのは五体の人形ワーム、リトルレディ。
 施設の正面、地上で守るのは、二体の女性型石像ワーム、レディ。
 市街地での決戦に施設周辺の守りは薄くなり、傭兵を中心とした能力者の部隊が指揮官を倒す為に一路、基地施設に存在する司令部へと駆けていた。
 指揮官の撃破に成功すれば、決戦はすぐに終わるだろう。しかし、失敗すれば、都市を奪還できずに立場が逆転されるかもしれない。
「‥‥もう一押しの鬩ぎ合い、ですね」
 地上を行く仲間達の護衛に、空を翔けるのは番場論子(gb4628)のロジーナ。
「折角ここまで押し込んだんだ。一気に片をつけよう」
 並ぶユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)が、通信を論子に返す。
「‥‥これ以上、ここでバグアとの戦いが起こらないように‥‥がんばりましょう」
 やや後方に位置を取り、無(gc7619)もまた、緊張を紛らわせるように会話に参加する。
「俺みたいな子供が増えるのは‥‥もうたくさんですから」
 そっと、呟きに自分の目的を確認して、前を向く。
「こちらが苦しい時は向こうも苦しいのですから。私も無闇に焦らず自分が出来る事を精一杯行いますね」
 言う論子が遠く見据える先には、空中を舞い踊る五体のリトルレディ。
「――敵影を補足。では、初撃は任せる。俺は後ろの奴らを狙うとしよう」
 ヘイル(gc4085)のシラヌイが、先頭を並び飛ぶ仲間達から離れ、加速の為にやや後列にずれる。
「リトルレディですか。名前は聞いたことがありますが、一体どれほどのものなのか見極めさせて頂きましょう」
 捕捉された敵影は、洋服を着た人形。先頭の神棟星嵐(gc1022)がそれを見て呟く。
「敵司令部に仲間を無事に送り届ける為にも邪魔な敵は速やかに排除する必要があるな」
 星嵐に並び飛ぶのは、榊 兵衛(ga0388)の雷電。
「宜しい。全力で排除する事としようか」
 超伝導アクチュエータを起動し、摩擦を減少に大気の制約から解放されれば、兵衛機の動きは軽妙になる。
 軽やかに進むは空の先。開かれた人形達の舞踏会。
 市街地から響く戦いの音楽をBGMに、シンシナティで最後のダンスが幕を開けようとしていた。

