タイトル:斜陽企業の困窮マスター:玄梠

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/09/04 00:44

●オープニング本文


 ここは、とある工業系中規模企業。
 特に名前が挙がらないのはあえて伏せている訳でもなく、ただ単に、まだ無名の企業だからである。
 戦前上がりの重工屋である事が裏目に出たのか、現在の主流であるKV技術には乗り遅れ、SES関連技術は提供されず、各メガコーポからも特に吸収話は無く。あまつさえ、社長が適正持ちだからと傭兵登録されてしまったものだから重役もてんやわんや、まともに会社としても機能していなかった。
 作った物は売れ残り、売れ残るから作れない。
 若い人材の不足、定年過ぎても働く男達。
 斜陽である。
 ひたすらに、斜陽である。
 なまじ人員や施設は充実しているから尚タチが悪い。

 社長は悩んでいた。
 今自分が搭乗訓練をしているナイトフォーゲル。
 このネジ、ビスの一つすら作れていない自分の会社に悩んでいた。
 とっくに禿げ上がった頭を撫でても妙案は出ず、仲間と言うには年若い傭兵達にからかわれる日々。
 しかし、悩みに悩んで全ての毛が抜け落ちようとしていた夏の日、彼等がよく集まるという【ちゃっとるーむ】を覗き込んだ社長は、彼等の会話を聞いて一つの確信を抱いた。
「まだ、傭兵が欲しがっている物はあるんだ」
 メガコーポレーションが開発し、UPCやULTが流通管理しているアイテムには限りがある。
 現代商業ではマーケティングが全ての基本。前線や研究所でアイテムを消費する事の多い傭兵達なら、きっと欲しい物も多い筈だ。
 社長はすぐに自分の会社に戻り、スーツ姿の重役達を集めた。自身はパイロットスーツのまま。
「傭兵を集めて、欲しい物を聞き出すんだ!」
「しかし社長、未来科学研究所からはまだ協力が得られて‥‥」
「結果を見せれば、研究所だって付いてくる。何より若い連中には若い連中の発想があるだろう」
 社長の熱気に重役達は押し黙り、この斜陽企業は一つの節目を迎える事となった。

 果たして、傭兵達のアイディアはこの会社を救うのだろうか‥‥‥

●参加者一覧

ツィレル・トネリカリフ(ga0217
28歳・♂・ST
刃金 仁(ga3052
55歳・♂・ST
柊 香登(ga6982
15歳・♂・SN
椎野 のぞみ(ga8736
17歳・♀・GD
三枝 雄二(ga9107
25歳・♂・JG
プエルタ(gb2234
24歳・♀・DG
ドッグ・ラブラード(gb2486
18歳・♂・ST
狐月 銀子(gb2552
20歳・♀・HD

●リプレイ本文


●男達の職場

 灰色の壁が立ち並ぶ、簡素な工業屋の敷地内。
 到着した傭兵達は刃金 仁(ga3052)の要望もあって、会議室へ行く前に工場内の見学をする事になった。
 請求していた資料‥‥この会社の製品カタログを眺めつつ、柊 香登(ga6982)は彼方此方を見ながらメモを取っている。
 工場というと物が密集してゴミゴミした印象を持たれやすい場所だが、この会社に関してはそうでもなかった。
 実際、置いておく物さえ無いというのが現実ではあるが。
「いつの時代も華やかな舞台の裏では苦労してる人がいるのよね♪ でも、大丈夫。あたしと皆の閃きで、万事解決よ!」
 狐月 銀子(gb2552)が明るく振る舞うが、鉄の音が響く工場内ではその声も聞き取りづらい。
 汚れた作業着で、細々と車両用のギアボックスを組み立てていく男達。その多くがとっくに髪の白くなった歳の人間で、入ってきた若い傭兵達を何だか不思議そうな目で眺め返している。
 ともすれば、柊や椎野 のぞみ(ga8736)、ドッグ・ラブラード(gb2486)などは孫ぐらいの年齢だったりもするのだろう。
「昔も経営者というよりは技術者だったがな、我輩は」
 唯一同じ年代、業種に見える刃金が一通り回って見ても、事前の資料にあった通り重機本体や、その構成部品が多い。
 それらを作る作業用具にも、使いやすいように手が加えられた物や、お手製に見える物があった。


