●リプレイ本文
●夢の始まり〜キョウ運の招き猫ウィズが行く
木の上から黒い子猫が、ソウマ(
gc0505)の顔に舞い降りる。
「とっとと、なんだ? 黒い‥‥子猫?」
「み〜」
黒猫はソウマの肩に回ると、彼の頬に身体を擦り寄せる。
「随分人懐っこいなぁ」
「みゅう」
喉を撫でてやるとごろごろと気持ち良さそうに鳴く。
「野良かな? お前の名前は何て言うんだい?」
「み〜!」
胸を張り黒猫は誇らしそうに鳴く。
「‥‥ウィズウォーカー、ウィズ、なんだね?」
直感で確信を得て、訊き直す。
「みゃお〜ん!」
黒猫――ウィズが嬉しそうに鳴いた。
ウィズはソウマの肩から飛び降り、先を歩き出す。
ソウマがどこに行くのかと訝しんでいると、ウィズに「み〜」と急かされた。
その愛らしい姿に僅かに頬を緩めながら、ソウマはウィズの後を追いかけて行く。
●共有格納庫内
藍染めの格子柄の着物に袴姿、緋色の陣羽織。剃らずに伸ばした黒髪を結い、精悍な顔立ち。正しく武人の男が佇んでいた。
「これは――これこそは千載一遇の好機」
武人、忠勝は以前から主君たる榊 兵衛(
ga0388)と『酒』というものをを酌み交わしてみたいと思っていた。この好機を逃す手はないと格納庫を後にする。
その向かいで、黒髪のアジア系美女と横で髪を括った褐色肌の少女の姉妹が自分達の身体を確認しながら会話していた。
「ふむ、どうやら人型‥‥というより人間型になったようだな」
「人間って視点低い‥‥って、ディースちゃん美人ッ!」
「主に愛されてるからな、美人でなきゃ可哀相だろ」
「えーっ、ずるいーっ」
少女――ディスィールは口を尖らせて膨れる。
「折角だ、ユーリに会いに行ってみよう」
ユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)の愛機達もまた格納庫を後にする。
ユーリの愛機達と同様に、漆黒の軍装に身を包んだ黒髪の少女が、ぺたぺたと胸や顔に触れ、最後に鏡で姿を確認していた。
「‥‥破曉なのに色々と小さい‥‥でも良かった‥‥複眼じゃなくて」
複眼でなかった事に心底ほっとする。
「――如何した、夜天。今日は日頃の労を労ってやると言っていただろう?」
何時の間にか少女の背後に御影・朔夜(
ga0240)――少女のマスターだ――が立っていた。
マスターの言葉で少女は気付いた。
(あぁ、これは私の夢なのだ)
そして夢なら‥‥普段の様にマスターではなく、自分の望みを優先するべきだろう。
「そう、でしたね。では最初に。‥‥私の事は、夜天ではなく“アスト”と呼んで貰えませんか?」
少女――アストの形式番号末尾のA。表向きには“Annihilator(殲滅者)”となっている。けれど、アストだけは知っている。そのAが本当は“Astraia(星乙女)”だと。
その名の意味に目を細め、
「‥‥あぁ。判ったよ、アスト」
朔夜は頷いた。
「――整備に来たら機体が無かった件について」
伽藍とした格納庫で時枝・悠(
ga8810)はぼそりと呟いた。
「仕方ないから帰って寝‥‥駄目か」
まずは格納庫の中から捜索を開始することにした。
「あー、足に擦り寄って来てる犬のあんたか隣の寄り添ってるペンギン‥‥どっちかディアブロ? ‥‥な訳ないか」
結局見つからず出ていく悠とすれ違いながら、夢守 ルキア(
gb9436)が格納庫に入って行く。勿論KVは無い。
「格納庫清掃トカ、そんな日だっけ?」
「――ルキアだな、僕だ。イクシオンだ」
KVのあった場所には、イクシオンを名乗る壮年の男性。
ルキアは不信感も露わにする。
後ろからの狙撃を警戒しながら上着を脱がし、武器を剥奪。その背には銃を突きつける。
その背にあるエンブレムの烙印がタンクトップの隙間から見えた。
「銃を手放すな、背を向けるな」
イクシオンから回し蹴り飛んできて後ろに飛び回避、ナイフ取りだし迎撃
「すっげー、理不尽だろ!」
「知ってる? 私の愛機を騙るヤツは、ルキアに撃たれて飛んでしまえ、今作ったケド」
二人は争いながら格納庫を飛び出ていく。
「機体強化に来て見ればなにやら様子が変ですね?」
格納庫の隙間から隙間へ歩く蟹を跨ぎつつ、格納庫に入った望月 美汐(
gb6693)は、周りを見回しつつ自機のハンガーへ向かう。
「ふむ、お出ましかね」
ハンガーに居たのは、金髪碧眼の軍服を着た青年。
「えっと‥‥どちらさまでしょう?」