「――こちら神棟です。ロヴィアタルとGP−02S、いつでも撃てます」
 距離は70。星嵐が照準をつけながら、トリガーに指をかける。k−02の射程となる距離60まで、後少し。
 後方のリトルレディ二機のプロトン砲から二条の輝線が空を走り、傭兵達を貫き来る。
 全機散開に避けつつ、ミサイルパーティのタイミングを待つ。
 残りの距離10は、高空では僅かな距離で――、
「距離60――。往くぞ、たらふく喰らえ」
 すぐに距離は60に、狙い定めた兵衛がK−02を全弾発射すれば、星嵐も同時にロヴィアタルを全弾発射する。
 ミサイルを追い距離を詰める先頭二機に、続くユーリが敵各機の被弾状況を見極める。
 ――判断は素早く。
「あまり時間を掛けられないから、とっとと行かせてもらうよ」
 一呼吸だけ置いたそのタイミングで、ユーリがアグレッシヴ・ファングを乗せたパンテオンを一番被弾率の低い敵機に、AAMを被弾率の高かった機体に照準合わせて発射する。
 続くミサイルパーティには、星嵐がGP−02Sで続き、
「これも差し上げます。一緒に持っていって下さい」
 論子がMM−20を発射する。連なる爆発音が耳に痛い。
 眩し過ぎる爆発の花が咲き乱れ、人形達の着飾ったドレスが焼け焦げ落ちる。
 ボロボロになりながらも、ミサイルパーティを踊り抜けてリトルレディが飛び出てくる。
 後方のリトルレディを狙いに加速したヘイル機が正面から向かい合う。
「少しばかり派手にいこうか。まずは質より量でご挨拶だ」
 アクチュエータを使用し機体のブレを最小限に、正面の一機に照準を合わせ、D−08のミサイルポッドを射出する。
 放たれたミサイルの群れを弾幕にしてリトルレディを躱し、後列のリトルレディへ向かう。
 前衛と飛び出たリトルレディ三機、それぞれに兵衛、論子、星嵐が対し、ヘイルを追わせない。
 パーティに一番ダンスの下手だったリトルレディ。ミサイルの直撃に服が破れて、レーザーソードが見えている。
 その一機へ狙いを定めて、兵衛は追撃のAAMを連続発射し、距離を詰める。
 回避機動を取るも避け切れずにAAMを食らって、リトルレディは体勢を崩す。
 体勢の崩れたその瞬間、擦れ違いざまに兵衛がスラスターライフルで撃ち抜いた。
 撃ち抜かれるも兵衛にレーザーソードを向けるリトルレディと交差に駆け抜け、一撃離脱に間合いから離れる。
「相手の得意とする間合いに入るなんて、親切な事をしてやる義理はないからな。
 こちらの間合いで戦わせて貰おう」
 接近戦を挑もうと追うリトルレディに、兵衛は機体をハーフループに反転させ、射撃を弾幕として接近を封じ込める。
 別の一機。星嵐はギアツィントでの牽制射撃を加えながら接近する。
 ブーストでの加速に速度を増して、一気に距離を詰める。
 リトルレディは接近する星嵐に対して、スカートの中からレーザーソードを振り向ける。
 更なる接近に、交差する直前、ブラックハーツを併用したフォトニック・クラスターを照射する。
「フォトニック・クラスターは目くらましにもなるのです。その隙、逃しませんよ!」
 機体全体のダメージと共にリトルレディのセンサーが焼かれる。
 予備のセンサーでリトルレディが星嵐を捕捉し直した時には、スラスターライフルでの一撃がリトルレディを撃ち抜いた後だった。
 攻勢に兵衛と星嵐が前衛のリトルレディ二機を相手取り、残った一機。
 最後の近接型リトルレディに論子がMM−20の残弾を弾幕に射出し、その行動予測を行うように観察する。
「‥‥なるほどね」
 ミサイルの回避から、無人機のリトルレディの機動に論子は一定の法則を見出す。
「動きのパターンは把握したわ」
 下側に回り込み、洋服で塞がれた死角から、接近していく。接近に合わせ、ツングースカを弾幕を張るように連射。洋服の中、スカートの中に見えたレーザーソードの柄へと砲弾を撃ち込む。
 被弾し、敵機の接近に気づいたリトルレディが、接近する論子へと向きを変える。
 剣翼とレーザーソード。すれ違いに斬り合い、両者ともに相手の後方へ駆け抜ける。
 一拍の後、――リトルレディの方が爆発した。
 前衛をすり抜け、後方のリトルレディ二機に向かったヘイル。D−08を連続で射出すれば、敵機はレーザーガトリングを弾幕にミサイルを潰し、残ったミサイルを回避機動に避ける。
「見た目に反してよく動く‥‥!」
 ミサイルを避けた後の機動を、ヘイルが追いかける。
「――だが、捉えられない程では無いな!」
 今度はAAMを射出。D−08で追いこんだ先に放たれ置かれたミサイルに、リトルレディは自ら吸い込まれるようにぶつかって行く。
 爆煙から飛び出したリトルレディに接近すれば、レーザーガトリングの掃射が襲ってくる。
 回避に機体をロールさせるヘイルを光の雨は追う。光弾が掠め、ヘイルの翼を射落とそうとしたとき、
「大丈夫、ですか?」
 無からの牽制射撃がリトルレディに回避を強いて、狙いは逸れる。
 ――狙いが逸れれば、その隙を逃すヘイルではない。
「援護に感謝する。このまま連携して落すぞ」
「はい。わかりました‥‥!」
 無からの援護射撃を受けつつ、ヘイルはドッグファイトに接近していく。
 ヘイルの後に遅れて、ユーリが続く。
「懐に飛び込んでしまえばこっちのものさ」
 接近に重機関砲の弾幕を一点集中で叩き込んで、隙を見て死角となる方向から剣翼で斬り掛かる。
 アグレッシブファングを乗せた一撃に、リトルレディのプロトン砲が斬り落とされ、空中で爆発した。

