タイトル:魂の証明マスター:黒崎ソウ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/06/01 01:51

●オープニング本文


 赤外線カメラの映像がノイズと共に大きく乱れた後、アラート音と共に停止した。右下に表示されたデジタル式のカウンターが三カウントを刻んだ後、耳障りな警告音がスピーカーを震わせ、復帰したカメラが細長い通路を映し出す。小刻みな手ブレと共に通路の最奥を捉えると、カメラは異常な速度でヒビの走った床から照明が消えた天井へと遷移し、最後に背後へと続く通路を捉え停止する。その高さと動き方から、カメラは人の手によって操作させられていた事が解った。
 カメラを操作している人物は、後方の通路の奥に何かを見つけたのかピントをズームさせそれを映像に捉え様とした。黒く痩せた四速歩行の物体が床の端で小さく蠢いた。ぼやけたピントが合わさるよりも先に、それは床の上を這いずりなから光の屈折の様に両サイドの壁へと激突を繰り返し、ゆっくりした動きで人物へ近付くと、腕を広げる様にしてブーツの足元に絡み付いた。
 それが、人物の残した最後の記録だった。

「以上が、此方に転送された調査員からの映像です」
 感情の無い無機質な女性オペレーターが報告を続ける。彼女の言葉と同期する様に、モニタには廃墟と化した建物が映し出されていた。
「調査の対象となった施設は、以前、民間の研究施設として登録されていました。感染症等の問題から解体される事が決まり、事前調査の為の調査員が派遣されましたが、四時間前の提示報告を最後に通信が途絶えました」
 「最後の通信が行われた場所は此方です」と、モニタに映し出された建物が骨格だけのモデリングに切り替わり、東側の地下一階と地下二階の中間地点に当たるフロアで赤いポイントが点滅していた。
「先程お見せした映像は、その地点から送られて来たものです。付属の資料から、その研究施設内では極秘裏に捕獲したキメラを使用した生態実験が行われていたとの記録が解りました。一般の研究員はこの件について何も知らされていなかった様です」
 地上階の彩度が落ち、地下階の彩度が明るいグリーンへと変る。そこから地下二階の南東の区画だけが画面の中で切り離され、さらにズームアップされた。
「過去に提出された内部情報と、調査員から送られて来た情報を照合した結果、その区画に異なる情報が記録されている事が解りました。実験は、その区画で行われていたとみて間違いありません。施設が放棄された後もキメラが生存し、調査員が襲われた可能性があります」
 建物の映像が消え、モニタには表情の無い女性オペレーターの顔が映し出される。
「今回の任務は、生存しているキメラの討伐と行方不明になった研究員の救出です。不鮮明な情報が多い為、作戦は困難になると思われますが宜しくお願い致します」

●参加者一覧

伊佐美 希明(ga0214
21歳・♀・JG
鬼道・麗那(gb1939
16歳・♀・HD
メビウス イグゼクス(gb3858
20歳・♂・GD
サンディ(gb4343
18歳・♀・AA
トゥリム(gc6022
13歳・♀・JG
ルミネラ・チャギム(gc7384
18歳・♂・SN

●リプレイ本文

●研究施設から500mの地点
「それじゃ、まず確認をさせて貰って良いかしら?」
 軍用双眼鏡を外した伊佐美 希明(ga0214)は、静かに口を開いた鬼道・麗那(gb1939)へと顔を向けた。メビウス イグゼクス(gb3858)とサンディ(gb4343)が視線を合わせ、装備と携帯品の最終確認を行っていたトゥリム(gc6022)とルミネラ・チャギム(gc7384)が少し遅れて顔を上げる。
 建物の出入り口は正門、ゴミや廃棄物を運び出す為の出入り口は裏手。『書類上では』植物の遺伝子研究を行うとされ、内部には植物プラントらしき設備もあった。感染については新種の植物から排出されたものであるとの報告書が提出されていた。
 本部からの報告に「嘘臭ェ話だな」と伊佐美が呟く。捜査員の報告データを元に、封鎖や閉鎖が確認された区画を潰しながら「これで優先順位を絞る事が出来ますね」と言って鬼道がペンを置いた。
「さて、巧く治まる様頑張りましょうか」
 吐き出したルミネラの言葉から緊張を感じ取った伊佐美は強く肩を叩くと「安心しなって、私らがついてるよ」と言って笑った。「その代わり、私達から絶対にはぐれちゃダメですからね?」と言って場を和ませる鬼道に「肝に銘じておきます」と言ってルミネラが参った様な笑みを浮かべる。メビウスとサンディは、そんな様子を伺いながら顔を見合わせて微笑んだ。
「それじゃ、行くぜ!」
 伊佐美のジーザリオにエンジンが掛けられる。全員がシートへと乗り込む間際、施設へと視線を向けていたトゥリムが静かな声で呟く。その言葉には内に秘められた思いが滲んでいた。
「色々言いたい事はあるけれど‥‥まずは生還をさせてからだね」

