タイトル:【G3P】MSIの招待マスター:玄梠

シナリオ形態: イベント
難易度: やや易
参加人数: 30 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/22 17:45

●オープニング本文


「防戦一方ではこの戦いに勝てません。今こそ思い切った攻勢で戦局を打開すべきでしょう」
 MSIのCEO、ダニエル・オールドマン(gz0195)が静かな情熱を込めて語る。
 同席するスーツ姿の男達も、同意する様に頷いた。
 それぞれ奉天北方工業公司、銀河重工トップの代理として派遣された重役である。
「‥‥そのために、あなた方の出した結論がこれという事ですな?」
 UPC東アジア軍中将、椿・治三郎(gz0196)は、卓上に置かれた書類に視線を落とした。
「既に我々の意志は決まっております。もはや国家や企業の利害に拘泥している時ではありません」
「左様。このままでは座して死を待つも同然!」
「ぜひ、UPCからも全面的に協力を願いたい!」
「‥‥」
 椿中将は即答を避け、腕組みしてじっと瞑目する。

 アジアを代表する3大メガコーポレーションの連名で提出された極秘計画書――その表紙には、ただ『G3P』とだけ大書されていた。




 ‥‥そして、MSI。ラストホープ支社。




「これで‥‥これで、ノルマ、分‥‥うぐぇっ」
 宛名シールの貼り終わった大量の封筒。
 それぞれ兵舎や、個々の傭兵に向けて送られる予定の招待状の山を前に、冬子・Y・リスカッセ(gz0212)は目の前が真っ暗になった。
 具体的に言えば、徹夜で宛名書きやってもう起きていられなかった。真っ暗な、瞼の裏。
「こんなの情報保守が無ければバイトにでもやらせておいて、今頃辛気くさい開発部に要りもしない資料取りに行ってシャル様とお話する時間もあったのよ。それが今更顧客のデータベース化もしてないなんて何て役に立たないウチのや・ろ・う・ど・も!」
 睡眠不足から来るストレスを転換効率99%で部下(男。不幸なニューカマー)とデスクの裏板にぶつける冬子。その咆吼、シームレス。
「もう寝る。寝るわよ。そうでなくてもアステリズムがちまちまちまちまガンスリンガーの細かい仕様調整送ってきたと思ったら今月の現品まだスナイパーライフルだけでこっちはパンフレットの一つも作れないまままた上に怒られるのよ。久々に有給取って一日寝潰してやるわ」
「姐さんあきません! 今日は楽しい外回りぶふぅっ‥‥」
 商品広報という部署柄、そして冬子自身も適正あるエキスパートである事‥‥は特に関係ないが、哀れな部下の鳩尾に分厚い商品カタログの角が突き刺さる。
 それでも慣れた物で、部下の男は帰り支度を始めた冬子を抱え上げ、ひとまず山積みの封書から距離を取った。
「えぇい離せ! 外回りだってこんな顔でやってらんないわよ!」
「15歳は化粧乗り気にする年違いますて!」
「15歳って言うなーっ!!」
 傍から見ると危険な構図だが、同じフロアの人間は特に動じず、むしろこの爆発が故にフロアの角へ角へと追いやられていった冬子を遠回しに眺め、「あぁ、またか」という視線を送っている。
 実年齢20‥‥と一寸。適合の気紛れによって起きた悲しい事情である。
「と、とにかく! 今回回る先は招待リストにも載ってるんですから、行かなしゃーないでしょ」
「く‥‥バレたか」
「分かってて帰る気やったんですか!? ‥‥よ、傭兵側の手続きは後もう片しときますから、仮眠で、何とか」
「分かった。分かったから‥‥12時間頂戴」
「半日て!がっつり寝る気満々やないですか。いや、もう、2時間もしたら起こしに来ますからね」
 冬子を仮眠室に見送った彼の手には、今回CEOから直接開催の支持があった傭兵向きの懇親会‥‥の名を借りた、意見交換会の開催要項がある。
 一つは、既に多くの傭兵に愛用されているディアブロの強化方針。或いは他の既存機も同じくして。
 もう一つは、『ビーストソウルと泳ごう!』キャンペーンと無意味に名目がカバーリングされ、耐水圧装甲技術の熟成に伴い製作の決まったビーストソウルと同深度まで潜行する為のオプション。その方針。
 最後に、展示品目としてFG−133‥‥否、今は一機のみが現存するコンセプトモデル・GSF−2200、ガンスリンガー。
 正式量産の目処は立っていないが、それは資本主義の世の常。消費者の希望が募り、利益の目算が立てば、正式に量産へ漕ぎ着ける可能性がある。
 後はいつもの通り、傭兵達の今求めている物の聞き取り調査だ。
 何でも、甘党のCEOがこの間のバレンタイン動乱‥‥騒動以降やけに上機嫌らしく、商品・技術展示等が行われる前半は一般開放も行う程のイベント推しだと言う。
 楽な仕事ではない‥‥‥‥おそらく2時間後に行っても頑として寝転けているであろう冬子に目覚めのコーヒーを淹れるべく、彼はデスクを後にした。

