タイトル:螂牙 ヶ 盲我マスター:玄梠

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/04/17 19:13

●オープニング本文


「やぁ、『廃棄品』」
 薄暗い格納庫の片隅に、煙草の赤い粒が灯る。
 塗装が剥げ、朽ち錆びる事もなく断面だけを晒した鋼板に、腰掛ける男が1人。
 それに話しかける、少年のような女。年も背丈も男の半分といった感じだが、態度は反比例している。
「タロスまで持ち出して、負けてきたんだって? ま、自己修復も機能しないジャンクでよく逃げれたじゃん」
「‥‥煩ぇな」
 男、ローガが忌々しげに煙草を投げつける。
 灰の落ちる其れを、格上らしい女が指に捕まえ、咥えた。
「僕がもう一寸スマァートなやり方っていうのを教えてあげるからさ。協力しなよ」
「‥‥あァ?」
「宇宙からの引越組が近いんだ。‥‥焦りとか、無いの? 無いか、ゴミだもんね」
 突き刺す言葉に返す言葉を探しているのか、焼けて引き攣れた頬を歪ませるローガ。
 奥歯の噛み合うのさえ見えそうな、筋肉の収縮。
「ビーハイブのコアユニット、まだあったよね。‥‥にしても、これ、まっずいよ。飴のがいいや」
 勝手に咥えた煙草を吐き捨て、スニーカーで揉み消していく女。
 3歩も離れた頃には互いに見向きもしないでいたが、ふと、ローガの頭には浮かぶ物があった。
 がりがりと、欠けた犬歯が噛み合う。





「地下トンネルに異常が発生した」
 いつものように、静香の淡々とした読み上げが始まる。
 今日に限って眉の角度が偉く不機嫌だが、声音に影響はない。
「目標はインド地区、資源採掘エリア。直径30m級のシールドマシンが掘り進んだだけあって、KVでも搬入口経由で侵入可能だ」
 機材搬入用のエレベーターは開始地点の主要通路と、途中の横穴に1つ。シールドマシンのある区域までは数百mといった所か。
 予備電源こそ備えているようだが、それで稼働するのは主要通路の1つのみ。
「シールドマシンはメインの電源設備と直結している為、これを破壊された場合、帰還は格段に難しくなる。速やかに奪還したい所だが‥‥」
 口籠もる静香。
 提示されてきた資料には、もう大した情報も残っていなかった。
 これでは何の為のオペレーションなのだろうかと。愛用のペンでヘッドセットの付け根を掻く。
「全く、ろくな調査もされていないとはな‥‥報告ではモグラ型の大型キメラを中心とした襲撃のようだが、詳細が分からない。十分に注意しろ」

●参加者一覧

セージ(ga3997
25歳・♂・AA
榊 刑部(ga7524
20歳・♂・AA
赤宮 リア(ga9958
22歳・♀・JG
神撫(gb0167
27歳・♂・AA
キリル・シューキン(gb2765
20歳・♂・JG
鹿島 綾(gb4549
22歳・♀・AA
神楽 菖蒲(gb8448
26歳・♀・AA
奏歌 アルブレヒト(gb9003
17歳・♀・ER

