タイトル:【NS】古き翼に思い馳せマスター:草之 佑人

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/06/02 12:01

●オープニング本文


●『インディアナ・オハイオ州、状況説明資料』
 デトロイトより南方、インディアナポリスとコロンバスという大都市の狭間でもまた、人類とバグアの攻防は繰り広げられている。
 主な戦場は、インディアナポリスとコロンバスの狭間、オハイオ州デートン――そして、シンシナティという二つの都市。
 要塞都市化されたこれら都市の攻略に、UPC軍は手をこまねいていた。
 最も厄介なのは、都市デートンにあるライトパターソン空軍基地跡のバグア空軍勢力である。
 都市デートンは、インディアナポリス、コロンバス、シンシナティの三方向にアグリッパを配し、強固な対空迎撃網でもって、ライトパターソンの空軍勢力と連携。バグア軍は制空権を完全掌握する事で、UPC軍の進攻を都市デートンで防ぎ続けていた。
 それが崩れたのは、近日、インディアナポリスでの人類側の優勢である。
 アグリッパによる対空迎撃網が三方の内、インディアナポリス方面へと比重の傾いたこの機を持って、UPC軍は都市デートンへの一大反攻作戦を練り上げる。
 そして、デトロイト方面からI-75(州間高速道路75号線)を南に走り、デートンの手前、トロイの街にUPC軍が攻勢に転じる為、集まっていた。
 だが――、

●ライトグライダー隊
 I-75と並走する様に走るUS-127(国道127号線)の上空、一機のKV――S-01が飛行していた。
 静かな空を飛行するS-01。
 S-01に乗る男は、空を飛びながら見下ろす眼下、地上遠くに一個の輸送小隊を発見した。
「――こちら、キャサリン3。US-127ハイウェイ上に、UPC軍の輸送部隊を発見」
 コックピットの中、――鹵獲KVに乗る強化人間は、通信でそう告げる。
「I-75を直接南下してくる事は辞めた様です。さすがに向こうも馬鹿じゃないですね」
 強化人間は、外部カメラで最大望遠のズームをかけながら、輸送部隊の陣容を細かく見て行く。輸送用のトラックが3。それに随行する歩兵隊――おそらくは、キメラを警戒した物だろう――それが、二個小隊、といったところか。
『こちら、キャサリン1。了解した。全機でそちらに向かう。合流までに確認できる戦力を纏めてデータとして送ってくれ』
 通信機の向こう、別の強化人間が指示を出す。それを聞いて、S-01の強化人間は苦笑した。
(戦力、ね‥‥)
「了解。――ですが、データとして纏める程の戦力はありませんよ。俺一人でも逃がさずに壊滅出来ます」
 S-01の強化人間が叩く軽口に、通信の向こう、先程指示を出した強化人間がふっと息を吐く様にして笑った。
『お前の良い所は、その自信だ。だが、お前の悪い所は、その慢心でもある』
「‥‥」
 S-01の強化人間はバツが悪そうに黙る。が、
『付近に伏兵としてKVが隠されていないかには十分に注意しろ。それと、俺達が行くまでに食べ残しがあったら、容赦無く食ってしまうからな』
「――。了解!」
 S-01の強化人間は、輸送部隊の左右の丘陵や建物の陰に注意を向けつつ、機体を輸送部隊へ向ける。肉の柔らかな子兎に襲い掛かる鷲の様に、S-01は急降下していった。
 背後に対空迎撃網を配したライトグライダー隊にとって、いざとなれば、そこへ逃げ切ればいいと言う強みが、余裕のある選択をさせていた。

