●リプレイ本文
●青い空に、赤と青の――
ライトパターソン基地上空、都市デートンの奪還を目指すUPC軍に対して最大の脅威となって立ちはだかるのは、鹵獲KVによって構成されたバグアの部隊、ライトフライヤー隊。
傭兵部隊の正面に、青いOGREを先頭とした彼らが軍のKVを落とし、こちらに向くのが見えた。
青いOGREと正面から向き合うは、赤いOGRE、それをを駆る聖・真琴(
ga1622)が唇を噛みしめる。
鹵獲されたOGRE、青く塗り替えられたそれの、元の持ち主は真琴だ。
「――真琴、気持ちはわかるが逸るなよ」
先を行く真琴機からは高度をやや下にして、月影・透夜(
ga1806)が機体を空に飛ばしつつ、声をかける。
透夜と高度を同じにして、赤崎羽矢子(
gb2140)も真琴機の様子を見て、心配げに睫毛を伏せる。
「‥‥無茶しなきゃいいけど」
呟きが狭いコックピット内に響く。
真琴機のやや後方を、鹿島 綾(
gb4549)の機体と灯華(
gc1067)の機体がいつもの戦いと同じ様に、ロッテを組み並び飛ぶ。だが、
「あの機体が気になるのですね‥‥」
並び飛ぶ綾機の挙動から、灯華は真琴機に目を遣り綾に言う。
すぐに返事は返って来ず、そのまま続ける。
「‥‥お知り合い、なのでしょう?」
「ああ、大切な友人だ」
灯華はそうですか‥‥、と一つ頷くと、顔を上げ、
「――行ってあげて下さい」
一言。綾は一瞬、意表を突かれたように口を開けかけ、引き締め閉じる。
その一言で、綾には十分だった。
「灯華‥‥そっちは大丈夫だな? 信じてるぞ」
「私は大丈夫です、ですから‥‥貴方の義を、通して下さい」
声に信頼の色を感じ取りながら、灯華は機体を綾機から離し、空高くへ上昇していく。しかし、そんな灯華の行動を意にも介さず、敵の部隊は直線にこちらへ向かって来ていた。
仲間達の心配を聞きつつも、次第に近づく青いOGREから、真琴は目が離せない。
血色の良い唇は噛み締められ白んですらいる。OGREをバグアの手に渡したことへの悔恨にうっすらと目尻が滲んだ。
――私が止めてあげる‥‥ゴメンね‥‥凰呀。
乱暴に掌で目尻を拭う。悔し涙を流すのは、後だ。
綾が灯華と分かれ、機体を前に進めて、真琴機の横に並んできた。
真琴は、並ぶ綾機を力強く見る。
「‥‥力を貸してくれ、綾さん」
「勿論だ。一緒にやるぞ、あいつを」
真琴からの頼みに、綾が力強く答える。
空、ライトフライヤー隊に正面から当たる仲間達を遠くに、小型HWと空戦を繰り広げる側面の正規軍KV部隊に紛れ、機を狙う傭兵のKVが二機あった。
「ふふ、この後、デートの待ち合わせがありますの。ここは落とさせてもらいますわよ」
一機はミリハナク(
gc4008)の竜牙。デートの相手は、バグアの少女。デートンを抜けたシンシナティで、そのバグアが待ち構えているとの情報が直前に入ってきた。想いを馳せるように、うっすらと微笑みを浮かべる。
ミリハナクと共に正規軍に紛れたもう一機は、イレーネ・V・ノイエ(
ga4317)。
正面の仲間達、一際大きなミサイルを携えた機体――イレーネの可愛い妹、鷲羽・栗花落(
gb4249)が駆る機体でもある――が、そろそろ初撃を放てる距離へと接近しつつあった。目視で、距離は10も無い。
「‥‥では、闘争を始めよう」
イレーネとミリハナクが、紛れた正規軍から離脱し、ライトフライヤー隊の側面を突くように、動き始めた。
●冬の樹の下で
距離200まで後少し。栗花落はノーズ部分にクリスマスツリーに乗った自らが描かれたエンブレムの愛機を駆り、焦れったくなる距離を詰めていく。
