タイトル:逢魔ヶ月マスター:玄梠

シナリオ形態: イベント
難易度: やや易
参加人数: 17 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/12/22 23:54

●オープニング本文


 拝啓、家族の皆様。
 私、冬子は業務上の都合で遺書を書かされています‥‥‥




 宇宙。
 人類勢力が宇宙へと進出していく、その船頭をUPCと共にメガコーポレーションが務める中で、MSIは遅れを取っていた。
 時折『野心的』と評されるMSIのKV開発も、普及機と呼ばれる低価格帯を即座に押し出してきた生産大手のメガコーポレーションに乗り込んでいける物ではなく。
 KV各分野での売上高は、一般の目から見ても厳しい物があった。
 そうした状態は、企業としては当然見過ごせる物ではない。しかし、ある現場の人間達はこの状況を座して認めていた。
 ビーストソウル、ペインブラッド、ガンスリンガー、これら所謂『尖った』機体を担当してきたテストチームである。
 機能特化型の機体は当然何かが犠牲になっている。
 その犠牲を認められない軍から売り上げが取れない、のは当然の事だと言って憚らない彼等にとって、宇宙市場の出遅れは予想の範囲内であった。
 唯一誤算と言えるなら、地上で損なわれた宇宙用兵装のデータ復帰に時間がかかった事ぐらいだろう。
 他企業の宇宙機リリースを横目に、テストチームは先の大規模作戦に合わせて宇宙入りし、各機体の検証を行っていた。
 早期予兆警戒機、ピュアホワイト。
 ディアブロ後継機、ヴァダーナフ。
 また、ガンスリンガーのカスタマイズに関しても、新しい環境と共に試行錯誤が行われている。
 準備は入念に越した事はない。カンパネラ内にオフィスが新設され、宇宙へと送られる人員も少しずつ増えてきていた。
 当然、傭兵向き市場を担当する人間も、現地入りする事になる。


 

「‥‥はぁ」
 パイロット業務でもなしに、身の回りの整理はつけておけと言われて書き始めた遺書。
 とは言えずっと広報業務を行ってきた冬子に、その現場が易々想像できるはずもなく。
 筆を止めた手で、勤務先となるカンパネラ内の詳細と、到着間もなく行われるKVの意見聴取会の資料を見比べていた。
「‥‥あ」
 書面によれば、宇宙勤務は出張ではなく異動の扱いとある。
 勤務場所が変われば指定の社宅も変わるので、次の更新に立ち会えない今の部屋には荷物を置いては行けない。
「片付け、今から‥‥?」
 独り暮らしの油断から、一度片付けられた後も、その部屋はだらしなさの染み着いた物に戻っていた。片付けるにしても荷物を纏めるにしても、少し、いや大分間に合いそうにない。
 某月某日の家事修行はそれはもう凄惨な有様だったが‥‥手伝いとて、姉や同僚にこの有様を見せるのも気が引ける。
 その後の仕事に支障を来さない程度で、と。恐る恐る、冬子は協力してくれそうな人に呼びかけてみる事にした。

●参加者一覧

/ 須佐 武流(ga1461) / 鷹代 由稀(ga1601) / 新居・やすかず(ga1891) / 漸 王零(ga2930) / UNKNOWN(ga4276) / アルヴァイム(ga5051) / 百地・悠季(ga8270) / 魔宗・琢磨(ga8475) / 森里・氷雨(ga8490) / 時枝・悠(ga8810) / タルト・ローズレッド(gb1537) / 奏歌 アルブレヒト(gb9003) / エリス・ランパード(gc1229) / 功刀 元(gc2818) / カグヤ(gc4333) / ハンス・シュミーデル(gc8388) / 波風 集(gc8452