 上空で、リトルレディを仲間が抑えている間に、施設に向かって地上部隊が駆ける。
 施設の正面、予定していた侵入口の前には、レディが二機、待ち構えている。
 見たことのない新種のワームに、しかし、UNKNOWN(ga4276)はいつもと変わらぬ自然体で機体を操り、
「では、私が道を作ろう、か」
 全機の先頭をブーストで加速し駆ける。速度増すUNKNOWN機に対し、
「ドミナちゃん、後ろは任せたわ」
 ドミナが砲撃に牽制し、カレンもまた相対するように加速して正面から押さえに行く。
 UNKNOWNは盾を掲げて、ドミナの砲撃を避けもせず受け、直線に駆ける。
「足元はちゃんと見ないと危ないですよ〜?」
 高速で迎い来るカレン機に対して、住吉(gc6879)が足元への牽制射撃にチェーンガンを唸らせる。
 左右へとジグザグに機体を走らせ、速度を落としつつもカレンが住吉の牽制を避けて駆ける。
 UNKNOWN機とカレン機が正面衝突にぶつかる。
 UNKNOWN機が速度の乗っていないカレン機に押し勝ち、盾で力任せに押さえ込む。しかし、
「そうすんなりといかせるわけ、ないでしょう?」
 カレンが盾の隙間から反撃に剣を素早くUNKNOWN機へと突き立てようとした。
 しかし、それよりも早く、UNKNOWNはグングニルでカレン機の肩を貫き、槍の小型ブーストで更に加速。
 ダメージと加速の反動に、剣の狙いを外され、カレンは眉を潜める。
 UNKNOWNがカレン機を押したまま加速して向かう先は、ドミナ機。
「カレンさん‥‥!」
「おおうっ」
 UNKNOWNが気迫を吼え声とぶつけ、続けて、突進にカレン機をドミナ機へと叩きつける。
「う、くぅ‥‥」
「きゃ‥‥」
 三機の玉突き衝突に走った衝撃により、カレンが呻きを漏らし、ドミナは小さく悲鳴を漏らす。
 UNKNOWNが二機を一度に押し退け、道を開く。開いた道へ、
「はい、本日のビックリドッキリメカ〜です♪」
 住吉がスモークディスチャージャーで煙幕の後ろに潜入部隊を隠し、走らせる。
 突進を受けた衝撃から立ち直りつつあったカレン機をUNKNOWN機が無造作にひっ掴み、後方の味方へと投げる。
「そちらを任せる」
 一機を味方に任せ、UNKNOWNはまずはドミナ機を潰しにかかる。
 煙幕で仲間を隠した住吉がマイクロブースターでの加速に風を切り、ドミナの懐へと飛び込むと、
「お腹が空いてたオオカミさんは、赤頭巾ちゃんをパックリですね〜♪」
 未だ、衝撃に頭をくらくらさせていたドミナ機の胸部に、グレイプニルを突き立て、引き裂くようにして食い千切る。
 突き刺さり、コックピットの中、頭を掠めたレーザーの牙に、ドミナが冷や汗を流す。
 突き立てられた牙に、レディのコックピットモニターが壊れ、視界が見えなくなっていた。
「一撃で壊れて‥‥? 試作機だから、ですか‥‥?」
 外の情報が遮断された危険に、咄嗟の判断でドミナは自分でコックピットの装甲をはぎ取り、視界を開く。
 コックピットからドミナの姿が傭兵達に晒された。
「――えっ」
 そこに見えた顔に、春夏秋冬 立花(gc3009)が驚きの声を上げる。
 以前見た顔、リジー盗賊団のドミナだと一目見て気づく。
「あぁ、もう! 何やってんですか!」
 慌て、立花はUNKNOWNへの通信回線を開く。
「アンノウさん! そのワームの搭乗者、捕まえられますか!?」
「構わんが、報酬はでるのかね」
 ドミナのガトリングでの牽制を避けながら、UNKNOWNが聞き返す。
「日本酒1本でどうです!?」
「もう一声」
「なら、日本酒3本!!」
「――うん、オーダーは承ったよ。上手くいくかどうか。やってみよう、か」
 ガトリングで牽制するドミナにUNKNOWNが肉薄する。
 至近距離でドミナが手に持つプロトン砲の砲口を零距離射撃に放とうと向けた瞬間、両腕をグングニルが貫いた。
「きゃ、あ」
 手から離れ、地面に落ちるプロトン砲がごとりと音を立てるのと同時、両脚もまた貫かれ潰れる。
 機体を支える足を失い、崩れる際に剣翼が舞う。両肩の砲が切断され、ずり落ちていった。
「酒の為だ、恨むな、よ」
 完全に無力化され、ドミナは動かぬ機体を乗り捨てて、地面に飛び降りる。
 UNKNOWNもまた、操縦席をLOCKしながら自機から飛び降りて、ドミナに迫る。
 ――抵抗も空しく、ドミナはUNKNOWNによって捕縛された。

 空を踊る人形達。それは、いつか見た人形。そして、目の前のワームも同系統の造形に見える。
 天野 天魔(gc4365)が対峙するのは、UNKNOWNに投げられたカレン機。
「‥‥さて乗っているのはジャン本人か、それとも駒のほうかな?」
 オープン回線で、目の前のワームに通信を飛ばす。
『残念ね、ジャンではないわ。私はカレン。あなた、ジャンの知り合いなの?』
 返答はすぐにあった。――仲間が倒され、逃げる隙を作る為に食いついた、か?
「カレンか。一度会っているがその時君は寝ていたからな。初めましてと言っておこう。‥‥そうだな、俺とジャンは言うなれば、この劇の観客と監督という関係か」
『‥‥この劇の‥‥? そう』
 相槌を打ちながら、カレンは機体を加速させ、天魔機へと一直線に駆ける。
 動きを阻害するように、牽制射撃を行う天魔に対し、それ以上の速度でもって走り、狙いを外させる。
 肉薄したのは一瞬。しかし、天魔へ攻撃は加えずに、横を更に加速して走り抜ける。
「もう帰るのか? では、ジャンへのメッセージを頼もう。ジャネットは決断した。故にいずれ役者も監督も観客も全てを巻き込んだ即興劇の幕が開く。その時を楽しみにしているがいいとな」
 振り返り、走り去って行く後ろ姿に天魔が通信を投げかける。
 加速し、戦場を離れたカレン機は、人型の形態のまま、高空へと飛び上がっていく。
「退くといい、カレン。ここで幻想の愛に殉じて死ぬのも滑稽でいいが、やはり君には全てを捨てて縋りついた幻想の愛に裏切られ、何もかも失い絶望の中息絶える悲劇的な死こそが相応しい」
 いずれ、空の青に飲まれて見えなくなるカレン機を見送り、言葉を投げる。
「‥‥だからその時まで愛を満喫するといい、カレン。偽りかつ幻想だとしても君が感じている幸福は君にとっては紛れもない本物なのだからな」
 それらの言葉が、カレンに届いたかどうかは分からない。
 ただ、空の戦闘も終息に向かい、静かになり行く戦場で、天魔の言葉だけが遠くまで響いた気がした――。