「大切な友達の大事な物が奪われて黙ってられるほどボクは優しくない」
エンブレムの図柄のようにを愛機の機体下部に搭載した全長50m程のミサイルCHRISTMAS TREE、その照準を定め、栗花落はトリガーに指をかける。
「その機体、返して貰う。さぁいくよアジュール!」
トリガーが引かれ、水着サンタ姿の栗花落が描かれた巨大なミサイルが発射される。ミサイル後部の巨大な推進ブースターが焔を上げ、光炎に煙を棚引かせ翔ける。
同時。傭兵全機はブーストによって加速を開始し、先往くミサイルを追いかけ一気に敵との相対距離を縮める。
鹵獲のロングボウ二機が、巨大ミサイルとの相対距離120で自身のミサイルコンテナを開放。二機合わせて、千のミサイルの猟犬を檻より解き放てば、
「こっちはロングボウが産まれた時からの付き合いなんだ、その全部を知ってる。
昨日今日乗ったやつに負けるわけにはいかないね‥‥!」
巨大ミサイルを盾にその後方、栗花落もまた、ミサイルコンテナを開放しミサイルの猟犬を解き放つ。
乱れ飛ぶミサイルの応酬。
千の内、数百の猟犬が50mもの大きさのミサイルに――そこに描かれた水着サンタにも――次々と牙を立て、爆発の閃光を撒き散らす。それでも墜ちる事無く、傭兵達に先行して距離80に接近した巨大ミサイルに、鹵獲アンジェリカが淡紅色の光を走らせる。光条は巨大ミサイルの他、鹵獲ロングボウと栗花落の放ったミサイルそれぞれの幾つかを飲み込んで、向日葵にも似た閃光と爆発を巻き起こす。
爆発の後、残り、立ち昇る爆煙はモミの木の形に、吹き荒れる爆風は本物の嵐のように、空を駆けるミサイルの猟犬を飲み込み、連鎖し巻き起こる爆発の渦へと投げ込む。
生き残った猟犬の群れは、バグアと傭兵の両者に襲い掛かっていく。
猟犬の牙を両者それぞれに躱し、または食らいながら進む。鹵獲ロングボウ二機は、回避しきれずに食らい、照準をろくに定めもせず、反撃にミサイルコンテナを開放、発射した。
再度襲い来るミサイル群に正面から傭兵達は向かっていく。
「これくらいの雨、潜り抜けるよ!」
先頭、羽矢子機がフレアを放ち、可変翼を回避に特化した形へ変化させる。羽矢子とロッテを組む透夜が続き、その上を真琴と綾が組み飛ぶ。迫る千の牙にさらに上空に控えた灯華機が撃ち下ろしにK−02を発射した。
敵の機体に当てるつもりはない。ミサイルの相殺、目晦ましになれば僥倖という牽制。
鉄の猟犬同士が食い合い、爆光を撒き散らす。傭兵達はミサイルをすり抜け、バルカンで叩き落とし、前に進む。空に描き出されるは光と炎の花畑。爆発の花を踏み荒らし、花咲く戦場を両者は駆け抜ける。
ウィルとオリバー。――青いOGREと鹵獲フェニックスを駆る彼らは、ロングボウとアンジェリカを後方に置き、正面の傭兵達に突撃をかける。
「前衛を抑える。後方は頼んだぞ」
透夜が栗花落と灯華に通信を残し、その突撃の連携を裂くように、エネルギー集積砲を撃ち、オリバーへと突撃していく。透夜に連続して、羽矢子も追撃にレーザーを撃ち、間を更に広げる。と、同時に、
「子供が戦場に出てくるんじゃない。家に帰って寝てな。
それとも、そのオモチャみたいな機体であたし達に勝てると思ってるのかい?」
オープン回線を開き、羽矢子はオリバーに向かって挑発をした。
『うるさいなぁ、オバさん。シワクチャのおばあさんになる前に死にたいの?』
挑発を受けて、オリバーは羽矢子に狙いを定める。そして、ウィルの方には綾が、
「そら、青鬼。その力を振るいたいんだろ? 来いよ!」
『ふん、腕に自信ありか。いいだろう。まずは貴様からだ』
挑発に言葉を投げ、ウィルもまたそれを受ける。
