●リプレイ本文
○第一班の場合
次世代型ディアブロ、その企画の為に会議室に集まった傭兵達。
仮、の付いた図案と資料が配られ、手伝いの百地・悠季(
ga8270)が座を整える。
「じゃ、此処での決定を元にすぐにでも設計を纏めたいので、手早く初めてしまいましょう」
出迎えたのは、まだ若い18、9程の顔立ちの青年が、40中頃の部下を従える、そんなスタッフ構成だった。
ぱん、と手を一つ打ち、先ずは基礎性能の補正案から話を始める。
前提としてディアブロの傾向を継ぐとは言え、火力に比べて生存力が劣る事はよく言われる事だった。
概ねその辺りの事は来るだろうと、スタッフ側も予想はしていたのだが。
「現行機に比べて生命も練力も物足りなさを感じる。後は回避の高い敵エースに対抗する為に命中を補強して、補助ブースターも付けて機動性の改善を‥‥」
燃費を上げたいのか下げたいのか、ヘイル(
gc4085)の言わんとする事は分かるが、スタッフの手はペンに触れない。
「ディアブロは装甲、運動性のどちらもイマイチだったので、後継機では耐久性をあげて欲しいですね」
カイト(
gc2342)の意見はどちらかと言えばヘイルと逆、重装甲でも構わないという所だろう。
「あと、知覚は捨てて、攻撃に特化するとか‥‥」
それじゃアヌビスだろう、というのは誰もが分かっているので言わなかったが。
「耐久は概ね同意見かな。じゃあ、他行こうか」
時代は拡張性、と主張するのは漸 王零(
ga2930)だった。
「アクセスロットが多い方が搭乗者の個性を出しやすく、今後アクセ5が標準になる気がする」
「‥‥ならせめて希望以外の提示を‥‥」
何の資料も裏付けもない『気がする』に、流石にスタッフも失笑する。
「はぁ、次‥‥はい、そこのディアブロ少女の君」
席の前に置かれた目印。紅茶といい、私物か。
ロジャー・藤原(
ga8212)。資料に依れば搭乗歴は長い。使い込んでいるようだ。
「攻撃力はやっぱり空陸最高、竜牙を越えてないとな。あとフレキシブルスラスターはX」
「エックス? ‥‥こう?」
手を交差させ、×を作るスタッフに、頷くロジャー。
「後は漸のスタビライザーも格好良さそうだな。プロペラント兼用なら、邪魔にもならないだろ」
まぁ、分かるか‥‥という顔をしつつも、やはりXには引っ掛かっているスタッフ達。
ひとまずそこは取り置いて、次に回す。
「‥‥自分はこの機体に、新しい血を入れてみてはどうかと思います」
指名された趙韓良(
gb5179)が起立する。
ジャガーノート側の解説を挙げつつ、彼の提案は
「『変形構造をシンプルに』という考え方を取り込んで機体を作れば今まで変形の為にどうしても弱くなってしまった部分やフレームなどの基礎部を強化する事が出来、基礎性能の向上に役たつと‥‥」
「ならないね」
すっぱりと否定された。
面食らったように言い止まる趙。
「先ず第一に、シンプルの取り方を間違えてるかな。アヌビスが機能分離によって得た物は基礎駆体部の剛性であって、ただ変形のみを見るなら、稼働点数はディアブロと良い勝負だ」
同僚に肩をつつかれ、止められているにも構わず、否定は続く。
「変形時の稼働点数を引き下げるのであれば、機能の合一化を避けて部位を増設する事になる。自ずから、フレーム増強などの余裕も減る。考え方を取り込むといっても? 基礎設計段階からの見直しはそれこそ血統の配合、貧弱な駄馬が産まれるかもしれない。調教するにもこの期間じゃあ間に合わないね」
「あ‥‥あとちょっとMSIの人に聞きたいのですが仮にこういった後継機が出た際にいままでその機種に乗ってた人が安く借りられるという特典とかついたりしませんか?」
「販売の事はULTの管轄かな。次」
