タイトル:Early Summerマスター:黒崎ソウ

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/06/07 14:51

●オープニング本文


 夏の気配を漂わせた爽やかな大気が、上空を覆うスカイブルーの空の中に溶け込んでいた。開け放った窓から手を伸ばし、その風を掌に受け止める事が出来ればどれだけ心地良いだろうかと、緊張した体と心に誘惑が囁きかける。ナビゲーションのカウンターは基地までの移動距離を三百キロと表示している。順調にいけば夜明け頃には重い装備から開放され、熱いシャワーを浴びる事が出来るだろう。大きな騒動が起こる事なく巡回任務を終える事が出来る状況に、車内には安堵の空気が満ちていた。

 突然、ナビゲーションの画面がズームアップされ、現在地から三キロ程離れた場所から救難信号が発信されている事が表示された。アクセルを踏み込み現場へと急行すると、そこにはタイヤがパンクし、食料物資の一部が地面へと散乱した軍用のトラックが停車していた。その周囲を取り囲むように体長二十センチ程の昆虫型のキメラが耳障りな鳴き声を発している。武器を持ち、ジープを飛び出すと同時に散開し狙いを定めるが、気配に気付いたキメラ達は逃げるように地中へと穴を掘り姿を隠してしまう。呆気にとられたメンバーの意識を引き戻したのは、トラックから聞こえた歯切れの良い男の声だった
「ありがとうございます、おかげで助かりました」
 その声に続くように、トラックの中から恐る恐る人が顔を覗かせると、安堵の表情を浮かべ荷台から降りて来る。その数は十名程で、衣服に付けられた腕章から、キャンプ地間を移動している難民である事が解った。
「ありがとう! あのこわいのやっつけてくれたの?!」
「皆様のおかげです。本当に、本当にありがとうございます」
「本当に助かりました。私達だけではどうする事も出来ませんでしたから‥‥」
 口々に述べられる感謝の言葉に驚くメンバーに、先程声を発した一般兵が散乱した食料を拾い上げながら近付くと説明をはじめる。心地の良い風が強く吹いた。

「私共は現在、新しいキャンプ地へ難民の方々を送り届ける任務に就いております。無線の故障からこの場所で停車をし修理を行っていたのですが、どうやら食料の匂いをキメラ達が嗅ぎつけ、それを奪おうとしてタイヤがパンクさせられてしまいました。最初は食料を投げて追い払おうとしたんですが、それも逆効果になってしまい‥‥」
 「ご覧の有様です」と、苦笑いを浮かべながら後ろを向くと難民達の口から口々に「だから言ったじゃないー」と、茶化すような声が上がる。その和やかな雰囲気に思わず笑みを浮かべた時、一般兵の口から申し訳なさそうな声と共に頼み事が告げられた。
「厚かましい申し出である事は重々承知しております。もし、皆様の任務に支障がなければ、キャンプ地に到着するまで私共を守って頂けないでしょうか? お恥ずかしい話ですが、ここにいる者達は皆実戦経験も浅く、皆様を守りながらの戦闘というものに慣れておりません。この先、アクシデントに見舞われないという可能性もないとは言い切れないので‥‥」
 「お願い致します」と頭を下げる一般兵に、メンバーは顔を見合わせて頷く。その様子に、遠巻きから眺めていた難民達から喜びの声が上がった。

●参加者一覧

新条 拓那(ga1294
27歳・♂・PN
如月・由梨(ga1805
21歳・♀・AA
エマ・フリーデン(ga3078
23歳・♀・ER
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
植松・カルマ(ga8288
19歳・♂・AA
天戸 るみ(gb2004
21歳・♀・ER
杜若 トガ(gc4987
21歳・♂・HD
恋・サンダーソン(gc7095
14歳・♀・DF