●参加者一覧

/ 白鐘剣一郎(ga0184) / 伊佐美 希明(ga0214) / 黒川丈一朗(ga0776) / 如月・由梨(ga1805) / 叢雲(ga2494) / ゴールドラッシュ(ga3170) / 金城 エンタ(ga4154) / UNKNOWN(ga4276) / 高坂聖(ga4517) / アルヴァイム(ga5051) / 古河 甚五郎(ga6412) / 井出 一真(ga6977) / 砕牙 九郎(ga7366) / 百地・悠季(ga8270) / ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280) / 龍深城・我斬(ga8283) / ルナフィリア・天剣(ga8313) / 魔宗・琢磨(ga8475) / ヤヨイ・T・カーディル(ga8532) / 守原有希(ga8582) / レティ・クリムゾン(ga8679) / 時枝・悠(ga8810) / 御巫 雫(ga8942) / フェリア(ga9011) / 憐(gb0172) / 烏谷・小町(gb0765) / 田中 直人(gb2062) / セフィリア・アッシュ(gb2541) / 鳳覚羅(gb3095) / アーク・ウイング(gb4432

●リプレイ本文

●Gun
●Shot
●Formula


『RagingBeast196、通称ビーストソウル。全長13.9m、直立時の全高は7.8mと基準的ながら、水陸両用、潜航型という独自の方向性に基づいた大胆かつマッシヴなフォルムを兼ね備えている。その力強さと同時にさながら高級感溢れる特別車両のような安定感は‥‥』
 起立する機体を前に、スピーカーからは解説の音声が流れ続けている。
 ディアブロ、ビーストソウル、アヌビス。
 天候に恵まれた屋外会場では家族連れの姿もあり、日頃平和のために戦っている傭兵の相棒達に触れていく。
 傭兵の中にも、まぁ、親子では無かろうが、家族のような、また家族未満のような、そういう物達がおり。
 それでも彼等の目は傭兵らしく、もっふもふのあぬびすのぬいぐるみや、デフォルメされたびーすとそうるのぬいぐるみに釘付けになったりはしない。
 していないだろうな。
「技術交流会か。新型のKVを見れて既存機に対する意見も言えて美味しい物も食べ放題、いや良いイベントだなあこれ」
 龍深城・我斬(ga8283)がパンフレットのタイムスケジュールを確認しながら食べ歩き。
 傭兵達には入場の際に特別招待客のネームカードが渡され、何処のブースでも不自由しないようにと優遇されていた。
 多くの傭兵達のお目当ては、GSF−2200。
 ガンスリンガーの名を与えられた『プロダクトGS』の結論であり、何度か傭兵達の世話にもなった事のある困った銃の皇子だ。
「いいよねぇ〜、デザインもいいけど、他のKVメーカーとは明確なコンセプトの差があって、抜きん出ている気がするよ」
 準備されていた特等席‥‥他の一般客が開始早々から整理券を受け取って確保する屋外の席ではなく、空調の効いた一部マスコミや貴賓用と同格の一室。
 そこにフェリア(ga9011)を連れた魔宗・琢磨(ga8475)が到着した頃には、伊佐美 希明(ga0214)やUNKNOWN(ga4276)、ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280)ら幾人かが既に特等席の中でも角度の良い良席を確保し、受け取ったパンフレットを確認していた。
 パンフレットと言っても、正式な製品となった訳ではない。コンセプトモデル紹介として枠が与えられた程度の物だが。
「ガンスリンガー‥‥確かテスト運用中にトラブルに巻き込まれた機体だったな。射撃に特化と言う事はドロームで断念されたマルチロックオンなども考えているのだろうか?」
 白鐘剣一郎(ga0184)の質問に、彼の最近の経歴を聞いていた担当者は少し考えた。 が、それも僅かで、しっかりした営業スマイルを向ける。
「いえ、今回ガンスリンガーに組み込みました高処理FCS、また制御プログラムは、 作業を並列して行うより、単一の目標を確実に狙う事に長けておりますので。そういったシステムは、組み込んでおりません‥‥おっと、そろそろ出てくる時間ですよ」
 メタリックパープルの流線型が、ガレージから徐々に陽光に照らされるコンクリートの平野に晒されていく。
 戦闘機形態から、ゆっくりとその体型を取り戻していくガンスリンガー。
「さあて、MSIの新型を拝見しますか」