●轟風のシンディ
 味方のKV達が外でワームを引きつけている間に、潜入部隊は基地施設入口へと辿り着く。
「サァラ、君はウラキ(gb4922)の援護に回ってくれ」
「はい‥‥!」
 班ごとに分かれる際、流叶・デュノフガリオ(gb6275)からの指示に、サァラ・ルー(gz0428)が頷く。
「それと、これを」
「え‥‥あ、んく」
 いつものようにサァラの口にチョコを放り込むと、自らもチョコを頬張った。
「さぁ、入りますわよ」
 施設の入口前、ドアの脇にミリハナク(gc4008)が立ち、中の天井に向けて照明銃を撃つ。生まれた光によって影が伸びる。続けて、見えた人影の足元に向かって、ミリハナクが閃光手榴弾を投げた。
 ――閃光。
 炸裂の直後に、傭兵部隊は施設内部へと突入する。
 入口すぐに見えるのは、シンディ、ビー、エルの三人。
 姿を確認するや否や、立花 零次(gc6227)が超機械を取り出す。
「通していただきますよ」
 両手左右の超機械を振るい、零次は風を生む。竜巻と旋風。二つの風が、入口の広間に吹き荒れ、奥の通路へと道を作りだす。
 作られた風の回廊を仲間達が走り抜ける。
「ソッチは頼んだよ〜」
 奥へ進む仲間の殿、ドクター・ウェスト(ga0241)が手をひらひらとさせて、先に進んで行った。

「――さぁ、パーティの始まりだよ!」
 傭兵達が散開する前に、エルがSMG二丁で弾幕を形成し、傭兵達の出足に牽制すれば、
「なんだか、うちと同じスタイルの人がいますね」
 ハルトマン(ga6603)が返し、同じようにSMG二丁で弾幕を形成し牽制する。
 二人の牽制をすり抜け、前に飛び出たのは、ビー。その動きに反応して、牽制にヴァレス・デュノフガリオ(ga8280)が大鎌を振るう。間合いを取り、対峙する二人。
「――誰かと思えば、あなたですか」
「悪いな、また付き合ってくれ」
 ビーが回り込むように横合いに飛べば、ヴァレスが追撃し、引き離す。
 残ったシンディに立ち向かうのは、流叶とミリハナク。
「遊びに来ましたわよ。歓迎のジュースの準備は出来ていますの?」
 くすりと笑み、巨大な戦斧を両手に構える。
「‥‥キミと会うのも、もう三度目に成るか‥‥。相変わらず、トマトジュースが好きなのかい?」
「好きだよー。飲ませてくれるの?」
「――そうだね。なら‥‥」
 銀の髪に隠れたこめかみを指でトントンと叩き、
「此処を狙え、上手く狙えたら‥‥赤い御褒美を上げよう。‥‥狙えたら、だがね?」
 話の区切りと共に、流叶は迅雷で正面から突撃する。
 迅雷の速さで駆け、跳び、弾け、勢い殺さずシンディの投げた鉄球を頬を撫でる紙一重の距離でかわし、懐に飛び込めば、迎えたシンディの短剣と流叶の小太刀が斬り結ぶ。
 連なる剣戟音へ、横合いから振り下ろされる巨斧の風切り音。
 気づいた時には避けきれず、シンディは強化FFで受け止める。その一撃は強化FFを斬り裂き、シンディの身をも裂いた。
 戦いの始まりに――鮮烈なる一撃をもたらしたのはミリハナクだ。
「ルカルカとばかり遊んでないで、わたしも混ぜてくださいな」
 楽しそうに微笑み、ミリハナクが嵐のようなその戦いに加われば、
「よう、お嬢さん。その殻は引っぺがさせて貰うぜ!」
 後方に控えたテト・シュタイナー(gb5138)の虚実空間がシンディを覆い、強化FFの赤い輝きが薄くなる。
「うあ、もー。危ないなあ」
 強化FFの解かれたシンディはさすがにミリハナクの一撃を警戒し、回避重視に立ち回り始める。
「治療は任せろ。遠慮なくブチのめしてやれ!」
 テトが後方からの援護に回りシンディと戦う二人を援護する。

 シンディ達の戦闘が始まる横で、ヴァレスとビーは高速での戦闘を繰り広げる。
 ビーが速度を乗せた一撃に額を狙ってナイフを繰り出せば、ヴァレスは、額へ刺突に来るナイフの一撃を、大鎌の重量に任せて身体を倒して躱す。
 躱しざまに、持ち上がった柄の石突き側でカウンターの打突。
 ビーは石突きを支点に手で押さえ、宙返りに跳馬する。
 着地点に向かって、ヴァレスは回転しながら鎌を振り上げる。空中、身を反らしたビーの衣服を鎌が掠めて裂く。
 着地したビーに、ヴァレスが追撃の蹴りを繰り出せば、その足を狙ってビーのナイフが振り下ろされる。
 だが、ナイフが突き刺さる直前に、ヴァレスは足の軌道を下に、蹴りを踏み込みへと変えて、手に持つ鎌を振り下ろしの一撃へ変化させる。
 踏み込みに前へ出したヴァレスの足を蹴り、鎌を躱しながらビーは後ろへ跳躍する。
「逃がすかよ」
 後方へ飛んだビーへ、ヴァレスは追撃の衝撃波を飛ばす。
 飛ばした衝撃波は身を捩り避けられ、代わりにナイフが投げ返されてくる。
 衝撃波を放った大鎌を手の中で回転させ、ヴァレスはナイフの腹を斬るように打ち払う。
「攻撃に対して、受けと回避だけってのも芸が無いだろう?」
 ナイフの対処で作った一拍の時間。体勢を崩しつつもビーが着地する。
 しかし、間は置かず、迅雷で距離を詰めて迫るヴァレス。
 対したビーも残ったもう一本のナイフを手に走る。
 加速に加速を連ねて、ヴァレスとビーがぶつかり合う。

