タイトル:蜂とレンゲとはちみつとマスター:草之 佑人

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/05/24 03:36

●オープニング本文


「春やなあ‥‥」
 神開兵子の目の前に広がるのはレンゲ畑。
 正しくはゲンゲという――蓮華草の咲き乱れる畑、それは田舎ではよく見られる春の風物詩である。
 やや赤紫がかった桃色の綺麗な花が、野一面に咲き誇り、地上には楽園の花畑とも見間違えそうな美しい光景が広がる。
 晴れ渡る空に風が吹き、白い雲が流れて行く。牧歌的なムードのそこは、何の事は無い兵子の母方の実家である田舎の家の近所だ。
「何をしているの、ひよこ。れんげ物産展が終わってしまうわよ」
 歩道の端に足を止めて、レンゲ畑を見ていた兵子に声をかけるのは、親友の東天紅だ。
 ゴールデンウィーク、宿題をサボりはしないだろうかと心配して様子を見に来た天紅は、ちょうど、家族で田舎に行くところだった神開家の人々と鉢合わせになった。田舎と言っても、ここからさほど離れていない場所で、日帰りに行ってくるそうだった。一緒に行かへんか、と誘われれば、断る理由も無い。そうして、今、天紅は兵子の田舎に遊びに来ている。
「‥‥そんな急がんでも、まだまだやっとるって」
「ええ。けれど、開催がされていても、欲しい物が売り切れていたら、終わっているのと同じではないかしら?」
 兵子がだらけた様に答えれば、即断に天紅が切り返す。が、兵子はぐだぐだと急ぐ気を見せない。
「もう‥‥それじゃあ、私は先に行くわよ」
 そう言うと、天紅は兵子を置いて、足早に物産展へと向かって行く。
 兵子は、天紅の背を見送ると、自分はレンゲ畑を眺めながらのんびりと歩き出す。
 いつもはどちらかと言えば、兵子が引っ張り回す方なのだが、今日は天紅に引っ張り回されている感がある。
「そういや、天紅は東京の方の出身やったかな‥‥。なんや浮かれとるんはそのせいなんやろか?」
 2004年の東京陥落以来、周辺地域はバグアの支配下にあり、それ以来7年程の間、その地域との音信は不通だった。
 思い返せば、各国の主要都市が落とされて行く中、危機感を感じた天紅の親が天紅を疎開させて来て‥‥以来8年余り、天紅は両親と会っていないはずだ。
(生きとるとはとても思えへんけど‥‥)
 会えるかもしれない、その言葉を兵子は飲み込む。それでも、普段より彼女が明るいのはそのせいだろうと思う。
「まあ、どっちにせよ、東京が解放されたら、の話やなあ」
 難しい事を考えるのは苦手だ。そういう事は後回しにするのが一番。
(ああ、天紅‥‥うちに宿題させる事、後回しにしたまま忘れてくれへんやろか)
 そんな事を考えていると、先に行ったはずの天紅が凄い形相で大股に歩いて帰ってきた。
 兵子はぎょっとして、心の中を読まれたかの様に表情を固まらせる。
「ど、どないしたん‥‥?」
「ひよこ‥‥あなた、実はバグアに知り合いとか居ない?」
「は? なんやの? 居るわけあるかいな。うちは能力者でもないただの中学生やで?」
「そうよね‥‥」
 自分でも少し動転しているのが分かっていたので、天紅は少し気を落ちつける様に息を吸う。
「あれね‥‥ドラマとかで、行く先々で殺人事件に会う名探偵の友達って、事件に会うたびにこんな気分なのかもね‥‥」
「‥‥いや、さっぱり分からへんがな。ちょ、説明してえや?」
 説明を求めて困惑した顔で問う兵子に対して、天紅は半目で疲れた様な眼差しを向けると、深く溜め息を吐いた。
「物産展に、キメラが出たのよ。――また、美味しそうなキメラが」

●参加者一覧

最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
御守 剣清(gb6210
27歳・♂・PN
湊 雪乃(gc0029
15歳・♀・FC
ソウマ(gc0505
14歳・♂・DG
ヨダカ(gc2990
12歳・♀・ER
ユリア・ミフィーラル(gc4963
18歳・♀・JG
住吉(gc6879
15歳・♀・ER
リコリス・ベイヤール(gc7049
13歳・♀・GP

