タイトル:間隙の偵察機マスター:玄梠

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/04/17 13:29

●オープニング本文


「MSIからの依頼だ」
 黄塵荒ぶ未開の地。背にしているのはMSI固有のキャンプなのか、カーキの幌が頻繁に映り込む。
 風に揺れる三又髪を抑えながら、静香は背景となっている砂の地域を振り返り、顔を戻した。
「見て分かる通り、私も既に現地に居る。大規模作戦発令中の忙しい時期だが、聞いてほしい」
 映像は3Dによる俯瞰地図へと切り替わり、AW、前回のアジア決戦によって大幅に塗り替えられたインド地区が映し出される。
 所々に油田、また鉱石などの資源産出地域を示す赤い光点が灯る。その殆どは競合、またはバグア側の占領区域に位置していた。
 その画面のまま、静香の声が続く。
「アジア決戦の折、インド北部は多くの地域で人類側の損失という結果に終わっている。MSIも今後の鋼材供給や稀少金属の生産量のみならず、食糧供給率の減少として無視できない窮状らしい。そこで、だ」
 画面は再び砂漠の色に切り替わり、静香の姿の代わりに、一つの機体が映し出された。
 破損したFP−199から光波発振装置と黒い外部装甲を取り外し、何かの機材とまだ色も塗っていないような地色の装甲を被せた機体。
 変形機構周りもロックされているのか、稼働時の干渉を無視したような大型のレーダーも載っている。
「重力波変調探査装置、及び外部偵察カメラ搭載の複合ESM、その試作評価を兼ね、競合ライン上にある鉱山地区の偵察まで当該機体を護衛して貰う。偵察衛星の使えない今、今後の本格的な奪還作戦に向けて可能な限り確実な地図が欲しいという事だろう」
 AEW&C(早期警戒及び管制機)かつ、偵察機。
 その機体を護りつつ、目標地域をカメラに納めさせる事が作戦目標となる。
「無論、そんな所を集団でうろついていれば、敵側も気付くだろう。そこで、一度だけ、陽動のサイレントキラー部隊が別位置でミサイル攻撃を起こす準備が出来ている。タイミングは君達に委ねるそうだ。勿論、使わずに片付けても構わないが」
 静香は口に出さないが、陽動を行うサイレントキラーも安全が保証されている訳ではない。
 もし間が悪く、大量の敵に目を付けられる事になったら、並のKVのようにはいかない筈だ。
「敵の数は未知数だが、そう密集してはいまい。無理をして重傷など、この時期には御免被るだろう? 居残って撃墜点を稼ごうとするなよ。場所が場所だ、満足な救助が出来る保証は無いのだからな」
 敵の予想戦力はその機種、数共に不明。ある意味で、護衛対象である試作機の警戒力に期待する側面がある。
 採掘の為に切削され、入り組んだ地形は慣性制御飛行をするワーム類には絶好の奇襲ポイントなのだから。
「以上だ。手早く済ませて、帰ってこい」










「忘れていた」
 終わったと思った映像が再度再生される。
「MSIから、偵察補助用の高倍率カメラを預かっている。主兵装スロットに搭載するタイプが1つだけだが、これから得られる映像も記録に統合される。詳しいことは資料に纏めてあるから、使いたければ使うと良い。壊したら全員分の報酬がトぶ代物だがな」

●参加者一覧

伊佐美 希明(ga0214
21歳・♀・JG
熊谷真帆(ga3826
16歳・♀・FT
藤宮紅緒(ga5157
21歳・♀・EL
アズメリア・カンス(ga8233
24歳・♀・AA
百地・悠季(ga8270
20歳・♀・ER
ルナフィリア・天剣(ga8313
14歳・♀・HD
白岩 椛(gb3059
13歳・♀・EP
緋桜 咲希(gb5515
17歳・♀・FC