●リプレイ本文

●1日目・14:12
 怯えた表情を浮かべ一般兵の後ろに隠れた五歳の男の子に、新条 拓那(ga1294)、朧 幸乃(ga3078)、天戸 るみ(gb2004)が驚いて顔を見合わせると、その視線を植松・カルマ(ga8288)と杜若 トガ(gc4987)の二人へ向けた。「何っスか?」と訝しげに言う植松と呆れてその場を離れる杜若に対し「二人ともきょーあくなツラしてっかんなー」と恋・サンダーソン(gc7095)がさらりと言う。ショックを受けた植松の声を背に、アルヴァイム(ga5051)が一般兵から巡回を口実に周辺地図を受け取っていた。
「まずは難民全員の健康状態を把握すると共に、食料品に厳重な梱包を施し分散して積み込みを行う。移動は朧のSE−445Rを先行に、前のジープの運転を杜若。私がジーザリオでトラックを追走する」
 把握した地図を杜若に手渡す。興味がない素振りで受け取ると、軽く流し読み突っ返した。
「まっ、ついでみたいなもんだろぉ。ちゃっちゃと終わらせようぜ」
 東から吹く優しい風が深緑の草花を優しく揺らす。雲の切れ間から覗く初夏の日差しが、彼らの足元に短い影を作り出した。

●1日目・14:48
「日の入りは十九時との予測が出ていますが、体調を考慮して十七時より野営の準備を行う事になりました。休憩は三十分から一時間程度のものを複数回。木陰や水辺を見つけた場合は前倒しで行うとの事です」
「了解。‥‥無線の不通やキメラを発見した際は、アルヴァイムさんへ情報伝達を行います」
 先行する軍用ジープに同乗した天戸が杜若から借りた無線機を使い、並走する朧へスケジュールの確認を行った。言葉こそ交わさないものの、杜若の運転は口調に反してとても静かで丁寧なものだった。
(自身には関係がないのに、戦争のせいで故郷を去らざるをえない現実、か‥‥。いつだって、どこでだって同じ。‥‥皺寄せは弱い者に向かって行く)
 穏やかに起伏する道の先を見つめながら、朧の心の中にはやりきれない思いが泥の様に広がっていた。ずきり、とこめかみの傷跡が疼いた様な錯覚を感じ、朧は細く息を吐き出した。

「青い空、白い雲、爽やかな風! これだけ揃ってると、羽根でも生やして飛んで行きたくなるよ」
「飛びたい! 気持ちよさそう!」
 新条と一緒にトラックの小窓から空を見上げる十歳の少女は、お腹を大きくした母親の隣に寄り添っていた。「こんな良いものを貸して頂いてすみません」と、新条が貸したクッションの礼を母親が言う。
「気にしないで下さい。体を労わるのがお母さんの仕事ですから」
 新条の言葉を受け「早く生まれて来ないかなぁ」と二つ上の姉が大きなお腹を優しく撫でる。二人の娘と女性の間に血の繋がりは無かったが、新しく生まれて来る家族に向けた笑顔はとても優しく愛らしいものだった。

「よーし! 皆、良いモノあげるっスよー!」
 すっかり子供達の人気者になった植松が面白可笑しく脚色をした『植松カルマ最強伝説』を語った所で、任務の間に飲もうと思い持ち込んだ私物からミックスジュースを取り出し子供達に振舞った。久しぶりに飲む甘いジュースに喜んだ子供達が「カルマにーちゃんありがとう!」と口々にお礼を言う。「こんなに良くして頂いてすみません」と頭を下げる大人達や一般兵に向けて「やっぱ、笑ってる子供を見てると最高に幸せな気持ちになるっスよね」と笑った。

「ふーん、あいつも良いトコあんじゃん」
 トラックの幌の上に胡坐をかいて座っていた恋は、強く気持ちの良い向かい風を全身に受けながら、足の下から聞こえるはしゃいだ声に少しだけ見直したという様に言葉を呟いた。見渡す限りのパノラマにキメラの姿が無い事を確かめると、恋は太陽が輝くスカイブルーの空を仰ぐ。あそこまで腰が低い兵士を見たのは初めてだと、恋は心の中で呟いた。