●1F研究棟フロア
 内装が剥がれ落ち、照明が砕け、配管が剥き出しになったコンクリートの建物の中を六人は静かに進んで行く。
「どこもかしこも空気が淀んでやがる。‥‥汚れてるってよりは、何か『いやがる』って空気だな。キメラ研究は勝手だが、後始末ぐらいしていけっつー話だよ、全く」
 暗視スコープを装備した伊佐美が先行、続く隊列を鬼道がアスタロトで指揮し、ランタンを手にしたメビウスが広くは無い通路に光を点した。通路内にに目立った異常は無く、扉やダクトにも痕跡らしきものを見つける事は出来なかった。
「キメラについても施設放棄についても、UPC側へ正確な情報は伝えられていなかった様ですからね。表向きは移転による閉鎖。恐らく、表沙汰に出来ないレベルの事を独自にやっていたのでしょう」
 静かに告げるメビウスの言葉にルミネラが眉を寄せる。
「その事実を隠蔽し、職員や出入りの業者に気付かせないなんて可能なんでしょうか?」
 感情を殺した鬼道の言葉が静かに響く。
「どのようであれ、全ては関係者を白日のに晒す事が出来れば解る事でしょう」
 重くなった空気を払拭する様に、サンディが明るい口調で告げた。
「それを食い止める為に私達がいます。まずは人命を最優先に」
 「頑張りましょうね、ルミネラさん」と優しく告げた鬼道に、思わず顔を赤くしたルミネラが「はっ、はい!」と慌てて返事をする。
 静かに様子を伺っていたトゥリムの紫の眼には、微かだが優しげな色が浮かんでいた。

●区画を繋ぐ連絡通路
「この辺りですね。調査員との連絡が途絶え、記録に残されていた場所は」
「成る程ねェ。妙な場所だと思ったら、吹き抜けの連絡通路だったとは」
 ルミネラの言葉に伊佐美が感心した様に呟いた。その場所は区画を繋ぐ為の連絡通路が外周に沿って作られ、中心からは運搬用のクレーンがぶら下がっていた。
「この場所の何処かである事は確かです。急ぎましょう」
 サンディの言葉に全員が頷くと、一斑と二班が左右の通路に分かれた。程なくして、トゥリムから消失地点を発見したとの報告が鬼道のトランシーバーへと入り全員が合流する。「こちらです」と言ってメビウスが促した先には、両側の壁に体液とも血液ともつかないものがべったりと付着し、破壊されたトランシーバーと共に空の薬莢が数発落ちていた。薬莢を拾い上げると「支給されている型のもので間違いありません」とルミネラが言う。足を引き摺った様な痕や血痕が無い事から、調査員は自力でここから移動出来る状態にあった事を確信した。
「左手奥のに南東の区画へと通じるエレベータがあります。ここからは二手に」
 逸る気持ちを抑える様に、鬼道の言葉に全員が静かに頷く。
「ここからは別れるけど、無理はしないでね」
 サンディの言葉に背を向けようとしたメビウスが足を止める。「私は大丈夫、心配しないで」明るく微笑むサンディに微笑み返したメビウスは「ではサンディアナ。また後で‥‥」と告げると、サンディの身に着けている青のリボンにそっと触れた。

●B1Fプラント区画・1
 辺りには、植物が枯れた様な腐った匂いが漂っていた。暗視スコープを装着し、ライオットシールドを装備したトゥリムを先頭に、フリージアを構えたルミネラ、ランタンを消しゼルクに持ち替えたメビウスが最後尾という隊列を組む。四方をガラスのブースに囲まれたそこは、報告書にあった植物プラントの他、培養室や無菌室、観察室等の設備があり、通路の上には細かなガラス片と共に研究資料らしき紙が散乱していた。書類を拾い上げたメビウスが文面に目を通すが、植物の遺伝子組み換えについての結果が記されているばかりでキメラに該当する情報を見つけ出す事は出来なかった。
「‥‥ここも空振りでしょうか?」
 小さな声で呟いたルミネラの視界をトゥリムが腕で遮ると、口元に人差し指を立てて「‥‥静かに」と告げた。慌てて口を噤むルミネラに、声の大きさではないという視線を送ると、二人に気付かせる様に奥の通路を指差す。探査の眼とGooDLuckを発動させたトゥリムの五感は、一区画先の闇の中に潜む何かを確かに捕らえていた。