●リプレイ本文

○地底

 エレベーターの動き出す音が、狭い構内に響く。
 八機ものKVを支えて稼働する大型のエレベーターは、流石に静音性という意識も無いのかコクピット越しにも耳に障る。
 初期掘削とシールドマシンの為のメインエレベーターとは異なり、側方、建材搬入用途の物だった。
「さてと‥‥何が出てくるやら」
 時折揺れる足場の上で、呟く神撫(gb0167)だけでなく、既に不穏な空気を感じている者は幾人か。
「何が来ようと俺達の仕事は変らねえよ。敵をぶっ潰して帰る。ただそれだけだ」
 セージ(ga3997)も経験上、警戒はしているようだが、様子は変わらない。
 地上から離れ、密閉した空間で下っていく時間。地熱による物か、外気温計は少しずつ上昇に転じている。
「編成よし‥‥隔壁、完全解放まで注意して」
「了解」
 神楽 菖蒲(gb8448)の言葉に、同じく警戒をしていた榊 刑部(ga7524)がミカガミの腰をやや折り、構造の影に隠れる。
 やや大きい揺れがあって、到着を示すランプが切り替わる。
 赤宮 リア(ga9958)のアンジェリカを先頭に、目標の地下部に進行する。
 所々に積み上げられた資材を盾に、目を凝らしながら前進する傭兵達。
 確かに、かさかさと何かが地面を這っているような音はしてくる。キリル・シューキン(gb2765)が地殻変化計測機を設置していたが、感知に触れるような大きな震動ではない。軽量な何かが蠢く音。
 奏歌 アルブレヒト(gb9003)が武器を向け、照準の反応を見ていたが、センサーにも正しく捕捉できないような物を、それに連なる火器管理システムが単独で見つけてくれる筈もない。
 KV据え付けの照明も使い、音のする方向を探る。警戒に困る程の暗さでは無いにしろ、乱雑に放置された積荷が影を作っていた。
 そうして産まれた死角を、警戒しつつ明かしていたミカガミに、鋭い顎が襲いかかる。
「攻‥‥撃っ? モグラじゃない、これは‥‥?」
 目標のそれをブレイドの一方で壁面に突き刺し、標本のようにその姿を晒す。
「キラルだと!?」
 装甲を剥ぎ取る強固な顎に、毒を持つ尾の針。蜂キメラ、キラルだ。
「全員コクピットを守れ、こいつ等の狙いは生身の方だ!」
 続いて飛来する個体をスラスターライフルで払い除けつつ、交戦経験のあるセージ、そして鹿島 綾(gb4549)が、殺人蜂の特性を思い返す。
「情報と違う、これは‥‥?」
「言ったでしょ、嫌な予感がするって」
 道の半ば、と思っていた場所だが、既に踏み込んでいたらしい。
 包囲に備え、固まろうとする機体に、神楽が一定の距離感覚を指示する。
 危険な敵だが、キメラはキメラ。サイズも単体でKVの相手を出来る物ではない。
 物陰に注意を払いつつ、蜂の羽音を追う様に、少しずつシールドマシン側に近づいていく。
 そうして追い込まれたキラルは‥‥頭上の岩に潜り込んだように見えた。
「上‥‥っ!?」
 数機のライトが、ぱっとシールドマシンの上方を照らす。
 地中に巣を作る事もある蜂の性質。それを利用したのか、キラル達の拠点‥‥半ばほどを露出していた前回とは異なり、ビーハイブはその姿の殆どを地中に埋め込み、自然の防壁を備えていた。
「やっぱりこいつも‥‥」
「ハイブ内の核と女王蜂――狙えるか? この状況で」
「センサー‥‥後方に反応!」
 神撫が機体を翻す、が、その方向、エレベーター側の緩やかなカーブには、見通しを妨げるような姿もない。
「‥‥‥‥光学迷彩っ!」
 動く姿のない空間に撃ち込まれたライフル、キャノンの砲弾が、その透明な皮膜を削っていく。
 弾ける火花の中から捲れてきたのは、鈍色をしたゴーレムの装甲だった。
『のこのこと、騙されて来たね』
 光学迷彩を解き、全容を表したゴーレム。その端々には量産型にない意匠が施され、有人機である事を如実に示している。
 それ以上に、わざわざ狭い構内に響き渡るよう外部出力で放たれる、音声。
 少年のような女性のような声が、この薄暗い空間には似合わない。
『磨り潰してあげるよ!』
 シラヌイの掲げたレグルスに、細かな弾丸が傷を付ける。
 ゴーレムが提げるのはショットガン、グレネードそしてパイルバンカー。あくまで押し切る為の兵装らしい。
「くっ! ‥‥悪い予感が当たってしまいましたね!」
「‥‥どうします?」
