●リプレイ本文
○Day.1
戦闘の訪れは、到着後、BLADE(
gc6335)が外壁の資材を運び出してすぐに始まった。
同行した作業員が発見したキメラの群れ。
作業員達を逃がした後、負傷を残していたBLADEは機体を反転させ、仲間の機体と入れ替わりに下がっていく。
「早々で悪い、後は任せる」
「竜か、倒せば竜殺しってか」
ニーオス・コルガイ(
gc5043)のラスヴィエートが市街を抜け、南方に向けてその砲座を構える。
照準の向こうには、主に陸上を走る恐竜型の群れが。
一匹一匹はKVで相手をするにはやや小さいものの、施設内で虱潰しにするには厄介な相手になる。
「長丁場になる、か。まぁ、多少の無茶は覚悟の上、ですね」
未だ遠方に戦闘音を聞く、施設周辺待機の立花 零次(
gc6227)。
しかし、南方からの接近を皮切りに、軍からの報告は次々に数を増していく。
それが全方位からの一斉攻撃に切り替わるまで、そう時間はかからなかった。
「いきなり〜?」
丁度KVの傍で何かの仕度をしていたソーニャ(
gb5824)が、シフトを見るまでもなくそのまま機体を発進させる。
オペレーターの静香も、その唐突な始まりには同じ顔色をしていた。
『KVの搬送を見られたか‥‥戦力を把握されている恐れがある。損耗には気を付けろ』
「次から次へとよくもまぁ‥‥」
ヘイル(
gc4085)のタマモがラスヴィエートに並び立ち、南から迫る群れへとガトリング砲を掃射する。
基地側としても主要な交通路だけに無傷が好ましい箇所だが、敵を押し止める事には代えられない。
「空はまだまだ大丈夫だよー」
基地外周を舐めるように飛んだソーニャのロビンが、レーザーバルカンで空のキメラを伐ち止めていく。
狙い目の大型はともかく、低空の小型キメラを狙うには難度があったが、ロビンの機動性と満載した推進系には成せる技だった。
『まだいけそうかい?』
「あぁ‥‥いや、まぁまぁかな」
控えに立った那月 ケイ(
gc4469)の出撃待ちを聞き、改めてレーダーを気にするヘイル。
ニーオスと連携した射撃防戦は南側の敵を押し止めてはいたが、気付けば敵のサイズが小型から大型へと移り、進行が突破を目指した物に成り変わっている。
「大型はこちらで仕留める、防衛ラインは任せるぞ」
「早めにな。ちと厳しいぜ」
2本目の90mm連装砲が弾丸を吐き出し終え、虎の子の150mmを構えさせるニーオス。
その砲撃支援を受けながら、肉食竜の側面に飛び出したヘイルが強烈な突きを食らわせる。
横倒しになる大型のキメラ。その上を乗り越えて、次の牙、次の次の牙が迫る。
「くっ、アイギスが‥‥!」
盾を噛まれ、脚を噛まれ、動きの鈍るヘイルのタマモ。
「大丈夫か?」
急ぎ那月のパラディンが援護に駆け付ける‥‥のだったが、到着した時には、食いかかる牙は首を残して地面に落ちていた。
「まだまだ無事‥‥でも無いかな、衝撃で関節がやられたらしい」
キメラの残骸を払い除けながら、機体を確認するヘイル。
僅かなダメージではあるが、噛み付かれた脚部に異常が出ていた。
「踵が稼働してないな、早めに直してもらった方がいい」
残弾切れのラスヴィエートと片足を引き摺るタマモを見送り、パラディンが南方を見張る。
『どうやら様子見か‥‥キメラの撤退行動を確認した。今の内に準備を整えておけ』
軍側の管制情報を見守っていた静香から、全員に通信が入る。
BLADEは資材を再度運び出し、立木は地殻変化計測器の設置を開始した。ミスティア・フォレスト(
gc7030)は周辺地域への地雷の散布を挙げたが、軍は良い顔をしなかった。
外壁の損耗をやや埋め終えた頃には夜となり、カグヤ(
gc4333)のピュアホワイトが目を光らせる時間が続く。