「私の提案内容はOS関係でございます」
それまで百地の補佐をしていたティームドラ(
gc4522)が、手空きになったのを見計らって手を挙げる。
「パイロットの操縦入力と思考統計を監視しながら行動の未来予測を最適化する事で予備動作から操作入力された機体制御の実行まで、タイムラグほぼゼロという即応性を現実の物とします」
断定する形に、怪訝な顔をするスタッフ達。
そんなアンダーバッファ機能がKVの操縦系、あるいはAI側にあるとは聞いていないが。
「実現の為には高性能並列処理能力を持つコンピューターが必要なりますが‥‥」
「‥‥じゃあ、完成した頃にまた来てよ。次‥‥え、書き置きが来てる?」
時間の重なっている二班の会議にも出席中の白虎(
ga9191)から、「一度に全部使い切ってでも、超高出力をだすのだ!」の言葉と、パラジウムバッテリーを用いたフォース出力強化の案が。
これに関しては賛同者多数、バッテリーの用途を練力の代替か、出力の増強に振るかで幾分かの差はあるものの‥‥概ね、高出力のフォース系スキルという所で一致するようだった。
「‥‥どう思う?」
傭兵達を帰らせた後。羅列されたメモの前で腕を組むスタッフ二人。若い男と、年を経たというよりは、古いと言えるような男。
片方、古い男は、第三班の生き残り組だった。再編の異動に際して、2人の年齢と序列は逆転している。
「願望と現実が一緒くたになってるのが多い‥‥かな、プレゼンの形にもなってない。まぁ、拾える所だけ拾おう」
ひとまず、立体計算の仮組みに使うためのアイディアをピックしていく。
フォース系能力にバッテリーを流用するのはいいとして、スラスター周りのアイディアについては、少し指が迷う。
「尻尾は‥‥要るのか?」
「前の計算じゃ、スラスターの位置の所為で後背部にウエイトが偏ってたかな。背部の装甲を幾らかMFRPにして、翼と干渉しなきゃ、大丈夫だと思う。‥‥まぁ、Xの方は干渉するだろうけど」
「‥‥パラジウムの資料が先か。見舞いの花の届けがてら、行ってくる」
ボードから取った2,3枚のメモと、百地が持ってきた花を手に、スタッフは会議室を後にした。
○第二班の場合
「おぉ、貴方が伝説の存在! ‥‥ゴッドスピードにはお世話になっております」
「い、いやぁ‥‥こちらこそ」
「お前、そっちが趣味か‥‥」
「違いますよ!?」
と、開始前にフェリア(
ga9011)の軽い挨拶がありつつ、第二班の会議も始まる。
「それにしてもジャガンナ‥‥ノートですか。MSI本拠地における最高神の化身名を出すって事は、相当の機体になりそうですなぁ」
「ヒンドゥーの神様で、絶対的な力や存在という意味合いの名前ですわね」
と、隣で知ったかを発揮するミリハナク(
gc4008)。ノーマ・ビブリオ(
gb4948)の用意した菓子類と相俟って、ここだけ空間が違う。
「‥‥悪い、任すぜ」
どうにも纏める自信の無くなった二班仮ボス、シャマがアルヴァイム(
ga5051)を頼る。
「とりあえず知覚は無くていいと思う奴! ‥‥よし、知覚は無視、OK」
性能の基礎方針は、アヌビスをモデルとした物理格闘型で良さそうだ。と、判断出来るだけの満場一致の知覚スルー。
もっとも、リリース当初は格闘浪漫機とさえ言われたような局地戦型。そうそう売りを変えられる物でもないが。
議題は自然と、追加された物であるアレゴリー・グラップル、そしてフレキシブル・モーションに移っていった。
「やっぱり獣化形態は虎がいいかな」
「牛型ですよ」
牛!? と、その場の注目を浴びる和泉 恭也(
gc3978)。
「大型化して、少し回避は犠牲にして‥‥」