「確かに。普段とは少々趣が異なるか。私は卿の爪牙、光を愛せない者、破曉【メフィストフェレス】まぁ卿の好きに呼ぶとよい」
「え、フェレス?」
確認も聞かず青年が槍を構え、美汐に突きつける。
「ってきゃっ!」
「少々苦言を呈したくてな。昨今の卿の動きは目に余る。私を駆る意味をもう忘れたのかね? 力を得たにも拘らず再び奪われ、その果てに私を選んだのだろう?」
「な、何の話です!」
焦りも露わに美汐はセリアティスを構える。
「【卿は愛する者に永遠に追いつけない】」
槍を絡ませ、弾き、美汐の眉間を貫く様に突き出す。
「闘争を避けるのならば私から降りたまえ。卿がその様では黄金の輝きも真鍮に落ちる。私が爪牙足りえる意味など無い」
その突きを、美汐は辛うじて躱し、間合いを離す。
「私を、退屈させるな」
「うる‥‥さいんですよ。私、歩くの遅いんですよ! だから、だから‥‥」
「下らん、その様な言葉よりこちらで語れ」
間合いの外でフェレスは槍を翳した。
「馬鹿みたい。そんなに戦いが好きですか!」
「ああ。【私は今生きている】と。そう感じるよ」
そんな戦闘を遠くに、須佐 武流(
ga1461)の愛機不知火は同じく武流の愛機ロビンと隼に絡まれていた。
「で、何してんだよ、テメーら。つか、顔見せろよ、あぁ?」
不知火は仮面で、ロビンは鳥を模した兜で顔を隠している為、顔が見えない。
「‥‥それは貴方もそうですが‥‥」
ロビンが目線だけを隼に寄こす。彼も二人と同じく隼を模した仮面で顔を隠している。
「ああ? っだとコラっ!?」
「‥‥それより、不知火の顔は見てみたいですね‥‥どうせ見れたものではないから隠しているのでしょうが‥‥」
「‥‥」
不知火は無言。切れた隼が掴みかかった。
「なんとか言えっつってんだろぉが? あぁ?」
「‥‥」
不知火が隼の手を払い、格納庫の外へと歩き出す。
「てめぇっ!?」
隼が付近にあった巨大爆弾を手に取り投げるが、不知火が体をずらす様に躱せば、それは壁に跳ね返りロビンに当たる。幸いにも爆発はしなかったようだ。
「‥‥不知火、今、わざと私に当たる様に躱しましたね‥‥」
怒りの矛先は、隼ではなく不知火へ。素早く近づき、振るったロビンの拳が不知火の仮面を弾き飛ばす。
「‥‥」
髪で隠れた不知火の顔。不知火は仮面を取り出して、顔を隠し直す。
そして、高く宙へと飛びあがると、落下で勢いをつけて、隼の服とロビンの白い鎧を鉤爪で引き裂いた。
これが切っ掛けとなった。
隼が怒号と共に不知火に向かえば、ロビンは口を噤み静かに怒りを発露する。二人が連携を取れていないのを利用して不知火が同士討ちを狙う。
次第に、誰が敵かも分からない殴り合いに発展し、近くに居た鶏も縄張りを荒らされまいと戦いに参加する。
そうして‥‥決着が着く事無く、彼らの夢の一日は過ぎていった。
●各自宅〜その1
まだ暗い雪代 蛍(
gb3625)の兵舎。そこに蛍を大きくした様な女性と、短髪黒髪に黒いパーカーの少年が忍び込んでいた。
「コレは――」
蛍の両親の形見の指輪、それを付けたネックレスがあった。女性が手に取ってみれば、大切にされているのがよく分かる。
「‥‥レックス、する事が決まったわ」
――寝ていた蛍の鼻にいい匂いがよぎる。あまり嗅いだ事のない匂い。
でも、なんだろうこの匂い懐かしい。
「アレ‥‥、誰かいる」
目を覚ますと、朝ご飯を作る女性と少年が居た。
「だっ、誰なの?」
蛍が尋ねると、二人は蛍に笑みを向けた。
「あたしは雪姫」
「俺はレックスよろしくな」
蛍はどう対応していいのか分からない。
「まずは朝ご飯をお食べなさい」
どこか懐かしい雰囲気に流され、席について朝ご飯を食べる。
朝食の間も雪姫とレックスが楽しそうに喋り、蛍を会話に巻きこむ。
そのうち、レックスが蛍に提案をした。
「おい、蛍。この後、此処の案内してくんねぇか、格納庫ぐれいだし知ってんの」
グリフィス(
gc5609)は部屋で一人で本を読んでいた。
「正月でさえ一人か‥‥」
その表情は少し暗い。その時、不意にチャイムが鳴った。
扉の外に居たのは、黒髪に白い肌、赤い瞳の女性。
「おはようございます、マスター」
女性は部屋に入った後に、自分がフランベルムだと言うことを説明した。
「そんなこともあるのかな‥‥」
グリフィスは半信半疑で納得する。
「ところでマスター、朝ご飯がまだなら作りますがどうですか?」
アッシュ・リーゲン(
ga3804)が自宅で寝ていたら歌が聴こえてきた。