●リプレイ本文

●物産展の前で
「んふ〜♪ 甘いものが食べられると聞いてっ!」
 元気よく主催者達の前に現れたのは、リコリス・ベイヤール(gc7049)だ。
 もう一度、んふ〜♪ と、両頬を押さえてあま〜い蜂蜜の味を想像すれば、もうそれだけで涎を抑えられない。
「蜂の巣取りですか、昔はお婆様と一緒によく行ったのです」
 ヨダカ(gc2990)は懐かしむ様に、蜂の子の味を思い出す。
「蜂の子とか蜂蜜とか聞いただけでヨダレがたまらんな」
 湊 雪乃(gc0029)は、既に腹の虫を鳴かせながら口元を手で拭う。
「‥‥ん。物産展を。食べに‥‥じゃなくて。守りに。来たよ」
 最上 憐 (gb0002)が依頼主である物産展の主催者に話しかける。
 主催者のおじさんは目を丸くして、こんな子供達が? という視線を向けた。
 その視線の先には、憐の他、更に後ろのメンバーも含まれる。
「‥‥報酬も多く、終了後は美味しい物が食べれる予感。まさに美味しい依頼ですね」
 後ろでソウマ(gc0505)が冷静な表情の中に不敵な笑みを浮かべる。
「その為には、守るのに加えて、蜜の確保もしませんとね」
 付け加えるのは、住吉(gc6879)だ。更に依頼にはないが、もう一つ、蜜だけでなく、蜂の巣も確保する事を傭兵達は狙っていた。
 今回依頼を請け負った傭兵達は、剣清を除いて自分の孫ほどもの歳の子らが傭兵であると言う事実に、長い間、主催者のおじさんは驚きを隠さずに目を丸くしたままだった。