「人は、他人という存在を己の中にある虚像を介する事でしか認識する事が出来ない。‥‥恐らくそれは、バグアでも同じだろうがな」
 アルヴァイムは地図に移動ルートを書き込み、一般兵から借りた時計を確認して時速と走行距離を算出した。出発前に立てた走行予定よりも早く進んでいる事を確かめると、休憩を長めに取る事も可能である事を杜若と一般兵の無線に入れた。
(故障した無線機の修理が終わり次第、最も近い軍の駐留地点に通信を入れ、現状を報告する。可能であれば、記録されている持病や症状について尋ねておくか。充分でない人材と薬の現状で、処置出来る事は制限されてしまうからな‥‥)

●1日目・15:22
「皆さんお疲れ様でした! 今、植松と恋と天戸が水を配ってますんで、まだ貰ってない人は声を掛けて下さい! あと、体調が悪かったり気分が良くない人も無理をしないで!」
「お薬を飲まれている方は忘れずに受け取って下さいねー!」
 難民全員がトラックから降りた事を確認すると、新条と天戸が八十代の男性を介抱しながら呼び掛けをした。
「‥‥兄ちゃんすまんが、体を揉んで貰えんか‥‥?」
 長時間座り続けていたせいか、足と腰の痛みを訴える男性に「じいちゃん頑張ったもんな」と新条が優しく言う。「ここは俺に任せて」と言う新条に「よろしくお願いします」と返した天戸は、水とジュースを手に辺りを見回す。生い茂る木の下で皆の輪から外れる様にして一人で座る十六歳の少女を見つけた天戸は静かに近付いた。

「おなかすいたー」
 植松と一緒に子供達にジュースを配っていた恋の傍で、八歳の男の子が今にも泣き出しそうな顔をした。ここ数週間、満足な食事が取れていないという話を一般兵から聞いていた恋は「お菓子やるから、んな顔すんな。ただし、みんなが来てからな?」と言った。集まった子供達にポケットから取り出した塩味とココア味のクッキーを全員に行き渡る様に配っていく。あっという間にクッキーを平らげ「クッキーおいしかった! ありがとう!」と言う子供達に視線を逸らした恋は「いーからさっさとあそんで来い!」と言った。

「皆さんに伺った体調、及び持病の一覧です。‥‥お役に立ちますか?」
 朧が差し出したメモに目を通したアルヴァイムは「充分」と言って、修理の終わった無線機を手にした。事前に確認していた内容を伝え、到着先の難民キャンプへ婦人科の医師を手配する様に言う。特に妊婦は安定期に入っているとはいえ予断を許さない状況だった為、オペレーターは直ぐに申し出を快諾した。
「今後の工程だ、杜若に渡しておいてくれ」
 アルヴァイムの言葉に朧が辺りを見回すと「どちらにおられますか?」と尋ねる。表情を変えずに溜息を吐き出したアルヴァイムは「あいつの事だ、恐らくジープの中にでもいるだろうな」と言った。

●1日目・17:19
 それから一行は短い休憩を一度取った後、出発時に目的地としていた河川敷へと到着した。全員が手分けをして、キャンプ地を作る為の準備に取り掛かる。日が高いうちから始めた事もあってか、雑談を交わしながらののんびりとした準備は、長い時間、窮屈な生活を強いられていた難民達の良いストレス発散にもなっていた。

「ふぅ、テントはこれで全部かな? 皆さんありがとうございました。後は俺達に任せてゆっくりして下さい」
 新条、植松、杜若、二十代と五十代の難民、一般兵の八人が物資と持ち寄ったテントを張り終えたのは、焚き火の火が落ち着き、食事の準備を始めようと皆が動き出した頃の事だった。先に準備から抜けた杜若と一般兵は、支給された携帯食料と恋が持ち込んだビーフシチューを一口だけ譲り受けると、十八時から開始する歩哨へ向かった。