(んだよ‥‥人が気持ち良く寝てんのに‥‥歌なんか歌いやが‥‥)
「誰だ、歌ってんのは!!?」
アッシュは飛び起き、傍で歌を歌う女性に銃を突きつけた。
「楽しそうに歌ってっトコ悪いが、お前さんはドコのどなたさんだ?」
「リアはリアなのですよ? せっかくのチャンスですからマスターに会いに来ましたのです」
「結局答えになってねぇし‥‥むしろ機会やらマスターやら謎が増え‥‥あぁ? ちょっと待てよ」
こめかみに指を当てて、アッシュは考え込む。
「いや、まさか‥‥んなバカな話が、けどあの容姿は‥‥」
サファイアブルーの波打つ様な長い髪。ゆったりとした丈の長いドレス。
そして、極めつけは背中の白い翼。
「お前まさか、リアノン、なの‥‥か‥‥?」
機体エンブレムの草案として考えていた人物像にそっくりな事に気付く。
「はい、リアはリアノンですよ。気がついた時にはマスターと同じ様になってましたの、だからマスターにお会いしに来ました」
ガレージ裏にある花壇、そこで冬の花の水をやっているレインウォーカー(
gc2524)の元へ黒のドレスに身を包み日傘を差した女性が現れる。
レインウォーカーが振り向いた瞬間、女性が日傘を練鎌リビティナへと変え、振り下ろす。その鎌を黒刀『歪』で受け止め、レインウォーカーは反撃の一閃を振るう。
互いに息つく間も無い攻防を繰り広げ、その最中にレインウォーカーは女性の戦い方から正体に気づく。
二人の間合いが離れた時、
「ああ、そうか。お前なのかリストレイン」
レインウォーカーは刀を下ろした。
「なんで、とは聞かないよ。理由なんてどうでもいい。せっかく話せるんだから話をしよう」
「――この一時が夢でも構わない」
リストレインもリビティナを日傘に戻す。
「マスターと語る事ができるのなら、わたしは夢を愉しみます」
そして、レインウォーカーは心の内を話し始める。
「‥‥お前も知ってるだろ、ボクらは、弱い。だからさ、強くなろう。ボクも、お前も、もっと誰よりも強く」
「マスター、わたしも貴方と同じです。貴方と共に生き、戦い、強くなる。それがわたしの願いです」
「ボクらなら必ず出来るさぁ」
「ええ、貴方とわたしなら、かならず出来ます」
「それとボクをマスターと呼ぶな。ボクらはコンビ、上も下もない。レインって呼んでくれ、相棒」
「わかりました。これからもよろしくお願いします。――レイン」
リリナ(
gc2236)の前にも和服の女性が現れていた。
「――そうは簡単に信じられぬか‥‥主殿、これを見てくれ」
袖に手を入れずに前で組んでいた手を解き、和服の袖口から一つの絵馬を取り出す。
それは、初代機から引き継いだ操縦室に飾られていた絵馬だった。
リリナはそれを見て女性がクシロだと確信する。
「クシロと話ができたら‥‥訊きたい事があったんです」
「なんだろうか? 我が主」
意を決したように、リリナは話す。
「初代、2代目からの後続機であり代替機であったのですけど‥‥。今は大切な愛機です。クシロは今あたしの事をどう思っていますか‥‥? クシロはこれからも一緒に戦ってくれますか?」
「ふむ‥‥私に戦う時を、仲間を守る力を、敵を捉えるその目を使う機会を下さったのだ。元がなんであろうと関係ない。‥‥私は私、これからも共に主殿と戦っていきたいな」
それから、ややおずおずと、
「それでは‥‥駄目だろうか?」
クシロはリリナに尋ね返した。
「そんなことはないですよ‥‥ありがとうございます。聞けて良かったです」
リリナは笑みを浮かべた。
「えと‥‥この後一緒にお散歩でもどうですかっ」
「‥‥こうして地を歩くことはあまり無いからな。私も主殿と一緒に散歩をしてみたいと思っていた」
西島 百白(
ga2123)は炬燵で寝ていた。
突如ゆさゆさと揺らされ目が覚める。
「‥‥?」
「‥‥」
目の前には見知らぬ子供。
「‥‥誰だ?」
「!?」
膝の上に座り、虎耳をピコピコと動かす。
「‥‥!」
「‥‥虎耳?」
「‥‥! ‥‥!」
百白が気づき、子供は嬉しそうに虎耳を動かす。
「‥‥だから‥‥誰だ?」
「!?」
――数分間の必死のアピールにより、
「お前‥‥虎白‥‥か?」
百白は愛機の虎白と気づいた。
虎白が頷く。
「‥‥そうか」
「♪」
百白の理解を得て満足したのか、虎白も炬燵に入りぬくぬくと温まりだした。
「散歩‥‥行くか?」
「♪」
満面の笑みで頷く虎白。
「その前に、帽子‥‥被っておけ」
差し出された帽子を受け取り、虎白はこくりと頷いた。