「あなた程度が出来る事はうちでも造作なくできますよ」
 微笑み、エルに対してスコーピオン二丁での連続射撃を行いながらハルトマンが駆ける。 小柄な身を素早く、ちょこまかとランダムに走らせる。
「ちぃ、うっとおしいガキがいやがるね!」
 エルがSMG二丁から持ち換え、撃ち放ったレーザーがハルトマンの肩口を掠める。
 もう一筋、走る光条は反対の肩を狙っていたが、
「そこまでですよ」
 零次の放った竜巻がエルの眼前を囲い、阻害する。狙いは外れ、レーザーは地面を灼く。
 接近するハルトマンに、エルが右手の銃を持ち替える。手にしたのは、ショットガン。 近距離で散弾を放ち、ハルトマンの足を殺すと、足の落ちたところをレーザーライフルで額を狙う。
 銃口の向きから軌道を読み、身を倒し避けるハルトマン。猫耳に逆立った髪の一房が持っていかれた。
 もう一発。今度は頬に擦過痕を残して、紙一重に避ける。
「――右と左で精度が違いすぎるんじゃないですか?」
 挑発と共にスコーピオンでの連続射撃。
 しかし、反撃の射撃は避けられて、逆にエルの銃口が胸を捉えるのが見える。
「――そうはさせません」
 エルの引き金が引かれる寸前、零次が迅雷でエルの背後に回り込んでいた。
 回り込みに加速して勢いを刃に乗せて、円閃に黒い煌めきの刀身を疾走らせる。
 円を描く剣閃は高速に。回転の一撃がエルを捉える。
 剣撃を受けざま、エルは持ち替えたワイヤーガンでワイヤーを射出し、巻き取りに自らの身体を移動させ、一気に距離を取る。同時にショットガンで零次を牽制し、追撃を封じる。
 一進一退の攻防。しかし、ハルトマンが受けた傷は、すぐに回復していく。
「回復は任せてくださいね〜」
 八尾師 命(gb9785)の練成治療で傷を回復するハルトマンと違い、エルはダメージが蓄積されていく。
「邪魔をお強いでないよっ!」
 エルがハルトマンと零次の攻撃を回避しながら、命をレーザーで撃ち抜く。
「‥‥これは少し痛いですね〜」
 レーザーに撃ち抜かれながらも、命は閃光手榴弾を投げる。30秒のラグ。爆発の前に、エルは舌打ちし、効果範囲から逃げるように動く。
「此方からも攻撃しますよ〜」
 命は牽制にエネルギーガンでの攻撃を仕掛ける。
 ワイヤーで移動するエルの動きは予測が難しく、なかなかに追い込めない。


●女王と騎士が侍り待つ
 施設の入口を抜けて、傭兵達は通路を進む。
(敵の本拠地なら敵の方に地の利がある、となれば――)
 滝沢タキトゥス(gc4659)が周囲の警戒に、曲がり角、通路の奥を覗き安全を確認する。
 待ち伏せはない。少しばかりの緊張を解き、息をつく。
(――まるで誘導されているみたいだな)
 先程から、数度、進む通路の先で待ち伏せにキメラに襲われる事はあった。その度に、同行した軍の兵士達が足止めし、傭兵達を先に進ませてくれている。
「‥‥さて‥‥」
 ウラキが通路の先に、目的の部屋がある事を確認する。
 狙うのは女王と、その護衛。
 施設内、軍の兵士達とは、通信が繋がっている。少数精鋭で在る分、現在の状況はこちらが押していた。だが、キメラ達が集まってくれば、数で押され、いずれ負けるだろう。
 警戒は厳に。そっと部屋の入口、ドアを押しあけ――、