●リプレイ本文

○AEW&C

 鉱山地区の手前。
 緩やかな山岳と農生産プラントとの境界辺りに位置するMSIのキャンプには、航空輸送されてきた傭兵達のKVが引き継がれ、整備車両に牽引されている。
 キャンプとは言うが、出張してきているのは開発部門単位での人員である。更に衣食や健康管理、警備の1小隊。
 偶然にも戦火を免れた畑を眼下にすると、小さな村を動かしてきたような様相だ。
 その中の一際大きな、そこだけはしっかりと建材の組まれた屋根付きが、丸ごと一つの整備施設となっていた。
「うーむ‥‥MSIの試作機ってぇのが見れるからってんで参加したんだけどなぁ‥‥」
「無事に帰れば後で見られるでしょ。あなたはあっち」
「へっ‥‥お前ら、カスリ傷でも付けたら承知しねーかんな!」
 伊佐美 希明(ga0214)はこそこそと、立ち並ぶKVの一番奥、幌を被った偵察機を覗こうとして別班のアズメリア・カンス(ga8233)に追い返されていた。
 白岩 椛(gb3059)の機体にカメラを搭載するまで、猶予は猶予、暇は暇、であったが。
 現場に居るのはMSIの整備屋であって、UPCから講習は受けているが他社製品を弄る事になる。それなりの時間は取られていた。
 伊佐美と百地・悠季(ga8270)はディアブロなだけに何処よりも早く調整が終わっていたが、何より手間取ったのはロジーナだった。
「これで飛ぶんだからなぁ‥‥」
「元が元だろう? よくやるもんだよな。こんだけ粗いと何処をどう整えていいか分からんぜ」
 彼等も別段、他社と比べて格段に優れた調律や、精密な調整に慣れている訳ではない。
 他社製品を見た現場の愚痴、と言うよりは好奇心だろうか。北方では激しい戦闘が行われているだけに、こうして最近の現物が見られるのは貴重な事だ。
「まぁ、補修は楽だろうさ。荷積みの済んだ奴からラインに上げとけ。それからスラスターライフルの弾倉(パッケージ)、試射用の在庫が多めに搬入してあったろ。倉庫から持ってこい」
「へい」
 装弾を終え、次々に機体が滑走路上に並べられていく。
 既に火は入っている。
 総勢9機。最後の偵察機もカバーが外され、塗り立てで汚れも見られない簡素な白い塗装が陽光に照らされている。
 FP−199AEW&C。事故払い下げの試験機体に試験装置を搭載した試作型と、試す事だらけの機体。
 おそらく、この番号を冠するのもこの機体だけとなるだろう。
 元来が高負荷の搭載機器を動作させる事に長けたペインブラッドDLの素体。出力供給はともかく、電算処理関係など、重量負荷の高い電子支援装置には不向きな素体だ。
 それでも利用して一機を為そうという苦慮に、MSIの台所事情が透けて見える。
 鉱山奪還。それが成功したとて、果たして支払ったリスクの何割がリターンになるのだろうか。
 資源の独占は他社との関係をこじれさせる。それで更に必要な希少資源――例えば研究中のパラジウム触媒であるとか――が手に入らなくなれば、元の木阿弥だ。
 離陸間際、ルナフィリア・天剣(ga8313)が白の偵察機を横目でちらと確認する。
「‥‥とりあえずは仕事を確実にこなすとしよう」
 ルナフィリアは少し鬱陶しい太陽を堪え、ジェットで地を蹴った。