リヴァル・クロウ(
gb2337)がB棟2337号室に居ると、見知らぬ忍び姿の女性が勝手に上がり込み、妙に親しく話しかけてきた。
いや、違う。初見ではない。
「お前は‥‥電‥‥影‥‥?」
「はい、そうです。藻館様」
クールな口調で答える様は、知的に見える。――その発言の内容を除けば。
「‥‥その呼び方はなんだ」
「最近のご主人の流行りと聞いて」
「二秒以内に謝罪できたら許してやる。――超過した際は、正座だ」
「‥‥! ごもんなさ」
「二秒経過。しかも、発音がおかしい。正座だ」
「‥‥はい」
返事をしつつ、しょもっ、と正座する。
そんな時、ドアの隙間からウィズが顔を覗かせ、手を招いた。
電影が立とうとして、足の痺れにずっこける。しかも一人で倒れずにリヴァルを巻き込み――気がつくと、リヴァルの顔の方に電影がお尻を向ける形で馬乗りになっていた。
リヴァルがなんとかもがいてその体勢を抜け出す。
ふと、リヴァルが視線を感じてドアの方を見ると――ウィズの広げたドアの隙間から、あらぬ光景を見たオペレーターの女性が信頼の笑顔を向けていた。
この後、電影はリヴァルが事態を誤魔化す為に、不条理にもまた正座させられることになる。
「主よ、私は元の体に戻らなければならないッ!」
フェリア(
ga9011)の兵舎でポニテの女侍は必死に主張していた。
だが、主君たるフェリアは、
「さぁ狼嵐、この首輪つけるです。おぉ似合う」
女侍――狼嵐の言葉を軽くスルーする。
「今、悪鬼共が襲来すれば‥‥罪無き人々が傷付いてしまうッ!」
狼嵐は真面目な顔を崩さず述べ続ける。が、フェリアはスルーしつつ狼嵐が羽織っていた襤褸を脱がせる。
そして、白い襤褸が狼嵐が下に着ていた和服の背に回り、虹色の翼となるのも無視して、
「ふふ、狼嵐もつるぺたー、一緒だー」
狼嵐の胸に手を当て大きさを確認する。
「そのような未来を変えるのが、私達騎士なのですッ!」
狼嵐の必死の叫び‥‥しかしそれは空しく響くのみ。
「さぁ散歩いくでござるよー」
その間にも、フェリアは紐を取り出し狼嵐に付けた首輪に通し、
「さぁ四つん這いで歩くです!」
狼嵐の背によじ登り言い放った。
「我が敬愛する主よ、お願いですからお話を聞いてくださいぃぃぃ!」
狼嵐の目からとめどなく溢れる滂沱の涙。
「いっぬみみねっこみみうっさみみくいっ☆くいっ☆ろうらぁ〜ん♪」
フェリアの玩具と化した狼嵐の涙が止まる事はなかった。
兵舎前でユーリを見つけたディスィールが後ろから不意打ちの突撃をかます。
が、ユーリは反射的に背負い投げでディスィールを投げ飛ばした。
「ユーリくんひどーい!」
「‥‥誰?」
他の者とは違い、割と普通の反応を返した。
ベーオウルフ(
ga3640)が自室で武器の手入れをしていると、黒髪ポニーテールのやや小柄な女性が訪ねてきた。
顔を窺った瞬間、ベーオウルフが一瞬息を飲む。が、それを隠して部屋に招き入れた。
「私は貴方の愛機のミカガミです」
「あぁ、そうなのか」
軽く流し、手入れ途中の武器を手に取り直す。
「ベーオウルフさんにお聞きしたい事が二つあります」
「いいぞ、聞こうか」
武器の手入れの続きをしながら答える。
「何故、私には愛称が無いのですか?」
「俺は相棒を愛称で呼ばない」
竜哭を脇に置き、次に虎哭を手に取る。
「だから俺の事を相棒と思うなら名前で呼べ。あとさん付けは止めろ」
納得した様な、してない様な、しかし、ミカガミは質問を続ける。
「‥‥王牙が機体依頼に参加した事が無いのは何故ですか?」
「正直に言うが、KV戦は苦手だからだ」
鞘から虎哭を抜き手入れを始める。
「それに俺は自分で戦うのが好きだからな」
納得した様な、してない様な‥‥
「質問はそれだけか? ――時間が来るまではゆっくりしていけ」
その後も、ぽつりぽつりと他愛無い雑談をして二人は過ごす。
高層ビル屋上のログハウス内、UNKNOWN(
ga4276)は煙草を咥えながら椅子に寝そべり、酒のグラスを片手に専門書を読み耽っていた。グラスが空になり、酒を注ごうとした時、それを横合いから取り上げられた。
「駄目よUNKNOWN。娘さんやご友人が心配されるわ」
取り上げたのは黒光りするボディの機械仕掛けの女性。
UNKNOWNは少し彼女を見て、それがけーいちさんである事に気づく。
「お前にも取り上げられたら私の平穏の場所が無くなるな」
「なら、平穏な日常を得る為に動いてみてはどう?」
