タイトル:遠い戦場マスター:草根胡丹

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/03/08 02:49

●オープニング本文


 危機はいつ迫るか分からない。
 それは真理であり、必然でもある。

 開発テスト。それは幾つものテストにおいて失敗を積み重ねて完成するものである。
 どんなものであれ、失敗はつきもの。トライアンドエラーの精神はどれほど技術が進歩しようとも変わらない。
「見ての通り、現在追加ブースターのテスト飛行中に無数のキメラに襲われてるわけだが‥‥」
 ブースターのテストのために用意されたモニターにはその様子がリアルタイムで送られてきていた。
 隣のサブモニターに表示されているデータを見る限りでは敵の攻撃力は大したことはない。反撃で何匹かキメラを撃墜しているところを見るに防御の方も大したことはないのだろう。
 だが、ブースター自体の過負荷による損傷レベルが思いのほか高く、テストに使用した機体の性能はほぼ半減。武器弾薬の類もブースターに余計な荷重を与えないように最低限しか装備されていない。通常であればともかく、この状態で単機で応戦するには敵の数も多かった。
 通常の加速では撃墜される前に救援はできないだろう。確実に間に合わせるには予備のブースターを取り付けて支援に向かう必要があるが‥‥それだと先行した機体と同じ運命を辿るだけだ。何機かをブースターで送り込んで時間を稼ぎ、その上で通常加速で支援に向かう必要があった。
「‥‥というわけで救助に向かって欲しい」
 別に顔を隠す理由もないのに覆面状態の博士はそう言って頭を下げた。

●参加者一覧

終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA
鳳 勇(gc4096
24歳・♂・GD
BEATRICE(gc6758
28歳・♀・ER

●リプレイ本文

●被検体観察中
「ふふふ、まさかあのけーいちさんを追い詰めるモノがあるとは思いませんでしたわ♪」
 ミリハナク(gc4008)はモニターに映る珍しいものを見て楽しんでいた。
「うむ。半壊らしいからね」
 答えるUNKNOWN(ga4276)の声はいつもと変わらないが、モニターに表示された機体の状態はあちこちが破損している。
「UNKNOWNさんのあの機体がテスト機‥‥」
 どこか不安そうにBEATRICE(gc6758)はその表示を見つめていた。半壊状態といっても差し支えの無い機体の状態は始めてみるといってもいいかもしれない。
「大丈夫かね?」
「心配無いだろ‥‥」
 博士の問いに終夜・無月(ga3084)は答える。
 UNKNOWNが先ほどからほとんど喋っていないのは余裕が無いのか、それともその必要性が無いのかは見ている側にはわからないが‥‥。
「半壊しようが問題なさそうに思えますが‥‥」
 BEATRICEは正直な感想を漏らした。現在も煙を上げているのは機体ではなく取り付けられたブースター。実際、敵機からの攻撃は装甲の表面を撫でるばかりで、ダメージらしいものはほとんど与えられていないように見える。心配する必要も問題もないというのはモニターの前にいる大半の者の共通意見だった。
「追加ブースターか。使用した反動で機体性能が落ちるのでは、問題点は山積みだな」
 鳳 勇(gc4096)が言った直後、また爆発が起きる。敵機の攻撃により被弾したブースターの一部が爆発したらしく、その余波でまた機体のダメージが増した。
「‥‥普通のKVで役に立つデータが取れるのでしょうか‥‥」
 接近していた敵が落ちる中、平然と飛び続ける機体を前に、BEATRICEは不安に感じていたことを口に出す。アレを基準に使用できる装備を作っても大半のKVでは役に立たない可能性が高い。
「どうかしら、あのブースターを武器として転用しません?」
 そう告げたミリハナクとそれを聞いている博士の目は笑っていなかった。