「いえ、アヌビスを踏襲するのなら装甲は部分的に、必要並で良いと思いますが‥‥」
しかし何故牛か。インド文化において神聖である事は分かるが。
「‥‥現状、バインダーはシールド機能もあるそうですが、それほどに機能を集中させている部分で受け行動を積極的に狙えるとなると大丈夫でしょうか」
抹竹(
gb1405)の疑問に、少し迷ってから、シャマが図面を取り出す。
「あんま、見せたとか言うなよ。‥‥まだ設計引かせてる途中だが、間接部の都合、通常のシールドほど振り翳せる感じじゃない。確かに『動く装甲』程度の捉え方でいい」
「はぁ‥‥成る程」
折り畳まれた状態から、疑似腕部へ、そして空戦時の推進形態。
図面から読み取れる事はそう多くないが、まるっきり、人の腕と同様に機能するような構造では無さそうだ。
「複数の腕があるなら、連続攻撃とか出来ない‥‥のかな?」
「人型での売りになると良いと思いますの」
「やりたいのは山々だが‥‥AIの処理としては、腕と足同時に突きだして攻撃するようなもんだ。実験次第だな」
多数のアイディアが、二班のやりたい事ボードに追加されていく。
比較的軽いノリで山積みになっていく文字の羅列は、アルヴァイムの尽力で整理整頓されていた。
「そうそう、バスターライフルの担当って、AASだったわよね?」
それぞれの班で会議が終わり、部屋の片付けにちらほらと傭兵が残ったような会議室。
必要な議事録は纏めて貰っている為、手持ち無沙汰を決め込んでいたシャマを、百地が呼び止めた。
「バスター‥‥あぁ、高圧縮プラズマライフルか。いや、AFTが絡んじゃいるが、主体は本社開発だろ」
「今はどうしてるかしらね」
AASの話か、ライフルの話かで一瞬悩んだシャマだったが、机の上にある推奨兵器のアイディアメモを見て判断した。
「ペインブラッドの時期、正式に、軍に対しては売り込みをかけたらしい」
「あら」
「結果は知っての通り、だな。じゃあまた後日だ」
二班の面々を従え、紙束を抱えて去っていくシャマ。
どことなく逃げるような足取りなのは、倉庫にごろごろと転がっている未発売品の山を知っているからだろうか。
○演算サーバーの場合
『よし、これから機体バランスのシミュレートを行う』
青い立方体で形成されたヴァーチャルの空間、余計なオブジェクトのない演算用スペースに、機体が描画される。
会議から数日。構成されたデータの検証が、企画提出までの最後のチェックになる。
二班オフィスに近いシミュレータールームを前日から押さえ、ジャガーノートのデータは入力済みだった。
「変幻拳、虎の型! がおー!」
早速アレゴリー・グラップルを前腕展開し、青い地表を駆けるフェリア。
「がぉぉぉぉ!?」
蹴り脚の稼働がスムーズでないのか、走る度に前後左右斜めに揺れる筐体。
乗り心地は酷い有様のようだ。
『あー‥‥そのまま走っといてくれ。修正データを作らせる』
「お、鬼じゃぁぁぁ、鬼がおるぅぅぅ」
補正データが届くまでの数分間、暴れ御輿に担がれ続ける事になったフェリアの横で、抹竹はダミー相手に通常機動。
基本的にアヌビスの操作感を踏襲しているが、両肩に荷物を背負った分、近接時の切り返しが僅かに焦れったい。
「ここも要補正‥‥か?」
アレゴリー・グラップルの負荷記録には、旋回時の慣性が脚部の摩擦安定性を若干上回る『数値』としてしっかり残っている。
体感で、どれだけのパイロットがそれを感じるかは分からないが。
『いや。‥‥いや、そうだな、耐慣性ロックを段階的に下げてみる。丁度良いと思う振り幅で止めてくれ』
「了解」
『後は‥‥空か』
アルヴァイムの提案で、空戦時にも使用可能なフレキシブル・モーションも、幾らか検討に上がっていた。