●輸送部隊囮任務
「――ジャネット少尉には、しばらくの間、オハイオ州へと赴いて貰う」
 突然呼び出されたピエール大尉の執務室。
 ジャネット・路馬(gz0394)は告げられた任務に理解ができず、間抜けた顔を見せた。
「何故ですか?」
 思わず聞き返す。軍人としては、問いなど返さず、命令のままに動くべきだ。
 だが、今、この時期に、自分がそちらの任務に赴かねばならない理由がジャネットには分からない。納得できない。
 少なくとも――、
「あのバグア――ジャン・路馬をヨリシロとしたバグアに、私は因縁があります。私を前線に立たせて囮にして貰っても構いません。私はあのバグアとの戦闘において、幾らかの利用価値があるはずです。何故この基地から、オハイオ州へ行かねばならないのか、分かりかねます」
 ジャネットのやや語気を強めた言を、ピエールは鼻を鳴らして一蹴する。
「君にオハイオ州に赴いて貰う理由だが、‥‥現状、奴との交戦まで時間はあると踏んでいる。だが、カレンの事の様に、突然に脚本を書き替えられ、こちらの準備が整う前に、奴が仕掛けてくる可能性はゼロではない」
 ピエールは嘆息を洩らす。目の下の隈に、ここ何日か寝ずに様々な手配をしていたことが窺えた。ジャネットという代替品ではなく、ジャンの顔を苦痛に歪めてやる事ができる。その事実が、彼をここまでさせていた。
「であれば、君には別の戦線に赴いて貰い、こちらの準備が整うまで舞台から降りていて貰った方がいい。これは、君の言うとおり、君の利用価値を使わせてもらっているのだ。時間を稼ぐという利用価値をな」
 ピエールが寄こす視線からは、ジャネットへの敵意が大分薄れている。

 それから暫くして、ピエール大尉の執務室から自らの部屋に戻り、ジャネットは椅子に腰を下ろしていた。渡された資料は目の前、机の上に置いてある。
 結ったおさげを解き、一つ息を吐く。
「輸送部隊――か」
 気が進まないなりにも資料には目を通し終えていた。命令は命令だ。
 五大湖から東海岸に向けて、UPC軍の攻勢が始まっている事は聞き及んでいる。それに伴い、人手はいくらあっても足りない状況にある事も。
 資料は、あるページを開いたまま、机の上に置いてあった。
 『バグア軍ライトグライダー隊について』。
 デートン攻略に形成された前線の後方へ遊撃に回り込み、トロイ前線基地への輸送をことごとく潰している。
 こちら側からも迎撃に部隊を出してはいるが、デートン市の対空迎撃網まで逃げ込まれる事も多かったようだ。
 部隊の構成は、鹵獲KV数種による混成部隊。ライトグライダー隊という名前は、三種の初期KVを使用しているところから、デートンという土地にあやかって名付けられたものらしい。
 そして、資料に添付された、古い機体――S-01の写真。
 それに手を伸ばし、取る。
「S-01‥‥か。兄さんの愛機だったものと同機種だな‥‥」
 実際に兄のジャンがその機体に乗っている所を、ジャネットは見たわけではない。
 だが、軍に残った幾ばくかの映像資料から、その姿を知っている。
 思い出されるのは、そこに映っていた、優しい笑み。いつもジャネットに向けてくれていた笑みだった。
 ――それを、あのバグアは奪った。
 姿形、笑い方、仕草、全てが同じ。そこから作られた笑みを見て、ジャネットはおぞましいと思った。
 私にできる事は、なにか無いか。この命をかければ、能力者でない私でも、何か出来ないのか。――あのバグアを打ち倒すまでは行かなくとも、せめて、その顔に傷をつける事くらいは‥‥。
 資料に再度目を通しながらも、ジャネットは頭の中、ぐるぐると考え続けていた。

●参加者一覧

ゲシュペンスト(ga5579
27歳・♂・PN
榊 刑部(ga7524
20歳・♂・AA
翡焔・東雲(gb2615
19歳・♀・AA
鹿島 綾(gb4549
22歳・♀・AA
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG
アクセル・ランパード(gc0052
18歳・♂・HD
鹿島 灯華(gc1067
16歳・♀・JG
杜若 トガ(gc4987
21歳・♂・HD