●蜂の駆除
「‥‥ん。とりあえず。観察してみよう。うん。沢山。居るね」
 憐が物産展会場の入口から、広場中央の蓮華草キメラを眺めれば、蜂が蓮華草の周りを飛び回っているのが見えた。
 蜂は本当に沢山居て、数えるのが億劫になるほど。
 蜂達の巣と見られる花弁の直下には、大量の蜂達が群がり瘤の様に膨れている。
「イベントのど真ん中に出現するとか、なんて傍迷惑な。早めに駆除しちゃいたいね」
 ユリア・ミフィーラル(gc4963)が双眼鏡で眺めれば、蜂達は、地面に広がる蓮華草の蜜には目もくれず、花の方から溢れてくる蜜を直接回収している様だった。
「害が無けりゃ、新しい名物にでもなれたかもなぁ‥‥」
 そんな風に呟くのは御守 剣清(gb6210)だ。確かに、蜂キメラという害がなければ、特段の害はなく、村のシンボルの一つになれたかもしれない。
 十分に観察を終えて、傭兵達はそれぞれの獲物を手に、戦闘準備に移る。
「さあ、戦いだ俺の飯のために」
 雪乃が意気揚々と手甲の機械爪ラサータを握り、開いては三本のレーザーの爪を出し入れして確かめる。
「コイツの出番は少ないかな‥‥」
 剣清は手に持つ愛刀に、少しだけ寂しげな視線を送る。今回、メインで使おうと考えているのは超機械魂鎮で、愛刀は全く使わないかも知れなかった。
「今回の武装はあんまり使い慣れてないから、扱いに注意しないと」
 ユリアは愛用のDF−700ではなく、SMGターミネーターを手に感触を確かめる。
 射角は上に取り、出展されている屋台の方から射線をずらす様に一度照準を合わせ、感覚を馴染ませる。
「‥‥ん。準備。おっけー? カウント。開始するよ」
 各自の様子から憐は準備の完了を見て取り、閃光手榴弾のピンを抜く。30から数を減らして数えていく。
「合わせるね」
 憐に合わせながらも、少しタイミングをずらす様にユリアが閃光手榴弾のピンを抜く。
 二人が数を数える間に、ヨダカは身を屈めて先行し蓮華草キメラに近づいていく。
「さて、蜂さんの警戒距離はどのくらいです?」
 憐のカウントにヨダカは声を合わせて静かに数を数える。慎重に蜂の様子を窺いながら、その距離を詰めて行く。
 そして、カウントが終わろうとしていた。
「――3、2、1、対ショック姿勢!」
 張り上げたヨダカの声と共に、蜂の密集する巣の真下を狙って憐とユリアが閃光手榴弾を投げる。ユリアは急いで後ろを向いて耳を塞ぎ、目を瞑る。
 憐とユリアの閃光手榴弾が立て続けに炸裂し、閃光と爆音が辺りに広がる。その爆発は、目を眩ませ、耳をつんざいた。
 二度の反響音に苛まれながらも、蜂キメラ達は脅威を感知して、ふらふらと巣の周りを飛び始めた。咄嗟に外敵から巣を守ろうと言う本能が働いている様だった。
 徐々に閃光手榴弾の後遺症から回復していく蜂達は、起こった事態を探る様にして飛び交う。
「‥‥ん。今の内に。出来るだけ。数を。減らす」
 好機を逃さず、憐の超機械ビスクドールによる電磁波が飛ぶ。
 それに続けて蜂の群れを襲ったのは、旋風と竜巻だ。十匹ほどの蜂の群れが渦巻く旋風に巻かれ動きを止められると、次いで竜巻に巻き上げられ吹き飛ぶ様にして絶命する。
「いやいや‥‥旋風や竜巻を繰り出しますと、気分はすっかりファンタジー系の風使いですね〜」
 それらの風や竜巻は住吉が超機械天狗ノ団扇と扇嵐で巻き起こしたものだ。続けて、別の群れに狙いを定め、手にした超機械を振るう。
「ぎゅっとしてドカーン♪」
 憐や住吉に続き、リコリスがグローブ型の超機械クロッカスを握ると、電磁波が勢いよく蜂の群れに飛んでいき貫く。
「さぁ、甘〜い夢のお時間なのですよ」
 遠距離から超機械の乱舞で倒されていくも、それでもまだ数を保持して、辺りを飛び回り始めた蜂の群れに、ヨダカがエレキバイオリンの超機械ケイティディッドで子守唄を奏でる。地上から8mの高さにある巣の蜂達には届かなかったが、閃光手榴弾に晒され、真っ先に降りてきた蜂の群れ達は眠りの歌を聞かされる。
