タイトル:再会の女傭兵マスター:草之 佑人

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/01/31 14:02

●オープニング本文


●再会
 西からの潮風が頬を撫ぜ、潮の香りが鼻腔をくすぐる。
 ジャネット・路馬(gz0394)はカーク隊と共にある港町を訪れていた。
 そこは、ジャネットが所属する軍の基地から程近く、軍需物資の海上輸送に適した港町。
 ジャネットはレイテに強引に連れられ、部隊内の女性だけで街中を歩いていた。
 レイテは部隊内の女性達と連携し、ジャネットに市内の見回りの名目でウィンドウショッピングを行う事を認めさせたらしい。勿論、ジャネットには名目だけしか話していないが。
 ジャネットは女同士の会話というものについていけず、彼女らの後方について歩きながら人々の顔を見て回り、怪しい人物が居ないかと窺っていた。
 そんな折、ジャネットは懐かしい顔を見つける。
「ガルラ‥‥さん? もしかして、ガルラさんですか?」
 ジャネットが話しかけたのは、屈強な女傭兵だった。
「ん? あんたは‥‥ジャネットじゃねえか」
 女傭兵が振り向き答えた。
「お久しぶりです、ガルラさん」
「おう。ジャネットこそ元気そうで何よりだな」
 ガルラは豪快に笑った。1年程前まではよく顔を合わせていたが、ジャネットが現在の基地に配属されてからは、ほとんど会わなくなっていた。
「そういえば、今、軍に居るんじゃなかったのか? なんでこんなとこにいんだ?」
「軍の方で必要な物資がこちらの港に着くと言う事で、受け取りに来たんです」
「そうかそうか。はは、まあ、まだ下っ端仕事だな」
 身長は同じくらいになったが、まだまだ小さい頃の扱いは抜けず、ジャネットは頭を撫でられる。
「それにしても、あのジャネットも立派な軍人か‥‥ま、あいつの後を追ったって事だな」
 ガルラが昔を懐かしむように話しだす。しかし、
「しょ、少尉! 報告があります!」
 そこに、カーク隊の一人が駆けつけ割り込んだ。隊員は血相を変えて、息を切らしている。
「どうした? 何をそんなに慌てている?」
「い、今し方、街の民間人から聞かされた話ですが、街の東に獣――おそらくはキメラ――の大群が現れ、こちらに向かっているとのことです。同じ分隊の仲間に、確認に行かせていますが、民間人の複数の証言がある事から確度の高い情報と思われます!」
 その隊員は一息に報告を終える。
 ガルラは横で話を聞いていて、顔を顰めた。
「ちっ、厄介だな、そりゃ。この街から逃げるんだったら、東以外は逃げ辛いぜ」
 この港町からは、一度東に行き、途中の交差点から大都市を繋ぐ主要道路に出るのが一般的で、南北の道路は舗装されていないし、道の安全性も確保されていない。
 つまり、南北に逃げれば、キメラの大群から逃れたはずが、別のキメラに襲われる可能性があるということだ。
「私が配属されている基地が近くにあります。援軍が来るまでの間、侵攻を食い止めれれば、挟撃し殲滅することも可能でしょう。幸い、この街を訪れている傭兵も居られる様ですしね」
 ガルラを見ながら、ジャネットは言う。
 ジャネットはそう言ってから、レイテを始めとしたカーク隊の面々に向き直る。
「カーク隊は直ちに民間人を避難場所へ誘導。基地との連絡は――」
「――基地との連絡は私が取っておきます。少尉は指揮をお願いします」
 ジャネットが言い終える前に、レイテが名乗りを上げていた。
「レイテ軍曹か。ああ、頼む。では、私が指揮を取るぞ。民間人の一人も残さず、避難させる。気を抜かないようにな」
 ジャネットに知人と会い緩んでいた、先程までの雰囲気はない。
 潮風は運ぶ。西から東へ、獲物の匂いを――

●大尉との交信
「――それで、確認だけど、貴方が情報を止めていたとかではないのね? コレ」
 レイテは大尉との私的な回線を利用して、交信していた。
『私の方に該当する情報は上がって来ていないな。それが本当ならすぐに部隊へ連絡を回し援軍を送ろう。それと‥‥』
 暫し逡巡した後、
『お前は少尉を連れて西の海岸に向かえ』
 大尉は妙な事を指示した。
「西の海岸‥‥? どうして? キメラは東から来ているし、西は海よ?」
『‥‥確信は持てない。だが‥‥あの時、あいつはそうした』
 大尉の台詞にレイテは眉を顰める。
「‥‥ちょっと? あの時とか、あいつとか、どういうことかしら?」
『――報酬は出す』
 レイテは、はあ? と、思わず声が出そうになった。
 しかし、声は出さずに、深呼吸するように息を一つ吐く。
「‥‥余計な詮索は不要‥‥そういうこと、ね。了解しました、大尉殿」
 少しだけ語気を荒げてレイテは交信を切った。