「本日は宜しくお願いします!」
「状況はお聞きしました。御社の状況においては、決断は早ければ早いほど良いと考えます」
 会議室に入るなりしゃちほこばる椎野の後から、ツィレル・トネリカリフ(ga0217)が早速テーブルの上に自分の案を広げる。
「私から提案させていただくのは、この2案です。私自身、興味のある物でもありますので、可能であれば実際の設計・開発にも関わらせていただけないでしょうか」
 更に、他の傭兵からも案が積み上げられていく。
「ふむ‥‥成る程。自動二輪車ですか」
「車両系統は、町工場レベルでもいけるっすから、むしろ、大手が手を付けてない市場に食い込むチャンスかもしれないっす!」
「オートバイは男のロマンです、絶対売れます!」
 傭兵達によって纏められた一つの案。傭兵向けのバイクという結論に、難しそうな顔をする重役。
「作ったとしても、此方で組み立てるとして‥‥大がかりな輸送は出来ませんね。矢張り手近なメガコーポレーションに卸しになりますか」
「一定以上のサイズなら当然そうなる。全員で纏めてこの意見なのだから、積極的に行こうじゃないか」
 社長は気に入ったらしく身を乗り出してメモを眺めているが、不安そうな顔をしている者がいないでもなかった。
 バイクの性能方針にしても傭兵達の間で意見が幾つか重なっていたが、大まかに纏めれば
1.能力者用バイクであること
2.依頼で使えるようなオフロード、高耐久性
3.構造はシンプルに。拡張性重視
「こんな所ですな」
「ただ、SESを組み込んだエンジンは何処かのメガコーポから実品、もしくは技術の提供を受ける必要があります」
「二輪かね。最近の子らはスポーツだか何だか、洒落物好みかと思ったがの‥‥」
「おーい、松ッさん、確か〜あれさね。あれ。資材運ぶんに使った、あれがあったろ」
 ツィレルの心配を他所に、同席していた実際の『作り手』達は、せっかちにももう動き始めている。
「オウ、コレも見テ欲しいデス!」
 プエルタ(gb2234)がバイク案の備えとして出していた一人乗り用のオフロード車。
「あぁ、それなら我輩も」
 それに加え、刃金からも頑丈な多目的作業車の案が出される。
 社長はそれにも乗り気で、面白そうに話を聞いていたが、今度は別の重役が耳打ちをして水を差した。
 傭兵達の推したバイク案に回す人材と、車両関係の技術者が被ってしまっている。
 開発、試験の為の資材を考えても、即断とは行かないようだ。

「まぁ‥‥うむ。他の案も見てから考えよう。次はナイトフォーゲル関連で‥‥さっき装甲材の話が出ていたかな?」
 ツィレルの案を見直す社長。
 新型メトロニウムフレームの開発とあるが、多くの作業員はこの『メトロニウム』素材に馴染みが無く、その資料を取り寄せる為にまた少し時間が掛かった。
「この『めとろにぅむ』の試材は、直ぐにでも取り寄せられるのかね?」
「生産販売は米国のドロームが仕切っているようですな‥‥これも少し、時間を掛けて考える必要があるでしょう」
「では、次。‥‥KV用防塵装置か。これを出したのは?」
「我輩だ。今後砂漠での依頼や作戦も増えるだろう、ドローム社も防塵装置付きの機体を出しているが如何せん数が無い。レベルの高い防塵技術ならばKV製作各社と契約も取れるかもしれん」
「成る程。どうだろう、松永さん」
 松永さんと呼ばれた、腰が曲がって社長より更に高齢に見える老体が卓上を覗き込み、しばし目をぱちぱちとさせる。
 一般的と言えるKVの構造が簡易的に図化された物に何か描いたかと思うと、やや不機嫌げに声を荒げた。
「構造は聞いてるけどもん‥‥まぁ、この大口開けた吸気口かって、上手い事やって五級、普通に考えりゃ四級防塵が限度だら。うちらぁは泥入っても動くモン作るんが仕事だけん」
 有害な砂塵を防ぐレベルで五級であるから、あるいは有効なのかもしれないが、この老人の機嫌を見るにあまり良い結果は期待できないのかもしれない。
 しばし厭な沈黙があり、社員の間で微妙なアイコンタクトがあった。
「ふむ。後は‥‥これかね? パイルバンカー? パイルドライバーとは違‥‥」
「戦闘用に設計し直せば更に高威力だな、これぞ男のロマンだ」
「火薬デ鉄槌を打ち出す直接打撃武器デス! 浪漫武器として一部デ絶大ガ人気ガありマス!」
 偶然なのか何なのか、パイルバンカーの提案者が二人と、一考の余地はある熱意を感じる。
 プエルタに至ってはその発展系らしい六連装のパイルバンカーが提案されていたが、流石にこれは却下された。
 社長は可能な限りアイディアを拾おうとしているようだが、やはり後のない現状がそうさせるのか、役員級の壁が厚い。
「既存品のガスタービン式を止めて発破用の火薬を使うと思えばどうです?」
「武器‥‥なんですか? それは」
「浪漫です!」
「‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
「‥‥」
 笑顔が不変なプエルタと狐月に対し、変な形に固まった場を何とか動かそうと、柊が自分のアイディアを前に出す。
「補給補助や、工作用のナイトフォーゲル装備の開発を提案します」
「あぁ、それじゃ私も」
 提示されたのは、いわゆる後方作業を行う為のKV装備。また、柊は復興作業用の装備、狐月はKVや車両を運搬出来る物をと。
「私はまだ戦場に出た事が無いのだが‥‥やはり、酷いのかね?」
「一般の道路での事故なら今までのレッカー車何かでも足りそうだけど、私達が行く場所は普通の車両で入ってこれない場所も多いわ」
「社長、レッカー用のワイヤーでも試してみましょうか?」
「いや‥‥訓練の時に聞いた話だが、撃墜されたKVの牽引は一機では難しいようだ。牽引車のような物になるかな?」
「あ、じゃあこっちの走行ユニットの強化パーツの方も‥‥」
 三枝 雄二(ga9107)がさっと身を乗り出し、自分のアイディアを重ねていく。
「う〜む‥‥此処まで来ると、足回りの強い車両かKVを一から組んだ方が使いやすいようにも感じるが‥‥」
「しかし社長、うちで試作機を作ろうとしたらそれこそ社を潰す覚悟で挑まなければ」
「‥‥とにかく、重機のパーツを転用できる物はしてみよう。予定が立ちそうな物は、これで終わりかな?」
「あ、あと!」
 椎野が挙手をして立ち上がる。
「これはお願いなのですが。開発や製造する際、心に少しでも思って欲しい事が御座います。それは『そのアイテムや乗物を使う社長さんやボクたち能力者の命を守るんだ』という事を」
 その真剣な姿勢に、耳を傾ける社員達。
「ボクたちの背中は皆さんが守る‥‥その様に思いながら作って頂けたら。小娘が生意気言って御免なさい。でも‥‥お願いします」
 言葉を終えて暫く、穏やかな沈黙が続いた。
「よし、ULTへの打診と、メトロニウム素材の入手早急に。あと手の空いてる物は着替えて第二工場! 使える機材のチェックからだ!」
 沈黙を切る社長の一声に社員が動き、現場を手伝う予定のツィレルも既に作業用ヘルメット装備で移動していく。
「あ、手伝います! ほら、着替えも‥‥あれ?」
 ドッグも付いていこうとしたが、何処を探しても持ち物の中に作業着が無い。
 仕方なく社にある物を借りる事にした。
 忘れ物注意。



