タイトル:わんわんわんマスター:草根胡丹

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/28 01:50

●オープニング本文


 それは唐突に山村に現れた。
 それは一見するとただの犬‥‥もっとも、頭が三つもある犬が普通であるわけがない。その犬はキメラだった。
 三つ首が吠え、周囲は炎に包まれる。
 灼熱の炎の前に田畑の野菜は燃え、農家の人々は炎を恐れ逃げ惑う。
 たった一匹のキメラにその農村はあっという間に混乱の渦中に放り込まれていた。


「というわけで、農村に出現した三つ首の犬のキメラを退治に向かってください」
 そう告げたオペレーターの言葉に誰かが首を傾げて問い返した。
「三つ首の犬ならケルベロスとかコードネームをつけたほうが良いんじゃないのか?」
 そんな疑問に対してオペレーターは一枚の映像データを突きつける。
 そこには三つ首の犬のキメラの姿が映し出されていた。
「‥‥なるほど」
 それを見ただけで皆が理解をした。ケルベロスなどという名前がいかに相応しくないか、ということに。
 そこに移っていたのは三つ首の‥‥チワワの姿だった。

●参加者一覧

石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
奉丈・遮那(ga0352
29歳・♂・SN
セシリア・D・篠畑(ga0475
20歳・♀・ER
新条 拓那(ga1294
27歳・♂・PN
遠藤鈴樹(ga4987
26歳・♂・BM
フィルト=リンク(gb5706
23歳・♀・HD

●リプレイ本文

●愛くるしくて気持ち悪い?
「チワワのケルベロス‥‥?」
 のどかな田園風景の中、フィルト=リンク(gb5706)は標的のキメラのことを考えながら首を傾げる。口に出してみても余計に愛くるしいチワワと凶暴なキメラの姿が重ならない。
「チワワのケルベロス‥‥チワベロスね」
 新条 拓那(ga1294)はキャンキャン泣き喚くチワワを三匹思い描いて、それをそのまま重ねた。どう考えてもその姿は愛くるしい。
「キメラ退治、ですね‥‥ふふ‥‥チワベロスなんて、何だか可愛らしい呼び名です」
 動物を可愛がることが好きな石動 小夜子(ga0121)はそう言って笑みを溢した。例え危険なキメラであっても、その見た目の愛くるしさまでは否定できる物ではない。
「能力者やって長いけど、ある意味一番の強敵だな。攻撃出来ん」
 新条 拓那は思い描いたその姿を前に手を出せないかもしれない自分を自覚していた。
 放っておけば犠牲が増えるとわかっていても、その姿が少しばかり異形であっても、愛玩動物を攻撃するのには抵抗がある。
「ふわもこで三つ首のチワワ‥‥キモカワの部類に入るのかしら」
 遠藤鈴樹(ga4987)はチワワの姿を思い描きながら、それをどう分類すべきか思案していた。
「ポイントはつぶらな瞳かどうか? それだと数メートルでも可愛‥‥微妙よねぇ」
 本物のチワワであればその黒豆のように小さくつぶらな瞳はそれだけで可愛いものだが、それが数メートルの大きさで、自分を見下ろすように見つめてきた場合を考えるとやはり素直に可愛いと思える自信はない。
「別段可愛いから抵抗って私はないけど、抵抗ある人がいるのは理解できるし、敵を知る意味で捕獲はマイナスにはなんないわよね」
 演歌歌手として売れない自分は女装が、チワワとして素直に可愛がられないキメラはその異形が枷となっている。そう考えると可愛いのか気持ち悪いのかよく分からない今回の相手はある意味では自分に似ているようにも感じていた。
「うーん、可愛いのか恐ろしいのか、よくわからないキメラですね‥‥」
 フィルト=リンクも結局のところ、見た目だけではどちらなのか決め兼ねたようだ。
「‥‥個人的には、別にチワワ姿だから如何、とも、思わないのですが‥‥」
 セシリア・ディールス(ga0475)にとって、どんな外見でもキメラはキメラ、と言うことなのだろう。
「本当に、誰が作っているのでしょう‥‥」
 フィルト=リンクは呆れ半分にそう言って、溜息を漏らした。
 実際、どんな姿であろうと害をなすキメラである以上は何らかの処置は必要なのだ。
「守るべきもの、畑や皆の生活のことを忘れなければ大丈夫。いっちょがんばってみましょーか」
 少し離れた場所に火の手を見つけた遠藤鈴樹達はそちらに向かって駆け出した。