 レイテからの交信を受けた後、大尉は待機中の部隊へ回線を繋ぐ。
 回線が繋がるまで、少し間があった。その合間に、
「‥‥キメラを利用しているつもりが‥‥利用されていたのか‥‥?」
 大尉が独り言を呟く。
 状況が、再現される――あの時と同じ、状況が‥‥。

●参加者一覧

ウラキ(gb4922
25歳・♂・JG
ウルリケ・鹿内(gc0174
25歳・♀・FT
鹿島 灯華(gc1067
16歳・♀・JG
ラナ・ヴェクサー(gc1748
19歳・♀・PN
リリナ(gc2236
15歳・♀・HA
ネオ・グランデ(gc2626
24歳・♂・PN
ジョシュア・キルストン(gc4215
24歳・♂・PN
天野 天魔(gc4365
23歳・♂・ER

●リプレイ本文

●騒がしい港町
 傭兵達に用意された高速艇の待合室。その隅で、手入れ中の銃を手元に置いて、イルファ(gc1067)は眉根を寄せてウラキ(gb4922)を見る。
 前の依頼でのイルファの無茶をウラキに窘められている所だった。
「然しあの状況で‥‥」
 イルファはウラキの言葉に反論しようとして、ふと、建物の外の変化に気づいた。
「何か、騒がしいですね?」
 その時、待合室のドアは開らきジャネット・路馬(gz0394)が駆け込んでくる。避難の人手が足りず、依頼主として路馬が直接傭兵達の所に足を運んだのだ。
「すまない。私は軍の者でジャネット・路馬という。君達は傭兵か?」
 路馬が室内を見回して声を掛ける。
「そうだが?」
 目の前のウラキの答えを聞きつつ、路馬は傭兵達の人数を確認する。
「ならば、緊急の依頼で悪いのだが――」
 そう言って、挨拶もそこそこに、路馬は街の現状を説明した。

「‥‥話は後‥‥か」
 話を聞き終えたウラキがイルファへの説教を一時置いて立ち上がった。
「仕事が終わったばかりだというのに‥‥忌々しい事ね」
 ラナ・ヴェクサー(gc1748)は苛立ちを露わに毒づく。自らの力の無さに、少し感情がささくれ立っていた。けれど、これは力を得るいい機会かもしれない、そう思う事で自分を諫める。
「俺は西に――少尉の隊に同行しよう」
 天野 天魔(gc4365)はそう言って立ち上がる。
「あたしも念のためにジャネットさん達と行動を共にしたいです」
 リリナ(gc2236)も天魔の提案に乗る。路馬は少し困った顔をした。
「君達にはできれば、全員で東側の防衛についてほしいのだが‥‥」
「レイテ軍曹と一緒にいたいから、では駄目かな?」
 天魔の台詞に、路馬はきょとんと間抜けた表情をする。
 レイテと傭兵の一人が以前の依頼で懇意になっていたとは初耳だった。
 だが、そんな感情で戦況は動かせない。
 路馬が天魔の提案を却下しようとするが、
「駄目なら仕方ない」
 表情を見て取った天魔が先に言った。
「しかしだ、少尉。大尉の命令‥‥素直に従っていいのか? 海岸で何が起こるのか、 少尉に心当たりないか?」
 天魔の言葉に路馬は顔を顰める。彼の言うとおり心当たりがある。
 保険を掛ける意味合いで、路馬は天魔の提案を飲む。

 ネオ・グランデ(gc2626)が一人街中を歩いていたら、騒ぎが聞こえてきた。
 ――何やら、キメラの群れが近づいている、か。
「やれやれ、帰る前に古本屋巡りでもしようかと思ってたんだがな」
 場所を確認する。今居る所から東の入口はすぐだ。

●戦いの始まり
「おぉ、なんか‥‥いっぱいいますね。無茶をして死んでもアレですし、まあ皆さんテキトーに頑張りましょうか♪」
 ジョシュア・キルストン(gc4215)が手で影を作りながらキメラの大群を見て、陽気な声を皆に掛けた。
「あっと、皆さん周りはよぉーく見てて下さいね〜? 打ち合わせ通り、ちゃんと射線とか道路以外からの街への潜入も警戒するんですよ〜?」
 事前の作戦相談で担当する戦域等は明確に決めてある。道に展開する傭兵の数は五人。
 そして、ウラキが一人、道路沿いの建物屋根上に陣取る。