「これで良いですか?」
 テントから少し離れた一角がブルーシートで覆われていた。中から二十代の女性が顔を覗かせると「‥‥ありがとうございます。お手伝いをして頂いて」と朧が礼を言った。休憩中に「トイレが辛い」という呟きを耳にした朧は、仮設トイレを作る事を申し出た。朧の気遣いに女性達は感謝し、男性達は目を丸くして「俺達じゃ気付かなかったな」と口々に言った。
「‥‥外で見張りをしています。ゆっくりなさって下さいね」
 目につきにくい川原の近くに簡単なテントを置いて貰うと、そこを簡易の更衣室にして女子達は服を着替えた。朧は五十代の女性の頼みから髪を櫛でとかすと、食事の時に邪魔にならない様にと持っていたシュシュで細い髪を纏めあげた。可愛くアレンジされた髪に女性は嬉しそうな笑みを浮かべると「良ければ差し上げます」と言って朧も微笑んだ。

「はい、夜ご飯。おなかすいたでしょ?」
 休憩の時に少女と二人で食事をする約束をしていた天戸は、焚き火から少し離れた川原の近くに腰を下ろした。皿に盛り付けられたタンドリーチキンとベジタブルパスタを受け取ると、少女は嬉しそうに「いただきます」と言った。二人の間に静かな時間が流れる。フォークを皿の上に置いた少女はぽつりと呟いた。
「‥‥私のお姉ちゃんの話、聞いてくれる?」

●1日目・21:36
 出発して直ぐは緊張した表情を浮かべていた兵士達だったが、まるで散歩にでも行くかの様な杜若の態度に、いつしかくだらない会話を交わす様にまで打ち解けていた。その全てが他愛も無い内容だったが、緊張の張り詰めた任務についていた彼らにとっては充分過ぎる気分転換になっていた。
「なぁ、酒ぐらい飲めるだろ?」
 早めにキャンプ地へと戻って来た四人は、立ち上る焚き火を前に杜若が持ち込んだウオッカを飲まないかという話をしていた。最初こそ「任務中ですから」と断っていた三人だったが「なんなら、俺が上官にナシつけてやろうかぁ?」と冗談めかした杜若の言葉に「在り難く頂戴します」と申し出を受けた。
「ククッ、良い飲みっぷりじゃねぇかぁ」
 巧そうに酒を煽る三人を眺め、杜若が面白そうに笑った。程好く出来上がった三人を火の前に残し杜若は立ち上がる。
「さて、と。野良犬は散歩にでも出掛けるかねぇ」

●1日目・23:11
「ありがとう。本当に良い香り。今日はゆっくり眠れそう」
 嬉しそうな表情を浮かべた四十代の女性は、朧から借りたハンカチをそっと手の中に包み込んだ。噴き付けた香水の香りが女性の心をリラックスさせる。「良ければ差し上げますよ」と言う朧の言葉に「とんでもない」と女性が返す。
「ハンカチが傍にあると、きっと貴女を思い出して寂しくなってしまうわ」
 女性の言葉に、朧は言葉を失った。

「‥‥お待たせしました。遅くなってすみません」
「構わん。行くぞ」
 朧の会話が終わるの少し離れたジープの傍で待っていたアルヴァイムが、謝罪の言葉に静かに返した。僅かながら穏やかな表情を浮かべる朧に「どうだ、気分は」と尋ねる。掌を握り締めた朧は、少し考えた後に唇を開いた。
「‥‥今日一日で沢山の笑顔を貰いました。私は私に出来る事をしただけなのに」
 朧の言葉に目を細めたアルヴァイムがゆっくりと告げる。
「それで良い。人間は、自分の両手で抱えられるものしか与える事も受け止める事も出来ない。些細なものが重なり合い、それが繋がりとなる。‥‥それが、お前だけの持つ大切な縁だ」
 朧が顔を上げた瞬間、闇の中から爆発音が響いた。