●被検体第二弾
「‥‥ミサイル搭載しないのは初めてかもしれませんね‥‥」
 ある意味ミサイル以上に危険なブースターを取り付け、BEATRICEはどこか物足りなさと不安を抱きながら愛機を見上げる。
「今から向かいますが、そっちはどんな感じかしら?」
「‥‥うん。まあ、問題にならないだろう」
 ミリハナクにUNKNOWNはそう返す。実際、被弾した箇所が増えてはいるものの、致命傷になるような攻撃は受けていない。むしろ被弾していない部分‥‥ブースターを取り付けた部分の装甲があちこち溶けていた。
「やはり十全ではない以上‥‥何が起きるか分かりませんからね‥‥」
「頑張る。以上」
 BEATRICEにUNKNOWNはそれだけ告げると通信を切った。
 どうやらブースターがオーバーヒート状態に陥って、機体に損傷を与え続けているらしい。
「‥‥というわけで救助に向かって欲しい」
 このままブースターの被弾が増えれば機体はともかくブースター内の各種制御チップに蓄積されたデータも無駄になる。元々の設計理念が目的地まで全自動で到着するための補助ブースターとして作られているため、機体からの操作を受け付けないように設計されていたらしい。UNKNOWNが敵キメラの群れに突っ込んでしまったのも目的地に到着するまで機体からの制御を受け付けなかったからに他ならない。
 救援に向かうBEATRICEと鳳 勇の機体に取り付けられた予備のブースターにはそうした制御機能はないため、コックピットから操作する形になる。その分、最低限の出力調整も出来るので暴走して制御不能に陥る心配は無いのだが‥‥。
「思った以上にGが掛かる。テスト機のアンノウン氏なら、心配は要らないと思うし、少しでも良い状態で追いつきたいな」
 鳳 勇は出来る限り出力を絞って機体への負担を軽減しようと心がけるが、バランス調整のテストを行っていなかったらしく、バランスを維持するために、今度は機体ではなく自身の精神が疲弊していく。
 そして、目的地に着く直前にやっぱりブースター自体が爆発していた。

●空中鬼ごっこ
「映像で見たとおりの、大した戦力ではないようだが、テスト時に遭遇するというのはナンセンスだな」
 戦場に到着した鳳 勇はバルカンで道を切り開きながら、重機関砲とチェーンガンで弾幕を張り、敵集団との間合いを詰めた。
 そのまま正面の敵キメラを蹴散らすが、後方に数体敵キメラが張り付く。
「撃破を頼む」
「‥‥機銃は苦手なのですが‥‥」
 鳳 勇からの通信を受け、BEATRICEは目の前に飛び込んでくる敵キメラに照準を合わせ、トリガーを引いた。
 鳳 勇が敵陣に切り込み、BEATRICEとUNKNOWNがその後方に張り付いた敵機を撃墜する。
 後続のために交戦位置情報の伝達を優先するBEATRICEは弱った敵を主に仕留めていたが、敵キメラも危険な二機の相手よりもこちらの方がマシだと判断したのか、集団でそちらに向かっていった。
 だが、それに戦闘空域全体の情報収集を行っていたBEATRICEが気付いていないはずもない。
「追い込まれているのだよ、お前達は」
 鳳 勇はそう告げると向かってくる敵集団を正面に捉え‥‥。
「まとめて、吹き飛べ!」
 高出力レーザー「種子島」の一閃が群がっていた敵キメラの集団を一瞬で蒸発させた。
 そして、それとほぼ同時に三機の取り付けていたブースターが火を噴いた。