●リプレイ本文


○ある意味小宇宙

「何だ、意外と片付いて‥‥無かった」
 須佐 武流(ga1461)の語尾は素早く萎んでいった。
「いや、その、あの‥‥じっくり見ないでください‥‥」
 出迎えておいて何だが、意外と揃った人数に気後れ気味な冬子。
 せめてもの努力で‥‥いや、人を迎える以上当然の事でゴミやら何やらは片付けられていたが、如何せん、取り留めなく物に溢れた空間が拡がっている。
 見るからにげんなりする敷居を勇気を持って跨ぐ者、手が足りているならと辞退する者、そして‥‥
「うむ、ここは‥‥任せた。つまりあれだ、適材適所という奴だ」
 タルト・ローズレッド(gb1537)のように、その空間に対抗できない者。
 毎ターン抵抗値で判定を強いるような状態ではないが、それはそれ、これはこれ。ここだけ難易度が上がっている気配もある。
 率先して動くアルヴァイム(ga5051)と百地・悠季(ga8270)が他の男性陣、女性陣を引っ張る形になり、各員配置についた。
「ファイルをベッドの上にまで拡げて‥‥これ、どこで寝てるんですか?」
「そ、ソファで‥‥」
 紙媒体を速やかにデータ化していく森里・氷雨(ga8490)に問われて、口籠もる冬子。
 案の定、そのソファも買い溜めたと思しき雑誌がうずたかく積まれている。大方床で寝ているのだろう。
 それら雑誌類も手早く裁断し、ハードディスクに纏めていく森里の様子はやけに手慣れていた。
「‥‥‥?」
 何故かそこに触れない方が良い世界を感じた冬子は、その場を任せてクローゼットに移る。
 それほど衣装持ちではなかったが、やはりそこはOLとして持つべき衣服は多い。
 新居・やすかず(ga1891)と魔宗・琢磨(ga8475)に不要品の運び出しを手伝って貰いながら‥‥冬子はようやくその異変に気付いた。
 普段ならば開けた棚と閉めた棚の事など気にも留めないが、開いたケースと洗濯機の音が重なれば、それは当然気にかかる。
「はいはいーこちらのお宝はあちらにまとめてお洗濯ですねー」
 それなりに勝負らしい勝負のあった事を窺わせる小さい衣類は、功刀 元(gc2818)の手で洗濯されていく。
 衣替えし損ねた夏物も中には混ざっているとはいえ。その笑顔にツッコミ所を見失い、百地夫妻に連行と後始末を任せる冬子。
 しかし片付けも終盤に差し掛かると、その冬子が傭兵達の最大の難関となって立ちはだかった。
「あれ、捨てるんじゃないっすか?」
「え、いやぁ、これもやっぱり必要な‥‥」
「捨てちまえ、そんなもん」
「リサイクルショップの手配は済んでいるが?」
「これは手放したくないんですが‥‥」
「でも、もうあんまり運べる余裕は無いんでしょ?」
「一応持っていった後で考えても大丈夫かな、とは‥‥」
 そう、捨てられない女。
 百地のおにぎり片手に見守られる中、須佐達捨てる派と、冬子のみの保守派が激突を繰り広げた。
 が、あまりにも情けない激突であった。そもそも片付けに加わっていないメンバーは、冬子の部屋にあったMSIの装備カタログを拡げて時間を潰している程に。
 結局、森里に貸倉庫の話を聞いて納得した冬子は、それらのダンボールを明け渡した。
 明け渡されたダンボールは、そのまま中古市場へと流れていった。
 それが傭兵達の総意であり、また思いやりである。
 広場の奥で山積みのダンボールを見掛けたら、気を付けて欲しい。
 そんな事とは露知らず、参加者に平謝りを繰り返して宇宙行きの日時を案内する冬子。
 再び会うのは、打ち上げ後の事である。






○移動中

 テストチームの居る宙域まで、高速艇はカンパネラから月方面へと向かっていく。
 1戦場を跨ぐような移動も、一端の傭兵なら暇を潰す程度には慣れた時間。 功刀の案内で巡った学園内の賑やかさとは打って変わって、船内は静かな物である。
 しかし月の姿が近づくにつれ、誰となく、その視線を窓に向け始めていた。
 月方面に見える、静かな白い光点。
「あの機体‥‥あの白い方が?」
「はい。EPW−2400、ピュアホワイトになります」
 窓の向こうを眺めるハンス。その姿が分かるにつれ、また冬子の案内を聞きつけ、搭乗者の多くは其方を向いていた。
「へーぇ、あれがピュアホワイト。本当に真っ白なんだ」
「もう一方は‥‥色が暗いな。よく見えないぞ」
 エリス・ランパード(gc1229)の目に映る、月の表面と近い色をした機体。
 須佐もその隣で目を凝らすが、鮮やかな白と共に飛ぶもう一方の姿は、赤く暗い所為か宇宙空間に沈み込んでよく見えない。
 しかし宇宙空間での検証を行っている2機、となれば、ヴァダーナフがそれに当たる。
「そういや、ヴァダーナフって、元はどんな言葉なんすか?」
「サンスクリットとヒンドゥー語の混合造語、意味は『破壊の魔神』だと聞いています。元は『ドゥルガー』または『ルシファー』が候補に挙がっていたようですが‥‥これからの決戦を語るのに、古い神や悪魔の名前は不要という意見があったようですね」
 魔宗の質問に、事前の打ち合わせ通りの解説を入れる冬子。
 人型のまま宇宙を進む機体は、白いスカートと黒い翼からエミオン特有の励起光を曳き、その先に待つ輸送艦に戻る所のようだ。
「丁度テスト中の機体も戻って来たようですね。‥‥それでは、皆さん、ご希望の艦でお降りください」