●B2F管理区画・1
 エレベータ降りた先に続く入り組んだ通路を抜けると、三人は配電室へと到着した。伊佐美は呼吸を整え、意識を隠密潜行へと集中する。センサーの同期を行った鬼道は、移動と離脱の経路を頭の中でシミュレートする。紅炎を構えたサンディは、エレベーターホール上のダクトから付着していた液体痕に「この場所で、間違いはありませんね」と言った。
「暗ェところは得意だが‥‥それは多分、相手も同じ、か」
「この状況下で生命を維持するとなると、嗅覚や聴覚が敏感になっているとみて間違いは無いでしょうね」
 鬼道の言葉に伊佐美が視線を戻すと、三人は手掛かりを探すべく狭い配電室の中へ散開した。
「鬼道さん、伊佐美さん。ここを見て下さい」
 程なくして、赤いランプの下にしゃがみ込んだサンディが二人を呼んだ。そこには連絡通路で見たものに比べ乾いて擦れてはいるものの、エレベーター上のダクトのものと同一の液体痕である事が解った。視線の先へと続く引き摺った痕を追い、三人は非常口と書かれたプレートの付いた扉の前で足を止める。
「扉の通気口が歪んでいますね。恐らく対象は、ここから抜け出した後、ダクトを伝い連絡通路へと出たのでしょう」
「漸くのご対面って訳か。焦らしやがって」
 口角を僅かに上げた伊佐美が、壊れて歪んだドアノブと壁の隙間に苦無を刺し込みドアを開ける。押し寄せる様に吐き出された死臭と糞尿の匂い、そして通路の上に残された白骨化した骨、辛うじて残っていた肉は緑に変色し、その骨格はまるで昆虫を思わせる様な形をしていた。
「なんだ、こりゃ‥‥。バッタ? 違う、犬だ。けど、こんな色の犬なんているのか?」
「‥‥これが、生体実験の結果ですか」
 唖然とした伊佐美とは反対に、感情を殺した鬼道が静かに言葉を吐き出す。三人は、それが生体実験の成れの果てである事を悟った。握り締めた拳を微かに震わせたサンディが「‥‥行きましょう」と静かに告げた。

●B1Fプラント区画・2
「ひぃ、あぁぁぁぁ!!」
 ガラスが砕けるのと同時に飛び出した四匹の犬型キメラが、外れた顎を大きく開けて牙を剥き出した。通路の右側にトゥリム、左側にルミネラを庇うメビウスが分かれて着地をする。受け防御を行うと同時にトゥリムの瞳が赤紫色に輝き、髪と肌から光沢が無くなり灰色へと変化する。皮膚や肉が溶け、骨の一部が露出した犬型のゾンビキメラ二匹の眉間と心臓をクルメタルP−56で打ち貫く。対象が動かなくなると同時に、トゥリムが視線をメビウスへと向けた。
「ルミネラさんは調査員の保護を! こちらでキメラを引き付けます!」
 ガラスを失った窓からルミネラが飛び込むと同時に、メビウスの全身から蒼い甲冑騎士の幻影が放たれて消える。
「戦うしかありませんか。ならばその命、神に返しなさい!」
 微かに蒼く輝いた瞳を開き、蒼雷の闘気に包まれた全身から振り上げたガラティーンで三匹目を両断する。
「誰も傷付けさせません、お前達の相手は‥‥私だ!」
 ルミネラへ向けて反転しようとした四匹目のキメラの胴を、メビウスが切断した。
「‥‥ころさないで、殺さないでくれ!」
 薬品や実験器具が散乱する部屋の奥から響く声の元へルミネラが駆け寄ると「安心して下さい、僕達は貴方を助けに来ました! 直ぐにここからお連れします!」と言ってパニックから平静を失った調査員へ声を掛けた。次の瞬間、調査員の悲鳴と同時にルミネラの直ぐ後ろから耳障りな鳴き声が響き、振り返る格好で構えていたフリージアのトリガーを引く。銃声と同時に胸と頭が砕け散り、五匹目のキメラの死体がその場に崩れ落ちた。
「‥‥上出来だけど、大切なのは急所。忘れないで」
 クルメタルP−56の銃口を向けたトゥリムが静かな声で告げた。