けーいちさんが端末を差し出す。そこには現在のLH内の状況が表示されていた。
「此方で動けるKVはいるかい?」
状況を理解しUNKNOWNはコートを羽織りながら尋ねる。
「動けそうなのは、大雀蜂女のアナフィラキシーショックと赤影忍者の☆REDSHADOW☆、それとKV少女が数機。ぎゅいたー君は白鯨のMOBYDICKから、機内にあった調度品を吐き出させるので手一杯。その他のKVは人型で無いから無理ね」
それに、KV達の大凡の行先と軍の動きについて状況を述べ、最後に、
「中でも軍が手をこまねいているKVが何機かあるわ」
けーいちさんは付け加えた。
「それはおそらく魔改造のKV達だろうね。――そこを私達で手当てしようか。動けるKVには通信網の構築と情報収集を頼んでおいてくれるかい?」
「ええ、いいわ。‥‥それと、下に格納庫から乗ってきたMELCEDES VENZ SSKがあるから、移動にはそれを使いましょう」
ログハウスから出ながら、
「これは少し大変、かな?」
放棄区画45−48の自室で待機していたリック・オルコット(
gc4548)は、ベレー帽を被った青い軍服の白人少女を迎え入れる。
「‥‥遅かったじゃないか‥‥や ら な い か ?」
「ちょ、まっ!? 真昼間から何を言い出すのですか主殿!」
「ふむ‥‥意外と初心だな? そんなんじゃ、この先生きのこれないぜ?」
スキットルを掲げながら言う。
「って、お酒なのですか?」
セージ(
ga3997)は道場で新年の稽古始めを行っていた。
そこに、
「セー、いるかー? いたら勝負しろー!」
道場の外からセージを呼ぶ女性の声。セージは一度刀を収める。
●道端
赤と青のオッドアイに先端が赤みを帯びたセミショートの銀髪というLHでも珍しい容姿の少女がLHをふらついていた。山羊の描かれた耳掛け型ヘッドホンに音楽を流し、
「マスターに料理? 初陣で大破させる人に作る物は無いです。と言うか戦闘以外は専門外なので無理です。KV少女に夢見すぎです皆」
歩きながらそんな事をぶつくさと言う。
「――おーい、そこの。ディアブロ?」
「誰がディアブロですか、誰が」
文句を言い、振り向いた先には少女のマスターが居た。
戦闘を続けていたルキア達をレインウォーカーとリストレインが見つける。
「予想通りの展開、と。とりあえず止めるぞ、リストレイン。ボクはルキア、お前はイクシオンを」
「分かりました、レイン」
リストレインが頷く。
「――よし、それじゃ行こうかぁ。相棒!」
レインウォーカー達によって、ルキア達の戦闘は中断させられる。
「くそ‥‥ルキアがすぐに気付かないのが悪いんだろ」
「ん、銃出した時点で知ってたんだケドね」
「‥‥第二次、パイロットVSKV戦闘開始!」
ルキアの言葉に、イクシオンが銃を構えなおす。
と、そこへ――
「「何やってるんだお前らー!?」」
ユーリがルキアに、ディースがイクシオンに何処からか取り出したハリセンでツッコミを入れた。
「ミリーッ!」
突然現れた野生児っぽい少女に飛び掛られ、ミリハナク(
gc4008)は押し倒される様にして共にごろごろと地面を転がる。
「どこの子かしら? 元気なのはいいですけれど‥‥」
「ミリ! ミリ♪ ミーリー! ミリミリミリー」
「いえあの、話を聞いて‥‥」
「ミリ、好きー」
「‥‥ええ、私も好きですわよ」
「ミリ! 気づいた?」
「ふふ。普段からぎゃおちゃんを心から愛し、整備して磨いて改造して、激しい戦地を共に歩んだ絆は伊達じゃありませんのよ」
胸を張り、宣言する。
その間に、マウントポジションへ移行しようとするぎゃおちゃん。それを振り解き、ミリハナクが仕切り直す様に立ち上がる。
ぎゃおちゃんは瞳をきらきらと輝かせて言った。
「遊ぶ。ミリ、喰らう。一番好き!」
「――ふふふ、私をよくわかっていて偉いわね。さあいらっしゃい」
ぎゃおちゃんはミリハナクの狙いを定めないように動き、フェイントを織り交ぜながら背後へ回り込もうとする。
ぎゃおちゃんのフェイントに釣られ、ミリハナクが放った拳の一撃は、ぎゃおちゃんの後ろの壁へと突き刺さる。
――二人はとても楽しそうにじゃれ合い始めた。
里見・さやか(
ga0153)の前にも一人の士官服の少女が現れる。
「さやか様‥‥私、アールマティです‥‥」
涙を溜めた目で名乗られ、さやかはその子が自分の愛機であることに気づく。
「私は本当に、さやか様の愛機なのでしょうか」