 ――鞭が、ドアを押し壊し、飛び、通路の向かいの壁を叩いた。

「‥‥なんじゃ、突入の時は派手に行くものではないのか?」
 部屋の中からは女の声。
 鞭が戻るのと同時に、傭兵達が飛び込む。。
 正面に、四人の騎士然とした男達。その後方、鞭をしならせ手元に戻しながら、雅に微笑みを湛える女性が一人、――シンシナティの指揮官クイーン。
「まーた面白そうな相手が居るじゃねーか」
 部屋に踏み込んだ湊 獅子鷹(gc0233)が刀を肩に担ぎ構える。
 敵は見るからに強敵。――無茶をせずに勝つ事は、できそうにない。
(悪いな、今回もまた約束守れねえや、こっちが一方的に宣言したことだしな、他の奴が傷つくよりましだろうよ)
 約束した友人の舌をべっと出した顔が思い浮かび、苦笑を漏らす。
 女王を後方に残し、騎士達が散開し始める。
「さあ、これで少しぐらいマシだろう?」
 敵の動きに合わせて、タキトゥスが味方陣形を防御に、致命傷を狙いにくく整える。
 タキトゥスの動き出しと同時に、ウラキがSMGで騎士達に制圧射撃を加える。
 生まれた弾幕、銃弾のカーテンに、騎士達は足を止められつつも前に出て、一人は女王の盾となる。
「少し自分の身を守る事‥‥考えたらどうだ」
 制圧射撃で敵の動きを止め終えると、ウラキはSMGを手放し、アラスカに持ち替える。
「敵の射程外から攻撃するのは当然だろう〜」
 ウラキに足を止められた騎士達をウェストが先制に撃ち抜いていく。
「道を、開けてもらいます」
 女王の前、盾となって立ちはだかった騎士へ、ミルヒ(gc7084)が竜の翼で突撃する。
 盾で防御に構える騎士との激突。竜の咆哮を乗せて、サザンクロスで盾ごと吹き飛ばす。
「行くぞ、相手してくれよ?」
 開いた道、須佐 武流(ga1461)が女王と一騎打ちに飛び出し、駆ける。
 女王が、騎士が、傭兵が、戦いに動き出す――。

 騎士達の対応に、ウラキが再度制圧射撃を加える。動きを制限させ、盾で防御したとしても、45口径の衝撃でその場に縫いとめる。
「我慢比べですね」
 盾での防御にじっと耐え続けるように騎士達が構えれば、道を開きに飛び出たミルヒも距離を離してのエネルギーガンの射撃に移る。騎士の構えた盾にわざと当てて、動きを抑え、反撃に来る隙を待ち構える。
 盾での防御に、亀となった騎士達。盾は騎士達の視野を塞ぎ、決定的な死角を作りだす。
 ウラキが動き、その死角へと滑りこむように姿を消して、影撃ちに盾の後ろの騎士を撃ち抜く。
 撃ち抜かれたのは、脚。身を立てる支えの一つを壊され、バランスを崩す。
 身を守るように構えた盾から、大きく身体がはみ出る。
「‥‥崩せ」
 ウラキの声を受けて、サァラが続く。狙撃に、重心を狙って撃ち、盾から追い出す。
「よぉ、かくれんぼはもうおしまいか?」
 追い出され、盾を手放しかけた騎士に獅子鷹が接近し、盾を蹴り飛ばす。
「盾が無くとも‥‥」
 騎士は剣一本を構え、攻勢に斬りかかる。
 剣と刀で斬り混じる。獅子鷹の一撃は重いが、それを受け流す技術は騎士が上。獅子鷹は、上段から振り下ろされた一撃を、避けず、自身障壁で耐え受け、――返す刃で横薙ぎに胴を払い斬る。
 斬撃の威力に、騎士が一歩後退する。
 生まれた隙を逃さず、獅子鷹は流し斬りに相手の脇へと回り込み、振り向こうと首を向けた相手の、その首を一撃の下に刎ねた。
 騎士が一人倒され、空気が変わる。
 防御のままではじり貧になると、騎士の一人が、無理にでも前へ出ようとする。
「――我慢比べは、私の勝ちですね」
 反撃へと転じようとしたその瞬間を狙って、ミルヒが懐に飛び込む。 盾が開き、見えた鎧の隙間に剣を突き入れる。
 一撃。深く入ったその攻撃に、しかし、騎士はまだ倒れない。
 騎士が剣を振るい、ミルヒを狙う。だが、その振るう腕は撃ち抜かれた。
「‥‥大丈夫だ、撃つのは‥‥バグアだけだよ」
 ウラキの援護射撃に、ミルヒは回避の余裕を得て、剣を避ける。
 避けざま、ミルヒは振り下ろされた腕の手甲の隙間を狙って、剣を振るう。
 手を断たれ、剣を取り落とした騎士に、さらにもう一度、剣を突き入れれば、騎士は命を取り落とす。