ドッグファイトに対峙し、絡み合うように交差し、追い、逃げ、空を駆け昇り、地へと駆け降り、ギリギリのチキンレースを行う。
残ったアンジェリカとロングボウの待つ空には、正面から栗花落が、そして、上から陽に紛れ、灯華が天使に強襲をかける。
「邪魔はさせません――‥‥御相手、御勤め致します!」
灯華機が仕掛け、アンジェリカもまた反撃に機首を向ける。
「キミたちはボクが相手をするよ」
ロングボウを栗花落が引き付ける。再度のミサイルパーティにミサイルを放とうとした時、
「最初の獲物はどなたからかしら?」
そのタイミングで側面からミリハナクとイレーネが現れた。
飛び出したタイミングは絶妙に。
イレーネ機がD−02での牽制を飛ばしながら接近し、同時に、ミリハナク機の生みだした放電現象がロングボウの機首を包むように覆い、操縦する強化人間が周囲飛び散る雷光に目を眩ませる。
「さぁ、ぎゃおちゃんの牙にかかって、墜ちなさい」
続くミリハナクの高分子レーザーが空を貫き、コックピットを狙った。
コックピットの外部装甲諸共、中の強化人間も灼き、まずは一機、奇襲にロングボウを落とした。
仲間三機がロングボウを一機落とし、もう一機を仲間が狙う間、灯華は足止めにアンジェリカと一騎討ちに戦いを繰り広げる。
牽制の射撃を交えながらアンジェリカが距離を取ろうと動くが、灯華はガトリングで張り付き射撃に逃がさない。
ブーストと共に、右への旋回に照準の外れるギリギリでK−02のミサイルコンテナを開放して発射。
右へのミサイル発射に合わせて、灯華は左へ急旋回。更に再度、S字カーブを描くように右への急旋回から、集積砲を撃つ。
アンジェリカは、灯華と正面から向き合いながら、プロトン砲を撃ち、ミサイルの群れを引き連れて、灯華機と交差しようとする。
「――読まれた? ‥‥それならッ!」
灯華は、敵のプロトン砲による砲撃と、自らの放ったミサイルの群れを回避するようにブースターで急上昇。
位置を変え、すぐに機首を下に、急降下。
肉薄する灯華を、近距離でのプロトン砲砲撃が捉え貫く。
躱し切れずに片翼を焼かれながらも、灯華は落下に速度を増し、残った片方の剣翼でアンジェリカを斬り裂き縦に両断した。
だが、
「‥‥すみません。後は、任せます」
片翼を失った事で機体の揚力を確保できず、灯華機はゆっくりと地上へ降下していった。
残り一機になったロングボウは、三機にせめてもの一矢にと、残るミサイル全弾を一斉発射。
ミリハナクがミサイルの発射と同時に一気に踏み込むようにブーストで加速。一、二発はあえて受ける覚悟で被弾しながらも接近し、エナジーウイングで鹵獲ロングボウを斬り裂く。
鹵獲ロングボウは体勢を崩すが放たれたミサイルには関係なく、ミサイルの一発が、栗花落の機体を掠めた。
そしてそれが、最後の反撃となった。
「――墜ちろ、下郎。貴様如きが栗花落に触れるな」
栗花落機に僅かなりとも傷を与えたロングボウに向かって、イレーネは底冷えするような宣言でもってスラスターライフルを撃つ。
放たれた弾丸は装甲を穿ち貫き、コックピットへと食い込んだ。それが致命傷となり、敵は制御を失い落下していく。
「‥‥二度と目を覚ますな」
イレーネがその様を見下ろし、冷たく言い放った。
●空の決着
後方支援三機と、他の仲間が戦闘を繰り広げていた間、分断にオリバーを引き付け、透夜と羽矢子が戦闘を繰り広げていた。分断に分かれた後、羽矢子機と透夜機が互いに死角をカバーしつつ、オリバーを誘き寄せるように攻撃を加え続ける。
「羽矢子、仕掛ける。援護と追撃を頼む」