 シールドマシンの目前はビーハイブ、エレベーター側にはゴーレム。
 ビーハイブを破壊し、シールドマシンを確保した所で、退路は敵の向こう側‥‥となれば、先に退路を切り開くのが優先か。
 最悪、エレベーター側の道を作れば逃走も出来る。作戦の前提が成り立っていない以上、反故とも言われまい。
「火力を集中して押し切るわよ!」
 バイパーがロビンの肩を叩き、そのバイザー顔を振り向かせる。声と動きで指示を出す神楽。
 しかし、前衛を展開し終えた直後、今度はシールドマシン側の前衛、赤宮の無線から声が上がる。
「あれも‥‥!?」
 ビーハイブから身を出し、天井に脚を付いて動くのは、これまでのキラルよりも大型の個体。
 サイズ以外に目立った異変は無いが、明らかに、KVを敵視したサイズではある。
 鹿島もセージも、そんなサイズに見覚えは無かった。巣の中でリペアを繰り返した個体が、ビーハイブの保護効果を得てその外殻を徐々に増強していたのだ。
 巣に潜んでいる数を考えれば、その数は不明確。それまでガトリングの弾幕を敷いていた榊も、僅かに雪村を意識した。
 攻撃手段は顎か、針か。単純に上段と下段に括ってしまえば、的が大きくなった分急所にも当て易い。
 装甲に食らい付こうとするキラルの攻撃、一刺しを緊急用ブースターの一吹きで潜り、交わすようにして翻す雪村の発光。
 真っ二つとはいかなかったが、腹を捉えた一撃は苦悶の間もなく内臓を焼き、破壊している。
「まとめて消毒するッ! 巻き込まれたくなかったら注意しろッ!」
 大型個体の這い出した後。丁度ハッチのようになった巣の穴に対し、グレネードを撃ち込むキリル。慌てて機体を下げる榊。
 爆風の余圧が吹き抜け、一瞬視界が赤く染まる。其れに呼応したかのように、ゴーレムからのグレネード砲撃も始まった。
 後ろに控える無防備な背中に通す訳にもいかず、被害を通さないよう編成を振り分け、盾を作る。
「フォローは任せろ!」
 ショルダーキャノンの着弾が、僅かにゴーレムのステップを乱す。
 これを機と見た鹿島がディアブロを走らせ、機斧を振りかざす。直撃とはいかなかったが、胸板を掠めていった猛威を避けるように、距離を取るゴーレム。
「フロントは鹿島機に続いて!」
 その距離を奪うべく、弾丸が飛び、盾が走る。
『そのぐらいの事ぉっ!』
「押しに弱い奴、いけるかっ?!」
 ショットガンの至近射を上半身に受けつつ、片方の潰れたカメラアイは変わらず敵を睨み続ける。
 フェイントとして放ったキャノンがゴーレムの胸を穿ったラッキーヒットもありつつ、息を吐く間もなくプレッシャーを与え続ける。
 そうして距離を稼ぐ事暫く。もう少しでエレベーターという所まで押し返していた。
『こんっ‥‥やらせないよぉっ!』
 苦し紛れか、操作パネルに銃口を押し付け、ショットガンの引き金を絞るゴーレム。
 一発、二発と、散弾が内部のケーブルをズタズタに引き裂いていく。
「エレベーターが!?」
「何だ? ‥‥こっちはまだ出てくるんだぞ?!」
 キリルのグレネードで表層は焦げたものの、ビーハイブからは尚もキラルが這い出している。赤宮のアンジェリカが、火力の牽引役となって前線を保つ。
 エンハンサーの余力はまだある。が、ミカガミの雪村はそう何度も使える物ではない。
 ゴーレムを押し返した為に生まれた行動幅を生かし、奏歌と神楽が範囲を広く取って援護を続けていた。
『‥‥おい、そろそろいいだろ!』
 建御雷の一閃、既に盾役のシラヌイが踏み込んで行ける距離まで詰まっている。
 傭兵達の攻勢に焦りが高まっているのか、壁のように用いるグレネードも狙いが粗い。
 息の荒い音声は外に繋がったまま。内容も筒抜けだった。
『‥‥どうした、返事しろよっ!』
 スラスターライフルを膝に受け、片足を地面に擦りながら後退を続ける。
 慣性制御も駆使し、着地を見せずに後ろに飛ぶゴーレムを、追撃のラーヴァナが抉り抜いた。
『フン‥‥悪いな、通信機の故障だ』
『お前、裏切―――』
 浮いた機体をショルダーキャノンが穿ち、脆くなっていた装甲を抜けてコクピットを貫く。
 破片と炎を吹き、仰向けに倒れていくゴーレム。装甲の隙間から炎が吹き上がり、力を失っていく。
『生かして返す積もりも‥‥帰る積もりもない』
 その亡骸の炎が消える間もなく、機影が、陽炎の向こう側に浮かんだ。