●リプレイ本文

●作戦会議
 UPC軍軍事基地の作戦室。傭兵達はライトグライダー隊を誘き出す囮となる輸送部隊と護衛のカーク小隊と共に、今しがた打ち合わせを終えるところだった。
「どの道、輸送トラックじゃバグアの鹵獲KVは振り切れない。上手く食いついてくれるといいが‥‥」
 ゲシュペンスト(ga5579)が帽子のつばを押さえながら、悩ましげに目を伏せる。
 打ち合わせられた作戦は、単純に言えばこうだ。
 初手で輸送部隊を逃走させるフリをして相手を深く食いつかせ、その後、輸送トラックに格納擬装した各機が出撃。懐に呼び込んだ敵部隊を一気に殲滅する。
 輸送部隊を逃走させきってしまえれば被害は少なく済むが、ゲシュペンストの言うとおりそうもいかない。被害を減らす為にゲシュペンスト自身、囮兼護衛として愛機のリッジウェイ「グスタフ」で出て、目立つ囮として狙いを引き受けるつもりではある。
 しかし‥‥上手く食いつくかどうかは、やってみるしかない。
「上手く釣れれば御喝采だ」
 ふっと笑みを浮かべるゲシュペンスト。
「まぁ、上手く食いつかせて見せるさ?」
 それに鹿島 綾(gb4549)が応える。彼女も、ゲシュペンスト同様に囮兼護衛として、最初から空に出る。
 皆の腹が決まったところで、榊 刑部(ga7524)が口を開いた。
「‥‥バグアに鹵獲機をいつまでも使わせておくのは業腹ですからね」
 打ち合わせを締める様に皆を見回し言う。
「食いつかずとも、可能な限り叩く事としましょう」
 その場に居る面々、それぞれにその言葉へと頷きを返す。それから皆は、準備の為に作戦室を出て行く。
 アクセル・ランパード(gc0052)もまた、作戦室の出口へ向きを変えた時、ふと、目の端にジャネット・路馬(gz0394)に歩み寄っていくイルファ(gc1067)の様子が目に入った。
「‥‥ジャネット様、お顔の色が優れませんが、大丈夫ですか?」
「ん‥‥? ああ、大丈夫だ、イルファ君」
 そう答えつつもやや上の空のジャネットに、イルファは僅かに眉根を寄せる。
「何か‥‥焦っておられませんか?」
 ジャネットが怪訝な表情を向けるも、イルファは続ける。
「貴女様の表情‥‥そこに見える焦りは、多分あの時、私が抱いていた物に近いのでは‥‥と思います」
(『あの時』とは、イルファ君と出会った時の‥‥? 確かあの時は‥‥)
 思い馳せる間にイルファは続ける。
「ジャネット様が背負う可能性は‥‥本当にそれだけですか?」
 作戦室を出て行きつつあるカーク小隊の隊員へ視線を向ける。
 釣られ、目で追ったジャネットだが――すぐに逸らす。
 あの時、イルファは失うものはないと思っていた。そして、今、ジャネットも――。
「まだ、私も銃を手放した答えは‥‥分りません。ですが、少なくとも私は、銃を手放した先に自分の道を探そうとしています。ジャネット様は‥‥」
 そこまで言った所で、イルファは、自分に向けられたジャネットの複雑な表情を見る。
「‥‥見当違いなら、ご容赦を」
 謝罪を一つ。場を辞してイルファは作戦室を出て行った。
 作戦室、残っていたアクセルは、二人のやり取りをそれとなく注視していた。
(これは‥‥色々と注意して、備えておいた方が無難ですかね?)
 アクセルはジャネットの様子を心に留めつつ、
「さて、それでは俺も失礼しますね」
 イルファの後を追う様に作戦室を出て行った。
 ぼんやりとしたまま、ジャネットは一人作戦室に残る。視線を作戦図に落としたまま、何事か呟いていた。
「分かっているの‥‥イルファさん」
 普段は男言葉で――兄を真似して喋る彼女が、少女の様に顔を伏せる。
「‥‥それでも、私は‥‥」
 ――重さを測る天秤が、彼らに傾かない。

