タイトル:黒 or 白マスター:玄梠

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 14 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/06/28 21:21

●オープニング本文


「支社に送る分の資料は出来てるのか?」
「バッチリですよ。後はこの機能に名前を付けるだけです」
 いつものテストチーム第二班。班長のシャマといつもの後輩だけがオフィスに留まっている。
 テスト機が来なければただ開発部のお荷物な彼等だったが、今日は運良く仕事があるようだった。
「どうですか、この真雷光破(ヴォルテックスマッシャー)、ってっ」
 プチロフばりの斜め四十五°で側頭部に振り下ろされる、アルミケース。
「分かり辛いんだよ。何で傭兵向け仕様書作るのに多言語織り交ぜてんだよ」
「祖父の国へのリスペクトですよ。‥‥でも、フォトニックにG放電機構なんて、よく余剰がありましたね」
「開発部は開発部で、開発って名前の病気だからな。EPWの機器パッケージング設計が使えるらしいが‥‥」
 ピュアホワイトはペインブラッドを素体のベースとして開発されている。
 攻撃装置と支援装置、高負荷の機器を搭載するという同一コンセプトからくる物だったが、よりデリケートな演算機器を搭載する上で、機材の保護は重要視されていた。
 元々ペインブラッドは部位のユニット化が進んでいた事もあり、演算機器を緩衝材でパッケージングする事自体にもそれほど無理は無かったのだが、今度はその技術がペインブラッドのバージョンアップにも適応される事になったのだ。
 しかしそれを大人しく認めなかったのが、旧来のペインブラッドを担当していた第二開発部である。
「G放電装置ならミサイルに積んでるレベルで安定もしてる。レーザー発振用の出力系統に繋ぐだけなら、変換器の繋ぎ替えぐらいだ。‥‥元々経戦能力を意識していない機体に緩衝材を積むぐらいなら、火力増補を積ませろって言ってきた訳だよ」
「でも、高出力化してもバッテリーパックは代わらないんですよね」
「先ず間違いなく使用回数は下がるだろうが、それより威力か範囲かを上げれば問題ないんだろ? だとさ」
 ピュアホワイトの開発時点でも、『電子戦機だと言ったってどうせ狙われるんだから戦える方が良い』と非物理適性は上げ続けた彼等の作である。
 ペインブラッドの特色としては正しい、と言うのだろうか。
「僕はバッテリーを増やすのも良いと思うんですけど‥‥」
 開発部から降りてきたバージョンアップ案は、フォトニッククラスターの威力or範囲の強化。
 また、或いは技術的に可能という所で装弾の増加、もしくは緩衝材による保護。
 バージョンアップで許されるコストなら、このうち一つという所だろう。
「どっちにしろ上からは傭兵に当たれって言われてんだ、何かあるなら冬子に回しとけ」
「LH支社に戻ったんでしたっけ。元気にしてますかねぇ」
「確か、身寄りはあるんだろ。それに支社だってレーションぐらい売ってる。‥‥あぁ、EPW廻りで推奨用装備のテストタイプが来てる、あれも向こうに送る手続きしとけ」
 既に社販のレーションで生き長らえてる扱いの冬子。あながち間違いでもない。
 後輩に空輸の手続きを押し付けたシャマは、班長会に出ていく。
 何やら忙しなさを増しているインド地区。頻発する事件に、それぞれの班から警備部に回せる人員を調整する必要があった。




 同じ頃、冬子のマンション。
「ふぇ‥‥っくしゅ!」
 遠い大地の噂話が伝播した訳ではない。埃の舞い上がった部屋に居れば誰だってくしゃみもする。
 最近は人の手を借りて少しは片付けるという事を憶えた冬子だったが、一寸でも仕事が忙しくなると優先順位からぽろりと落ちるのが部屋の掃除だった。
 もとい家事全般抜け落ちてはいるのだが。
 届いた資料に目を通し、レジュメに纏めている間に、食事の時間も過ぎていく。
「‥‥これ終わってからにしよう」
 食事の事が意識に上がったついでに、次の会場をグループ企業のレストランにしようと思いつく冬子。そして本人の食事は更に遠のいていく。
 そんなだからバツイチになるんだと言われる前に、そろそろ家事能力のバージョンアップも必要なようだった。