 防音のガラス戸にほぼ密着しているのは、井出 一真(ga6977)だけではない。むしろ大人しく座って見ている者の方が居なかった。
「ほそー。頭がないー」
 魔宗に乗っかって背丈をカバーしたフェリアが、その突飛とも言えるフォルムを評する。
 正確には頭が無いのではなく、頭部のある筈の位置にそのまま半球体レンズが嵌っているのだが。頭が無いと言っても過言では無い。
「確かに細いが‥‥何だかKVにしてはいびつだな」
 ディアブロと同じく腰部に飛行翼が接続されているのだが、黒川丈一朗(ga0776)の言う通り、ガンスリンガーの肢体はKVとしてのバランスを外れている。
 練習機カラーのアヌビスが、銃の皇子に恭しくライフルを差し出す。それを受け取る腕部もまた、飛ぶ事など考えていないように複雑なシステムの総体に見えた。
「あれは?」
「あれがアステリズム・アーマメント・システムズに量産を急がせております汎用突撃銃、クロムライフルになります」
 田中 直人(gb2062)は、懐に抱えた提案が実は既に過去の依頼中で行われ、整合を 取りながらも開発の進んでいたのを知っていたのだろうか。
 それを確認する術は無いが、ガンスリンガーはその奇妙に人差し指だけ補強されたマニピュレーターで器用にライフルをグリップし、クロムライフルの三点射を目標の浮動バルーンに叩き込んでいく。
 バルーンは徐々に出現ポイントを離し、並の銃器では補正だけで素の命中値を割り込み始める距離にまで遠ざかっていく。
「さて。ここからが、先程説明したガンスリンガーの『特性』で御座います」
「ん‥‥!?」
 細かにガンスリンガーの部位形状を観察していた井出だったが、一瞬、機体が屈み込んだ隙に見えた空間で、何かが繋ぎ代わったような動きが見えた。
 何処か変形したようにも見えるが、機体が姿勢を沈み気味にし、やや関節が深く重心を下げた程度の変化しか、外観上は見出せない。
 後は、半球体レンズがズーム機能のように忙しなく焦点を切り替えている事ぐらいか。
 クロムライフルに何かのパーツを取り付けると、遠方に浮かぶバルーンに狙いを定め、ガンスリンガーは再度的確な射撃を繰り出して行く。
「‥‥‥‥」
 何となく地味な空気を感じている者と、射撃の意味を感じている者と。
 射撃の瞬間、指先から腕部精細動性アクチュエーター、肘、肩、胴、膝から足先に至るまで。全てが滑らかな動作で殺されていく反動。
 勿論、これが全てではない。
 ライフルから今度は二丁の拳銃に持ち替えたガンスリンガーは再び妙に姿勢を変え、人が靴の踵を整えるように足回りを整える。
 少しヒールの高い脚でステップを踏み、先程までの冷静な狙撃手から一転、軽快な突撃兵の軍靴を響かせる。
「銃を撃つ。と一言に言いましても、近代戦では様々な用途が御座います。室内、中距離での撃ち合い、遠距離よりの狙撃。それら用途の異なる二つの手段であろうと、それが『銃を撃つ』、ただそれに集約されるのであれば、完遂して見せよう。それがこのガン・ショット・フォーミュラ。GSF−2200、ガンスリンガーの真骨頂となっております」
 一般客相手のアナウンスを行っている冬子(gz0212)とはまた違い、台詞回しの匂う広報担当の男性社員。
 頭の片隅でそれを聞きながら、傭兵達はじっと外を見る。
 ペイント弾を撃ち込んでくるターゲットの合間を縫い、ガンスリンガーは地上を滑る。走り抜ける。
 敵陣を颯爽と割り裂く突撃兵。あるいは、傭兵の中にも嗜好者の多いとされる一種の合理的ガンプレイ、ガン=カタか。
 二丁拳銃の豪快なマズルフラッシュが観客を沸かせ、光彩を放つ装甲に一切の塗料を触れさせず、技術公開のフィールドは一転してショー的な空気を呼び込んでいた。
「ガンスリンガーか‥‥。思った通り、良い機体のようだな。ただ、このスペックに見合った金額となると、相当なものになるだろうか」
 御巫 雫(ga8942)が目を外に向けたまま、誰にでもなく言う。
「今機体を動かしているのは、弊社でも腕の立つ専属のパイロットですので、これを一般販売に乗せる場合はもう少し控えめな所から始める予定です」
「控えめと言うのは、性能的に?」
「性能面でも、価格面でも。場合によっては、初期状態では一部の能力にリミッターを設けた状態で販売するかも知れません。勿論、後のサービスでそれらも全てフォローしていく積もりですが」
 行動の継ぎ目でリロードを終えたガンスリンガーが、演技の締めに取りかかる。
 球体レンズのその瞳が、じっと自分を見ている感覚を、傭兵達の何人かは確かに感じていた。