●誘う風
 US−127付近、ライトグライダー隊の一機が周囲を警戒に獲物を探して、一つの輸送部隊を見つけた。
「護衛は――空に白いディアブロが一機。地上に漆黒のシラヌイが一機。後は、輸送トラックの列に、対空機関砲で武装した重装甲のリッジウェイが一機か。変わった機体が多いな‥‥傭兵か?」
 そこまで観察し、単独での強襲を躊躇っていると、輸送部隊は方向を転換し、強化人間の機体が来た方向とは、反対方向へ逃げ出した。
 慌てた強化人間が、舌打ちをしてすぐさま仲間の強化人間に通信を飛ばす。
「――こちら、キャサリン3。発見したUPCの輸送部隊が逃げていきます。‥‥追います!」
 これまでと同様に、強化人間は舌舐めずりをして、狩りへと機体を飛ばす。
 傭兵達の通信を傍受しながらも――彼はそれを、罠だと疑いもしなかった。

「く、敏感過ぎて定まらない‥‥!」
 綾の愛機ディアブロ「モーニング・スパロー」が輸送部隊を追ってきた敵S−01に十式高性能長距離バルカンを向け撃つが、外す。
 それに益々調子に乗った様に、意気揚々と敵S−01は輸送部隊の上空へと速度を増す。
「もっと早く走れないのかっ、追いつかれるぞ!」
 翡焔・東雲(gb2615)が輸送トラックの中、薄暗いそこで通信に叫ぶ。心とは裏腹に、通信が傍受されている事を考え、傭兵達は焦る演技に言葉を交わしていた。
 距離はまだ少しあったが、構わずロケット弾ランチャーを放った。
 未だ直撃は無かったが、振動に揺れ、危機が迫る。
 輸送トラックの代わりにロケット弾の直撃を受け、防いでいるのは、ゲシュペンストのリッジウェイ「グスタフ」だ。
 兵員輸送の可能性と、対空武装の護衛として、真っ先に狙われた。
「頑丈さがお前の取り柄だ、耐え切って見せろ!」
 襲い来る幾つものロケット弾に、怯む事無く、甘んじて受ける。
 そのうちに、敵機の数が増えた。先の強化人間が報告にて呼んだライトグライダー隊の小隊機四機だ。
 増援がロケット弾ランチャーを準備する間にも、囮兼護衛のイルファ機が増援に対して動きを見せる。
「くっ‥‥貴方達だけでも逃げて下さい!」
 イルファがH−01煙幕銃から煙幕弾を発射し、トラックを包む様に煙幕が噴き上がる。
 だが、それでも降り注ぐロケット弾の一発がジャネットの乗るトラックの間近に着弾する。ハンドル操作に気を取られた一瞬、煙幕の中、爆発で出来た窪みを見逃した。
「しま‥‥っ」
 演技ではなく、ジャネットは狼狽した。更にもう一度、間近での爆発。
 窪みに引っ掛かり、ジャネットの乗ったトラックが横転する。

●反転する風
 煙幕の中、横倒しになったトラックは敵に格好の獲物と見えた。機首を返し反転してきた敵S−01が続けてロケット弾を撃ち込む。
 一発のロケット弾が横転したトラックの横腹に着弾。破裂した。
 横腹に大穴のあいたコンテナ。だが、――横腹以外にもう一つ穴が空いている。
「もうちったぁ、寝かせろよぉ? なぁ?」
 爆発したコンテナから離れた所、杜若 トガ(gc4987)の愛機フェンリル「シュトゥルムハウンド」がその身を現していた。横転直後にコンテナを破って、抜け出していた為に、直撃を避けれたようで、その機体に傷は無い。
 アリスシステムIIを起動し、練力の出力先を切り替える。駆ける機動は鋭敏に。
 レーザーガン「フィロソフィー」を低空に近づいた敵に対して射撃。その注目を自らに向ける。
 と、同時、注目の向いた瞬間に、スモーク・ディスチャージャーを使用し、機体の周囲に煙を噴き上げる。
 動揺が敵の小隊に伝わる。突然の増援に指揮系統が一時混乱し、煙幕に隠れたトガ機を探す敵もあれば、一時高空へと舞い上がろうとする敵もある。
 高空へ舞い上がろうとする敵、その進路上に、綾機が立ち塞がっていた。直進すればぶつかるライン。
「邪魔だ、どけぇ!」
 敵の強化人間が吠える。目の前、よろよろと進路を塞ぐ綾機を落とす様に、敵S−01が射撃を加えながら向かって行く。
『もう良いです、逃げて下さい! それ以上は‥‥!』
 イルファから、綾に通信が飛ぶ。けれど、それは――、
「問題ない。今から――本気を出す」
 準備が完了したという、イルファからの合図。
 打って変って落ち着いた綾の応答に続き、綾機の動きは見違える。
 機首を上にブーストで急加速しながら急激なループ軌道を描き、後方に付いた敵S−01の追い縋る様に撃つ射撃に対して横ロールに機体を一回転させ、着弾のほんの僅かな時差を利用し紙一重で躱す。
 交差する様に擦れ違い、綾機はブースト状態のまま急旋回。先程とは立場を逆に、S−01の後方につく。
「お返しといこうか。勿論、倍以上でな!」
 後方を取るとすぐさまに綾機は十六式螺旋弾頭ミサイルを発射。ミサイルに回避機動を取る敵機。だが、回避に合わせ偏差射撃に放たれた試作型スラスターライフルの弾丸が敵S−01を撃ち抜く。翼を折られ、バランスを崩し落下していくS−01。
 狩る側だった敵機達が狩られる側に――傭兵達の狩りの開始だった。

