●リプレイ本文
○空から陸へ
「アルファ1、エンゲイジ」
竜の島に、不死鳥が飛来する。
共に先行する伊藤 毅(
ga2610)と三枝 雄二(
ga9107)。
「それ、アルファ2FOX2! お花畑っす」
「アルファ1、FOX2」
火竜型のキメラに向かって放たれたAAM。戦闘機に比べれば鈍足だが、小回りの利く生体のキメラは身を捩ってミサイルを抜ける。
逸れていったミサイル。しかし本命は其方ではない。
竜の強靱な鱗をライフルの掃射が薙ぎ払い、散らしていく。
身を捩った体勢の竜はそのまま海へと落下していった。
「空は狭い‥‥エスコートするよ」
「‥‥ククッ、商魂逞しいじゃないかMSI。俺は好きだよ、そういう奴等はな」
ウラキ(
gb4922)やグロウランス(
gb6145)らが脇を固め、MSIの本隊が空戦域に入る。
砕牙 九郎(
ga7366)の雷電が、その機に浴びる炎や雷の分だけ敵を引きつけ、誘い出す。
「お仕事お仕事♪ 狩人さんは竜だって狩っちゃうよ♪」
アルテミス(
gc6467)のマリアンデールが、上空に一直線の火を画く。
その猛威は生物の本能を挫くには充分な物だった。少なくとも、雷電に一つ焦げが増えた事に比べれば余りある。
警戒か、脅えたように引き下がる竜の活動範囲。
「そこ行くキメラさん。一突きいかがでゲスかな?」
動きの滞った所を狙い、最も大型の個体に向け、夏子(
gc3500)のスカイセイバーが空中で機槍を奮う。
リーダー格の個体が体を崩し、地に落ちた事で、空の気勢は一気に傾いた。
ハルトマン(
ga6603)のサイファーに護られながら、音影 一葉(
ga9077)のワイズマンが着陸、アンテナを展開する。
本来はここで作業用品の仕度を始める所だったが、予定していた機体は到着しなかったようだ。
音影は護りをハルトマンに任せ、データ整理の準備に取りかかる。
空から陸へと移りつつある戦力。
フェリア(
ga9011)や立花 零次(
gc6227)らといった地上戦力、MSI所属の部隊も展開を開始している。
「ゆっくり相手してやれなくて悪いが、こっちも時間がないんだよ!」
那月 ケイ(
gc4469)のパラディンが槍を構え、吐息を放とうとする竜の顎を叩き上げる。
頭上に迸る炎をかいくぐり、同じく熱量を持つヒートディフェンダーが火炎の根元を突き刺す。
パラディンと組み合って暴れる竜の額を、Letia Bar(
ga6313)のディアブロがライフルで射抜いて仕留めた。
「ケイ君、無理しない!」
発掘部隊の前に立とうとする那月を追って、リロードを急ぐLetia。
戦力中央に位置する本隊から少し離れて、第一班、第二班所属の部隊も陸に降りた。
「ツインテは絶対! 緋本かざね、いっきまーすっ!」
近隣に降りた本隊の一部をカバーするように、緋本 かざね(
gc4670)のアッシェンプッツェルが槍を掲げる。
「行きますよー! 突! 激! ですー!」
「出過ぎはよくないんですよ!」
それまで盾を構えて距離を維持していた六花が、慌てて高分子レーザーの射撃にPRMシステムを併せる。
緋本の突撃が吉と出たか、その場にいたキメラを押し返す事は出来た。自慢のツインテール装飾は噛み痕だらけになってしまったようだが。
「援護しますよ」
「悪ぃな、手を借りる!」
二班の隊長機アヌビスに、抹竹(
gb1405)のアヌビスが並び立つ。
本隊や第一班にに比べれば、試作品や改造機の集まりである二班の戦力は不安定だった。
それでも傭兵の手を借り、地道に敵の脅威を取り除いた後は、埋まった倉庫の掘り返しに成功している。
「‥‥で、あれは何だ?」