●参加者一覧

/ 須佐 武流(ga1461) / 新居・やすかず(ga1891) / UNKNOWN(ga4276) / 鈴葉・シロウ(ga4772) / 百地・悠季(ga8270) / 森里・氷雨(ga8490) / 赤崎羽矢子(gb2140) / ハンニバル・フィーベル(gb7683) / 来栖・繭華(gc0021) / 美具・ザム・ツバイ(gc0857) / レインウォーカー(gc2524) / ミリハナク(gc4008) / カグヤ(gc4333) / シエラ・テルミナータル(gc7484

●リプレイ本文

○辛味

「はーい、こちらでーす」
 観光ガイド宜しく、集まった傭兵達を案内する冬子。
 MSIの所有する敷地とはいえ、LH島内という事で雰囲気は和やかである。
「お久しぶりのビースト白熊マンです。ごきげんよう。そして姉どのもお元気かしらん」
「はい、またお世話になります。姉さんですか? 何時も通り仕事ばっかりですよ」
 鈴葉・シロウ(ga4772)の視線は何処を向いているのか分からない。まぁとりあえず仕事はしっかりしてくれる事だろう。
「ふふふ、この美具・ザム・ツバイ、カレーにはちとうるさいぞ?」
 美具・ザム・ツバイ(gc0857)のようにカレー第一という者こそ少なかったが。
 インド本拠のダルダ財閥資本の外食産業とはいえ、その展開は世界に幅広い。当然味にうるさい国をも跨ぐ品質であり、LHでもその地位は健在という店だ。
「辛いだけってのは苦手なんだよね。それはそれとして始めよっか。」
 各自好きなように選んだ後、赤崎羽矢子(gb2140)がウェイターに選ばせた物が出揃い、昼食を挟みながらの意見交換が始まる。 
「長所を伸ばすのが良いと思いますので、出力強化が最有力です」
 席の並びで、新居・やすかず(ga1891)が先ず出力強化に一票を投じる。
「ただし、知覚の上昇を50以上上積みできない場合は、緩衝構造を推します」
「なら初撃に全力をかけてもいいと思うんだよね。結果的に生存性も上がるだろうし」
 何なら一発限りでも、と、フォトニッククラスターの懸念材料であるその扱いの難しさも挙げる赤崎。
「うん。矢張りそこは特徴である特徴なフォトニッククラスタの強化がいいと思います」
「『フォトニッククラスター強化』の短期決戦が生存性を高め、生命増補を補えるなら、横並びより特徴を伸ばすべきかと。‥‥どちらにしても『生存性』に尽きます」
 そう言って挙げていく『強化』の前提は難しい物であったが、森里・氷雨(ga8490)の意見は必ずしも既出の物に否定的ではない。
 更に強化の方向性を足す物として、レインウォーカー(gc2524)が放射タイプのモード式を提案する。
 その一方で、ハンニバル・フィーベル(gb7683)は、レインウォーカーと同様多種多様なカレーを食べ比べ試しながら、緩衝構造の吟味を語る。
 カレーの選び方に個々の性格を感じながら、その性格と彼等の選択をメモしていく冬子。
「『緩衝構造』の採用を、だね」
「敵さんに狙われやすいと思いますので、繭華も緩衝構造がいいと思いますの」
 UNKNOWN(ga4276)と来栖・繭華(gc0021)も、前者は預かりの意見のようだが、これで緩衝構造に3票。
 美具は何か意見を言いかけていたようだが、途中で何処かに呼ばれていったまま帰ってこない。緊急の呼び出しでもあったのだろうか。
 それまで冬子を手伝っていた百地・悠季(ga8270)も、生命の上げ難さを挙げて緩衝構造に一票。
 特殊能力の強化と緩衝構造の採用、特殊能力側は要望が散った分やや緩衝構造を下回っている。
 だが、どれも肝心の利用者の意見でない所は頂けない。実はグリフォンの時も、そういった部分は開発部から突っつかれていた。
(森里さんが仰った事から考えても‥‥どちらを選んでも帰結する問題は一緒という事よね)
 意見も出終わり、大分辛味慣れした選択のカレーと顔色を変えずに向き合う冬子。
 現状では辛味が勝って旨味が得られ難い。つまり能力という方向性がある為に、その活かし方で全体の纏まりに支障が出ている訳だ。
 例えばこれに極限まで辛さを増したとしても、そういう客層は得られるだろう。しかし総合的に見て‥‥一皿の美味さとして‥‥当然誰もが口に出来る物ではない。
 しかし旨味を優先する為に辛味を置き去りにするのでは、その一皿に対して向けられていた愛着を、やや離れる事になるという危惧もある。
(辛味を活かしつつ、食べやすく‥‥)
 冬子の中で、上に伝えるべき内容は定まっていった。
 それをメモに取る前に、口を押さえて涙ぐむ来栖の為に水を取ってくるのが先だったが。