 生き残っていた蜂の群れの大半がそれで眠ったが、幾つかの群れはヨダカの子守唄に抵抗し、間近に居たヨダカへと襲い掛かる。
「生憎とこれはただの飾りじゃないのです!」
 演奏の体勢のままに、ヨダカは超機械から電磁波を放ち、襲い来る蜂達を迎え撃った。
 憐やヨダカ、リコリスが超機械の電磁波で蜂の群れを追い払い焼く間にも、剣清は迅雷にて接近していく。
 駆け行く剣清に、蜂の群れの一部が気づき群がり来る。空から取り囲む様に左右に広がる蜂の群れへとユリアが銃撃を飛ばし、その動きを阻害する。
「慣れてない武器でも、これぐらいはね」
 正確に蜂の群れの頭を押さえる様に放たれるユリアの援護射撃を得て、剣清は蜂の群れに最接近する。
 多くの蜂を巻き込める様に、群れの厚い部分に向けて超機械の電磁波を放つ。
 仲間をやられた数十からなる蜂の群れは、剣清に反撃に襲い掛かる。
 咄嗟にユリアが囲みを防ぐ様に狙いを定めるが、
「――この位置じゃ、ダメみたいだ‥‥っ」
 群がる蜂の群れは地上近く、狙うには射角が下に向き過ぎている。流れ弾の懸念から、射撃位置を移動しつつ、ユリアは超機械扇嵐にて援護を続ける。
 しかし、ユリアの援護と剣清の攻撃を上回る数で、蜂の群れが押し包み、さすがに剣清も躱しきれず、蜂の毒針をその身に受ける。だが、幾つもの毒針の刺突に耐え、剣清は蜂の群れをそのまま引き連れて、巣から引き離す様に下がる。
「‥‥ん。突撃して。注意を集める。援護を。お願い」
 蜂に囲まれ刺される剣清の状況を見て、憐は大鎌ハーメルンに持ち替えると、蜜の地面に小さな足跡を残しながら、瞬天速で蜂の群れの中に飛び込んで行く。
 高速機動からの残像斬で、襲い来た蜂達の攻撃を躱し、カウンターに鎌で蜂の群れを切り裂く。
 標的を変え、憐を襲った蜂の群れは、その毒針で刺そうとするが、その素早い動きに翻弄されるがままに数を減らされていく。
 剣清に入れ替わり、憐が子守唄で眠らなかった蜂の群れの注意を引きつけている間に、
「今、毒を治療するのですよ!」
 ヨダカが剣清に駆け寄り手を触れる。キュアをかけ、剣清の身体から毒を消し、次いで練成治療も行おうとするが、
「大丈夫、結構しぶといですから、オレ」
 ふてぶてしく笑い、練成治療を受けずに前線へ戻ると、憐と一緒に蜂の群れを引きつけ始める。
「大人しく物産展の珍品商品となるのが宜しいですね〜」
 前線に味方が増えた事で、それに合わせて住吉は、味方を巻き込まない様に旋風や竜巻の発生させる場所を操り動かす。
 抗えぬ風の渦に蜂達は羽ばたきを止められ、風の刃がそのか弱き羽を切り裂く。空を舞う力を失い、地に伏せると、蜜に埋もれ沈んでいく。
 その巻き起こる嵐の様な風の傍、
「俺の飯の為に死んでくれ」
 雪乃は仲間の攻撃で落ちなかった蜂の群れを、上段の回し蹴りに脚甲で蹴り抜き地面に叩きつける。蜜に足を取られないよう軸足は固定して、近づく蜂を優先して蹴り落としていく。
 それらの蹴りの乱舞を掻い潜り来る蜂達は、雪乃の懐に飛び込んだ所で機械爪のレーザーで切り裂かれ落ちる。
「ふふーんっ♪ 甘いよっ! 必殺リコリスキック〜♪」
 戦線の移動に伴い、前線に出たリコリスは、近づく蜂の群れには脚甲「兎蹴」でのキックをお見舞いするのだが、的は多く、更に小さく素早い。
「おっととっ? 危ないなーもうっ」
 蹴りをすり抜ける様にして囲み来る蜂達から、瞬天速で距離を取ろうと、後ろ飛びに跳躍しようとするが、
「あれっ」
 思わず足が滑った。
 一回転する様にすっ転び、べちゃり、と地面の蜜に顔から突っ込む。
「うぇ〜、ベチャってした〜‥‥でも甘い‥‥うん、これはこれで役得役得‥‥」
 それでも前向きに、大事な事を忘れて地面に広がる蜜を舐めていれば、
 ぶーん。ぶーん。ぶぶんぶーん。
 ‥‥と、耳障りな羽音がリコリスに集まり、はっと気づいた時には、