降下後の部隊を纏め、傭兵達との連絡を終えた部隊長が指す。
何やら木の棒と布を組み合わせ、何かを作っているような気がする時影 円蔵(
gc6550)。
「忍法むささびの術でござる!」
この島一番の高台から飛び出したは良いが、素人作りの凧もどき。
一瞬浮いたようにも見えたが、単純に、海風に攫われていっただけだった。
○陸から地下へ
かつて主要な進行ルートであった地上の開閉部分は、島のひずみに巻き込まれた形で歪んだ壁と成り変わっていた。
M2(
ga8024)やLEGNA(
gc1842)の地殻測定によれば、その辺りが人工物である事は間違いない。
固定部分の溶断はすぐに済んだが、大小の岩が偽装として上に乗っている事もあり、KVでも持ち上げるのには苦労しそうだった。
「ドーザー持ち! スコップでもいい、2・3機併せて壁を持ち上げるぞ!」
本隊指揮官がまるで土木屋のように叫び、九条・護(
gb2093)、九条・嶺(
gb4288)、九条・葎(
gb9396)ら姉妹やフィン・ファルスト(
gc2637)、ハンフリー(
gc3092)らが集まる。
「お宝目指してえんやこらー♪」
壁の隙間にスコップを突き刺し、テコの原理で押し開ける。
半ばほど開いた所で、鋼の蓋をドーザーに載せ上げたクノスペが邪魔にならない所に捨てていく。
「まぁ、実態はこんなものか」
土埃に巻かれながら、開かれた地下への道を見下ろすハンフリー。
安全を確かめた藤村 瑠亥(
ga3862)達を筆頭に、歩兵部隊が宝探しを始める所だった。
以前の侵入に比べ、灯りもなければ土靄も酷く、環境は劣悪。
閉鎖された隔壁の内、こじ開けたか迂回した通路を選んで地下深くへ進んでいく。
動く者は感じられないと思った地下部だが、中層の指令区画を抜け、海へと近づく下層に入ると、這い寄るような気配が足下に感じられた。
大部屋が続くが、どの部屋も雑多な略奪品やゥイーヴスの趣味の品らしく、めぼしい物は見当たらない。
最後の扉に手を掛けるが、開かない。電子ロックは死んでいるようだが、地堂球基(
ga1094)が機械的な部品を取り外してみても、びくともしない。
どうやら、建材と扉の歪みが強固に噛み合っているようだった。
唐突に、藤村が閃光手榴弾のピンを抜いて見せた。ラナ・ヴェクサー(
gc1748)に見せるような素振りだった。
炸裂する手榴弾。ラナはその発光を『背中で』受け、ランタンの灯が届かない天井に潜む影に躍りかかる。
不意を突くつもりで不意を突かれた天井の影は顔面を小太刀に裂かれ、床に落ちる。
ヤモリのような竜だった。口に蓄えた毒液は、暗闇から吐きかける積もりだったのだろう。
5m程の体躯にラナが駆け上がり、藤村と共に素早い斬撃を繰り広げていく。
全身に傷を負ったキメラは渾身の力で藤村を押し潰そうと迫るが、その場から瞬時に消え去った藤村にさえ気付かないように壁へと激突し、そのまま息絶えた。
激突の拍子で扉の歪みは外れたらしい。倉庫には、やはり慣性制御装置と思しき機材が納められていた。
埃の積もったそれは思ったよりも重く、同行の回収班が手分けして運搬する事になった。
荷を背負って無防備な彼等を守り、ユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)が注意深く目を走らせて誘導する。
その帰り際、目の端に光の反射を捉えたユーリは、その光が何かを透過して差す物だと感じて意識を向ける。
硝子か何か、除き窓のようだった。視線より遥かに上へと高いその大部屋は、天井に裂け目があるらしく、そこから光が差し込んでいる。
照らされる様子からすると、陸上発着用の格納庫のようだ。