 イルファ、トガ、そして、早々に一機を撃ち落とした綾機が空中から放った煙幕が辺り一面を白い煙で包む。
「バグアめ‥‥まんまとのったな」
 翡焔が輸送トラックのコンテナから愛機ロジーナbis「レーシィ」を煙幕の中へと進ませつつ、笑みを浮かべた。
 翡焔と同様にコンテナから煙幕の中へ各機が発進する。
 煙幕の中へ闇雲に降り注ぐロケット弾の嵐。その嵐に運悪く刑部の乗るロジーナが晒された。だが、
「堅牢なロージナで良かったと言うべきでしょうね。華奢な機体では一方的な攻撃には耐えきれなかったでしょうしね」
 無傷とはいかずとも、問答無用に炸裂し続ける爆発の嵐に耐え切り、無事な姿を見せる。
 刑部は更に続くロケット弾の間近での爆発に、揺れる機体を任せながらも余裕のある笑みを浮かべる。
 爆発が止むと、すぐさま刑部は機体を垂直離陸させ、上空へと駆け上がる。
 上昇と共にストームブリンガーAを起動。84mm8連装ロケット弾ランチャーを乱打し弾幕を張る様にして、上空に居た敵機に回避を強いる。
 その狙い通り、敵機達は回避を余儀なくされ、地上への攻撃の手が一時的に止む。
 刑部機と同時、タイミングを合わせ翡焔機も駆け上がる。
「行きがけの駄賃だ!」
 ブーストしつつ垂直離陸で一気に上昇した翡焔機は、回避軌道にあった敵R−01とのすれ違いざま、ブレードウイングでその翼を切り裂く。
 空へと突き抜け、そのまま反転。敵部隊の頭を押さえる形で、傭兵達のKV三機が空で牽制し、地上からは初めから護衛に47mm対空機関砲ツングースカによる対空砲火を放っていたゲシュペンスト機に加えて、ルノア・アラバスター(gb5133)の愛機S−01HSC「Rote Empress」から同様にツングースカによる空への援護射撃が加えられる。
「次、よろしく、お願い、します」
 ルノアは離陸順を譲りつつ仲間の援護に回る。その援護の間にイルファ機が変形し離陸態勢へ。
 煙幕に身を隠し、イルファ機が離陸、即座に綾機の援護に回る。
 濃い煙幕の中、目標が上手く確認できず、敵R−01は先程、横転し破壊されたトラックの位置に止めのロケット弾を放つ。
 そのトラックの運転席――ジャネットは、衝撃に気絶し、脱出できていなかった。
 ジャネットを乗せたままのトラックにロケット弾が直撃する――。
 ――その直前、
「そうはさせませんよ!」
 アクセルの愛機フェニックス「アイオーン」が機盾レグルスを盾に掲げながら、ブーストで加速し、ロケット弾の前に飛び込んだ。
 ロケット弾8連の爆発を受け、機体が僅かによろける。だが、踏み止まり、煙幕でさらに深くジャネットの乗るトラックの周りを覆う。次いで、アクセル機は、逆に反転し逃げようとする敵R−01に向かって、オーバーブーストAを起動させつつ、クァルテットガン「マルコキアス」を対空に構える。
「悪いですが、貴方方をここから逃させる訳にはいきません」
 マルコキアスが火を噴き、飛び出した鉄が敵R−01の前にカーテンを作り出す。突如下ろされた幕に止まる事が出来ず飛び込んだ敵R−01は、翼や胴体に無数の穴を負う。