●ダイバー・フレーム

 二日目。
 中には三日目に全力を注ぐために今日出てこない傭兵も居たが、MSIとしては一番に意見を聞きたかったのはこの日だった。
 残念だが、やや減った人数で話を進めるしかない。
「自分んトコの小隊、大規模では空・水中連携戦に携わる事が多いわけでして‥‥けもたまには非常にお世話になっております」
 古河 甚五郎(ga6412)の言葉、『けもたま』の意味を、冬子は後に正しく知る事になる。
 今はそんな事を気にしている余裕もなく、会議室代わりの一室に集まった傭兵達の熱意と意見を筆記するのに集中していたが。
 あと結婚歴にはあまり触れないように。同時に離婚歴もあるので。
 覚醒した嫁が急に縮んだから、は離婚理由として正当なのか、否か。
 15歳の幼妻は受け入れられなかったのだろうか。
 閑話休題。
「水中機で最も普及している機体のテンタクルス基準で考えると装甲は出来れば確保したい所です。削るのなら装甲は控えめにして、それ以外の部分に多めの方が良いのかな」
「‥‥回避性能は求めません。その分防御力の強化と、他の能力減少を抑えるのが望ましいですね‥‥」
 ヤヨイ・T・カーディル(ga8532)とセフィリア・アッシュ(gb2541)の発言通り、防御を高めて回避を犠牲に、と言うのが大勢らしい。
 攻撃面は武器で補えると言う如月・由梨(ga1805)に対し、攻撃系の削減についてはゴールドラッシュ(ga3170)が難色を示していた。
 知覚の削減について、アーク・ウイング(gb4432)は水中用兵器に知覚は少ないと言うが、反対に‥‥これはビーストソウルの能力においてだが、高分子レーザークローが店舗売りである利点を挙げている龍深城。
 彼がオプションに対して挙げた案は、攻撃型と知覚型、二つのバージョンを作る事だった。
 それが可能であれば、高水深下の戦闘に多くの選択肢を持ち込む事ができる。採算は後で確認するとして、この案は強く受け入れられた。
 もっとも、ゴールドラッシュはこのオプションが売れるかどうか自体に懐疑的な様子で、確かに水中用機体に関する顧客層の見解には頷ける。
 現状は、それでも作る理由がある、としか答えられないのが残念だった。
 粗方の方針が定まり、中には
「やられた時に脱出する装置をちゃんと考えておいてくれ。例えばコクピット丸ごと切り離して浮き袋が一瞬で展開する、とか」
 と、特殊な環境での生存性に気を使う黒川のような意見もあり、思いの外商品のビジョンは早くに見え始めていた。
 議論は『回避を抑えて防御を高める』『攻撃型と知覚型の2バージョン』という大骨を得た事でスムーズに進み、二日目の仕事は難なく終了した。
 傭兵達の輪の中でさりげなく甘味を摘める程度に難なく終了し、こりゃ楽勝だと気を緩めていた冬子。
 しかし三日目の修羅は、大口を開けて其所まで迫っていた。