○重力の網

「なるべく敵が来ないと良いんですけど‥‥」
「それは無い、ですよね‥‥
 緋桜 咲希(gb5515)と藤宮紅緒(ga5157)は似たような事を考えていた。
 想定区画に踏み込んだが、待ち構えているような敵影もなく、ウーフーも居る事から通信感度は良好。
『重力波逆探知、動作中です。快適な空の旅を、と言えれば良いんですがね』
 MSIのテストパイロット‥‥前回のイベントでもガンスリンガーを扱っていたという、青年の声が無線を通る。
『前方、地上付近。重力波変調を確認』
「下‥‥やっぱりね」
 偵察機の側らで、地上付近を警戒していたアズメリアが小さく反応する。
『浮上してきます。位置情報、同期開始』
「! ‥‥成る程ね」
 僅かに雑情報の入り始めたセンサー類に、ただそれだけはくっきりと、サーモグラフィーのように輪郭の滲んだ光点が浮かび上がる。
 相対速度からすると、敵はまだ始動したばかりらしい。一方の重力波変調が強く浮かぶのは、急速上昇の影響だろうか。
 偵察機を護りつつ、一歩先に出たアズメリアと百地が連携して敵の頭を抑えにかかる。
「そっちは任せるわね?」
 A班側に近く浮上してきた小型のHW。
 何かを護っての飛行だとは、算出もしていなかっただろう。
 雷電とディアブロが連続して螺旋弾頭を叩き込み、あまつさえ一方のミサイルがフォース強化されていては、だ。
 状況判断を行う間も無く、重力変調の残滓を残して機体は砕け散っていた。
「戦場の風紀委員真帆ちゃん参上!」
 熊谷真帆(ga3826)が、迂闊に距離を近付ける無人HWに猛烈な弾幕を散らす。
 ジグザグ飛行を繰り返していた雷電の火力が、HWのヘルメットの頭頂部に集中した。
 小型の敵影は異なる弾種の爆風に煽られつつも踏み留まり、半ばから割れ墜ちた外殻だけが地上へと落下していく。
「皆さん勇気があるんですね‥‥」
 緋桜のロジーナも、素の火力はそう変わらない。
 ただ、敵を確認次第徹底的に蹂躙し終えた仲間達を見て、一言溢してしまった。
 しかし、その揺れる指はトリガーを引けている。
 試作型ブリューナクの一撃は運良く破損部位を捉え、HWの心臓部を致命的に貫通した。
「あれ? ‥‥今ので撃墜できたのかな?」
 砕け散りながら落下する敵機体を前に、ほっと胸を撫で下ろす。
「ただ、今ので気付かれましたね」
 順調に機体を飛ばす白岩。陽動の時期を暗に指示している。
 ぽつぽつと、ウーフーのレーダーにも、偵察機の重力波逆探知にもかかる敵機が増えてきていた。
『陽動、連絡しますか?』
「‥‥はい、お願いします」
 特に異論が出る様子もない。
 連絡から程なくして、サイレントキラー部隊のミサイル爆撃が始まった。
 吹き上がる黒煙を見れば一目瞭然。
 俄にレーダー上の光点が揺れ、一瞬で終わった戦闘よりも吹き上がる炎へと群がっていく。
 統率されている感が無い。あくまで境界線に置いた警備という事だろうか。
 時折近距離に現れる、間の悪いHWも、ディアブロや雷電といった高火力機体の壁に阻まれて散っていく。
「時間がかかればかかるほど厳しくなるだけに、手早く済ませたいわね」
 往路は順調。若干の損耗も、雷電の重装甲を考えると微々たる物だ。
 速度を偵察機に合わせた編隊が、想定距離に到達する。
『目標地点に到達。望遠撮影‥‥』
 A班、偵察機の到着とほぼ同じくして、B班の白岩機も目標地点に到着。
 両方の機体が持つカメラから映像が収集、処理されていく。
『‥‥完了です。引き返しましょう』
 ぐるりと一周、大きな旋回で空をターンする百地機。それに先導され、此方も身を翻す偵察機と護衛の翼。
 敵の増援がある気配も無い。断続的に立ち上るミサイルの黒煙に、HWが夏虫のように引き寄せられていた。
 外周にぽつり、ぽつりと光点が浮かんでは、消えていく。