●数日後、第二工場

 作業は難航した。KV用重機は既存品の流用という形で一応の格好は付いたものの、問題は新型メトロニウムフレームの開発にあった。
 一から組成を分析する技術力、施設も無く、また合金としての常識を越えた強度に、装甲構造の工夫も難しい。
 製品としての結果はおろか、開発の取っ掛かりも見つからずにいた。
「‥‥メトロニウムフレームに関しては、諦めた方が良いかもしれませんね」
「仕方ない。だが、まだ他にも売り出す物はある」
 完成にこぎ着けた物も、小さな企業の作品である、ULTが販売契約を結んでくれるかさえ分からない。
 ただ、その場にいた全員が手応えを感じていた。少なくとも、売り込む価値のある物は出来たと。
「社長、それが‥‥」
 しかしその期待にも、巨大な壁が立ちはだかる事になった。
「どうした?」
「いえ、バイクの件を打診したメガコーポレーションから、良い返事が得られず‥‥やはり『まだ無名』の我々では」
「ぐ‥‥いや、『まだ開発の時間がある』と考えよう。今は、今出せる装備を仕上げるんだ」
 提出する為の試作品を前に、社長は苦い顔を押し隠す。
 今回、傭兵達の協力によって売り込む事が決まったのは
『KVパイルバンカー』
『メトロニウムローラー』
『クラッシャーユニット』
『大型ショベルユニット』
『簡易防護フィルター』
『給油ユニット』
 の六つ。更に、長期計画として傭兵向きのオフロードバイク。設計のみだが、作業用装備に対応する陸上作業用KV。
 これら全てが認可され、生産販売が行われるかは分からない。防塵加工は砂漠地帯の現場に行けば同じような保護ノウハウがあるかもしれないし、給油は整備拠点に戻ればできるものだ。
 ひょっとすると、一つも採用されないかもしれない。後は上の判断を待つだけだ。
 しかし傭兵達の出したアイディアのお陰で、この会社は少しずつ現代のニーズに対応し始めていた。
 おそらく、殆どの商品が却下されたとしても、生き残る手段は残されているだろう。
 開発に協力した傭兵達には作業の過程で発生した鉄くずがお土産に持たされた。廃品処理と言ってはいけない。
 彼等の望んだ商品。それが店頭に並ぶ日は、いつになるのだろうか‥‥‥‥