 ――ぶすり。
「はうっ!?」

「へるぷー! へるぷーっ!!」
 お尻を刺されて飛び上がり、リコリスは助けを求めて可愛らしい肉球の足跡を残しながら走り逃げる。
 すぐさま、ソウマがリコリスの下へと駆け寄った。
 涙目で慌てるリコリスを落ち着かせ、
「毒針に刺されても安心を。対応はバッチリですよ」
 キュアをかけて、次いで練成治療で傷を癒す。
 そして、リコリスが仕留め損なった蜂の群れに向き直る。それが起きている最後の蜂の群れだった。
「‥‥フィーネ、終了です」
 コンサートを終えた奏者の様なソウマの優雅な一礼と共に、超機械グロウでの一撃を放つ。最後の蜂の群れが落ちた。

●蜂と蜜
 蜂を十分に駆除した後、ヨダカが子守唄を歌う間にソウマが蓮華草を昇り、途中動きを止めてはソウマも子守歌を歌い、地上から8m近く上の蜂の巣を確保して戻ってくる。
 更に、蜜を収穫し蓮華草を刈り取り、地面に広がった蜜を端に集めた。蜜の残りにはULTの除去チームが来る予定だ。
「殲滅するしかないのが残念です。‥‥甘い物好きなのに」
 ソウマが表面上、それ程残念でもなさそうにしながら、最後だけぼそりと皆には聞こえない様な小声で言う。
「放っといたら蟻キメラとか蝶キメラとか、また変なモノが寄って来そうですからねぇ」
 ソウマに剣清がそう返す。蜜に蜂が群がっていた以上、普通に考えればその可能性は高い。
 掃除を粗方終えれば、物産展は次第に再開の準備に移っていく。
 主催者のおじさんが、良ければ屋台を覗いて行ってください、と傭兵達に勧めた。
「‥‥ん。とりあえず。色々。食べ物。あるから。一通り。全種類。コンプリートしようかな」
 一言いった後、、憐は甘い蜜のソフトクリームやパンケーキを中心に食べて回り始めた。
 携帯品を詰め込んだバッグの中には、蜜のたっぷり入ったレモネードや、蜜にどっぷりと漬けられたクラッカーの様なお菓子がぎゅうぎゅうと詰められている。
 それに加えて、農家の老人達は憐を見かけては、久しぶりに会った孫を可愛がる様に野菜や米や手に持ち切れない位に持たせていく。
「むふふ〜、これを食べるのは久しぶりなのです♪」
 涎を垂らすヨダカ。巣には幼虫らしきものが詰まっていたが、FFはなく、蜂キメラの子ではないようだ。しかし、見た目は同じ。何とか巣ごと食べられる様にした。
 まずは一口。蜜のたっぷり詰まった巣にそのままかぶりつく。勿論、幼虫もどきも丸ごとだ。
「もふ、はっふぁりひふんへはっはものほはへるふぉがいひばんふぁのえふよ」
(うん、やっぱり自分で狩った物を食べるのが一番なのですよ)
 お婆様と食べた懐かしい味。口に残った蜜蝋を飲み込みつつ、今度は物産展の人に貰ったトーストパンに塗り塗り、美味しそうに食べて行く。
「やっぱり、これだよね」
 剣清は素揚げにした蜂の子を突きつつ、和気あいあい、地元のおじさん達と地酒を飲み交わす。
 美味い肴に、美味い地酒。最高だ。
「これは、普通に揚げているだけ‥‥?」
 ユリアは興味深そうに蜂の子の素揚げを見つつ、それを作った地元のおばさんに調理方法を尋ねる。
「こういうのはどうしても気になるんだよね。血が騒ぐって言うか」
 聞いた調理方法をメモしながら、おばさんに笑みを向ける。
「バグアの方々ってなんでこんな食用的なキメラを生み出しているのでしょうね‥‥」
 そこに混ざって住吉も蜂の子の素揚げを食べる。至極当然の疑問を思いながら、住吉は蜂の子の素揚げをさくさくと食べる。
「まぁ、美味しいですから何の問題も無いのですがね〜」
 合わせて蜜のたっぷり入ったレモネードを飲む。キメラについてあまり詳しくない地元の住民達は、深く考えずに美味しい蜂の子が食べられる事に喜んでいた。
「やっとマトモなものが食える、流石に毎日レトルトと妙に辛い煎餅だけじゃたまらんわ‥‥」
 蜂を退治してもらったお礼にと、物産展から振る舞われた豚汁や、農家の人々が持ち寄った春野菜の揚げもの、それに加えて、ご飯も炊いてくれていた。
「くぅ〜、うめぇ」
 至れり尽くせりな温かい食べ物に、雪乃はすべてをかき込む様に豪快に食べれるだけ胃の中に詰め込んで行く。ご飯がおいしいと言う事は、それだけで幸せな事だと思う。
「‥‥それで、北極でタイ型魚キメラを使って、鍋料理を作った事もあるんですよ」
「ほー、タイかあ‥‥」
「ひよこ、ヨダレヨダレ」
 ソウマが蜜のたっぷりとかかった白い牛乳プリンを食べ、天使の様な笑みを満面に浮かべる。彼と談笑を交わしているのは、神開兵子と東天紅だ。以前に面識があり、ソウマが土産話を持ってきてくれていた。
「おわっ!?」
 三人が談笑している最中、兵子の背に人がぶつかる。突然の事に手を滑らせて、兵子は白い牛乳プリンを天紅にぶちまけてしまう。
「なんやの、もー‥‥」
「それはこっちの台詞よ‥‥」
 天紅が顔に引っ被った白い牛乳プリンは、鼻の頭からぷっくりした唇の傍を伝い、柔らかな顎へと垂れている。
「大丈夫ですか?」
 ソウマは冷静な表情を崩さず、紳士な態度でそれを拭ってやる。――内心の動揺は押し隠して。
「むっふー♪ あはは〜♪」
 端に残された蜜のプールでは、リコリスが子供達と蜂蜜まみれになり、きゃっきゃっと蜜をかけ合い遊んでいた。
 牧歌的な光景に、甘い蜂蜜の匂いが漂い流れる。
 どこまでも長閑な昼下がりがのんびりと過ぎていった。