 鞭のしなり。襲い来る鞭の上下の動きに合わせて、武流が両の手で鞭を横払いに叩き払い、軌道をずらす。
 軌道をずらしざまに、身を躱し二本の鞭を避ける。だが、続き来るは、更なる三本目と四本目の鞭。
 三本目まで躱したところで、四本目に巻き付かれる。女王がくすりと妖艶な笑みを浮かべる。だが、
「――甘いな」
 懐から、武流は忍び刀を抜き払い、真燕貫突に二度斬る。幾分短くなった鞭を残し、女王が鞭を戻す。
 武流が鞭の戻りを追いかけて、高速機動にスコルのブースターで加速し距離を詰めざまの回し蹴りを放つ。
「吹き飛べ――!」
 武流の加速した蹴撃が遠心力と共に女王を捉えて、吹き飛ばす。
 吹き飛ばされ、床を転がり、体勢を立て直した先、タキトゥスが距離を詰めている。
「こいつは普通の剣じゃないぞ、女王さんよ!」
 女王の起き上りざまの隙に、タキトゥスがセレスタインで追撃すれば、女王は横っ飛びに逃げる。
 仕切り直しになったその時、
「待たせたな、って‥‥こっちはボロボロだけどな」
 数を減らした騎士達を仲間に任せ、獅子鷹は女王との戦いに駆けつける。
「‥‥もって数秒、しっかり仕事させてもらうよ」
 先程受けた肩口からの傷は深く、出血は激しいながらも獅子鷹は駆け出した。
「‥‥止められねーなら、この生命全部使って止めてやるよ」
「邪魔じゃっ! うっとぉしいっ」
 身を低くし接近する獅子鷹に女王の鞭が飛ぶ。
 瀕死の身体で、高速に迫る鞭をかわすことなどできず、しなる鞭が獅子鷹の身を捉えようとした時、
「あんたがやられるくらいなら‥‥俺がやられた方がまだ被害は少ないさ‥‥!」
 鞭と獅子鷹の間に割って入ったタキトゥスが、代わりに鞭の一撃を食らう。
 身体を鞭が斜めに叩き、裂けた皮膚から赤い血飛沫を上げる。強烈な一撃にタキトゥスは膝をつく。
 脇を駆ける獅子鷹。倒れるタキトゥスに目を向ける力すら惜しい。残る力の全ては、必殺の一撃の為に。
「シシタカ君、行くよ〜!」
 ウェストの魂の共有に、獅子鷹は最後の練力を振り絞る。発動させる最後の技は、強刃。
 距離を詰め切り、刀を振り上げ、
「そら‥‥持って行け!」
 大上段から、一気に振り下ろす。
「不破流絶技――鋼獅子ッ!!」
 真上から斬り下ろしに放たれた斬撃が、女王を捉える。
 女王は鞭の柄を交差させて、刀を受け止め、弾き受け流すと、反撃に鞭を振るう。
「こわっぱがっ!」
 鞭が獅子鷹に巻き付き、電流を流して全身を焼く。
 全身を焼かれ、しかし、獅子鷹は、へっ、と息を吐くように笑う。
 必殺の一撃を受け止められはしたが――、
「後は任せたぜ! エース!」
 ――足は、止めた。
「任せておけ!」
 笑みと共に崩れ落ちる獅子鷹の背後から、武流が飛び出る。
 獅子鷹の突撃に合わせて、壁を蹴り三角跳びに高さを稼いでいた武流。空中で身を捻り、回転に落下の速度を加えて、ブースターで加速。女王目掛けて速度を力と変えた飛び蹴りを雷の如くに落とす。
 獅子鷹の一撃と同様、鞭の柄を交差させて、女王は受けて耐え、しかし、受けた柄へと、武流が真燕貫突に二度目の衝撃を加える。
 衝撃が連続し、響く。
「く、ぁっ!?」
 衝撃が全身を突き抜け、女王はたたらを踏む。痺れる手で、鞭を振るい、武流を払い退ける。
 その様子をウェストは冷静に、後方からの援護に観察し、各自の能力を分析している。
「ふむ、こんなものかね〜」
 眼球が強い輝きを放ち、その光を受けて伊達眼鏡もまた光る。
 その眼光の先には、女王。分析を終えた対象に対し、興味の色を半ば以上失った目で見据える。
 エネルギーガンを片手に照準を据えて、背後に無数の覚醒紋章を一斉に広げる。雄クジャクが羽を広げたか如くに連なり、雄大華麗な扇を形成する。――電波増強に、変わる紋章の配列。
「今、君の前に立っているのが誰か、知って逝きたまえ〜!」
 十の光条。走る光が、悉くに女王を捉え、撃ち貫く。
 ‥‥こふっ、というか細い声を漏らし、女王は前のめりに――倒れ伏した。