「クカッ、糞虫どもが! 糞らしく酷ぇ不味いテメェらを食ってやんだ。感謝しなぁ!」
 撒き餌代わりにばら撒いたチョコレートに集るアリ型のキメラに向け、杜若はクロッカスを打ち放った。二十センチ程のバグアの胴体が砕け散り、叢の上にバラバラと落下する。衝撃音を聞き駆け付けたアルヴァイムと朧は、それぞれミスティックTとクロッカスを装備していたが、それらが起動をする事は無かった。食い散らかされたチョコレートを拾い上げた杜若が口元に笑みを浮かべて振り返る。
「悪ぃなぁ、お先に殺っちまったぜ」
 その言葉に、アルヴァイムが小さく息を吐き出した。

●2日目・01:43
「ったく、ぶよーじんだよな」
 早めの就寝につき早くに起きた恋は、男性陣のテントに前に手を当てながら呟いた。新条と植松が眠っている寝袋へと近付くと、熟睡している事を確認してそっと馬乗りになる。次の瞬間、篭った様な呻き声を上げる植松と、打撃音に驚いた新条が寝袋のまま一メートル程転がった。

「もー! 起こす時は目覚めのチューって言ったっしょ?」
「うっせーなー。カルマが起きねーからだろー」
 交代の際、キメラが撃退された事を伝えられた四人は、二人ずつに分かれ歩哨を行う事を決めた。ランタンを手に、静かな叢の中を歩いて行く。
「ねーねー、バグアもやっつけちゃったし、何かオテホン見せてよ」
 恋は、好奇心と期待を込めた眼差しを植松へと向けた。まんざらでもないという様子の植松がにやりと笑みを浮かべてイアリスを構える。
「やっぱよ、戦いってのは自分にいかに有利に始めるかって事だと思うんスよ。その為のお膳立てを怠っちゃならねー」
 目を細め、覚醒と共に架空の敵へ向けて流し斬りを放つ。大気がしん、とした瞬間、息を呑んだ恋は「すげぇ‥‥」と呟き、取り繕う様に「サンキュな」と告げる。珍しいものでも見たような顔した植松の尻に恋のローキックが入った。

「ごめんなさい、なんだか私の話ばっかりしちゃって‥‥」
「大丈夫。きっと天戸に聞いて欲しかったんだと思う。その子にとっての大切な思い出だから」
 火が消えない様に薪を放り込みながら、新条は優しい声で告げた。天戸は少女から、三つ上の姉が二ヶ月前の戦闘で死んだ事を告げられた。『生きてたら、お姉さんと同じだったんだ』という言葉に、天戸の心は締め付けられた。
「どんな言葉を掛ければ良かったのか、私は解りませんでした。‥‥でも、どんなに辛くても、未来にある希望を捨てちゃいけない。その為に絶対に、絶対に生きていて欲しい」
 目に涙を浮かべた天戸の掌に、新条が優しく掌を重ねる。
「大切な事だよ。生きる事、生きていて欲しいと思う事。生まれて来る命を守る事、それが何よりも、どんな事よりも大切なんだ」

●2日目・10:57
 昼を前にして難民キャンプへと到着した一行は、手続きを行った後、直ぐに基地へと帰還する準備を行った。「声を掛けて下さると皆も喜びます」という一般兵の言葉に「傭兵の仕事は基地に帰るまでってなぁ」と言って杜若はさっさとジープへ戻ってしまう。新条がポケットからボールペンと紙を取り出しそこに連絡先を書き記すと「何かあったら、ここまで連絡を下さい」と言って笑った。それを受け取った一般兵は「ありがとうございます」と言って六人に向かって敬礼をした。

●五ヵ月後
 五ヵ月後に、本部宛に民間から一通の手紙が届けられる事となる。そこには一枚の便箋と共に、可愛らしい赤ん坊を抱いた女性と二人の娘の姿を写した幸せそうな写真が添えられていた。宛名には、新条、朧、アルヴァイム、天戸、植松、恋、杜若、三人の一般兵の名の他に、父親と思しき者の名前が記されていた。