●熱意という名の混迷

「あの機体には世話になったし、今尚良い機体だと思う。ただR−01の系譜でありながら耐久性に乏しい点は疑問だな。俺はディアブロについては機体生命の強化、回避力もしくは防御と抵抗力の向上を勧める」
「ディアブロは、長引いたら負けだと思うので‥‥防御、抵抗を下げても、攻撃と知覚の拡充を」
 白鐘と、金城 エンタ(ga4154)の意見の割れ具合が、丁度運ばれてきたミニケーキの断層の如く明確に、かつ綺麗な平行線となって横たわっている。
 ディアブロは利点と欠点のはっきりした機体だ。叩き込む一撃の攻撃力に特化し、守りに鈍い。
「ディアブロは‥‥強いのですが‥‥その高い攻撃力が仇になっていると‥‥思うのです‥‥」
 憐(gb0172)がその不安を挙げれば
「バランス型の高級機は他所が出すだろ、どうせ」
 と時枝・悠(ga8810)が返す。高坂聖(ga4517)は将来UPCが設けるかもしれないと言われている機体コスト環境下の事も考え、攻撃力の強化に票を投じた。
 はっきりとした利点と欠点、それぞれに基づいた、それぞれに正しい打開策なのだが。
 金城が個人としての意見と周囲の空気を呑んだ意見を持ったように、守原有希(ga8582)が二通りの案を準備しているなど。アルヴァイム(ga5051)が書記の補助を務めているが、纏めるにも纏め難い状況が続く。
 また、アグレッシブ・フォースの取り扱いについても意見は割れた。
 ルナフィリア・天剣(ga8313)の練力消費を下げるという意見から、烏谷・小町(gb0765)の消費を維持しつつ効果を高めるという意見、果ては如月の『アグレッシブ・フォース2』やレティ・クリムゾン(ga8679)の『練力10当たり+30』という分割案などなど。
 強烈な個性を複数の人間が評価すればこうもなるのか。その事は予想出来ていたにしろ、二日目のように大きく『これ』と言った結論が出されない。
 移動やアクセサリなど、拡張性に関わる部分にも、ルナフィリアや如月、金城の妥協案などから意見が出る。
「うーん‥‥」
 だが、その場に居合わせた技術家連中も、駄目とは言えないのが正直な所だ。駄目とも言えず、良いとも言えず。
 鳳覚羅(gb3095)の言う既存機からの技術回収も細かいパーツ単位ではできるが、その能力の根幹は機体構造に根ざした物で、そのままディアブロに移植して動くとは限らない。
 サーベイジのような、ビーストソウルの骨格に支えられた大型のアクチュエーターをディアブロに積んでも、動きが鈍る上に動作出力に機体が振り回されてしまう。
 砕牙 九郎(ga7366)の挙げたアクセサリによる強化案は、既にバージョンアップとは別の話になっているので横に流されたが。
 室内の甘い匂いとは裏腹に、空気は渋る。
 欠伸をラッシーで飲み込み、冬子はひとまず次の話題にファイルを切り替えた。
「えー、今回幾人かからアヌビス、ビーストソウルについても意見があるという事ですので。まずはアヌビスから参りましょう」
 すかさず手を挙げ、フェリアが机の上にひょこっと身を乗り出す。
「知覚は0か、10ぐらいでいいのです。いまのご時勢、中途半端な性能よりも、極端な性能が好まれるトカ居ないトカ&ゲー」
 空気ガン無視のフェリアの発言に、隣で保護者をしている魔宗が冷や汗。
 子供の空気読めなさも、こう来ると武器である。
「アヌビスの知覚力は、基本構成の段階であの数値なんですよ」
 解説は、同席していた第二開発部の研究員。
「なので、これ以上下げるとなると無駄なキャップを設ける事にもなりますし、そうすると今度は他の機能に支障が出る事も考えられます。現状維持がベストでしょうね」
「うなー‥‥」
「特殊能力ですが‥‥フレキシブル・モーションの防御転用‥‥回避性能の強化、というバリエーションは出来ないのでしょうか‥‥」
 引っ込んだフェリアと入れ替わりで手を挙げるセフィリア。
「不可能ではありませんが‥‥現状は攻撃に発動シーケンスを噛ませているので、やや大きな見直しが必要かもしれません」
「攻撃だけでなく‥‥回避パターンの追加では‥‥」
「‥‥それも考えてみましょう。冬子さん?」
「あ、っんぐ」
 矛先が他所へ向き、油断していた冬子が慌てて泡だらけの口を拭う。
「‥‥はい、はい。では、次はビーストソウルについてですね。えー‥‥如月さんから」