どうやら、新しい機体がガレージに並ぶ度に不安に思うらしい。
さやかは不安そうに尋ねた少女の肩を抱き寄せ、金色の髪を撫でる。
「いつも苦労させてごめんなさい」
抱き寄せられたアールマティがきょとんとする。
「撃墜された北米戦で私が無事に帰って来れたのは、身を挺して私を守ってくれたアールマティがいるから。敵のエースと戦って大破しても、あなたは私の命をLHに帰してくれた」
抱き寄せた肩を少しだけ離し、さやかはアールマティの碧い瞳をしっかり捉え直す。
「今私のハンガーにいる子で、私と最も長く辛苦を共にしてきたのは、アールマティ。あなただから。いつも苦労ばかりかけてごめんなさい。私が未熟なばかりに、大破や損傷など、痛い思いをさせてしまって。ごめんなさい」
さやかが謝った。アールマティは、何かを言おうとして、言葉が上手くまとまらず、けれど、
「いいんです。さやか様。その思いをする度に、私はさやか様を護れていることを実感できるのですから」
それだけ言って、嬉しそうにぽろぽろと泣き出した。
●広場の露店
広場では、ユーリがディスィールにたこ焼きを食べてみたいとねだられていたり、悠と合流した愛機のディーが露店を覗きつつ、「くず鉄博士ロクな事しねーな」とぼやいたりしていた。
そこを散歩中、虎白が立ち止まる。
「‥‥どうした?」
虎白はたこ焼き屋を指差した。
「‥‥食べたいのか?」
「‥‥!」
虎白は勢い良く頷いた。百白が二人分のたこ焼きを買い、ベンチに座る。
「‥‥」
「‥‥」
二人が無言で食べる。が、
「「!?!?」」
‥‥どうやら、二人とも猫舌である事を忘れていたらしく、熱さに悶える事になった。
その様子を見ていた雪姫が、蛍に話しかける。
「あたし達も食べましょうか、たこ焼き。ね、蛍」
雪姫に誘われ、しかし、蛍は少し怒った様な態度で頷く。
「なぁ、蛍素直になれないのか、ツンデレも良いけどよ」
姉の雪姫に黙っているように言われたが、蛍の態度に堪らずレックスは口を開く。
「違う、下手なの」
レックスの言葉に、蛍は首を横に振った。
よく分かんねぇの、とお子様なレックスは首を傾げた。
三人とベンチを入れ替わる様に、たこ焼きを食べ終えた百白と虎白。
「‥‥!」
虎白は次に海へ行きたいという懸命のジェスチャーを繰り返す。
「‥‥分ったから‥‥落ち着け」
●ショッピングモール
朔夜とアストは広場を抜け、食事をして買い物をした。
買って貰った黒いワンピースに着替え、アストは年相応の美しい少女になる。
モールを歩いていると、片隅で絵画展が開かれていた。
アストは店外からウィンドウ越しに『ある淑女の肖像』という題名の絵を見つける。それは茶色の髪の女性の肖像画。
――似てはいないですね。絵も、女性も。
アストは少し離れてしまったマスターを追いかけた。
シーヴ・王(
ga5638)はモールのスーパーで夕食用の買い物をしていた。
「主様、見つけましたわ」
きょとんとして振り返ると、そこには黒髪ツインテールでスリットの深い真紅の中華服を着た少女が居た。
「‥‥鋼龍、でありやがるですよね?」
何故人の姿なのかは分からずも、それでもすんなりと『彼女』だという事は理解出来た。
理解された事が嬉しそうに少女は駆け寄り、
「お荷物、お持ちいたします」
シーヴの買い物カゴを受け取ろうとする。
「大丈‥‥いや、頼むのでありやがるですよ」
断りの文句の途中、シュンとするのが見えたので、苦笑しつつお願いする。
「鋼龍‥‥は何でありやがるですから、コウと呼ぶですね」
シーヴとコウは共に買い物の続きへと歩き出す。
●海
堤防で四人のKV達が釣りをしながら溜め息をついていた。
会話を聞くと、それぞれマスターに思う所がある様だった。
アンラの主張。
「剣が羨ましい。
なんで俺ってこんなに皆(一般的な雷電)と違うんだろう‥‥。
それに物凄い被撃墜数高いし‥‥ついこの間も落ちたなぁ‥‥。
なのに俺の次を考えてるんだぜ」
Teufelの主張。
「アンラが羨ましい。
あそこまで鍛え抜かれるなんて‥‥。
俺なんて奴とまともにやり合えないからって取って代られたんだぜ‥‥。
久しぶりの実戦でもあっさり墜ちたしなぁ‥‥」
鳳の主張。
「アンラとTeufelがうらやましい。
俺なんて闘技場の為だけに微妙な手入れしかされてないんだぞ。
ああ‥‥俺もバグアと戦いたいなぁ‥‥」
剣の主張。
「皆の話を聞くとマスターが怖い。
俺も全く違う姿にされるのか?
無茶な戦い方して壊されるのか?