○退路

「やれやれ。こういうのを腐れ縁って言うのかね?」
 見覚えのあるカラーリング。
 前も蜂なら、後ろも蜂か。
 継ぎ接ぎのタロス、ローガ・ガ・モーガの機体が、ゴーレムの残骸を蹴散らして肉薄する。
「気を付けろ、そいつの攻撃力は‥‥っ!」
 言いかけ、鹿島は言葉を止めた。
 交戦の度に装備編成が少しずつ違う敵ではあったが、今度はそのシルエットも僅かに異なる。
 破損箇所が、殆ど修復されていなかった。墓場から這い出たように、そのままに。
『死ね‥‥俺の有用性の為にな‥‥ッ!』
 場所柄に合わせたのか、長大だった得物は棄て、それぞれの手にはピッケルが握られている。
 更に半壊した腕部には肩の辺りから補助アームが移植され、それも雑な鉄片のような刃を備えていた。
 ピッケルの一撃が、神撫、シラヌイの掲げたレグルスに掛かる。
 狙い澄ましたように、縁――皮を剥ぐように、ピッケルは縦の側面を捕らえている。
「危ないっ!」
 丁度後方に居たセージからは、その狙いが良く見えていた。
 ショルダーキャノンの砲弾がフィールドを貫き、装甲の上で跳ねていく。
 衝撃はブレを産み、ピッケルの引っかかりが解ける。
「!」
 それまで自らの盾で死角となっていた位置から、もう一方のピッケルがコクピット目掛けて加速する。
 バックステップ。ブレた姿勢を脚爪のグリップで強引に引き戻し、跳んだ。
『チッ‥‥楽に逝けたモンを』
 間髪入れず降り注ぐ神楽達からの射撃を、ゴーレムの残骸を蹴り上げて盾にするタロス。
 既に主要部の自壊が終わり、抜け殻となった装甲の塊が、弾丸を受けて踊ったように揺れる。
「綾姉さま!」
 直ぐにでも駆け付けたい赤宮、だが、キラルの猛攻が続く限り、この場を開ける訳にはいかなかった。
 小回りの利くピッケルが、ディアブロを追い詰める。が、フェイントを織り交ぜつつも執拗にコクピットを狙う攻撃に、精神を削りながら少しずつ動きを合わせていく。
 それが一定のリズムに達した時、セージが動いた。
 機斧の半旋回。それをタロスが回避し、カウンターに意識を向けるタイミングでのスラスターライフル。
 即興のコンビネーションだが、効果は上々だった。僅かの間視界を奪われたタロスが、弾丸の衝撃から目を戻した時、白い装甲は既に目の前を過ぎ去っている。
 それでも、その意図を即座に察したローガが機体を翻そうとするが‥‥今度は神撫が、シラヌイの翼を翻して刀を奮う。
 フォースフィールドを切り裂き、膝を割いた一撃。
 脚をやられた。即座に慣性制御に。その判断が巡るまでに、濃縮レーザーの迸りがタロスの飛行ユニットごと、その背を切り裂いていた。
『っグ‥‥ぁぁァっ‥‥』
 赤く灯るはずの緊急表示も一斉にブラックアウトする衝撃に、その深刻さが知れる。
『ァ‥‥ッ、クク‥‥!』
 多数の敵に背を向ける事も厭わず、ローガは桿を回す。
 残す力など無い、闇雲に振り抜かれる鋭刃。
 散弾を浴び、固定の弱くなっていたショルダーキャノンと頭部が、タロスの腕にぶつかって折れ、砕ける。