○翼とスカート

 解説の多いであろう第一班艦のエスコートは、引き続き冬子が行う事になっていた。
 それも無重力でスカートが捲れないよう、わざわざデモンストレーション用のパイロットスーツ姿で。無駄な用意である。
「ぴゅあほわいとー♪」
 まず最初に出迎えたのは、今し方帰還したばかりのピュアホワイトであった。
 見た目からして女性御用達の風情が漂うが、時枝・悠(ga8810)の視点はそこにはなかった。
「宇宙対応にしたって、変更点は?」
「部品は交換されましたが、基本性能に変更はありません。改装の余裕はある機体でしたから、殆どそのまま宇宙対応した形になります。‥‥あぁ、でも色は白以外にも使えるようになりましたね」
 グレーの素地に白い高抵抗性樹脂素材、今は消えているが、青の蛍光色を湛えるエミオンスタビライザーの励起ユニット。
 特徴的な色味だが、これらの色は全て任意の加工で切り替える事が出来る。
 販促用に樹脂構成から別途用意された機体もあり、当初の想定に比べて色に関しては殊更に気を使った機体となった。
 動いている時は掴みづらかった全容も、近づいて見上げれば一目瞭然だった。
「装甲と、推進器と、主翼‥‥人型では全てスカートとして吊してあるのね」
 丁度そのスカートを真下から見る形で、百地が覗き込む。
 その立ち姿は、ペインブラッド同様人型優先である事を如実に示している。
 ただ、ペインブラッドが肩に推進装置を羽織った事に対し、ピュアホワイトは腰。そして飛行形態の機首部品は頭部後方に『お下げ髪』のように下ろされている。
「座席を見てみますか?」
 カグヤの視線に、冬子が搭乗を促す。
 機体は戻ったばかりで、まだ点検用に火は入ったままだった。もちろん、画面にも明かりは灯っている。
 パイロットを中心に、蓮華座のように画面の並ぶレイアウトは何も変わっていない。
 むしろ脱出ポッドへの変更があったことで、その座席の『丸さ』のような感触は強まっている。
 円周上のモニターには、ピュアホワイトが得うるあらゆる情報が示されている。通常のセンサーや重力波探査、そして観測カメラによる記録。
 残されていた調査ログには、月周辺宙域の、何もない空間が記録されていた。
 もっとも、中には小規模な重力変調を捕らえた箇所もある。
 だが映像記録もなく離れた所を見ると、おそらくこのパイロット、戦闘は避けたのだろう。
「パイロットの『直感』が作用すると聞いたけど?」
「それは一寸‥‥語弊がありますね。パイロットのエミタが感受する情報の事を言い換えるのに、良い言葉が無かったのだと思いますが」
 カグヤの様子を覗き込んでいた百地と冬子。直感の件に関しては、方針変更時の混乱が、そう取られる原因になった事だろう。
 エミタの感受する重力波の変調、それを言い表す識閾を人間は持っていない。
 それがMSI内の一部で直感と言い換えられていた。
 内外共に、攻撃性よりも支援へ向けたと見て取れるピュアホワイト。
 その機体が宇宙へ上がり、そして支援型の特殊能力を付け加えられた由縁の機体も、その隣へと舞い戻ってきた。
「ヴァダーナフ‥‥ようやく表に話が出てくるようになったんだな」
 漸 王零(ga2930)の見上げる先にある機体。DEX−666、ヴァダーナフ。
 ピュアホワイトが白い衣の女王であれば、黒い鎧を纏い、悪魔の翼を備えた赤い地肌の魔神。
 主戦場が宇宙に移り、MSIを初めとするダルダ財閥資本各社の技術提供があって初めてプロトタイプに漕ぎ着けたこの機体は、各部分が彼方此方で作られていた事もあり、今まで表舞台に出る事は殆どなかった。
 一度だけ、大規模作戦の折にカンパネラ周辺に出た事もあったが、その時はリミッター不良によるエネルギーロストで即時帰還している。
 リミッター制御下でも現行の攻撃機には劣らない、と言う冬子だったが、やはり子細は気になるようで、漸と時枝の
「能力は?」
 という問いは同時に聞こえた。
「宇宙対応の際に、水素管理系が交換になった事でパラジウムバッテリーは再検討待ちになっています。ですが通常の‥‥まだ仮名ですが、フォース・アセンションだけでも既存のフォース系能力を越える効率は持っています」
 その姿はディアブロに比べれば装甲を増しているように見えたが、大型の翼型エミオンスタビライザー、そして機体各部の同装置を見るに、機動力を優先した軽鎧ではある。
 搭載予定の能力はフォース・アセンション、αとβ。同一の出力から機体内のSES、またはエミオンスタビライザーへと供給が行われ、攻撃力か機動力の何れかが強化される。
「ピュアホワイトの索敵によって探し出した機体群から、その筆頭である敵を迅速に撃墜する為の決戦機。その為の決定力は充分に備えている筈です」
 細かなスペックは見せられないが、リリース当初のディアブロのような衝撃は市場に与えたい‥‥という姿勢は見せている。
「推奨装備に関しては、また後々にお願いする事があるかもしれません。その時はよろしくお願いしますね」
 機密上、まだまだ多くは見せられない。
「発売日はー?」
 するすると降り立ったカグヤが、もっともな質問をする。
「ピュアホワイトは、もうすぐですよ。もうすぐ」
 そう、すぐの事だ。