狐月 銀子(
gb2552)がAU−KVの上でその帰還を見守る時間まで、夜は静かに過ぎた。
○Day.2
翌朝から昼にかけ、やや天候は不良。
錦織・長郎(
ga8268)が要請していた件は、人員の目処がつかずに断りの一報が届いていた。
少ない戦力と悪天候で警戒感は強まる一報だが、敵も此方の警戒を知ってか動きを見せてこない。
窓の向こうの山々に、今もキメラが潜んでいると考えると、此方から藪を突いて竜を出すのも考え物だった。
「‥‥で、成果はあったかね」
「大体憶えてきたよ」
基地内をぐるりと巡ってきた赤崎羽矢子(
gb2140)。
軍との関係は良好とも不穏とも言えなかったが、身分の確認だけで基地内の立ち入りは許可された。
「警戒はされてたみたいだけど、向こうじゃ普通に会議もしてる」
資料の閲覧持ち出しには当然幾らかの制限は掛かっている。
だが、あくまで防衛という大きな括りの中で自由は保障されていた。
『勿論、監視はしているぞ』
「‥‥なるほどね」
無線の声は静香。当然この場には居らず、離れた一室で多数の画面と向き合っている。
その画面の多くは外に向けられた監視映像だが、基地内部、傭兵達が休憩や移動する様子も映し出されていた。
『君らと此の辺りの軍との関係は把握している。悪いが、プライベートは二の次にさせてもらった』
「自由の対価というわけだね?」
『私はオペレーターだからな。仕事が優先だ――その仕事だが』
一段低くなるトーン。二人の無線に介入していた線から切り替わり、傭兵全体に通信が向けられる。
『外壁部補修中の作業員から連絡。中型だ、後は其方に送る』
提示された情報を元に、出現したキメラの討伐に出るKV。
外壁まで走輪で走っていく二機の姿は、すぐさま窓の外に現れた。
ただ、一方はラスヴィエートだったが、もう一方の機体には見覚えが、無い。
誰かの持ち込んだ物ではない、別の場所で見た機体だった。
「あの機体‥‥誰が出た!?」
そろそろ夜の暗さに変わっていく、風雨にぼやけて見える外の景色に、赤く照る特徴的なエミオンスタビライザーの光。
「今機体を修理に出しているのは‥‥ヘイル君だけかな?」
戦闘自体は、極少数のキメラ――おそらく指揮能力から外れたはぐれ物の始末だけで終わった。
それでも、初めて地上で使用される機体‥‥ヴァダーナフにとっては、貴重な出来事であった。
○Day.3
KVのコクピットで寝ていたソーニャは、外からの声に起こされた。
どうやら先日ヘイルがヴァダーナフで出た事で、赤崎とMSIの担当者が衝突しているらしい。
ぬいぐるみで耳を覆い、そのまま二度寝に入ろうとしたソーニャの耳には、朧気ながら会話が届いていた。
「――ならアンタには売れないね」
「‥‥」
権限のない人間の身勝手な言葉とは知っていても、真っ向から視線をぶつけて不審を露わにする赤崎。
安全性に欠ける機体を出すと言う人間が居るのだ。そうもなろう。
「『こいつ』は自分の魂を売れる人間の為の機体だ。悪魔に素っ頸差し出すタイミングを知ってる人間のさ。他人の命まで後生大事に抱きしめてるような人間には先ず売れないね」
「『こんな物』を完全と言うって、開発者としての責任感は無いわけね?」
「『完全な不完全』つったのは、『その能力』を使うまでもなくヴァダーナフは戦えるって事だ。付けようが付けまいがスペック準拠、値段も変わらんしな。むしろどんな窮地だろうと使わずに延々戦い続けられる図太い人間がパイロットならその方が数段強い。魔王か何か――」
最後に、開発者は目を逸らした。
「失敗しなきゃ死なないと思ってるようなのが傭兵なら、まぁ要らないんだろうがな」
一人分の意見ではどうにも決まらない。彼の手元に届いた意見はこの直接の一件だけだった。