 ―――ぼたっ、とした大きめの光点は、不意に、間近に現れた。
『11時下方に重力波変調! です、が‥‥?』
 レーダー上は目視で確認できる距離だ。無論、センサー類にも反応はある。
 しかし地上には幾らかの戦痕が確認できるだけ。
 システムの異常にも思われた、が。
「あっ‥‥光学迷彩‥‥!」
 奇襲。しかし藤宮の勘付きが早い。
 敵もまだ、重力波逆探知があるなど知りもしない。
 完全な不意打ちなら命中もしただろうが、急上昇を掛けつつB班を雑に狙ったプロトン砲は編成を僅かに散らしただけで、白岩機を捉える事はなかった。
『綺麗にケツ並べやがって‥‥』
 無線介入。光学迷彩は攻撃直前に解かれ、蜂の挙動のようにジグザグと‥‥またスズメバチの塗装を持ったHWが姿を現した。
 拡散プロトン砲が後方の機体を纏めて狙っているが、これもまた、雑。
「きゃあっ!?」
 緋桜の悲鳴に反して、火線は当たりもせず。
『無人機は出し抜かれたが、庭先入れといてノコノコと帰すかっ!』
 敵の咆吼に被せるように、偵察機からの通信も入る。
『敵機体の重力波変調増大、注意を』
 雑に機体を振るって接近してくるHWに、殿に付いた藤宮と伊佐美が機体を廻す。
「させませんよ、絶対‥‥!」
 重力子砲の発射態勢に入っていたHWの頭頂部の辺りを藤宮機の高分子レーザーが掠め、横合いからは伊佐美機のスナイパーライフルが。
 随伴機も無く、無人機が早々に潰されていった上で突出してきたこの男。
 果たして、陽動を見抜いた積もりでノコノコとやってきたのはどちらだったか。
 多少強化はされているようだが、単騎は短慮。
『ッ、グ‥‥!』
「偵察機には触れさせないわよ」
「いい的だぞ、おまえ」
 苦し紛れの重力子砲も、偵察機を庇うようにひらひらと飛翔する百地機に吊られて照準はあらぬ方向へと走った。
 間合いを計っている間にアズメリア機、ルナフィリア機からも狙われ、有人機は慌てたように後方ベクトルへ滑っていく。
「逃がさないです!」
 そんな中、反転した熊谷機が一気に突出。高分子レーザーとガトリングの雨を降らせ、攻撃直後の砲口部を根刮ぎ爆砕する。
『――ッんだ! ワームってのはこんなモンなのか‥‥っ!』
「行ったか‥‥」
 慌てて急速離脱を開始した機体の背に向け、始末にとウーフーが放ったロケットは生憎と射程オーバーで外れてしまったが、追い払うには十分だった。
 煙は離れて行き、地図上の交戦地帯もまた切れ目が見えてきた。
 先導の百地機と、偵察機がまず先に。そして続く白岩機と、全機が勢力境界線上を越え、殿の機体も位置を並べる。
「お、終わった‥‥?」
 深く息を吐き、安心したように座席に深く背を着ける緋桜。
 その背にひたっとした汗の感触が貼り付く。
『サイレントキラー部隊より通信。敵機の反転を確認。サイレントキラーも全機撤退を進めているようです』
「無人機引き連れて逃げ出したかな、さっきの奴」
「かもしれませんね」
 ざわついていた空も閑かに戻り、ノイズも無い。
 クリアになった無線で、藤宮が偵察機に声を掛ける。
「ど、どこか不調な所、無いですか〜‥‥?」
『此方ですか? ‥‥そうですね、先程の砲撃の影響か、逆探知装置のデフォルトがやや傾いてはいますが。本体の損傷はありません』
 最後まで警戒を続けていたアズメリアも、管制側の誘導範囲にさしかかった所でやっと力を抜いた。
 主要機体への損傷0。身を挺した機体も現地でできる軽い修理を行えば、ほぼ来たままの状態で帰って行く状態になる。
 偵察機本体に限って言えば、伊佐美の宣告通り、掠り傷一つ無く帰ってきた訳だ。
 サイレントキラー部隊も、一機は本社に戻して修理する必要が出たが、彼女らの行動が素早かった為、想定よりも遙かに軽いダメージで済んでいた。




○砂塵の後で

「‥‥ん? 誰だぁ、おい。こんな所にサインしてったのは」
 傭兵達を乗せた高速艇が帰路も半ばほどに着いていた、丁度その頃。
 試作偵察機の主要部品をバラし、全体点検をしていたスタッフが装甲の一片にある文字を発見していた。
「塗装だってAFTの寄越した光学樹脂だか何だか使うんだろうに」
「傭兵の子ですよ。まぁ、いいじゃないですか」
 パイロットスーツを半ばほど脱ぎ、ベニヤ板を扇子代わりにして汗を乾かしていたテストパイロットがフォロー(?)を入れる。
「それより、次は本社でパニッシュメント・フォースのフルドライブ試験でしょう? 悪戯書き一個より、そっち気にした方が良いんじゃないですか」
「フン、乗りたがりが。お前さんもあの子らとそう変わらんじゃあないか」
「そんなに睨んだような顔で言わないでくださいよ」
 クレーンで保持された偵察機のロングボードレーダーから、絶縁体の手袋で慎重に電子機器のケーブルを外し、端末面に袋を被せる。
 センサーの集中するこの部位だけは、次の素体研究にも直接組み込まれる。自ずと目も鋭くなっていた。
「聞いたぞ、開発部から。ガンスリンガーのデモンストレーションで余計な動き入れて、膝関節悪くしたそうじゃないか」
「贅沢な作りの割りに華奢な機体ですよ。こいつもそうなりそうですけど」
 部品が取り外され、装甲のくびれた部分、普段なら影になるであろう部分に光が当たる。
 百地が残した悪戯書きも、そこにあった。
「‥‥ピュアホワイトね。乙女じゃあないか」