「位置についた。が‥‥」
 無線のスイッチを入れ、ウラキが連絡を送る。
 屋根上からは、道よりも遠くが見えた。
「良い眺めではないな‥‥」
 そこに見えるのは、やはり獣の大群。数は無数に近い。
『‥‥数は如何ほどですか?』
 イルファに無線で数を訊かれ、ウラキは苦笑いを浮かべる。
「‥‥知らない方が気が楽だ。それ位多いよ」
 言いつつ、ウラキは銃を構える。長射程を活かし、戦闘が始まる前に先頭集団を狙う。
(直進するだけ‥‥良い的だ)
 狙いは頭部。
 進路は予測しやすく、ウラキの放った銃弾は狙いを過たずキメラの頭を撃ち抜いた。
(‥‥まず1匹‥‥次)

 ――ウラキの射撃で数の減った先頭が近づいてくる。
「其処から先には通しません‥‥!」
 イルファが制圧射撃によって先頭の足を止めた。
「拠点防衛戦か‥‥近接格闘師、ネオ・グランデ、推して参る」
 ネオが飛び出すのと同時に、ラナが雷の翼を大きく広げ、囮になる様に瞬天速で駆ける。
 目の前に現れたラナという餌にキメラ達は一も二もなく殺到する。
「全て私の所へ来なさい‥‥! これ位、乗り越えなければまだ遠いのですよ‥‥!」
 ラナが一人で何体をも相手取るが、それでも相手の数は多い。餌にありつけなかったキメラがその横を街へと直進する。
 だが、そのキメラ達の前には、ネオが立ちはだかった。
「悪いが、こっから先は一方通行だ。侵入は禁止ってな」
 三体を向こうにして、大きな隙を作らない様、コンパクトに爪と脚爪での連撃を食らわせ一匹ずつ確実に打ち倒していく。
「皆さん頑張って下さいね〜。数に負けちゃだめだぞ〜」
 軽い掛け声と共にジョシュアが小銃を撃ち、前衛の倒し損ねた敵に止めを刺していく。
「うぅ。本来前衛で、こうしていないといけない筈なのですけれど‥‥」
 黒い瞳を赤く、猫の様に縦長に細めるウルリケ・鹿内(gc0174)の前に、前線を抜けてきたキメラが迫った。薙刀を構え、僅かに腰を落とす。
「っと、此処から先は通行止めですので‥‥、お控えください‥‥」
 構えた薙刀を振り下ろし、迫る敵を斬り伏せた。
「後ろに下がったら、大変ですから‥‥。前へ、前へ」
 冷静な声で、前に進みながら、さらにすり抜けてきた敵を一体、側面に回り、前の両足を斬り落とす様に薙刀で斬り払う。キメラは前足を失い、歩く事もままならぬ状況に陥りジョシュアの銃弾に止めを刺された。

●西港
「久しぶりだなレイテ。相変わらず雨の中を独り歩いているのか?」
 天魔は合流してすぐレイテに話しかける。
「‥‥どういう意味かしら、それ。プライベートな質問なら後にしてくれる?」
 婉曲な問いに、レイテは質問をはぐらかし、海岸に目を戻し構える。
「まぁいい、此度の演目も期待しよう」
 首をすくめ、天魔も海岸に目をやった。
 海から魚キメラが上陸してくるのが見える。

 ガルラが街へ来る敵の先頭集団に向けて制圧射撃を加え、進撃を少しでも遅らせる。
 天魔がガルラと共に弾幕を張りキメラを足止めし、そして、足止めした近いキメラから牽制を交えつつ撃破していく。
 ――だが、敵の数が圧倒的に多かった。弾幕を張り続けるが、後から後から押し寄せ、弾幕を潜り抜けてくるものも現れる。レイテが討ち漏らしたキメラ達を手当し倒すが、やがてそれも追いつかなくなる。
 前に出て、敵を引きつける者が居ない為、戦闘は乱戦へと移行していった。
 カーク隊の兵士に敵が襲い掛かる。それを見たリリナは、兵士の前に自分の身体を投げだし盾とする。キメラの鰭がリリナを切り裂く。
「‥‥全部守りきってみせるのですっ」
 反撃でリリナはキメラを撃ち倒し、立ち上がる。