直ぐさま報告を行うユーリ。駆け付けた草壁 蛍(
ga4708)のアヌビスによって天井の裂け目は瞬く間に叩き割られ、ワイズマンから座標転送を受けた回収部隊が降り立つ。
丁度九条ら姉妹が重ねていた地図と近い地区だった為、岩盤層の調査は事前に済んでいた。縦穴に便乗し、地図を頼りに掘り進めていく。
施設の壁を叩き割って現れた物は、組み立て途中か、はたまたゴミか、何か分からない部品も纏めて形の残っている物は葎のクノスペに詰め込んでいく九条姉妹。
彼女らの採掘も終わった頃には、藤村達も地上に出て、体に積もった埃を落としていた。
怪我人は居ないかと駆け寄るザ・殺生(
gc4954)だったが、彼のテンションに反して、その必要がある者はいないようだった。
「こちら【G10】聖王母への搬入護衛に入ります」
エシック・ランカスター(
gc4778)のリンクスが、焼けた銃身のガトリングを降ろして荷役に切り替える。
「エシックさんの背中は美空が護るであります」
それまで彼と2人で遠距離に潜む敵を牽制していた美空・桃2(
gb9509)も、迎撃用のライフルに持ち替える。
途中、アルテミスが補給を求めて西王母にやってきてがっかりする場面もあったが、積み込み作業は滞りなく進む。
神棟星嵐(
gc1022)のミカガミや立花のシュテルンが出入り口の守りを固めている間、地下から運び出される品はセルニオ(
gc6733)やキラ・ヤマト(
gc6756)ら新人の手伝いも受け、次々にM2の西王母に運び込まれていった。
空陸はほぼ制圧してる。岩肌の隙間に逃げ込んだキメラ達が時折顔を覗かせるが、攻勢に出る気配は無い。
家主の居ない環境では、多くがKVの敵ではなかった。
○海から地下へ
「こっち側の空は静かですね」
海上からソナーブイを投下しつつ、グリフォンのコクピットから見える空を眺めるリュドレイク(
ga8720)。
空戦部隊の活躍もあって、島を挟んだ対岸の空には敵の姿は少なかった。
それでも、海中に投下したソナーブイは敵の反応を拾っている。
地図上は競合地域だが、キメラの生息数も考えれば実際はバグア海軍の環境下。
里見・さやか(
ga0153)のリヴァイアサンが島周囲を索敵すればする程、潜在的な敵の数が浮かび上がる。
ソナーを残し、ゥイーヴスの飛び去った方角を警戒してはいるが、ソナーブイは度々鮫キメラに囓られ、破壊される。一ヶ瀬 蒼子(
gc4104)らもソナーブイは置いていたが、完全な注意を敷くのは難しかった。
「確か、海中通路がありましたね。もしかしたら、まだ通行可能な可能性もあるかな?」
クラーク・エアハルト(
ga4961)の呟きに答えるように、リック・オルコット(
gc4548)がロシャーデ・ルーク(
gc1391)と共に海浜間際の陸上を爆撃し、道を示す。
航行する機体の無くなり、調整用の水門も稼働しなくなった事で棲み着いた飛竜種のキメラ達が、ロケット弾で海に叩き落とされていった。
「出てきたか」
爆撃の音に釣られてか、地下海への洞窟から海竜キメラが現れる。
アルヴァイム(
ga5051)のリヴァイアサンが小型魚雷を放ち、その爆音が更に敵を引き寄せる。
鋸刃のようなヒレや鱗を擦り付けて攻撃してくるキメラ達。
「楽しい狩りの始まり始まり〜♪」
翻るレーザークローが、水中で竜を刺身にしていく。オルカ・スパイホップ(
gc1882)のリヴァイアサンは練剣とレーザークローを両手に、接近攻撃しか持たないキメラ達を切り伏せていった。
「ソナーブイに、大型の敵反応!」
何点かのソナーが同時に感知した敵の姿。
リュドレイクのコールでMSIの水中部隊が一旦下がり、アルヴァイムとクラークが海門近くでその気配を伺う。