●B2F管理区画・2
「ハッ、逃がしゃしねぇ! この山猫の眼は、一度狙った獲物は確実に仕留めンのよ!」
 天井のダクトから落下するゾンビキメラを、伊佐美がジャッジメントとマモンの二丁から制圧射撃を撒き散らした。その表情の左側は鬼の様な形相へと変貌し、攻撃的な声が唇から発せられ、半身や片目を失ったキメラ達が銃弾の雨に砕け散る。
「悪ぃな! それだけじゃ、おいちゃんはヤれねぇなぁ!」
「ここは奴のテリトリー、無闇に暴れると思う壺!」
 サンディの攻撃進路を確保する為に正面に立った鬼道は、青白いオーラを立ち上らせ妖艶かつ高貴な色を纏い攻撃を繰り出す。
「喰らいなさい! 衝竜波ぁ!」
 竜の角を使い練力が流し込まれた強烈な一撃を、天井から襲い掛かろうとするキメラの群れへと打ち放つ。衝撃と共に砕け散る肉片の雨を掻い潜り、正面から這いずる様に襲い掛かるキメラへとサンディが紅炎を構えた。
「サンちゃん、ヨロシクっ!」
 伊佐美の銃弾が最後のキメラを打ち抜くと同時に、サンディが優雅な動きと共に前方の群れへと突進する。
「ここからは全力でいきます! 還りなさい、貴方達の在るべき場所へ!!」
 練力が上乗せされた迅雷と共にサンディの刀身がキメラ達の群れを両断し、合計で十二匹の屍の山が通路の上に積み上げられた。
「‥‥ここは」
 驚きと共に呟かれたサンディの声を追う様に通路を抜けた二人は、そこに広がっていた光景に目を見開いた。三メートルの高さまで積み上げられた檻の中には、三人が倒したキメラ達が飼われていたのだろう、鎖やエサの容器がそのままの姿で残されていた。中央にはオペ台があり、壁沿いに置かれた端末から無数のコードが繋がれていた。アスタロトを降りた鬼道が端末へと近付き、蓋を開いて中からブラックボックスを取り出す。
「持ち帰り調査を依頼します。何が行われていたのかを知る権利が我々にはありますから」
 感情の揺らぎから微かに震えた鬼道の声に、伊佐美とサンディは言葉を噤む。それまで冷静を保っていた鬼道が言葉と共に素手で壁を殴り付け残響となった。
「生体実験だなんて‥‥命っていうのは!」

●研究施設入り口
「ほら、水ですよ。‥飲めますか?」
 ルミネラの声に答える様に、朦朧とした意識の調査員は水筒から冷たい水を喉へと流し込んだ。その様子に、三人はほっとした様に胸を撫で下ろす。右足大腿部を負傷した調査員を背負い地上へと出た三人は、入り口傍に停車させていたジーザリオの中で男の手当てを行った。圧迫包帯を行ったメビウスは傷みを堪える調査員に「本部に戻るまで、これで我慢して下さいね」と言う。トランシーバーを任されていたトゥリムは、通信がクリアになると同時にそれをメビウスへと渡した。
「こちら二班。調査員を保護し、現在地上で手当てを行っています。意識もハッキリとしています。問題ありません」
 メビウスの報告に、トランシーバーの向こうから安堵の息が漏れた。
「お疲れさん! ソイツ、本当悪運が強ェな! 長生きすんぜ!」
 喜びを滲ませた伊佐美の声に、明るい鬼道の声が重なる。
「基地に戻るまで、私達が貴方を護ります。たーだーし! 私に惚れたら火傷では済みませんよ?」
 トランシーバーから聞こえる二人の声に安堵した調査員は、生きている事を実感する様に両目に涙を浮かべ「‥‥ありがとうございます」と吐き出し「何も知らずに一人で向かうと言った私の無謀さを許して下さい」と呟いた。
「残されていたデータを回収してそちらに戻ります。どうやら、内部の研究者達が独自で行っていた実験の収集がつかなくなり、研究施設を放棄したのが大本の原因だった様です。本部への完了報告も併せて、宜しくお願いします」
「お任せ下さい。それまでお気を付けて」
 サンディの言葉を受け、メビウスの声に安堵の色が滲む。その様子を見ていたルミネラが、トゥリムへ向けて「ありがとうございました」と礼を言う。トゥリムは視線を外したが、細く小さな声で「頑張って」と呟いた。

●1Fエントランス・その後
「搬出用出入り口と一階のフロア、及びダクトを確認しましたが室内に異常はありませんでした。やはり敵は地下でのみ活動をしていたとみて間違いはないでしょうね」
「こちらも二階及び屋上までを確認しましたが異常は見つかりませんでした。平面図との誤差もありません。どうやらこの建物は全てが電子制御されていた様です」
 建物内に進入してから二十分後、一階を探索したメビウス、トゥリム、ルミネラの一斑と、二階を探索した伊佐美、鬼道、サンディの二班が合流し、メビウスの報告を鬼道が受け取った。トゥリムが静かに唇を開く。
「生きている配電盤を見つけた。地上とは繋がっていなかったから、恐らく地下に自家発電施設があったとみて間違いないよ」
「地下で独立していたという事ですか? 稼働率はどの程度でした?」
「5パーセントを切ってた。さっき、地下が非常灯が生きていた程度なのは見た目通りだったと思う」
 ルミネラの問いにトゥリムが答える。「それでは、調査はこれで完了ですね?」とサンディが尋ねると鬼道が頷いた。