 だが‥‥数で上回るキメラは、リリナが一匹のキメラを食い止める間に、二匹、三匹とカーク隊へと襲いかかって行き、やがて――
 悲鳴が、上がる。

●東側後半戦
 戦闘開始から前衛をすり抜けるキメラは余り無い状況にあった。それを確認し、
「さて、前衛に進むとしましょうかー」
 ウルリケは駆け出す。視点を広範囲に置き、ラナとネオのやや後方で穴をおさえる様な位置へ移動する。
 前衛の二人が対処しづらい相手を選び、前線から抜け出る前に手数多く斬りつけ屠る。
 敵の勢いには波があり、稀にウルリケの方に回ってくる数が増える。三体ほどに囲まれ同時に襲い来られる。
 一体の体当たりを避けつつ、その側面へと回り込み、擦れ違い様に斜めに斬り払う。そのまま身を捻り、今度は反対の敵へ。刃の赤い煌きが尾を引き、キメラの右半身を駆け抜ける。最後まで振り抜けば、相手の身は横に裂け、音を立てて血溜まりに沈んだ。
 最後の一体に背面を見せた状態になる。しかし、その背面には迅雷で駆けつけたジョシュアが既に居る。ウルリケが振り向くよりも先に、旋風を巻き起こす様に身体を回し、描く円に剣の閃きを走らせ斬り払う。キメラは口から真横に引き裂かれ、崩れ落ちた。
「頑張りすぎても損ですよ。リラックスしていきましょう」
 ウルリケの背後を守る様にして声を掛ける。

「――薙ぎ払います! ‥‥前衛は退避を!」
 イルファは叫びながら、貫通弾に換装したSMGを構える。射線上から仲間が退くのを確認してブリットストームによる全弾乱射。FFを貫く為に強化された弾が、通常弾よりも大きな打撃を与える。荒れ狂った弾丸の嵐に撃たれ、敵は呼吸すら忘れ立ち竦んだ。
 そこへ――
「まとめて散れ‥‥疾風雷花・鳳仙花から野苺まで混成接続」
 疾風の如くに速度を上げ、ネオが一息に飛び込んだ。足の止まったキメラ達の急所を狙うのは容易く、瞬く間に爪で四体の敵の急所を引き裂いた。
 だが、倒したその後ろからすぐに新たな敵が現れる。
 ネオは囲まれない様に間合いを取りながら、爪を構えなおした。

 長引く戦いの中、ラナは浴び続けたキメラの血が足元に溜まり、キメラの体当たりを飛び躱した後の着地で足を滑らせた。続くキメラが、その隙を狙い頭を噛み砕こうと迫る。キメラの開いた口に手の幻影が重なり、僅かに避け損い肩に食いつかれる。
 肩にキメラの重りが付き、動きの鈍った標的にキメラ達は獣の本能を剥き出しにして群がってくる。
 だが、キメラとラナの間を、後方からの銃撃が駆け抜け、キメラの動きがワンテンポずれる。ラナの危機を見て取ったイルファの援護射撃だ。
『‥‥其処まで、ですよ』
 ラナの左胸に固定された無線機から、イルファの声が漏れ聞こえる。
 生じた僅かな隙に、ラナは食らいついたキメラの首をイオフィエルで強引に掻き切り、その胴を切り離す。
 ――食らいついた牙を剥がすのは後だ。
「まだ‥‥まだです。まだ私は先に進む事ができる‥‥!」
 強き力を求め、更なる力を欲し、今より遠く、その先へとラナは進もうとする。見果てぬ先に微かにある槍持つ敵の姿を睨み据え、其処へと辿り着かんが為に‥‥
 飛び掛かり来る敵の爪を紙一重で躱しながら、ラナは回し蹴りで相手を叩き落とし、イオフィエルを突き刺し倒す。

 築かれる屍の山。だが、その屍を乗り越えて、なおもキメラ達は突撃を続ける。

●夕暮れの港町
「さて終わったか。西側は問題なかったか?」
 街の東側、ネオが最後の一体が倒されるのを見届けて無線で連絡した。
 西側の戦闘も侵入は防ぎ、今し方終結したとの返答を受ける。
「倒したはいいですが‥‥大分散らかりましたね」
 ジョシュアが辺りを見渡した。付近は足の踏み場がない程のキメラの死骸で埋め尽くされている。到着した軍の部隊が、それらを片付ける作業に移行していった。
 その作業を横目に、ネオは夕陽に暮れ泥む空を見上げ、時刻を確認する。
「さて、そろそろ高速艇が来る時間か‥‥古本屋巡りはまたの機会だな」