「‥‥腐れ縁も、此処で終わりだ!」
 獲物に囓り付き、咀嚼するように、刃は頭から胸へと進む。
『‥‥先にッ‥‥地獄で待ってるぜ‥‥』 
 ラーヴァナの咆吼の奥で、男が嗤いながら、泣いていた。
『‥‥‥あいつにも、そう‥‥ッ―――』
 先ずは正確に、コクピットが砕けた。
 順序よく内側から崩壊していくタロスは、明らかにそう狙って作られたように、跡形もなく塵芥に分解されていく。
 大袈裟な被害を及ぼす自爆ではなく、停止した機関に対しての、バグア側の『処分』であった。
 ディアブロの足下を攫う余波に乗って、砂粒が舞う。
「‥‥道は、開いたか」
 意識を耳に戻せば、未だあの不愉快な羽音は響いている。
 命令系統は失ったが、巣を半ば程まで削られて、大人しくしている性質でも無いようだ。
「後退支援! 焦って緩むんじゃないわよ!」
 ビーハイブを狙いがてら、逃げ込もうとするキラルの腹をツングースカでぶちまけつつ、神楽が撤退列を組む。
「スモークを!」
「どうせ真っ直ぐだ、追い付かれるのが早い!」
 側方のエレベーターは望み薄となれば、数百m、凹凸を含めれば1kmに近い一本道を逃げなければならない。
 弾丸の傘を掛け、走輪を滑らせる機体に、特攻のような勢いでキラルが迫る。
 セージが天井すれすれ、縦の幅を生かして射撃を行っている為頭こそ越されないが、退却と追撃は少しずつ間を狭めていた。
「! ‥‥敵がだらしなくて助かったな」
 射撃装備を失い、都合先頭を走っていた鹿島が、開けっ放しになっていたエレベーターに飛び込んで開閉スイッチを確認する。
 流石に此処は破壊されていない。直ぐさま電源を確認し、扉の開閉スイッチにマニピュレーターを伸ばす。
 セージに神撫、神楽と次々に滑り込み、エレベーターに入った者から再び砲撃を再開する。
 残すは最後方の赤宮とカバーをする榊。もう、後一歩という背に、一際大きな羽音が迫る。
「これでっ!」
 後ろ向きのまま、アンジェリカからレーザーの光芒が奔り、薄羽の溶けたキラルが前のめりに落下する。
 閉まろうとするドア。駆け込んだ二機を這って追う蟲の顎。
「付いてきて貰っては、困るな」
 翼を撃ち抜かれて尚、頭をねじ込むキラルを、雪村の突きが焼き貫く。
 拉げたような悲鳴を扉の奥に打ち棄て。ロックが噛み合い、エレベーターが駆動を開始する。
 暫くは厚い鋼板を顎で刻む音もしていたが、すぐにその気配も無くなった。
「全く。四月一日だからって‥‥」
 深く、シートに背を預ける鹿島。
 機体は大分損壊しているが、身体はと言えば、思ったよりも暑い地下の所為で汗の重さを感じるようになったぐらいだろうか。
 神楽も酷く神経を使った筈だが、元々のタフネスか、まだしっかりしている。
 日の光の下に帰った機体達。気付かない間に噛み付かれていたような疵痕を残しつつも、全てが乗員の被害を出さずに生還した。
「‥‥太陽が眩しいな。やれやれだ」
 キリルの呟き。
 陽光色をした誰かの翼が、斜めに差す太陽を照り返していた。