●リプレイ本文
○石の細波
「宇宙キター! 初の宇宙なのですよッ! おぉ真っ暗〜星が綺麗〜息‥‥が‥‥できな‥‥」
「‥‥咽せてるだけじゃない?」
はしゃぎすぎて酸欠を起こしたフェリア(
ga9011)に、注視対象が一人増えた気分の御名方 理奈(
gc8915)。
宇宙。上下左右に広がる足掛かりのない空間。
遥か遠くに見下ろす、あるいは見上げる地球。
照らされた世界と暗がりの世界が明確に分け隔てられた宇宙の向こう側に、目標の船が見える。
傭兵達はブーストを吹かして接近。と同時に
「敵機接近。数は4、5‥‥5ね。レーダーに映すわね」
百地・悠季(
ga8270)のピュアホワイトが、その瞳に捉えた物を庇護下に共有する。
やや散開気味に、間隔を保って迫るHW。
遮る気体の無い宇宙空間の筈だが、岩塊の削りカスのような細かな粉塵が光学的な捕捉を遅らせていた。
「前に出てくる奴等は見えた! 後ろの1機は見えないのか?」
迎撃地点で相対速度を整えた村雨 紫狼(
gc7632)のタマモ。
独特な形状のそれは双眸で敵機を捉えていたが、宙間に浮かぶ航跡からは前方の4機しか確認できない。
索敵情報を出力するCPUには、代わりに何か別のAIモジュールが入っていた。
「何だ? 通信か?」
村雨のコクピット内の騒がしさに、思わず聞き返す榊 兵衛(
ga0388)。
‥‥その状況の理解にやや時間はかかったが、ひとまず第一射前にそれが済んだのは幸いといった所か。
HWからの砲撃が届く前に、ミリハナク(
gc4008)の竜牙が輸送艇の上面に接舷、盾を構える。
『此方輸送便N220。傭兵だな、頼むぞ』
同時に、輸送艇のパイロットから通信が入る。
『下部アンカーに繋留した状態であれば多少の補給はできる。ガス欠になるまでお守りを頼むのも気が引けるがな』
「危険な所からは早く遠ざかるのが最優先、ってね」
マリー・ドール(
gc1024)が煙幕銃の着弾地点を探るが、今は高速での移動中。障害物を視認できなくなる危険性もあった。
ブランクになってしまうオープンスペースを埋めるように、煙幕の傘を掛けていくマリー。逃走距離の100%を補えるわけではないが、一時的に砲撃から身を隠すのには役に立つ。
「それじゃ、私はここで」
「任せる。この輸送艇の到着を楽しみにしているもの達が居る以上、無傷で送り届けないといかぬからな」
ミリハナクと漸 王零(
ga2930)は輸送艇に等速で貼り付き、敵の接近に備える。
「ちょっと速いよ!」
ロッド形状からライフルに展開し、照準越しに敵を待っていた御名方。
迎撃班として並ぶフェリアと共に射撃で仕掛けるが、なかなか真芯を食った当たりは出ない。
榊が近距離戦を挑もうとブーストを吹かすが、甲斐もなく散開して被害を散らそうとするHW。
一同がその行動に胡散臭さを感じ始めた時、それまで静観を保っていた5機目の反応が、レーダー上で強まった。
「重力変調‥‥プロトン砲!」
輸送艇のルート上に、真っ直ぐと落ちる砲撃の光。
「狙撃型か!」
初弾は進路上前方に。次いで、二弾目が正確に撃ち下ろされる。
「あら、無傷ですわね?」
輸送艇上面に貼り付いていたミリハナクの竜牙は、その位置から動じていない。
素の状態でも殆どダメージはなかっただろうが、表面被膜が完全にプロトン砲のエネルギーを相殺している。
優れた防御を発揮した場面だが、ここから先、超伝導DCを起動し続けるのでは燃料が続かなかった。
「どなたか、反撃は?」
「遠いな‥‥」
その感想を漏らしたのは、輸送艇至近にいるミリハナクと漸だけではない。前衛で敵に当たっていたフェリア、榊の機体からも、まだその機体は視認できていなかった。
ピュアホワイトの探知範囲ギリギリ外周、およそ20kmの筈。塵の濃さもあるが、発射点が特定できない。
「迷彩持ちかもしれないな。どうする」
「撃ち合えるスナイパータイプも居ないし‥‥!」
マリーの放った煙幕の軌跡を目掛け、プロトン砲の光が走る。
煙幕の中であれば、という撃ち方だった。運良く被弾はしなかったが、煙幕の効果もすぐに途切れてしまう。
『どうするね!』
「潜ってくれ、後から続く!」
ラヴィーナの全弾撃ちきったランチャーを切り離しつつ旋回し、残るHWにアサルトライフルを向ける榊。
狙撃を合図としていたのか、回避戦法から一転しての攻勢に、迎撃班は残余燃料を気にしながら戦い続けた。
全て倒してしまっても‥‥とはいかなかったが、幾らかの時間を稼ぎ、石の海へと戦いが続く。
○鱗の一党
「この質量‥‥鉱石質混じりね」
スナイパーからの攻撃を逃れ、岩石ベルトへと移動した一団。
二度、三度とプロトン砲の着弾光はあったが、いずれも岩塊に阻まれていた。
その衝撃に弾きとばされてきた礫は、KVの装甲をぱらぱらと叩く事はあっても貫くほどではない。
ただ、メトロニウムでない通常金属にとって、鉄鉱成分を持つ岩石との接触は好ましくないのも事実だった。