無事宇宙に持ち上げてから、また定める事もあるだろう。
場に漂う重い空気。だが、それは此処に限った事でもなく、マスドライバー周辺の施設全体に満ちていた。
3日目にもなり、傭兵より圧倒的に数に勝るキメラは小型の物、KVで抑え難い物に限って浸透し、あちこちに爪痕を残している。
機動力に勝る狐月が人員被害を食い止めてはいるが、それらは作業者の精神に疲労を与えていた。何度見たとも言えない物とは言え、攻撃痕を見飽きる事もない。
誰もが傭兵への不満ばかりを持っていた訳ではないが、期待の全てが満たされているとは言い難いようだった。
昼のBLADE、夜間はミスティアのように率先して外壁の補修を行う姿は、それが防御効果に由縁する所だけでなく協調を感じさせる。
組み終えたばかりの建材は、すぐに雨に濡れ始める。
打ち上げ予定日には晴れるはずの雲だが、焦らすような雨は未だ降り続いている。。
カグヤの目に映るのは、散り散りの不格好な雨雲と、それに似た形の‥‥不格好なHW。
「お月様は見えないけど、ばっちり見つけたの」
敵影をピュアホワイトのカメラに収め、すぐさま連絡するカグヤ。
通信の安定する距離まで下がったカグヤから画像が送られ、すぐさま解析処理が行われる。
『対象3、腹下部に弾頭‥‥空爆する積もりか』
高々度を飛ぶHWはその高度を保ち、山を越えようとしていた。
垂直離着陸能力を持つロジーナが即座に飛び立ち、防衛の柵の外で接触する。
「外殻が硬い‥‥!」
IRSTとピュアホワイトの支援がありつつも、ミスティアの放ったロケットランチャーはその大半が外殻に阻まれ、雨に吸い込まれていく。
その間に、素早い行動で側面へと躍り出たアルヴァイム(
ga5051)のロジーナが、電磁加速砲でHWを弾頭ごと無力化し、誘爆を見送って交差する。
「動体計測、重力波変調分布解析、残留計予測‥‥あと、いろいろ!」
目の前に表示される通りに情報を動かし、プログラムを起動するカグヤ。
ヴィジョンアイの起動により、感知のみだったモニター情報に詳細な慣性制御分布が表示される。
「急所を捉えれば、まだ止まる!」
捕捉外のHWはアルヴァイムに任せ、詳細を曝かれた敵機に照準を定めるミスティア。
8連装の3セットが慣性制御装置に近い構造を叩き、ワームは一挙にその速力を失う。
落下し始めるワームを柵の外に突き出すように残るロケットを叩き込むと、地上への放物線を画く途中でワームは爆散した。
「早期発見の成果は出たようだ」
電磁加速砲のちらつきが空に何度か走り、無害な空の上で三つ目の爆発が起きる。
雨に乗じた弾雨は未然に防がれ、それを待ったかのように、雨雲は少しずつ薄れていった。
○Day.4
主系統の確認も終わり、澄んだ天候が明日の打ち上げを予想させる四日目。
前日からの交替番で布団に入っていたカグヤがゆっくりと休息を取れる程、その日の日中は静かな時間が続いていた。
粗方の作業が終わった幾らかの団体は、気が向いたからという理由で傭兵の機体の整備を見届け、或いは機体そのものの観察を行っていく。
那月達のように気軽にその輪へと混じっていく者も居れば、コクピットで大人しくしている者も。
堅実な警戒は続いていたが、平穏は日の落ちるまで続いた。
夜気に紛れ、凍る川に立ち上る冷気。
南に迫る大型の氷結竜。幾人かは見たシルエットだった。
『軍からの連絡。初日と同じパターンだ、全方位にキメラを確認』
「過冷却体液を高強度の氷塊にして纏うキメラとはね〜‥‥サンプルが残れば御の字かね」
ドクター・ウェスト(
ga0241)の持つ懸念は、敵の性質云々よりむしろ目の前の味方に向いていた。
同じ様に雷電を用いる漸 王零(