「かなり完成されていますので、今のままでも申し分ないと思います」
 しきりに首肯する開発部の人間達。
 アヌビス組はビーストソウルの前倒しで口惜しい思いをした筈だが、棚に遠投。
「強いてあげれば、移動力の強化と特殊能力のサーベイジは攻撃上昇ではなく抵抗上昇にしてもらいたいかなと」
「あぁ、それなら俺も移動強化を推すね」
 如月と同じく、ビーストソウルを所持する龍深城も手を挙げる。
「いやー、まだ一回しか乗ってないけど良い子だねえ、初の水中戦だったけどガンガンワームをぶっ倒してくれたよ。ただ、サーベイジは知覚に対応して貰いたいかな」
「私も同意見だ」
 甘味の消費量に対して体重がおかしな事になっている気のするルナフィリアも、少しチョコレートに汚れた指先を掲げる。
 脇に隠した小袋は誰に渡すのだろうか。
「移動か‥‥サイズ自体もあるので中々難しいですが、時間があれば。ただサーベイジは知覚系とはまた違った回路ですので、難しいとだけ。受け取っておきましょう」
「‥‥はい。では、続いて開発を希望する物、またはアイディアですが‥‥」
 既に目の輝きが違う傭兵が‥‥何人だろうか。
 この場だけに期待してきた叢雲(ga2494)のような者も居るが。
「えーっと‥‥では、はい。装備類はあんまりにも数が多いのでそのまま開発の方に回します。要望の多いペインブラッドから‥‥まずは現在の進捗報告をご説明します」
 降りてきたスクリーンに、過去選考で落ちた2機、ペインブラッドの2バリエーションの写真が投影される。
 その絵面はアジア大戦以前のそれと殆ど変わっておらず、見た目に計画が進行していない事が感じられた。
「ペインブラッド、バッテリーパック型とデッドリィライトニング型は、素体研究を続けつつそれぞれの機能面において専門部署と再度調整を行っております。皆様の意見を元に改良を行い、再度意見を頂く場面を設けたいと思っておりますので、しばらくの間、お待ち頂けると幸いです。では、次に‥‥」
 やはり事故の負い目があるのか、この件を駆け足で終えようとする冬子。
 あの件を咎めようという傭兵は居なかったが、申し訳なく思う所は誤魔化せない。
「此方を御覧ください」
 次に表示された物は、何か大きな筒状の図面。CADのようだが、本来なら表示されているのであろう数値が隠されている。
 注意深い傭兵なら、長い砲状筒が一本の筒ではなく、複層のレールのような物で構成されている事に気付くだろう。
「2機から得られた技術の合流により、現在開発を進めております高圧縮プラズマライフルです。これまでの弊社製品にはない高威力の長距離知覚装備となっており、新しい領域の開拓をお見せする事ができるでしょう」
 映像は切り替わり、ディアブロが身の丈を越えるような長砲身を構える勇姿が映される。
 超重量に腕部を軋ませながら、装甲板で組まれたダミーに狙いを絞る。抱え込むようにして持った機関部の後方が、排気の影響か陽炎を帯びた。
『‥‥圧‥‥ラズマ、‥‥72%‥‥砲‥‥面超電磁‥‥良‥‥』
 現場の記録からは雑音混じりに音声も漏れ聞こえる。
 ノイズが一際大きくなった、次の瞬間。
「あ‥‥!」
 何か、思い当たる節のある物を見たような声が、二人、三人。
 プラズマライフルからは数秒間、眩い光芒が迸り、その奔流が収まると同時に冷却部のカバーが勢い良く跳ね上がった。
「ば、バスターライフル‥‥」
「いえ、プラズマライフルですが。‥‥まぁ、そういう商品名も良いかもしれませんね」
 未だ熱処理を行っているディアブロを背景に、解説を始める研究部門の男。
 装甲板を融解し、ライン上の物を薙ぎ払っていった高圧縮プラズマの奔流。
 その構造に理解を置こうとする物は少なかったが、その形状、威力に興味を持った物は、多いようだった。
「‥‥はい、ありがとうございました。御覧頂いたプラズマライフルは未だ改善点の多い物ですが、いずれ、皆様の元へお届けできるかと思います」
 室内の灯りが戻り、提示されていた資料も、直ぐに出せる範囲である程度は片付けられていく。
「では、後は細かい質問・提案という事で。何か足りなくなったら、すぐに社食から寄越させますよ」
 既に食べ物前提になっている事に、誰もツっこまなかった。
 そういう疲労感が、その場にはあった。