○銃と弾丸

 集まった意見と議事録を宇宙支社から受け取り、その内容を整理するのにやや時間が掛かった。
 だが、それからの実装検証は更に時間が掛かった。オフィスに居られた時間の方が短いぐらいだ。
 受け入れられる価値のある意見がそれなりに揃った事も、それが成しがたい課題であった事も理由になるか。
 ガンスリンガーの「あらゆる銃砲に対応する」コンセプトは万人に受け止められている訳ではないようだったが、しかし特化した機能を突出して用いる人間が現れる事は幸いな事だろう。
 もっとも、あれだけの狙撃能力を持たせてあれば、そこに目が向くのは当然の事だろうが。
 鷹代 由稀(ga1601)や奏歌 アルブレヒト(gb9003)など、最も多くが挙げ、賛同したデュアルフェイスシステムの中途解除‥‥あるいはエリスの挙げた中途移行は、元からの解説の通り駆体ストレスの解決が最大の難点となった。
 実際の検証でも、やはり多くの駆動プロセスで部品が破損か、または安全装置の作動によってKVの行動自体が暫く止まってしまう憂き目を見ている。
 戦場で自らの稼働に耐えられず痙攣し、膝を折る機体を、空中で姿勢を崩す機体を、誰が見たいと思うのだろう。
 生命線としての解除機能が命を脅かすとあっては、流石にこれを『改良』として世に出す事はできない。鷹代が「死に直結しかねない」と表した問題はここにも絡んできた。
 また、持続を伸ばす事に関しても、変化後の負荷限界が妨げとなってしまった。
 妥当であり、肝要であり‥‥確実に成果が出るなら採用したかったが‥‥技術が追い付かない事を嘆くしかないか。
 また、数では劣ってしまったが、新居の意見も捨てがたい物は感じた。
 此方が挙げたタイプSR向上項目の意図の通り、前述の『システム持続のデメリット』が僅かに軽減される事を推す事は良かったのだが、異なる手段‥‥つまり強制解除が票を稼ぐ形になった事が不運ではある。提示の形が異なれば一位票であったかもしれない。
 こういう形で理解を示される事は嬉しい事だ‥‥とはいえ、種々のアイディア達が面白くなかった訳ではない。
 冬子嬢やテストチーム達の束ねる議事録を見て毎回思う。なまじ意見の買い集めや票の纏めが無いだけに、そこに産まれる自由は玉石混合。そしてそれを掴み出す手も、必ずしも良い物を拾い上げられるとは限らない事を。
 しかし、誰かが決定を押さねばならない。
 

 結論を言えば、タイプGR。ハイサイトの搭載が決定した。
 彼等の意見は割れていた事もあり、どの方向に機能を搾るか今一取り上げ辛かったが‥‥決定打の補填という見方が強い事から、『敵の急所を突く』そんな機能となる予定でいる。
 それにしても略語の心配までされる時代になるとは。一応心には留めておくが、アヌビス辺りのデザイナーが次の名称決定権を持ったら諦めて欲しい。

 しかし、ノワール・デヴァステイターに関する評価は宇宙時代のKV兵装に関して再考する物があった。アルヴァイムの物だ。
 言うに及ばず、宇宙空間というエネルギー消耗の激しい空間で長居したければ、タンクをより大型にするか、多く積むしかない。
 機能としての兵装をコンパクトに纏める事が、それらの余裕に繋がるか、あるいは敬遠しがちな高重量の主兵装を選択圏内に挟み込めるようになるか。
 ただ、基本的にSES機能を共有する混種の兵装は、結果としてバランスを崩しやすい。性能がどう転ぶかは分からないが‥‥やらないという選択肢はないだろう。既にテストチームには、一品出しの試作品を持ち歩いて貰っている。
 やるだけやって駄目だった例は幾らでもある。
 それでも作り直してはULTの門を叩くのだ。気に掛ける者も多いあの高加圧プラズマライフルのように。
 これまでに意見を受け取ったり、今新たに意見を得た物も、いつか、その手に届く日が来ると信じている。