ga2930)の装備を見ていると、当然、無事な形で残す気は感じられない。
「‥‥あの型か。何人か起こしておくべきか?」
「どちらがどちらの目眩ましか分かりませんけれど、当然出てきますわよねぇ」
連日、静かな夜を見続けてきたアルヴァイムとミリハナク(
gc4008)。
散発的な戦闘とも違うが、初日とも異なるキメラの様子を二人は感じ取っていた。
空陸対応の素早いシュテルンの赤崎と立花、防衛力の高いパラディンの那月を起こし、戦力を補填する。
「まぁ、こっちは任せておきたまえ〜」
降り注ぐ氷塊をヒートディフェンダーで溶断し、氷竜の鱗のない表皮に迫るウエスト。
振るわれる尾を漸がハイディフェンダーで切り払い、精製される氷殻は周囲に居た雑魚ごとジャイレイトフィアーで削り取っていく。
「中国ゆかりの戦術など、敵は使ってきましょうか?」
「主な兵力が知力の浅いキメラですからね、どうでしょうか」
共に東の戦線を支えるミスティアと立花。
二人とも懸念は同じとばかり、銃座を揃えて敵の出方を疑う。
「ミリハ、北西!」
柵を越えようとするキメラにミサイルポッドの重圧を与えていた赤崎の眼下、真っ直ぐに続いた外壁の先で、その壁の一部が根刮ぎ削られたように失われている。
「来ましたわね!」
それまで壁に阻まれていた小型のキメラ達が雪崩れ込んでくる。その先頭に立つ者がバグアとしての力を奮えば、壁の有様にも納得がいった。
ミリハナクの竜牙がその船頭、プラネテスを妨げるよう横合いから走り込み、那月は溢れかえるキメラの群れに槍先を定めた。
進路上に群がる小中有象無象のキメラをランスチャージで切り抜け、急所となった壁の穴を自らで埋めるようにアサルトライフルを構える。
「よう、弾は足りてるかい?」
「助かる!」
駆け付けたニーオスからアサルトライフルの追加弾倉を受け取り、更に厚くなる弾幕。
それでも零れ出た、恐竜でいうヴェロキラプトルにも似た小型のキメラには、AU−KVのヘッドライトが向けられた。
「あんた等が生身の龍ってんなら、こっちは機械の龍ってね。逃げられると思う?」
群がる歯牙をアスタロトのターンで弾き返し、施設に近づくキメラをエネルギーガンで次々に溶かしていく狐月。
「真っ直ぐ中枢を狙う気のようですね」
南方の二機は、大型とは言え単騎のキメラに劣る事はない。北西の物量は素早く『蓋』がされた為脅威は低くなった。
「あちらを抑えますか」
同じ様に地図を見ていたミスティアに東を任せ、立花がカグヤの航空画像を元に立ち位置を変える。
低空飛行のロジーナ、アルヴァイムの銃撃に二度、三度体を浮かされながら、プラネテスは施設の影を利用して中央に迫る。
照明の影から影へ。しかしその移動は、暗視スコープ装備の数人には完全に見え透いていた。
「あら? 今日はメイド服ではないのね」
ルート上に躍り出る、竜牙の姿。迂回を読んだその視線の先には、プラネテスと低空のアルヴァイム。
そして、施設全体の見取り図から、塞ぐべきその要地に機体を配置した立花の姿。
「そんなスーツで、水路でも泳ぐのかしら?」
『っ‥‥』
市街を南北に貫く河川。地下に通じる排水口は立花のシュテルンが塞いでいる。
後門のロジーナ、前門の竜牙。
追い詰められたバグアは、可能性ではなく、沸き上がる憎悪に選択を委ねた。
『お前のような、人間が‥‥っ!』
チェーンガンとガトリングの雨にフィールドとスーツを破かれながら、その膂力を竜牙に叩き付けるプラネテス。
弐型としての性能をフルに発揮し、ディフェンスコーティングで致命打を免れるミリハナク。
衝撃に風防は罅割れ、横転しながらも、エナジーウイングで吸血鬼の右腕を切断する。
『人間がっ、居なければ‥‥っ!』
コクピット狙い。