「でかー!」
少し離れて見ていたオルカからは、その頭しか見えていなかったが、それだけでもKV程のサイズはある。
まるで通路にすっぽりはまっていたような巨躯に、鰐のような顎。
その横っ面をひっぱたくように、アルヴァイムが魚雷を発射した。
振り向く大口を引き寄せ、しかし呑み込まれる事の無いよう、海流を切って注意を引きつける。
「テストの相手にしては‥‥」
一ヶ瀬のリヴァイアサンも含め、3機のリヴァイアサンとクラークのビーストソウルが次々に魚雷を放つ。
一発一発は微力な魚雷だが、何発も叩き込む事で牙は折れ、ヒレの動きも弱っていく。
「セドナ、いっけー!」
牙の隙間から、口腔に叩き込まれる高速魚雷。
「魚雷じゃ〜! しゅるしゅるどかーんなのじゃ!」
盛大な爆発に、キロ(
gc5348)がはしゃぐ。
結局、その鋭い牙は一撃もアルヴァイムを捉える事はなく、海の底へと沈んでいった。
海底の留守番が居なくなった後の海中は、静かな物だった。光源に照らされ、微少な海洋生物が漂っているのが見える。
上蓋が落ちたように、かつてビッグフィッシュが停泊していた港には巨大な岩塊が幾つも転がっていた。
暗闇を探りながら、傾いだ岩の狭間にKVが通れるだけの抜け穴を見つけるまで、やや時間が掛かった。
そんな中、建築用の物とは異なる折れた建材のような物を、が発見した。
前回の戦いで真っ二つに叩き割られたビッグフィッシュの残骸のようだ。
「魚雷を使いたかったのじゃが‥‥」
その中から機器を掘り返そうとするキロだったが、パピルザクに積んだ魚雷では周囲に与える震動が強すぎる。
仕方なく、その両のハサミで岩を掴み、慎重に退けていく。
キロとオルカが協力してビッグフィッシュの残骸を調べている間、アルヴァイム、クラーク、一ヶ瀬は港へ上陸した。
主にビッグフィッシュへの搭載が予定されていた機材なのだろう。中には人類側から鹵獲されたと思しき機体もあった。
搭載力に優れた機体がその場に無く、泣く泣く見逃さざるをえない物品も幾つかあったが、積み込み前のワームから装置の回収には成功する。
港の隅で、クレーンに括られたままのコンテナの蓋を引き剥がし、中を改めるクラーク。
「‥‥これは是非にでも持ち帰りたいですね」
ここまでで回収できた物は、どれもHW搭載用の小型装置ばかり。
しかし、これはおそらく艦搭載用、積み込み前の物なのだろう。中型の慣性制御装置が、新品の状態でコンテナから取り出される。
「持てますか?」
「‥‥リヴァイアサンなら、人型でも持っていけるな」
ビーストソウルの耐水圧装甲では、人型で物を抱えたままでは再度の潜航はできない。
一応、基地側から陸に出る手段も探してはみたが、施設の破壊に巻き込まれた部分が邪魔となっていた。
「‥‥駄目だ、倒れたシャフトで扉が塞がってる」
「鬼の居ぬ間のなんとやら‥‥ココ掘れワンワン、首尾よく見つけたら後はスタコラサッサ‥‥って、何?」
外を警戒していた里見からのアラートが、敵の接近を報せる。
地上に繋がるルートは絶たれていたが、中型装置はリヴァイアサンで運び出せる。水没したビッグフィッシュの残骸と、地下港倉庫からも装置は得られた。成果としては充分だろう。
酸素残量と時間に追われるように、傭兵達は再び海へと潜った。
○島から島へ
軍用管制装備を取り付けたC型グリフォンが、音影機と2、3の打ち合わせをして離れていく。
その機体と入れ違いに、様子を見に来たハルトマン。
「んっ、こんにちはなの♪ 音影さん、今どのあたりまで作業は進んでるのです?」
「回収は概ね終わって、帰る準備をしているみたいですね」