●被検体を追いかけて
 終夜・無月とミリハナクはブーストを行い、目標へと向かう。戦闘時に使用できるだけの余力は残しつつも、可能な限り早急に救援に向かった。もちろん取り付けているのは危険物のブースターなどではない。
 最上 憐 (gb0002)は機体操作の勘を取り戻すため、最後尾で追従する。前方の二機に乱された気流の影響で機体がぶれるが、その悪影響は勘を取り戻すのにはちょうどいい。案内は他に任せて追従すればいいだけということもあって、目的の地点についた頃には機体操作に関しては問題ないレベルまで勘を取り戻していた。
 転送されてきた交戦位置情報を受け取り、戦場へ到着した三機は目の前で爆発するブースターを目の当たりにする。そのまま飛行を継続しているところからすると、致命傷には至っていないようだ。
「‥‥ん。到着。中心は。‥‥あっちだ。急行する。突撃する」
 再度加速し、最上 憐は敵キメラの集まる中心へと向かった。それは同時に三機のブースターが煙を上げている方角でもある。
「ダンディなブースト体験はいかがでした?」
「‥‥ん。救援に。来たよ。調子は。どう?」
「まあ半壊、だね」
「む‥‥いつの間にやら損傷が増えていますね‥‥」
「見ている方は面白かったですわよ」
 ミリハナクや最上 憐の問いかけに、UNKNOWNとBEATRICEは機体状況のチェックをしながら答える。その様子を見る限りではまだまだ問題はなさそうだが、残る敵キメラの数も少なくは無い。群がっている集団を何とかしなければ、ブースターの回収も出来ないだろう。
 終夜・無月は粒子加速砲を叩き込み、プラズマとレーザーライフルで三機の退路を確保する。敵キメラの隙間を抜け、離脱した三機を弱った獲物と見て群がるキメラ達。
「‥‥ん。わらわらと。邪魔。強引に。突き進ませて。貰う」
 それを蹴散らすため、最上 憐は敵陣中央へと機首を向けると重機関砲を斉射しながら突撃する。
「‥‥ん。群がって。来る前に。一気に。敵陣に。穿ち入る」
 最上 憐は終夜・無月の援護射撃を受けながら突入し、高出力ブースターの勢いに乗って、キメラ達をソードウィングで切り裂いた。
「テストを否定するつもりはありませんが、速さよりも火力の方がいいですわよ〜♪」
 そう語り、ミリハナクは高分子レーザーを放ちながら突撃する。それと同時にFCSがモニターに映る敵機を片っ端からロックしていた。射程距離に入ると同時に一斉に放たれたホーミングミサイルが目に見える範囲のほぼ全てを爆発で包み込んだ。突撃が線ならこちらは面。更に終夜・無月の遊撃がキメラの群れの統制を失わせていく。
「まあ敵を喰らうのが私の仕事ですわ」
 ミリハナクがそう告げると、ぎゃおちゃんは口をぱっくりと開いて荷電粒子砲を放ち、その怪光線で敵機を飲み込んでいった。
 爆発を抜けてきた個体は荷電粒子砲に飲み込まれ、運よくそれを回避できた敵機も、遊び相手を見つけたぎゃおちゃんにじゃれつかれ、その翼に切り裂かれた。元々駆逐戦を主目的とされているだけあって、ぎゃおちゃんの暴走を止められるものはこの戦場にはいなかった。
「‥‥ん。後は。全部。倒して。帰るだけ。単純明快だね」
 集団を維持している群れは最上 憐に切り裂かれ、逆に散り散りになろうとするものは終夜・無月の正確な攻撃に射抜かれる。そして、中心で暴走するミリハナクのぎゃおちゃんに駆逐され、キメラの群れは瞬く間にその規模を縮小し、壊滅した。

●そして、お菓子パーティ?
「‥‥ん。お腹。空いた。私の。胃にも。救援とか。補給が。必要かも」
「うむ。そうだろうと思って食事を用意しておいた。君達の機体の修復をする間、ゆっくりしていてくれ」
 最上 憐の要請にエプロン姿の博士はフライパンを片手にそう言うと、いそいそと機体の修理へと向かった。並んでいたのがお菓子ばかりだったのはきっと博士の趣味だろう。
 その後、各機体は無事にテスト前の状態に戻され、ブースターは問題点が多いため、実用化の予定は未定とされた。