ブーストをかけ、加速。透夜機はオリバーに向かって高速で接近していく。スラスターライフルRで狙いを定めて撃ち、剣翼を頼りに突撃をかける。オリバーは透夜機の接近に合わせて被弾も構わず人型に変形。剣翼を剣で受け、透夜機の勢いを押し止める。
辛うじて、透夜の翼が斬り裂かれる事は無かったが、
「バーカ」
オリバーはもう片方の手にガトリングを持ち、ゼロ距離射撃に透夜機へと撃ち込んだ。透夜機の硬い装甲に、小さくも穴が穿たれる。
コックピットを狙うこともできただろうに、それはしない。――遊んでいた。
「生意気な子供だね!」
レーザーライフルでの援護に、羽矢子が透夜の離脱を図る。透夜は、羽矢子の援護を受け、ロールに機体を回転させてオリバーの剣から翼をずらし、逃れる。
「おイタが過ぎるようなら、――おしりぺんぺんしてやろうか?」
『やれるもんならやってみなって、オバさん』
挑発に挑発を返して、互いに突撃する。が、羽矢子は透夜の眼前、フレアを叩きつけて横に逸れる。
擦れ違い、両者ともに反転すると、羽矢子は、
「PRM−P−Mモード、全部持ってけ!」
全兵装を残弾全て使い切るつもりで一斉射し、オリバーがガトリングで応射する。
そうなれば、オリバーの背中ががら空きになる。
「先程のお返しだ!」
「う、ぁ!?」
オリバーの背へ透夜が集積砲の二連撃。羽矢子の攻撃に縫いつけられたオリバーはこれを直撃し、地面へと落ちる前に、爆発して塵と消えた。
オリバーの倒される頃、もう一方のウィルとの戦闘も佳境となっていた。
綾を追い回すウィルに対し、擦れ違うように突撃した真琴が、直前、煙幕を展開して綾機を覆い隠す。
煙幕の中から不意打ちにI−01を発射し、ウィルの追い足を止める。
「済まないな、助かる‥‥っ」
離脱する綾機と体勢を立て直し、二機はウィルと対峙し直す。
「――今求めるのは威力の強大さじゃなく、行動の緻密さ・正確さだ。最善を課して踏み込む!」
今度は攻勢に、真琴が綾機の偏差射撃による牽制に合わせて、ウィル機の死角に回り込もうとする。ウィルは綾機の牽制を避けざまに急旋回、機首を真琴機に向け、フェザー砲を連打しながら擦れ違う。
ウィルは擦れ違い、後方へ抜けると同時、煙幕を張り、姿を隠しつつ人型に変形。体を反転に振り向きざまスラスターライフルを真琴機の背後から撃つ。
それに対して、綾機が、ミサイル、バルカンを組み合わせ弾幕に放ち、狙いを阻害する。
「俺は、大切な友人を傷付けるその存在を許さない。‥‥ここで潰えろ!」
綾が放った弾幕をウィルは避けられないと判断し、人型のままで躱さず両腕で防御する。
そして、ウィルが攻撃の途切れ目に、反撃へと移ろうとした時、
「くっ!?」
二発の銃弾がウィル機を貫いた。――遠く、見えるのはイレーネと栗花落。ウィルに向けられた二つの銃口は熱を持ち、空気を焦がしていた。
「き、さ、――!?」
ウィルが叫び、それに気を取られたのは、一瞬。
けれど、それは戦いの命運を分ける刹那の合間。
ウィルの死角に、真琴が飛び込んでいた。
「その子だけは誰にも渡さねぇ。この手で墜とす‥‥それがアタシの義務であり責務だ」
青いOGREの脚部、主機関のある部位に、真琴の翼が突き刺さる。
突き刺さった刃を加速に乗せて、脚部を斬り裂き飛ばす。鹵獲から日を置かず、簡易な改造のみ施し飛び出たOGREは、構造に変わりなく、裂かれた主機関の爆発を招いた。
小規模な爆発が連鎖し、崩れるように地上へと落下していく。
爆発の連鎖が、最後に一際大きくなる。昇る噴煙は、UPC軍の勝利の狼煙へと変わっていく。
燃える残骸に、真琴は一度だけ目を伏せた。
いずれ‥‥バグアの手に落ちたOGREは、元の持ち主の手によって深く安らかな眠りについたのだった――。