既に大半の機体、採掘班は本隊と合流し、殿を勤める機体が必要な範囲のみを護っているような状況だった。
予定していた兵数よりも多い、と言えば単純な話だが、ここまで大きな損傷を負う物が無く、全機の稼働率が高い事が、作業効率を高めていた。
歩兵を拾い上げた輸送機は、護衛を伴って先に帰還していく。回収した歩兵の中で、何故か唯一びっしゃびしゃで磯臭い時影が、MSIのメディカルチームに奇異の目で見られている。
その反応が遠くに消えるのと入れ替わるようにして、その姿は現れた。
「‥‥大型の機体が接近中、なの」
「あれは‥‥ビッグフィッシュか?」
通常型に比べれば細く窄まった胴部と、長い尾。
そして慣性制御機には必要と思えないような、大型の主翼。
それが竜を摸しているのであれば、間違いない、島の主が帰って来た。
「開口部からフォウン・バウを確認‥‥それともう一機!」
「ゴーレム‥‥改造型、なの?」
「よし、急いで離脱を。管制! ‥‥聞こえるか、管制!」
攻撃ポジションをG放電装置に切り替えていたロシャーデが、機上から目を凝らす。
カグヤ(
gc4333)の斉天大聖は、強い反応を探知している。
細身のゴーレムというのであれば前例もあるが、その機体にも矢張り大型の翼が付いていた。
「ジャミング強度、急速上昇中。あの機体による物と思われます」
「‥‥妨害が強すぎるの。これ以上の中和は難しいの」
「電子戦機って事でゲスかな?」
雑音だらけで返事の乏しい無線に呟く夏子。
カグヤは機体を一旦下げ、支援位置に移ろうとする。
その横を、物凄い速度で飛び抜けていく機体があった。
「愛しい愛しいゥイーヴスさま、私と遊んでくださいな」
フォウン・バウを狙って放たれたミサイル。
500発の大半は目標に到達する前に、横槍の拡散プロトン砲に遮られて爆散する。
続けての8.8cm砲は割り込んできたゴーレムの翼を直撃したが、敵は怯まずに砲撃を返した。
『貴女のようなお客様は、お取り次ぎできません』
正面からの大口径砲の撃ち合いに、双方が激しく機体を傾がせる。
重力子砲の直撃から機体の制御を立ち戻しつつ、行く先を遮る機体に咆えるミリハナク。
「な、何ですの!」
「‥‥フォウン・バウは降下していくの。ミリハナクお姉様、無理はよくないの」
ヘイルを始め、多くの機体が護衛体勢を整えている隙に、フォウン・バウは速度を緩めず、地上に降下していく。
キューブワームクラスの妨害に見舞われた通信は、辛うじてワイズマンが繋げている。
欠いた連携を取り戻そうと、砕牙がゴーレムの翼を狙う。
黒い闇のようなフィールドが銃弾を阻害するが、そこにウラキやリック、ロシャーデの機体も合流する。
「味方はやらせない。‥‥薬莢は、幾らでも置いていく」
「狙い目‥‥っだな!」
『あぅっ‥‥!』
多重掃射はフォースフィールドを突き破って降り注ぎ、砕牙の放ったミサイルが急所を直撃してゴーレムは降下していく。
多くの空戦機はMSIの輸送機を護衛しているが、まだ陸上に機体は残っていた。
「うひーっ、ごめんなさーいっ!?」
接近の一方から、直ぐさま離陸して本隊に合流していくフィン。
「まだ無敵フラグ取れて無さそうだし、相手したくないのです! ぽまーど、ぽまーど!」
接近するフォウン・バウを前に、フェリアも何事かを叫びながら撤退していく。
その相棒である魔宗・琢磨(
ga8475)はガンスリンガーをバレットファストに切り替える。
前方頭上から接近する敵機は、魔宗を無視して後方、フェリアのアヌビスを踏みつけるようなコース。空中で変形し、そのまま脚の爪を開いてくる。
「耐えろよトゥールティースッ! 根性ロボのど根性、竜の親玉に見せてやれッ!」