輸送艇を護りながら、その岩石の破片にKVで触れる漸。
「下手に破片を飛ばすと、KVはともかく輸送艇に被害は出るか」
宇宙に漂っていても、質量の訴えかける重量感は大きい。邪魔になる岩石は前に出て除去していく。
『此方はこのまま目標へのコースを維持する』
移動速度は下がってしまったが、此処まで順調に移動していた分、目的地まではあと少し。
しかし、巡航速度で勝るHWはその差を瞬く間に縮めてくる。
「この石礫の中をスイスイかよっ」
「岩陰から来るわね。レーダーの表示に気を付けて」
ピュアホワイトから共有される6つの影。
それらが最初の機体群と異なる事はその機影の移動速度からも明らかだったが、接近に従い、目に見える姿が白熱した色を帯びているのを見て‥‥正しくそれは火を見るより明らかだった。
「接近戦装備か!」
「彼らの魂の凱旋を阻む者よ。天の牙にてお相手しよう!」
ゥイーヴスのフォウン・バウに搭載されているのに近いプラズマ熱槍装備。ここぞとばかり、水素カートリッジを装填し、正面から刀剣を閃かせるフェリア。
獅子王の一閃と同時に石の海に僅かな裂け目が生じ、その渦中にいた機体が慣性制御機能を失って宙に舞った。
爆発を潜り抜けて後続が迫り、瞬く間に白兵戦が展開される。
岩間とAIの警鐘を駆使し、視界外から迫ったプラズマの直撃を避ける村雨。
「ミーア、ナイスサポート!」
攪乱代わりにと蹴り飛ばした岩塊を難なく溶断する熱量。輸送艇に特攻でもされたら一溜まりもない。
掲げる二刀が限界を迎える前に、炎熱を断つようにして刃を滑らせる。
斬り飛ばされた外殻部。漂流するそれがカメラに映り、ミリハナクの目を引いた。
プラズマ熱槍を備えた機体に、鱗柄のペイント。群れと統率。
その出所は、捜し物の居所と一致するようだった。
「まずいわね。敵2、前方から接近中よ」
一際巨大な岩塊の向こう。岩石ベルト帯から迂回してきたのか、回り込んだ2機のHW。
岩塊を盾に‥‥いや、武器に、輸送艇への衝突を狙ったコースで突進してくる。
「少し削るか」
そう言ってジャイレイトフィアーを掲げる漸だったが。
「燃料、ちょっと貸して!」
燃料供給を受けに護衛の間へと滑り込んだ御名方のフィーニクスが、そのまま輸送艇の下面に貼り付く。
カートリッジは足りていた。後は速度との勝負。
『急減速じゃ間に合わん、どっちに避ける!?』
「真っ直ぐ!」
ピュアホワイトから送られる敵位置を頼りに、フィーニクス・レイを前方の岩塊に向けて突き出す御名方のフィーニクス。
「受けろ不死鳥の羽撃きを! 鳳凰炎翼天舞っ!!」
プロトディメントレーザーが石の壁を撃ち、そこにいた機体ごと吹き抜けていく。
隕鉄混じりの岩石が融解し、赤熱した断面が門のように開けている。
『よし! 殿の傭兵、しっかり付いてこいよ!』
先行するフィーニクスの尾を追うように危機を潜り抜けた輸送艇は速度を増し、追撃を振り切って、ようやく人類側の制宙権へと到着した。
○石のような、味
「大丈夫ですよ百地さん。じゃがいもは、まず芽を取るんですよね」
「えぇ‥‥でも危ないからやめたほうがいいわね」
同居人に教わり、少しばかり包丁の持ち方を憶えた冬子だったが、横で調理している百地とは比べるまでもない。
無事に届けられた輸送コンテナはそのままMSIの所有するステーションに運ばれ、傭兵達は帰還までの間に一度そこで休憩を取ることとなった。
完全に守り通した物なのだから、恩恵に預かるのは当然と言える。
女性陣が調理している間、男達は卓を囲んで機体の話で時間を潰していた。
カレーの香りが濃くなってきた頃には、おおよそヴァダーナフの能力に対する文句も出尽くしていたようだった。
「あーでもインド式なんでな〜日本の横須賀カレーじゃねーんだもん!」
という村雨の嘆きに応え、た訳でもないが。
都合良く調理のできる人間が数いた事で、MSIの職員が好みそうなカレーだけでなく、様々なカレーが並ぶ事になった。
「美味しいおいしいカレーですよー、甘口と中辛と激辛とさよなら妖精味が選べますぞー」
「‥‥何にさよなら?」
御名方が辛口とナンを受け取っていく。
無難に中辛を受け取っていったマリーは、そのままMSIの輪の中に。どうやら兵装の要望があったようだ。
「なるほど、俺にとっての味噌醤油みたいなモノなんだな。 確かにこの味はレトルトでは出せないな」
百地の作ったカレーはMSIの男達にもウケが良かった。榊もそれを食していたが、違う物を手に取った者が二人。
「‥‥どうした?」
苦悶の表情を浮かべる漸と村雨に、何となく状況を察した榊が一応尋ねる。
「‥‥‥‥」
「横須賀でも日本でもインドでもなかった‥‥ここ、どこだよ‥‥」
男衆のテーブルが一挙にお通夜モードになった原因の人物は、既にその場には居らず。
何故料理には順序というものが存在しているのかを、百地に教育されている最中であった。