今のところは無事だけど‥‥。
ああ‥‥今後が不安だ」
――詰まる所、全員共通の主張。
『もっと大事に扱ってほしいよなぁ‥‥‥‥』
四人の溜め息が揃い、白い息が空に消えていく。
その背後、四人によく似た男性――もといマスターの漸 王零(
ga2930)がいつの間にか立っている。
四人の後ろ襟を器用に纏めて引っ掴むと、怯える彼らを引き摺り去っていった。
その堤防近く。視線を移せば、人工の浜辺がある。
「♪」
虎白は浜辺で元気にはしゃいでいた。
その時、ウィズとソウマが浜辺を通りかかり――ウィズが手を招いた。
突如、湾で船を襲っていた大王烏賊が現れ、浜辺へと乗り上げてくる。
「!?」
慌てて逃げる虎白。
あわや、捕まりかけた所で、大王烏賊は船が無い事に気づき海へと戻って行った。
「‥‥? ‥‥?」
暫くの間、虎白は百白の身体に登り疑問符を頭の上に浮かべ続けていた。
●お茶会
「――状況が変化したとしておたおたしてもしょうがありませんし‥‥お茶会の準備でも致しましょうか」
百地・悠季(
ga8270)の愛機ヘラルディアはお茶会への誘いを出していた。
お茶会に誘われ来たソウマとウィズ。ウィズが手を招く度に、誘っていないKV達すらもお茶会に集まり、お茶会は混沌とした様相になっていた。
夕食の買い物に出かけたアッシュ達もお茶会に立ち寄り、アッシュがピアノを弾き、リアノンが伴奏に合わせて一緒に歌っている。散歩をしていたリリナ達も、レインウォーカーやルキア、ユーリ達と合流しお茶会に集まっている。
買い物帰りにシーヴ達も寄って、ケーキを食べて話をしていた。
「主様。何故私を選んで下さいますの? ウーフー様もおられますのに」
足が遅い事に引け目を感じているらしいコウ。
「最初は価格落ちに対する意地でありやがったんですがね」
シーヴは苦笑を浮かべる。
「でも、ずっと一緒に戦っているうちに、相棒はコウしかいねぇと思うようになったです」
「‥‥でも電子戦機と忘れられそうなスペックは複雑ですわ。手をかけて下さるのは嬉しいですけれど」
少しだけ困った様にコウは微笑む。
別のテーブルでは、さやかとアールマティも今までの戦いを思い返して、話を弾ませていた。飲んでいたカップを置き、さやかはアールマティに微笑みかける。
「これからもよろしくお願い致しますね」
「はい、さやか様」
お茶会の隅で、ソウマが
「これからもよろしく。僕の黒猫、ウィズ」
ソウマが天使の様な微笑みを膝の上で眠る子猫に向けた。
皆が楽しそうにする中で、ヘラルディアはカップに紅茶を注ぎ、篭手に覆われた右手で器用にカップを差し出す。
「悠季様、今年は最前線に行かないのですから、尚の事、健康に気を配って年末に向けて大事にしてくださいね」
はにかむように悠季に微笑んだ。
●各自宅〜その2
シーヴはコウと一緒に食事の用意をする。
そのうちに、夫の声が玄関の方から聞こえた。
コウの事を紹介しようとシーヴは玄関へ向かう。
榊道場に訪れた忠勝は、無言だが、訝しがる事も無く兵衛に迎え入れられた。
和室に通され暫く待つ。窓の外で駒鳥が囀っていた。兵衛が戻り、忠勝の前に置いたのは、簡素だが如何にも日本酒に合いそうな肴とぐい飲み。
「まあ、呑め」
まるで十年来の友が訪れてきたかのように兵衛は酒を勧める。
何を語ることもなく、兵衛と忠勝は差しつ差されつ杯を交わし合う。
――やがて、兵衛が心底嬉しそうに口を開く。
「‥‥まさか、忠勝、おぬしとこうして杯を交わす日が来ようとは思わなかったな」
兵衛の言葉に忠勝は驚く。忠勝は名乗っていない。
だが、兵衛は何が可笑しな事か、と応えた。
「最高の戦友であり、莫逆の友であるおぬしを見損なう事などあろうはずもない。例え、多少姿が変わろうとも、俺にとってはそなたは掛け替えのない友であるのだからな」
忠勝は‥‥不覚にも目頭が熱くなるのを覚えた。
「我、最高の主君を得たり」
忠勝が杯を呷る。そして、改めて主たる兵衛の最高の槍であり、最高の甲冑であろうと決意を新たにした。
自らがセージの愛機である事を証明するため、リゲルはセージと勝負をしていた。
流れる様な二つの剣が重なり、舞踏を舞う様に剣戟は途切れない。
セージが、柔らかに、静かに、軽やかに。それでいて強さを秘めた動きで動けば、リゲルは厳かにつややかに対応し――反対に、リゲルが群青のポニーテールを揺らし、密やかにあでやかに動けば、セージは重厚に、荒々しく、それでいてしなやかに対応する。
激しい舞の中、セージが袈裟懸けに切りかかるが、胸が無いため当たらずに避けられる。
生まれた隙をついてリゲルがセージに刀を突き付け、
「大きければ当たってた‥‥だが、何だこの敗北感は」
リゲルの繊細なハートにヒビが入る音と共に勝負は決した。
その後、セージとリゲルは酒を飲み交わす事にしたが、一杯目も飲み干さないうちにリゲルは酔って暴れて、二杯目を飲む頃には潰れて寝てしまった。
「こいつに酒は飲ませたら駄目だな‥‥」
洗い物をを終えて、フランが戻る。
「お風呂洗ったら、一緒に入りましょう」
「洗わなくても、近くに銭湯があるだろう」