翳したアイギスに着地するフォウン・バウ。脚部ヒートクローに盾がもぎ取られ、衝撃に煽られる機体。
あっさり逃げていった相方を背に、遭遇してしまった敵を前に。
「助太刀御免ーっ!」
功刀 元(
gc2818)が仲間と共に駆け付け、横撃を掛ける。
「よし、後は任せた!」
ガンスリンガーがガンスリンガーにバトンタッチし、魔宗機は離脱。
ダブルリボルバーの銃撃を合図に、LEGNAのディアブロが跳躍し、斬りかかる。
「レッドク――」
その動きを防ぐような形で、フォウン・バウの右腕が開く。
プラズマの膨張がLEGNAの視界を遮った次の瞬間には、装甲表面を焦がされたディアブロが、功刀のガンスリンガーに重なるように倒れ込んでいた。
AECの電磁効果により大きな影響を受けないでいたネオの目には、その一撃が腕の一振りによって起こった事と、その攻撃に加減があった事が見えていた。
『つまらん連中か‥‥』
右腕部から放たれるプラズマが、今度は爪の形を取ってネオのシラヌイに向けられる。
『用事が済んだのなら早々に帰れ。この島にスクラップを飾る気はない』
「本気‥‥らしいな」
LEGNAのディアブロが自力で立ち上がるのを確認し、三機はゆっくりとフォウン・バウを離れる。
ゴーレムが空から落着してきたが、その機体も、戦う意思を止めたようだった。
「MSI所属の全機、離脱を確認しました」
音影の通信に続いて、西王母やクノスペが離脱し、殿を勤める機体が次々に離陸していく。
地下から脱出した海中の部隊は時間の上では最後尾となったが、重粒子の熱プラズマも、耐熱合金の脚も、水の中では半減以下となる。
ゥイーヴスから視認は出来ている筈だが、追撃の気配は無かった。
『止せ、プラネテス』
『! ‥‥お許しになるのですか?』
常々、努めて冷静を保っているが、裏を返せば短気な末縁の部下。
放っておけばミリハナクを追い回しそうな所だ。
『力のある者から力を盗む、何処でもありふれた事だ。これ以上追走した所で石頭の叱責は変わらん。それに比べれば‥‥』
いかにバグア上位の機体とは言え、傭兵達も数が数だ。仕打ちに激昂して無策で挑めば当然負けも有り得る。
そういう判断のある以前に、ゥイーヴスには優先すべき事があった。
『仕度を急げ』
『‥‥はい』
揚々と帰路に付く傭兵達の機体を、赤い目がじっと捉えていた。
○報酬分配
MSIが管理する港へと舞い戻った部隊は、そこでひとまず積荷を降ろした。
重要な機材である慣性制御装置。その行き先を辿られぬよう、ここから先は専門の輸送部隊が請け負う事になる。
総合個数も機密である為、傭兵達にその子細は明かされなかったが、ひとまず各部門が潤うような数は得られたようだ。
本社は慌ただしさを増し、人の動きが尚更活発になっている。
「失礼する。ヴァダーナフの‥‥」
「おっと、御免よ!」
LEGNAの訪れた第一班は、得られた物の解析に慌ただしいようだった。
DEX−666、ヴァダーナフの簡易なデザインが描かれた資料はその場にあったが、LEGNAには、それがどういうシステムを表した物かまでは分からなかった。
いずれの傭兵達も、MSI本社にある施設で充分なメディカルチェックと治療を受けた後、それらに増してCEOが注力したカフェテリアとレクリエーション施設で戦いの疲れを癒していった。
その中には据え付けのバーもあったが‥‥
「一番良いミルクを頼む」
「通常の物から無脂加工乳、水牛のミルクも御座いますが」
素で返したような、バーテンの挑戦的な営業スマイルに、グロウランスは微妙な顔をしていた。
隣でウィスキーを飲んでいたリックは、ロシャーデに勧める物を考える顔をして、努めて笑いを堪えていた。