●舞踏会の終焉に
「あまりもたついている場合ではなさそうですね〜」
 呟きに、命はエルと撃ち合うハルトマンへと錬成治療を飛ばす。じりじりと押してはいるものの、戦闘が長丁場になっていた。
 時間経過を考えれば、指揮官に向かった部隊の援護か、もしくは撤退かを選択する為に、この場での戦いは早急に終えたい。
 命は、シンディとの戦いを視界の端に捉える。
 シンディと傭兵達の戦いは、回避のカウンター狙いに動くシンディに、決定的な一撃を与えられずにいた。
 流叶との斬り結びから、後方に飛んだシンディへ、テトが追撃のエネルギーキャノンを向ける。
「悪いな。伊達や酔狂で、こんなデカイのを構えてる訳じゃねぇんだよ‥‥!」
 テトが砲撃に、シンディに大きく回避を誘えば、避ける先へミリハナクが駆け、勢いを乗せて突撃していく。
 砲撃の避けざまに、シンディが飛ばした鉄球の一撃は真正面からで、ミリハナクに回避を誘う。しかし、
「絶好球ですわ」
 足を止め、飛び来た鉄球に対して戦斧を振りかぶり構える。
 振るう全身の力を斧へ伝え、
 ――ジャストミート。
 鉄球の真芯を捉えて、斧が一刀両断に鉄球を斬り、破壊する。
 壊れた鉄球、しかしシンディは鎖をそのまま鞭のように振るい、ミリハナクへ巻きつける。
 引きずり倒そうと力を入れた瞬間、鎖は流叶に断ち切られた。
 続けて、接近に振るわれた小太刀をシンディは短剣で受け捌き、蹴りを叩きこむ。
 叩き込まれた蹴りに吹き飛ばされながらも、腱を狙って小太刀を振るう。――浅い。
 腱を断つ事は出来なかった。が、その一撃は強化FFもなく受けた一撃。
 傷の痛みにシンディが顔を歪め、意識を取られる。
「私の一撃、気に入ってくれると嬉しいですわね」
 かけられた言葉に気づき振り向いた時には、既に斧は振り下ろされている。
 両断剣・絶を乗せた最大最恐火力の斧の一撃。
 斧の軌道から身をずらす。だが、遅い。ミリハナクの一撃は肩口を捉えて引き裂き、左腕を跳ね跳ばした。
 断たれた腕の付け根から、血が噴き出す。
 ああああ、と甲高く声にならぬ叫びを上げる。
 それでも、剣劇に続く連撃を飛び退き避けたが――、
「逃げ切れはしないよ」
 蹴り飛ばされるも、迅雷で舞い戻った流叶がそこに居る。
 二刀小太刀の連撃に斬りかかり、一刀目を躱されるも、二刀目――斬り下ろしの一撃がシンディの顔を縦に斬り裂く。剣閃はシンディの右目の上を走り抜けた。
「――! シンディ様――お逃げ下さい!」
 ビーが叫び、追撃をかける流叶にナイフを投げる。
 エルが舌打ちに、制圧射撃をミリハナクとテトに飛ばす。
 二人の援護に、シンディは一気に距離を離すように通路へ逃げ込む。
 しかし、――二人は目の前で相手する傭兵達から完全に目を離していた。
「余所見か? 余裕だな――」
 背後に回ったヴァレスの大鎌が首を狙う。寸前、身を翻して躱すも、ビーは喉を大きく裂かれ、血を吐く。
「命のやり取りをしてるうちから目を離すなんて、失礼ですよ」
 零距離。懐に飛び込んだハルトマンは、息がかかる程の距離でエルを見上げ、言う。
 フォルトゥナ二丁をエルの腹部に押し付けて発砲。銃弾が腹を貫き、穴が二つ空いた。
 致命傷を受けつつも、二人は相手への牽制に距離を取り、シンディの退路へと駆ける。
 通路の奥へとシンディは消えていく。ビーとエル越しに、それをミリハナクが見送り、
「私はミリハナク。覚えてくれると嬉しいわ。ディアフレンド」
 声をかける。通路の奥、暗がりに一瞬だけシンディが振り返り、
「――覚えたよ。きみの名前と、顔、匂いも――今度会う時は、血の味も覚えてあげる」
 凄惨な笑みをミリハナクに返して去っていった。
「‥‥ちぇ、貧乏くじだねぇ」
 エルは口の端に滲む血を拭い、
「それが、我らの在り方です‥‥」
 ビーは血を吐き、咽る。通路の入口に並び立つ、ビーとエル。既に、この場以外の戦闘音は止んでいる。
 せめてシンディが逃げ切る時間を稼ぐ為にと、傭兵達の前に立ちはだかる。
 次第、静かになっていく基地施設にて、幕引きの戦いは始まり――いずれ、すぐに終わりを告げる。


●そこに道ができる
 指揮官の撃破。その報がUPCとバグアの両軍の間を駆け抜け、バグア軍はそれぞれに散り撤退していった。
 やがて、占領された基地施設にも、軍の主力が到達し、残ったキメラ達の掃討に動き始める。

「他にまだ負傷しているものはいるかね〜?」
 作戦の終わりから、ウェストは軽傷の者を救急キットで手当てして回っていた。
 KVでの基地制圧にキメラの掃討へ軍と共に向かった傭兵を除き、休息にKVから降りてきている者も多い。
「さて、お仕事も真面目にやりましたし、帰りはシンシナティの名物チリでも買って帰りましょうか〜」
 のんびりとした調子で、ふらふらと市街地に歩き出すのは、戦闘後も元気な住吉だ。
 重傷者は指揮官である女王と戦い倒れた二名のみ。戦闘後、即座に後方の病院へと搬送された彼ら以外は無事だ。
 撤収に歩き去ろうとしていたウラキが、サァラの姿を目に留める。
 人に話を聞き、軽く頭を下げて、礼を述べていた。
「サァラは、無事か?」
 ウラキが気になり、近づき、声をかける。
 気配に気づいていなかったサァラは、びくっと反応して、顔を向けた。
「――あ、ウラキさん。あたしは無事です」
 慌ててようにサァラは笑みを返す。
「そうか。良かった」
 薄く微笑むウラキに対し、サァラは何やら急いている。
「あ、その、すみません。ウラキさん、この後、次の依頼‥‥というか、その、用事がありますので、失礼します」
 ぺこりと頭を下げると、走り去っていく。
(やっと‥‥やっと、手がかりが掴めた。聞き出さなきゃ、カヌアのこと‥‥)
 慌ててこけそうになるサァラを見て、ウラキは溜め息を一つ吐きながら踵を返す。
 視界の端、小さくなるサァラの後ろ姿に目をやりながら、
「やる気があり過ぎるのが‥‥怖くもある、な‥‥」
 眉間に少しだけ皺を寄せた。


 デートン・シンシナティの両都市にいたバグア軍の基地は壊滅した。
 東海岸の奪還に、まずは、下準備が整う。
 ――だが、軍の思惑通りに物事が進むのも、ここまでだ。
 戦争は、一人でするものではなく、相手が居る。

 そう、――次は、相手の‥‥バグアの番だった。