「銭湯は日本猿に占領されて使えないそうですよ」
洗剤やたわしを用意しながら言う。
「それに、銭湯は一緒に入れませんし。家族ならお風呂に一緒に入るものでしょう?」
「家族か‥‥俺にはそんな記憶も無いからな‥‥」
グリフィスはぼんやりと答えた。
「私だって普段はしゃべれないけれど家族みたいなものですよ」
苦笑するようにフランは笑いかけた。
「主殿に一言申したい! やられそうになるからと、ボカボカコンソールを叩くのは如何なものかと!」
リックと共に飲んでいた『相棒』が目を据わらせて主張した。
「いや、まあ。そういうなよ相棒」
「あと、なんで私に愛称がないのですか?!」
「相棒は、相棒だからさ。あと、お前さんには『グローム』って立派な名前があるんだ。それで良いだろ?」
「いえ、それは名字みたいなものであってですね――!」
からかう様な口調でリックが言えば、真面目に『相棒』は反論する。
リックは――現状、少なくとも相棒には満足している。
荒い使い方もするが、それに答える強さを持っている。
だから、リックは最後に一言だけ真面目に言った。
「これからもよろしく頼む」
別れの時になり、ベーオウルフがミカガミをドアまで見送る。
「今日は話せて良かった」
ミカガミの顔を――昔失くした大切な人に似たその顔を――見つめ、抱きしめた。
「ありがとう」
「そろそろ‥‥時間か」
「はい。藻館様」
「黙れ、泣かすぞ」
そして、続くリヴァルの声が少しだけ湿っぽくなった。
「‥‥お前には、いつも苦労をかける」
「何で夢の時だけ強気なんですか。まぁ、その話は全てが終わったらお伺いします」
「‥‥わかった。もう少しだけ、無理につきあってもらう」
「はい」
きりっとした顔で電影は答えた。
「では、失礼します。あぁ、これはお土産です」
不意を突いて、電影がリヴァルの唇を奪う。
「‥‥!」
リヴァルが何か言おうとした時には、電影は姿を消していた。
「ま、まったく。どうしようもない奴だ」
●夢の終わり
夕暮れ。虎白は疲れて百白の背で眠ってしまっていた。
「Zzz」
「まったく‥‥」
虎白が少しずり落ちそうになり、百白は背負い直す。
「‥‥思ったより‥‥軽いな‥‥」
家路に向かう百白と、反対方向へ歩くルキアがすれ違う。
ルキアはイクシオンと共に歩いていた。
「もー、きみも、気にしなーい。じゃ、行こうか」
弱音は吐かない、信用や信頼は言葉にしない。
私はパイロットだから、イクシオンより強くなきゃいけない。
「って、何処へ? ミステリーツアー?」
「セカイを見に行くんだ。そー言えばきみに似てた傭兵の知人、帰って来なかったな」
それは裏切り、理由はシラナイ、死んだとしても。
だから、仲間なんて思ってあげない。
「――あの時の戦術はイマイチだったかな」
悠はディーと話ながらフラフラと歩き続けていた。
「エース機と最後相打ちとかないですよ。おかげで私大破ですよ大破」
広場から見上げる空は、星座が綺麗に見えた。
「‥‥と、マスターそろそろお別れの時間です」
「ん、じゃあな」
「次はあの青いの仕留めますよ。――ハルカ」
「ああ」
悠達が通り過ぎた後、夜の広場は静かだった。
そこに朔夜とアストは戻ってきた。
「マスター、しゃがんで貰っても良いですか?」
「‥‥こうか?」
朔夜がしゃがみ、アストは近づく。金の瞳が間近に近づき、次の瞬間には、頬に柔らかな唇の当たる感触を受けた。
一瞬の感触。
「おやすみなさい、マスター。今度は戦場で私を呼んでくださいね?」
――私は貴方の剣なのですから。
アストは微笑んで駆け去っていく。
「‥‥君も良い夢を。おやすみ、アスト」
全てが終わった後の屋上で、UNKNOWNは煙草を吸いながらLHを見下ろしていた。
その横にけーいちさんが並び、共に夜景を眺める。夢の終わりは、近づいていた。
UNKNOWNがけーいちさんに優しく微笑む。
「これからも頼む、よ」
彼女の唇に自らの唇を重ねた。光の溢れる夜景を背に、暫しの時間が流れ――やがて、二つの影は離れる。
「またいつか逢おう」
――おやすみ。
●夢現
「ねぇ」
「なぁーに、蛍」
「お母さんなんでしょ‥‥、違うの」
雪姫のセーターの袖をぎゅっと握る。雪姫は蛍の髪を優しく撫でた。
「正確にはちがうの‥‥、記憶と思いを読み取って動いただけ」
雪姫の優しい手。けれど、それは――
「もう止めなさい自分を責めるの、彼氏居るのだから」
道の先、金の髪に赤い目の男の子が蛍を待っている。
雪姫が蛍の背中を押し、送り出した。
「あっ、ありがとう」
一度振り返り、お礼を言う。
――蛍は目が覚めた。
「まったく、ふざけた夢だ」
寝ぼけ眼を覚ましつつ、リヴァルが夢を反芻していた。
初夢の翌日、グリフィスが格納庫でフランベルムを見上げる。
「家族か‥‥よしっ! 今年からもよろしくな‥‥フラン」
同格納庫内、フェリアは狼嵐を洗浄していた。
「これからも、世界を護ろうなのです、狼嵐!」
狼嵐の貌から流れる水は、きっと嬉し涙‥‥のハズ。
――そして、
「おい、俺の出番‥‥?」
夢から目覚めた武流が呟いた。