銃口の補正も間に合わない速度で竜牙の胸部に駆け上がったプラネテスが、左腕を振り上げる。
破砕音。勝ち誇ったかのように突き上げられた血色の拳は、しかし未だ振り下ろされていなかった。
『ッぶ―――』
左胸を深々と抉る、炎斧インフェルノ。
罅割れた風防を逆に叩き割ったのは、ミリハナク自身の攻撃だった。
「白木でなくて、残念ですわ」
両断剣・絶。
「でも‥‥」
両断剣・絶。
「メイドがメイド服を脱いだら、最初から負けでなくて?」
両断剣・絶。
『――――』
左鎖骨上部から心臓を結び、骨肉に止められる度、真っ直ぐに押し貫いていった斧刃。
切り抜けた衝撃で先端は竜牙の装甲に停まり、練力を振り絞ったミリハナクが手を離してもその場に突き立っている。
力を失った肉体が崩れ落ちると同時に、ミリハナクも再び座席に座り込んだ。
疲労とスキルの連続使用で少しぼやけていく視界。
それが何秒か、幾らか続いたかは分からない。
目に当たる小刻みな風に、少し気が遠くなっていた事を気付かされる。
「小狡い事が取り柄のお前に、大局を動かす力は無いようだな‥‥所詮、己自身では輝けぬ惑星よ」
『‥‥! ‥‥!』
上空からの赤崎の呼びかけに、ミリハナクが気付く様子はない。
だが、ミリハナクの眼前まで迫ったゥイーヴスは、そこから襲いかかる気配も、同胞を看取る様子もない。
留まらない出血と共にプラネテスの肉体の容積は減っていき、最後には、突き立った斧の他に赤く染まった装甲だけが残された。
「‥‥小五月蠅い蝙蝠の始末、ご苦労だったな、金毛」
ようやく意識が覚醒し、見上げた時、既にその姿は消えていた。
○Last day
「居残りも無さそうね。キメラは本当に帰ったみたい」
見晴らしの良い高台に乗り上げ、狐月が辺りを見回す。
「そっちはー?」
『綺麗さっぱり。掃除は大変だけどね』
自身が守り抜いた大穴の修繕を見届けながら、山と築いた鱗をパラディンで片付けていく那月。
『やっぱり、指揮官がやられたから?』
「というより、紛い物から本物の親分に呼び戻されたって感じだけど」
生身で現れたゥイーヴスは、その一吼えで戦闘中のキメラを止め、二吠えでその全てを撤退させていった。
「あの防衛の中をすり抜けて来たと思うと、インチキよね」
嘆く狐月の見上げる先には、無傷で守り抜いたマスドライバーがある。
「ま、引き続き警戒しましょ」
敵の策を疑う錦織が、まだ空から目を光らせていた。
「やれやれ、我々が後片付けとはねぇ〜‥‥」
「まぁ、仕方がない」
「我が輩は綺麗に片付けたのだよ? それを君が‥‥」
ぼやくウエスト。目の前に散らばるのは、大小様々な肉片。
その多くは、氷竜との戦いに巻き込まれただけの、小中キメラの山だった。
「あのサンプルは空に持っていかれてしまったし‥‥」
結局、ゥイーヴスの介入により切り取れたのは尻尾だけだったが。
その尻尾も生体サンプルとして研究部門が持ち去ってしまったので、残されたサンプルは辺りの肉片だけという事になる。
逃した竜は大きいとばかり、ウエストは天を仰いだ。
打ち上げは予定通り行われた。
仕事を終え、空を見上げる傭兵達の視線の先に、おそらく宇宙の荷受け役が待っている。
勿論地上からはそんな姿を視認できる筈もないが、一部の企業が撤収の準備を始めている所をみると、打ち上げは順調に済んだのだろう。
傭兵達が守り抜いたマスドライバーは、狙い違わず物資を送り届けていた。
敵の攻撃による凄惨な爪痕は外壁を越え、内部の施設にまで食いかかっていたが、今回の打ち上げに必要な最小限の区画だけは無傷で守り通せたらしい。
しかし、この打ち上げ以降の計画は一旦予定を詰め直す事になった。
拠点としての機能が回復するまで、何より修繕が必要だった。