○丸味

 ピュアホワイトの情報量は多い。
 基本的な操作はもちろんAIが補助してくれるが、ECCM型の電子戦機のように、ただ其所にいるだけで効果を発揮する機体ではない。
 エミタの感知した慣性制御、その感知を機械が電子的な情報として翻訳し、抽出した情報は球体コクピット内壁のスクリーンに表示される。
 更に画面上ではESM本来の働きである地図照合情報、機体の認証・識別・記録・更新が行われ。また、一般機同様の自己管理項目も含まれる。
 前線同様の操縦を行いながら、後方で画面だけに集中するオペレーターと同様の判断が強いられる。そういう機体だった。
「すべすべ‥‥ぺたぺた‥‥」
「あ、動かしますよー。危ないから退いてくださいねー」
 元々、ピュアホワイトは多数を量産する機体として計画付けられていない。
 グリフォンのようにそれ単種での編成、またはペインブラッドのように少数個班として動くような物ではなく、一つの小隊に一機だけ存在していればいいとされていた。
 船頭多くして船山に上るという言葉があるように、情報を一手に担う力があるなら、その手は一つで良い。
「警備の人に駐機の誘導、御願いしてきたわよ」
「あ、ありがとうございます、百地さん」
 技術者の傲慢でもあり、自負のような物だ。使用者である傭兵の意見は取り入れたが、コンセプトは固持している。
 それでもサヴァーの登場により、まだ市場を注視すべきという動きが出るのは、企業という物の性だろう。
 後に控えるプロジェクトの為、ダルダ財閥の各プロフェッショナルが集結した会議室の眼下で、ピュアホワイトの装備検証が始まっていた。
 傭兵の要望を見るに、比較的中負荷まででも独自性を求められているのだろう。
 試験場の片隅でフルフレームの除装・換装やファランクスの砲身を取り替えながら、機体が送り出されていく。
 必要とする意見の多かったビーコン銃とカメラ銃、エスコートライフルとカメラガンも急ぎ運び込まれていった。
「さぁ、リストレイン。お前の兄弟の力、確かめるとしようかぁ」
「あまり損傷しない程度にですね‥‥」
 レインウォーカーのペインブラッド、鈴葉の雷電の2機に対し、ピュアホワイトも2機。
 ペインブラッドとは同アーキテクトを共有する兄姉機と言えなくもないが、高いリソースを何に振り分けたかでそのスタイルは完全に別たれていた。
「先ずは使ってみないと何とも言えないな」
 マルチベイハンギング・コンポジットウイングブースター・ティアードスカート。無駄に長い所為でもっぱらスカートとしか呼ばれない推進機能に始まり、ピュアホワイトのパーツは全体的に緩い丸味を帯びている。
 その彫像然とした機体を操るのは、まず最初に須佐とカグヤ。後に続く希望者は観測室で順番待ちをしていた。
 ピュアホワイトの両手に攻撃型フォトンオーブと、防御型フォトンオーブが装着され、作業車輛が離れていく。
 防御型も攻撃型も、基礎的な設計は同じ。手甲部を覆うような装着基盤は未塗装のガントレットを共有している。ただ一つ、中央部に固定されたフォトンオーブの色が違う。
 化学的な結果としての色味ではなく、あくまで商品識別の為に着色しているだけだが。
「使えたもんじゃないな‥‥」
「使い方が悪いだけ、なの」
 異質な使用感に戸惑う須佐と、その篭手の輝きに満足げなカグヤ。
 鈴葉の雷電が放つレーザーライフルは、空中に放射されたエネルギー体と衝突してその威力を減衰されていく。一方で、スラスターライフルのような実体弾への影響はそう大きくない。 
 普通の盾と異なりどこまでが防御面であるかも定かではないその障壁、一瞬しか発生しない防盾の扱いに苦労しているようだ。
 防御型フォトンオーブ、シェルオーブ技術はMSIの中でもまだ未完成の部類に入る。
 と言うより、この場にある装備品はすぐに調整を行う為、リミッターすら掛けられていない物が殆どになる。
 それをテスト用に渡すのも冒険ではあるが、正規品ではない分かえって操縦練度に拘わらず上手く扱う者もあった。
 そうして発見された使用法や駆動の影響具合は、シエラ・テルミナータル(gc7484)が収集していく。その映像記録にもショートライフル型のカメラが役立てられていた。