フェニックスのように安定装置のあるではない、純粋な推進管理でどれだけの事が出来るか分からないが。今は猛禽類の翼部運動をサンプルに、調整をしている。
三機それぞれのログ蓄積を眺めていたシャマだったが、急に、別のアカウントからの接続情報が画面上に表示された。
『‥‥何だ、一班、こっちにインしてきたのか?』
『環境演算用のサーバーを使う訳にもいかないだろ?』
開発で宛がわれているサーバー室は同じである為、稼働中のプログラムを辿れば(それがプロテクト下に無い限り)シミュレーターと接続されている領域を探り当てる事は難しくない。
容量を食う仮想環境を幾つも立てるより、同一の領域を使う方が他部門への配慮にはなる。もっとも、それが目的でも無い。
相互に競わせ、衝突させる事は禁止されている訳でもない。むしろ、実験好きのテストチームからすれば当然の心理だった。
漸、ロジャー、白虎、三機分のデータが転送・同期され、シルエットが表示される。
『Dタイプ、もうゴーレムにも飽きただろ。フレキシブル・スラスター使用許可、全力推進のチェックを行う』
仮想次世代型、名前はまだ定まらず、テストログには仮称として(D)の文字が当て嵌められている。
背部に増設された一連の推進ユニット以外は、デザインラインに手が加えられた様子も無い。多くのアイディアが出た内燃系の計算を優先した為、外観造形まで手が回っていなかった。
X字ではないが、鋭く細い骨の翼のように突き出た黒いブースターカバーと、腰に増設された尖ったテールスタビライザー。
「これなら木星でも戦えそうだな!」
直進してくる三機。丁度射撃戦のテストに備えていた抹竹とフェリアの間を、スラスターの噴射で擦り抜けていく。
『おい、機体強度計算やってんのか、そんなジェットパック紛いの推力取り付けて、ただで済むと‥‥』
『エネルギー流動量管理は十八番だよ。そっちこそ、今更四つん這いで歩く練習してる場合なのかな』
『テメェ‥‥』
勝手に盛り上がっている管理側画面を他所に、VR空間では悪魔と獣の獲物の奪い合いが始まっていた。
パラジウムバッテリーと強化SES増幅装置を積んだDタイプが一瞬でターゲットを粉砕させれば、追い掛けるジャガーノートはその微細な破片を軽やかに回避して突き進む。
Dタイプの推力系フォース能力と、ジャガーノートの獣の四肢、単純速度で上回るのは、黒い翼の方だった。
陸上では四肢を用いた高速旋回に軍配が上がるも、空のモーションが完成していない状態では追い縋るのも難しい。
アルヴァイムが調整データを受け取りながら更新を重ねているが、Dタイプのデータは単純な推力でもディアブロを上回っている。
第一班が掲げてきた価格帯、相応に上のランクのようだ。
ただ追いかけ回しているだけでは、と、やっとガクガク歩きから解放されたフェリアがDタイプの背を捉える。
「師匠! 新しいフレキシブル・モーションの名前は何でしょうか!」
『よし、その名も‥‥まだ決まってない!』
漸の機体の後ろで、跳躍のまま頭から落着するジャガーノート。
『す、すいません! 帰るまでには考えておきま‥‥がっ』
モニターの向こうから、暴打音が聞こえる。
『OK、企画書に添えるだけのデータは取れた‥‥後は気が済むまで遊んでていいぞ』
第一班、第二班共に企画提出は間に合い、課題は無事クリアされた。
Dタイプは名称検討中、ジャガーノートはフレキシブル・モーションの名前が決まっていなかったが。
パラジウムの調達や追加ユニットでコストの嵩みそうなDタイプに対し、コストパフォーマンスではややジャガーノートに評価が入るも、矢張り『最高攻撃力』という分かり易い売りは高い評価を得ている。
後は軍との折衝、そして実際の建造を待つ、長い戦いを経るのみだ。