●キモカワキメラのチワベロス
「敵も1匹、同行する人たちもベテランが多いですし、誘導がちゃんと出来れば難しくないと思うので火災対策を考えます」
 火の手を確認した奉丈・遮那(ga0352)は田畑の被害を抑えるべく、動き出した。
 チワベロスを倒すか捕まえるかをしなければいけないのは確かだが、貴重な食料を‥‥田畑を犠牲にして退治できても本末転倒というものだ。
 奉丈・遮那は被害を最低限に抑えるために、消火活動を始める。
「拓那さんとは久しぶりに一緒のお仕事です‥‥頑張りましょうね」
 石動 小夜子達は消火活動を奉丈・遮那に任せ、チワベロスを追い込むべく、行動を開始した。
「‥‥先ずは火災被害防止の為、燃える物が少なく、広い場所に誘導を‥‥」
「上手く掛かると良いのですが‥‥」
 チワベロスを誘導しなければ、田畑の被害が戦闘で不必要に広がってしまう。
 セシリア・ディールスの助言を受け、石動 小夜子とフィルト=リンクは風向きと考えた上で、火の気の変化を見切り、チワベロスの移動先を予測して肉やドッグフードを仕掛けた。
「餌を食べたら大人しくなるようでしたら良いのですけれど」
 石動 小夜子は少しだけそう期待していたが、餌を食べて大人しくなるなら食べ物に火をつけたりはしないだろう。
 セシリア・ディールスは超機械の電波増幅を使用し、電磁波でチワベロスを追い立てるように動き始めていた。
 初夏とはいえ、チワベロスのブレスに対して炎の影響を軽減すべく濡らした衣服が風にさらされれば寒さも感じる。
 先ほどから火の手は何度か上がっているが、チワベロスの姿は見つからない。確実に近付いているようではあるのだが、単に風の流れの影響で火が燃え広がっているだけと言う可能性もないわけではない。
「え? だめですか? でもチワワさんですし、もしくは‥‥」
「無駄吠え防止スプレーは‥‥追いたてに使えたりしないかしら」
 用意した餌に食いついてくれなかったようなので、フィルト=リンクが遠藤鈴樹と相談して作戦を変更しようとしたその時‥‥不意に目の前を炎のブレスが横切る。
 気付けば目の前にチワベロスの姿があった。
 何故接近に気付けなかったのか‥‥その理由は単純。チワベロスが普通のチワワと同じようなサイズだったのだ。
 事前に見た映像データ通りにふわふわもこもこ。だが、その三つ首は明らかにチワベロスが異形の存在であることを示している。
「それにしても、もこもこで可愛らしい外見なのに不気味というか‥‥これをキモ可愛い系、と言うのでしょうか?」
 石動 小夜子はそう言いながらも迅速に隊列を整えていく。
「ある程度弱らせてからの捕縛無力化をまずは試してみる」
「可哀想ですけれど、弱らせなくては捕獲も出来ませんものね」
 遠藤鈴樹の言葉に石動 小夜子は頷き、刀の刃を返す。峰打ちでチワベロスの機動力を殺いでから捕獲するつもりだった。
「‥‥確かにふわもこチワワ‥‥見目‥‥可愛い様な‥‥そうでない様な‥‥」
 実物を前にセシリア・ディールスはそう呟いたが、その表情から感情は読み取れない。
「ナリはあんなんでもやっぱりキメラ。分かっちゃ居るんだけど‥‥くっそ、刃が鈍る!」
 チワベロスを弱らせるために新条 拓那は先ほどから石動 小夜子と連携して何度も攻撃を仕掛けてはいるのだが、その愛くるしい姿に対して躊躇してしまい、有効打を浴びせられない。チワベロスのその小さな身体に翻弄されてしまっているのも原因の一つではある。
 どうやらチワベロスはその小柄な身体と愛くるしいと感じてしまう外見で攻撃を封じるタイプのキメラであるらしい。
「だーもぅ、これ以上俺らをいじめっ子にするな! 犬なら大人しく繋がれてなさいっての!」
 新条 拓那は頑丈に作られた『ツーハンドソード』で攻撃を受け流しながら、剣の側面で叩きつけるように反撃するが、相手が小柄すぎて中々当たらない。
 チワベロスが戦闘領域から逃げないように遠藤鈴樹は小銃で威嚇射撃を行う。
 延々と互いの攻撃を避ける攻防が続いていたが、不意にそれは終わりを告げる。
 最低限の消火活動を終えた奉丈・遮那が死角から放った援護射撃がチワベロスの動きを制限したのだ。
「‥‥捕獲を‥‥ある程度無力化したと言えど、動向には要注意‥‥」
 セシリア・ディールスの指示で今度はチワベロスを捕獲すべく行動を開始する。
 三つ首の一つに新条 拓那がワイヤをかけ、封じた。
 だが、残った二つの首が顎を開き、火を噴いて抵抗しようとする。
 石動 小夜子はチワベロスの頭の一つの顎を打ち上げてそれを防ぎ、チワベロスの動きに警戒していたフィルト=リンクが銀色のショートソードを脳天から叩きつけ、ブレス攻撃を防止した。
 なおも抵抗するチワベロスの頭全てを封じてからキメラ用のケージに押し込める。
「ふわもこでキャンキャン吠えるとこまでならスピッツも捨てがたい」
「大人しくなったらもこもこで可愛いですし、良い番犬になりそうですね‥‥」
 ケージの中で短い足で必死に抵抗を続けるチワベロスを見つめて、奉丈・遮那と石動 小夜子は微笑んだ。
「どっかのCMのように目に涙浮かべられたら撃てなかったかもしれません」
 普通のチワワのようにケージの中で足掻くチワベロスをみて、奉丈・遮那は正直な気持ちを述べた。もしもチワベロスがそのような行動に出ていたら今こうして捕まえることは出来なかったかもしれない。
「UPCとか未来科学研とか、ひきとってくれるわよね?」
 まるで子犬を里子に出すような気持ちで遠藤鈴樹はチワベロスを見つめた。なんだかんだと苦労して捕まえただけに愛着に似た気持ちが生まれたのかもしれない。
「普通にペットとして飼われてるような動物は好きですが、さすがに火を吹く犬は飼えませんからね」
 ケージ内のチワベロスを見つめる一同を見て、奉丈・遮那は苦笑した。
 一行は山村の人達から焼けた畑から取れた無事だった野菜で料理を振舞ってもらってから帰還した。