 テストは空戦に移行し、新居と来栖がピュアホワイトに、森里、鈴葉、レインウォーカーが三方向から自機で迫る。
 煙幕に紛れた森里のアンジェリカ。彼の要望で、視認範囲は限りなく狭い夜間に時間は移っている。
 周辺の光源は落とされ月もなく、安全の為に点された誘導灯を眼下に、空を照らす物はない。
 複合ESMに付随する撮影用のカメラは暗視装置のようにも働くが、煙幕が赤外線を遮っている為対象は捉えられない。
 実際、非慣性制御機に対するピュアホワイトの弱点を露呈した事態ではあったのだが‥‥森里がラージフレアを併用した為に、逆に解決の道は開けた。
 新居が周辺索敵を続けて残りの二機を引きつけたまま、来栖がロータス・クイーンの精密スキャンモードを起動し、目標の歪曲点、ラージフレアの攪乱波を更に発生中心地点にまで絞り込んでいく。
「うにゅ‥‥よーく見えますの」
 少しずつクローズアップされていく目標の中央。重力波攪乱の中心を感知した複合ESMを頼りに、来栖がビーコン銃を撃つ。
 程なくしてレーダー上に光点が灯る。移動の様子から、アンジェリカに着弾した事は間違いなかった。
 精密スキャンモード『ディストーション・ファインドアウト・システム』の使用の余波か、画面の凝視のし過ぎか、疲弊感に襲われる来栖に変わって新居が前に出る。
「目標登録、確認しました。ミサイルでやってみます」
 追い縋る雷電とペインブラッドをブーストでかわし、新居のピュアホワイトが光点に向かって分離式ミサイルを射出する。
 目標を包み込むように迫る子機ミサイルのエネルギー炸裂。衝撃が煙幕を解き、その姿を露わにする。
「なかなかできるぞぉ、お前の兄弟」
 流石に2対1の追い込みに対応するのは難しいようだが、1対1であれば基本状態のペインブラッドとも良い勝負ができる。
 新居のピュアホワイトが森里のアンジェリカに対応している間、来栖のピュアホワイトは残る2機にレーザーガンのファランクスを向け続けていた。
「うーん、お堅い」
 ファランクス程度の攻撃なら物ともせずに接近できる雷電だったが、フルフレームを纏ったピュアホワイトも硬い。
 身持ちが堅いという表現とは違うのだろうが、装甲面に加え内装系の緩衝構造がダメージを中に徹しづらいようだ。
 一通りの兵装を試した所で燃料も半分を切り、順番に着陸していく傭兵達。
 夜間のテストという事で心配になった冬子がパイロットスーツ着用で出迎えたが、いずれも杞憂に終わったようだ。
 もっとも、最大の惨事はこの後に起こるのだが‥‥‥‥






○ごみ

 とりあえず誰か管理人に怒られるという事を危惧しなかったのだろうか。
 それなりの大人数が一部屋に押し寄せたものだから隣人が大家に通報。更に大家が静香に通報。
 姉、大いに叱る。妹、理由はともかく謝る。鈴葉、こっそり入手した静香のプライベートアドレスを没収される。
 ミリハナク(gc4008)の手によって組み上げられかけていた焼却炉は撤去され、それに荷担した何人かの割といい歳した大人が頭ごなしに怒られている。
 個々の善意は確かに冬子の生活能力を向上させる筈だったのだが。
 如何せん、何か床以外に踏み抜いてはいけない物を踏み抜いてしまったようだ。
 嗚呼、元の木阿弥。
 しかし幸か不幸か、冬子はひとまず荒れ果てた部屋からの「現状復帰」を憶えた。今後二度と使いたくはないだろうしまず机が窓から宙を舞うこともないだろうが。
 来栖に慰められ、百地に励まされながら、冬子の家事強化は続く。
 枠ごと開け放たれた窓からの風が、付箋の付いた料理本と家事マニュアルをぱらぱらと捲っていった。