●企業という形状

「何とも言い難い話ではありますが‥‥」
 最後に、MSIという企業に関して意見を求めるという段での話。会場は既に社食と化していたが。
 UNKNOWNの挙げた旧式化機体群の強化は元より管轄でないにせよ、G3Pを枠組みと捉えた彼の発言に、冬子は戸惑っていた。
 もっとも、G3Pという単語で、三社間の連合を頭に入れている者は少なくないようだが。
「‥‥今の所言える事は、G3Pとして広まっている協力体制の一部、もしくは全容は、新たな企業連の具体的な枠組み案では無いという事です」
 今後、その全容は徐々に明かされていくだろう。
 それまで、この事は頑なに伏せておくしかない。クッキーと共に噛んで飲み込む。
「では、次の‥‥鉱山?」
「取られた話自体はサルヴァから聞いてるから、隠し事はなしの方向で」
「シャル様‥‥くっ」
 聞いたと言われては、無碍に出来ない。その情報を既に傭兵が持っているという報告は、上からも受けている。
 何より出所が‥‥では。
 鳥谷だけでなく百地・悠季(ga8270)や鳳も、鉱山地域の奪還依頼を要望している。
 傭兵の側から仕事を要望するというのも、正しくもあり、妙な形ではあるが。
「‥‥諦めている訳ではありません。今後の活動においても重要な土地ですので。もし何らかのアクションを取る際には連絡いたします」
 冬子には、これを言うので精一杯だった。
 どれだけ傭兵達との接触を任されようとも、所詮、肩書きは広報プランナー。
 室内のカメラや録音機材は、何も議事録作成のためだけにあるのではないのだ。






●Black or White


 傭兵達が帰り、MSIラストホープ支社にも元の静けさの戻り始めた頃。
 彼等の置いていった幾つかのアイディアは、多くが突拍子もない物や、既に販売計画の立っている物だったが、中には運良く、開発者の気紛れに拾われる物もあった。
「おい、これこれ」
「何だよ。またチェーンソーとか拡散地雷とかそんな類か? 勘弁してくれよ」
「あれだって別に悪かった訳じゃないだろ。資材と採算が合わないって文句言われたけどな。そういうんじゃあないさ」
 画面上にあるのは、金城の持ってきた電子戦運用装備の案と、百地の持ってきた機体案。
「おいおい、非物理だなんて言われた時点でこっちは追いつかんのに、周囲の機体までってのはな」
「まぁ、このままじゃあ無理だろうが、この間事故破損してベッド行きのがあっただろ」
 男の言い方に、あの時の責任を感じている男は渋い顔を見せる。
 が、それはそれ。自分が担当した機体の番号はすぐに思い出せた。
「FP−199か? ‥‥試すのか?」
「提案通りは流石に無理だがな。奉天の岩龍も、クルメタルのウーフーも売れてるって言うだろ?」
「確かにアレの構造はこの手の処理向きにもなってるがな‥‥」
「アヌビスの流れも良いらしい、予算ぐらい下ろしてみせるさ」
「電子戦なぁ‥‥どういう企画で出す積もりだ?」
「そうだな‥‥ん?」
「ん?」
 急に辺りを見回した同僚に釣られ、辺りを見回す。
 特に何もない。何時の間にやら開いていた窓の所為で、幾枚かの書類が風に捲られているだけだ。
「気のせいか‥‥何だっけな、企画名? ピュアホワイトでどうかな」
「妙にファンシーだな。提案者の持ち込み名か何かか?」
「いや‥‥さっき思いついた、と言うか、うん‥‥?」
「止せよ、天啓って柄か?」
 ハハハハ、と、矢鱈と神妙な顔をしている同僚の肩を叩いてやる。
 ピュアホワイト。だと。本当にそんな物が出来上がったら、別れた女房にでもプレゼントしてやろうか。
 そんな事を考えて部屋を出る彼の影と共に、一つの黒子がひっそりと部屋を出て行った事を、誰も知らない。