 敵バイパーがR−01の下に回り込み、対空砲火の身代わりとなる間にR−01は高度を取る。だが、
「貴方達が使っていいものではありませんよ。それは――」
 被弾し動きの鈍った鹵獲機のR−01に刑部機が追撃にCSP−1ガトリング砲で掃射する。
 だが、無数の傷口をさらに広げられても、敵R−01はまだ落ちず、撤退を図ろうとする。
「そんな簡単に逃がさないよ!」
 後ろを見せた敵R−01に翡焔機がUK−11AAMを発射。敵R−01の動きは鈍く、回避機動を取るも、ミサイルに追いつかれ、食われた。
 その一方、敵バイパーの方には、
「クカカッ、テメェの味を確かめさせて貰おうかぁっ!」
 ブーストを使い、煙の中から飛び出す様に現れたトガ機。レーザーの牙、機牙グレイプニルが低空に身代わりと居た敵バイパーの胴体部分に突き刺さる。
 レーザーの牙は、敵機のFFを貫き、装甲をその下の生体メカ部分ごと食い千切る。
 敵バイパーは機体を捻りながら加速。錐揉み気味の無理な機動で食らいついたトガ機を振り払い、一時戦域から距離を取ろうとする。が、
「杜若、さん。後は、私が‥‥」
 トガ機を振り払った敵バイパーの後ろから、ルノア機が十六式螺旋弾頭ミサイルを撃ちつつ、ブーストで加速力を得て追い縋る。敵バイパーはミサイルを回避する為、急降下に落下の速度を加えて振り切ろうとするが、代わりに回り込む様に頭を押さえられる。
 狙いは、装甲の食い千切られた部分。
 その部分を剣の翼の突入角に、ブーストで安定させた機体を急旋回。機体を巧みに操り、刀で敵を一刀両断にするかの様に斬り払った。
 損傷激しく、敵バイパーはその身を失速させる。
「旋回、して‥‥そこ、です」
 ルノア機が再度機体を旋回させ、渦巻く様な軌道で失速した敵バイパーと交差すれば、敵機はコントロールを失って墜落。
 強化人間の自爆装置によって連鎖爆発を起こし、猛る炎を天へと噴き上げた。

 隊長機を失った残敵は統率を失い、高空へ飛び上がる暇も無く囲まれ、デートンへ撤退できずに各個撃破されていった。

●手折れた翼は――
 戦闘後、破壊された輸送トラックの処理など、後始末の為に基地からの応援を呼ぶ。
 応援を待つ間、傭兵達は交代で見張りをしながら、休憩を取っていた。
「此度も約束は‥‥守りましたよ?」
 操縦席から降りてくる綾と顔を合わせイルファが言う。
「ああ、良くやったよ。‥‥無事で良かった」
 約束が守られ、イルファが無事な事に、安堵し頬を綻ばせる。
 見張りの交代を待つ間、トガは愛機の背に昇り、回収される鹵獲KVの残骸を眺めていた。 薬煙草にライターで火を付け、煙を燻らせ、喫む。
「――さぁて、次はどの戦場に行くよ?」
 吐いた煙は、風に乗り南へと流れていく。
 横転したトラックから無事助け出されたジャネットが、地面に座りながらその煙を目で追っていた。
 トガの吐いた煙は、最も近くの戦場に誘われるかの様に、デートンの空へ流れ消えて行く。