 軍の作業の合間を抜けて、路馬は傭兵達の見送りに高速艇の発着場に来ていた。
 路馬がウラキとイルファを見つけるが、そこで立ち止まり様子を窺う。
 二人はなにやら割り込むのが躊躇われる様な会話をしていた。
「――隊長様の、言っている事は分かります」
 銃器の確認を終え、それらを仕舞いながらイルファは立ち上がる。高速艇が到着していた。
「ですが‥‥私はこの生き方を変える心算は有りません」
 そのまま、視線を一度も合わせず、
「私には‥‥失う物も無ければ、悲しむ人も‥‥居ませんから」
 ウラキを振り切る様に高速艇に向かいながら、イルファは呟いた。
「‥‥悲しむ人間が居ないというのは、違うな」
 イルファの背を見つめながら、ウラキは呟く。
 そして、いつから気づいていたのか、ウラキは路馬の方を見た。
「‥‥いつか、分かると思うか? 彼女‥‥」
 問い掛けられ、路馬は神妙な顔をする。
「分かると思う‥‥いや、分かってほしい、かな。隊の仲間が死ねば、悲しいものだ‥‥」
 今回の戦闘でカーク隊も死傷者が出た。共に戦った期間は短かったが、それでも、彼らの死を悼み、隊員達は泣いた。
「ウラキ君――」
 路馬が何かを言いかけて――ウラキは言葉の先を読み、頷いた。
「‥‥いつか分かる時が来るまで‥‥彼女は見守っていく」
「‥‥ああ、それが隊長としてせめて出来る事だと私も思う」
 その後、路馬はウラキに謝辞を述べ、去り行くその背を見送った。
 同じ発着場の少し離れた所で、レイテもまた天魔の見送りに来ていた。
 路馬が気を回して、レイテに頼んだらしい。
「確認するが君は役者であって脚本家でない、という事でよいのかな?」
「――どういうことかしら?」
 その意図を図りかねて、レイテは問い返す。
 だが、その問い返しを無視して、
「もしそうなら気をつけるといい。互いに利用し合う関係は互いの切り時を探っている関係とも言えるからな。それと大尉によろしくな」
 天魔のカマ掛けに、レイテが片眉をぴくりと動かした。天魔はそれを見逃さず、笑みを浮かべて踵を返す。
「‥‥全てを見透かした様な口振りの男って、好きじゃないわね‥‥」
 目を細め捨て台詞を吐いてその場を後にし、レイテは別の場所に向かう。
 行く所があった。

 清潔なベッドの上、軍が用意した部屋にラナは寝かされていた。その横で、ぼんやりとリリナがラナの横顔を見ている。戦闘の汚れを落とした後、泥の様に眠ってしまったラナをリリナはここまで運び、そのままずっとこうしていた。
 静かな空間に、ドアをノックする音が響く。
「はい。開いてますよ」
 元気のない声で、リリナはドア向こうに返事を返す。
 入ってきたのはレイテだった。
「‥‥あら、落ち込んでるの?」
 レイテはリリナの様子を見てとり言う。
「しょうがないわよ、今回は。敵の数が多かったもの」
 ゆっくりと近寄りながら慰めの言葉を掛ける。しかし、リリナは顔を俯かせてしまった。
 レイテがリリナの横に立ち、沈痛な面持ちでリリナの頭を撫でる。
「――以前別の隊に居た時、似た様な事があったけど‥‥もっと酷かったわ‥‥。今回は、貴女が身体を張ってくれたおかげで被害が少なかった方なのよ」
 身体を張り守られただけでなく、リリナの練成治療で助けられた者もいる。おかげで死傷者は最小限に抑えられていた。
「‥‥ほら。この寝てる子が起きたら行くわよ」
 レイテは一頻りリリナを撫で続けた後、そう言った。
「えと、どこへでしょうか?」
 未だ晴れぬ顔でリリナはレイテを見上げる。
「ご飯を食べに、よ? 少尉とか隊の女連中も誘ってるの。ダメかしら」
 レイテがウインクをして、おどけた様に言う。励まそうとしているのが見て取れた。
「その‥‥」
 リリナはそこで言葉を切り、
「そう、ですね。あたしはデザートに甘い物が食べたいです」
 少しだけ無理をして微笑みを浮かべる。
「ふふ、なら、いい店知ってるわよ。案内してあげる」
 もう一度だけ、リリナの頭を撫でた。